(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975488
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】熱機械分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
G01N25/16 D
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-169431(P2013-169431)
(22)【出願日】2013年8月19日
(65)【公開番号】特開2015-38430(P2015-38430A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100101867
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 寿武
(72)【発明者】
【氏名】則武 弘一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩見 猛
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭47−040358(JP,B1)
【文献】
特開平10−123076(JP,A)
【文献】
米国特許第3898836(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/16
G01N 3/00−3/62
G01B 5/00−5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定試料にあらかじめ設定した荷重を付与して当該被測定試料を壁面に押し当て、この状態で前記被測定試料の周囲温度を変化させながら前記被測定試料の長さ変化を測定する熱機械分析装置において、
固定台と、この固定台に前後方向へ往復移動自在に搭載された移動台と、この移動台を前方または後方へ向かって移動させる駆動モータと、
前記移動台に対し前後方向へ相対移動可能な状態で当該移動台に搭載され、前記移動台とともに前方へ移動し、その前方に配置した被測定試料をさらにその前方に設けられた壁面に押し付けるサンプル荷重付与部材と、
前記移動台と前記サンプル荷重付与部材との間に設けられ、前記壁面に押し付けられた被測定試料からの反力により前記サンプル荷重付与部材の移動が阻止されてから、前記移動台と前記サンプル荷重付与部材との間の相対移動に伴い変形して、前記サンプル荷重付与部材を介して被測定試料に荷重を作用させるサンプル荷重ばねと、
前記サンプル荷重付与部材が前方への移動を阻止されて、前記移動台と前記サンプル荷重付与部材との間に相対移動が生じる相対移動開始位置を検出する位置検出手段と、
前記移動台の移動量を検出する移動量検出手段と、を備え、
前記相対移動開始位置からの前記移動台の前方への移動量に基づき、前記サンプル荷重ばねの変形量を調整し、被測定試料へ付与する荷重の値を設定することを特徴とした熱機械分析装置。
【請求項2】
前記移動台に対し前後方向へ相対移動可能な状態で、前記サンプル荷重付与部材と並べて前記移動台に搭載され、前記移動台とともに前方へ移動し、その前方に配置した標準試料をさらにその前方に設けられた前記壁面に押し付けるリファレンス荷重付与部材と、
前記移動台と前記リファレンス荷重付与部材との間に設けられ、前記壁面に押し付けられた標準試料からの反力により前記リファレンス荷重付与部材の移動が阻止されてから、前記移動台と前記リファレンス荷重付与部材との間の相対移動に伴い変形して、前記リファレンス荷重付与部材を介して標準試料に荷重を作用させるリファレンス荷重ばねと、
前記サンプル荷重付与部材と前記リファレンス荷重付与部材との間の相対移動量を検出する部材間相対移動量検出手段と、を備えたことを特徴とする請求項1の熱機械分析装置。
【請求項3】
前記サンプル荷重付与部材と前記リファレンス荷重付与部材との間の相対移動量に基づき、標準試料の有無を判別することを特徴とする請求項2の熱機械分析装置。
【請求項4】
前記壁面に押し付けられた標準試料からの反力により移動が阻止された前記リファレンス荷重付与部材と、被測定試料が無いために前方への移動を続ける前記サンプル荷重付与部材との間に、一定の相対移動量が生じたとき、前記サンプル荷重付与部材を停止させるストッパを設け、
前記サンプル荷重付与部材と前記リファレンス荷重付与部材との間の相対移動量に基づき、被測定試料の有無を判別することを特徴とする請求項2又は3の熱機械分析装置。
【請求項5】
被測定試料の熱膨張に伴う前記サンプル荷重付与部材の、前記リファレンス荷重付与部材に対する相対変位を検出する変位センサを備えた熱機械分析装置において、
前記部材間相対移動量検出手段は、前記変位センサを利用していることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載した熱機械分析装置。
【請求項6】
前方への移動端で前記移動台を検出する前端検出センサを備え、この前端検出センサからの検出信号に基づき、被測定試料および標準試料の不存在を判別することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載した熱機械分析装置。
【請求項7】
前記位置検出手段は、前記サンプル荷重付与部材に設けたマーカを、サンプル荷重付与部材が前記相対移動開始位置に到達したときに検出するフォトセンサで構成してあることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載した熱機械分析装置。
【請求項8】
前記移動量検出手段は、前記駆動モータの回転量を検出するエンコーダで構成してあることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載した熱機械分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定試料にあらかじめ設定した荷重を付与して当該被測定試料を壁面に押し当て、この状態で前記被測定試料の周囲温度を変化させながら被測定試料の長さ変化を測定する熱膨張計(Thermo Dilatometer,TD)と称する熱機械分析装置(Thermo Mechanical Analysis,TMA)に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の熱機械分析装置は従来から種々のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
図13は、従来の熱機械分析装置の概要を示す模式図である。同図に示す熱機械分析装置は、支持管101、電気炉102、差動トランス103、2本の検出棒104,105および温度センサ(図示せず)を備えており、支持管101の先端部分に壁面107aを有する試料配置部107が形成してある。
【0003】
試料配置部107には、被測定試料S1と基準試料S0を並べて配置し、これら被測定試料S1と基準試料S0をそれぞれ検出棒104,105の先端で押圧して、壁面107aに押し付ける。検出棒104,105を介して被測定試料S1と基準試料S0に付与する荷重は、後述する加圧手段によって一定の値に設定されている。
【0004】
このように被測定試料S1と基準試料S0に一定の荷重を付与した状態で、電気炉102によって支持管101内を加熱する。2本の検出棒104,105は、被測定試料S1と当接する検出棒104を差動トランス103のコア103aに連結し、一方、基準試料S0に当接する検出棒105を差動トランス103のコイル103b側に連結してある。これにより、各検出棒104,105の変位の差分が差動トランス103によって検出される。
【0005】
ここで、基準試料S0は、熱的変形が無視し得るほど小さな材料(例えば、アルミナ)で形成してある。したがって、この基準試料S0に当接する検出棒105には、熱による支持管101の変形等、試料配置部107周辺の熱的変位が伝えられる。そこで、差動トランス103によって、この試料配置部107周辺の熱的変位を被測定試料S1側の検出棒104の変位から除去することで、加熱による試料S1の長さ変化のみを検出することが可能となる。
【0006】
上述した熱機械分析装置において、検出棒104,105を介して被測定試料S1と基準試料S0に一定の荷重を付与する加圧手段としては、従来から電磁アクチュエータを用いた電磁式のものと、コイルばねを用いた荷重ばね式のものが提案されている。このうち電磁式のものは電磁アクチュエータに流す電流を制御することで任意の荷重に自動設定することができるものの、各検出棒に対して高価格な電磁アクチュエータを搭載しなければならないために製作コストが高価格となってしまう。これに対して、荷重ばね式のものは安価に製作できるが、荷重の設定にはコイルばねの変形量を手作業で調整する必要があるために、サンプルチェンジャ(試料自動交換装置)を用いての複数試料の自動測定には馴染まないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3666769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、被測定試料にあらかじめ設定した荷重を付与して当該被測定試料を壁面に押し当て、この状態で被測定試料の周囲温度を変化させながら被測定試料の長さ変化を測定する熱機械分析装置において、荷重ばね式の加圧手段を採用しながら、試料に付与する荷重を自動的に設定することができる熱機械分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の熱機械分析装置は、固定台と、この固定台に前後方向へ往復移動自在に搭載された移動台と、この移動台を前方または後方へ向かって移動させる駆動モータと、移動台に搭載したサンプル荷重付与部材と、を備えている。
サンプル荷重付与部材は、移動台に対して前後方向へ相対移動可能な状態で当該移動台に搭載されている。そして、移動台とともに前方へ移動し、その前方に配置した被測定試料をさらにその前方に設けられた壁面に押し付ける。
【0010】
ここで、サンプル荷重付与部材を介して被測定試料に荷重を作用させるのは、移動台とサンプル荷重付与部材との間に設けられたサンプル荷重ばねである。すなわち、本発明の熱機械分析装置は、荷重ばね式の加圧手段を採用している。
壁面に押し付けられた被測定試料からの反力によりサンプル荷重付与部材の移動が阻止されると、移動台のみが前方に移動していく。この移動台とサンプル荷重付与部材との間の相対移動に伴い、サンプル荷重ばねが変形して、サンプル荷重付与部材を介して被測定試料に荷重を作用させる。
【0011】
さらに、本発明の熱機械分析装置は、サンプル荷重付与部材が前方への移動を阻止されて、移動台とサンプル荷重付与部材との間に相対移動が生じる相対移動開始位置を検出する位置検出手段と、移動台の移動量を検出する移動量検出手段と、を備えている。そして、相対移動開始位置からの移動台の前方への移動量に基づき、サンプル荷重ばねの変形量を調整し、被測定試料へ付与する荷重の値を自動で設定する。
【0012】
また、本発明の熱機械分析装置は、標準試料に対するリファレンス荷重付与部材と、リファレンス荷重ばねと、を備えることもできる。
リファレンス荷重付与部材は、移動台に対して前後方向へ相対移動可能な状態で当該移動台に搭載されている。そして、移動台とともに前方へ移動し、その前方に配置した標準試料をさらにその前方に設けられた壁面に押し付ける。
【0013】
ここで、リファレンス荷重付与部材を介して標準試料に荷重を作用させるのは、移動台とリファレンス荷重付与部材との間に設けられたリファレンス荷重ばね(荷重ばね式の加圧手段)である。
壁面に押し付けられた標準試料からの反力によりリファレンス荷重付与部材の移動が阻止されると、移動台のみが前方に移動していく。この移動台とリファレンス荷重付与部材との間の相対移動に伴い、リファレンス荷重ばねが変形して、リファレンス荷重付与部材を介して標準試料に荷重を作用させる。
【0014】
ここで、本発明の熱機械分析装置は、サンプル荷重付与部材とリファレンス荷重付与部材との間の相対移動量を検出する部材間相対移動量検出手段を備えることが好ましい。
例えば、標準試料が配置されていなかった場合、移動台とともにリファレンス荷重付与部材は前方への移動を続ける。一方、サンプル荷重付与部材は、壁面に押し付けられた被測定試料からの反力により移動が阻止される。このため、リファレンス荷重付与部材とサンプル荷重付与部材との間に相対移動が生じる。この相対移動量は、部材間相対移動量検出手段により検出される。したがって、この相対移動量に基づき、標準試料の有無を判別することが可能となる。
【0015】
さらに、本発明の熱機械分析装置は、壁面に押し付けられた標準試料からの反力により移動が阻止されたリファレンス荷重付与部材と、被測定試料が無いために前方への移動を続けるサンプル荷重付与部材との間に、一定の相対移動量が生じたとき、サンプル荷重付与部材を停止させるストッパを設けることが好ましい。
例えば、被測定試料が配置されていなかった場合、移動台とともにサンプル荷重付与部材は前方への移動を続けるため、移動台とサンプル荷重付与部材との間に相対移動が生じない。このため、位置検出手段が相対移動開始位置を検出できず、移動台がそのまま前方へ移動し続けてしまうおそれがある。
一方、リファレンス荷重付与部材は、壁面に押し付けられた標準試料からの反力により移動が阻止される。そこで、このリファレンス荷重付与部材とサンプル荷重付与部材との間に一定の相対移動量が生じたとき、ストッパによってサンプル荷重付与部材を停止させる。この相対移動量は部材間相対移動量検出手段により検出される。したがって、この相対移動量に基づき、被測定試料の有無を判別することが可能となる。
【0016】
さらに、本発明の熱機械分析装置は、前方への移動端で移動台を検出する前端検出センサを備えることが好ましい。被測定試料と標準試料のいずれもが配置されていなかった場合、サンプル荷重付与部材およびレファレンス荷重付与部材のいずれもが途中で移動を阻止されることなく、移動台が前方移動端に到達するまで移動台とともに移動を続ける。そこで、前端検出センサによって前方への移動端に到達した移動台を検出することで、この前端検出センサからの検出信号に基づき、被測定試料および標準試料の不存在を判別することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の熱機械分析装置によれば、荷重ばね式の加圧手段を採用しながら、試料に付与する荷重を自動的に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る熱機械分析装置の特徴部分を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る熱機械分析装置の特徴部分を視点を変えて示す斜視図である。
【
図3】被測定試料および標準試料に付与する荷重の設定手順を説明するための正面模式図である。
【
図4】
図3に続く、被測定試料および標準試料に付与する荷重の設定手順を説明するための正面模式図である。
【
図5】
図4に続く、被測定試料および標準試料に付与する荷重の設定手順を説明するための正面模式図である。
【
図6】
図5に続く、被測定試料および標準試料に付与する荷重の設定手順を説明するための正面模式図である。
【
図7】
図6に続く、被測定試料および標準試料に付与する荷重の設定手順を説明するための正面模式図である。
【
図8】標準試料の有無を自動的に判別する制御動作を説明するための平面模式図である。
【
図9】被測定試料の有無を自動的に判別する制御動作を説明するための平面模式図である。
【
図10】
図9に続く、被測定試料の有無を自動的に判別する制御動作を説明するための平面模式図である。
【
図11】
図10に続く、被測定試料の有無を自動的に判別する制御動作を説明するための平面模式図である。
【
図12】被測定試料と標準試料の不存在を自動的に判別する制御動作を説明するための平面模式図である。
【
図13】従来の熱機械分析装置の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態では、検出棒を横向きに倒して配置したいわゆる横型熱機械分析装置(横型膨張計ともいう)に本発明を適用した構成を示すが、これに限定されず、検出棒を垂直に配置した縦型熱機械分析装置(縦型膨張計)にも本発明は適用できることはもちろんである。
【0020】
図1および
図2では、本実施形態に係る熱機械分析装置の特徴部分をそれぞれ視点を変えて示している。これらの図に示すように、本実施形態に係る熱機械分析装置は、固定台10、移動台20、サンプル荷重付与部材30、リファレンス荷重付与部材40の各構成部品を備えている。
固定台10は、本装置の特徴部全体を支持する基台であり、この固定台10の上に移動台20が搭載され、さらにその移動台20の上にサンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40とが並べて搭載されている。
【0021】
固定台10の上面には前後方向に延びる第1ガイドレール11が形成してあり、移動台20はこの第1ガイドレールに沿って前後方向に移動自在となっている。この移動台20は、固定台10に取り付けられた駆動モータ50の駆動力によって前後方向に移動する。図示しないが、固定台10と移動台20の底部との間には送りねじ機構が設けてあり、駆動モータ50からの駆動力を受けて送りねじが回転し、同送りねじに螺合してある駆動ナットが前後方向へ移動する。移動台20は駆動ナットに連結してあり、駆動ナットとともに前後方向へ移動する。駆動モータ50としては、回転量(回転角度)を精密に制御できるサーボモータを用いることが好ましい。
【0022】
駆動モータ50には、その回転量(回転角度)を正確に計測できるエンコーダ51が併設してある。このエンコーダ51は、移動台20の移動量を検出する移動量検出手段として機能する。なお、移動台20と固定台10の間には、引張りコイルばね12が懸架されており、移動台20はこの引張りコイルばね12によって常時後方へ付勢されている。上述した送りねじと駆動ナットとの間のがたつきは、この引張りコイルばね12の付勢力をもって抑制されている。
【0023】
移動台20の上面には、前後方向に延びる一対の第2,第3ガイドレール21,22が両側部にそれぞれ形成してあり、サンプル荷重付与部材30は第2ガイドレール21に沿って前後方向に移動自在となっており、またリファレンス荷重付与部材40は第3ガイドレール22に沿って前後方向に移動自在となっている。このため、各荷重付与部材30,40は、それぞれ移動台20に対して前後方向へ相対移動が可能である。
【0024】
サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40には、それぞれ先端に検出棒装着部31,41が設けてあり、サンプル荷重付与部材30の検出棒装着部31にはサンプル検出棒32の基端が装着され、リファレンス荷重付与部材40の検出棒装着部41にはリファレンス検出棒42の基端が装着される。サンプル検出棒32とリファレンス検出棒42は前方に向かって水平に延びている。
各検出棒が延びる前方には試料配置部Aが形成してある。試料配置部Aの前端には、垂直に立ち上がった壁面(図示せず)が設けてある。サンプル検出棒32の先端は、サンプル荷重付与部材30の前方への移動に伴い、試料配置部Aに配置された被測定試料S1の基端を押圧して、被測定試料S1を壁面に押し付ける。また、リファレンス検出棒42の先端は、リファレンス荷重付与部材40の前方への移動に伴い、試料配置部Aに配置された標準試料S0の基端を押圧して、標準試料S0を壁面に押し付ける。
【0025】
なお、標準試料S0はアルミナ等の熱的変形がきわめて小さい材料で形成される。また、サンプル検出棒32とリファレンス検出棒42は、同じ材料で同じ寸法形状に製作してある。これら各検出棒もアルミナ等の熱的変形がきわめて小さい材料で形成することが好ましい。
熱分析測定に際して、試料配置部Aは図示しない支持管でサポートされ、電気炉(図示せず)からの熱で支持管内の被測定試料S1と標準試料S0が加熱される。
【0026】
サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40には、それぞればね支持用の軸(ばね支軸33,43)が取り付けてある。また、移動台20の後端部に支持ブロック23が設けてあり、この支持ブロック23に2つの軸挿通孔23a,23bが並べて形成してある。各ばね支軸33,43は、後方に向かって延び軸挿通孔23a,23bを貫通している。そして、各ばね支軸33,43の外周には、コイルばねで形成されたサンプル荷重ばね34とリファレンス荷重ばね44がそれぞれ嵌め込まれている。
【0027】
ここで、移動台20とともにサンプル荷重付与部材30が前方へ移動し、サンプル検出棒32が被測定試料S1を壁面に押し付けたとき、サンプル荷重付与部材30は被測定試料S1からの反力により移動が阻止され停止する。その後も移動台20が前方への移動を続けると、サンプル荷重付与部材30は移動台20に対して後方へ相対移動することになる。
同様に、移動台20とともにリファレンス荷重付与部材40が前方へ移動し、リファレンス検出棒42が標準試料S0を壁面に押し付けたとき、リファレンス荷重付与部材40は標準試料S0からの反力により移動が阻止され停止する。その後も移動台20が前方への移動を続けると、リファレンス荷重付与部材40は移動台20に対して後方へ相対移動することになる。
【0028】
各荷重付与部材30,40が移動台20に対して後方へ相対移動すると、各ばね支軸33,43の外周に嵌め込まれた各荷重ばね34,44が、各荷重付与部材30,40と移動台20との間で圧縮される。そして、各荷重付与部材30,40を介して各試料に各荷重ばねのばね力による荷重が付与される。このようにして各試料に付与される荷重の大きさは、各荷重ばねの変形量(本実施形態では、圧縮量)に応じた値となる。したがって、各荷重ばねの変形量と各試料に付与される荷重との関係をあらかじめ計測しておき、その関係に基づいて各荷重ばねを圧縮させれば、任意の大きさの荷重を各試料に付与することができる。
【0029】
サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40との間には、相互間の相対移動量を検出するための変位センサ60(部材間相対移動量検出手段)が設けてある。本実施形態では、この変位センサ60は差動トランスで構成されており、同差動トランスのコイル61をリファレンス荷重付与部材40に装着するとともに、同差動トランスのコア(図示せず)をサンプル荷重付与部材30に装着した構成となっている。各荷重付与部材30,40の相互間に相対移動が生じると、コイル61に対してコアが移動してコイル61に流れる電流値が変化する。この電流変化によって各荷重付与部材30,40の相対移動量を検出することができる。
【0030】
この変位センサ60は、被測定試料S1の熱分析測定に際して温度変化に伴う被測定試料S1の長さ変化を検出するために、従来もサンプル検出棒32とリファレンス検出棒42の相互間に設けられていたものである(
図13に示した差動トランス103のコア103aとコイル103b)。
変位センサ60を差動トランスで構成することで、熱による支持管の変形等、試料配置部Aの周辺における熱的変位を、サンプル検出棒32の変位から除去することができ、加熱による被測定試料S1の長さ変化のみを検出することが可能となる。
【0031】
また、移動台20にはフォトセンサ70が設けてあり、またサンプル荷重付与部材30には、遮蔽板71が取り付けてあり、この遮蔽板71がフォトセンサ70と対向して配置してある。遮蔽板71にはフォトセンサ70による検出対象としてのピンホール等からなるマーカ(図示せず)が設けてある。このマーカは、常時フォトセンサ70と対向する位置に配置されており、マーカを透してフォトセンサ70にLED等の光源から光線が入射する仕組みになっている。そして、移動台20とサンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じると、マーカがフォトセンサ70の対向位置から移動して遮蔽板71により光線が遮蔽される。この変化により、フォトセンサ70は、移動台20とサンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じる開始位置(相対移動開始位置)を検出する。すなわち、本実施形態では、フォトセンサ70とマーカが設けられた遮蔽板71とにより、移動台20とサンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じる相対移動開始位置を検出するための位置検出手段を構成してある。
【0032】
さらに、固定台10には、前方への移動端に到達した移動台20を検出する前端検出センサ13と、後方への移動端に到達した移動台20を検出する後端検出センサ14とが設けてある。本実施形態では、これら各検出センサ12,13にマイクロスイッチを適用している。
【0033】
次に、本実施形態に係る熱機械分析装置の動作と作用を説明する。
〔試料に付与する荷重の設定〕
まず、
図3ないし
図7を参照して、被測定試料S1および標準試料S0に付与する荷重の設定手順について説明する。なお、以下に示す動作制御は、熱機械分析装置に接続された制御装置によって自動的に実行される。
【0034】
既述したように被測定試料S1に付与される荷重は、サンプル荷重ばね34の変形量によって決まる。そこで、まず
図3に示すような任意の位置にある移動台20を後退させて、
図4に示す後方の移動端まで移動させる。本実施形態では、後方の移動端を駆動制御の原点として設定してあり、この原点位置からの駆動モータ50の回転量(回転角度)をエンコーダ51が検出する。なお、移動台20が後方の移動端まで移動したとき、後端検出センサ14が移動台20を検出し、その検出信号の出力をもって駆動モータ50を停止させる。
【0035】
既述したようにサンプル荷重ばね34の変形量と被測定試料S1に付与される荷重との関係は、あらかじめ計測して制御装置にインプットしてある。そして、被測定試料S1に付与したい荷重値が設定されると、サンプル荷重ばね34の変形量と被測定試料S1に付与される荷重との関係を参照して、設定された荷重値に相当するサンプル荷重ばね34の変形量だけ、移動台20に対してサンプル荷重付与部材30を後方へ相対移動させる。
【0036】
すなわち、後方の移動端から移動台20を前方に向かって移動させると、サンプル荷重付与部材30も移動台20とともに移動する。そして、
図5に示すようにサンプル荷重付与部材30に装着されたサンプル検出棒32の先端が被測定試料S1に接触すると、その後は移動台20の前方への移動に伴いサンプル荷重付与部材30が被測定試料S1を押圧して壁面に押し付ける。このとき、サンプル荷重付与部材30は被測定試料S1からの反力によって移動が阻止される。したがって、その後は移動台20のみが前方へ移動していき、サンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じる(
図6参照)。
【0037】
このように移動台20とサンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じる開始位置(相対移動開始位置)は、フォトセンサ70によって検出される。そして、この相対移動開始位置からの移動台20の移動量(すなわち、サンプル荷重付与部材30との間の相対移動量L1)を、エンコーダ51により検出した駆動モータ50の回転量から算出し、当該相対移動量L1があらかじめ設定された荷重値に相当するサンプル荷重ばね34の変形量と等しくなった時点で移動台20を停止させる(
図7参照)。このとき、サンプル荷重ばね34は、相対移動量L1と同じ長さだけ圧縮される。この動作制御によって、被測定試料S1に付与する荷重を自動で設定することができる。
【0038】
標準試料S0についても上記動作制御をもってリファレンス荷重ばね44が圧縮されて、設定どおりの荷重が付与される。なお、標準試料S0には被測定試料S1と同じ大きさの荷重が付与される。
【0039】
〔標準試料S0不存在であったときの判別〕
次に、
図8を参照して、試料配置部Aに標準試料S0が無かった場合に、これを自動的に判別する制御動作について説明する。
特に、本実施形態の熱機械分析をサンプルチェンジャと組み合わせて、複数試料の自動測定を実施する場合は、試料の有無を自動で判別する工程はとても重要である。
【0040】
上述したとおり試料へ付与する荷重を設定するために、後方の移動端から移動台20を前方に向かって移動させると、サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40とが移動台20とともに移動する。そして、サンプル荷重付与部材30に装着されたサンプル検出棒32の先端が被測定試料S1に接触すると、その後は移動台20の前方への移動に伴いサンプル荷重付与部材30が被測定試料S1を押圧して壁面に押し付ける。このとき、サンプル荷重付与部材30は被測定試料S1からの反力によって移動が阻止される。したがって、その後は移動台20のみが前方へ移動していき、サンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じる。移動台20は、この相対移動量L2があらかじめ設定したサンプル荷重ばね34の変形量と等しくなるまで移動する。
【0041】
一方、試料配置部Aに標準試料S0が無いとき、リファレンス荷重付与部材40は、移動台20といっしょに前方へ移動していく。したがって、サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40との間の相対移動量もL2となり、この相対移動量L2は変位センサ60によって検出される。
【0042】
さて、標準試料S0と被測定試料S1の長さはほぼ同一に調整されているため、誤差を加味しても、各試料が正常に配置されていた場合におけるサンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40との間の相対移動量はごく僅かであり、上記相対移動量L2は明らかに異常値として把握することができる。そこで、各試料が正常に配置されていたときの各荷重付与部材30,40間の相対移動量と、標準試料S0が無かったときの各荷重付与部材30,40間の相対移動量L2とを区別できるしきい値を設定し、このしきい値を基準にして各荷重付与部材30,40間の相対移動量を検査することによって、標準試料S0の有無を自動的に判別することができる。
【0043】
〔被測定試料S1が不存在であったときの判別〕
次に、
図9ないし
図11を参照して、試料配置部Aに被測定試料S1が無かった場合に、これを自動的に判別する制御動作について説明する。
被測定試料S1が配置されていなかった場合、移動台20とともにサンプル荷重付与部材30は前方への移動を続けるため、移動台20とサンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じない。このため、フォトセンサ70が相対移動開始位置を検出できず、移動台20がそのまま前方へ移動し続けてしまうおそれがある。
【0044】
そこで、本実施形態では、
図9に示すように、リファレンス荷重付与部材40にサンプル荷重付与部材30の前方への移動を停止させるストッパ45を設けてある。リファレンス荷重付与部材40は、試料配置部Aに配置された標準試料S0にリファレンス検出棒42が当接して前方への移動が阻止される。ストッパ45は、サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40との間に一定の相対移動量L3が生じたとき、サンプル荷重付与部材30に係合し同部材の前方への移動を停止させる(
図10参照)。その後も移動台20は前方への移動を続け、移動台20とサンプル荷重付与部材30との間に相対移動が生じたとき、フォトセンサ70が相対移動開始位置として認識する。そして、移動台20とサンプル荷重付与部材30との間の相対移動量が、あらかじめ設定したサンプル荷重ばね34の変形量に等しくなったとき、移動台20が停止する(
図11参照)。
【0045】
サンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40との間の相対移動量L3は、変位センサ60により検出される。既述したとおり、各試料が正常に配置されていた場合におけるサンプル荷重付与部材30とリファレンス荷重付与部材40との間の相対移動量はごく僅かである。したがって、上記相対移動量L3は明らかに異常値として把握することができる。そこで、各試料が正常に配置されていたときの各荷重付与部材30,40間の相対移動量と、被測定試料S1が無かったときの各荷重付与部材30,40間の相対移動量L3とを区別できるしきい値を設定し、このしきい値を基準にして各荷重付与部材30,40間の相対移動量を検査することによって、被測定試料S1の有無を自動的に判別することができる。
【0046】
〔各試料すべてが不存在であったときの判別〕
次に、
図12を参照して、被測定試料S1と標準試料S0がともに無かった場合に、これを自動的に判別する制御動作について説明する。
被測定試料S1と標準試料S0のいずれもが配置されていなかった場合、サンプル荷重付与部材30およびレファレンス荷重付与部材40のいずれもが途中で移動を阻止されることなく、移動台20が前方移動端に到達するまで移動台20とともに移動を続ける。そして、移動台20が前方の移動端に到達したとき、前端検出センサ13が移動台20を検出する。この前端検出センサ13によって移動台20が検出されたとき、その検出信号によって被測定試料S1および標準試料S0の不存在を判別することができる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施や応用実施が可能である。
例えば、上述した実施形態では、サンプル荷重ばねとして圧縮ばねを用い、移動台とサンプル荷重付与部材との間の相対移動に伴い圧縮して、サンプル荷重付与部材を介して被測定試料に押圧荷重を作用させる構成としたが、この構成に限定されず、サンプル荷重ばねとして引張りばねを用い、移動台とサンプル荷重付与部材との間の相対移動に伴い伸張して、サンプル荷重付与部材を介して被測定試料に押圧荷重を作用させる構成とすることもできる。
同様に、リファレンス荷重ばねにも引張りばねを用い、移動台とリファレンス荷重付与部材との間の相対移動に伴い伸張して、リファレンス荷重付与部材を介して標準試料に押圧荷重を作用させる構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0048】
10:固定台、11:第1ガイドレール、12:引張りコイルばね、13:前端検出センサ、14:後端検出センサ、
20:移動台、21:第2ガイドレール、22:第3ガイドレール、23:支持ブロック、23a,23b:軸挿通孔、
30:サンプル荷重付与部材、31:検出棒装着部、32:サンプル検出棒、33:ばね支軸、34:サンプル荷重ばね、
40:リファレンス荷重付与部材、41:検出棒装着部、42:リファレンス検出棒、43:ばね支軸、44:リファレンス荷重ばね、45:ストッパ
50:駆動モータ、51:エンコーダ
60:変位センサ、61:コイル
70:フォトセンサ、71:遮蔽板
A:試料配置部、S1:被測定試料、S0:標準試料