【実施例】
【0042】
図1には、本発明の好ましい一実施例の耐振軸受機構1を備えた本発明の好ましい一実施例のてんぷ3を有する本発明の好ましい一実施例の時計2の一部が示され、
図2の(a)及び(b)には時計2の耐振軸受機構1が拡大して示され、
図3には耐振軸受機構1を含むてんぷ3のてん真の一端側部分が拡大して示されている。
【0043】
機械式時計2では、調速脱進機4はてんぷ3とアンクル6とがんぎ車7とを有する。調速脱進機4を構成するこれらの時計部品3,6,7は地板8によって支持されている。アンクル6は、ハコ先61で振り座の振り石44に係合され、入つめ石及び出つめ石(図示せず)でがんぎ車7のがんぎ歯62に係合される。がんぎ車7はかな部64で四番車70に噛合されている。ぜんまい(図示せず)の動力で調速脱進機4のがんぎ車7を動作させる四番車70は、てんぷ3により規定された速度で間欠回転されるがんぎ車7により所定の回転速度で間欠回転される。
【0044】
てんぷ3は、てん真40と、てんわ50と、ひげぜんまい55とを有し、てん真40は上下(裏蓋側及び文字板側)の小径端部であるほぞ部41F,41Rにおいて耐振軸受機構の形態の上下の耐振軸受ないしてんぷ上軸受1F及びてんぷ下軸受1Rにより回転自在に支持されている。ほぞ部41F,41Rの端面45F,45Rは実際上中心軸線Cに対して垂直な平面になっている。従って、ほぞ部の端面ないしほぞ先を凸状に湾曲した面にする場合と比較して、ほぞ丈を正確に形成し得るので、てん真40の長さや形状を正確に形成し易く、ほぞ先の組付け状態のバラツキが最低限に抑えられ得る。
【0045】
なお、以下において、耐振軸受機構1F及び1R並びにその部品ないし要素について、同一の符号の後に添字F又はRを付して示す。両者を区別しないとき又は総称するときは添字FやRを省く。
【0046】
てんぷ下軸受すなわち下側ないし文字板側の耐振軸受機構1Rは地板8に取付けられ、てんぷ上軸受すなわち上側ないし裏蓋側の耐振軸受1Fはてんぷ受5を介して地板8に取付けられている。てん真40は、また、ほぞ部41F,41Rよりも中間部側に該ほぞ部41F,41Rよりも大径であるけれどもてん真40の他の部分よりも小径の端部軸部42F,42Rを有する。ひげぜんまい55は、てん真40の中心軸線(重心軸)Cのまわりの渦巻の形態を備え、渦巻の内周側端部においてひげ玉43に取付けられ、渦巻の外周側端部においてひげ持(図示せず)に取付けられていて、緩急針(図示せず)によりその渦巻(ばね)の実効長が調整される。
【0047】
上下の耐振軸受1F,1Rは、実際上同一の構造及び形状を有するので、両者を区別する必要がない限り、耐振軸受機構ないし耐振軸受1として説明する。
【0048】
てんぷ軸受一式ないし耐振軸受一式すなわち耐振軸受機構1は、スラスト軸受として働く受石ないし耐振受石10と、ジャーナル軸受として働く穴石17と、穴石17を支える穴石枠ないし耐振穴石枠20と、受石10及び穴石枠20を支える耐振座体30と、押さえばねないし耐振押さえばね37とを有する。
【0049】
耐振軸受機構1は、機械式時計2のてんぷ3のてん真40の両端の小径ほぞ部41F,41Rにおいててん真40を支える。受石10F,10Rのほぞ受面ないしスラスト軸受面11F,11Rは部分球面(半径の大きな球面の一部)になっている。受石10F,10Rのほぞ受面11F,11Rは、外に凸状に滑らかに湾曲した曲面(凸面)で回転対称性がある限り、部分球面(半径の大きな球面の一部)でなくてもよい。
【0050】
受石10は、上述のような凸レンズのような部分球状の端面11,12を有する。端面11,12の部分球状面が同一である場合、組付けの際に表裏の識別が不要である。但し、端面12は、径の異なる部分球面状であっても、部分球状である代わりに、例えば、平面状等他の形状であってもよい。耐振受石10は、てんぷ3のてん真40の中心軸線Cの延在方向(軸方向)A1,A2(区別しないか総称するときはA方向という)の力を受ける。
【0051】
穴石17は、概ね円板状であって、中心にほぞ孔18を備え、外周面17aは円筒状である。一方の端面17bにはほぞ孔18への案内用凹部17cが形成されている。他方の端面17dは典型的には平面状である。但し、場合によっては、受石10の凸面11との間に適度な間隙が保たれ易いように、凹状に湾曲していてもよい。
【0052】
耐振座体30は、小径筒状部31と、大径筒状部32と、てん真40の端部軸部42が遊嵌される端部軸部受容孔33aを備えた端部フランジ状部33と、接続フランジ状部34と、傾斜面部35a
(本発明の第一の傾斜面部の一例),35b
(本発明の第二の傾斜面部の一例)と、径方向内向き係合部36とを有する。端部フランジ状部33は小径フランジ状部31の一端に形成され、大径筒状部32は小径筒状部31よりも大径で、その一端側において接続フランジ状部34を介して小径筒状部31の他端につながっている。径方向内向き係合部36は、大径筒状部32の他端側に形成されている。
端部軸部受容孔33aは、てん真40の端部軸部42の径よりも多少大きい。傾斜面部35a,35bは、夫々円錐台の外周面の形態であり、典型的には、両傾斜面部35a,35bは、同一の仮想的な円錐台の外周面の一部をなすように同様に且つ直線状に並んで配置されている。傾斜面部35aは端部フランジ状部33の端部軸部受容孔33aの一端に形成され、傾斜面部35bは小径筒状部31のうち接続フランジ状部34の近傍に形成されている。
【0053】
穴石枠20は、小径筒状部21と、拡径部としての大径筒状部22と、環状板状端部フランジ状部23と、てん真40の端部軸部42が遊嵌される端部軸部受容孔24aを備えた円錐台状端部フランジ状部24と、接続フランジ状部25と、傾斜面部26a
(本発明の第三の傾斜面部の一例),26b
(本発明の第四の傾斜面部の一例)とを有する。小径筒状部21の内周面21aは円筒状であり、該小径筒状部21に、穴石17が嵌合される。環状板状端部フランジ状部23は小径筒状部21の一端に形成され、円錐台状端部フランジ状部24はその大径側端部で環状板状端部フランジ状部23の径方向内側端部につながって端部軸部受容孔24aを規定する端部軸部受容孔端部まで延びている。環状板状端部フランジ状部23の内側端面23aは平面状であって、小径筒状部21に嵌合された穴石17の端面17bに当接して該穴石17を支持する。大径筒状部22は小径筒状部21よりも大径で、その一端側において接続フランジ状部25を介して小径筒状部21の他端につながっている。筒状部21の開口端部としての接続フランジ状部25の内面25aは円錐台状になっていて、受石10のほぞ受面11になっている凸レンズのような部分球状の端面11の外側部分に当接して該部分球状端面11で受石10を支える。端部軸部受容穴24aは、てん真40の端部軸部42の径よりも多少大きい。傾斜面部26a,26bは、夫々円錐台の外周面の形態であり、典型的には、両傾斜面部26a,26bは、同一の仮想的な円錐台の外周面の一部をなすように同様に且つ直線状に並んで配置されていて、穴石枠20が耐振座体30内の所定位置に配置された際に、該耐振座体30の傾斜面部35a,35bに当接する。傾斜面部26aは円錐台状端部フランジ状部24の外周面に形成され、傾斜面部26bは大径筒状部22のうち接続フランジ状部25の近傍の端部の外周面に形成されている。
【0054】
耐振押さえばね37は、三つ葉のクローバーの如き形状であって、大径部38から突出した係合部38a,38a,38aで耐振座体30の径方向内向き係合部36に係合され、径方向内向きに延びたU字状係合部39,39,39で受石10の外側端面12に係合して、該受石10を穴石枠20の接続フランジ状部25の内面25aに押付ける。これにより、受石10を介して穴石枠20が傾斜面部26a,26bにおいて耐振座体30の傾斜面部35a,35bに押付けられる。なお、耐振押さえばね37は、受石10を押え得る限り、三つ葉のクローバーの如き形状の代わりに他の形状でもよい。
【0055】
従って、耐振押さえばね37は耐振受石10及び耐振穴石枠20を弾性的に保持しててんぷ3の本体への衝撃力を吸収し、衝撃を受けた際の受石10及び穴石枠20の移動及び復元を可能にする。腕時計の形態の時計2を使用者が手首にはめた状態で使用者の手首の急激な動きにより軸方向の衝撃がてん真40にかかると、てん真40に働く軸方向力(衝撃)により受石10がほぞ受面11でほぞ41の端面(ほぞ先)45からA方向の力を受け、受石10のA方向変位を許容して衝撃を吸収してほぞ部41を保護する。また、使用者の手首の急激な動きにより横方向(軸方向に対して直角な方向)の衝撃がてん真40にかかっててん真40が中心軸線Cに対して直角な向きに力(衝撃)を受けると、ほぞ部41からほぞ孔18に当該向きの力が働くので、押さえばね37のばね力に抗して穴石枠20が該穴石枠20の斜面26a,26bと耐振座体30の斜面35a,35bとの係合面に沿って変位されて、衝撃が吸収されてほぞ部41が保護される。いずれの場合も、衝撃がなくなると、押さえばねの力により多少なりとも元の位置に戻る。
【0056】
以上の如く構成された本発明の好ましい一実施例の耐振軸受機構1F,1Rを備えた本発明の好ましい一実施例のてんぷ3を有する本発明の好ましい一実施例の機械式時計2において、種々の条件下で、裏蓋側の耐振軸受機構1Fが文字板側の耐振軸受機構1Rの上に位置する「平姿勢」P1に時計2が配置されている場合と文字板側の耐振軸受機構1Rが裏蓋側の耐振軸受機構1Fの上に位置する「裏平姿勢」P2に時計2が配置されている場合との差異の有無ないし差異の程度について、
図4の(a)及び(b)、
図5の(a)及び(b)、並びに
図6の(a)及び(b)を参照しつつ詳しく説明する。
【0057】
受石10F,10Rが、てんぷ3のてん真40の中心軸線Cに対して実際上垂直に配置され、部分球面状の受面11F,11Rが中心軸線Cのまわりで回転対称の状態にある場合、時計2が平姿勢P1を採る場合と裏平姿勢P2を採る場合とでてんぷ3のてん真40の支持状態は実際上同一であるので、平姿勢P1及び裏平姿勢P2で歩度の差異は実際上ないことは、従来通りである。なお、このてんぷ3では、受石10F,10Rのほぞ受面11F,11Rが部分球面状であるので、該ほぞ受面11F,11Rは、てん真40のほぞ部41F,41Rの端面45F,45Rに対して実際上一点で当接するから、てん真40の回転が安定し易い。
【0058】
図4の(a)及び(b)に示したように、てんぷ受5側ないし裏蓋側の受石10Fが少し(例えば1度程度)傾いた状態で押さえばね37Fによって穴石枠20Fに取付けられた状態S1では、厳密に言えば、
図4の(a)に示したように時計2が平姿勢P1を採る場合と、
図4の(b)に示したように時計2が裏平姿勢P2を採る場合とでは、てんぷ3の状態が多少なりとも異なる状況になる。受石10Fの傾きは、典型的には、穴石枠20Fが傾斜面26a,26bにおいて耐振座体30Fの傾斜面35a,35bに対してズレて耐振座体30Fに対して傾いた場合に生じる。なお、このこと(時計が平姿勢を採る場合と裏平姿勢を採る場合とでてんぷの状態が異なること)自体は、従来の耐振軸受機構101F,101Rを備えた従来のてんぷ103を有する従来の時計102について
図14の(a)及び(b)に関連して説明したのと同様であるけれども、平姿勢の場合と裏平姿勢の場合とにおけるてんぷの状態の差異の程度が、時計2と従来の時計102とでは異なる。
【0059】
すなわち、時計2において、てんぷ受5側の受石10Fが傾いて取付けられた状態S1にある場合において
図4の(a)に示したように文字板側の耐振軸受機構1Rが下側に位置していて文字板側の受石10Rがそのほぞ受面11Rでてん真140のほぞ41Rの端面45Rを受ける平姿勢P1では、てん真40が、下側に位置するほぞ部41Rの端面45Rのうち中心軸線Cの通る位置C0Rにおいてその下側に位置する文字板側の耐振軸受機構1Rの受石10Rの部分球面状のほぞ受面11Rに当接し、該当接位置C0Rを中心に中心軸線Cのまわりで回転されることは
図14の(a)の場合と実際上同じである。すなわち、この範囲では、てんぷ受5側ないし裏蓋側の受石10Fが少し(例えば1度程度)傾いた状態で押さえばね37Fによって穴石枠20Fに取付けられていることによる影響が現れないことは、
図14の(a)の場合と実際上同じである。但し、厳密に言えば、この時計2では受石10Rのほぞ受面11Rが凸状に湾曲しているので、中心軸線Cに一致するところC0Rが確実に回転中心になる点で時計102の場合と異なり得る。
【0060】
一方、時計2が反転されて、
図4の(b)に示したようにてんぷ受5側(裏蓋側)の耐振軸受機構1Fが下側に位置していててんぷ受5側の受石10Fがそのほぞ受面11Fでてん真40のほぞ41Fの端面45Fを受ける裏平姿勢P2では、中心軸線Cの近傍におけるほぞ受面11Fの輪郭に多少のズレが生じるとしても、
図4の(b)において想像線で示した通り、ほぞ受面11Fの輪郭は1度程度の傾きが生じる前と概ね同様になる。特に、受石10Fの概ね1度の傾きに伴いほぞ受面11Fのうち接線が中心軸線Cに対して垂直になる部位CaVは受面11Fが中心軸線Cと交わる位置にほとんど一致する。すなわち、受石10Fの傾きが耐振座体30に対する穴石枠20Fのズレ(面35a,35bに対する面26a,26bのズレ)によって生じるとすると、1度の回転に応じてほぞ受面11Fが1度だけ概ね周方向に回転するとしても、ほぞ受面11Fのうち中心軸線Cが交わる部位C0Fにおける接平面の向きは概ね一定に保たれ得るから、結果的にはほぞ受面11Fのうち接平面が中心軸線Cに対して垂直になる部位CaVは受面11Fが中心軸線Cと交わる位置C0Fからほとんどずれない。従って、てん真40は、下側に位置するほぞ部41Fの端面45Fのうち中心軸線Cの通る位置の近傍の点CaVにおいてその下側に位置する文字板側の耐振軸受機構1Fの受石10Fの部分球面状のほぞ受面11Fと当接し、該位置CaVを中心として中心軸線Cのまわりで回転される。なお、ほぞ受面11Fが穴石枠20Fの接続フランジ状部25の円錐台状内面25aに沿ってずれても状況は同じである。
【0061】
すなわち、部分球状の凸状湾曲ほぞ受面11F,11Rを備えた耐振軸受機構1F,1Rを具備するてんぷ3を有する機械式時計2では、
図4の(a)及び(b)に示したように、てんぷ受5側ないし裏蓋側の受石10Fが少し(例えば1度程度)傾いた状態で押さえばね37Fによって穴石枠20Fに取付けられた状態S1では、
図4の(a)に示したように時計2が平姿勢P1を採る場合と、
図4の(b)に示したように時計2が裏平姿勢P2を採る場合とでは、厳密にはてんぷ3の状態が多少なりとも異なる状況になるけれども、実際には、裏平姿勢P2を採った場合でも、耐振軸受機構1Fの部分球状の凸状湾曲ほぞ受面11Fがてん真40のほぞ部1Fの端面45Fに当接する部位は、概ね中心軸線C上の位置CaVにある。従って、平姿勢P1及び裏平姿勢P2で、てんぷ3は実際上同様に動作し得、歩度の差異が、
図14の(a)及び(b)の場合よりもかなり小さくなる。
【0062】
一方、
図5の(a)及び(b)(特に
図5の(b))に示したように、裏平姿勢P2において、てん真40の中心軸線Cが多少(例えば、0.2度程度)傾く場合S2、てん真40のほぞ部41Fの端面45Fが、てん真40の中心軸線Cから多少離れた部位Cbにおいてその下側に位置するてんぷ受5側の耐振軸受機構1Fの受石10Fのほぞ受面11Fと当接する。ここで、部位Cbは、受石10Fのほぞ受面11Fの接平面が、傾斜した中心軸線Cを有するてん真40のほぞ部41Fの端面45Fと平行になる部位(一致し得る部位)に相当する。
【0063】
従って、てん真40の回転中心Cbは、該てん真40の中心軸線Cとは異なり該中心軸線Cの通る部位からΔr(ほぞ部41の半径の数分の1で10μm程度である)離れたところに位置し、てん真40は点Cbを中心に回転することになる。
【0064】
この状態S2にある場合には、時計2が平姿勢P1を採るときと裏平姿勢P2を採るときとで、てんぷ4の動作が実際上異なり、多少の歩度の差が生じるのを避け難い。但し、裏平姿勢P2を採るときの中心位置Cbの中心Cからのズレはてん真40のほぞ部41の半径の数分の1程度になる点で、てん真40のほぞ部41の半径程度のズレが生じる(
図15の(b))従来の時計102と比較して、裏平姿勢P2と平姿勢P1との歩度の差異が大幅に低減され得る。
【0065】
なお、てん真40の中心軸線Cが傾くのは、種々の原因がある。すなわち、てん真40の中心軸線Cが傾く現象が生じる場合には、時計2の姿勢にかかわらず、従来の時計102と比較して、歩度に大きな差異が生じる虞れを低減させ得ることになる。そのような例としては、例えば、てんわ50の重量のバランスが崩れていててんわ50が傾く場合がある。また、厳密に言えば、例えば、ひげぜんまい55の渦巻きが巻かれたりほどけたりする際にひげぜんまい55からひげ玉43を介しててん真40にかかる力の故に、てん真40の中心軸線Cの軸が多少なりとも傾くこともあり得る。そのような場合であっても、この耐振軸受機構1,1をてん真40の両端に備えたてんぷ3では、従来のてんぷ102ようにほぞ受面111が平面である場合と異なってほぞ受面11が部分球面であるので、てん真40のほぞ部41の端面45の側縁ではなくて該端面45のうち中心軸線Cの近傍の部位がほぞ受面11の対応する傾斜の接平面の部位と当接し得る。従って、てん真40の回転の中心が中心軸線Cからずれる程度が最低限に抑えられ得る。
【0066】
また、
図6の(a)及び(b)に示したように、てんぷ受5側のほぞ41Fの端面45Fがてん真40の中心軸線Cに対して傾斜している状態S3では、裏平姿勢P2において、傾斜した端面45Fは、てんぷ受5側の耐振軸受機構1Fの受石10Fのほぞ受面11Fの傾斜が端面45Fの傾斜に一致する部位Cdで、受石10Fのほぞ受面11Fと当接する。この部位Cdは、
図5で示した部位Cbと概ね一致する部位である。
【0067】
すなわち、この状態S3にある場合にも、時計02が平姿勢P1を採るときと裏平姿勢P2を採るときとで、てんぷ103の動作が異なるけれども、その差異は、
図5の(a)及び(b)の場合と同様であって、
図16の(a)及び(b)に示した従来の時計102と比較して、裏平姿勢P2と平姿勢P1との歩度の差異が大幅に低減され得る。
【0068】
従って、てん真40の回転中心Cdは、該てん真40の中心軸線Cとは異なり該中心軸線Cから概ねΔr(ほぞ部41の半径の数分の1で10μm程度である)離れた点Cdを中心に回転することになる。
【0069】
なお、以上の如く、時計2では、受石10の受面11が部分球状に形成されているので、種々の傾き等があっても、回転中心がてん真40の中心Cからズレるズレ量が小さくなるから、平姿勢P1や裏平姿勢P2等の姿勢による時計2の歩度の変動が最低限に抑えられ得る。
【0070】
また、この時計2では、部分球状に形成されるのは、てん真40のほぞ部41F,41Rの端面45F,45Rではなくて受石10のほぞ受面11F,11Rであってその部分球面の径が大きいから、てん真40の長さその他の量が大きく変動する虞れも少ない。
【0071】
受石が部分球状のほぞ受面を備える代わりに、
図7の(a)及び(b)並びに
図8に示したように、受石10Aが球体13からなっていてもよい。
図7の(a)及び(b)並びに
図8に示した耐振軸受構造体1Aを備えたてんぷ3Aにおいて、
図1から
図3に示した耐振軸受構造体1を備えたてんぷ3の要素と同一の要素には同一の符号が付され、対応するけれども異なるところのある要素には最後に添字Aが付されている。なお、裏蓋側ないしてんぷ受側であることを示す添字「F」及び文字板側であることを示す添字「R」がある場合には、該添字F,Rの前に添字Aが付される。
【0072】
てんぷ3Aの耐振軸受構造体1Aでは、受石10Aが球体13からなるので、受石10Aの寸法精度が高められ易い。また、てんぷ3Aの耐振軸受構造体1Aでは、受石10Aが球体13からなるが故に時計2Aの厚さ方向のサイズが大きくなるので、耐振座体30Aは、耐振座体30の大径筒状部32よりも大きい軸方向長さを備えた大径筒状部32Aを有する点を除いて、耐振座体30と実際上同様に構成されている。
【0073】
また、耐振軸受構造体1Aでは、受石10Aが球体13からなり、時計2Aの厚さ方向のサイズが大きくなるので、耐振軸受構造体1の場合とは異なり、受石10Aが穴石枠20Aではなくて穴石17Aによって軸方向に支持されている。従って、穴石17Aの端面17dAが、受石10Aの球状面14を受ける円錐台状面になっている。受石10Aのうち穴石17Aの円錐台状端面17dAに当接する球状面部14の環状領域の内側がほぞ受面11Aになっている。
【0074】
なお、押さえばね37Aは外周側係合部38a,38a,38aで耐振座体30Aの係合部36に係合し、内周側のU字状係合部39,39,39で球体13の形態の受石10Aのうちほぞ受面11Aとは直径方向の反対側に位置する領域12Aを押圧する。
【0075】
穴石枠20Aは、外周面部に着目する限り、穴石枠20と概ね同様に構成され、小径筒状部21に対応する外周小径筒状部21A、大径筒状部22に対応する外周大径筒状部22A、及びこれらをつなぐ接続フランジ状部25に対応する外形円錐台状接続フランジ状部25A等を有する。但し、受石10Aが受石10と異なり厚さを抑えるべく小径である球体13からなるので、受石10Aは穴石枠20Aの筒状内周面21aと概ね同様な筒状内周面27内に配置される。なお、この筒状内周面27は、外周大径筒状部22Aの内周面になっている。
【0076】
以上の如く構成された耐振軸受構造体1Aでは、
図8に示したように、てんぷ3の
てん真40のほぞ部41が穴石17Aのほぞ孔18に嵌合されてジャーナル軸受として働く該ほぞ孔18の周面で支持され、ほぞ部41の端面45が球体13の形態でスラスト軸受けとして働く受石10Aのほぞ受面部11Aに当接して該ほぞ受面部11Aで支持される。
【0077】
図9は、
図7の耐振軸受機構を有する
図8のてんぷにおいて種々の条件下での回転中心の位置ズレの程度を示したものであり、
図9の(a)はてん真及び受石が所定の状態にある基準の場合を示したものである。この場合、てん真40のほぞ部41がその端面45の位置C0で球体13の形態の受石10Aのほぞ受面11Aに当接する。この位置は、
図4のC0Rに対応する位置であって、てん真40の中心軸線C上にある。
【0078】
図9の(b)は受石が傾いた状態にある場合を示したもので、球体13の形態の受石10Aが少し(例えば、1度程度)傾くとしても、受石10Aは球体13の環状領域14で穴石17の円錐台状端面17dAで支持されているので、当該回転によっては、球体13の形態の受石10Aとてん真40のほぞ部41の端面45との当接位置Cfは変わらず、実際上位置C0に保たれる。従って、受石10Aが傾いても、平姿勢P1であっても裏平姿勢P2であってもてんぷ3Aが実際上同様に動作され得るから、姿勢が歩度に与える影響を最低限に抑え得る。
【0079】
図9の(c)ははてん真が傾いた状態にある場合を示したもので、てん真40の傾斜に伴いほぞ部41の端面45が傾く。しかしながら、この耐振軸受機構1Aを備えたてんぷ3Aでは、耐振軸受機構1Aの受石10Aが比較的小径の球体13からなるので、当接位置が中心軸線C上の位置C0からわずかにずれるだけで接平面の傾きが大きく変わるから、多少傾斜したてん真40のほぞ部41の端面45と丁度当接する部位が中心軸線Cから僅かに離れたところCgになる。その結果、てん真40の傾きがてんぷ3Aの回転に与える影響が最低限に抑えられ得る。