(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の第1の実施形態)
アブレーション装置10は、
図1に示すように、生体試料200を支持する支持部1と、生体試料200の切削面に垂直な方向に対して角度を付けた方向(斜め方向)を含み、生体試料200の切削面に対して複数の方向から、生体試料200の切削面に深紫外光を照射する光源2と、を備える。
【0013】
また、光源2が生体試料200の切削面に対して複数の方向から生体試料200の切削面に深紫外光を照射する機構としては、生体試料200の切削面に照射するように一又は複数の光源2を固定すると共に、支持部1の支持方向(中心軸O)を中心に当該支持部1を回転させる駆動部4を備えることや、駆動部4を備えずに、生体試料200の切削面に照射するように複数の光源2を固定することが考えられる。
【0014】
なお、本実施形態に係るアブレーション装置10は、生体試料200の切削面に照射するように一の光源2を固定すると共に、支持部1の支持方向(中心軸O)を中心に当該支持部1を回転させる駆動部4を備える。これにより、高価な光源2の個数を削減すると共に、生体試料200の切削面に対して円周方向に沿った様々な方向から深紫外光を照射することができ、生体試料200の切削面の平滑度を高めることができる。
また、本実施形態に係る駆動部4は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換するモータである。
【0015】
なお、本実施形態に係る生体試料200は、生体組織に対して、化学固定又は物理固定と、脱水及び包埋と、重合と、トリミング及び面出しとの各過程を経て生成される包埋試料であるが、有機重合物質で包埋されていない、生きた細胞若しくは生体組織、凍結させた細胞若しくは生体組織又は乾燥させた細胞若しくは生体組織などの無包埋試料でもよい。ここで、生きた細胞若しくは生体組織には、架橋の弱いパラフォルムアルデヒド(para form aldehyde:PFA)又はアルコール若しくはアセトンなどで化学固定した、ほぼ生の状態(免疫染色用)も含まれる。
なお、生体試料200は、トリミング過程において、包埋の際に余った樹脂をカプセルに流し込んで製作した略円柱状の台座201に、導電性両面テープ、導電性接着剤又は瞬間接着剤を用いて接着される。
【0016】
支持部1は、略円柱状であり、支持部1の中心軸Oと台座201の中心軸Oとを一致させた状態で台座201を挿入するための凹部を上面に有し、駆動部4であるモータのシャフト4aの中心軸Oに支持部1の中心軸Oを一致させてネジ止めにより固定される。
【0017】
光源2は、深紫外光を放射するレーザーやランプである。
なお、深紫外光は、光子エネルギーが大きく、光子が生体試料200の切削面近傍で吸収され(浅浅度吸収)、原子間の結合を切断して(光解離)、分子を分解及び消滅させる(光蒸発)。
【0018】
特に、深紫外光の波長が193nmでは、光子がC−N、C−C、C−O及びC=C結合を切断するエネルギーを有し、タンパク質の基本単位であるペプチドを分解できると共に、エネルギーの余剰(光子エネルギーと結合エネルギーの差)が、並進エネルギーとなり、解離物の噴出(移動)に使用させる。このため、深紫外光の波長を193nm以下にすることは、多少の並進エネルギーの関与はあるものの、生体試料200の光の熱化は起こらず、照射部位の熱の影響はほとんどないために好ましい。
【0019】
なお、本実施形態に係る光源2は、レーザー発振器として、発振波長が193nmのArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーを用いているが、波長が193nm以下の深紫外光を放射することができるのであれば、ArFエキシマレーザーに限られるものではない。
【0020】
また、光源2から出射された深紫外光は、生体試料200に導くためのミラーや光ファイバー及び生体試料200に集光するためのレンズなどから構成される光学系3を介して、生体試料200の切削面に照射される。
【0021】
つぎに、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対して斜め方向から生体試料200の切削面に深紫外光を照射することによる作用効果について、電子顕微鏡により撮像した画像を用いて説明する。なお、実験に使用した生体試料200は、以下に説明する第1の生体試料200及び第2の生体試料200である。
【0022】
第1の生体試料200は、固定液としてブアン液(ピクリン酸飽和水溶液:ホルマリン:氷酢酸=15:5:1)を用いた灌流固定法によってマウス胎仔の肝臓を保存して、エポキシ系樹脂であるEPON(登録商標)で包埋し、オスミウム(Os)により染色して後固定したものに対して、トリミング及び面出しを行なったものである。
【0023】
また、第2の生体試料200は、固定液としてブアン液を用いた灌流固定法によってラットの腎臓を保存して、エポキシ系樹脂であるEPON(登録商標)で包埋し、4種の重金属(オスミウム(Os)、ウラン(U)、鉛(Pb)、白金(Pt))により4重染色して後固定したものに対して、トリミング及び面出しを行なったものである。
なお、第2の生体試料200は、電子顕微鏡で撮像した画像のコントラストの向上を図るために、4種の重金属により複合染色を行なったものである。
また、第2の生体試料200は、切削面の平坦化の確認を容易にするため、ガラスナイフ又はダイヤモンドナイフで切削した場合に生じるチャター(傷)を切削面に残したものである。
【0024】
また、実験に使用した光源2は、ArFエキシマレーザーであり、照射条件として、パルス繰返周波数が1Hzであり、印加電圧が30.0kVである。
また、実験に使用した電子顕微鏡は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の卓上顕微鏡(Miniscope(登録商標)、TM3000)である。
【0025】
まず、第1の生体試料200を用いて、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが0度の場合、すなわち、第1の生体試料200の切削面に対して垂直方向から深紫外光を照射した場合(第1の実験)について、
図2を用いて説明する。
【0026】
この第1の実験では、アブレーション前として、第1の生体試料200を電子顕微鏡にセットし、第1の生体試料200の切削面を反射電子線像により撮像した(
図2(a)、
図2(b))。
そして、本実施形態に係るアブレーション装置10に第1の生体試料200をセットし、大気中において、第1の生体試料200の切削面全体に対して垂直方向から深紫外光を5分間(照射回数:300ショット)照射した。
そして、アブレーション後として、深紫外光を照射した第1の生体試料200を電子顕微鏡にセットし、アブレーション前の撮像範囲と同一の範囲について、第1の生体試料200の切削面を反射電子線像により撮像した(
図2(c)、
図2(d))。
【0027】
アブレーション後の
図2(d)に示す画像は、アブレーション前の
図2(b)に示す画像と比較すると、生体組織の周縁がエッジ効果で白く光っており、生体組織を包埋したEPON(登録商標)だけが除去されて生体組織が浮き出ていることがわかる。すなわち、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが0度の場合には、生体試料200の切削面が平滑に切削できていないことがわかる。
【0028】
これは、切削面に突起がある生体試料200(
図8(a))において、
図8(b)に示すように、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが0度の場合、すなわち、生体試料200の切削面に対して垂直方向から深紫外光を照射した場合に、平坦な部分が先に削れて、高い部分(突起)が相対的に残るからである。
【0029】
なお、
図2(a)及び
図2(c)に示す白矢印は、血液成分が集積しているところを示しており、
図2(a)及び
図2(c)は同じ試料であることがわかる。また、第1の実験でのアブレーションは、大気中において行なっているため、
図2(c)の黒矢印に示すように、真空中でのアブレーションでは出現しないと考えられる「デブリ」が見られ、第1の生体試料200の切削面に複数のデブリがある。
【0030】
つぎに、第2の生体試料200を用いて、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが0度より大きく90度より小さい場合、すなわち、第2の生体試料200の切削面に対して斜め方向から深紫外光を照射した場合(第2の実験)について、
図3乃至
図7を用いて説明する。
【0031】
なお、第2の実験では、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが、80度、70度、60度及び50度の場合について実験しており、各角度に対応する第2の生体試料200(80度:試料200a、70度:試料200b、60度:試料200c、50度:試料200d)をそれぞれ準備した。
また、第2の実験では、第2の生体試料200の切削面における各角度のArFエキシマレーザーのエネルギー密度(fluence:フルエンス)を一定に保つために、事前準備として、直径1mmのピンホールを開けた金属板を用いて、光学系3のレンズから第2の生体試料200の切削面までの距離と照射強度とを測定し、測定結果(下表1、
図3)により、フルエンスを25μJ/cm
2に決定した。
【0033】
この第2の実験では、アブレーション前として、第2の生体試料200(試料200a、試料200b、試料200c、試料200d)を電子顕微鏡にそれぞれセットし、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが80度、70度、60度及び50度の場合について、第2の生体試料200の切削面を反射電子線像によりそれぞれ撮像した(
図4(a)、
図5(a)、
図6(a)、
図7(a))。
【0034】
そして、本実施形態に係るアブレーション装置10に第2の生体試料200(試料200a、試料200b、試料200c、試料200d)をそれぞれセットし、大気中において、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが80度、70度、60度及び50度の場合について、第2の生体試料200の切削面全体に深紫外光を5分間(照射回数:300ショット)照射した。
【0035】
そして、アブレーション後として、深紫外光を照射した第2の生体試料200(試料200a、試料200b、試料200c、試料200d)を電子顕微鏡にそれぞれセットし、アブレーション前の撮像範囲と同一の範囲について、第2の生体試料200の切削面を反射電子線像によりそれぞれ撮像した(
図4(b)、
図5(b)、
図6(b)、
図7(b))。
【0036】
アブレーション後の
図4(b)、
図5(b)、
図6(b)及び
図7(b)に示す画像は、アブレーション前の
図4(a)、
図5(a)、
図6(a)及び
図7(a)に示す画像とそれぞれ比較すると、生体組織の周縁が白く光っておらず、生体組織を包埋したEPON(登録商標)と共に生体組織が切削できていることがわかる。
【0037】
これは、切削面に突起がある生体試料200(
図8(a))において、
図8(c)に示すように、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが0度より大きく90度より小さい場合、すなわち、生体試料200の切削面に対して斜め方向から深紫外光を照射した場合に、高い部分(突起)が先に削れて、生体試料200の切削面が総体的に平坦になるからである。
【0038】
特に、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが80度及び50度の場合においては、
図4(b)及び
図7(b)の黒矢印で示すように、ナイフによるチャターがアブレーション後も残っているが、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θが70度及び60度の場合においては、
図5(b)及び
図6(b)の黒矢印で示すように、ナイフによるチャターがアブレーション後に消えており、生体試料200の切削面の平滑化が行なわれていることがわかる。
【0039】
このため、生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対する光源2の照射方向のなす角θは、0度より大きい(かつ90度より小さい)ことが好ましく、60度以上であり、70度以下であることがより好ましい。なお、生体試料200の切削面の平滑度は、生体試料200に対する深紫外光の照射強度を高めることや深紫外光の照射時間を長くすることにより向上することができると考えられ、なす角θの許容範囲を広く予測して、例えば、50度以上であり、80度以下であってもよい。
また、本実施形態に係るアブレーション装置10は、生体試料200の切削面に垂直な方向に対して斜め方向だけでなく、生体試料200の切削面に垂直な方向からも併せて、生体試料200の切削面に深紫外光を照射することにより、斜め照射による生体試料200の切削面の平滑化と、垂直照射による照射強度及び切削速度の向上とを図ることができる。
【0040】
以上のように、本実施系形態に係るアブレーション装置10は、生体試料200をナノレベルで薄く切削することができ、生体試料200の切削面を平滑にすることができるという作用効果を奏する。また、本実施系形態に係るアブレーション装置10は、100回から数万回の切削を繰り返し行なった場合でも、生体試料200の切削面の平滑性を大きく損なわずに切削を行なう事が可能である。
【0041】
(本発明の第2の実施形態)
図9は第2の実施形態に係る3次元電子顕微鏡の概略構成を示す概念図である。
図10は
図9に示す3次元電子顕微鏡の処理動作を示すフローチャートである。
図9及び
図10において、
図1と同じ符号は、同一または相当部分を示し、その説明を省略する。
【0042】
本実施形態に係る3次元電子顕微鏡100は、第1の実施形態に係るアブレーション装置10と、生体試料200の切削面を撮像する撮像手段と、アブレーション装置10及び撮像手段を交互に駆動させる制御部と、撮像手段により撮像された画像を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された連続する複数の画像に基づいて合成像を構築する演算部と、を備える。
なお、以下の説明においては、生体試料200の切削面を撮像する撮像手段として、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、「SEM」と称す)を例に挙げて説明する。
【0043】
3次元電子顕微鏡100は、
図9に示すように、大別すると、第1の実施形態に係るアブレーション装置10と、SEMに相当する電子顕微鏡部20と、コンピュータ30とからなる。
【0044】
電子顕微鏡部20は、荷電粒子ビームとして電子ビーム21aを放出する電子銃21と、後述する対物レンズ24に到達する電子の数(プローブ電流)と細い電子ビーム21a(電子プローブ)の太さとを調整する集束レンズ22と、電子ビーム21aを偏向して生体試料200に対して走査する走査コイル23と、電子ビーム21aを生体試料200に集光する対物レンズ24と、を備える。
また、電子顕微鏡部20は、生体試料200から放出された二次電子を検出し、当該検出した二次電子の光の強度を示す電気信号を出力する電子検出器25と、電子検出器25からの電気信号を増幅する増幅器26と、増幅器26からのアナログ信号をデジタル信号に変換してコンピュータ30に出力するA/D変換回路27と、走査コイル23を駆動させる走査信号を当該走査コイル23に出力して電子ビーム21aを走査する走査回路28と、を備える。
【0045】
また、電子顕微鏡部20は、電子銃21、集束レンズ22、走査コイル23及び対物レンズ24を内設する本体上部を構成する鏡筒29aと、生体試料200及び電子検出器25並びにアブレーション装置10を内設する本体下部を構成する試料室29bと、を備える。なお、鏡筒29a及び試料室29b内部は真空である。
【0046】
コンピュータ30は、3次元電子顕微鏡100の使用者が生体試料200の厚さ方向(支持方向)における撮像範囲(アブレーション装置10による切削範囲)z等を入力するためのキーボードやマウス等の入力部31と、入力部31からの入力信号に基づき、アブレーション装置10の光源2、光学系3及び駆動部4、電子顕微鏡部20の電子銃21及び走査回路28、並びに、演算部33に制御信号を出力する制御部32と、を備える。
また、コンピュータ30は、制御部32からの制御信号、走査回路28からの走査信号及び電子検出器25からの電気信号値に基づき、生体試料200のSEM像を各層毎にそれぞれ構築し、当該各SEM像を重ね合わせた合成像である3次元のSEM像を構築する演算部33と、演算部33による演算結果を記憶する記憶部34と、演算部33によって構築された合成像を表示する表示部35と、を備える。
【0047】
つぎに、3次元電子顕微鏡100の処理動作について、
図10を用いて説明する。
まず、使用者は、電子顕微鏡部20の試料室29b内のアブレーション装置10に生体試料200をセットする。
そして、使用者は、コンピュータ30の入力部31を用いて、生体試料200の撮像範囲(切削範囲)zを入力して設定する(ステップS1)。
【0048】
電子顕微鏡部20は、コンピュータ30の制御部32からの制御信号に基づき、電子銃21から生体試料200に向けて電子ビーム21aを放出し、集束レンズ22及び対物レンズ24により生体試料200上に電子ビーム21aを集束して、電子ビーム21aを照射する。この場合に、電子顕微鏡部20の走査回路28は、コンピュータ30の制御部32からの制御信号に基づき、電子顕微鏡部20の走査コイル23を駆動させる走査信号を当該走査コイル23に出力し、走査コイル23により電子ビーム21aを偏向し、生体試料200の切削面に対して電子ビーム21aを走査する(ステップS2)。
【0049】
電子ビーム21aが照射された生体試料200から放出する二次電子は、電子検出器25により検出される。すなわち、電子顕微鏡部20は、電子ビーム21aの走査時における生体試料200からの二次電子を電子検出器25の蛍光物質に衝突させて発光させ、その光を再び電子に変換して電気信号にする。そして、電子顕微鏡部20は、変換した電気信号を増幅器26により増幅し、A/D変換回路27によりアナログ信号をデジタル信号に変換して、コンピュータ30の演算部33に出力する(ステップS2)。この場合に、電子顕微鏡部20の走査回路28は、コンピュータ30の演算部33に走査信号(各焦点位置の情報)を出力する。
【0050】
また、コンピュータ30の演算部33は、電子顕微鏡部20の走査回路28からの走査信号(各焦点位置の情報)及び電子顕微鏡部20の電子検出器25からの電気信号値(各焦点位置に対応する電気信号値)に基づいて生体試料200のSEM像を構築する(ステップS3)。また、コンピュータ30の演算部33は、構築したSEM像を記憶部34に記憶させる。
【0051】
そして、コンピュータ30の演算部33は、撮像範囲(切削範囲)が設定値zに到達したか否かを判断する(ステップS4)。
【0052】
ステップS4において、撮像範囲(切削範囲)が設定値zに到達していないと判断した場合に、コンピュータ30の演算部33は、制御部32に制御信号を出力する。
アブレーション装置10の光源2及び光学系3並びに駆動部4は、コンピュータ30の制御部32からの制御信号に基づき、駆動部4が生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)を中心に当該支持部1を回転させ、光源2及び光学系3が生体試料200の切削面に垂直な方向(中心軸O)に対して斜め方向から生体試料200の切削面に深紫外光を所定の時間(例えば、5分間)だけ照射し(ステップS5)、ステップS2に戻る。
【0053】
また、ステップS4において、撮像範囲(切削範囲)が設定値zに到達していると判断した場合に、コンピュータ30の演算部33は、ステップS3により各層毎に構築した各SEM像を、記憶部34から読み出し、3次元空間に配置して重ね合わせ、合成像である3次元のSEM像を構築する(ステップS6)。
【0054】
そして、コンピュータ30の演算部33は、構築した合成像を表示部35に出力して表示することで(ステップS7)、生体試料200の撮像を終了する。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る3次元電子顕微鏡100は、SEMにアブレーション装置10を組み合わせた装置であり、深紫外光による光解離及び光蒸発作用により生体試料200の切削面をnm単位(5nm厚以下)で薄く切削するステップと、SEMにより生体試料200の切削面を撮像して画像データを保存するステップと、を交互に繰返す。そして、本実施形態に係る3次元電子顕微鏡100は、保存した連続する複数の画像データを積層することにより、生体試料200の立体再構築を広範囲(100cm
2程度)かつ高分解能で可能にすることができるという作用効果を奏する。
【0056】
特に、集束イオンビーム(Focusing Ion Beam:FIB)とSEMとを一つの装置にしたFIB−SEMは、分解能が十分に高いものの、生体試料200の断面を出すための切削時間が1枚当たり数分掛かり、観察可能な面積も100nm角以下に限定され、観察できる分解能のダイナミックレンジが狭いという問題がある。
これに対し、第2の実施形態に係る3次元電子顕微鏡100は、生体試料200の厚さ方向の分解能がFIB−SEMに匹敵しつつ、比較的定真空で実施することができ、FIB−SEMと比較して非常に低コストである。
また、第2の実施形態に係る3次元電子顕微鏡100は、深紫外光の均一な強度照射により、生体試料200の広い面出し(1cm角以上)を可能にして、FIB−SEMの観察可能な面積の制限を取り除くことができる。
また、第2の実施形態に係る3次元電子顕微鏡100は、深紫外光の照射により、生体試料200の切削面を高速に切削することができ、画像データの取得時間の短縮を図ることができるという作用効果を奏する。
【0057】
(本発明のその他の実施形態)
なお、第2の実施形態においては、第1の実施形態に係るアブレーション装置10を、SEMに組み合わせた応用例について説明したが、この応用例に限られるものではなく、以下の応用例も考えられる。
【0058】
第1の応用例としては、第2の実施形態に係る3次元電子顕微鏡100の電子顕微鏡部20の代わりに、蛍光顕微鏡(FLM:Fluorescent Light. Microscope)とSEMとが融合した顕微鏡(蛍光観察走査型電子顕微鏡:FL−SEM)を、第1の実施形態に係るアブレーション装置10に組み合わせる(以下、「3次元蛍光観察SEM」と称す)。
この3次元蛍光観察SEMは、免疫蛍光染色にて標識した生体組織をTechnovit(登録商標)8000のような無蛍光プラスチック樹脂で包埋した生体試料200に対して、蛍光染色された生体組織の蛍光像とSEM像とが融合した3次元画像を取得することができ、生体組織の機能を立体的に把握することが可能になる。
【0059】
特に、従来は、蛍光標識された生体試料200の3次元化は、共焦点レーザー顕微鏡にしかできない機能であったが、この共焦点レーザー顕微鏡は、特殊な機能を付加させた装置(高分解能タイプ)でなければ、高分解能領域の細胞やオルガネラ(細胞小器官)の同定を必要とする生体試料200の観察が不可能であった。
これに対し、3次元蛍光観察SEMは、蛍光部位の表示に対してより高分解能なSEM像による補助観察機能を追加しており、蛍光像及びSEM像の2つの合成像により、一般的な光学顕微鏡単体の分解能を超えた領域の立体再構築を行なうことができ、細胞や膜の詳細な同定が可能になると共に、標識した生体組織中のより高分解能な3次元における細胞間のネットワーク等の研究も可能になる。
また、3次元蛍光観察SEMは、生体試料200の厚さ方向(切削の深さ方向)であるZ軸方向へのアブレーション装置10による切削に追従して、Z軸方向の蛍光像を表示することができ、従来の共焦点レーザー顕微鏡におけるZ軸方向への表示制限を無くすことができる。
【0060】
第2の応用例として、第1の実施形態に係るアブレーション装置10は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)用グリッドをトリミング前の包埋試料の厚切片に複数貼り付け、アブレーション装置10に包埋試料を裏返してセットし、その包埋試料の切削面を切削することにより、ウルトラミクロトームを用いることなく、同時に多量の超薄切片(50nm厚程度)を作製することができる。
【0061】
特に、従来の超薄切片法に基づく生体試料200の作製は、電子顕微鏡用の連続した切片を作製することができる高い技能を有する技術者の教育が必要であると共に、消耗品のダイヤモンドナイフ等の周辺装置等が高額な商品である。このため、従来の超薄切片法に基づく生体試料200の作製は、作業の困難さから研究機関の利用に事実上制限されており、実施にかかる時間やコストなどが問題となっていた。
これに対し、第1の実施形態に係るアブレーション装置10は、厚切片の包埋試料の超薄切片化が自動化でき、高額な消耗品等が不要になることで、電子顕微鏡用のTEM試料の作製における障壁が取り除かれ、安い製作費での超薄切片の作製が可能になる。