特許第5975440号(P5975440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5975440被覆銀微粒子の製造方法及び当該製造方法で製造した被覆銀微粒子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975440
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】被覆銀微粒子の製造方法及び当該製造方法で製造した被覆銀微粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20160809BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20160809BHJP
   B22F 9/30 20060101ALI20160809BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160809BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160809BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160809BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B22F1/02 B
   B22F1/00 K
   B22F9/30 Z
   H01B13/00 501Z
   H01B5/00 E
   H01B1/22 Z
   H01B1/00 E
   H01B1/22 A
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-172254(P2012-172254)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-31542(P2014-31542A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】栗原 正人
(72)【発明者】
【氏名】今 宏樹
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010-500475(JP,A)
【文献】 特開2010-265543(JP,A)
【文献】 特開2009-270146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/02
B22F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物と、アルキルアミンと、水に対する溶解度を有する少なくとも1種のアルコール化合物とを混合して、当該銀化合物とアルキルアミンを含む錯化合物を生成する第1工程と、
当該錯化合物を加熱分解して、アルキルアミンを含む保護膜で被覆された銀微粒子を生成する第2工程とを含むことを特徴とする被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記アルコール化合物の少なくとも1種は、水に対して20℃において0.3g/L以上の溶解度を有することを特徴とする請求項1に記載の被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール化合物の少なくとも1種は、70℃以上の沸点を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール化合物の少なくとも1種は、多価アルコールであることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程において、更に脂肪酸が混合されることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、更に水が混合されることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項に記載の被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記銀化合物は、シュウ酸銀を主成分とすることを特徴とする請求項1〜6いずれか一項に記載の被覆銀微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法で製造されたことを特徴とする被覆銀微粒子。
【請求項9】
銀微粒子の平均粒子径が30nmよりも大きいことを特徴とする請求項8に記載の被覆銀微粒子。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の被覆銀微粒子を分散媒に分散させたことを特徴とする被覆銀微粒子分散物。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の被覆銀微粒子を含有することを特徴とする被覆銀微粒子含有ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルアミンを含む保護膜で被覆された銀微粒子の製造方法、及び当該方法により製造される被覆銀微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
銀微粒子は、金属銀に特有の高い電気伝導率や耐酸化安定性、可視領域における光反射率に加え、比較的低い温度で焼結して銀被膜を生成可能であること等が知られており、これらの特性を生かして導電性インクやペーストとして銀微粒子を用いることにより、電子配線・素子を簡単な印刷・塗布工程で作製する次世代のプロセス技術であるプリンテッドエレクトロニクスにおける配線材料として期待されている。
また、銀イオンはバクテリアなどに対して極めて強い殺菌性を示すところ、比表面積の大きな銀微粒子を用いることにより微量の銀により高い殺菌力を得られることが期待される。また、特異な光学的性質を生かして、色素や反射鏡の材料として銀微粒子を使用することが検討されている。
【0003】
銀微粒子はさまざまな方法で製造することが可能であるが、製造された銀微粒子の凝集防止や溶媒への分散性向上等の特性付加の点から、銀微粒子の製造と同時に粒子表面に各種の保護膜を生成させた被覆銀微粒子として製造する方法が一般的である。そのような被覆銀微粒子の製造方法としては、銀を含む化合物と保護被膜となる有機分子等が共存する環境において、還元剤により銀を含む化合物を還元する方法が一般的である。例えば、特許文献1には、硝酸銀とアミンの錯体を還元剤であるアスコルビン酸等に滴下して硝酸銀を還元して被覆銀微粒子を製造する技術が記載されている。また、特許文献2には、硝酸銀等の銀塩を有機保護剤および還元補助剤の共存下で加熱して還元することで有機保護剤が被着した銀粒子を製造する技術が記載されている。
【0004】
一方、上記のように、銀を含む化合物と還元剤等との複数成分間での還元反応を利用する方法によれば、各成分の混合比率の微細な揺らぎ等により、必ずしも均一に銀粒子が生成せず、得られる銀微粒子が不均一になる問題を有していた。また、混合比率の揺らぎや銀微粒子の粗大化防止等を緩和する点では、銀を含む化合物と還元剤とを多量の溶媒中に希薄に溶解させることが有効であるが、多量の溶媒に係るコストや銀の収率の点でデメリットを生じる。
【0005】
これらの技術に対し、本願の発明者らは、アルキルアミンをシュウ酸銀等の銀を含む化合物に被着させて錯化合物を形成させた後、生成した錯化合物を加熱して熱分解することで、被覆銀微粒子を得る技術(アミン錯体熱分解法)の開発を行っている(例えば、特許文献3参照)。アミン錯体分解法によれば、銀微粒子を生成する際の反応として、一成分であるアミン錯体が複数成分に熱分解する反応を利用するため、複数成分間で生じる還元反応と比較して濃度等の揺らぎによる不均一が生じ難く、均一な特性を持つ銀微粒子を得られやすく、また、一般に有機溶媒等を必要とせず、無溶媒でも銀微粒子を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−144197号公報
【特許文献2】特開2007−39718号公報
【特許文献3】特開2010−265543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、アミン錯体分解法による銀微粒子の製造においては、上記のとおり、予めシュウ酸銀等の銀を含む化合物にアルキルアミンを被着して錯化合物を形成することが求められる。この点において、製造される被覆銀微粒子の被覆分子として比較的安定な被膜を形成できるアルキルアミンのみを用いた場合、錯化合物の形成が困難であったり、錯化合物の形成に長時間を有する場合が多い。このため、銀を含む化合物とアルキルアミンを含む錯化合物の形成を促す助剤を用いることが有効である。
上記特許文献3においては、より極性の強いアルキルジアミンをアルキルアミンと共に用いることで、アルキルアミンの種類によらず速やかに銀を含む化合物とアルキルアミンを含む錯化合物を生成し、良好な被覆銀微粒子が得られることが記載されている。
しかしながら、主に錯化合物の形成のために用いられるアルキルジアミン等も、製造される被覆銀微粒子の被膜に含まれるため、被覆銀微粒子の各種特性に影響を与えることになり、被覆銀微粒子の用途によっては他の成分により置換することが望ましい場合が存在すると予想される。
【0008】
そこで本発明は、いわゆるアミン錯体分解法により被覆銀微粒子を製造する方法において、従来とは異なる新規な製造方法を提供すると共に、当該方法で製造された被覆銀微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するためにアルキルアミンを含む保護膜で被覆された被覆銀微粒子の製造方法について鋭意検討した結果、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物と、アルキルアミンとを混合して錯化合物を生成する際に、水に対して溶解性を有するアルコール化合物を添加することにより、錯化合物の生成が促進され、アルキルアミンの種類に係わらず錯化合物を効率よく生成しうることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の被覆銀微粒子の製造方法は、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物と、アルキルアミンと、水に対して溶解性を有する少なくとも1種のアルコール化合物と、を混合して、当該銀化合物とアルキルアミンとを含む錯化合物を生成する第1工程、及び前記錯化合物を加熱分解して、アルキルアミンを含む保護膜で被覆された銀微粒子を生成する第2工程、を含むことを特徴とする。当該錯体生成工程には、錯化合物の生成に影響を与えないその他の助剤を含んでもよい。
【0011】
前記アルコール化合物の少なくとも1種は、水に対して20℃において0.3g/L以上の溶解度を有することが好ましい。また、前記アルコール化合物の少なくとも1種は、70℃以上の沸点を有するものであることがさらに好ましい。
本発明の好ましい実施形態では、前記アルコール化合物の少なくとも1種が、多価アルコールを含む。本発明の好ましい1つの実施形態では、前記第1工程において、更に脂肪酸を混合することができ、他の実施形態では、更に水を混合してもよい。前記銀化合物は、シュウ酸銀を主成分とすることが好ましい。
【0012】
本発明の異なる観点において、上記いずれかの方法により製造されることを特徴とする被覆銀微粒子が提供される。さらに別の観点では、当該被覆銀微粒子を分散媒に分散させた被覆銀微粒子分散物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物とアルキルアミンとを含む錯化合物の生成を促進することにより、アルキルアミンを含む保護膜で被覆された被覆銀微粒子の製造方法を効率化し、製造コストの低減に寄与することができる。さらに本発明の方法は、得られた被覆銀微粒子の用途に併せて、保護膜として使用するアルキルアミンの種類を選択、最適化することができるため実用上極めて有用である。例えば、インクとして用いる場合は長鎖のアルキルアミンや脂肪酸を含ませることにより溶剤への分散性を高めることができる。また、低温での焼結性を高めるためには、中短鎖のアルキルアミンの含有量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】実施例1から8で得られた銀微粒子の透過走査電子顕微鏡(STEM)像あるいは透過電子顕微鏡(TEM)像である。
図1-2】実施例9から15で得られた銀微粒子の透過走査電子顕微鏡(STEM)像あるいは透過電子顕微鏡(TEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る被覆銀微粒子の製造方法、及び本発明に係る方法で製造される被覆銀微粒子について説明する。特許文献3に記載されるように、銀を含むシュウ酸銀等の銀化合物とアルキルアミンから主に構成される錯化合物を所定の条件で加熱して、当該錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の銀化合物を分解等させることで原子状の銀を生成させ、アルキルアミンの存在下で凝集させることにより、アルキルアミンの保護膜に保護された銀微粒子を製造可能であることが知られている。このような製造方法はアミン錯体分解法と称され、単一種の分子である銀アミン錯体の分解反応により原子状金属銀が生成するため、反応系内に均一に原子状金属銀を生成することが可能であり、複数の成分間の反応により銀原子を生成する場合に比較して、反応を構成する成分の組成揺らぎに起因する反応の不均一が抑制され、特に工業的規模で多量の被覆銀微粒子を製造する際に有利である。
【0016】
また、アミン錯体分解法においては、生成する銀原子にアルキルアミン分子が配位結合しており、当該銀原子に配位したアルキルアミン分子の働きにより凝集を生じる際の銀原子の運動がコントロールされるものと推察される。この結果として、銀原子が高い密度で存在する環境で製造を行った場合でも過度の凝集等を生じ難く、粒度分布が狭い銀微粒子を製造することが可能となる。更に、製造される銀微粒子の表面にも多数のアルキルアミン分子が比較的弱い力の配位結合を生じており、これらが銀微粒子の表面に緻密な保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる表面の清浄な銀微粒子を製造することが可能となる。また、当該被膜を形成するアルキルアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、非常に低温で焼結可能な銀微粒子を製造することが可能となる。
【0017】
上記のように、銀アミン錯体分解法は、非常に微細で低温焼結が可能な被覆銀微粒子を製造する普遍的な方法として優位性を有する。その一方で、アミン錯体分解法により銀微粒子を製造する際に、原料である銀化合物とアルキルアミン等が錯化合物を生成する反応は、銀化合物中の銀原子にアルキルアミン等が配位結合を形成する際の自由エネルギー変化を駆動力として進展するものと推察されるところ、当該配位結合の形成に係る自由エネルギー変化が必ずしも大きくないため、錯化合物の形成が必ずしも円滑に進展しないという問題を有している。また、銀原子の供給源として固体状態の銀化合物が用いられる場合が多く、アルキルアミンとの錯化合物等の生成反応が生じる場所は両者の固液界面に限定されるために、駆動力の弱い錯化合物等の生成反応を完了するためには一般に長時間の混合処理が必要となっていた。更に、銀化合物やアルキルアミンの選択によっては、両者の錯化合物等が良好に生成できないという問題を有していた。
【0018】
この問題を解決するための一つの手段として、本発明者が先に開示した特許文献3においては、沸点が100℃〜250℃の中短鎖アルキルモノアミンに対して、より極性の強い中短鎖アルキルジアミンを介在させて用いることによって、無溶媒、低温、短時間で錯化合物を合成し、この錯化合物を用いることで低温焼結可能な被覆銀微粒子を製造できることを示した。この方法で製造される被覆銀微粒子は、銀の焼結温度としては極めて低温である室温付近で焼結可能であると共に、有機溶媒中に高濃度で分散可能であるため、例えば、適宜の分散媒に分散させた状態でインクとして使用することで、耐熱性の低いプラスチック基板等にも良好な導電膜を形成できるなど、各種の用途において非常に有用である。
【0019】
一方、本発明者が種々の検討をしたところ、固体状の銀化合物とアミンを混合して錯化合物等の複合化合物が生成する際に、一定程度の強さの極性を有するアルコール化合物を介在させることにより、銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成が円滑に進展することが明らかになった。これは、銀化合物とアルキルアミンが共存する環境において、一定程度の強さの極性を有するアルコール化合物が介在することにより、両者間で錯化合物を生成する反応が促進、補助されるためと考えられる。
本発明において、アルコール化合物とは、炭化水素に含まれる水素原子の少なくとも一つをヒドロキシ基(−OH)で置き換えたものを意味し、当該置換される水素原子の位置や個数を問わないものとする。本発明においては、このようなアルコール化合物の内で一定程度の強さの極性を有するものを使用することを特徴とする。
【0020】
アルコール化合物が有する極性の強さを定量的に定めることは一般に困難であるが、極性溶媒である水(HO)に対する溶解度によって各種アルコール化合物の極性の強さを半定量的に評価することが可能である。つまり、極性が強いアルコール化合物では水に対する溶解度が高くなり、極性の低下に伴って溶解度が低下する傾向が観察される。
本発明において、各種アルコール化合物について、銀化合物とアルキルアミン間の錯化合物の形成促進の効果と、当該アルコール化合物の水への溶解度との関係を種々検討したところ、水に対して有意な溶解性を示すアルコール化合物においては、銀化合物とアルキルアミン間の錯化合物の形成促進に一定の効果が見られた。その一方、水に対して溶解性を示さないアルコール化合物においては、当該錯化合物の形成促進に有意の効果が見られないことが明らかになった。
【0021】
具体的には、水に対する溶解度として概ね0.3g/L(20℃)を示すとされるオクタノールを介在させた場合においても、銀化合物とアルキルアミン間の錯体生成を促進する作用が観察された。更に、水に対する溶解度として概ね10g/L以上を示すアルコール化合物においては、銀化合物とアルキルアミン間の錯化合物の形成時間が有意に短縮される傾向がみられ、30g/L以上の溶解度を示すアルコール化合物においては、更に当該錯化合物の形成時間が大きく短縮される傾向がみられた。また、水に対して70〜80g/L以上の溶解度を示すアルコール化合物においては、その溶解度の大小によらず、含まれるOH基の個数等の個別の構造に応じて銀化合物とアルキルアミン間の錯化合物の形成時間が定まる傾向が見られた。ここで、水に対する溶解度は、一般的には室温における水1Lに溶解し得る溶質の最大質量をgで示したものである。上記でいう室温とは、20℃〜25℃のことであり、好ましくは20℃である。
【0022】
また、上記で生成した錯化合物を加熱して分解する工程において、アルコール化合物の介在下で生成した錯化合物は、いずれもアルコール化合物を介在させずに生成した錯化合物と比べて短時間で分解を完了する傾向が見られた。アルキルアミンと錯化合物を形成した銀化合物は、一般に本来の熱分解温度以下の温度で熱分解を生じる傾向が見られる。これは、銀化合物に対してアルキルアミンが配位結合等を生じることにより、銀化合物の構造が不安定となって活性化されるためと考えられている。この観点から、アルコール化合物の介在下で生成した錯化合物については、マクロ的な錯化合物の形成と共に、微視的にも良好な錯化合物の形成が生じているものと推察される。
【0023】
他方、銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の形成に介在させるアルコール化合物の種類は、当該錯化合物の熱分解の工程においても影響する傾向が見られた。つまり、錯化合物の熱分解反応は、使用するアルキルアミン等の蒸発を防止する観点から、通常70〜150℃程度のなるべく低温で行うことが好ましい。しかしながら、比較的沸点の低いアルコール化合物を用いた場合には、当該温度域においても顕著な蒸発が生じる傾向が見られ、被覆銀微粒子の生成反応が不安定になる傾向が観察される。これは、アルコール化合物の蒸発に伴う潜熱吸収や、一部の錯化合物が銀化合物に解離する等の原因によるものと考えられた。このような現象は、特に工業的な大量合成の際の不安定要素として懸念される。このような傾向は、特にメタノールやエタノール等で観察されるため、必要に応じて錯化合物の形成後に不要なアルコール化合物を予め除去したり、あるいは他のアルコール化合物やアルキルアミン等に置換した後に熱分解を行うことが好ましい。また、メタノールに対して他のアルコール化合物や水等を混合して、蒸気圧を低下させることも有効である。
一方、比較的高い沸点を有するアルコール化合物を用いた場合には、錯化合物の熱分解の工程においても安定して反応系に残留するため、安定的な被覆銀微粒子の生成の点で好ましい。これに対して、OH基が一個のアルキルアルコールにおいては、分子量が大きいことにより沸点が高いアルコール化合物は一般に水への溶解度が低く錯化合物の生成促進作用が低下する傾向がみられ、一種のトレードオフが存在する傾向が観察される。
このようなことを考慮すれば、本発明において特に好ましく使用されるアルコール化合物としては、一分子内に2個のOH基を有するグリコールや、3個のOH基を有するグリセリン等が挙げられる。
【0024】
また、銀化合物とアルキルアミン間の錯化合物の形成の際に各種のアルコール化合物を介在させることにより、生成される被覆銀微粒子の粒子径を変化できることが本発明により明らかになった。介在させるアルコール化合物の種類によって被覆銀微粒子の粒子径が変化する理由は明らかでないが、錯化合物の熱分解により生じた銀原子が凝集する過程におけるアルキルアミンによる粗大化防止作用の程度がアルコール化合物の種類によって変化するためと推測される。
【0025】
また、以下の実施例の結果に示されるとおり、本発明において使用されるアルコール化合物の種類などにより、例えば、得られる被覆銀微粒子の焼結後の導電性等に違いを生じることが明らかになっている。このことは、アルコール化合物の種類に応じて、被覆銀微粒子の粒径の他に、被覆部分に当該アルコール化合物が含有されることにより被覆部分の構造が変化することを示すものと考えられる。
以下、本発明により被覆銀微粒子を製造する方法を具体的に説明する。
【0026】
(加熱により分解して金属銀を生成しうる銀化合物)
被覆銀微粒子を製造するために用いる銀の原料としては、銀を含む化合物の中で、加熱により容易に分解して原子状の銀を生成する銀化合物が好ましく使用される。このような銀化合物として、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸などのカルボン酸と銀原子が化合したカルボン酸銀の他、塩化銀、硝酸銀、炭酸銀等がある。これらの中で、分解により容易に金属銀を生成し、かつ銀以外の不純物を生じにくい等の観点からシュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、銀含量が高く、また通常は200℃程度の低温で分解しやすく、また分解の際にシュウ酸イオンが二酸化炭素として除去され金属銀が得られるため、不純物が残留しにくい点で有利である。本発明の方法に用いられるシュウ酸銀は、例えば、市販のシュウ酸銀を用いることができる。また、シュウ酸銀のシュウ酸イオンを、20モル%以下の炭酸イオン、硝酸イオン、酸化物イオンの1種以上で置換した銀化合物を使用してもよい。特に、シュウ酸イオンの20モル%以下が炭酸イオンで置換されたシュウ酸銀は熱安定性が高まるが、置換量が20モル%を超えると、これを用いて生成した錯化合物が熱分解しにくくなる場合がある。
【0027】
(アルキルアミン)
アミン錯体分解法により被覆銀微粒子を製造しようとする場合、使用するアミンとしては、アルキル基の一部にアミノ基が結合したアルキルモノアミン、アルキルジアミン等が望ましく使用される。本明細書において、アルキルアミンとは、アルキル基に対して一つのアミノ基が結合したアルキルモノアミン、及び、アルキル基に対して二つのアミノ基が結合したアルキルジアミンを含むものとする。また、両者を区別する場合には、それぞれアルキルモノアミン、アルキルジアミンと記載する。
本発明に係る製造方法においては、アルキルアミンとして主にアルキルモノアミンを使用するが、製造される被覆銀微粒子に求められる特性等に応じて、適宜アルキルジアミンを混合して使用することができる。
【0028】
本発明の方法に使用しうるアルキルアミンは、銀微粒子の表面に対してアミノ基を介した配位結合を形成可能とするために、アミン部分に含まれるアミノ基が、一級アミノ基であるアルキルアミンRNH又は二級アミノ基であるアルキルアミンRNHであることが好ましい。本明細書において、上記R、R及びRは、互いに独立して炭化水素基を示すが、これらの炭化水素基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子又は珪素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。一級又は二級のアミノ基を含むことにより、アミノ基中の窒素原子が有する非共有電子対により金属原子に配位結合を生じることで、アミン部分と金属化合物の錯化合物が形成可能であり、これにより金属微粒子に対してアルキルアミンの被膜を形成することができる。これに対して、三級アミノ基を含む場合には、一般にアミノ基中の窒素原子の周囲の自由空間が狭いために、金属原子に対する配位結合を生じにくい点で望ましくないが、本発明の方法により製造される被覆銀微粒子の用途等に応じて使用することも可能である。
【0029】
アルキルアミン等においては、一般にアルキル基の分子量が大きくなり長鎖になるに従い蒸気圧が低下して沸点が上昇する傾向が見られる。一方、アルキル基の分子量が小さく短鎖であるものは蒸気圧が高いとともに、極性が強くなる傾向が見られる。また、一分子内に二つのアミノ基を有するアルキルジアミンでは、一分子内に一つのアミノ基を有するアルキルモノアミンより極性が強くなる傾向が見られる。本発明の方法によれば、これら任意のアルキルアミンを使用することができるが、そのアルキル基に含まれる炭素数が2〜5のものを短鎖、炭素数が6〜12のものを中鎖、炭素数が13以上のものを長鎖と定義し、それらの特徴について以下に説明する。
【0030】
長鎖・中鎖のアルキルモノアミンは一般に蒸気圧が低く蒸発を生じ難いと共に、有機溶媒と親和性が高いために、これらのアルキルモノアミンや、これらを含有成分とするアミン混合物を使用することで、製造される被覆銀微粒子の被膜にも所定の割合で長鎖・中鎖のアルキルモノアミンが含まれることとなり、保存性が向上すると共に、無極性の有機溶媒中への分散性を向上することができる。この点で、例えば、製造される被覆銀微粒子を適宜の有機溶媒に分散させてインク等として使用する場合には、当該被覆銀微粒子の被覆部分に長鎖・中鎖のアルキルモノアミンが含まれることが望ましい。
【0031】
このような長鎖・中鎖のアルキルモノアミンとしては、例えば、ジプロピルアミン(107℃)、ジブチルアミン(159℃)、ヘキシルアミン(131℃)、シクロヘキシルアミン(134℃)、ヘプチルアミン(155℃)、3−ブトキシプロピルアミン(170℃)、オクチルアミン(176℃)、ノニルアミン(201℃)、デシルアミン(217℃)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(217℃)、ドデシルアミン(248℃)、ヘキサデシルアミン(330℃)、オレイルアミン(349℃)、オクタデシルアミン(232℃(32mmHgで))等のアルキルモノアミンは入手が容易な点で実用的であるが、これに限定されることはなく、炭素数が6以上の他の長鎖・中鎖のアルキルモノアミンについても、適宜、目的に応じて使用することができる。
【0032】
一方、一般に、アルキルモノアミンのアルキル鎖が長くなるに従い、銀化合物との間での錯化合物を形成する速度が低下する傾向が見られ、炭素数が18程度の長鎖のアルキルモノアミンを用いた場合には長期間の混合によっても錯化合物の形成が完了しないことも観察される。また、中鎖のアルキルモノアミンを用いた場合には、一般に銀化合物と長期間の混合を行うことにより錯化合物の形成が可能となる。
【0033】
これに対し、アルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを用いた場合には、銀化合物との間での錯化合物を比較的容易に形成することが可能である。このため、アミン錯体分解法により被覆銀微粒子を製造しようとする場合には、このようなアルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを主成分としたアルキルアミン等を用いることも可能である。
更に、このようなアルキルジアミンや炭素数が5以下の短鎖のアルキルモノアミンを長鎖・中鎖のアルキルモノアミンに対して所定の割合で混合して用いることにより、両者の長所を生かした被覆銀微粒子を製造することが可能となる。つまり、両者を適宜の割合で混合したアルキルアミンを含む混合物を用いることで、銀化合物との錯化合物を良好に形成し、且つ、保存性に優れ、無極性の有機溶媒中に分散可能な被覆銀微粒子を製造することが可能となる。
【0034】
このような、短鎖のアルキルモノアミンとしては、アミルアミン(沸点104℃)、2−エトキシエチルアミン(105℃)、4−メトキシブチルアミン、ジイソプロピルアミン(84℃)、ブチルアミン(78℃)、ジエチルアミン(55℃)、プロピルアミン(48℃)、イソプロピルアミン(34℃)、エチルアミン(17℃)、ジメチルアミン(7℃)等が工業的に入手可能であり、望ましく使用される。
【0035】
アルキルジアミンとしては、前記錯化合物の熱分解温度を考慮すれば100℃以上の沸点であること、また、得られた被覆銀微粒子の低温焼結性を考慮すれば、250℃以下の沸点であることが考慮される。例えば、エチレンジアミン(118℃)、N,N−ジメチルエチレンジアミン(105℃)、N,N’−ジメチルエチレンジアミン(119℃)、N,N-ジエチルエチレンジアミン(146℃)、N,N’−ジエチルエチレンジアミン(153℃)、1,3−プロパンジアミン(140℃)、2,2-ジメチル−1,3−プロパンジアミン(153℃)、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン(136℃)、N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン(145℃)、N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン(171℃)、1,4−ジアミノブタン(159℃)、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン(193℃)、1,6−ジアミノヘキサン(204℃)、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン(228℃)、1,7−ジアミノヘプタン(224℃)、1,8−ジアミノオクタン(225℃)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
また、各種のアルキルアミンを使用してアミン錯体分解法により被覆銀微粒子を製造する場合には、製造される銀微粒子の被覆を構成するアルキルアミンを銀化合物と混合して錯化合物を生成させ、その後に錯化合物を熱分解して被覆銀微粒子を製造する他に、一旦生成させた錯化合物や被覆銀微粒子に対して別の種類のアルキルアミン等を混合することにより、錯化合物や被覆銀微粒子の被覆に含まれるアルキルアミンを置換することも可能である。このような手法は、錯化合物の生成等が困難なアルキルアミンを被覆部分に含む被覆銀微粒子を製造する際などに有効である。
【0037】
(アルコール化合物)
本発明においては、銀化合物とアルキルアミン等の錯化合物を生成する際に、一定程度以上の極性を示すアルコール化合物を介在させることを特徴とする。このような用途で用いられるアルコール化合物は、典型的には室温において水(HO)に対する溶解度を有するものであることが望ましい。水に対する溶解度を示すアルコール化合物は一定の極性を有し、このようなアルコール化合物を用いることによって銀化合物とアルキルアミン等の錯化合物の生成を促進することができる。このようなアルコール化合物の示す具体的作用は明らかでないが、固体状態の銀化合物においては当該銀化合物である銀を含む分子が結晶等を形成して凝集しているため、特に長鎖・中鎖のアルキルアミン等による銀原子への配位が良好に進まないのに対して、極性の強いアルコール化合物が介在する場合には、当該アルコール化合物が銀化合物の結晶等を解砕するためにアルキルアミン等による配位が効率的に進展するものと考えられる。
また、このようにして用いられるアルコール化合物は、生成する錯化合物や、それを熱分解することで得られる被覆銀微粒子の被覆部分にも含まれため、本発明において各種のアルコール化合物を適宜に選択して用いることにより、製造される被覆銀微粒子に各種の機能を付加することも可能である。
所定のアルコール化合物が示すこのような特徴を活かして、本発明の好ましい実施形態として、主に長鎖・中鎖のアルキルアミンを用いて被覆銀微粒子を製造する際にこのようなアルコール化合物を介在させることで錯化合物の生成を補助・促進させることができる。また、短鎖のアルキルアミンやアルキルジアミンが存在する場合においても、錯化合物の生成補助と共に、製造される被覆銀微粒子に所定の特徴を付与する手段として各種のアルコール化合物を介在させることができる。
【0038】
上記水に対する溶解度を示すアルコール化合物としては、1個のOH基を有する直鎖のアルキルアルコールとして、炭素数1のメタノールから、炭素数8のオクタノールが挙げられる。一方、炭素数が9以上になると水に対して実質的に溶解せず、このようなアルコール化合物を錯化合物の形成の際に介在させても、錯化合物の形成促進作用が観察されない。また、アルキルアルコールの他に、フェノールや、分子内にエーテル結合を有する適宜の炭化水素の水素原子をOH基で置換したもの等を用いることができる。
【0039】
アルコール化合物においては、一分子内に含まれるOH基の数が増加するに伴って強い極性が発現し、本発明においても2個のOH基を含むグリコール類や、3個のOH基を含むグリセリン、4個のOH基を含むペンタエリトリトール等が好ましく使用される。
このようなアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、ピナコール、プロピレングリコール、メントール、カテコール、ヒドロキノン、サリチルアルコール、ペンタエリトリトール、スクロース、グルコース、キシリトール、メトキシエタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエリトリトール等、及び、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコールを含むポリエチレングリコール類が挙げられる。
また、製造される被覆銀微粒子の用途に応じて、硫黄原子を含むアルコール化合物として、2,2’−チオジエタノール、3−チオフェンエタノール、2−チオフェンエタノール、3−チオフェンメタノール、2−チオフェンメタノール、αーチオグリセロール、2−(メチルチオ)エタノール等が挙げられる。また、リン原子を含むアルコール化合物として、ジメチル(ヒドロキシメチル)ホスホネート、ジメチル(2−ヒドロキシエチル)ホスホネート等を用いることができる。更に、ケイ素原子を含む2−(トリメチルシリル)エタノール、2−(トリメチルシリル)−1−プロパノール、トリエチルシラノール等のアルコール化合物を用いることができる。
【0040】
また、錯化合物の生成に使用されるアルコール化合物の一部は錯化合物や錯化合物を熱分解する際の反応媒に含まれるため、使用されたアルコール化合物の蒸気圧が高い場合には、錯化合物を加熱して被覆銀微粒子を製造する際にアルコール化合物が蒸発・脱離して、被覆銀微粒子の生成プロセスを不安定にしたり、被覆銀微粒子として回収される銀原子の収率を低下させる問題を生じる。
錯化合物の熱分解による被覆銀微粒子の生成は、通常70〜150℃程度の範囲で行われるため、本発明において使用されるアルコール化合物としては、当該温度範囲において蒸気圧が低いものが好ましく使用される。特に、大気圧下での被覆銀微粒子の生成を考慮した場合には、アルコール化合物の蒸気圧の影響が大きい傾向が見られる。具体的には、沸点の低いメタノール等を介在させて被覆銀微粒子の生成を行う場合には、バッチ間の特性のばらつきや銀の収率の低下を生じやすい傾向が見られる。このため、使用するアルコール化合物として、沸点が70℃以上のものであること、更に好ましくは沸点が80℃以上のものを使用することが好ましい。
【0041】
また、錯化合物の生成反応の際のアルコール化合物の蒸発を抑制する点から、複数のアルコール化合物を混合して使用することで、各アルコール化合物の蒸気圧を低下させることも有効である。また、水やケトン、アルデヒド等の使用するアルコール化合物に対して溶解度を有する物質を適量混合して用いることも蒸気圧の低減の点で有効である。
【0042】
本発明の方法におけるアルコール化合物の使用量は、錯化合物の生成の際に用いるアルキルアミンに対して5モル%〜500モル%程度とすることが好ましい。アルコール化合物の使用量がアルキルアミンに対してモル比で5モル%以下になると、錯化合物の生成促進作用が十分でなくなる傾向が見られる。一方、アルコール化合物の使用量がアルキルアミンに対してモル比で500モル%以上になると、アルキルアミンの活性が低下して錯化合物の生成が阻害される傾向が見られる。
特に、アルコール化合物の使用量をアルキルアミンに対して10モル%〜300モル%程度とすることで、錯化合物の生成が良好に促進されると共に、良好な錯化合物を生成することが可能となる。また、この範囲の割合においてアルコール化合物の割合が増加すると、一般に錯化合物の生成時間が短縮すると共に、錯化合物に含まれるアルコール化合物の割合が増加するために、錯化合物の熱分解により生じる被覆銀微粒子の粒径が拡大すると共に、生じた被覆銀微粒子の極性溶媒への分散性を向上することができる。一方、アルコール化合物の割合を減少させることで、錯化合物や被覆銀微粒子の被覆に含まれるアルコール化合物が減少し、微細で緻密な被覆を有する被覆銀微粒子が得られる傾向が見られる。
【0043】
最も典型的には、アルコール化合物の量をアルキルアミンに対して25モル%〜100モル%程度とすることが好ましいが、具体的に使用するアルコール化合物の種類や使用割合は、製造する被覆銀微粒子に求められる特性等に応じて、適宜調整がされることが好ましい。
【0044】
本発明において、銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成の際にアルコール化合物を用いる際には、アルキルアミンとアルコール化合物を予め混合した混合物に銀化合物を投入する他、銀化合物にアルコール化合物を混合して解砕等した後にアルキルアミンを加えて錯化合物を生成させてもよく、また銀化合物とアルキルアミンの混合物中に更にアルコール化合物を加えることで錯化合物を生成させてもよい。
更に、被覆銀微粒子の収率を高めたり、均一性を向上する等の目的で、銀化合物とアルキルアミンを混合して錯化合物が生成した混合物中にアルコール化合物を加えることで、錯化合物の生成反応の完了していない銀化合物についての処理を行ってもよい。
【0045】
(分散媒)
本発明に係る方法で製造される被覆銀微粒子は、その使用される用途に応じて、主に使用するアルキルアミンの選択により、例えば、アルコールやエステル溶剤等の極性溶媒や、オクタン等の非極性溶剤、又はそれらの混合溶剤等の適宜の有機溶媒に高濃度で分散させた分散液として使用することが可能である。また、ペースト状の組成物とすることが可能である。本発明に係る方法で製造される被覆銀微粒子を分散液やペーストとすることで、特に低温で銀配線を形成するための材料として好ましく使用することができる。
本発明に係る方法で製造された被覆銀微粒子を分散させて分散液とする場合に使用する有機溶媒は、被覆銀微粒子の保護膜に含まれるアルキルアミン等の脱離を生じさせ難くいものが好ましく用いられる。
【0046】
また、被覆銀微粒子の分散媒への分散性を向上させるため、例えばオレイン酸などの脂肪酸を錯化合物の生成の際にアルキルアミンに混合して用いてもよい。使用されたオレイン酸等は、製造された被覆銀微粒子の被覆に含有されて、特に非極性溶媒への分散性向上に効果的である。特に、短鎖のアルキルアミンを大きな割合で含有するなどにより、アルキルアミンの平均の分子量が小さいアミン混合物を用いる場合に適宜の脂肪酸を加えることは効果的である。ただし、過剰な量の脂肪酸を使用した場合には、被覆金属微粒子からの保護被膜の脱離温度が上昇する傾向が見られるため、その添加量は反応系に含まれる銀原子に対して5モル%以下とすることが望ましい。
【0047】
(錯化合物の生成工程)
銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成は、一般的には粉末状の銀化合物に対して所定量のアルキルアミンとを混合することで行う。本発明においては、この際に所定のアルコール化合物を反応系に介在させることにより、錯化合物の生成を促進させることを特徴とする。アルコール化合物を反応系に介在させる手法としては、予め作成したアルキルアミンとアルコール化合物の混合物に銀化合物を加えてもよく、また、主にアルコール化合物を銀化合物と混合して銀化合物を解砕等した後にアルキルアミンを加えて銀化合物とアルキルアミンの錯化合物とするなど、適宜の手法を用いることができる。
【0048】
銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成過程は、例えば、銀化合物の結晶等が解砕すると共に、生成する錯化合物が一般にその構成成分に応じた色を呈することを利用して、反応による混合物の色の変化の終了を適宜の分光法等により検出することにより、錯化合物の生成反応の終点を検知することができる。また、以下の実施例で主に使用するシュウ酸銀が形成する錯化合物は一般に無色(白色)であるが、この場合でも混合液の粘性が変化するなどの形態変化に基づいて錯化合物の生成状態を検知することができる。
【0049】
本発明においては、錯化合物の熱分解の加熱を行う前に、必ずしも錯化合物の生成が完了する必要はなく、錯化合物の生成過程においても適宜加熱を行うことで、被覆銀微粒子の生成を行うことができる。一方、銀化合物に含まれる銀原子を被覆銀微粒子として回収する割合を高めたり、均一な特性の被覆銀微粒子を生成する点からは、良好な錯化合物の生成後にその熱分解を行うことが好ましい。
【0050】
錯化合物の生成は、銀化合物の分解反応の発生やアルキルアミンやアルコール化合物の蒸発を抑制可能な温度範囲で行うことが好ましい。典型的には、室温付近での撹拌により錯化合物の生成が可能であるが、錯化合物の生成促進の点で、銀化合物の分解反応の発生等を生じない範囲で加熱することも可能である。また、銀化合物に対するアミンの配位反応は発熱を伴うため、銀化合物の分解反応等を抑制するために必要に応じて室温以下に冷却して撹拌を行うことも好ましい。
【0051】
銀化合物とアルキルアミンの錯化合物の生成において、使用するアルキルアミンの総量は銀化合物に含まれる銀原子の化学量論量(等モル)以上とすることが望ましい。アルキルアミンの総量が銀原子との化学量論量以下の量であると、錯化合物とならない銀化合物が生じるため、その後の銀微粒子の生成の際にその肥大化が生じたり、熱分解せずに残留する銀化合物が発生するために好ましくない。典型的には、錯化合物の生成の際に銀原子の2倍モル量以上のアルキルアミンを混合することで、均一な粒径の銀微粒子を安定して得ることができる。また、アミンが銀原子の5倍モル量以上となると、反応系における銀原子の密度が低下して最終的な金属銀の回収歩留まりが低下すると共に環境負荷が増加するため、アミンの使用量は銀原子の5倍モル量以下とすることが好ましい。
【0052】
(錯化合物の加熱分解工程)
上記により生成した銀化合物とアミン混合物との錯化合物を加熱して、錯化合物に含まれる銀化合物を分解することで銀原子を遊離させ、これらが凝集することにより銀微粒子が形成される。このようなアミン錯体分解法による被覆銀微粒子の製造過程においては、予め生成した単一成分(錯化合物)の熱分解反応により原子状銀が供給されるため、複数成分間の化学反応による場合に比べて、各成分の濃度の揺らぎ等に起因した反応のムラを生じ難く、粒子径のそろった銀微粒子が安定して製造できるものと推察される。このため、アミン錯体分解法による銀微粒子の製造は、特に反応に関与する複数の成分を均一に混合することが困難な大規模な工業的生産過程においても有利であると考えられる。
【0053】
アルキルアミンが配位結合することで錯化合物化された銀化合物を、適切な条件下で加熱分解等して原子状の銀を遊離した場合には、当該遊離した原子状銀に対してアルキルアミン分子がアミノ基を介した配位結合を維持するものと推察される。このため、遊離した原子状銀が相互に凝集して凝集体を作る際に、凝集体の周囲にはアミノ基の配位結合により固定されたアルキル鎖が高密度で存在して被膜を形成することで、生成する銀微粒子が所定の大きさ以上に成長することが抑制される結果、アミン錯体分解法により製造された被覆銀微粒子においては、粒子径のそろった微細な銀ナノ粒子が安定して製造できるものと推察される。
一方、本発明において錯化合物の生成時にアルコール化合物を介在させた場合、一部の銀化合物は当該アルコール化合物と錯化合物を形成することが予想される。このため、アルキルアミンと比較して弱い結合力で銀化合物に配位結合するアルコール化合物を用いる等により、錯化合物を熱分解する際に当該アルコール化合物の一部が離脱して銀原子のみが凝集する結果、生成する被覆銀微粒子の平均粒径を拡大することができると考えられる。
【0054】
銀アミン錯体分解法においては、上記のように生成する銀微粒子の大きさを一定にする機構が存在するため、高密度に金属銀原子が存在する状態でも粗大粒子の生成が抑制される。この結果、溶媒による希釈によって反応系内での金属銀原子の密度を低く維持して微粒子を製造していた従来法に比べて、少ない溶媒による微粒子の製造ができると共に、銀微粒子として回収される金属銀原子の歩留まりを95%以上の非常に高い割合に維持することも可能である。
【0055】
このような被覆銀微粒子の製造は、上述のように生成した錯化合物を、アルキルアミンを含む反応媒中で加熱して行うことが望ましい。つまり、銀化合物に対して過剰のアルキルアミンやアルコール化合物を混合し錯化合物を形成させた後、残留するアルキルアミン等を反応媒としてそのまま加熱しても良く、必要に応じて適宜のアルキルアミン等を更に混合して反応媒とすることも可能である。また、生成した錯化合物を含む混合物から遠心分離等の方法で錯化合物を分離した後、適宜のアルキルアミン等を含む反応媒と再混合した状態で加熱して被覆金属微粒子を製造することで、錯化合物を形成するアルキルアミン等の一部を他のアルキルアミンに置換して被覆銀微粒子を製造することも可能である。
【0056】
錯化合物から原子状の銀を遊離させる際の温度は、使用する錯化合物の種類により変化するが、一般に当該原子状銀の遊離が開始する温度の直上の温度域で行うことが好ましい。一方、過度の加熱を行った場合には、銀に対するアルキルアミンの配位結合が外れ易くなるために、生成する被覆銀微粒子の被膜が不安定となり、粗大粒子が生成しやすくなる点で好ましくない。また、反応媒を成すアルキルアミン等の蒸発が活発になる点からも錯化合物から原子状銀を遊離させる際の温度は、原子状銀の遊離が生じる範囲内でなるべく低温であることが好ましい。具体的には、70〜150℃の温度範囲、更に典型的には80〜120℃の温度範囲に加熱することで、錯化合物に含まれる銀化合物を分解させることが好ましい。
【0057】
本発明により製造される被覆銀微粒子を製造する際においては、銀化合物としてシュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、通常は200℃程度で分解を生じて、シュウ酸イオンが二酸化炭素として除去されて金属銀が残留する。一方、本発明に係る方法により所定量のアルキルアミンとアルコール化合物とを含むアミン混合物を用いて錯化合物とすることにより、100℃程度の温度においてシュウ酸イオンの熱分解を生じて金属銀を遊離可能とすることができる。この温度は、上記と同様に、シュウ酸イオンの熱分解を生じる範囲で低い温度に設定されることが望ましいが、温度の上昇と共に熱分解の速度が向上するため、良好な銀微粒子が得られる範囲で適宜加熱温度を上昇させることができる。
上記のようにして生成される被覆銀微粒子は、その用途に応じて、反応媒であるアルキルアミン等と分離した後に、適宜の分散媒等に混合されて保存・使用される。
【0058】
(被覆銀微粒子)
本発明の方法により製造された被覆銀微粒子の一例を図1図1−1及び1−2)に示す。図1は、以下の実施例に記載した方法で製造されたアルキルアミン混合物を含む保護膜により被覆された銀微粒子である。本発明により製造される被覆銀微粒子は、用いるアルコール化合物の種類を選択することによって銀微粒子の粒径を約5〜500nm程度の範囲で調節することが可能である。その粒子表面が厚さ数nm程度のアルキルアミンを含む保護膜で覆われることで、図1に示すように、各銀微粒子が独立して安定に存在することができる。
【0059】
上記のように製造された被覆銀微粒子は、その特性や用途に応じて適宜の態様にして使用される。例えば、被覆銀微粒子をインクジェット等により所定形状に塗布して、低温焼結により銀皮膜とする場合には、所望の有機溶剤で反応媒としたアミンを置換することで、被覆銀微粒子を有機溶剤中に分散させたインク状の分散液とすることにより、被覆銀微粒子の被覆が除去されにくい状態で保存・使用することが望ましい。また、被覆銀微粒子を適宜のテルピン油等と混合して、ペーストとして用いることも可能である。また、比較的長鎖のアルキルアミンを主成分とする皮膜を設けた被覆銀微粒子の場合には、反応媒としたアミンを除去した粉末状物として被覆銀微粒子を保存可能である。
【0060】
(焼結により導体化)
一方、本発明により製造された被覆銀微粒子を適宜の温度に加熱することで、保護膜を形成するアルキルアミンが脱離して銀微粒子同士が直接接触することにより導体化を生じ、例えば、100℃程度以下の温度においても導体化が可能である。これは、保護膜を形成するアルキルアミンが、そのアミノ基を介した配位結合により銀微粒子の表面に対して弱く結合しており、アルキルアミンが比較的容易に脱離可能であるためと考えられる。
【0061】
(被覆銀微粒子を含む膜を形成する基体と、膜の形成方法)
本発明の方法により製造されたアルキルアミン被覆銀微粒子を含むインクやペーストを用いて、導体膜を形成するために塗布する基体の材質や形状は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス、紙、金属、シリコン及びセラミックス等からなる材料を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテル−エーテルケトン、ポリアリレート、アロマティックポリエステル、アロマティックポリアミド、フッ素樹脂、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0062】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、アニリン樹脂、アセトン−ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。前記セラミックスとしては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物などの無機化合物を意味し、例えばアルミナ(Al23)、シリコンナイトライド(SiN)、シリコンカーバイド(SiC)、アルミナイトライド(AlN)、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)等が挙げられる。
【0063】
被覆銀微粒子を含むインク等を用いて所定の膜等を基体上に形成する工程は、所望の厚みで膜を形成できる方法であれば特に限定されず、一般的なスピンコート、バーコート、やスプレー塗布等を用いることができる。また、特に被覆銀微粒子を含む膜により配線前駆体となるパターンを基体上に形成する工程は、従来の様々な印刷方法を用いることが可能であり、例えば、スクリーン印刷方法、インクジェット印刷方法、凹版印刷、凸版印刷、平板印刷等を用いることができる。また、被覆銀微粒子を含む膜を導体化して得られる金属膜の用途は電気配線に限定されず、光学装置用の鏡面や、各種装飾用等に用いることができる。
【0064】
被覆銀微粒子を含むインクやペースト等により基体上に形成される膜の厚みは、導体化により得られる金属膜の目的に応じて適宜設定することができる。通常の電気配線等であれば、1μm以下程度の金属膜となるように当該インクにより、また、1から50μm程度の金属膜となるように当該ペーストにより、それぞれ膜を形成し、導体化を行うことで良好な特性を得ることができる。
その他、本発明に係る被覆銀微粒子が非常に大きな比表面積を有することを利用して、適宜の量を水中に分散させることで、微量の銀微粒子により強い殺菌作用を示す殺菌剤として使用することも有効である。
また、本発明に係る方法で製造された被覆銀微粒子の銀表面が非常に清浄であり、特有のプラズモンを示すことから、これを利用した色材として用いることも有効である。
【実施例】
【0065】
[実施例1〜15]
実施例1〜15に係る被覆銀微粒子を、以下の方法で製造した。銀化合物として、硝酸銀(関東化学、一級)とシュウ酸二水和物(関東化学、特級)から合成したシュウ酸銀を使用した。各実施例では、それぞれシュウ酸銀5.00mmol(1.519g)に対し、表1に示す各種のアルコール化合物等と、アキルアミンとしてのn−ヘキシルアミン(東京化成、特級)を20.0mmol(2.024g)、及び、製造される被覆銀微粒子の有機溶媒への分散性を高める目的で、脂肪酸であるオレイン酸(東京化成、>85.0%)0.23mmol(0.065g)を混合し、それぞれ室温で攪拌した。なお、実施例1〜12,14については、各アルコール化合物の10mmol相当を混合した。フェノール等の固体のアルコール化合物については、予めn−ヘキシルアミンに溶解したものにシュウ酸銀を混合した。実施例13については、平均分子量が300程度のポリエチレングリコール1.32gを混合した。また、実施例15についてはエチレングリコール8mmolと水10mmolを混合した。
【0066】
上記混合液を攪拌したところ、シュウ酸銀が溶解して全体として粘性のある白色の溶液に変化した。当該変化が外見的に終了したと認められる時点で攪拌を終了した。エチレングリコールとシュウ酸銀を室温で70分間混合撹拌して得られた(実施例12でオレイン酸を含まない系)白色粘性物をダイヤモンドATR法(Nicolet 6700 FT−IR スペクトロメーター)で、赤外線吸収スペクトルを測定したところ、シュウ酸イオン部分のC=O伸縮振動のピーク波数が、原料のシュウ酸銀の場合の1562から1568cm−1へとシフトした。また、そのC=O伸縮振動に由来する吸収帯の線幅(半値幅)が、原料のシュウ酸銀の場合に比べて半分程度となり、シャープになった。このことは、シュウ酸銀にアルキルアミンやアルコールが作用(結合)し、その構造や電子状態が変化したことを示している。この白色粘性物では同時に、n−ヘキシルアミンとエチレングリコールに由来する赤外線吸収スペクトルが観測され、残部が、アルキルアミンとアルコール類の化合物の混合物であることが明らかである。
【0067】
上記で得られた錯化合物を含む混合液を、アルミブロック式加熱攪拌機(小池精密機器製作所)に移して、110℃の温度設定で加熱攪拌を行った。加熱に伴い二酸化炭素の発生を伴う反応が進行し、二酸化炭素の発生が完了するまで攪拌を行うことで、青色又は緑色の光沢を呈する微粒子がアルキルアミンを含む混合物中に懸濁した懸濁液を得た。なお、実施例1については、110℃に加熱する前にエバポレータにより30℃で過剰なメタノールの除去を行った。
【0068】
次に、この懸濁液の分散媒を置換するために、メタノール(関東化学、一級)10mLを加えて攪拌後、遠心分離(2600G)により被覆銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した被覆銀微粒子に対し、再度メタノール10mLを加え、撹拌、遠心分離を行うことで、被覆銀微粒子を沈殿させて分離した。この被覆銀微粒子にテルピン系分散剤テルソルブTHA−70(日本テルピン化学株式会社)0.5mLを加えて撹拌することで、被覆銀微粒子を含有するペーストとした。
なお、上記で分離した被覆銀微粒子を熱重量分析装置(島津 TGA−50)内で加熱して被覆部分を完全に除去することで、各被覆銀微粒子に含まれる金属銀の重量を測定し、その製造の際に使用したシュウ酸銀に含まれる銀原子の重量に対する比率をそれぞれ求めた。この結果、いずれのアルコール化合物を用いた場合にも90重量%以上の銀原子が被覆銀微粒子として回収されることが示された。また、作成したペーストの銀の含有量は70重量%程度であった。
【0069】
[評価結果1]
上記実施例1〜15で製造された被覆銀微粒子について、その製造の際に、室温で錯化合物の生成に要した時間、及び、110℃の温度設定において錯化合物が分解して銀微粒子が生成するために要した時間を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、実施例で用いた水への溶解性を示すアルコール化合物等をシュウ酸銀とn−ヘキシルアミンの錯化合物の生成に介在させることで、いずれもアルコール化合物等を使用しない場合(比較例)に比べて錯化合物の生成が促進された。なお、ヘキサノール(炭素数6)やオクタノール(炭素数8)では、200分の攪拌後にもシュウ酸銀の一部が残留したが、いずれも比較例と比べてシュウ酸銀の残留量は少ないことが観察された。また、いずれも錯化合物の分解のために混合物を加熱する過程で残留するシュウ酸銀が解砕して消滅することが観察された。
【0072】
また、いずれの実施例においても錯化合物の分解に要する時間が比較例と比べて短縮され、錯化合物の生成が促進された結果としてシュウ酸銀が活性化されていると推察された。特に複数のOHを有するアルコール化合物を用いた実施例12〜15では、錯化合物の生成時間とその熱分解時間が短縮され、良好に錯化合物が生成することが推察された。
【0073】
[評価結果2]
上記実施例1〜15で製造された被覆銀微粒子のペーストをオクタンで希釈し、コロジオン膜(銅メッシュグリッド、透過電子顕微鏡用)に滴下し、メタノールで洗浄後、走査透過電子顕微鏡(STEM)観察(日本電子 JSM−7600F サーマル電界放出形走査電子顕微鏡)またはアモルファスカーボン支持膜(銅メッシュグリッド、透過電子顕微鏡用)に滴下し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察(日本電子 JEM−2100F フィールドエミッション電子顕微鏡)を行った結果を図1に示す。このようにして測定したSTEM像またはTEM像から概算した粒子径を表2に示す。
実施例1〜15で製造された被覆銀微粒子は、いずれも平均粒子径が8〜40nm程度であり、それぞれシャープな粒径分布を示すことが観察された。
【0074】
[評価結果3]
上記実施例1〜15で製造された被覆銀微粒子のペーストを基板に塗布して焼結させた際の焼結性を評価した結果について表2に示す。評価は、各ペーストをポリエステルフィルム基板(OHPシート)にバーコートにより塗布し、これを100℃で3時間、及び20時間焼成した後、生成した銀被膜のシート抵抗値を四探針法(共和理研 K―705RS)により測定した。また、焼成後の銀被膜の膜厚を考慮して、20時間の焼成を行った銀被膜のシート抵抗値から体積抵抗を算出した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、アルコール化合物を用いて錯化合物の生成を行ったものは、概ねアルコール化合物を用いない比較例に対して焼結後の銀被膜における残留抵抗が低いことが観察された。なお、実施例5〜8,11については、被覆銀微粒子同士の焼結により得られる銀被膜に多数の亀裂を生じたため、マクロ的な抵抗値を測定することが困難であった。
図1-1】
図1-2】