(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪カメラ付トロカール(トロカールカメラ)≫
〜構成〜
カメラ付トロカール(トロカールカメラ)の構成について説明する。
図1は、トロカールカメラの斜視図である。
図1(a)と
図1(b)とは、視点が異なる。
【0025】
トロカール1は、パイプ部11とヘッド部12から構成される。パイプ部11は、その大部分が腹壁の孔に挿入される。ヘッド部12はパイプ部11の上部に連続して設けられる。ヘッド部12は中空であり、その上部から鉗子が挿入可能になっている。また、詳細は省略するが、ヘッド部12は鉗子の挿抜時に空気の漏れを防止する密封機構と腹腔内に空気を送り込む送気機構とを備える。
【0026】
パイプ部11の端面13にレンズが位置するように、パイプ部11先端壁面にカメラ17が埋設されている。カメラ17にはケーブル18が接続されており、ケーブル18はトロカール1内を挿通して、外部の画像処理装置6(後述)と接続している。
【0027】
カメラの付加構成としてズーム機能を有している。ズーム機能は光学ズームでもデジタルズームでもよい。
【0028】
パイプ部11の端面13には、さらに、光源14が設けられている。光源14は例えばチップLEDである。光源14にはケーブル15(図示省略)が接続されており、ケーブル15はケーブル18に並設され、外部電源と接続している。
【0030】
従来の一般的な腹腔鏡下手術では、腹腔鏡から得られる映像のみを頼りに行われるため視野が狭かった。視野を拡大すべく別のカメラを挿入するように新たに腹壁に孔をあけると、低侵襲性を損なう。
【0031】
本実施形態では、鉗子用トロカールを用いるため、新たに腹壁に孔をあける必要はなく、低侵襲性を維持できる。
【0032】
また、本実施形態では、トロカールカメラ1を用いることにより、腹腔内に複数のカメラ17を挿入することができる。これにより、視野を広げることができる。さらに、カメラ17は、鉗子4の先端部を確実に撮影するため、切断箇所など重要な画像を確実に得ることができる。
【0033】
すなわち、低侵襲性を損なうことなく、視野の狭さを解消することができる。
【0034】
〜変形例〜
図2は、トロカールカメラの変形例である。従来型のパイプ部は略真円であるのに対し、本実施形態は瘤部16を有する。
【0035】
カメラ17はパイプ部11先端壁面に埋設されており、小型カメラを想定している。しかしながら、カメラの小型化には限界がある。一方で、パイプ壁の厚さを厚くすることも限界がある。すなわち、カメラ埋設に充分なスペースを確保できない可能性もある。
【0036】
本実施形態では、瘤部16によりカメラ埋設に充分なスペースを確保できる。一方、瘤部16がトロカール挿入の障害にならないことを実験により確認している。
【0037】
さらに、光源14を瘤部16に設けても良い。
【0038】
≪手術支援システム≫
(第1実施例)
〜手術支援システム構成〜
3次元画像を用いる手術支援システム101について説明する。
図3は、手術支援システム101の概略構成である。
【0039】
手術支援システム101は、カメラ17aとマーカ19を有する鉗子用トロカール1aと、カメラ17bとマーカ19bを有する鉗子用トロカール1bと、腹腔鏡用トロカール3と、鉗子4a,4bと、マーカ19dを有する腹腔鏡5と、カメラ17a,17bから得られた画像と腹腔鏡5から得られた画像を入力し、これらの画像を合成処理し3次元画像を作成する画像処理装置6と、画像処理装置6により作成された3次元画像を出力する3次元モニタ7と、光学センサ9とを備えている。
【0040】
鉗子4a,4bは、手術器具の一種であり、血管や臓器等を、掴んだり、抑えたり、引っ張ったり、切断したりするのに用いられる。一般的に鋏形状をしており、持手部の回動により、支点を介して先端部が作動する。持手部を閉状態にし、鉗子用トロカール1a,1bに挿通させる。なお、腹腔鏡下手術において、複数(例えば3〜5)の鉗子を用いることが一般的であるが、本システムにおいて、鉗子および鉗子用トロカールは少なくとも1以上あればよい。
【0041】
腹腔鏡5は、内視鏡器具の一種であり、カメラと光源を有している。腹腔鏡5は腹腔鏡用トロカール3を挿通して体内に挿入される。マーカ19dは、腹腔鏡5の体内に挿入されない位置に設けられている。
【0042】
光学センサ9は、マーカ19a,19b,19dの3次元位置を計測し、計測結果を画像処理装置6に出力する。なお、本実施形態において、光学センサ9はマーカの白と黒を可視光線として認識するものであるが、赤外線を発信し、マーカで反射した赤外線を受信してもよい。光学センサに限定されず、3次元位置を計測できれば磁気センサでもよい。
【0043】
〜3次元形状計測〜
図4は、3次元形状計測の基本原理について説明する概念図である。2次元形状計測と3次元形状計測との一番の違いは、奥行きの推定である。
【0044】
2つのカメラと対象ポイントとが形成する三角形において、2つのカメラ間の距離Lと、カメラ間基線と一のカメラ視線がなす角度αと、カメラ間基線と他のカメラ視線がなす角度βに基づいて、奥行きDを推定できる。なお、カメラ数を増やすことにより、より多くの三角形が形成されるため、推定精度が向上する。
【0045】
本実施形態のトロカール1にはマーカ19が固定されている。一方、カメラ17はパイプ端面に設置されている。すなわち、マーカ19とカメラ17の位置関係は不変である。これにより、画像処理装置6はマーカ19a,19bの3次元位置に基づいてカメラ17a,17bの3次元位置を推定できる。同様に、マーカ19dの3次元位置に基づいて腹腔鏡5のカメラの3次元位置を推定できる。すなわち、カメラ間距離を推定できる。
【0046】
さらに、対象ポイントごとに、角度α,βを測定し、上記基本原理に基づき、対象ポイントの奥行き位置を推定できる。対象ポイントを移動し、奥行き位置推定を繰り返すことにより、腹腔内の3次元形状を計測できる。
【0047】
〜システム全体の効果〜
手術支援システム101を用いた腹腔鏡下手術は、一般的な腹腔鏡下手術を基礎とするものであり、手術方式の大きな変更がないため、術者はこれまでの手術に関する知識と経験をそのまま生かすことができる。
【0048】
また、手術支援システム101は、改良したトロカールを用いた簡素な構成であり、既存の手術支援システムを簡単な改良で再利用することができる。
【0049】
ところで、従来の一般的な腹腔鏡下手術では、腹腔鏡から得られる映像のみを頼りに行われるため視野が狭かった。特に、奥行きに係る画像情報が得られなかった。精度の良い3時次元形状計測をすべく別のカメラを挿入するように新たに腹壁に孔をあけると、低侵襲性を損なう。
【0050】
本実施形態では、カメラ17a,17bを有するトロカール1a,1bを用いることにより、腹腔内に複数のカメラを挿入することができる。このとき、鉗子用トロカールを用いるため、新たに腹壁に孔をあける必要はない。これにより、低侵襲性を維持しながら、3次元形状を計測できる。
【0051】
更に、画像処理装置6が3次元画像を作成し、3次元モニタ7に3次元画像を出力する。術者は3次元モニタ7を見ることで、奥行き情報を含む広い視野を得ることができる。これにより、術者の負担を軽減できる。
【0052】
〜精度向上に係る効果〜
(1)3次元形状計測の基本原理について説明したように、奥行きを推定するには、カメラ17a,17bの3次元位置を推定する必要がある。しかしながら、カメラ17a,17bは腹腔内にあるため直接、位置を計測できない。さらに、鉗子4a,4bの動きに伴って、トロカール1a,1bの角度が変わり、その結果、カメラ17a,17bが微動する。そのため、3次元位置の推定は困難であるという課題がある。
図5はカメラ位置推定の困難性に係る課題を説明する概念図である。
【0053】
そこで、トロカール1a,1bの微動に連動してカメラ17a,17bが微動することに着目し、トロカール1a,1bのヘッド部12にマーカ19a,19bを設けた。すなわち、マーカ19a,19bとカメラ17a,17bの位置関係は不変である。一方、マーカ19a,19bの3次元位置は光学センサ9により精度よく検出できる。したがって、マーカ19a,19bの3次元位置に基づきカメラ17a,17bの3次元位置を精度よく推定できる。
【0054】
なお、腹腔鏡5のカメラの動きは、トロカール3の微動と連動しないため、マーカ19dは腹腔鏡5に設けられている。これにより、腹腔鏡5のカメラの3次元位置を精度よく推定できる。
【0055】
カメラの三次元位置を精度よく推定し、カメラ間距離を精度よく推定できる結果、奥行きを精度よく推定でき、腹腔内の3次元形状計測を精度よくおこなうことができる。
【0056】
(2)3次元形状計測の基本原理について説明したように、カメラ数を増やすことにより、奥行き推定の精度が向上する。一般に、腹腔鏡下手術において、複数(例えば2〜5程度)の鉗子が用いられる。その結果、腹腔鏡5以外にも、複数のカメラ17が腹腔内に挿入される。これにより、奥行きを精度よく推定でき、腹腔内の3次元形状計測を精度よくおこなうことができる。
【0057】
(3)ところで、立体内視鏡を用いても、腹腔内の3次元形状計測は可能である。しかしながら、立体内視鏡は、カメラ間の距離が非常に狭く、三角形が極端に細長くなり、その結果、奥行き推定の精度が良くない。
【0058】
図6は、カメラ間距離と奥行き推定精度の関係を示す概念図である。
図6(a)は、カメラ間距離が非常に狭いケース、
図6(b)は、カメラ間距離が広いケースを示している。
【0059】
図6(a)において、カメラ間距離を非常に狭いL1とし、実際の奥行きをDとする。カメラ視線に誤差があった場合の推定奥行きはD1となる。
図6(b)において、カメラ間距離を充分広いL2とし、実際の奥行きをD(
図6(a)と同じ)とする。カメラ視線に誤差(
図6(a)と同レベル)があった場合の推定奥行きはD2となる。
【0060】
推定奥行きD1は大きな誤差を有するのに対し、推定奥行きD2の誤差は小さい。
【0061】
一般に、腹腔鏡下手術において、複数(例えば2〜5程度)の鉗子用のトロカール1が腹壁にほぼ均等に配置される。言い換えると、トロカール1が密集して配置される可能性はほぼない。これにより、充分広いカメラ間距離を確保でき、奥行きを精度よく推定でき、腹腔内の3次元形状計測を精度よくおこなうことができる。
【0062】
(第2実施例)
図7は手術支援システム102の概略構成図である。手術支援システム102は、カメラ17a,17b,17cとマーカ19a,19b,19cを有する鉗子用トロカール1a,1b,1cと、鉗子4a,4b,4cと、マーカ19a,19b,19cの3次元位置に基づきカメラ17a,17b,17cの3次元位置を推定し、カメラから得られた画像を合成し、3次元画像を作成する画像処理装置6と、画像処理装置6により作成された3次元画像を出力する3次元モニタ7とを備えている。
【0063】
すなわち、実施例1の手術支援システム101における腹腔鏡用トロカール3と腹腔鏡5とマーカ19dとがなく、格納式カメラ17cを有する鉗子用トロカール1cと、鉗子4cとマーカ19cとが追加されている。
【0064】
なお、腹腔鏡下手術において、複数の鉗子を用いることが一般的であるが、本システムにおいて、鉗子および鉗子用トロカールは少なくとも2以上あればよい。
【0065】
実施例1の様に腹腔鏡5を用いる場合、術者が腹腔鏡5の向きを操作し切断箇所などを探す必要があるのに対し、カメラ17は、鉗子4aの先端部を確実に撮影するため、切断箇所など重要な画像を確実に得ることができる。したがって、カメラ17の性能が高いこと前提に、腹腔鏡5より高品質な画像を確実に得ることができる。
【0066】
一方、腹腔鏡用トロカール3と腹腔鏡5が不要となることで、これらのための孔を腹壁にあける必要はなく、低侵襲性が向上する。
【0067】
なお、本実施例では腹腔鏡を用いていないが、便宜上、腹腔鏡下手術と呼ぶ。
【0068】
(第3実施例)
実施例3は実施例1・2の変形例である。実施例1・2では、術者はモニタ7を見ながら鉗子4や腹腔鏡5を操作し手術を行うが、術者の視線と実際の術野とに方向の不一致が生じ、術者に違和感を与え、負担になる。特に、開腹手術の経験豊富な術者は、腹腔鏡下手術に慣れないこともある。
【0069】
図8は手術支援システム103の概略構成図である。実施例1・2と共通する構成は適宜省略している。手術支援システム103は、3次元モニタ7に替えて、3次元プロジェクタ8を備えている。3次元プロジェクタ8は、手術台の上方に設けられ、画像処理装置6により作成された3次元画像を患者の腹部に直接投影する。
【0070】
これにより、術者の視線と術野の方向は一致し、開腹手術と同様な現実感を表現できる。すなわち、術者の負担を軽減できる。
【0071】
≪穿刺機構≫
本実施形態のトロカールカメラには、種々の穿刺機構が適用可能である。
【0072】
(第1実施例)
本実施形態のトロカールカメラは、従来の穿刺機構に適用可能である。
【0073】
従来技術では、トロカールを腹壁に挿入する際には、内筒を用いる。
図9(a)はトロカール1と内筒111である。
図9(b)はトロカール1と内筒111が一体化した図である。
【0074】
内筒111は、基本構成として、シャフト部112と基部113とを有する。シャフト径は、トロカールのパイプ内径と同程度またはやや小さく、シャフト長は、トロカールのパイプ長よりやや長い。シャフト部先端114は槍の様に尖っている。内筒基部113は、トロカールヘッド部12と平面視にて同程度のサイズである。
【0075】
内筒シャフト部112をトロカールパイプ部11に挿入し、内筒基部113をトロカールヘッド部12に係合させると、内筒111とトロカール1が一体化する。このとき、シャフト部先端114が突出している。
【0076】
トロカール1を内筒111と一体として、腹壁に穿刺する。トロカールを所定の位置に固定したのち、内筒111を抜去する。そして、トロカール1を介して鉗子を挿入する。
【0077】
(第2実施例)
次に、穿刺キャップについて説明する。
図10は、穿刺キャップを有するトロカールの斜視図である。
図10(a)と
図10(b)とは、視点が異なる。
【0078】
穿刺機構は、ヒンジ機構31と穿刺キャップ32を有する。
【0079】
ヒンジ機構31は、パイプ部11先端に、設けられている。ヒンジ機構31の配置がパイプ部11端面開口と干渉しないようにすることにより、鉗子挿入の障害とならないようにする。
【0080】
穿刺キャップ32は略円錐状であり、中実でもよいし、剛性が確保できれば、中空でもよい。略円錐状であるため、先端が尖っている。穿刺キャップ32は、ヒンジ機構31を介してパイプ部11端面開口を開閉可能に設けられている。
【0081】
すなわち、穿刺キャップ32の外縁(略円錐底面の外周線)がパイプ部11端面に当接されることで、パイプ部11端面開口は閉じられる。この当接状態が解除されることで、パイプ部11端面開口は開かれる。
【0082】
好ましくは、平面視にて、穿刺キャップ32の外縁がパイプ部11端面の外円に含まれる。更に好ましくは、穿刺キャップ32の外縁がパイプ部11端面の外円に一致する。これにより、トロカール抜去の際に、腹壁に引っかかることがない。
【0083】
円錐高hは円錐底面直径Dの0.5〜2.0倍であることが好ましい。円錐高hが高すぎると(2.0倍超)、トロカール挿入後に、腹腔内で穿刺キャップ32が障害となるおそれがある。円錐高hが低すぎると(0.5倍未満)、穿刺が難しくなるおそれがある。当該範囲にすることにより、確実に穿刺できるとともに、腹腔内で穿刺キャップが障害となることを防止できる。
【0084】
図11はキャップ形状の変形例の側面図及び斜視図である。穿刺キャップ32を略円錐状と説明したが、幾何学的な円錐(
図11b)だけでなく、円錐斜線が凸状に膨らんだ弾丸形状(
図11a)でもよいし、円錐斜線が凹状にへこんだホーン形状(
図11c)でもよい。また、略円錐状とは、円に近似した多角錐をも含む。
【0085】
穿刺キャップの動作について説明する。
図12は、動作説明図である。
【0086】
穿刺キャップ32は閉状態にある。穿刺キャップ32先端(尖部)を腹壁の孔となる箇所に当接する。そして、力を加えて、腹壁に穿刺する(S1)。
【0087】
更に力を加えて、トロカールを所定の位置まで挿入する。トロカールは腹壁の弾力(収縮圧)により固定される(S2)。
【0088】
パイプ部11に鉗子4を挿入する。このとき、鉗子先端が穿刺キャップ32の裏側に接触することで、穿刺キャップ32が開状態になる(S3)。
【0089】
カメラ17により手術対象(例えば臓器)を撮影する。これにより、リアルタイム画像がモニタ7に表示される。または、プロジェクタ8により腹部に投影される。術者は、リアルタイム画像を確認しながら、鉗子4を操作し、手術を行う(S4)。
【0090】
術後、鉗子4を抜去する。さらに、トロカールを徐々に抜去する。このとき、腹壁の弾力は、孔を閉じるように作用する。すなわち、穿刺キャップ32斜面に力が作用する。この作用により、穿刺キャップ32は徐々に閉じ状態になる(S5)。なお、このとき、穿刺キャップ32とパイプ部11端面との間に腹壁が挟まれないことを、動物実験により確認している。
【0091】
腹壁が穿刺キャップ32斜面を滑るように、トロカールは抜去される。トロカールが完全に抜去されると、腹壁の孔は、腹壁の弾力により自然と閉じる(S6)。
【0092】
本実施例では、内筒を用いる従来技術にくらべて、手術手順数および手術器具数が軽減されている。その結果、術者の負担を軽減できる。
【0093】
(第3実施例)
図13は、穿刺機構の別の例である。従来型のパイプ部先端面はフラット(軸方向に垂直)であるのに対し、本実施例では、パイプ部端面13は、円筒を斜めに切断した形状に形成される。これにより、パイプ部端面13は斜面状となり、先端と後端が形成される。カメラ17は、斜面後端に設けられる。
【0094】
パイプ部端面13の先端(斜面先端)33は穿刺機構として機能する。これにより内筒(上述)に代替できる。一方、カメラ17が斜面後端に設けられることにより、穿刺および挿入の際に、カメラが障害となることがない。また、カメラに有機物(例えば血や肉や体液)が付着するおそれを軽減できる。
【0095】
≪クリーニング機構≫
一般的な、腹腔鏡下手術の最中に、腹腔鏡のレンズが曇ったり、有機物(油膜や組織片、更に具体的には血や肉や体液)が付着したりし、視野を確保できなくなることがある。したがって、その都度、腹腔鏡をトロカールから抜去してレンズを拭いた後、再びトロカールに挿入する。その結果、レンズクリーニングの度に手術の進行が一時的に中断してしまう。レンズクリーニングに係る動作は一回の手術で10回以上繰り返される。これらの動作は、本来の手術手順には必要ない一方、術者の負担になっている。
【0096】
したがって、新技術において新たなクリーニング機構を検討する必要がある。本実施形態のトロカールカメラには、種々のクリーニング機構が適用可能である。
【0097】
(第1実施例)
図14は、クリーニング機構の一例である。クリーニング機構は、シャフト41と、クリーニング部材42と、切替部材43(図示省略)を有する。
【0098】
シャフト41は、パイプ部11の軸方向に回動可能に固定され(パイプ壁に埋設され)、かつ、一端部がトロカール外に延長されている。シャフト41の一端部には、切替部材43が連設されている。
【0099】
シャフト41の他端部には、クリーニング部材42が連設されている。クリーニング部材42のカメラに接触する側の面には、樹脂や布等が貼られている。これらは、適度な柔軟性を有し、かつ、摺動に対抗できるように適度な剛性を有する。
【0100】
切替部材43は、クリーニング部材42を通常位置とクリーニング位置とに、該クリーニング部材を切り替える。通常位置では、クリーニング部材42はパイプ部端面形状に対応する位置に配置される(図示参照)。クリーニング位置では、クリーニング部材42がカメラ17に対応する位置に配置される。
【0101】
切替部材43の回動により、シャフト41を介して、クリーニング部材42がカメラレンズに接触してクリーニングする。クリーニング後は、クリーニング位置から通常位置にクリーニング部材42を戻す。回動動作を数回繰り返しても良い。このとき、トロカール1に鉗子4が挿入された状態を維持できる。
【0103】
従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作では、腹腔鏡の抜去および挿入が必要であり、手術が中断する。これに対し、本実施例では、切替部材43による回動のみで、カメラの曇りや有機物を除去し、レンズを確実にクリーニングすることができる。したがって、本実施例は、従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作に比べ、術者の負担を軽減することができる。
【0104】
また、 従来の一般的な腹腔鏡のレンズクリーニング動作では、レンズクリーニングの前後において、映像ズレが発生するおそれがある。これに対し、本実施例では、腹壁の収縮圧によりトロカール1は固定されており、カメラ17は同じ位置にある。これにより、レンズクリーニング前後の映像ズレを防止し、術者の負担を軽減することができる。更に、映像ズレを軽減することで、画像処理装置6の演算処理負担を軽減できる。
【0105】
本実施例は、簡素な構成であり、製作が容易であり、故障の可能性がほぼ無く、耐久性、安全性が高い。
【0106】
(第2実施例)
図15は、クリーニング器具の一例である。トロカールカメラ1と組み合わせることによりクリーニング機構を構成する。クリーニング器具は、シャフト46と、クリーニング部材47と、保持部48とを有する。
【0107】
シャフト46は、パイプ軸長より長い。シャフト46の一端にはクリーニング部材47が連設されている。シャフト46の他端には保持部48が連設されている。
【0108】
クリーニング部材47はパイプ内径より小さく、パイプ11内を挿通可能である。クリーニング部材47のカメラに接触する側の面には、樹脂や布等が貼られている。これらは、適度な柔軟性を有し、かつ、摺動に対抗できるように適度な剛性を有する。
【0109】
保持部48を操作するとことで、シャフト46およびクリーニング部材47はパイプ11内に挿入され、クリーニング部材47がカメラ17に対応する位置に配置される。保持部48を微動することにより、シャフト41を介して、クリーニング部材47がカメラレンズに接触してクリーニングする。このとき、トロカール1に鉗子4が挿入された状態を維持できる。クリーニング後は、クリーニング器具を抜去する。
【0110】
第2実施例は第2実施例の変形例であり、同様な効果が得られる。
【0111】
≪ICG蛍光観察≫
〜概要〜
腫瘍が最初に転移をおこすリンパ節をセンチネルリンパ節(SN)と呼ぶ。近年、センチネルリンパ節に転移が存在しなければ、領域リンパ節には転移はないと仮定するSN理論が注目されている。また、癌の早期発見に係る技術も進歩しており、腫瘍の切除範囲は縮小する傾向にある。これらの背景により、腹腔鏡下手術などの低侵襲外科手術の適用が検討されている。
【0112】
一方、ICG蛍光観察に係る技術も注目されている。ICG(インドシニアングリーン)は低毒性の水溶性化合物であり、血漿蛋白と結合して蛍光するという性質を有する。また、ICGの励起波長および蛍光波長は体内における主な吸物質である水やヘモグロビンの吸光領域と重ならない。すなわち、近赤外波であり、体内組織を透過する。従って、組織内部の血管走行位同定や、病変部位の同定が可能である。
【0113】
通常、腹腔鏡下手術を行う術者は術前に切除範囲を確認する。一方で、手術中も切除範囲を確認したいという要望が多かった。また、重大な医療事故につながる血管の誤切断を防ぐためにも、切除対象まわりの血管を確認したいという要望があった。
【0114】
これに対し、本実施形態は、胸腔鏡下手術において、可視光観察とICG蛍光観察との同時観察を簡便に行う。
【0115】
〜システム基本構成〜
図16は、ICG蛍光観察用のトロカールカメラの斜視図である。
図16(a)と
図16(b)とは、視点が異なる。
【0116】
トロカール1は、パイプ部11とヘッド部12から構成される。パイプ部11の端面13には、近赤外励起光源54が設けられている。近赤外励起光源54は、例えばチップLEDであり、波長800nmの励起光を照射する。さらに、パイプ部11の端面13にレンズが位置するように、パイプ部11先端壁面に赤外撮像デバイス57が埋設されている。赤外撮像デバイス57は、例えば波長840nmのICG蛍光を検出する。なお、励起波長、蛍光波長は、適宜、最適なものを選択する。その他の構成は、
図1と共通である。
【0117】
図17は、手術支援システム104の概略構成である。手術支援システム104は、赤外撮像機構57a,54aとマーカ19aを有する鉗子用トロカール1aと、赤外撮像機構57b,54bとマーカ19bを有する鉗子用トロカール1bと、腹腔鏡用トロカール3と、鉗子4a,4bと、マーカ19dを有する腹腔鏡5と、赤外撮像デバイス57a,57bから得られた画像と腹腔鏡5から得られた画像を入力し、これらを画像処理する画像処理装置6と、画像処理装置6により作成された画像を出力するモニタ7と、光学センサ9とを備えている。その他の構成は、
図3と共通である。
【0118】
なお、腹腔鏡下手術において、複数(例えば3〜5)の鉗子を用いることが一般的である。本システムにおいて、少なくとも1以上のICG蛍光観察用のトロカールカメラを用いればよく、その他は一般的なトロカール(赤外撮像機構なし)を用いてもよい。
【0119】
また、腹腔鏡5に代えて、カメラ17付トロカールを用いても良い(
図7参照)。
【0120】
〜基本動作〜
腹腔鏡5により可視光観察を行い、可視光画像を取得する。
【0121】
ICG蛍光観察に先立ち、予め観察対象に蛍光色素ICGを注入する。そして、チップLED54により近赤外励起光を照射する。照射された励起光は生体表面を透過して観察対象に照射され、観察対象に注入された蛍光色素を励起し、蛍光を発生させる。赤外撮像デバイス57によりICG蛍光を検出する。このように、ICG蛍光画像を取得する。
【0122】
ICG蛍光画像と可視光画像を合成処理し(詳細後述)、重畳表示する。
図18は、画像合成処理の概念図である。
【0123】
〜効果〜
手術支援システム104を用いることにより、胸腔鏡下手術において、可視光観察とICG蛍光観察との同時観察を簡便に行うことができる。
【0124】
これにより、術者は、術中に切除範囲や切除対象周りの血管を確認できる。その結果、術者の負担を軽減し、手術の安全性を高めることができる。
【0125】
手術支援システム101を用いた腹腔鏡下手術は、一般的な腹腔鏡下手術を基礎とするものであり、手術方式の大きな変更がないため、術者はこれまでの手術に関する知識と経験をそのまま生かすことができる。
【0126】
また、手術支援システム104は、トロカールカメラ1を用いた簡素な構成であり、既存の手術支援システムを簡単な改良で再利用することができる。
【0127】
トロカールカメラ1は、一般的なトロカールを改良したものであり、構成が簡単であり、故障のおそれが少なく、製作コストも低い。言い換えると、本システムは実用性が高い。
【0128】
また、手術支援システム104では、鉗子挿入のためのトロカールを利用しているため、新たに腹壁に孔をあける必要はない。これにより、低侵襲性を維持できる。
【0129】
なお、上記に手術支援システムの基本構成と基本動作について説明したが、更に、下記の構成を有していてもよい。
【0130】
〜画像合成〜
一般に、2つの画像を合成する場合、各画像上に共通の基準点を設定し、基準点に基づいて、画像を合成する。しかし、可視光画像は組織表面の画像であるのに対し、ICG蛍光画像は、組織内部の画像であり、画像上に共通の基準点を設定することが難しい。とくに、本実施形態では、別々の撮像手段5,57により取得するため、位置合わせが難しい。
【0131】
本実施形態においては、トロカール1aはマーカ19aを有し、腹腔鏡5はマーカ19dを有する。光学センサ9は、マーカ19a,19dの3次元位置を計測する。
【0132】
マーカ19aと赤外撮像デバイス57aの位置関係は不変である。したがって、マーカ19a位置に基づき赤外撮像デバイス57aの3次元位置を精度よく推定できる。マーカ19dは腹腔鏡5に設けられており、マーカ19d位置に基づき腹腔鏡5のカメラの3次元位置を精度よく推定できる。
【0133】
これにより、画像処理装置6は、ICG蛍光画像および可視光画像の位置を推定する。すなわち、マーカ19a,19d間の位置関係に基づいて、ICG蛍光画像と可視光画像とを合成処理する。
【0134】
さらに、後述するICG蛍光3次元観察により、ICG蛍光画像に係る深さ方向の情報および正確な平面方向の情報を推定することで、より精度よくICG蛍光画像と可視光画像とを合成処理できる。
【0135】
〜ICG蛍光3次元観察〜
ICG蛍光画像は、組織内部の画像であり、深さ方向の情報は得られない。一方、ICG蛍光画像により切除範囲を確認する場合や、周囲の血管を確認する場合、深さ方向の情報は非常に有用である。
【0136】
また、ICG蛍光は組織を透過して組織表面に表れる。従って、観察対象が深くなるほど大きく見える。その結果、ICG蛍光画像には散乱性に係る課題がある。
図19に散乱性に係る概念図を示す。すなわち、深く細い観察対象(左図)と、浅く太い観察対象(右図)が、同様に観察される可能性がある。言い換えると、深さ方向の情報が得られない場合、正確な幅方向(平面方向)の情報が得られない。
【0137】
従って、既存のICG蛍光画像は、位置情報の精度に欠けるという課題があった。
【0138】
本実施形態において、手術支援システム104は、2つの赤外撮像機構57a,57b,54a,54bと対応するマーカ19a,19bを有する。光学センサ9は、マーカ19a,19bの3次元位置を計測する。これにより、マーカ19a,19b位置に基づき赤外撮像デバイス57a,57bの3次元位置を精度よく推定できる。画像処理装置6は、赤外撮像デバイス57aによるICG蛍光画像および赤外撮像デバイス57bによるICG蛍光画像の位置を推定する。
【0139】
図20に、3次元観察の概念図を示す。すなわち、マーカ19a,19b間の位置関係に基づいて、深さ方向および平面方向の情報を推定する。さらに、2つのICG蛍光画像を合成処理し、モニタ7に3次元画像を出力する。なお、正確な平面方向の情報をICG蛍光画像(2次元)として、深さ方向の情報を数値として、モニタ7に出力してもよい。
【0140】
これにより、ICG蛍光画像に係る深さ方向の情報および正確な平面方向の情報が得られる。
【0141】
また、上記では、2つの赤外撮像機構を例にして説明したが、一般的な腹腔鏡下手術において、複数(例えば3〜5程度)の鉗子が用いられるため、3つ以上の赤外撮像機構を用いてもよい。たとえば、3つの赤外撮像機構により、3つの仮想三角形(詳細後述)が形成され、推定精度が向上する。
【0142】
ところで、一般的な腹腔鏡下手術において、複数の鉗子用のトロカール1が腹壁にほぼ均等に配置される。言い換えると、トロカール1が密集して配置される可能性はほぼない。これにより、充分広い観測点間距離を確保でき、推定精度が向上する。
【0143】
〜可視光3次元観察〜
上記に、ICG蛍光の3次元観察について説明したが、当然、可視光についても3次元観察が可能である。
【0144】
図17に示す、手術支援システム101の概略構成図においては、見やすさの観点から、2つの鉗子用トロカール1a,1bしか記載していない。一方で、一般的な腹腔鏡下手術において、複数(例えば3〜5程度)の鉗子が用いられる。ここでは、図示されていない鉗子用トロカール1eを用いる。
【0145】
トロカール1eは、パイプ部11と、ヘッド部12と、カメラ17eと、マーカ19eを有する。即ち、赤外撮像デバイスを可視光カメラに置き換えたものである(
図1参照)。
【0146】
トロカール1eにより可視光画像が得られる。一方、腹腔鏡5により可視光画像が得られる。また、マーカ19d,19eの位置関係より、カメラ間の位置関係を推定できる。
図4に示す、3次元観察の基本原理に基づき、対象ポイントの奥行き位置を推定できる。対象ポイントを移動し、奥行き位置推定を繰り返すことにより、腹腔内の3次元形状を計測できる。
【0147】
これにより、画像処理装置6は、3次元情報を推定し、2つの可視光蛍光画像を合成処理し、モニタ7に3次元画像を出力する。なお、正確な平面方向の情報を可視光画像(2次元)として、深さ方向の情報を数値として、モニタ7に出力してもよい。
【0148】
さらに、上記ICG蛍光画像は3次元情報が得られており、可視光画像も3次元情報が得られる。画像処理装置6は、3次元情報に基づいてICG蛍光画像と可視光画像とを精度よく合成処理する。
【0149】
≪ポート≫
以上、腹腔鏡下手術を前提に説明したが、本発明は、胸腔鏡下手術に適用しても良い。ただし、腹腔鏡下手術においてトロカールと呼ばれる手術器具は、胸腔鏡下手術においてポートと呼ばれる。すなわち、トロカールとポートはほぼ同じものである。
【0150】
≪トロカールカメラ変形例1≫
トロカールカメラ(カメラ付トロカール)は種々の変形が可能である。
図1や
図2に示すトロカールカメラでは、端面13に光源14が設けられている。ところで、腹腔鏡5を併用し、腹腔鏡5の光源により充分な光量を確保できる場合は、トロカールカメラの光源は不要になる。
【0151】
図21は、本変形例の斜視図である。パイプ部11の端面13にレンズが位置するように、パイプ部11先端壁面にカメラ17が埋設されている。一方で、光源はない。
【0152】
≪トロカールカメラ変形例2≫
図1や
図2に示すトロカールカメラでは、端面13に光源14が設けられているのに対し、本変形例では光源14は端面13と反対側のパイプ部端部側(ヘッド部12に近い側)に設けられる。
【0153】
図22は、本変形例の長手方向の部分断面図である。
図23は、本変形例の短手方向の部分断面図である。
【0154】
一般的なトロカールでは、パイプ部11とヘッド部12との間に拡径による段差部が設けられている。段差部表面であって、パイプ部11端面相当位置に、複数の光源を周方向に配置する。
【0155】
光源14が、段差部表面に配置不可な場合は、パイプ部端部側(ヘッド部12に近い側)に埋設されていてもよい。
【0156】
パイプ部11は光透過性を有する材料により構成されている。透明であることが好ましいが、半透明であってもよい。また、空気より屈折率が大きい。一方で、一般的なトロカールと同様に適度な剛性や耐熱性、人体への影響がないことなどの特性も必要である。具体的にはポリカーボネートなどが適用可能である。
【0157】
光源14から所定角度で光が照射されると、パイプ部11内で全反射されながら伝達され、端面13より出射される。このとき、全反射により、光がパイプ部側面から漏れることがなく、ほぼ損失なく伝達される。
【0158】
図1に示すトロカールカメラと本変形例との相違点による効果について説明する。
【0159】
本変形例では、光源14の配線ケーブル15(図示省略)が短くなるため、構成が簡素化される。また断線のおそれも低減する。
【0160】
端面13に光源14を設ける場合、カメラ17との位置関係が重要になる。これに対し、変形例ではこのような検討は不要である。その結果、多数の光源14を設置することができ、光量を確保できる。
【0161】
変形例2を更に変形することもできる。変形例2のトロカールはカメラ17を有することを前提とするが、カメラ17を無くし、補助光源として利用することもできる。
【0162】
≪トロカールカメラ変形例3≫
変形例3は、
図16に示すICG蛍光観察用トロカールカメラの変形例である。
図16に示すトロカールカメラでは、端面13に近赤外励起光源54が設けられているのに対し、本変形例では近赤外励起光源54は端面13と反対側のパイプ部端部側(ヘッド部12に近い側)に設けられる。
【0163】
近赤外励起光源54の配置については、変形例2(
図22および
図23参照)に類似するため、図示を省略する。変形例3においても、ICG蛍光観察に適用できるとともに、変形例2と同様な効果が得られる。
【0164】
≪トロカールカメラ変形例4≫
図1や
図2においては、カメラ17は一つであるのに対し、変形例4においては、カメラ17は複数設けられている。
【0165】
図24は、本変形例の斜視図である。端面13において周方向に相対向するように、2つのカメラ17が埋設されている。
【0166】
ところで、
図6に示す概念図を用いて、複数のトロカールカメラを用いることによる効果(奥行き推定精度向上)について説明した。一方で、おおまかな精度で良い場合は、変形例4に係るトロカールカメラ単体でも、奥行きを推定し、腔内の3次元形状計測をおこなうことができる。
【0167】
もちろん、複数のトロカールカメラを併用することで、精度は向上する。