(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の、電気化学素子用セパレータの製造方法および製造装置について、
図1を用いて説明する。
【0012】
図1は、本発明の、電気化学素子用セパレータの製造装置の模式的断面図である。
電気化学素子用セパレータの製造装置(10)は、主として、多孔シートの搬送手段(6、以降、搬送手段と称する)、表面に炭素系皮膜層を備える塗工ロール(4、以降、塗工ロールと称する)、塗工ロール(4)の表面に塗工成分と溶媒を含有する塗工液(2、以降、塗工液と称する)を供給できる塗工液槽(3)を備えている。そして、
図1に図示されている電気化学素子用セパレータの製造装置(10)は、主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)から溶媒を除去できる、加熱装置(8)を備えている。
【0013】
また、
図1では、多孔シート(1)の搬送方向を矢印線Aで示しており、多孔シートの搬送手段(6)として、対をなす回転体を多孔シート(1)の搬送方向(A)における上流側と下流側の各々に設けた態様を図示している。そして、対をなす回転体は、多孔シート(1)が搬送方向(A)に移動するのを促す態様で回転している。
【0014】
なお、
図1では、例えばロールなどの回転体が、多孔シート(1)が搬送方向(A)に移動するのを促し得るように回転する態様を矢印線Cで図示しており、多孔シート(1)が搬送方向(A)に移動するのを阻害し得るように回転する態様を矢印線Bで図示している。以降、例えばロールなどの回転体が、多孔シート(1)が搬送方向(A)に移動するのを促し得る態様で回転していることを正方向に回転(矢印線Cの方向に回転)すると称し、多孔シート(1)が搬送方向(A)に移動するのを阻害し得る態様で回転していることを逆方向に回転(矢印線Bの方向に回転)すると称する。
【0015】
そして、本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、塗工ロール(4)を用いて、搬送されている多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を塗工する工程を備えている。
次いで、このようにして調製した主面に塗工液(2)が均一に塗工された多孔シート(1)から、溶媒を除去することで、主面に塗工成分が均一に存在する電気化学素子用セパレータを製造することができる。
【0016】
次いで、本発明の詳細について、説明する。
【0017】
多孔シート(1)は通気性を備えるシートを意味しており、例えば、不織布や織物あるいは編物などの布帛、通気性を備える多孔フィルムや通気性を備える発泡体などの素材から構成することができる。また、これらの素材は単体で多孔シート(1)として使用できるが、複数の素材を積層するなど組み合わせて多孔シート(1)として使用することもできる。
【0018】
多孔シート(1)を構成する成分は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーからなることができる。
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機ポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
更には、有機ポリマーを混ぜ合わせたものでも良く、特に限定されるものではない。
【0019】
多孔シート(1)が布帛から構成されている場合、布帛を構成する繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0020】
前記布帛が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を、織るあるいは編むことで多孔シート(1)を調製することができる。
【0021】
前記布帛が不織布である場合、不織布として例えば、カード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせて不織布の態様とする乾式不織布、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き不織布の態様とする湿式不織布、直接法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009−287138号公報に開示の方法など)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集してなる不織布を用いて、多孔シート(1)を調製することができる。
また、このようにして調製された不織布における繊維の絡合の程度を調整するため、不織布をニードルパンチ装置や水流絡合装置に供することができる。
【0022】
布帛を構成する繊維は、一種類あるいは複数種類の樹脂成分から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂成分を含んでなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの複合繊維を使用することができる。
【0023】
また、布帛を構成する繊維同士を一体化するため、繊維同士をバインダで一体化する、あるいは、布帛を構成する繊維のうち1種類以上の繊維が、熱接着性の繊維成分を備える場合には、布帛を加熱処理することで前記繊維成分を溶融して、繊維同士を一体化することができる。
【0024】
多孔シート(1)が通気性を備える多孔フィルムや通気性を備える発泡体である場合、例えば、溶融状態の樹脂を型に流し込み成型、発泡処理するなど、公知の方法へ供することで多孔シート(1)を調製することができる。
【0025】
多孔シート(1)が備える孔の平均直径は特に限定されるべきものではないが、塗工液(2)中で粒子形状をなす塗工成分を溶媒に分散させて調製した塗工液(2)を多孔シート(1)に塗工する場合であっても、多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工できるように、多孔シート(1)における孔の平均直径は塗工液(2)中に含まれる塗工成分の平均粒子径よりも大きいのが好ましい。
【0026】
また、孔の平均直径の上限値は特に限定するものではないが、多孔シート(1)が備える孔の平均直径が大きすぎると塗工液(2)を塗工した際に、多孔シート(1)にピンホールなどの塗工成分の不存在領域ができ易くなることから、孔の平均直径は50μm以下であるのが好ましく、30μm以下であるのがより好ましく、20μm以下であるのが最も好ましい。
【0027】
なお、多孔シート(1)における孔の平均直径とは、多孔シート(1)をPMI社製Perm−Porometer装置に供しバブルポイント法(ASTMF316−86,JIS K3832)に基づき測定して得られる値をいう。つまり、測定を5回行い、その測定して得られた個々の細孔径分布を細孔径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示したプロットデータにおける累積値50%点の孔径分布の累積値(以降、D
50と略して称する)を、多孔シート(1)が備える孔の平均直径とする。
【0028】
多孔シート(1)の目付、厚さなどの諸特性は、特に限定されるべきものではなく、適宜調整するのが好ましいが、多孔シート(1)の目付は、5〜20g/m
2であるのが好ましく、8〜15g/m
2であるのがより好ましく、10〜12g/m
2であるのが最も好ましく、多孔シート(1)の厚さは、10〜40μmであるのが好ましく、15〜30μmであるのがより好ましく、20〜25μmであるのが最も好ましい。
なお、本発明では、目付とは面積1m
2あたりの質量をいい、厚さとは厚さ測定器(デジマチック標準外側マイクロメータ(MCC−MJ/PJ)1/1000mm(株)ミツトヨ)により計測した、500g荷重時測定値の5点の厚さの算術平均値をいう。
【0029】
塗工液(2)は、溶媒に塗工成分を溶解させる、あるいは、溶媒中で粒子形状をなす塗工成分を溶媒に分散させることで調製できる。
塗工液(2)を調製するために使用できる溶媒の種類は、適宜選択することができ限定されるものではないが、水、メタノールやエタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランやブチルセロソルブなどのエーテル系溶媒、ヘキサンなどの非極性溶媒などを、例示することができる。
【0030】
また、塗工成分として、例えば、有機ポリマー、無機粒子、色素、難燃剤、防虫剤、芳香剤、脱臭剤、触媒、界面活性剤などを、例示することができ、これらの塗工成分のうち一種類あるいは複数種類を溶媒に溶解させる、あるいは、溶媒に分散させて、塗工液を調製することができる。
【0031】
塗工成分として使用できる有機ポリマー粒子の種類は、適宜選択することができるため限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体[スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、セルロース誘導体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、PVDF、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、アクリル樹脂などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0032】
塗工成分として使用できる無機粒子の種類は、適宜選択することができるため限定されるものではないが、例えば、酸化鉄、SiO
2(シリカ)、Al
2O
3(アルミナ)、アルミナ−シリカ複合酸化物、TiO
2、SnO
2、BaTiO
2、ZrO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物など、あるいは金属酸化物など無機成分の酸化物などを例示することができる。
【0033】
なお、無機粒子として真球状の無機粒子を用いると、主面に真球状の無機粒子が均一に担持された多孔シート(1)を製造することができる傾向があり好ましい。
真球状の無機粒子として、無機粒子を調製可能な原料の粉塵雲を、例えば空気、酸素、塩素、窒素などの反応ガス雰囲気下で爆燃させ、無機粒子を製造する方法(例えば、特開昭60−255602号公報に開示の方法など)により得られる無機粒子(以降、爆燃無機粒子と称する)を例示できる。
【0034】
更に、爆燃無機粒子中に存在する水分量は少ないことが知られているため、爆燃無機粒子が担持された多孔シート(1)を用いて、例えば、リチウムイオン二次電池用セパレータなど非水系電解液を用いてなる電気化学素子用セパレータを調製することで、前記セパレータを用いて製造される電気化学素子において、非水系電解液に水分が混入することに起因する内部短絡を防ぐことができる。
【0035】
このような、爆燃無機粒子として、例えば、株式会社アドマテックス社のシリカ粒子(アドマファイン:登録商標、商品名:SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6)、株式会社アドマテックス社のアルミナ粒子(アドマファイン:登録商標、商品名:AO−802、AO−809、AO−820、AO−502、AO−509、AO−520)などを挙げることができる。
【0036】
塗工成分が溶媒中で粒子形状をなすものである場合、本発明で使用できる塗工成分の平均粒子径は特に限定されるべきものではないが、塗工成分の平均粒子径は多孔シート(1)における孔の平均直径よりも小さいのが好ましく、平均粒子径を0.1〜3μmの範囲内とすることができ、0.2〜2μmの範囲内とすることができ、0.2〜0.5μmの範囲内とすることができる。
【0037】
なお、本発明の塗工成分の平均粒子径は、粒子を大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm〜5000nm)に供して、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求める。つまり、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示したデータにおける粒子の累積値50%点の粒子径(以降、D
50と略して称する)を、粒子の平均粒子径とする。なお、測定に使用する分散液は温度25℃に調整し、25℃の水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0038】
また、本発明の塗工成分の粒子径分布は特に限定されるべきものではないが、塗工成分の粒子径分布が広過ぎると多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工することが困難となる恐れがある。
そのため、本発明の塗工成分の粒子径分布は(D
50/2)以上(D
50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお塗工成分の粒子径分布は前述した動的光散乱法で測定し、測定強度から得られた粒子径測定データから求める。
【0039】
塗工液の粘度については特に限定されるものではないが、塗工液の粘度が高すぎると塗工ロール表面(炭素系皮膜層の表面)から多孔シート主面に向かい塗工液が移動し難くなる恐れがあり、粘度が低すぎると塗工ロール(4)の表面に塗工液(2)を保持することが困難となる恐れがある。なお、この問題は、表面に窪みを備えた塗工ロール(4)を用いた場合に発生し易くなる傾向があることから、表面に窪みを備えた塗工ロール(4)を用いる場合には、塗工液の粘度をせん断速度が100(単位:1/s)のとき0.01〜1Pasとなるように調整するのが好ましく、0.01〜0.1Pasに調整するのがより好ましい。
【0040】
なお、本発明でいう塗工液の粘度は、塗工液をサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製RheoStress6000に供し、直径が60mmのコーン型プレートを用い温度25℃、ギャップ0.103mmで速度を1×10
−7〜10
−1まで変化させたときに得られる応力から求めた粘度をいう。なお、粘度は以下の式から算出することができる。
・せん断速度(1/s)=速度(m/s)×ギャップ(m)
・シアストレス(Pa)=F(N)/プレート面積(m
2)
・粘度(Pas)=シアストレス(pa)/せん断速度(1/s)
【0041】
搬送手段(6)は、多孔シート(1)を搬送方向(A)へ移動させることのできる手段である。
搬送手段(6)の種類は限定されるものではなく、例えば、対をなすニップロールなどの回転体やベルトコンベアなどを用いることができる。また、塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)又は調製された電気化学素子用セパレータの巻取装置(
図1−
図2では図示せず)を搬送手段(6)として用いることもできる。
【0042】
なお、搬送手段(6)が設置される位置や多孔シート(1)を搬送する速度は、多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工できるように、適宜調整する。
また、搬送中の多孔シート(1)にシワやたるみが発生しないように、搬送手段(6)が多孔シート(1)へ作用させる張力は、適宜調整する。
【0043】
塗工ロール(4)の種類は、多孔シート(1)主面に塗工液(2)を塗工することができるロールであればよく、例えばグラビアロール、スムージングロールなどを用いることができる。
【0044】
そして、本発明の塗工ロール(4)は、「表面に炭素系皮膜層を備える塗工ロール」であることを特徴としている。本発明で言う炭素系皮膜層とは、ダイアモンドの層、あるいは、炭化水素や炭素の同素体(例えば、ダイアモンドライクカーボン、グラファイトなど)から成る層をいう。
【0045】
本発明者らは、表面に炭素系皮膜層を備える塗工ロール(4)を用いて多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を塗工することで、多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工できることを見出した。
この理由として、表面に離液性に優れる性質を有する炭素系皮膜層が存在していることによって、塗工ロール(4)の表面(炭素系皮膜層の表面)から多孔シート(1)の主面に向かい塗工液(2)が移動し易いためだと考えられる。
【0046】
なお、塗工ロール(4)表面が離液性に優れる性質を備える層を備えているか否かは、次に説明する離液性の測定方法により判断することができる。
【0047】
(離液性の測定方法)
1.塗工ロール(4)の表面を構成する素材を用いてなる平板を用意する。
2.前記平板を水滴接触角計(協和界面科学株式会社製 型番:DM−S01)に供することで、純水40μLの液滴を前記平板上に滴下した際の、純水が成す水滴接触角を測定する。
3.測定された水滴接触角が70°以上の値を示す場合、前記塗工ロール(4)表面は離液性に優れる性質を備える素材の層を備えているとみなす。
【0048】
炭素系皮膜層は離液性に優れているほど、塗工ロール表面(炭素系皮膜層の表面)から多孔シート主面に向かい塗工液が移動し易くすることができるが、炭素系皮膜層の離液性が高すぎると塗工ロール(4)の表面に塗工液(2)を保持することが困難となる恐れがある。そのため、塗工ロール(4)は、表面に上述した(離液性の測定方法)により得られる水滴接触角が140°以下の値を示す炭素系皮膜層を備えているのが好ましい。
【0049】
塗工ロール(4)の表面は平滑であっても、例えば、梨地状や溝あるいは窪みなど凹凸を備える態様であってもよい。塗工ロール(4)の表面に設けられる凹凸の形状や大きさは、多孔シート(1)に塗工しようとする塗工液(2)の組成や粘度あるいは塗工量によって適宜調整する。
【0050】
塗工液(2)中で粒子形状をなす塗工成分が分散してなる塗工液(2)を用いる場合には、表面に凹凸を備えている塗工ロール(4)を採用すると、更に、多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工できる傾向があることから好ましい。
【0051】
なお、溝の形状として、例えば、不織布の搬送方向に対して平行や直交あるいは斜線をなす溝の形状や、格子形状をなす溝の形状を例示できる。
また、窪みの形状として、例えば、丸形状や多角形状あるいは不定形状をなす窪みの形状を例示できる。なお、前記溝の配置は適宜調整できるものであり、平行配列した配置やランダム配置あるいは千鳥配置などであることができる。
【0052】
また、塗工ロール(4)の回転方向と回転速度は限定されるものではなく、多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工できるように、適宜調整する。
【0053】
そして、塗工ロール(4)の回転軸方向における長さは、多孔シート(1)の主面全体に塗工液(2)を均一に塗工できるように、多孔シート(1)の主面における、多孔シート(1)の搬送方向(A)と直交する方向(以降、幅方向、と称する)の長さよりも長いことが望ましい。
【0054】
また、多孔シート(1)に塗工液(2)を塗工する際の、塗工液(2)の温度(換言すれば、塗工成分の温度)は適宜調整することができ、例えば、5℃〜50℃とすることができ、20℃〜40℃とすることができる。
【0055】
上述のようにして調製した、主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)から溶媒を除去する方法は、適宜調製できる。例えば、主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)を、室温(25℃)に放置する方法、減圧条件下に曝す方法、溶媒が揮発可能な温度以上の雰囲気下に曝す方法、あるいは、
図1に図示しているように主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)を加熱装置(8)へ供する方法を挙げることができる。
【0056】
加熱装置(8)として、例えば、近赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ、ハロゲンヒータなどの加熱により溶媒を除去する方法、あるいは、送風などにより溶媒を除去する方法、あるいは、加熱と送風を組み合わせた方法を使用することができる。なお、加熱温度や送風量は適宜調整する。
【0057】
多孔シート(1)が熱接着性を有する有機ポリマーを備えた繊維を用いて構成されている場合には、加熱装置(8)によって熱接着性の成分を溶融させることで、多孔シート(1)を構成する繊維同士を一体化することができる。
また、塗工液(2)中に熱接着性を有する有機ポリマー粒子が分散している場合には、加熱装置(8)によって有機ポリマー粒子を溶融させて、多孔シート(1)を構成する繊維同士を一体化することができる。
あるいは、塗工液(2)中に有機ポリマーが溶解している場合には、加熱装置(8)によって塗工液(2)から溶媒を除去することで有機ポリマーを析出させて、多孔シート(1)を構成する繊維同士を一体化することができる。
【0058】
本発明の、別の電気化学素子用セパレータの製造方法および製造装置について、
図2を用いて説明する。なお、
図2に図示した別の繊維集合体の製造装置(20)は、
図1で説明した、塗工成分が担持された多孔シートの製造装置(10)が主として備えている手段の他に、押さえロール(7)と回転するロール(5、5’)を備えている。そして、
図2では、押さえロール(7)が正方向に回転(C)する態様を図示しており、回転するロール(5、5’)が共に逆方向に回転(B)する態様を図示している。
【0059】
本発明の別の電気化学素子用セパレータの製造方法は、主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)におけるもう一方の主面(
図2における紙面上の上側主面)に、逆方向に回転(B)するロール(5)を接触させるのが好ましい。主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)におけるもう一方の主面に、逆方向に回転(B)するロール(5)を接触させることによって、更に、主面に塗工液(2)が均一に塗工された多孔シート(1)を製造できる傾向がある。
【0060】
この効果が発揮される理由は、完全に明らかとなっていないが、多孔シート(1)と逆方向に回転(B)するロール(5)の接触部分において、多孔シート(1)の主面からもう一方の主面に向かう方向に陰圧が生じ易くなり、多孔シート(1)の主面に塗付された塗工液(2)が裏面に向かい移動して、塗工液(2)が多孔シート(1)の主面上で分散するため、多孔シート(1)の主面に塗工液(2)を均一に塗工できると考えられる。
【0061】
また、本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)における主面に、回転する別のロール(5’)を接触させるのが好ましい。主面に塗工液(2)が塗工された多孔シート(1)における主面に、回転する別のロール(5’)を接触させることによって、更に、主面に塗工液(2)が均一に塗工された多孔シート(1)を製造できる傾向がある。
【0062】
この効果が発揮される理由は、完全に明らかとなっていないが、多孔シート(1)の主面に塗工された塗工液(2)が回転する別のロール(5’)と接触することで、塗工液(2)が多孔シート(1)の主面上で分散するためであると考えられる。
なお、別の回転するロール(5’)の回転方向は、正方向あるいは逆方向のいずれかとなるように適宜調整することができるが、主面に塗工液(2)が均一に塗工された多孔シート(1)を製造できる傾向があることから、別の回転するロール(5’)は逆方向に回転(B)させるのが好ましい。
【0063】
回転するロール(5、5’)を構成する素材は限定するものではなく、例えば金属、ガラス、陶器、有機ポリマーなどを使用することができる。また、表面に炭素系皮膜層を備えていてもよい。
そして、回転するロール(5、5’)の表面形状は、塗工ロール(4)の表面と同様に平滑であっても、例えば、梨地状や溝あるいは窪みなど凹凸を備える態様であってもよい。回転するロール(5、5’)の表面に設けられる凹凸の形状や大きさは、主面に塗工成分が均一に担持された多孔シート(1)を製造できるように、適宜調整する。
【0064】
回転するロール(5、5’)の回転速度は、塗工液(2)が多孔シート(1)に浸透していく態様を均一にでき、主面に塗工成分が均一に担持された多孔シート(1)を製造できるように、適宜調整することができ、例えば、多孔シート(1)の搬送速度に対して回転するロール(5、5’)表面の移動速度を、0%より大きく300%以下となるように回転速度を調整することができ、80%以上120%以下となるように回転速度を調整することができる。
【0065】
また、回転するロール(5、5’)の回転軸方向における長さは、主面に塗工液(2)が均一に塗工された多孔シート(1)を製造できるように、多孔シート(1)の主面における、多孔シート(1)の幅方向の長さよりも長いことが望ましい。
【0066】
回転するロール(5、5’)が多孔シート(1)に与える圧力の大きさは、搬送手段(6)が多孔シート(1)へ作用させる張力や以下に説明する抱き角度との兼ね合いによって、適宜調整することができるが、回転するロール(5、5’)が多孔シート(1)に与える圧力が大き過ぎると、多孔シート(1)の内部空隙中に存在する塗工液(2)が多孔シート(1)の主面へ意図せず染み出してしまい、主面に塗工液(2)が均一に塗工された多孔シート(1)を調製できなくなるおそれがある。
【0067】
そのため、回転するロール(5、5’)が多孔シート(1)に与える圧力の大きさが大きくなり過ぎるのを防ぐことができるように、回転するロール(5、5’)と多孔シート(1)の接触部分において、回転するロール(5、5’)と接触する前の多孔シート(1)の進行方向が、回転するロール(5、5’)と接触することによって変化する角度(抱き角度)は、小さくなるように回転するロール(5、5’)と多孔シート(1)を接触させるのが好ましく、抱き角度は0度〜90度であるのが好ましく、0度〜30度であるのがより好ましい。
【0068】
本発明によって提供される電気化学素子用セパレータ以外の、電気化学素子を構成する部材は、従来と同様の材料から構成することができる。
【0069】
具体的には、リチウムイオン二次電池の場合、正極として、例えば、リチウムやナトリウム含有遷移金属化合物や硫黄系化合物のスラリーを集電材に担持させたもの等を使用することができ、負極として、例えば、リチウム金属やリチウムと合金になる材料(例えば、スズ系合金、シリコン系合金などの材料)、及びリチウムを吸蔵、放出可能なポリアセン、炭素材料(例えば、カーボン、天然黒鉛や人造黒鉛など)、バナジウム系化合物、チタン酸リチウム系化合物を集電材に担持させたもの等を使用することができ、電解質として、例えば、非水系電解液(例えば、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒にLiPF
6を溶解させた電解液)等を使用することができる。
【0070】
また、調製可能なリチウムイオン二次電池のセル構造も特に限定するものではなく、例えば、円筒型、角型、コイン型などであることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0072】
(実施例1)
1.多孔シートの調製方法
芯成分がポリプロピレン(融点:170℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:10mm)70重量部と、ポリプロピレン極細繊維(融点:160℃、繊維径:2μm、繊維長:2mm)30重量部とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。
その後、前記繊維ウェブを温度140℃の熱風で10秒間処理した後、80℃のロールカレンダーに供することで、不織布(孔の平均直径(D
50):12μm、厚さ:25μm、目付:10g/m
2)を調製した。
【0073】
2.塗工液の調製方法
塗工成分としてシリカ粒子(アドマテックス株式会社製、SO−C1、平均粒子径(D
50):250nm)98重量部と、バインダとしてスチレンブタジエンゴム水分散物(固形分濃度:40.7質量%、日本ゼオン(株)社製BM−400)2重量部を水に分散させて、固形分濃度が50重量部の塗工液(粘度:0.05Pas)を調製した。
【0074】
3.塗工液の塗工方法
対をなす回転するニップロールを不織布の搬送方向における上流側と下流側の各々に設けると共に、対をなす回転するニップロールを各々、ロール表面の移動速度が5m/minの速度となるように回転させた。
そして、上流側と下流側に設けた各々の、対をなす回転するニップロール間に上述のようにして調製した不織布を通布して、不織布を一方向へ5m/minの速度で搬送した。
表面にダイアモンドライクカーボン層(水滴接触角:75°)を備えるグラビアロールを用意した。なお、グラビアロールはその回転軸方向の全体にわたり、不織布の搬送方向に対して斜線をなす溝を備えていた。
塗工液槽中に塗工液を貯え、前記グラビアロール表面が塗工液に浸るように調整すると共に前記、グラビアロールを逆方向に一定速度で回転させた。
次いで、搬送されてきた不織布のもう一方の主面(
図2における紙面上の上側主面)に回転可能な押さえロール(
図2の7に相当)を接触させて、搬送されてきた不織布の主面に前記グラビアロールが接触できるように調整することで、不織布の主面全体に塗工液を、乾燥後重量が17g/m
2となるように塗工した。
【0075】
4.回転するロールの接触方法
主面全体に塗工液が塗工された不織布におけるもう一方の主面全体に、ロール表面の移動速度が4m/minの速度となるように調整した、逆方向に回転するロール(
図2の5に相当)を接触させ、次いで不織布の主面全体に、ロール表面の移動速度が4m/minの速度となるように調整した、逆方向に回転する別の回転するロール(
図2の5’に相当)を接触させた。
【0076】
5.乾燥方法
上述のようにして調製した、主面に塗工液が塗工された不織布を、遠赤外線ヒータを備えた乾燥機(
図2の8に相当)に供することで、不織布に塗工された塗工液から溶媒を除去して、電気化学素子用セパレータ(厚さ:32μm、目付:27g/m
2、幅方向の長さ:50cm)を製造した。
【0077】
(比較例1)
実施例1の(3.塗工液の塗工方法)において、実施例1のグラビアロールと同じ外形状の、表面にニッケルメッキ層(水滴接触角:60°)を備えるグラビアロールを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気化学素子用セパレータ(厚さ:32μm、目付:27g/m
2、幅方向の長さ:50cm)を製造した。
実施例1および比較例1で製造した電気化学素子用セパレータから、搬送方向の長さが10m、幅方向の長さが50cmの長方形の試験片を各々採取した。
そして、採取した試験片を以下に説明する(電気化学素子用セパレータ質量の測定方法)に供することで、実施例1および比較例1で製造した電気化学素子用セパレータに担持されているシリカ粒子およびスチレンブタジエンゴムの質量(塗工成分の質量)の、幅方向にわたる均一性を評価した。
【0078】
(電気化学素子用セパレータ質量の測定方法)
実施例1および比較例1の試験片を各々、X線式厚さ計測器に供することで、試験片の幅方向における端部に接する搬送方向の長さが6mm、幅方向の長さが6mmの測定領域から目付を算出した。次いで、試験片の幅方向におけるもう一方の端部に到達するまで、1mmずつ測定領域を前記もう一方の端部方向に移動させながら、同様に目付を算出していった。
【0079】
結果を表1にまとめた。なお、表1におけるR値とは測定により得られた目付における最大値から最小値を引いた値であり、この値が小さいほど、製造した電気化学素子用セパレータに担持されているシリカ粒子およびスチレンブタジエンゴムの質量(塗工成分の質量)の、幅方向にわたる均一性が高いことを意味する。
【0080】
【表1】
【0081】
測定の結果、実施例1の試験片は比較例1の試験片に比べ、シリカ粒子およびスチレンブタジエンゴムが、幅方向にわたり均一に担持されていることが判明した。
そのため、本発明の、電気化学素子用セパレータの製造方法および製造装置によって、主面に塗工成分が均一に存在する電気化学素子用セパレータを製造できることから、内部短絡の発生を防ぐことのできる電気化学素子を調製可能な、電気化学素子用セパレータを提供することができる。