特許第5975645号(P5975645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5975645ウィービング装置および自動アーク溶接装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975645
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ウィービング装置および自動アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20160809BHJP
   B23K 9/022 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B23K9/12 350D
   B23K9/022 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-354(P2012-354)
(22)【出願日】2012年1月5日
(65)【公開番号】特開2013-139046(P2013-139046A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(72)【発明者】
【氏名】永井 高太郎
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭49−003390(JP,B1)
【文献】 実開平03−014072(JP,U)
【文献】 特開平09−024469(JP,A)
【文献】 特開2000−000662(JP,A)
【文献】 特開昭54−067535(JP,A)
【文献】 特開平07−040046(JP,A)
【文献】 特開2000−301336(JP,A)
【文献】 特開平08−025044(JP,A)
【文献】 米国特許第03646309(US,A)
【文献】 特開平08−243747(JP,A)
【文献】 特開平09−206948(JP,A)
【文献】 実開昭61−041465(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチをウィービングさせるウィービング装置であって、
基台と、
この基台に対して前記溶接トーチを回動可能に支持する回動支持部材と、
前記基台に支持され、回転駆動軸の外周にカム部材が偏心して装着されたモータと、
前記溶接トーチに連結され、前記カム部材の偏心回転を、前記溶接トーチの回動中心軸に直交する方向の往復動に変換して前記溶接トーチに伝達し、前記溶接トーチを揺動させる揺動伝達機構と、
を備え、
さらに前記揺動伝達機構は、前記カム部材の外径よりも大きな内径の駆動伝達穴が形成され、かつ、前記駆動伝達穴に前記カム部材が挿入されて前記回動中心軸の直交方向に変位する第1の駆動伝達部材を備えていることを特徴とするウィービング装置。
【請求項2】
前記揺動伝達機構は、前記溶接トーチに固定され、前記第1の駆動伝達部材に相対回動可能に連結された第2の駆動伝達部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載のウィービング装置。
【請求項3】
前記回動支持部材は、前記溶接トーチの外周に装着された第1ホルダと、この第1ホルダを前記基台との間に挟んで配置され、前記基台に固定された支持部材と、この支持部材と前記基台とに対して前記第1ホルダを相対回動可能に支持する回動支持軸と、を備え、
前記揺動伝達機構の前記第2の駆動伝達部材は、前記溶接トーチの外周に装着された第2ホルダであることを特徴とする請求項に記載のウィービング装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のウィービング装置と、
前記基台に連結され、前記基台を移動させる移送装置と、
を備えていることを特徴とする自動アーク溶接装置。
【請求項5】
前記ウィービング装置のウィービングの方向を、前記移送装置により前記基台と共に前記溶接トーチを移送させる方向に沿う方向としたことを特徴とする請求項4に記載の自動アーク溶接装置。
【請求項6】
前記移送装置が、多軸ロボットであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の自動アーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接の実行時に溶接トーチに対して振り動作であるウィービングを行わせるウィービング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接時に、溶接トーチに対しウィービングを行わせるようにしたアーク溶接装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載された従来のアーク溶接装置は、基台と、この基台に取り付けられたエアシリンダと、このエアシリンダの伸縮方向の直交方向に支持された溶接トーチとを備えたウィービング装置を有している。
そして、エアシリンダを伸縮させることにより、溶接トーチに対し、軸直交方向に平行に往復移動させて振るウィービングを行わせることができる。このウィービングによりアークが撹拌され、ビット、ブローホールの発生を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−336963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のアーク溶接装置では、溶接トーチのウィービングを行わせるウィービング装置が搭載され、溶接品質を向上させることができるものの、さらなる溶接品質の向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述の問題を解決することを目的とするものであり、溶接品質の向上を図ることができるウィービング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のウィービング装置は、
溶接トーチをウィービングさせるウィービング装置であって、
基台と、
この基台に対して前記溶接トーチを回動可能に支持する回動支持部材と、
前記基台に支持され、回転駆動軸の外周にカム部材が偏心して装着されたモータと、
前記溶接トーチに連結され、前記カム部材の偏心回転を、前記溶接トーチの回動中心軸に直交する方向の往復動に変換して前記溶接トーチに伝達し、前記溶接トーチを揺動させる揺動伝達機構と、
を備え、
さらに前記揺動伝達機構は、前記カム部材の外径よりも大きな内径の駆動伝達穴が形成され、かつ、前記駆動伝達穴に前記カム部材が挿入されて前記回動中心軸の直交方向に変位する第1の駆動伝達部材を備えていることを特徴とするウィービング装置とした。
【0007】
なお、前記揺動伝達機構は、前記溶接トーチに固定され、前記第1の駆動伝達部材に相対回動可能に連結された第2の駆動伝達部材を備えていることが好ましい。
また、前記回動支持部材は、前記溶接トーチの外周に装着された第1ホルダと、この第1ホルダを前記基台との間に挟んで配置され、前記基台に固定された支持部材と、この支持部材と前記基台とに対して前記第1ホルダを相対回動可能に支持する回動支持軸と、を備え、
前記揺動伝達機構の前記第2の駆動伝達部材は、前記溶接トーチの外周に装着された第2ホルダであることが好ましい。
【0008】
また、本発明の自動アーク溶接装置は、
上記ウィービング装置と、
前記基台に連結され、前記基台を移動させる移送装置と、
を備えていることを特徴とする。
また、前記ウィービング装置のウィービングの方向は、前記移送装置により前記基台と共に前記溶接トーチを移送させる方向に沿う方向とするのが好ましい。
また、前記移送装置が、多軸ロボットであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のウィービング装置では、モータを駆動させると、カム部材が偏心回転し、この偏心回転が、揺動伝達機構の第1の駆動伝達部材を介して、溶接トーチに対して回動中心軸に直交する方向の往復動に変換して伝達される。
これにより、溶接トーチは、回動支持部材による回動可能に支持された支点を中心として揺動する。
このように、本発明では、溶接トーチをウィービング装置によりウィービングさせた際に溶接トーチが揺動し、アークに対する溶接トーチの照射角度が変化する。
この場合、従来のように溶接トーチが平行移動しアークに対する照射角度が一定のものと比較して、溶融池の撹拌効果が高まり、ビット、ブローホールの発生の抑制性能が向上し、溶接品質の向上を図ることができる。
【0010】
さらに、揺動伝達機構が、前記溶接トーチに固定され、前記第1の駆動伝達部材に相対回動可能に連結された第2の駆動伝達部材を備えたものでは、回転駆動軸、カム部材、第1の駆動部材の力の伝達方向が外径方向に直列に並ぶ。
したがって、駆動力の伝達系で剪断応力が作用しにくく、強度、耐久性に優れる。
また、回動支持部材が、前記溶接トーチの外周に装着された第1ホルダと、この第1ホルダを前記基台との間に挟んで配置され、前記基台に固定された支持部材と、この支持部材と前記基台とに対して前記第1ホルダを相対回動可能に支持する回動支持軸と、を備え、前記揺動伝達機構の前記第2の駆動伝達部材が、前記溶接トーチの外周に装着された第2ホルダであるものでは、溶接トーチを揺動させるのにあたり、溶接トーチを加工する必要が無く、既存の溶接トーチを使用することが可能である。
よって、コストを低減可能であると共に、汎用性に優れる。
【0011】
また、本発明のウィービング装置と、基台に連結され、基台を移動させる移送装置と、を備えた本発明の自動アーク溶接装置では、溶接トーチを移送装置により移動させて溶接を行いながら、溶接トーチを揺動させるウィービングを行うことができる。
したがって、溶接品質に優れる自動溶接装置を提供することができる。
加えて、ウィービング装置のウィービング方向を移送装置による基台及び溶接トーチの移送方向に沿う方向としたものでは、ウィービング方向を移送方向の直交方向に行うものと比較して、溶融池が凝固する時間が長くなる。これにより、ビットの原因となる溶融池内部の泡が排出され易くなり、その分、ビットが発生しにくくなり、溶接品質の向上を図ることができる。
さらに、移送装置が、多軸ロボットであるものでは、溶接トーチを任意の方向に移動させることが可能であり、溶接の全自動化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態のウィービング装置及びこれを備えた自動アーク溶接装置を示す斜視図である。
図2図2は、自動アーク溶接装置の概略説明図である。
図3図3は、実施の形態のウィービング装置を示す側面図である。
図4図4は、実施の形態のウィービング装置を示す断面図であり、図3のS4−S4線における断面を示している。
図5図5は、実施の形態のウィービング装置を示す断面図であり、図3のS5−S5線における断面を示している。
図6図6は、実施の形態のウィービング装置の一部を示す拡大側面図である。
図7図7は、実施の形態のウィービング装置の一部を示す拡大側面図である。
図8図8は、実施の形態のウィービング装置のウィービング実行時の動作を示す側面図である。
図9図9は、自動アーク溶接装置による溶接動作の説明図であり、(a)は上方から見た状態を示し、(b)は側方から見た状態を示す。
図10図10は、他の実施の形態のウィービング装置及びこれを備えた自動アーク溶接装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1図9に基づいて本発明の実施の形態1のウィービング装置30及びこれを備えた自動アーク溶接装置の構成について説明する。
ここで、自動アーク溶接装置の説明の前に、その被溶接対象物について説明する。本実施の形態では、図1に示す、第1母材11と第2母材12とを被溶接対象物とし、図において矢印YSに示すように、両母材11,12を、両母材11,12の間に形成されるコーナ部10c(図9参照)に沿って溶接するのに用いる。なお、図1において、矢印X及び矢印Yが、水平方向の直交する2方向を示し、矢印Zが上下方向を示している。
【0014】
自動アーク溶接装置は、移送装置20、ウィービング装置30、溶接トーチ40、コントローラ100を備えている。
ここで、まず、溶接トーチ40により両母材11,12を溶接するための構成を図2に基づいて簡単に説明する。
溶接トーチ40には、ワイヤ・ガス供給装置41及び電力供給装置42が接続されている。ワイヤ・ガス供給装置41により、溶接ワイヤ43及びボンベ44のシールドガスが溶接トーチ40に供給される。
【0015】
また、電力供給装置42により、母材11,12及び溶接トーチ40に、電力が供給され、この電力により溶接ワイヤ43にアークが形成される。
以上のように、溶接トーチ40は、既存のものを特に加工することなく用いている。
【0016】
図1に戻り、溶接トーチ40を、被溶接対象物である両母材11,12沿って移動させる移送装置20について説明する。この移送装置20は、いわゆる産業ロボットである。すなわち、移送装置20は、3軸以上の多軸の回動軸21a(本実施の形態では、産業ロボットして一般的な6軸のものを用いており、その1軸のみ図示している)を有したアーム機構21、並びに各回動軸を中心とした回転力を与える駆動装置(図示省略)を備え、アーム機構21の先端部を、任意に移動可能となっている。
この移送装置20の駆動はコントローラ100により制御され、後述するように、溶接時には、溶接トーチ40の先端を、両母材11,12のコーナ部10cに沿って、矢印YSに沿って移動させるように駆動する。
【0017】
移送装置20のアーム機構21の先端部に、ウィービング装置30が取り付けられている。ウィービング装置30は、本実施の形態では、図1に示すように、矢印YS方向である溶接方向進行方向に沿う方向に揺動させる。
このウィービング装置30は、図3に示す、基台31と、回動支持部材33と、揺動伝達機構34と、図5に示す、偏心駆動部35と、を備えている。
【0018】
基台31は、図3及び図4に示すように長方形の板状に形成されており、図1に示すアーム機構21の先端に取り付けられて、移送装置20の制御に基づいて任意の位置に移動可能に支持されている。なお、基台31は、その表裏面が、溶接進行方向に沿うようにアーム機構21に支持されている。
【0019】
回動支持部材33は、溶接トーチ40の基端部を構成する棒状のトーチ支持ロッド40aを、基台31に対し、支点Otを中心として溶接進行方向に直交する方向の軸を中心に回動可能に支持するもので、図4に示すように、支持片(支持部材)33a、支持パネル(支持部材)33b、ホルダ33c,33c、回動支持軸33d,33dを備えている。
【0020】
すなわち、支持パネル33bは、基台31から立設された支持片33aにより、基台31との間にトーチ支持ロッド40aを配置可能に離間して基台31と略平行な状態で支持されている。
【0021】
ホルダ33c,33cは、それぞれ、トーチ支持ロッド40aの外周を囲む半円状の凹部33eを備え、これら凹部33e,33eを対向させてトーチ支持ロッド40aの外周に装着し、トーチ支持ロッド40aの軸直交方向の移動を規制した状態で支持している。なお、両ホルダ33c,33cは、図示を省略したネジやボルト・ナットなどの締結具により、トーチ支持ロッド40aの軸方向への相対移動を規制している。
【0022】
したがって、トーチ支持ロッド40aは、溶接進行方向に略直交する方向に延在された回動支持軸33dを中心として、前述の支点Otを中心に基台31に対して上下に回動可能に支持される。
【0023】
偏心駆動部35は、モータ35mとカム(カム部材)35cとを備えている。
モータ35mは、図5に示すように、基台31においてトーチ支持ロッド40aが設けられているのとは反対側の側面に配置され、その回転駆動軸35aが基台31を貫通して取り付けられている。なお、モータ35mの駆動は、コントローラ100(図1参照)により制御される。
さらに、回転駆動軸35aの外周にカム35cが取り付けられている。すなわち、カム35cは、図7にも示すように円盤状に形成され、回転駆動軸35aに対して偏心して取り付けられている。
【0024】
揺動伝達機構34は、カム35cの偏心回転を、溶接トーチ40の支点Otの軸方向に直交する方向の往復動に変換して溶接トーチ40に伝達して、溶接トーチ40を揺動させるものであり、図5に示すように、ホルダ(第2の駆動伝達部材:第2ホルダ)34a,34bとカム装着プレート(第1の駆動伝達部材)34cとを備えている。
【0025】
ホルダ34a,34bは、それぞれ、前述のホルダ33cと同様に、トーチ支持ロッド40aの外周に装着される凹部34eが形成されている。そして、両ホルダ34a,34bは、凹部34eを対向させた状態でトーチ支持ロッド40aの外周に装着され、図示を省略したネジやボルト・ナットなどの締結具により、トーチ支持ロッド40aの外周に固定されている。また、基台31に近い側に配置されたホルダ34aは、図において上方に延びる連結アーム34fを備えている。
【0026】
カム装着プレート34cは、図3に示すように、長方形の板状に形成され、図において下側の端部に、連結アーム34fの先端部が回動軸34gにより相対回動可能に連結されている。また、カム装着プレート34cの図において上方側の端部には、カム35cの外径よりも僅かに大きな内径の円形状の駆動伝達穴34hが貫通して形成され、この駆動伝達穴34hに、カム35cが挿入されるように配置されている。なお、図示は省略するが、カム装着プレート34cが、カム35cから脱落しないようにカム装着プレート34cの軸方向への移動を規制するカバーを基台31に設けるのが好ましい。
【0027】
揺動伝達機構34では、カム35cが偏心回転すると、カム装着プレート34c及びこれに連結されたホルダ34aが図3において上下方向に変位し、これにより溶接トーチ40が、支点Otを中心に図8において矢印Wiに示すように上下に往復揺動する。このときの溶接トーチ40の矢印Wi方向の動きを、溶接時のウィービングとして用いる。
【0028】
次に、自動アーク溶接装置による溶接動作を説明する。
溶接時には、コントローラ100の制御に基づいて、移送装置20により溶接トーチ40を、図1に示す矢印YSに沿って移動させながら溶接を行う。すなわち、溶接トーチ40は、上方から見ると図9(a)に示すように、両母材11,12により形成されるコーナ部10cに対し、水平方向で45度程度の角度に傾けた上で、横方向から見て図9(b)に示すように、溶接トーチ40を略水平に配置し、コーナ部10cに沿って、矢印YSに示すように、上部から下部に移動させながら溶接を行なう。
【0029】
この溶接時に、上記のように溶接トーチ40を移送装置20により移動させるのと同時に、ウィービング装置30により溶接トーチ40を、図において上下方向に揺動させるウィービングを行なう。
このウィービングは、モータ35mを駆動させることで行なう。すなわち、モータ35mを駆動させると、回転駆動軸35aに対してカム35cが、図7に示す偏心回転を行う。これにより、カム35cの外周に駆動伝達穴34hを装着したカム装着プレート34cが、図6に示す矢印UD方向である上下方向に変位する。
したがって、トーチ支持ロッド40aが上下に振られ、トーチ支持ロッド40aは、支点Otを中心に揺動し、その先端の溶接トーチ40がウィービング動作を行なう。
【0030】
また、このようなウィービング動作を行うのにあたり、その周波数は、モータ35mの回転数により任意に調整することができる。
そして、その振幅は、カム35cの偏芯率で調整することができる。具体的には、カム35cとして、同径で、駆動軸を挿入する穴の位置を異ならせたものを複数種類設定することで、振幅を変えることができる。あるいは、駆動伝達穴34hとして、想定される最大の形のものを設定し、かつ、カム35cとして、駆動伝達穴34h内に納まる範囲内で複数種類の外径のもの、ならびに上記偏芯率を異ならせたものを設定することにより、振幅の設定自由度がより高まる。
【0031】
また、本実施の形態では、ウィービングは、モータ35mの駆動に行っているため、ウィービングの実行及び非実行の切換が容易であり、本実施の形態では、コントローラ100は、溶接の開始点及び溶接終了点では、ウィービングを実行しないようにしている。
すなわち、アークが点弧する時期にウィービングを行っていると、アーク切れを起こす可能性がある。また、溶融池が少ない状態でウィービングを行うと溶接金属が足りなくなるおそれがある。このため、本実施の形態では、溶接開始点において、ウィービングを行わないことにより、このような不具合の発生を抑制している。
【0032】
同様に、溶接終了点においてウィービングを実行していると、溶接池を吹き飛ばし、溶接金属が足りなくなるおそれがある。このため、本実施の形態では、溶接終了点においてウィービングを停止させ、このような不具合の発生を抑制している。
【0033】
以上説明した実施の形態のウィービング装置及びこれを備えた自動アーク溶接装置は、以下に列挙する効果を奏する。
1)ウィービング装置30は、ウィービングの際に、溶接トーチ40を支点Otを中心に揺動させるようにした。溶接トーチ40を揺動させることにより、アークに対する照射角度が変化するため、従来のようにアークに対する照射角度を一定にして溶接トーチ40を平行移動させるウィービングを行うものと比較して、溶接池の撹拌効果が大きくなり、ビット、ブローホールなどの発生を抑制し、溶接品質の向上を図ることができる。
しかも、ウィービング装置30は、ウィービングの方向(Wi)を矢印YSで示した溶接の方向(溶接トーチ40の移送方向)と同一の方向とした。このため、ウィービングの方向(Wi)を溶接方向の直交方向に行う場合と比較して、溶融池が凝固する時間が長くなり、ビットの原因となる溶融池内部の泡が排出され易くなり、その分、ビットが発生しにくくなり、溶接品質の向上を図ることができる。
【0034】
2)ウィービング装置30は、基台31と、基台31に対して溶接トーチ40を回動可能に支持する回動支持部材33と、基台31に支持され、回転駆動軸35aの外周にカム35cが偏心して装着されたモータ35mと、溶接トーチ40に連結され、カム35cの偏心回転を、溶接トーチ40の回動中心軸に直交する方向の往復動に変換して溶接トーチ40に伝達し、溶接トーチ40を揺動させる揺動伝達機構34と、を備えた構成とした。
したがって、従来のようにエアシリンダによりウィービングさせるものと比較して、軽量化を図ることが可能となる。
そして、このように軽量化を図ることにより、多軸ロボットからなる移送装置20を用いた全自動化が容易となる。
【0035】
3)揺動伝達機構34は、カム35cの外周に装着され、基台31に沿って軸直交方向に変位するカム装着プレート(第1の駆動伝達部材)34cと、溶接トーチ40に固定され、カム装着プレート34cに相対回動可能に連結されたホルダ(第2の駆動伝達部材)34a,34bと、を備えた構成とした。
したがって、回転運動から往復運動への変換を2部材で行うことができ、軽量化を図ることができる。
加えて、本実施の形態では、カム装着プレート34cがカム35cの外周に装着され、駆動力の伝達の際に、駆動伝達を行う部材に剪断応力が作用しにくく、強度及び耐久性に優れる。
【0036】
4)回動支持部材33は、溶接トーチ40の外周に装着されたホルダ33c,33cと、ホルダ33c,33cを基台31との間に挟んで配置され、基台31に固定された支持パネル33bと、支持パネル33bと基台31とに対してホルダ33c,33cを相対回動可能に支持する回動支持軸33d,33dと、を備えている構成とした。
このように、上記3)と併せて、溶接トーチ40は、その外周に装着したホルダ33c,34a,34bにより保持するようにしたため、溶接トーチ40を揺動させるのにあたり、溶接トーチ40及びトーチ支持ロッド40aに加工を行う必要が無く、既存の溶接トーチ40をそのまま使用できる。したがって、ウィービングを行うために専用に加工を行うものと比較して、汎用性に優れ、かつ、安価に製造可能である。
【0037】
5)コントローラ100は、ウィービング時には、溶接の開始点及び溶接終了点では、ウィービングを実行しないようにした。
したがって、溶接開始点において、アークの点弧時期にウィービングを行うことによるアーク切れの発生や、溶融池不足状態でのウィービングによる溶接金属不足を抑制し、溶接品質を向上できる。
同様に、溶接終了点におけるウィービングによる溶接池の吹き飛ばしや、溶接金属不足を抑制し、溶接品質を向上できる。
【0038】
6)本実施の形態では、ウィービング装置30を溶接方向に移動させる移送装置20として、多軸ロボットを用いた。
したがって、溶接の全自動化が可能となり、作業性が向上する。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【0040】
例えば、実施の形態では、移送装置として、産業ロボットを示したが、これに限定されず、例えば、従来技術のように、ウィービング装置を一方向あるいは二方向に移動させる装置を用いてもよい。
その一例を示すと、図10に示すように、シリンダを備えた第1移送装置201を用いて第1の方向d1方向へ移動させるようにしてもよい。さらに、この第1移送装置201を、第2のシリンダ202aを用いてガイドレール202bに沿って、第1の方向d1に直交する第2の方向d2に移動させる第2移送装置202を組み合わせ、第1の方向d1と第2の方向d2との両方向へ任意に移動させるようにしてもよい。
【0041】
また、実施の形態では、ウィービングは、溶接方向に沿う方向に揺動させる例を示したが、この揺動方向は、これに限定されず、溶接方向(矢印YS方向)に対して、直交方向などの交差方向に揺動させるようにしてもよい。
【0042】
また、揺動伝達機構において、カム部材の偏心回転を伝達する部材として、カム部材の外周に装着するカム装着プレートを示したが、この伝達部材は、カム部材の外周に装着されるものに限定されない。例えば、カム部材に軸状の部材を立設し、この軸状の部材から駆動を伝達するようにした。
【0043】
また、実施の形態では、回動支持部材及び揺動伝達機構は、溶接トーチのトーチ支持ロッドの外周に装着するホルダを有し、トーチ支持ロッドに加工が不要なものを示したが、これに限定されず、回動支持部材において回動中心となる軸や、第1の駆動伝達部材に連結する第2の駆動伝達部材に相当する構成を、トーチ支持ロッドに一体に設ける加工を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
20 移送装置
30 ウィービング装置
31 基台
33 回動支持部材
33a 支持片(支持部材)
33b 支持パネル(支持部材)
33c ホルダ(第1ホルダ)
33d 回動支持軸
34 揺動伝達機構
34a,34b ホルダ(第2の駆動伝達部材:第2ホルダ)
34c カム装着プレート(第1の駆動伝達部材)
35 偏心駆動部
35a 回転駆動軸
35c カム(カム部材)
35m モータ
40 溶接トーチ
40a トーチ支持ロッド
Ot 支点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10