【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
以下の(1)粗ラッピング工程(粗研削工程)、(2)形状加工工程、(3)精ラッピング工程(精研削工程)、(4)端面研磨工程、(5)主表面第1研磨工程、(6)化学強化工程、(7)主表面第2研磨工程、を経て本実施例の磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0049】
(1)粗ラッピング工程
まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.0mmの円盤状のアルミノシリゲートガラスからなるガラス基板を得た。なお、このようなダイレクトプレス以外に、ダウンドロー法やフロート法で製造された板ガラスから所定の大きさに切り出してガラス基板を得てもよい。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO
2:58〜75重量%、Al
2O
3:5〜23重量%、Li
2O:3〜10重量%、Na
2O:4〜13重量%を含有する化学強化用ガラスを使用した。
【0050】
次いで、このガラス基板に寸法精度及び形状精度の向上させるためラッピング工程を行った。このラッピング工程は両面ラッピング装置を用い、粒度#400の砥粒を用いて行った。具体的には、上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させ、荷重を100kg程度に設定して、上記ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の両面を面精度0〜1μm、表面粗さ(Rmax)6μm程度にラッピングした。
【0051】
(2)形状加工工程
次に、円筒状の砥石を用いてガラス基板の中央部分に孔を空けると共に、外周端面の研削をして直径を65mmφとした後、外周端面および内周端面に所定の面取り加工を施した。このときのガラス基板端面の表面粗さは、Rmaxで4μm程度であった。なお、一般に、2.5インチ型HDD(ハードディスクドライブ)では、外径が65mmの磁気ディスクを用いる。
【0052】
(3)精ラッピング工程
この精ラッピング工程は両面ラッピング装置を用い、粒度#1000のダイヤモンド砥粒をアクリル樹脂で固定したペレットが貼り付けられた上下定盤の間にキャリアにより保持したガラス基板を密着させて行なった。
具体的には、荷重を100kg程度に設定して、上記ラッピング装置のサンギアとインターナルギアを回転させることによって、キャリア内に収納したガラス基板の両面を、表面粗さRmaxで2μm程度、Raで0.2μm程度にラッピングした。
上記ラッピング工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、水の各洗浄槽(超音波印加)に順次浸漬して、超音波洗浄を行なった。
【0053】
(4)端面研磨工程
次いで、ブラシ研磨により、ガラス基板を回転させながらガラス基板の端面(内周、外周)の表面の粗さを、Rmaxで1μm、Raで0.3μm程度に研磨した。そして、上記端面研磨を終えたガラス基板の表面を水洗浄した。
【0054】
(5)主表面第1研磨工程
次に、上述したラッピング工程で残留した傷や歪みを除去するための第1研磨工程を前述の
図3に示す両面研磨装置を用いて行なった。両面研磨装置においては、研磨パッド7が貼り付けられた上下研磨定盤5,6の間にキャリア4により保持したガラス基板を密着させ、このキャリア4を太陽歯車2と内歯歯車3とに噛合させ、上記ガラス基板を上下定盤5,6によって挟圧する。その後、研磨パッドとガラス基板の研磨面との間に研磨液を供給して回転させることによって、ガラス基板が定盤5,6上で自転しながら公転して両面を同時に研磨加工するものである。具体的には、ポリシャとして硬質ポリシャ(硬質発泡ウレタン)を用い、第1研磨工程を実施した。研磨液としては、酸化セリウム(平均粒径1μm)を研磨剤として10重量%分散したRO水中にさらにエタノール系の低分子量の界面活性剤を添加して中性に調整されたものを使用した。荷重は100g/cm
2、研磨時間は15分とした。
上記第1研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0055】
(6)化学強化工程
次に、上記洗浄を終えたガラス基板に化学強化を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記洗浄・乾燥済みのガラス基板を約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。化学強化を終えたガラス基板を硫酸、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0056】
(7)主表面第2研磨工程
次いで上記の第1研磨工程で使用したものと同じ両面研磨装置を用い、ポリシャを軟質ポリシャ(スウェード)の研磨パッド(アスカーC硬度で72の発泡ポリウレタン)に替えて第2研磨工程を実施した。この第2研磨工程は、上述した第1研磨工程で得られた平坦な表面を維持しつつ、例えばガラス基板主表面の表面粗さをRmaxで2nm程度以下の平滑な鏡面に仕上げるための鏡面研磨加工である。研磨液としては、コロイダルシリカ(平均粒径15nm)を研磨剤として15重量%分散したRO水中に、アクリル/スルホン酸系共重合体であるアロンA−6016A(商品名:東亜合成(株)製)を0.3重量%添加し、さらに硫酸を添加して酸性(pH=2)に調整されたものを使用した。前述の
図4を用いて説明した測定方法により算出された研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数は0.032に調整されていた。なお、荷重は100g/cm
2、研磨時間は10分とした。
上記第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0057】
上記各工程を経て得られた100枚のガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Ra=0.137nmと従来品よりも更に超平滑な表面を持つガラス基板を得た。なお、上記表面粗さの値は製造したガラス基板100枚の平均値であり、以下の実施例等においても同様である。
また、スクラッチの評価については、得られたガラス基板の主表面をOSA(Optical Surface Analyzer)にて観察(30ポイント)し、検出された表面欠陥を原子間力顕微鏡(AFM)で分析した。AFM分析の結果、表面欠陥がスクラッチであることが確認されたポイントが30ポイント中10ポイント以下の場合は、スクラッチが「少ない」、10ポイントよりも多い場合は、スクラッチが「多い」とした。
得られたガラス基板の外径は65mm、内径は20mm、板厚は0.8mmであった。
【0058】
こうして、本実施例の磁気ディスク用ガラス基板を得た。後記の表1には上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値をそれぞれ示した。本実施例によれば、良好な研磨レートを維持しつつ、スクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減させることができる磁気ディスク用ガラス基板が得られ、基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として使用することが可能である。
【0059】
(実施例2)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアロンA−6016Aを0.1重量%添加した研磨液を用いて、研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数を0.038に調整したこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
得られた100枚のガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Ra=0.143nmと従来品よりも更に超平滑な表面を持つガラス基板を得た。また、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
後記の表1に上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値を示した。本実施例によれば、良好な研磨レートを維持しつつ、スクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減させることができる。
【0060】
(実施例3)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアロンA−6016Aを0.05重量%添加した研磨液を用いて、研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数を0.048に調整したこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
得られた100枚のガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Ra=0.146nmと従来品よりも更に超平滑な表面を持つガラス基板を得た。また、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
後記の表1に上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値を示した。本実施例によれば、良好な研磨レートを維持しつつ、スクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減させることができる。
【0061】
(実施例4)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアロンA−6016Aを0.6重量%添加した研磨液を用いて、研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数を0.025に調整したこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
得られた100枚のガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Ra=0.136nmと従来品よりも更に超平滑な表面を持つガラス基板を得た。また、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
後記の表1に上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値を示した。本実施例によれば、良好な研磨レートを維持しつつ、スクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減させることができる。
【0062】
(実施例5)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアロンA−6016Aを1.0重量%添加した研磨液を用いて、研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数を0.021に調整したこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。
得られた100枚のガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Ra=0.135nmと従来品よりも更に超平滑な表面を持つガラス基板を得た。また、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
後記の表1に上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値を示した。本実施例によれば、良好な研磨レートを維持しつつ、スクラッチ等の表面欠陥を従来品より更に低減させることができる。
【0063】
(比較例1)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアロンA−6016Aを1.5重量%添加した研磨液を用いて、研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数を0.015に調整したこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。また、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
後記の表1に上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値を示した。本比較例によれば、スクラッチ等の表面欠陥を低減させることができるが、研磨レートが大きく低下してしまうという問題がある。
【0064】
(比較例2)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアロンA−6016Aを添加せずに、研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数を0.061に調整したこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板を得た。また、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
後記の表1に上記Raの値、スクラッチ評価、上記第2研磨工程における研磨レートの値を示した。本比較例によれば、良好な研磨レートが得られるものの、スクラッチ等の表面欠陥の発生が顕著になった。基板表面品質への要求が現行よりもさらに厳しいものとなっている次世代用の基板として使用するためには不十分である。
【0065】
【表1】
【0066】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例のように研磨工程において研磨時の研磨パッドとガラス基板との間の摩擦係数が、0.02〜0.05の範囲に調整されることにより、超平滑な基板表面(Ra≦0.150nm)が得られ、さらにスクラッチ等の表面欠陥の低減と良好な研磨レート(研磨レート≧0.05μm/min)を維持することとのトレードオフの問題を初めて解決することが可能になる。
【0067】
(実施例6)
上記実施例1で得られた磁気ディスク用ガラス基板に以下の成膜工程を施して、垂直磁気記録用磁気ディスクを得た。
すなわち、上記ガラス基板上に、Ti系合金薄膜からなる付着層、CoTaZr合金薄膜からなる軟磁性層、Ru薄膜からなる下地層、CoCrPt合金からなる垂直磁気記録層、カーボン保護層、潤滑層を順次成膜した。保護層は、磁気記録層が磁気ヘッドとの接触によって劣化することを防止するためのもので、水素化カーボンからなり、耐磨耗性が得られる。また、潤滑層は、アルコール変性パーフルオロポリエーテルの液体潤滑剤をディップ法により形成した。
得られた磁気ディスクについて、DFHヘッドを備えたHDDに組み込み、80℃かつ80%RHの高温高湿環境下においてDFH機能を作動させつつ1ヶ月間のロードアンロード耐久性試験を行ったところ、特に障害も無く、良好な結果が得られた。
【0068】
また、上記実施例2〜5で得られたガラス基板をそれぞれ用いて上記と同様に垂直磁気記録用磁気ディスクを作製した。
[DFHタッチダウン試験]
作製した上記磁気ディスクに対し、クボタコンプス社製HDFテスター(Head/Disk Flyability Tester)を用いて、DFHヘッド素子部のタッチダウン試験を行った。この試験は、DFH機構によって素子部を徐々に突き出していき、AEセンサーによって磁気ディスク表面との接触を検知することによって、ヘッド素子部が磁気ディスク表面と接触するときの距離を評価するものである。突き出し量が大きいものほど磁気的スペーシングが低減するため高記録密度化に適しており、磁気信号の正確な記録・再生が可能である。
なお、ヘッドは、320GB/P磁気ディスク(2.5インチサイズ)向けのDFHヘッドを用いた。素子部の突き出しがないときのヘッド本体の浮上量は10nmである。また、その他の条件は以下のとおり設定した。
評価半径:22mm
磁気ディスクの回転数:5400rpm
温度:25℃
湿度:60%
【0069】
[評価基準]
ヘッドの突き出し量によって以下の3段階で評価した。
○○○:8.0nm以上
○○:7.0nm以上8.0nm未満
○:7.0nm未満
結果を下記表2に示した。
【0070】
【表2】
【0071】
(実施例7〜10)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨パッドの硬度を以下の表3のように変更したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして第2研磨工程を実施した。そして、この第2研磨工程以外は実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板(実施例7〜10)を得た。なお、実施例9では、アスカーC硬度で80のエーテル基を含まない発泡ポリウレタン研磨パッドを用いた。
得られたガラス基板について、実施例1と同様にしてスクラッチ評価を行った。
下記表3に上記スクラッチ評価、上記第2研磨工程における摩擦係数、研磨レートの値を示した。
また、上記実施例7〜10で得られたガラス基板をそれぞれ用いて上記実施例6と同様に垂直磁気記録用磁気ディスクを作製し、DFHタッチダウン試験を行った。その評価結果についても下記表3に示した。
【0072】
【表3】
【0073】
表3に示すとおり、パッドのアスカーC硬度を70以上とすると、アスカーC硬度65の場合と比較して、スクラッチを少なく維持したまま、高い研磨レートと良好なDFHタッチダウン試験結果が得られた。DFHタッチダウン試験については、スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーの添加によってスクラッチを少なく維持したまま、高いアスカーC硬度によって微小うねり(Microwaviness)をさらに低減できたためと考えられる。なお、研磨レートが向上したのは、高いアスカーC硬度によって、研磨砥粒を効率よく基板に押し付けることが可能となったためと推察される。また、エーテル基を含まない発泡ポリウレタン研磨パッドを用いることにより、特に良好なDFHタッチダウン試験結果が得られた。
すなわち、スルホン酸基を含むアクリル系ポリマーを研磨液に添加することによって、0.15nm以下という極めて小さい基板表面粗さの実現には従来使用することが困難とされた高いアスカーC硬度の研磨パッドの活用が可能となった。
【0074】
(実施例11)
上記実施例1の第2研磨工程において、研磨液中にアクリル/スルホン酸系共重合体の代わりにスルホン酸基を含む重合体を添加した研磨液を用いて、研磨パッドとガラス基板との間の前記摩擦係数が0.02〜0.05の範囲内となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして磁気ディスク用ガラス基板、及び、磁気ディスクを作製した。なお、上記スルホン酸基を含む重合体は、単量体成分としてイソプレンスルホン酸を含む共重合体を使用した。
そして、得られた磁気ディスクに対し上記のDFHタッチダウン試験を行った結果、良好な結果が得られた。