(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[難黒鉛化性炭素材料の製造方法]
本発明の難黒鉛化性炭素材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう)は、難黒鉛化性炭素材料の原料に架橋処理を施して架橋処理品を得る工程と、上記架橋処理品に不融化処理を施して不融化処理品を得る工程と、上記不融化処理品を焼成して難黒鉛化性炭素材料を得る工程と、を備え、上記
不融化処理品に対してメカノケミカル処理を施すことを特徴とする、難黒鉛化性炭素材料の製造方法である。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
〔架橋処理〕
まず、難黒鉛化性炭素材料の原料(以下、単に「原料」ともいう)に架橋処理を施して架橋処理品を得る。
【0014】
ここで、本発明の製造方法に用いられる原料としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどのピッチ;フェノール樹脂、フラン樹脂などの樹脂;ピッチと樹脂との混合物;等が挙げられ、なかでも、経済性等の観点から、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどのピッチが好ましい。
【0015】
上述した原料に架橋処理を施す方法としては、例えば、エアーブローイング反応による方法;酸化性ガス(空気、酸素)による乾式法;硝酸、硫酸、次亜塩素酸、混酸等の水溶液による湿式法;等が挙げられ、なかでも、エアーブローイング反応による方法が好ましい。
【0016】
エアーブローイング反応は、上述した原料を加熱し、酸化性ガス(例えば、空気、酸素、オゾン、これらの混合物)を吹き込むことにより、軟化点を上昇させる反応である。エアーブローイング反応によれば、例えば200℃以上の高軟化点を有する架橋処理品(例えば、エアーブロンピッチ)を得ることができる。
【0017】
なお特許文献4によれば、エアーブローイング反応は、液相状態での反応であり、固相状態での架橋処理と比較して炭素材料中への酸素原子の取り込みが殆どないことが知られている。
エアーブローイング反応においては、酸化的脱水反応を主体とする反応が進行し、ビフェニル型の架橋結合により重合が進む。そして、その後の不融化、焼成(後述)によって、この架橋部分が支配的になった配向性のない三次元構造を有し、リチウムが吸蔵される空隙を数多く残存させた難黒鉛化性炭素材料が得られる、とされている。
【0018】
エアーブローイング反応の条件は、特に限定されないが、温度が高すぎるとメソフェーズが発生し、低いと反応速度が遅くなるという理由から、反応温度としては、280〜420℃が好ましく、320〜380℃がより好ましい。また、酸化性ガスの吹き込み量としては、圧縮空気としてピッチ1000gあたり0.5〜15L/分が好ましく、1.0〜10L/分がより好ましい。反応圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0019】
このような架橋処理によって得られるエアーブロンピッチ等の架橋処理品の軟化点としては、不融化処理のしやすさから、200〜400℃が好ましく、250〜350℃がより好ましい。
【0020】
〔粉砕〕
架橋処理によって得られたエアーブロンピッチ等の架橋処理品を粉砕して、粒度調整するのが好ましい。粉砕の方法は特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。また、粉砕後の平均粒子径としては、例えば、1〜50μmが好ましく、2〜15μmがより好ましい。なお、このような粉砕は、後述する不融化処理品に対して行ってもよい。
【0021】
〔不融化処理〕
次に、エアーブロンピッチ等の架橋処理品に対して不融化処理を施して、不融化処理品(例えば、不融化ピッチ)を得る。不融化処理は、固相状態で行われる一種の架橋処理(酸化処理)であり、これにより、架橋処理品の構造の中に酸素が取り込まれ、さらに架橋が進行することにより高温で溶融し難くなる。
【0022】
不融化処理の方法としては、特に限定されず、例えば、酸化性ガス(空気、酸素)による乾式法;硝酸、硫酸、次亜塩素酸、混酸等の水溶液による湿式法;等が挙げられ、なかでも、酸化性ガスによる乾式法が好ましい。
【0023】
不融化処理の処理温度としては、架橋処理品の軟化点以下を選択する必要がある。また、バッチ式で行う場合の昇温速度は、融着をより防止する観点から、5〜100℃/時間が好ましく、10〜50℃/時間がより好ましい。
【0024】
不融化処理におけるその他の処理条件は特に限定されないが、例えば、酸化性ガスの吹き込み量としては、1000gあたりの圧縮空気として1.0〜20L/分が好ましく、2.0〜10L/分がより好ましい。反応圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0025】
不融化処理によって得られる不融化処理品の酸素量としては、焼成時の融着を防止するという理由から、3〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0026】
〔焼成〕
不融化処理の後、不融化ピッチ等の不融化処理品を、減圧または窒素等の不活性ガス雰囲気中において焼成することにより、難黒鉛化性炭素材料を得る。このとき、昇温速度としては、50〜150℃/時間が好ましく、80〜120℃/時間がより好ましい。また、到達温度(焼成温度)は、1000〜1300℃が好ましく、1000〜1200℃がより好ましい。
【0027】
〔メカノケミカル処理〕
本発明においては
、不融化ピッチ等の不融化処理品に対して、メカノケミカル処理を施す。
また、別にエアーブロンピッチ等の架橋処理品に対してメカノケミカル処理を施してもよい。
【0028】
メカノケミカル処理を施すことにより、粒子どうしがこすり合わされるため、焼成後に得られる難黒鉛化性炭素材料は、角がとれ丸みを帯びた粒子形状となり、この難黒鉛化性炭素材料を用いて作用電極(負極)を作製した場合に、その電極密度が高くなると考えられる。
なお、電極密度とは、電極層と集電体とからなる電極のうち、電極層の固形分の平均的な充填度合い、すなわち電極層内の固形分の平均密度をいう。電極密度は、例えば電極および集電体について質量および厚さを測定し、測定した質量および厚さの値から算出することができる。
【0029】
メカノケミカル処理に用いる装置としては、架橋処理品および不融化処理品に圧縮力と剪断力とを同時に掛けることができる装置であれば特に限定されず、例えば、加圧ニーダー、二本ロールなどの混練機、回転ボールミル、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)、メカノマイクロス(奈良機械製作所製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)等の装置を使用することができる。
【0030】
これらのうち、回転速度差を利用して剪断力および圧縮力を同時に付加する装置、例えば、
図3(a)および(b)に模式的機構を示すメカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)が好ましい。
図3に示す装置は、回転ドラム11、回転ドラム11と回転速度の異なる内部部材(インナーピース)12、ならびに、架橋処理品または不融化処理品13の循環機構14および排出機構15を有する。回転ドラム11と内部部材12との間に供給された架橋処理品または不融化処理品13に遠心力を付加しながら、内部部材12により回転ドラム11との速度差に起因する圧縮力と剪断力とを同時に繰返し付加することによりメカノケミカル処理を施すことができる。
【0031】
また、
図2に模式的機構を示すハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)を用いることもできる。
図2に示す装置は、固定ドラム21、高速回転するローター22、架橋処理品または不融化処理品23の循環機構24および排出機構25、ブレード26、ステーター27、ならびに、ジャケット28を有する。架橋処理品または不融化処理品23を、固定ドラム21とローター22との間に供給し、固定ドラム21とローター22との速度差に起因する圧縮力と剪断力とを架橋処理品または不融化処理品23に付加することにより、メカノケミカル処理を施すことができる。
【0032】
メカノケミカル処理の条件は、使用する装置によっても異なるため一概にはいえないが、下記の条件で処理を行えば、より角がとれ丸みを帯びた粒子形状となり、電極密度がより高くなる。
【0033】
例えば、回転ドラムと内部部材とを備えた装置(
図3参照)を用いる場合には、回転ドラムと内部部材との周速度差は、5〜50m/秒が好ましく、5〜30m/秒がより好ましい。両者間の距離は、1〜50mmが好ましく、1〜30mmがより好ましい。処理時間は、5〜60分が好ましく、20〜60分がより好ましい。
【0034】
また、固定ドラムと高速回転ローターとを備える装置(
図2参照)を用いる場合には、固定ドラムとローターとの周速度差は、10〜100m/秒が好ましく、50〜100m/秒がより好ましい。処理時間は、30秒〜5分が好ましく、2〜5分がより好ましい。
【0035】
[難黒鉛化性炭素材料]
本発明の製造方法によって得られる難黒鉛化性炭素材料(以下、「本発明の難黒鉛化性炭素材料」ともいう)は、上述したように、球状に近い形状、例えば、塊状、角の取れた不定形状、球状または断面が楕円形状であり、リチウムイオン二次電池用負極材料として好ましく使用できる。
【0036】
また、本発明の難黒鉛化性炭素材料を用いて作用電極(負極)を作製した場合、安全性にも優れる。つまり、例えば後述する
図1に示すような二次電池を作製した場合に、銅箔からなる集電体や電解質溶液が含浸されたセパレータに作用電極(負極)が押し付けられるが、このとき、本発明の製造方法によって得られた難黒鉛化性炭素材料は、角がとれた丸みを帯びた粒子形状であるため、この材料を用いて作用電極(負極)を作製することで、集電体やセパレータへのダメージが軽減され、短絡が防止される等、安全性に優れることが期待できる。
【0037】
本発明の難黒鉛化性炭素材料の平均粒子径は、特に問わないが通常1〜100μmである。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計の累積度数が体積百分率で50%となる粒子径である。また、難黒鉛化性炭素材料の比表面積は初期充放電効率の低下やリチウムイオン二次電池の安全性低下を招くため、好ましくは15m
2/g以下であり、より好ましくは8m
2/g以下である。比表面積は窒素ガス吸着BET法により測定することができる。
【0038】
本発明の難黒鉛化性炭素材料においては、放電容量やサイクル寿命が優れるという理由から、平均格子面間隔d
002が0.370nm以上であるのが好ましい。
【0039】
次に、本発明の難黒鉛化性炭素材料を用いた負極材料として用いたリチウムイオン二次電池(以下、「本発明のリチウムイオン二次電池」ともいう)について説明する。
【0040】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解質を主たる電池構成要素とし、正・負極はそれぞれリチウムイオンの担持体からなり、充放電過程におけるリチウムイオンの出入は層間で行われる。本質的に、充電時にはリチウムイオンが負極中にドープされ、放電時には負極から脱ドープする電池機構である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極材料として本発明の難黒鉛化性炭素材料を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準ずる。
【0041】
〔負極〕
本発明の難黒鉛化性炭素材料から負極を製造する方法は、特に限定されず、通常の成形方法に準じて行うことができる。負極製造時には、本発明の難黒鉛化性炭素材料に結合剤を加えた負極合剤を用いることができる。結合剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものを用いるのが好ましく、通常、負極合剤全量中1〜20質量%程度の量で用いるのが好ましい。結合剤の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンラバー(SBR)などを例示できる。また、活物質として、本発明の難黒鉛化性炭素材料以外の炭素材料、黒鉛材料を添加してもよい。さらに、導電剤として、例えば、カーボンブラック、炭素繊維等も添加してよい。
【0042】
本発明の難黒鉛化性炭素材料を分級などによって粒度調整し、結合剤と混合することによって負極合剤を調製し、この負極合剤を、通常、集電体の片面または両面に塗布することで負極合剤層を形成する。この際、通常の溶媒を用いることができる。負極に用いる集電体の形状としては、特に限定されず、例えば、箔状、;メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状が挙げられる。集電体としては、例えば、銅、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
【0043】
〔正極〕
正極の材料(正極活物質)としては、充分量のリチウムイオンをドープ/脱ドープし得るものを選択するのが好ましい。そのような正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそれらのリチウム含有化合物、一般式M
XMo
6S
8−y(式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、Mは遷移金属などの金属を表す)で表されるシェブレル相化合物、りん酸鉄リチウム、活性炭、活性炭素繊維などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウムなどの炭酸塩を添加することもできる。
【0044】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM(1)
1−pM(2)
pO
2(式中Pは0≦P≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる)、または、LiM(1)
2−qM(2)
qO
4(式中Qは0≦Q≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる)で示される。ここで、Mで示される遷移金属元素としては、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどが挙げられ、Co、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alが好ましい。
このようなリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、Li、遷移金属の酸化物または塩類を出発原料とし、これら出発原料を組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度範囲で焼成することにより得ることができる。なお、出発原料は酸化物または塩類に限定されず、水酸化物などからも合成可能である。
【0045】
このような正極材料を用いて正極を形成する方法としては、例えば、正極材料、結合剤および導電剤からなる正極合剤を集電体の両面に塗布することで正極合剤層を形成する。結合剤としては、負極で例示したものを使用できる。導電剤としては、例えば、炭素材料、黒鉛、カーボンブラック、VGCFを使用できる。集電体の形状は特に限定されず、負極と同様の形状のものが用いられる。
【0046】
上述した負極および正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を、適宜使用することができる。
【0047】
〔電解質〕
電解質としては、LiPF
6、LiBF
4などのリチウム塩を電解質塩としてを含む通常の非水電解質が用いられる。
非水電解質は、液系の非水電解液であってもよいし、固体電解質や、ゲル電解質などの高分子電解質であってもよい。
【0048】
液系の非水電解質液とする場合には、非水溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非プロトン性有機溶媒を使用できる。
【0049】
高分子電解質とする場合には、可塑剤(非水電解液)でゲル化されたマトリクス高分子を含む。このマトリクス高分子としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子などを単独または混合して用いることができ、なかでも、酸化還元安定性等の観点から、フッ素系高分子が好ましい。
高分子電解質に含有される可塑剤(非水電解液)を構成する電解質塩や非水溶媒としては、上述したものを使用できる。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータを使用することができるが、ゲル電解質を用いて、例えば、本発明の難黒鉛化性炭素材料を含有する負極、ゲル電解質、正極をこの順で積層し、電池外装材内に収容することで構成することも可能である。
本発明のリチウムイオン二次電池の構造は任意であり、その形状、形態について特に限定されるものではなく、例えば積層型や捲回型であってもよいし、円筒型、角型、コイン型から任意に選択することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<
参考例1>
まず、錨型攪拌装置を付したオートクレーブに、石炭系QIレスピッチ(QI:0.1〜0.5質量%、軟化点:82.5℃)1000gを入れ、窒素気流下で320℃まで加熱した後、圧縮空気を2L/分で流通させながらピッチ中に吹き込み、320℃で2時間加熱することにより、エアーブローイング反応による架橋処理を施した。その後、室温まで冷却し、内容物(エアーブロンピッチ)を取り出した。得られたエアーブロンピッチの軟化点(単位:℃)および酸素量(単位:質量%)を下記第1表に示す。
次に、得られたエアーブロンピッチを、アトマイザーを用いて粉砕して、平均粒子径10μmに粒度調整し、粉砕されたエアーブロンピッチに対してメカノケミカル処理を施した。メカノケミカル処理は、
図3に基づいて説明したメカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)を用いて行い、処理条件としては、回転ドラムの周速を10m/sとした。
次に、粉砕され、かつ、メカノケミカル処理が施されたエアーブロンピッチを、回転式の炉に入れ、圧縮空気を2L/分で流通させながら、20℃/時間の昇温速度で昇温させ、250℃で3時間保持して不融化処理を施すことにより、不融化ピッチを得た。得られた不融化ピッチの酸素量を下記第1表に示す。
次に、得られた不融化ピッチ100gを、黒鉛製の蓋付き容器に入れ、窒素気流下で、100℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温させ、1100℃で3時間の焼成を行い、炭素粉末を得た。
【0053】
<実施例
1>
実施例1では、メカノケミカル処理の処理対象を
参考例1とは異ならせた。つまり、実施例
1では、
参考例1と同様の方法でエアーブロンピッチを製造し、このエアーブロンピッチを粉砕した後、不融化処理を施し、得られた不融化ピッチに対してメカノケミカル処理を施した。その後、メカノケミカル処理が施された不融化ピッチを焼成して、炭素粉末を得た。なお、それ以外の条件等は、
参考例1と同様にした。
【0054】
<
参考例2>
参考例2では、エアーブロンピッチの軟化点と不融化ピッチの酸素量を
参考例1と異ならせた。つまり、
参考例2では、錨型攪拌装置を付したオートクレーブに、石炭系QIレスピッチ(QI:0.1〜0.5質量%、軟化点:82.5℃)1000gを入れ、窒素気流下で320℃まで加熱した後、圧縮空気を2L/分で流通させながらピッチ中に吹き込み、320℃で3時間加熱することにより、エアーブローイング反応による加工処理を施した。その後、室温まで冷却し、内容物(エアーブロンピッチ)を取り出した。得られたエアーブロンピッチの軟化点(単位:℃)および酸素量(単位:質量%)を下記第1表に示す。
次に、得られたエアーブロンピッチを、アトマイザーを用いて粉砕して、平均粒子径10μmに粒度調整し、粉砕されたエアーブロンピッチに対してメカノケミカル処理を施した。メカノケミカル処理は、
図3に基づいて説明したメカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)を用いて行い、処理条件としては、回転ドラムの周速を10m/sとした。
次に、粉砕され、かつ、メカノケミカル処理が施されたエアーブロンピッチ100gを、回転式の炉に入れ、圧縮空気を2L/分で流通させながら、20℃/時間の昇温速度で昇温させ、250℃で6時間保持して不融化処理を施すことにより、不融化ピッチを得た。得られた不融化ピッチの酸素量を第1表に示す。
次に、得られた不融化ピッチ100gを、黒鉛製の蓋付き容器に入れ、窒素気流下で、100℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温させ、1100℃で3時間の焼成を行い、炭素粉末を得た。
【0055】
<実施例
2>
実施例
2では、メカノケミカル処理の処理対象を
参考例
2とは異ならせた。つまり、実施例
2では、
参考例
2と同様にしてエアーブロンピッチを製造し、このエアーブロンピッチを粉砕した後、不融化処理を施し、得られた不融化ピッチに対してメカノケミカル処理を施した。その後、メカノケミカル処理が施された不融化ピッチを焼成して、炭素粉末を得た。なお、それ以外の条件等は、
参考例
2と同様にした。
【0056】
<実施例
3>
実施例
3では、原料ピッチに1次QIを4.5質量%含有する石炭系ピッチ(軟化点:85℃)を使用した以外は、実施例
1と同様にした。得られたエアーブロンピッチの軟化点(単位:℃)および炭素量(単位:質量%)、ならびに得られた不融化ピッチの酸素量(単位:質量%)を下記第1表に示す。
【0057】
<実施例
4>
実施例
4では、原料ピッチに1次QIを14.8質量%含有する石炭系ピッチ(軟化点:110℃)を使用した以外は、実施例
1と同様にした。得られたエアーブロンピッチの軟化点(単位:℃)および酸素量(単位:質量%)、ならびに得られた不融化ピッチの酸素量(単位:質量%)を下記第1表に示す。
【0058】
<比較例1>
比較例1では、メカノケミカル処理を行わなかった以外は、
参考例1と同様にして炭素粉末を得た。つまり、比較例1では、エアーブロンピッチを粉砕した後、不融化処理を施し、得られた不融化ピッチを焼成して、炭素粉末を得た。
【0059】
<比較例2>
比較例2では、メカノケミカル処理を行わなかった以外は、
参考例
2と同様にして炭素粉末を得た。つまり、比較例2では、エアーブロンピッチを粉砕した後、不融化処理を施し、得られた不融化ピッチを焼成して、炭素粉末を得た。
【0060】
<比較例3>
比較例3では、メカノケミカル処理を行わなかった以外は、実施例
3と同様にして炭素粉末を得た。つまり、比較例3では、エアーブロンピッチを粉砕した後、不融化処理を施し、得られた不融化ピッチを焼成して、炭素粉末を得た。
【0061】
<比較例4>
比較例4では、メカノケミカル処理を行わなかった以外は、諸条件を実施例
4と同様にして炭素粉末を得た。つまり、比較例4では、エアーブロンピッチを粉砕した後、不融化処理を施し、得られた不融化ピッチを焼成して、炭素粉末を得た。
【0062】
<評価>
次に、各々の実施例および比較例で得られた炭素粉末を負極材料として用いて評価用のコイン型二次電池(
図1参照)を作製し、各種の評価を行った。
【0063】
(負極合剤ペーストの調製)
まず、得られた炭素粉末を負極材料として、負極合剤ペーストを調製した。具体的には、プラネタリーミキサーに、炭素粉末(95質量部)と、ポリビニリデンジフルオライドの12%N−メチルピロリジノン溶液(固形分で5質量部)とを入れ、100rpmで15分間攪拌し、さらに、N−メチルピロリジノンを追加して固形分比60%となるように調整して引き続き15分間攪拌を行い、負極合剤ペーストを調製した。
【0064】
(作用電極(負極)の作製)
調製した負極合剤ペーストを、銅箔上に均一な厚さになるように塗布し、さらに送風乾燥機内に入れて100℃で溶媒を揮発させ、負極合剤層を形成した。次に、負極合剤層をローラープレスによって加圧し、さらに直径15.5mmの円形状に打ち抜くことで、銅箔からなる集電体に密着した負極合剤層を有する作用電極(負極)を作製した。なお、評価を行う前に、真空中100℃で8時間以上の乾燥を行った。
【0065】
(電極密度の測定)
作製した作用電極について、一定面積を有する鏡面板どうしの間に挟み、ハンドプレス機を用いて250MPaの圧力を20秒間かけた後の電極密度(単位:g/cm
3)を求めた。電極密度は、負極合剤層の質量および厚さを測定し、計算により求めた。
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(33体積%)とメチルエチルカーボネート(67体積%)とを混合して得られた混合溶媒に、LiPF
6を1mol/dm
3となる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0066】
(評価電池の作製)
次に、作製した作用電極(負極)を用いて、
図1に示す評価用のコイン型二次電池(単に「評価電池」ともいう)を作製した。
図1は、評価用のコイン型二次電池を示す断面図である。
まず、リチウム金属箔をニッケルネットに押し付け、直径15.5mmの円形状に打ち抜くことにより、ニッケルネットからなる集電体7aに密着した、リチウム箔からなる円盤状の対極4を作製した。
次に、電解質溶液が含浸されたセパレータ5を、集電体7bに密着した作用電極(負極)2と、集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、作用電極2を外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介してかしめ、密閉することにより、評価電池を作製した。
作製された評価電池においては、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、
図1に示すように、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、対極4、セパレータ5、作用電極(負極)2、および、集電体7bが積層されている。
【0067】
(充放電試験)
作製した評価電池について、25℃で以下の充放電試験を行った。なお、本試験では、リチウムイオンを炭素粉末中にドープする過程を「充電」、炭素粉末から脱ドープする過程を「放電」とした。
まず、0.9mAの電流値で回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行い、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切り替え、さらに、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から充電容量(単位:mAh/g)(1回目の充電容量)を求めた。その後、120分間休止した。次に、0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量(単位:mAh/g)(1回目の放電容量)を求めた。これを第1サイクルとした。
【0068】
(初期効率、初期ロス容量、体積容量)
上記充放電試験の結果から、下記式(I)に基づいて初期ロス容量(単位:mAh/g)を求め、下記式(II)に基づいて初期効率(単位:%)を求めた。さらに、作製した作用電極について求めた電極密度に基づいて、下記式(III)から体積容量(単位:mAh/cm
3)を求めた。
初期ロス容量=1回目の充電容量−1回目の放電容量…(I)
初期効率=(1回目の放電容量/1回目の充電容量)×100…(II)
体積容量=電極密度×1回目の放電容量…(III)
【0069】
【表1】
【0070】
このような実施例1〜
4と比較例1〜4とを対比すると、メカノケミカル処理を施した実施例1〜
4は、メカノケミカル処理を施さなかった比較例1〜4よりも、電極密度が高くなり、体積容量が大きくなることが分かった。