(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975812
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】鋼材取り扱い用部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/599 20060101AFI20160809BHJP
B21B 39/00 20060101ALI20160809BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
C04B35/58 302C
C04B35/58 302V
B21B39/00 F
C21D1/00 115A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-201210(P2012-201210)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-55088(P2014-55088A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年7月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者:公益社団法人日本セラミックス協会 刊行物名:2012年年会講演予稿集 発行年月日:平成24年3月19日 集会名:2012年年会 主催者:公益社団法人日本セラミックス協会 開催日:平成24年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】多々見 純一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰浩
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】米屋 勝利
(72)【発明者】
【氏名】松村 保範
(72)【発明者】
【氏名】有馬 峻
【審査官】
佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−100376(JP,A)
【文献】
特開平05−301780(JP,A)
【文献】
特開平10−036174(JP,A)
【文献】
特開平07−165462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/599
B21B 39/00
C21D 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
βサイアロンとイットリウム・アルミニウム・ガーネットとのセラミックス複合体からなり、鋼材と接触する部位に用いられる鋼材取り扱い用部材であって、
前記セラミックス複合体中にイットリウム・アルミニウム・ガーネットが3〜50質量%含まれている鋼材取り扱い用部材。
【請求項2】
前記セラミックス複合体におけるβサイアロンが、Si6−ZAlZOZN8−Z(式中、Zは0.5〜3の数を表す。)で表されるものである請求項1に記載の鋼材取り扱い用部材。
【請求項3】
高張力鋼を搬送するために用いられる請求項1又は2に記載の鋼材取り扱い用部材。
【請求項4】
前記高張力鋼がMnを含むものである請求項3に記載の鋼材取り扱い用部材。
【請求項5】
少なくとも表面部位が前記セラミックス複合体からなる搬送用ローラーである請求項1ないし4のいずれか一項に記載の鋼材取り扱い用部材。
【請求項6】
請求項1に記載の鋼材取り扱い用部材の製造方法であって、
Si3N4、Y2O3、Al2O3及びAlNを含む混合物を成形し、成形体を窒素ガス雰囲気下において1600〜1800℃で2〜12時間焼成してβサイアロンとイットリウム・アルミニウム・ガーネットとのセラミックス複合体を得、次いで該セラミックス複合体を窒素ガス雰囲気下において1350〜1650℃で4〜12時間アニールする工程を有し、
前記複合体セラミックス中にイットリウム・アルミニウム・ガーネットが3〜50質量%生成するようにSi3N4、Y2O3、Al2O3及びAlNを混合する、鋼材取り扱い用部材の製造方法。
【請求項7】
前記複合体セラミックス中にSi6−ZAlZOZN8−Z(式中、Zは0.5〜3の数を表す。)で表されるβサイアロンが生成するようにSi3N4、Y2O3、Al2O3及びAlNを混合する請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス複合体からなる鋼材取り扱い用部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を熱間圧延するときに鋼材を搬送させるために用いられる搬送用ローラーとしては、従来金属製のものや、金属の表面にタングステンカーバイド等を溶射したものが用いられてきた。しかし、金属製のローラーは摩耗しやすく、また耐食性や耐熱性の点でも満足すべきものではなかった。そこで、金属製ローラーが有する問題点を解消することを目的として、セラミックス製のローラーが種々提案されている。例えば特許文献1及び2には、熱間圧延ラインにおいて鋼材を搬送するのに用いられるローラーとして、窒化ケイ素やサイアロン等の窒化ケイ素系セラミックスを用いることが提案されている。窒化ケイ素系セラミックスは、高強度、高耐摩耗性、高耐食性及び高耐熱衝撃性などの優れた機械的特性を有するので、高温構造部材である鋼材搬送用ローラーとして適した材料である。しかし、熱間圧延される鋼材は900℃前後の高温で搬送され、かつ鋼材とローラーとの間には各種応力が作用するので、鋼材と、ローラーを構成する窒化ケイ素系セラミックスとの間で化学的な反応が生じたり、窒化ケイ素系セラミックスの摩耗・破損が生じたりすることがある。
【0003】
ところで、上述した技術とは別に、窒化ケイ素系セラミックスの各種特性を向上させることを目的として、窒化ケイ素系セラミックスの一種であるサイアロンを、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)と複合化させる技術が提案されている(特許文献3ないし5参照)。例えば特許文献3には、焼結助剤としてY
2O
3を添加したβ−サイアロン質焼結体において、粒界相をYAGの結晶相とすることが記載されている。この構成を採用することで、1300℃を超える高温域での強度が極めて高いβ−サイアロン質焼結体が得られると、同文献には記載されている。
【0004】
特許文献4には、α−Al
2O
3とβ−サイアロンとYAGの三相とからなる焼結・焼鈍複合材が記載されている。この複合材においては、α−Al
2O
3とβ−サイアロンとの両相が大部分を占め、かつ小部分のYAGの相がα−Al
2O
3とβ−サイアロンとの両相の間の境界に位置している。この構成を採用することで、高温における機械的特性及び耐食性が優れたものになると、同文献には記載されている。
【0005】
特許文献5には、一般式Y
x(Si,Al)
12(O,N)
16で表されるα−サイアロンにおいて、式中のxが0.35以上0.60以下の範囲内であるα−サイアロン粒子が60重量%以上97重量%未満と、結晶質のYAGからなる粒界相が3重量%以上40重量%未満からなるα−サイアロン質焼結体が記載されている。このα−サイアロン質焼結体は常圧焼結が容易なものであると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−155415号公報
【特許文献2】特開2005−271035号公報
【特許文献3】特開平6−100376号公報
【特許文献4】特開平7−165462号公報
【特許文献5】特開平8−277165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献3ないし5には、これらの文献に記載のサイアロン/YAG複合体を、鋼材を熱間圧延するときの搬送用ローラーとして用いることについて何ら言及されていない。したがって、サイアロン/YAG複合体と高温の鋼材との反応性等については、これらの文献の記載からは不明である。
【0008】
また、従来使用されている金属製のローラーは、摩耗及び焼き付き等による交換・補修が必要となる為、コスト増加や生産性低下が欠点として挙げられる。
【0009】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る鋼材取り扱い用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、βサイアロンとイットリウム・アルミニウム・ガーネットとのセラミックス複合体からなり、鋼材と接触する部位に用いられる鋼材取り扱い用部材
であって、
前記セラミックス複合体中にイットリウム・アルミニウム・ガーネットが3〜50質量%含まれている鋼材取り扱い用部材を提供するものである。
【0011】
また本発明は、前記の鋼材取り扱い用部材の好適な製造方法として、
Si
3N
4、Y
2O
3、Al
2O
3及びAlNを含む混合物を成形し、成形体を窒素ガス雰囲気下において1600〜1800℃で2〜12時間焼成してβサイアロンとイットリウム・アルミニウム・ガーネットとのセラミックス複合体を得、次いで該セラミックス複合体を窒素ガス雰囲気下において1350〜1650℃で4〜12時間アニールする
工程を有し、
前記複合体セラミックス中にイットリウム・アルミニウム・ガーネットが3〜50質量%生成するようにSi3N4、Y2O3、Al2O3及びAlNを混合する、鋼材取り扱い用部材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温摺動下における耐摩耗性及び鋼材添加物に対する化学的耐久性に優れた鋼材取り扱い用部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)は、実施例1における焼成後の焼成体のX線回折図であり、
図1(b)は、実施例1におけるアニール後の焼成体のX線回折図である。
【
図2】
図2(a)は、実施例2における焼成後の焼成体のX線回折図であり、
図2(b)は、実施例2におけるアニール後の焼成体のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の鋼材取り扱い用部材は、少なくとも鋼材と接触する部位、特に直接接触する部位が、β−サイアロンとイットリウム・アルミニウム・ガーネット(以下、「YAG」)とのセラミックス複合体からなる。ここで言うセラミックス複合体とは、X線回折測定を行ったときに、β−サイアロン及びYAGの双方の回折ピークが観察されるセラミックスのことである。このセラミックス複合体は、β−サイアロン及びYAGの回折ピークのみが観察され、他のセラミックス材料の回折ピークは観察されないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において他のセラミックス材料、例えばYN(窒化イットリウム)等の回折ピークが弱く観察されることは許容される。
【0015】
本発明で用いられるセラミックス複合体におけるβ−サイアロンは、窒化ケイ素(Si
3N
4)にアルミニウム(Al)及び酸素(O)が固溶した化合物であり、一般式Si
6-ZAl
ZO
ZN
8-Zで表される。式中のZは、0<Z≦4.2の条件を満たす数である。一方、本発明で用いられるセラミックス複合体におけるYAGはイットリウムとアルミニウムの複合酸化物から成るガーネット構造の化合物であり、Y
3Al
5O
12で表される。YAGは、本発明で用いられるセラミックス複合体において、β−サイアロンからなる結晶粒の粒界に存在していることが好ましい。
【0016】
本発明で用いられるセラミックス複合体においては、β−サイアロンとYAGとの合計量に対して、YAGが3〜50質量%含まれていることが好ましく、5〜20質量%含まれていることが更に好ましい。YAGの含有割合をこの範囲内とすることで、本発明の搬送用部材は、高温摺動下における耐摩耗性及び鋼材添加物に対する化学的耐久性が優れたものとなる。YAGの含有割合をこの範囲に設定するためには、例えばセラミックス複合体の製造において、原料として用いる各種材料の配合割合を適切に設定すればよい。セラミックス複合体におけるYAGの含有割合は、X線回折ピーク面積から測定することができる。
【0017】
また本発明で用いられるセラミックス複合体においては、一般式Si
6-ZAl
ZO
ZN
8-Zで表されるβ−サイアロンにおけるZの値を0.5〜3に設定することが好ましく、1〜2に設定することが更に好ましい。Zの値をこの範囲内とすることで、本発明の搬送用部材は、高温摺動下における耐摩耗性及び鋼材添加物に対する化学的耐久性が優れたものとなる。Zの値をこの範囲に設定するためには、例えばセラミックス複合体の製造において、原料として用いる各種材料の配合割合を適切に設定すればよい。セラミックス複合体におけるZの値は、X線回折結果から格子定数を求めることによって同定することができる。
【0018】
本発明で用いられるセラミックス複合体は、そのビッカース硬さが低い場合には部材の摩耗量が多くなる傾向にあり、一方、高すぎる場合には鋼板表面に傷が発生しやすくなる。このためビッカース硬さは12〜16GPaであることが好ましい。また、短期間での破損を防止することを目的として、本発明で用いられるセラミックス複合体はその破壊靱性が5MPam
1/2以上であることが好ましい。ビッカース硬さは、JIS R1610「ファインセラミックスの硬さ試験方法」及びJIS R1623「ファインセラミックスの高温ビッカース硬度測定方法」に準拠して測定される。破壊靱性は、JIS R1607「ファインセラミックスの破壊靱性試験方法」及びJIS R1617「ファインセラミックスの高温破壊靭性試験方法」に準拠して測定される。
【0019】
上述のセラミックス複合体を有する本発明の鋼材取り扱い用部材は、例えば鋼材と直接接触する部材、具体的には圧延ローラーの近傍に設置され、熱間圧延の対象物である鋼塊や、圧延によって得られた鋼板、鋼帯、形鋼、平鋼及び棒鋼などを搬送するための搬送用ローラーとして好適に用いられるが、これ以外の部材として用いることもできる。例えば少なくとも表面部位が上述のセラミックス複合体からなる高温環境下で使用可能な耐摩耗性を有する鋼材用治具として使用することができる。本発明の鋼材搬送用部材を搬送用ローラーとして用いる場合、少なくともローラーの周面が上述のセラミックス複合体から構成されていることが好ましい。
【0020】
搬送対象物である鋼材は、鉄、クロム及びニッケルを主成分とする合金であり、更に各種の性能を向上させることを目的として様々な元素、例えば炭素、ケイ素、チタン、マンガン等が微量添加されている。このような鋼材を圧延工程において搬送するときの部材として、本発明の搬送用部材を用いることで、鋼材に添加された各種の微量元素と、該搬送用部材との反応が起こりづらくなる。特に、本発明者らが鋭意検討した結果、本発明の搬送用部材は、マンガンを含む鋼材との反応性が低いことが判明した。マンガンを含む鋼材としては、引張強度が約600MPa以上である高張力鋼が知られている。したがって本発明の搬送用部材を、高張力鋼を搬送するために用いると、本発明の有利な効果が顕著に奏される。
【0021】
本発明の搬送用部材におけるセラミックス複合体は、好適には次の方法で製造される。まず原料を用意する。原料としては、Si
3N
4、Y
2O
3、Al
2O
3及びAlNを用いる。Si
3N
4としては、α−Si
3N
4及びβ−Si
3N
4のうちのどちらを用いてもよく、特にαからβへの相転移を伴う溶解−再析出が焼結の駆動力となり、緻密化が進行することから、α−Si
3N
4を用いることが好ましい。
【0022】
Si
3N
4原料は、その平均粒径が0.5〜1.5μm、特に0.6〜0.8μmであることが、相対密度の増加、すなわち焼結体の緻密化の点から好ましい。この平均粒径は、例えばレーザー回折散乱法や動的光散乱法によって測定される。
【0023】
各原料は、目的とするセラミックス複合体において、β−サイアロンにおけるZの値が所望の値となるように混合される。また、目的とするセラミックス複合体においてYAGの含有割合が所望の値となるように混合される。
【0024】
各原料の混合は、例えばエタノール、ヘキサン、アセトン等の有機溶媒を分散媒として用い、ボールミル等の公知の混合装置を用いて行うことができる。
【0025】
混合完了後に有機溶媒を除去した後、混合物を所定の形状に成形する。成形方法としては、プレス成形、静水圧加圧成形及び押出成形など公知の成形方法を採用する事ができる。
【0026】
このようにして得られた成形体は次いで焼成に付される。焼成に先立ち成形体の脱脂を行ってもよい。脱脂は、大気雰囲気下に成形体を300〜900℃の温度範囲で、2〜10時間程度加熱することで行われる。この加熱によって成形体中に含まれる有機化合物が燃焼して除去される。
【0027】
焼成は、加圧窒素雰囲気下に成形体を1600〜1800℃、特に1700〜1800℃に加熱することで行うことが好ましい。この温度範囲で焼成を行うことを条件として焼成時間は、2〜12時間、特に2〜4時間とすることが好ましい。焼成方法としては上記のガス圧焼成以外に、加圧焼成(HP及びHIP)を採用することができる。
【0028】
このようにして焼成体が得られる。この焼成体は、仕込みの原料の組成によっては、YAGが十分に生成していない場合がある。特にYAGの含有割合を低く設定した組成の混合物を用いると、YAGが生成しにくい場合がある。YAGの生成を促進させる観点から本発明者らが鋭意検討した結果、焼成後の焼成体をアニールすることが有効であることが判明した。アニールは、焼成の最高温度よりも低い温度で行うことが好ましい。この観点から、アニールの温度は、焼成の最高温度よりも低いことを条件として、1350〜1650℃、特に1500〜1600℃とすることが好ましい。アニール時間はアニール温度がこの範囲内であることを条件として4〜14時間、特に4〜6時間とすることが好ましい。アニールの雰囲気は、焼成の雰囲気と同様に窒素雰囲気とすることが好ましい。
【0029】
このようにして得られたセラミックス複合体は、例えば金属製のローラー軸心に嵌着されて、鋼材の圧延に用いられる搬送用ローラーをはじめとする各種の搬送用部材として好適に用いられる。
【0030】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明の範囲はかかる実施形態に制限されず、当業者の通常の知識の範囲内で適宜改変することが可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0032】
〔実施例1〕
(1)原料の種類及びその組成
原料として、Si
3N
4(宇部興産製 SN−E10)、Y
2O
3(信越化学製 RU−P)、Al
2O
3(住友化学製 AKP−30)、AlN(トクヤマ製 Hグレード)を用いた。Si
6-ZAl
ZO
ZN
8-Zで表されるβ−サイアロンにおけるZが1となり、かつセラミックス複合体におけるYAGの含有割合が5質量%になる組成となるように、これら各原料を秤量した後、エタノールと混合してスラリーとなした。このスラリーをボールミルによって混合した。混合後、乾燥によってエタノールを除去して乾燥混合物を得た。
【0033】
(2)プレス成形
調製した乾燥混合物を約2g採取し、直径15mmのステンレス製金型内に充填した。ステンレス製のピストンを用いて金型内の混合物をプレス成形した。圧力は50MPaとし、加圧時間は30秒とした。
【0034】
(3)冷間静水圧成形
プレス成形で得られた成形体の面取りを行った後、これをナイロン製の袋に入れて真空パックを行った。真空パックした成形体を、200MPaの圧力、60秒の加圧時間で冷間静水圧成形した。
【0035】
(4)脱脂
得られた成形体からバインダ等の有機化合物を除去することを目的として脱脂を行った。成形体をアルミナ製のボートに載せ、横型管状抵抗炉内に載置した。温度300℃、400℃及び500℃それぞれで2時間保持して脱脂を行った。
【0036】
(5)焼成
脱脂後の成形体を、0.9MPaの窒素ガス雰囲気下、1700℃で2時間保持して焼成体を得た。得られた焼成体のX線回折図を
図1(a)に示す。
【0037】
(6)アニール
一旦室温まで冷却した焼成体を0.9MPaの窒素ガス雰囲気下に再び加熱した。加熱は1600℃で4時間行い、目的とする焼成体を得た。得られた焼成体のX線回折図を
図1(b)に示す。
【0038】
〔実施例2〕
実施例1と同様の原料及び工法を用い、Si
6-ZAl
ZO
ZN
8-Zで表されるβ−サイアロンにおけるZが1となり、かつセラミックス複合体におけるYAGの含有割合が50質量%になる組成で焼結体を得た。焼成後及びアニール後の焼成体のX線回折図を
図2(a)及び(b)に示す。
【0039】
〔比較例1〕
本比較例はβ−サイアロンのみからなる焼成体を製造した例である。原料の組成以外は実施例1と同様にして焼成体を得た。この組成は、Si
6-ZAl
ZO
ZN
8-Zで表されるβ−サイアロンにおけるZが1となる組成である。
【0040】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた焼成体について、圧縮応力下試験及び高温摺動試験を以下の方法で行い、試験後の焼結体について、微細構造の観察を以下の方法で行った。それらの結果を以下の表1に示す。圧縮応力下試験及び高温摺動試験の双方を行った理由は、転がり手動は、圧縮成分とすべり成分で構成されているからである。
【0041】
〔圧縮応力下試験〕
焼成体を直方体に加工し、更にその一側面を、曲率半径10mmの円柱曲面状に加工して、圧延鋼板搬送用ロールを模したかまぼこ形の試験片を2個作製した。2個の試験片における円柱曲面部分が上方を向くように両試験片をその長手方向が平行となるように載置した。次いで、試験片の円柱曲面部分の上に、マンガンを約2質量%含有する高張力鋼板を橋渡しした。この状態での接触応力は、最大面圧が3.1MPaであり、平均面圧が2.4MPaであった。この接触応力は、弾性接触を仮定したときの接触応力(平均面圧約0.5MPa)よりも高いものであり、実際には鋼板が組成変形する条件なので、厳しい条件であると言える。この状態のまま管状炉内に設置し、炉内を900℃で0.5時間加熱した。炉内の雰囲気は純窒素ガス+5質量%水素ガスとした。また昇温速度は10℃/minとした。
【0042】
〔高温摺動試験〕
リングオンディスク装置を用いた。面圧0.9MPa、剪断速度0.1m/s、摺動距離200mの条件で、温度900℃で焼成体と高張力鋼板とを摺動させた。雰囲気は純窒素ガス+5質量%水素ガスとした。
【0043】
〔微細構造の観察〕
圧縮応力下試験及び高温摺動試験後の焼成体について、走査型電子顕微鏡を用いて二次電子像及び反射電子像を観察した。
【0044】
〔評価2〕
実施例及び比較例で得られた焼成体について、ビッカース硬さ及び破壊靱性を、上述した方法で測定したその結果を以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例で得られた焼成体は、高張力鋼板との反応が起こっておらず、高温における化学的安定性に優れたものであることが判る。また、満足すべきビッカース硬さ及び破壊靱性を有するものであることが判る。
また、
図1及び
図2に示す結果から明らかなとおり、YAGの含有割合を低く設定した実施例1では、焼成後にはYAGの十分な生成は観察されないものの、焼成後にアニールを行うことで、YAGが十分に生成することが判る。これに対して、YAGの含有割合を高く設定した実施例2では、焼成後において既にYAGの生成が十分であることが判る。
【0047】
〔評価3〕
実施例及び比較例で得られた焼成体について、高温摺動による摩耗量を以下の方法で測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0048】
〔高温摺動による摩耗量〕
上述した高温摺動試験を行った後の焼成体及び高張力鋼板の摩耗率を測定した。摩耗率は、試験前後の試験片体積変化、荷重及び摺動距離から式1によって算出した。
摩耗体積/(荷重×摺動距離)(式1)
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた焼成体を用いると、高張力鋼板の摩耗率が10
-7mm
2/N以下となり、当該技術分野においてマイルド摩耗であると認識されているレベル以下であることが判る。特にYAGの含有割合が5質量%である実施例1の焼成体の摩耗率が低いことは特筆に値するものである。