【文献】
Takuya Okubo,外3名,“Abdominal view expansion by retractable camera”,Journal of Signal Processing,Research Institute of Signal Processing,2011年 7月,第15巻,第4号,p.311−314
【文献】
牛木卓,外5名,“腹部投影方式による腹腔鏡下手術支援システム:鉗子挿入支援機能の開発”,Medical Imaging Technology,日本医用画像工学会,2006年11月,第24巻,第5号,p.394−400
【文献】
中口俊哉,外2名,“体表への映像投影による腹腔鏡下手術支援システムの構築”,O plus E,アドコム・メディア株式会社,2010年 7月,第32巻,第7号,p.815−819
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記技術は、温度差に起因する曇りを防止できるが、有機物を除去できない。また、腹腔鏡に加熱手段を付加する必要があり、構成が複雑になる。すなわち、特許文献1記載の技術は実用性に乏しい。したがって、現在、曇りや有機物付着に対する抜本的な対策はなく、腹腔鏡をトロカールから抜去してレンズを拭いた後、再びトロカールに挿入する動作を繰り返している。一般に、レンズクリーニングに係る動作は一回の手術で10回以上繰り返される。これらの動作は、本来の手術手順には必要ない一方、術者の負担になっている。
【0007】
また、前述のとおり、腹腔鏡下手術では、腹腔鏡によって得られる映像を観察しながら手術を行う。従って、腹腔鏡をトロカールから抜去した後、再びトロカールに挿入すると、抜去前の映像と挿入後の映像とが異なるおそれがある。術者は、再度、手術対象(例えば臓器)を確認する必要があり、この点でも、術者の負担になっている。
【0008】
ところで、本発明者は、格納式カメラを有するトロカールを提案している(詳細後述)。カメラは、腹腔内で格納位置と展開位置とに切り替わる。なお、格納式カメラを有するトロカールは、3次元リアルタイム画像を用いたバーチャル開腹手術を実現する中核技術である。
【0009】
一方で、格納式カメラを有するトロカールには、下記の様に改善すべき課題がある。
【0010】
すなわち、一度、トロカールが腹壁に設けられると、手術終了までトロカールは抜去されない。従って、腹腔鏡を抜去して曇りや有機物を除去するように、カメラを腹腔外に出して、曇りや有機物を除去することはできない。
【0011】
本発明は上記課題を解決するものであり、格納式カメラを有するトロカールにおいて、カメラの曇りや有機物を除去し、レンズをクリーニングすることを目的とする。
【0012】
また、従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作に比べ、術者の負担を軽減することを目的とする。
【0013】
更に、レンズクリーニングに伴う映像のズレを防止し、術者の負担を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は、医療器具を体内に挿入するためのパイプ部を有するトロカールであって、前記パイプ部の体内に挿入される位置に設けられる側面開口部と、前記側面開口部を通過して、パイプ部内に格納される格納位置とパイプ部外に撮影可能に展開される展開位置とに切替可能に回動する格納式カメラと、前記格納式カメラの回動により、カメラレンズに接触してクリーニングするレンズクリーニング手段とを備える。
【0015】
本発明において、更に好ましくは、前記レンズクリーニング手段は、根元部と先端部を有し、該根元部が前記側面開口部の先端側に固定され、該先端部はカメラレンズとの接触により変形可能である。
【0016】
これにより、格納式カメラを有するトロカールにおいて、カメラの曇りや有機物を除去し、レンズをクリーニングすることができる。
【0017】
従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作では、腹腔鏡の抜去、クリーニング、挿入が必要であるのに対し、本発明ではレンズクリーニング動作が簡便であり、術者の負担を軽減することができる。
【0018】
本発明において、更に好ましくは、前記格納式カメラを展開位置に付勢する付勢手段を更に備える。
【0019】
これにより、クリーニング動作後、格納式カメラは確実に同じ位置(展開位置)に戻る。その結果、レンズクリーニングに伴う映像のズレを防止し、術者の負担を軽減することができる。
【0020】
上記課題を解決する本発明は、上記記載のトロカールと、腹腔鏡と、前記腹腔鏡から得られた画像と前記格納式カメラから得られた画像とを合成処理する画像処理装置と、を備え、前記画像処理装置は、前記格納式カメラが展開位置から格納位置に切替わるとき、該展開位置での最終画像を用いるよう指令する、一部中断指令機能部を有する手術支援システムである。
【0021】
上記課題を解決する本発明は、複数の上記記載のトロカールと、前記腹腔鏡から得られた画像と前記格納式カメラから得られた画像とを合成処理する画像処理装置と、を備え、前記画像処理装置は、前記格納式カメラが展開位置から格納位置に切替わるとき、該展開位置での最終画像を用いるよう指令する、一部中断指令機能部を有する手術支援システムである。
【0022】
本発明において、更に好ましくは、前記画像処理装置は、前記格納式カメラが格納位置から展開位置に再度切替わるとき、前記最終画像と新たに得られた最新画像との一致を確認する画像一致確認機能部と、該画像一致を確認すると、該最新画像を用いるよう指令する再開指令機能部とを有する。
【0023】
一部中断指令機能部、画像一致確認機能部、再開指令機能部等の諸機能を有することにより、レンズクリーニング動作に起因して画像処理装置に生じる不具合を改善できる。
【0024】
本発明において、更に好ましくは、手術台の上方に設けられ、前記合成画像を患者腹部相当位置に投影するプロジェクタをさらに備える。
【0025】
上記課題を解決する本発明は、医療器具を肺に挿入するためのパイプ部を有し、該パイプ部を介して胸壁に設けられるポートであって、前記パイプ部の肺内に挿入される位置に設けられる側面開口部と、前記側面開口部を通過して、パイプ部内に格納される格納位置とパイプ部外に撮影可能に展開される展開位置とに切替可能に回動する格納式カメラと、前記格納式カメラの回動により、カメラレンズに接触してクリーニングするクリーニング手段とを備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、格納式カメラを有するトロカールにおいて、カメラの曇りや有機物を除去し、レンズをクリーニングすることができる。
【0027】
また、従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作に比べ、術者の負担を軽減することができる。
【0028】
更に、レンズクリーニングに伴う映像のズレを防止し、術者の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<格納式カメラを有するトロカール>
〜構成〜
格納式カメラ17を有するトロカールの構成について説明する。
図1は、格納式カメラを有するトロカールの斜視図である。
図1(a)と
図1(b)とは、視点が異なる。
【0031】
トロカール1は、パイプ部11とヘッド部12から構成される。パイプ部11は、その大部分が腹壁の孔に挿入される。ヘッド部12はパイプ部11の上部に連続して設けられる。ヘッド部12は中空であり、その上部から鉗子が挿入可能になっている。また、詳細は省略するが、ヘッド部12は鉗子の挿抜時に空気の漏れを防止する密封機構と腹腔内に空気を送り込む送気機構とを備える。
【0032】
パイプ部11の確実に体内に挿入される位置に側面開口部13が設けられている。パイプ部の軸方向であって、かつ、側面開口部13一端部に沿って、シャフト14が配置される。パイプ部11内壁には複数の軸受15が固定されており、軸受15はシャフト14を回動可能に固定している。シャフト14端部はトロカール外に延長している。シャフト14端部には、切替機構16が設けられている。切替機構16は、格納位置と展開位置に切替可能である。
【0033】
シャフト14には側面開口部13に対応する位置に、格納式カメラ17が一体として剛接合されている。これにより、切替機構16およびシャフト14の回動に伴って、格納式カメラ17は、側面開口部13を通過して、パイプ部内に格納される格納位置とパイプ部外に撮影可能に展開される展開位置とに切替可能に回動する。格納式カメラ17にはケーブル18が接続されており、ケーブル18はトロカール1内を挿通して、外部の画像処理装置6と接続している。
【0034】
なお、ケーブル18をシャフト14に沿って配置するか、シャフト14を中空にし、シャフト14内にケーブル18を配置すれば、鉗子挿入時にケーブル18を切断する危険性が無くなるため、更に好ましい。
【0035】
ヘッド部12にはマーカ19が設けられる。本実施形態においては、一例として白と黒からなるチェッカーフラッグ模様を示しているが、光学センサ9がマーカとして認識できれば、これに限定されない。
【0036】
本発明の特徴的な構成について説明する。側面開口部13のトロカール先端側端面には、ワイパーブレード21が固定される。
【0037】
ワイパーブレード21は、その断面形状が刃の様に先端が尖っている。また、ワイパーブレード21は、ゴム製である。これらの特性により、ワイパーブレード21は、根元にて適度な剛性と、先端にて適度な柔軟性とを有する。格納式カメラ17が回動すると、ワイパーブレード21先端がカメラレンズと微少変形可能に接触するように、側面開口部13、格納式カメラ17、ワイパーブレード21の位置関係が設定されている。
【0038】
なお、自動車に設けられたワイパーブレードは、フロントガラスに接地しながら、ワイパーブレードが回動するのに対し、ワイパーブレード21は固定され、格納式カメラ17が回動し、ワイパーブレード21とカメラレンズとが接触する。すなわち、自動車のワイパーブレードと、逆の発想である。
【0039】
切替機構16には、ねじりバネ22が設けられている。ねじりバネ22は切替機構16内部に埋設されていてもよい。ねじりバネ22の一端はヘッド部12内壁に固定され、ねじりバネ22の他端は切替機構16に固定される。通常、ねじりバネ22の弾性力はシャフト14を介して格納式カメラ17を展開するように付勢する。すなわち、切替機構16および格納式カメラ17は展開位置を維持する。切替機構16を回動するように作動させると、ねじりバネ22の弾性力に対抗して、格納式カメラ17が側面開口部13を通過して格納される。
【0040】
〜動作〜
格納式カメラ17の切替動作について説明する。術者は切替機構16を操作する。
【0041】
切替機構16を作動させない状態では、ねじりバネ22の付勢により、格納式カメラ17は展開位置を維持する。パイプ部11を腹壁の孔に挿入する際は、切替機構16を格納位置に作動させ、格納位置を維持する。シャフト14を介して格納式カメラ17は格納位置となる。これにより、格納式カメラ17が障害となることなく、パイプ部11を腹壁の孔に挿入できる(トロカール挿入:展開位置→格納位置)。
【0042】
パイプ部11挿入後、切替機構16の作動を解除すると、シャフト14を介して格納式カメラ17は展開位置となる。この状態で撮影をおこなう(カメラ撮影:格納位置→展開位置)。
【0043】
腹腔鏡下手術の最中に、格納式カメラ17のレンズが曇ったり、有機物(油膜や組織片、更に具体的には血や肉や体液)が付着したりし、視野を確保できなくなることがある。
【0044】
このとき、切替機構16を作動させ、更に、切替機構16の作動を解除する。この操作により、格納式カメラ17は、展開位置から格納位置に切替わり、さらに、格納位置から展開位置に切替わる。この往復の回動により、カメラレンズ表面はワイパーブレード21と接触しながら摺動する。ワイパーブレード21先端は微少に変形し、この変形により押圧力がカメラレンズ表面に作用する。その結果、曇りや有機物が除去され、レンズがクリーニングされる(レンズクリーニング:展開位置→格納位置→展開位置)。レンズクリーニングが不充分な場合は、もう一度、切替動作を繰り返す。
【0045】
また、レンズクリーニング後、格納式カメラ17は、ねじりバネ22の付勢により、確実に、レンズクリーニング前と同じ位置(展開位置)に戻る。これにより、カメラ撮影を再開できる。
【0046】
手術後、パイプ部11を抜き取る際は、切替機構16を再び格納位置に作動させ、格納位置を維持する。シャフト14を介して格納式カメラ17は格納位置となる。これにより、カメラ17が障害となることなく、パイプ部11を腹壁より抜去できる(トロカール抜去:展開位置→格納位置)。
【0047】
〜効果〜
(1)本実施形態の動作について説明したように、格納式カメラを有するトロカールにおいて、カメラの曇りや有機物を除去し、レンズをクリーニングすることができる。
【0048】
(2)本実施形態のレンズクリーニング動作は、切替機構16作動および作動解除のみである。具体的には、術者は、切替機構16を展開位置から格納位置に操作するのみでよい。ねじりバネ22の付勢により、切替機構16は格納位置から展開位置に戻る。
【0049】
これに対し、従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作では、腹腔鏡の抜去および挿入が必要である。したがって、本実施形態は、従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作に比べ、術者の負担を軽減することができる。
【0050】
(3)また、本実施形態では、レンズクリーニングの前後において、格納式カメラ17は同じ位置(展開位置)にある。なお、腹壁の収縮圧によりトロカールは固定されている。これにより、レンズクリーニングに伴う映像のズレを防止し、術者の負担を軽減することができる。
【0051】
更に、映像ズレを軽減することで、画像処理装置6の演算処理負担を軽減できる(詳細後述)。
【0052】
(4)本実施形態は、格納式カメラを有するトロカールにワイパーブレード21を付加しただけの簡素な構成であり、製作が容易であり、故障の可能性がほぼ無く、耐久性、安全性が高い。
【0053】
〜レンズクリーニング手段変形例〜
曇りや有機物を除去し、レンズをクリーニングするレンズクリーニング手段の一例としてワイパーブレード21について説明したが、これに限定されない。カメラレンズ表面がレンズクリーニング手段と接触しながら摺動するように、レンズクリーニング手段は、先端部に適度な柔軟性を有し、かつ、摺動に対抗できるように、根元に適度な剛性を有する。この特性により、レンズクリーニング手段の根元部は、側面開口部13の先端側端面に固定され、レンズクリーニング手段の先端部はレンズとの接触により変形可能となる。先端が柔軟に変形することにより、レンズ表面を傷つけない。この特性を実現できれば、形状や材質は限定されない。
【0054】
図2は、ワイパーブレード21を含むレンズクリーニング手段の例である。
図2(a)はワイパーブレード21である。ゴム製にかえて他の樹脂を用いても良い。
【0055】
図2(b)はブラシである。適度の剛性と柔軟性とを有するブラシ毛が多数側面開口部13の先端側端面に植設される。ブラシ毛はゴムなど樹脂製でもよい、天然繊維を用いても良い。ブラシ毛の長さを調整してブレード状に成形しても良い。
【0056】
図2(c)はヘチマスポンジのように繊維が不規則に絡み合ったものを平板状に成形したものである。根元側繊維を密にし、先端側繊維を粗にしてもよい。
図2(d)は布を積層し、平板状に成形したものである。根元側布を高剛性とし、先端側布を低剛性としてもよい。
図2(e)はパイル組織を有する織物(例えばタオル地)を、平板状に成形したものである。繊維の材質は特に限定されない。
【0057】
〜格納式カメラ機構変形例〜
格納式カメラ機構は、上記構成に限定されない。
図3は、変形例にかかるトロカール2の斜視図である。
図3(a)は、格納式カメラ17を展開位置に展開した状態図であり、
図3(b)は、格納式カメラ17を格納位置に格納した状態図である。
図1と共通の構成には同じ符号を付している。トロカール2はパイプ部11とヘッド部12を有する。パイプ部11の体内に挿入される位置に側面開口部13が設けられる。
【0058】
パイプ部軸方向の開口部一端部に回動可能なヒンジ機構31が設けられており、ヒンジ機構31を介して格納式カメラ17はパイプ部11に連結される。ヒンジ機構31にはねじりバネ32が設けられており、通常、ねじりバネ32の弾性力は格納式カメラ17を展開するように付勢する。
【0059】
一方、格納式カメラ17にはトロカール外まで延長している引張ケーブル33が連結されており、引張ケーブル33を引くと、ねじりバネ32の弾性力に対抗して、格納式カメラ17が側面開口部13を通過して格納される。格納式カメラ17にはケーブル18が接続されている。マーカ19は、ヘッド部12に設けられる。
【0060】
なお、鉗子4の挿入または引き抜く際の引張ケーブル33を切断する危険性を低減するように、引張ケーブル33はガイドにより保護されている。
【0061】
パイプ部11を腹壁の孔に挿入する際は、引張ケーブル33を引き格納式カメラ17を格納位置とし、パイプ部11挿入後、引張ケーブル33の引張を解除し、カメラ17を展開位置とする。この状態で撮影をおこない、手術後パイプ部11を抜き取る際は、引張ケーブル33を引き格納式カメラ17を再び格納位置とする。
【0062】
レンズをクリーニングする際は、引張ケーブル33を引き、更に、引張ケーブル33の引張を解除する。この操作により、格納式カメラ17は、展開位置から格納位置に切替わり、さらに、格納位置から展開位置に切替わる。
【0063】
ワイパーブレード21の動作および効果は上記と同様である。ねじりバネ22とねじりバネ32は、類似した構成であり、その動作および効果も同様である。
【0064】
なお、付勢手段の一例としてねじりバネ22とねじりバネ32を示したが、板バネ等を用いてもよい。
【0065】
<手術支援システム>
〜概要〜
本発明者は、格納式カメラを有するトロカールを中核技術として、3次元リアルタイム画像を用いたバーチャル開腹手術を実現する手術支援システムを提案している(詳細後述)。
【0066】
ところで、レンズクリーニング動作においては、一時的に格納式カメラ17は格納位置に格納され、手術対象(例えば臓器)を撮影できなくなる。その結果、種々の不具合が生じるおそれがある。
【0067】
本実施形態では、特徴的制御により、これらの不具合を改善する。
【0068】
〜構成〜
3次元リアルタイム画像を用いる手術支援システム101について説明する。
図4は、手術支援システム101の概略構成である。
【0069】
手術支援システム101は、格納式カメラ17a,17bとマーカ19a,19bを有する鉗子用トロカール1a,1bと、腹腔鏡用トロカール3と、鉗子4a,4bと、マーカ19dを有する腹腔鏡5と、格納式カメラ17a,17bから得られた画像と腹腔鏡5から得られた画像を入力し、これらの画像を合成処理し3次元画像を作成する画像処理装置6と、画像処理装置6により作成された3次元画像を出力する3次元モニタ7と、光学センサ9とを備えている。
【0070】
鉗子4a,4bは、手術器具の一種であり、血管や臓器等を、掴んだり、抑えたり、引っ張ったり、切断したりするのに用いられる。一般的に鋏形状をしており、持手部の回動により、支点を介して先端部が作動する。持手部を閉状態にし、鉗子用トロカール1a,1bに挿通させる。なお、腹腔鏡下手術において、複数の鉗子を用いることが一般的であるが、本システムにおいて、鉗子および鉗子用トロカールは少なくとも1以上あればよい。
【0071】
腹腔鏡5は、内視鏡器具の一種であり、カメラを有している。腹腔鏡5は腹腔鏡用トロカール3を挿通して体内に挿入される。マーカ19dは、腹腔鏡5の体内に挿入されない位置に設けられている。
【0072】
光学センサ9は、マーカ19a,19b,19dの3次元位置を計測し、計測結果を画像処理装置6に出力する。なお、本実施形態において、光学センサ9はマーカの白と黒を可視光線として認識するものであるが、赤外線を発信し、マーカで反射した赤外線を受信してもよい。光学センサに限定されず、3次元位置を計測できれば磁気センサでもよい。
【0073】
〜システム全体の効果〜
手術支援システム101を用いた腹腔鏡下手術は、一般的な腹腔鏡下手術を基礎とするものであり、手術方式の大きな変更がないため、術者はこれまでの手術に関する知識と経験をそのまま生かすことができる。
【0074】
また、手術支援システム101は、格納式カメラを有するトロカールを用いた簡素な構成であり、既存の手術支援システムを簡単な改良で再利用することができる。
【0075】
ところで、従来の一般的な腹腔鏡下手術では、腹腔鏡から得られる映像のみを頼りに行われるため視野が狭かった。特に、奥行きに係る画像情報が得られなかった。精度の良い3時次元形状計測をすべく別のカメラを挿入するように新たに腹壁に孔をあけると、低侵襲性を損なう。
【0076】
本実施形態では、格納式カメラ17a,17bを有するトロカール1a,1bを用いることにより、腹腔内に複数のカメラを挿入することができる。このとき、鉗子用トロカールを用いるため、新たに腹壁に孔をあける必要はない。これにより、低侵襲性を維持しながら、3次元形状を計測できる。
【0077】
更に、画像処理装置6が3次元画像を作成し、3次元モニタ7に3次元リアルタイム画像を出力する。術者は3次元モニタ7を見ることで、奥行き情報を含む広い視野を得ることができる。これにより、術者の負担を軽減できる。
【0078】
〜制御〜
画像処理装置6の基本制御について説明する。
図5は画像処理装置6の機能ブロック図である。説明の便宜のため、構成を簡易化している。
【0079】
画像処理装置6は、画像入力機能部61と、対象ポイント抽出機能部62と、マーカ位置入力機能部63と、カメラ位置推定機能部64と、奥行推定機能部65と、画像合成機能部66と、画像出力機能部67とを有する。
【0080】
画像入力機能部61は、ケーブル18を介して格納式カメラ17a,17bおよび腹腔鏡5から各画像を入力する。
【0081】
対象ポイント抽出機能部62は、各画像(カメラ5,17a,17bより取得した画像)を探索し、各画像毎に対象ポイントを抽出する。たとえば、1ピクセル単位で、対象ポイントを抽出する。そして、各画像間において対象ポイントの対応を確認する。
【0082】
マーカ位置入力機能部63は、光学センサ9を介して、マーカ19a,19b,19dの3次元位置を入力する。マーカ19はトロカール1に固定されている。一方、格納式カメラ17は展開位置を維持している。すなわち、マーカ19と格納式カメラ17の位置関係は不変である。カメラ位置推定機能部64はマーカ19a,19bの3次元位置に基づいてカメラ17a,17bの3次元位置を推定できる。同様に、マーカ19dの3次元位置に基づいて腹腔鏡5のカメラの3次元位置を推定できる。これにより、カメラ間距離Lを推定できる。
【0083】
なお、光学センサ9がカメラ位置を推定し、画像処理装置6は推定されたカメラ位置を入力しても良い。
【0084】
奥行推定機能部65は、2つのカメラと対象ポイントとが形成する三角形に基づいて奥行きDを推定する。
図6は、3次元形状計測の基本原理について説明する概念図である。2つのカメラと対象ポイントとが形成する三角形において、2つのカメラ間の距離Lと、カメラ間基線と一のカメラ視線がなす角度αと、カメラ間基線と他のカメラ視線がなす角度βに基づいて、奥行きDを推定できる。なお、カメラ数を増やすことにより、より多くの三角形が形成されるため、推定精度が向上する。
【0085】
対象ポイント抽出機能部62および奥行推定機能部65は、対象ポイントを移動して上記制御を繰り返し、手術対象の3次元形状を計測する。画像合成機能部66は3次元形状計測結果に基づいて各画像を合成し、3次元画像を作成する。
【0086】
画像出力機能部67は3次元画像を3次元モニタ7に出力する。
【0087】
さらに、画像処理装置6は次画像準備機能部68を有する。リアルタイムで入力されるカメラ画像および位置情報に基づいて3次元画像を出力することを繰り返し、リアルタイム画像を提供する。言い換えると、一の入力に対し一の出力をする制御を繰り返す。このとき、各ルーチン毎に上記制御を何の工夫もないまま繰り返すと、画像処理装置6の演算処理負担が増加する。ところで、今回作成する画像と前回作成した画像では、大きな変化がないことが多い。そこで、次画像準備機能部68は、1ルーチンの制御で得られた情報を一時的に記憶しておく。対象ポイント抽出機能部62および奥行推定機能部65は、前画像(直前画像を含む数画像)の情報を利用して、演算処理負担を軽減する。具体的には前回との差分を利用する。
【0088】
本実施形態の特徴的制御について説明する。画像処理装置6は、一部中断指令機能部71と、画像一致確認機能部72と、再開指令機能部73とを有する。トロカール1の切替機構16には、切替センサ25が設けられている。切替センサ25は、切替機構16の格納位置/展開位置を検出する。
【0089】
一部中断指令機能部71は、切替センサ25の検出信号を入力し、展開位置から格納位置に切替わったと判断すると、新たに取得する最新画像でなく、展開位置での最終画像(切替直前の画像を含む数画像)を用いるように、対象ポイント抽出機能部62に指令する。
【0090】
対象ポイント抽出機能部62は、一部中断指令機能部71から指令があった画像については、探索を中断し、最終画像を用いる。一部中断指令機能部71から指令がなかった画像については、最新画像を用いる。
【0091】
画像一致確認機能部72は、切替センサ25の検出信号を入力し、格納位置から展開位置に切替わったと判断すると、最終画像と新たに得られた最新画像(切替直後の画像)との一致を確認する。所定の誤差範囲にあれば、画像一致と判断する。
【0092】
再開指令機能部73は、画像一致確認機能部72の画像一致との判断結果を入力し、次画像準備機能部68に再開指令を出力する。次画像準備機能部68は、最終画像の情報を用い、対象ポイント抽出機能部62および奥行推定機能部65は、演算処理を一部省略する。
【0093】
一方、画像一致確認機能部72が画像一致でないと判断すると、対象ポイント抽出機能部62および奥行推定機能部65は、次画像準備機能部68を介さず、最初から演算処理を開始する。
【0094】
〜特徴的制御による効果〜
レンズクリーニング動作により手術支援システムに種々の不具合が生じるおそれがある。特徴的制御により、これらの不具合を改善できる。
【0095】
(1)格納式カメラ17は格納位置に格納されると、手術対象(例えば臓器)を撮影できなくなる。格納式カメラ17aから手術対象に係る画像が得られないと、対象ポイント抽出機能部62は、格納式カメラ17aからの画像において対象ポイントを抽出できず、格納式カメラ17b,腹腔鏡5からの画像との間において対象ポイントの対応を確認できない。また、カメラ位置推定機能部64は、マーカ19と格納式カメラ17の位置関係が不変であることを前提とするため、カメラ17aの3次元位置を推定できない。奥行推定機能部65は奥行きを推定できず、画像合成機能部66は画像を合成できない。
【0096】
その結果、3次元モニタ7に表示される3次元画像が乱れるおそれがある。画像と位置情報の入力が不適切なため、画像処理装置6の演算処理負担は不必要に増大する。
【0097】
格納式カメラ17b,腹腔鏡5からの画像のみに基づき3次元画像を作成すると、情報量が少なくなり、精度が落ちる。
【0098】
本実施形態では、一部中断指令機能部71が作動し、格納位置の画像に替えて、展開位置での最終画像(切替直前の画像を含む数画像)およびカメラ17aの3次元位置を一時的に用いる。これにより、画像処理装置6は演算処理を適正に継続し、3次元モニタ7には継続して3次元画像が表示される。
【0099】
なお、このとき、カメラ17aからの画像はリアルタイムでない為、厳密には、3次元リアルタイム画像は得られないが、格納式カメラ17b,腹腔鏡5からの画像はリアルタイムであること、レンズクリーニング動作は1秒程度であり、大きな変化は想定し難いこと、レンズクリーニング動作の間は、鉗子の操作を行わないことを考慮すれば、疑似リアルタイム画像であることは、大きな支障にはならない。術者は3次元リアルタイム画像が継続しているように感じ、違和感なく手術を継続できる。
【0100】
(2)格納式カメラ17aが格納位置から再び展開位置に切替わると、再び格納式カメラ17aからのリアルタイム画像を用いることができる。しかし、画像処理装置6が次画像準備機能部68を介さず、最初から演算処理を開始すると、画像処理装置6の演算処理負担が増加する。
【0101】
本実施形態では、画像一致確認機能部72が作動し、画像一致を確認すると、再開指令機能部73が作動し、次画像準備機能部68が作動する。これにより、精度を担保しつつ、画像処理装置6の演算処理負担を軽減できる。
【0102】
なお、レンズクリーニング動作は1秒程度であり、大きな変化は想定し難いこと、ねじりバネ22の付勢により確実に同じ位置(展開位置)に戻ることを考慮すれば、ほとんどの場合、画像一致となり、再開指令機能部73および次画像準備機能部68が作動する。
【0103】
(3)ところで、カメラ位置推定機能部64は、マーカ19と格納式カメラ17の位置関係が不変であることを前提し、マーカ位置に基づいてカメラ位置を推定する。したがって、カメラ切替により位置推定精度が低下するおそれがある。
【0104】
本実施形態では、ねじりバネ22の付勢により確実に同じ位置(展開位置)に戻るため、位置推定精度を維持できる。
【0105】
〜システム変形例〜
図7は手術支援システム102の概略構成図である。手術支援システム102は、格納式カメラ17a,17b,17cとマーカ19a,19b,19cを有する鉗子用トロカール1a,1b,1cと、鉗子4a,4b,4cと、マーカ19a,19b,19cの3次元位置に基づきカメラ17a,17b,17cの3次元位置を推定し、カメラから得られた画像を合成し、3次元画像を作成する画像処理装置6と、画像処理装置6により作成された3次元画像を出力する3次元モニタ7とを備えている。
【0106】
すなわち、手術支援システム101における腹腔鏡用トロカール3と腹腔鏡5とマーカ19dとがなく、格納式カメラ17cを有する鉗子用トロカール1cと、鉗子4cとマーカ19cとが追加されている。
【0107】
なお、腹腔鏡下手術において、複数の鉗子を用いることが一般的であるが、本システムにおいて、鉗子および鉗子用トロカールは少なくとも2以上あればよい。
【0108】
手術支援システム101の様に腹腔鏡5を用いる場合、術者が腹腔鏡5の向きを操作し切断箇所などを探す必要があるのに対し、格納式カメラ17は、鉗子4aの先端部を確実に撮影するため、切断箇所など重要な画像を確実に得ることができる。したがって、格納式カメラ17の性能が高い(少なくとも腹腔鏡5に近い性能であることが好ましい)ことを前提に、腹腔鏡5より高品質な画像を確実に得ることができる。
【0109】
ただし、腹腔鏡5を不要とするには、格納式カメラ17に代替光源を付与する必要がある。
【0110】
一方、腹腔鏡用トロカール3と腹腔鏡5が不要となることで、これらのための孔を腹壁にあける必要はなく、低侵襲性が向上する。
【0111】
また、腹腔鏡5が不要となることで、腹腔鏡5のクリーニングも不要となり、術者の負担を軽減することができる。
【0112】
図8は別の変形例である手術支援システム103の概略構成図である。手術支援システム103は手術支援システム101,102の変形例である。手術支援システム101,102と共通する構成は適宜省略している。
【0113】
手術支援システム101,102では、術者はモニタ7を見ながら鉗子4や腹腔鏡5を操作し手術を行うが、術者の視線と実際の術野とに方向の不一致が生じ、術者に違和感を与え、負担になる。特に、開腹手術の経験豊富な術者は、腹腔鏡下手術に慣れないこともある。
【0114】
手術支援システム103は、3次元モニタ7に替えて、または併設して、3次元プロジェクタ8を備えている。3次元プロジェクタ8は、手術台の上方に設けられ、画像処理装置6により作成された3次元画像を患者の腹部に直接投影する。
【0115】
これにより、術者の視線と術野の方向は一致し、開腹手術と同様な現実感を表現できる。すなわち、術者の負担を軽減できる。
【0116】
<格納式カメラを有するポート>
以上、腹腔鏡下手術を前提に説明したが、本発明は、胸腔鏡下手術に適用しても良い。ただし、腹腔鏡下手術においてトロカールと呼ばれる手術器具は、胸腔鏡下手術においてポートと呼ばれる。すなわち、トロカールとポートはほぼ同じものである。