【実施例1】
【0009】
図1を参照して、本発明の実施例1のヘッドホンについて説明する。
図1は本実施例および実施例2のヘッドホン1、2の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施例のヘッドホン1は、エレキギターなどの出力ジャックに挿し込むことのできる3極フォーンプラグから楽音信号を取得する。3極フォーンプラグはTIP端子、RING端子、SLEEVE端子を備える。TIP端子は1回路2接点(共通端子、on端子、off端子)の第1スイッチ11の共通端子に接続される。第1スイッチ11のon端子はプリアンプ21の入力端子に接続される。プリアンプ21の出力端子はキャビネットシミュレーションフィルタ31の入力端子に接続される。
図1に示すようにキャビネットシミュレーションフィルタ31は、例えば4バンドイコライザ311と、双極ローパスフィルタ312とを含んで構成される。4バンドイコライザとは、低域/中低域/中高域/高域などに定義された4つの周波数域に可変可能なイコライザのことである。4バンドイコライザ311と双極ローパスフィルタ312とを組み合わせたキャビネットシミュレーションフィルタ31が楽音信号を補正することで、所望のキャビネット(アンプ)を通して再生された楽音を模擬(シミュレート)することができる。キャビネットシミュレーションフィルタ31の出力端子は、左(L)ヘッドホンアンプ51、右(R)ヘッドホンアンプ52それぞれの入力端子と接続される。従って、キャビネットシミュレーションフィルタ31により補正された楽音信号は、左(L)ヘッドホンアンプ51、右(R)ヘッドホンアンプ52のそれぞれに分岐して入力される。左(L)ヘッドホンアンプ51の出力端子は1回路2接点(共通端子、on端子、off端子)の第3スイッチ13のon端子と接続される。右(R)ヘッドホンアンプ52の出力端子は1回路2接点(共通端子、on端子、off端子)の第4スイッチ14のon端子と接続される。第3スイッチ13の共通端子は左(L)ヘッドホンスピーカ71と接続される。第4スイッチ14の共通端子は右(R)ヘッドホンスピーカ72と接続される。なおヘッドホンスピーカ71(72)は、キャビネットシミュレーションフィルタ31とインピーダンス特性が整合するように選択、設計されている。
【0010】
一方、RING端子は1回路2接点(共通端子、on端子、off端子)の第2スイッチ12の共通端子に接続される。第2スイッチ12のon端子は接地される。一方、SLEEVE端子は接地される。
【0011】
TIP端子に接続された第1スイッチ11のoff端子は、第3スイッチのoff端子と接続される。RING端子に接続された第2スイッチ12のoff端子は、第4スイッチ14のoff端子と接続される。
【0012】
次に、
図2を参照して、本実施例および実施例2のヘッドホン1、2にVccを供給するVcc供給回路について説明する。
図2は本実施例および後述する実施例2のヘッドホンのVcc供給回路の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、電池91の正極は1回路2接点(共通端子、on端子、off端子)の第5スイッチ15のon端子に接続される。電池91の負極は接地されている。第5スイッチ15のoff端子は開放端子である。第5スイッチ15の共通端子は、電源回路81と接続される。電源回路81からは、電源電圧Vccが、前述したプリアンプ21、キャビネットシミュレーションフィルタ31等に供給される。
【0013】
前述したように、本実施例および実施例2のヘッドホン1、2は共通端子、on端子、off端子からなる1回路2接点の第1〜第5スイッチ11〜15を備えている。ヘッドホン1、2には、図示しないon/offスライドスイッチが設けられており、第1〜第5スイッチ11〜15は当該on/offスライドスイッチと連動する。従って、on/offスライドスイッチをonに切り替えれば、第1〜第5スイッチ11〜15の共通端子とon端子が導通し、off端子側は開放となる。また、on/offスライドスイッチをoffに切り替えれば、第1〜第5スイッチ11〜15の共通端子とoff端子が導通し、on端子側は開放となる。従って、ユーザがヘッドホン1に設けられたon/offスライドスイッチをonに切り替えれば、TIP端子を通じてヘッドホンに入力されたモノラルの楽音信号は、プリアンプ21に入力されて音質、音量を調整され、キャビネットシミュレーションフィルタ31に入力されてキャビネット(アンプ)を模擬するフィルタリング処理を施され、左右(L、R)ヘッドホンアンプ51、52に入力されて増幅され、左右ヘッドホンスピーカ71、72から再生される。このとき、RING端子はGNDに落ちている。これは、アクティブタイプのエレキギター(電池搭載)においても本実施例のヘッドホン1を使用可能とするためである。また、第5スイッチ15も導通状態となるため、電源回路81から、電源電圧Vccが、前述したプリアンプ21、キャビネットシミュレーションフィルタ31等に供給される。
【0014】
一方、ユーザがヘッドホン1に設けられたon/offスライドスイッチをoffに切り替えれば、TIP端子を通じてヘッドホン1に入力された楽音信号は、第3スイッチ13のoff端子を通じて直接左ヘッドホンスピーカ71に入力されて再生される。また、RING端子を通じてヘッドホン1に入力された楽音信号は、第4スイッチ14のoff端子を通じて直接右ヘッドホンスピーカ72に入力されて再生される。また、第5スイッチ15は開放状態となるため、電源電圧Vccは供給されない。従って、本実施例のヘッドホン1は、前述したon/offスライドスイッチをoff状態としておけば、3極フォーンプラグに接続された音源(電子楽器など)からのステレオ楽音(音響)信号をそのまま再生する通常のステレオヘッドホンとして用いることが可能である。
【0015】
本実施例のヘッドホン1は上記構成に加えて、例えば
図1に示したようにオーディオ信号を入力するためのオーディオ端子(AUX_L、AUX_R)を備えてもよい。AUX_L端子は左(L)ヘッドホンアンプ51の入力端子と接続される。AUX_R端子は右(R)ヘッドホンアンプ52の入力端子と接続される。
【0016】
本実施例のヘッドホン1はアンプ(キャビネット)シミュレータを内蔵しているため、アンプシミュレータの設計者は、ヘッドホンの負荷を予め知ることができ、アンプシミュレータとヘッドホンのインピーダンス特性の整合を予め最適化した設計を行うことができる。別の表現では、本実施例のヘッドホン1はアンプシミュレータを内蔵しているため、ユーザが任意のヘッドホンを選択することによるヘッドホンとアンプシミュレータのインピーダンスの不整合が生じることがない。さらに、本実施例のヘッドホン1は、第1〜第5スイッチ11〜15を設けることにより、アンプ(キャビネット)シミュレート機能のon/off切り替えを可能としたため、アンプ(キャビネット)シミュレート機能をoffとすれば、通常のヘッドホンとして使用することも可能である。さらに、本実施例のヘッドホン1が前述したオーディオ端子(AUX_L、AUX_R)を備える場合には、当該オーディオ端子から入力されたステレオ楽音(音響)信号などを再生する通常のステレオヘッドホンとして使用することも可能である。
【実施例2】
【0017】
以下、
図3、
図4を参照して、一般的なスピーカやヘッドホンのインピーダンスの周波数特性について説明する。
図3は一般的なキャビネット型スピーカのインピーダンスの周波数特性の例を示す図である。
図4は一般的なヘッドホンスピーカのインピーダンスの周波数特性の例を示す図である。一般的なキャビネット型スピーカでは、振動紙(コーン紙)を支持するサスペンションなどでの損失が低域周波数帯で大きくなるため、共振周波数f
0と呼ばれる周波数においてボイスコイルのインピーダンスの絶対値が極大になる性質がある。従って、
図3に示すように共振周波数f
0においてボイスコイルのインピーダンスが極大値となり、その後はボイスコイルのインダクタンスに従って緩やかに上昇する形状となるのが一般的である。共振周波数f
0はスピーカの振動系の質量、それを支持するエッジ、ダンパ、サスペンションの柔らかさなどによって左右される。
【0018】
一方、ヘッドホンスピーカはキャビネット型スピーカと機械的構造が異なることからその周波数特性もキャビネット型スピーカとは異なる。また、
図4に示すようにヘッドホンスピーカの周波数特性は製造メーカごと、製品ごとに大きく異なる場合がある。例えば
図4Cのように、インピーダンスが低域、高域の複数の周波数において極大値をとるヘッドホンも存在する。
【0019】
スピーカの出力音量は電流量に比例する。スピーカに電流を供給するアンプの方式には真空管方式とトランジスタ方式とが存在する。ギターアンプにおいては真空管アンプが主流である。真空管アンプは出力トランスを用いることで、電流量が一定に保たれる定電流出力アンプである。従ってインピーダンスが増大した場合、真空管アンプにおいては電流が一定に保たれるため、インピーダンスが高い低域と高域のピークが強調されたいわゆる「ドンシャリ」といわれる音色となる。
【0020】
一方、トランジスタアンプは電圧が一定に保たれる定電圧出力アンプである。従ってインピーダンスが増大した場合、トランジスタアンプにおいては電流値が減少する。反対に、インピーダンスが小さくなる帯域においては、電流値は増大する。このため、トランジスタアンプにおいては、真空管アンプと比べてインピーダンスが高い低域、高域のピークが出ない音色となる。
【0021】
一般的なオーディオスピーカの設計においては、トランジスタアンプでスピーカを駆動するのが主流であるため、前述した低域と高域のピークが出ない音色を踏まえたうえで、スピーカの設計を行い、周波数特性をフラットに近づける設計を行うのが通常である。一方、ギターアンプの設計においては、スピーカの周波数特性をフラットにする設計ではその音色が評価されない。前述したようにギターアンプの音色としては真空管アンプの音色である低音が太く響き、高音の音がビビッドに強調されるサウンドが好まれる場合が多い。実施例2のヘッドホンは、前述した真空管アンプを高精度に模擬することを目的として実施例1のヘッドホン1を改良したものである。
【0022】
以下、実施例1に引き続き
図1、
図2を、新たに
図5を参照して本発明の実施例2のヘッドホンについて説明する。
図5は本実施例のヘッドホン2のヘッドホンアンプ61(62)の構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施例のヘッドホン2の回路構成は、実施例1のヘッドホン1と同じである。実施例1と本実施例の違いは、実施例1における左右ヘッドホンアンプ51、52が本実施例において左右ヘッドホンアンプ61、62に変更されている点のみである。本実施例のヘッドホン2が備える左右ヘッドホンアンプ61、62は、真空管アンプを模擬するために、
図5に示すような負帰還増幅回路を形成している。
図5に示すように、入力電圧Vinは、オペアンプ611の非反転入力端子(+)に入力される。オペアンプ611の出力端子は、ヘッドホンスピーカ71(72)の入力端子に接続されている。ヘッドホンスピーカ71(72)の出力端子とアースの間には、抵抗R1が設けられている。ヘッドホンスピーカ71の出力端子は、抵抗R2を介してオペアンプ611の反転入力端子(−)に接続されている。 さらに、オペアンプ611の出力端子は、抵抗R3を介してオペアンプ611の反転入力端子(−)に接続されている。
【0023】
抵抗R1は、電流検出抵抗として機能する。
図5に示した負帰還増幅回路においては、ヘッドホンスピーカ71(72)のインピーダンスが小さい帯域においては、電圧一定の条件下で電流ILが増大するため、Vr1=IL×R1が増大する。従ってオペアンプにおけるVinとVr1の差分が小さくなるため、増幅率が小さくなる。
【0024】
一方、ヘッドホンスピーカ71(72)のインピーダンスが大きい帯域においては、電圧一定の条件下で電流ILが減少するため、Vr1=IL×R1が減少する。従ってオペアンプにおけるVinとVr1の差分が大きくなるため、増幅率が大きくなる。
【0025】
従って、ヘッドホンスピーカ71(72)のインピーダンスが小さい帯域におけるVoutの増幅率が小さいため電流量の増加は抑えられ、ヘッドホンスピーカ71(72)のインピーダンスが大きい帯域においてVoutは大きく増幅されるため電流量も増加することになる。
図5の負帰還増幅回路は、トランジスタアンプであるヘッドホンスピーカ71(72)と接続することでこのような特性を持つため、本来は定電圧出力アンプであるトランジスタアンプの電流量を真空管アンプにおける電流量の周波数特性に近似させることができる。
図4で述べたように、ヘッドホンスピーカのインピーダンスの周波数特性には様々なタイプがある。そこで、本実施例のヘッドホン2に用いるヘッドホンスピーカ71(72)として、一般的なキャビネット型スピーカのインピーダンスの周波数特性と近似した特性(低域に極大値、高域になるにつれ徐々に上昇する特性)となるようなヘッドホンスピーカを選択(または調整)する(例えば
図4Aなど)。このようにして選択(または調整)したヘッドホンスピーカ71(72)を前述したヘッドホンアンプ61(62)と組み合わせて使用することで、ハイ・インピーダンスの帯域(低域、高域)において、電流量が増大するため、真空管アンプを通した楽音の再生音を高精度に模擬することができる。
【0026】
このように、本実施例のヘッドホン2によれば、実施例1の効果に加えて、ヘッドホンアンプ61(62)と、ヘッドホンスピーカ71(72)を組み合わせることにより、真空管アンプを通した楽音の再生音を高精度に模擬することができる。