(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、例えばセンサ、あるいは電気自動車に用いられるインホイールモータなどの車両技術の発展により、車両において配線や電線を用いる箇所が増加してきており、例えば車両電源からホイール近辺まで電力を供給できる構成が求められている。
【0003】
そこで、従来、例えば車体側の電源と車軸側のモータとを導電体によって直接接続した構成(例えば、特許文献1参照。)、導電線を溝型のサスペンションリンク内に配置した構成(例えば、特許文献2参照。)、あるいは、サスペンションアームを導電性の部材により形成して、車体側の電源と車軸側のモータとをサスペンションアームによって電気的に接続した構成(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記各特許文献に記載された構成では、揺動や回動などの動きを担い、サスペンションとナックルとを直接接続するボールジョイントの導電性を確保することは考慮されていない。また、ボールジョイントには、一般的に、摺動部位に樹脂製のボールシート(ベアリングシート)及び潤滑剤(グリース)が用いられているため、これら絶縁体となり、ボールジョイントに導電性を持たせることは容易でない。
【0005】
この点、導電性の合成樹脂や潤滑剤などを用いることが考えられるものの、これら導電性の合成樹脂や潤滑剤は、導電率が充分でない。
【0006】
また、例えば、ハウジング内にてボール部を回動可能に保持するボールシートを金属製にした構成が知られている(例えば、特許文献4参照。)。この場合には、導電性を確保できる一方で、ボールシートとボール部とがともに金属であるため、ボールシートあるいはボール部の摩耗が促進されるおそれがあり、摺動性の信頼性を向上することが容易でない。
【0007】
さらに、例えば、ボールシート自体を、導電性材料を含む合成樹脂により形成した構成が知られている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、導電性材料を含む合成樹脂は、一般に高価で、かつ、材料硬度が高いため、ボールシート全体に用いるとコストアップに繋がるとともに、ボールシートの成形性も良好でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、摺動性及び摺動の信頼性を確保しつつ、安価で、かつ、ボール側部材とボール受け側部材との間の導電性を確保したボールジョイントが望まれている。このような課題は、車両の分野に限らず、ボール側部材とボール受け側部材とを接続して3次元的に動作する可動部を有する種々の電気機器においても同様に生じる。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、摺動性及び摺動の信頼性に影響を与えることなくボール側部材とボール受け側部材との間の導電性を安価に確保できるボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載のボールジョイントは、ボール部を備え、被取付部に取り付けられる導電性のボール側部材と、前記ボール部を回動可能に保持する摺接面、及び、この摺接面に連通する貫通孔を備えた絶縁性のベアリングシートと、前記ベアリングシートとともに前記ボール部を収容するボール受け部、及び、このボール受け部に収容された前記ベアリングシートの貫通孔と連通する収容部を備えた導電性のボール受け側部材と、前記ベアリングシートの貫通孔に少なくとも一部が配置され、前記ボール受け側部材と電気的に接続された導電体と、前記ボール受け側部材の前記収容部に配置され、前記導電体を前記ボール部へと圧接する付勢部材とを具備したものである。
【0012】
請求項2記載のボールジョイントは、請求項1記載のボールジョイントにおいて、導電体は、導電性材料を含む樹脂により形成されているものである。
【0013】
請求項3記載のボールジョイントは、請求項1または2記載のボールジョイントにおいて、貫通孔は、摺接面のボール部の赤道位置を除く位置に設けられているものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のボールジョイントによれば、絶縁性のベアリングシートの摺接面に連通する貫通孔に、導電性のボール受け側部材と電気的に接続された導電体の少なくとも一部を配置するとともに、この導電体を、ボール受け側部材の収容部に配置した付勢部材によってボール部へと圧接することにより、導電体を介してボール側部材とボール受け側部材とを電気的に接続できるので、ボール部の摺動性をベアリングシートの摺接面によって確保しつつ、ボール側部材とボール受け側部材との間の導電性を導電体によって安価に確保できる。
【0015】
請求項2記載のボールジョイントによれば、請求項1記載のボールジョイントの効果に加えて、導電体を、導電性材料を含む樹脂により形成することにより、ボール部と導電体との摺動による摩耗をより確実に抑制でき、摺動の信頼性をより向上できる。
【0016】
請求項3記載のボールジョイントによれば、請求項1または2記載のボールジョイントの効果に加えて、ベアリングシートの貫通孔を、摺接面のボール部の赤道位置を除く位置に設けることにより、この貫通孔に少なくとも一部を配置した導電体にボール側部材からの荷重が加わりにくく、ボール部と導電体との摺動による摩耗をより確実に抑制でき、摺動の信頼性をより向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態の構成を
図1を参照して説明する。
【0019】
図1において、11はボールジョイントであり、このボールジョイント11は、例えば自動車などの車両の車体側に位置する車体側部材である図示しないサスペンション(懸架装置)と車輪(ホイール)側に位置する車輪側部材であるナックルとを接続するサスペンションリンクをなすものである。そして、このボールジョイント11は、可動部材としてのボール側部材である金属製などのボールスタッド15と、固定部材としてのボール受け側部材である金属製などのハウジング16と、このハウジング16とボールスタッド15との間に介在される合成樹脂製などのベアリングシートであるボールシート17と、ボールスタッド15とハウジング16との間に亘って配置される防塵部材であるダストカバー18と、ハウジング16内に配置される導電部19とを備えている。なお、以下に示す上下方向とは、
図1の上下方向をいうものとする。
【0020】
ボールスタッド15は、導電性を有する例えばアルミニウムなどの部材により一体に形成され、略球状の球頭部であるボール部21と、このボール部21から突出する例えば金属製などの上下方向に長手状の丸軸状の軸部であるスタッド部22とを備えている。
【0021】
ボール部21は、ボールシート17の内部に摺動(回動)可能に保持された状態でハウジング16に取り付けられている。
【0022】
また、スタッド部22は、例えばボール部21の中心位置を軸心が通る位置にてボール部21から上方へと突出している。さらに、このスタッド部22は、基端側であるボール部21側から反ボール部21側である上方(先端側)へと徐々に拡径する基端部である拡径部24と、この拡径部24の反ボール部21側である上側から上方(先端側)へと徐々に縮径する接続部としてのテーパ部である縮径部25と、これら拡径部24と縮径部25との連続部の外周に突出する鍔部56と、縮径部25の先端部である上端部に設けられた固定部であるねじ溝27とを一体に備えている。そして、このスタッド部22の縮径部25側がナックルの被取付部に挿入され、ねじ溝27に図示しないナットが螺合されることにより、ボールジョイント11がナックルに接続固定されるように構成されている。なお、このナックルは、例えばインホイールモータなどの、車輪側に配置された被給電部と電気的に接続されている。
【0023】
また、ハウジング16は、ソケットとも呼ばれるもので、例えば図示しないサスペンションアームの端部に一体的に設けられてサスペンションの一部を構成するものであり、例えば鉄やアルミニウムなどの部材により円筒状に形成されている。このハウジング16は、ボールシート17を介してボール部21を保持するボール受け部である内室31と、この内室31に連通する開口32とを有している。また、このハウジング16の内室31の底部33の中央部には、収容部である連通孔34が貫通して設けられている。さらに、このハウジング16の開口32側の外周には、ダストカバー18の下端側が嵌着される溝状のカバー溝である段部35が形成されている。なお、サスペンションは、車体側に配置された電源と電気的に接続されている。
【0024】
また、開口32は、ハウジング16と同軸に位置している。さらに、この開口32には、ボールスタッド15のスタッド部22が挿通され、ボール部21の上側とスタッド部22とがハウジング16の外部に露出している。そして、この開口32の周縁部は、中心側へとかしめ変形などにより湾曲されてボールシート17を内室31に保持するための保持部36となっている。
【0025】
また、連通孔34は、開口32よりも小さい開口面積を有し、ハウジング16と同軸に位置している。さらに、この連通孔34の下端側は、ハウジング16の外部まで貫通しており、この下端部が、閉塞部材である円形板状のプラグ37によって覆われて閉塞されている。このプラグ37は、金属部材を合成樹脂によって内包して形成されており、外周縁部が連通孔34の外方に形成された取付段部40に取り付けられているとともに、この取付段部40の外縁部を内方へとかしめ変形させた保持部であるかしめ変形部41によって保持されることで、ハウジング16に対して固定されている。
【0026】
また、ボールシート17は、絶縁性の合成樹脂により例えば上下面開口状の略円筒状に一体成形されている。すなわち、このボールシート17は、開口径寸法がボール部21の外径寸法より小さい略円形状の端面開口45及び貫通孔46を軸方向両端部である上下端部に有している。そして、このボールシート17の内部には、端面開口45及び貫通孔46と連通する保持面である摺接面47が形成されており、この摺接面47がボール部21の外周面21aを摺動(回動)可能に保持している。したがって、ボールシート17が、ボールスタッド15のボール部21とともにハウジング16の内室31内に収容配設され、ボール部21が、ボールシート17を介して内室31内にて回動可能に保持されている。さらに、このボールシート17の摺接面47には、潤滑剤(グリース)48がボール部21の外周面21aとの間に介在されている。
【0027】
また、ボールシート17の貫通孔46は、摺接面47をボールシート17の外部と連通するものであり、ボールシート17をハウジング16の内室31に取り付けた状態で連通孔34と同軸に連通するようになっている。すなわち、このボールシート17の貫通孔46は、例えばハウジング16の連通孔34と等しい径寸法に形成されている。
【0028】
さらに、ボールシート17の摺接面47は、ボール部21の少なくとも赤道位置Eを含む、ボール部21の反スタッド部22側である下端側からスタッド部22側である上端側近傍に亘る領域を保持している。ここで、ボール部21の赤道位置Eとは、スタッド部22の軸方向に対して直交する方向にボール部21の径寸法が最大となる位置をいうものとする。したがって、貫通孔46は、摺接面47のうち、ボール部21の赤道位置Eに対応する位置を除く位置、本実施の形態では、摺接面47のボールスタッド15の中心軸を含む反スタッド部22側の領域である下端部、換言すれば、摺接面47のうち赤道位置Eから最も遠い位置を含む領域、すなわち、ボールスタッド15の荷重が加わらない位置を含む領域に形成されている。なお、このボールシート17は、例えばボール部21を保持するシート本体部とこのボール部21内に取り付けられてボール部21を弾性的に支持するクッション部とに分割した、いわゆる2ピース型のものなどとしてもよい。
【0029】
また、ダストカバー18は、ダストシールやブーツなどとも呼ばれるもので、例えば軟質ゴムあるいは軟質合成樹脂などの弾性部材により、軸方向の両端間の中央部付近が径方向に膨出した扁平な略円筒状に形成されている。このダストカバー18は、軸方向一端部である上端部がスタッド部22の鍔部26のボール部21側の外周側に嵌着され、軸方向他端部である下端部がハウジング16の段部35の外周側に嵌着固定されている。
【0030】
また、導電部19は、ブロック状に形成された中実の導電体51と、この導電体51を付勢する付勢部材であるコイルばね52とを備えている。
【0031】
導電体51は、導電性材料(例えばカーボンブラックなど)を含む樹脂により、連通孔34及び貫通孔46内に沿って移動(摺動)可能に嵌合する例えば円柱状に形成されており、先端側が貫通孔46からボールシート17の摺接面47側へと突出している。このため、この導電体51は、連通孔34の位置において、ハウジング16と摺接してこのハウジング16と電気的に接続されている。そして、この導電体51の先端部51aは、ボール部21の外周面21aに沿って湾曲する円弧面状に形成されており、この先端部51aがコイルばね52によってボール部21の外周面21aに対して面状に(広い面積で)圧接されて密着している。換言すれば、導電体51は、ボール部21に対して面接触している。
【0032】
また、コイルばね52は、連通孔34内にて導電体51の下部、換言すれば、導電体51とプラグ37との間に位置しており、この導電体51の先端部51aをボール部21の外周面21aに対して常に圧接するようになっている。
【0033】
次に、上記一実施の形態の作用を説明する。
【0034】
まず、ボールジョイント11を組み立てる際には、予め形成したボールスタッド15のボール部21の外周面21aをボールシート17の摺接面47によって回動可能に保持した状態で、これらボールスタッド15のボール部21側及びボールシート17を、予め形成したハウジング16の内室31へと開口32から圧入する。この状態で、スタッド部22が開口32からハウジング16の上方に突出するとともに、ボールシート17の貫通孔46がハウジング16の連通孔34と同軸に連通する。なお、潤滑剤48は、予めボール部21の外周面などに塗布しておいてもよいし、後から注入してもよい。
【0035】
次いで、ハウジング16の開口32の周縁を中心側へとかしめ変形することで保持部36を形成し、ボール部21をボールシート17とともに内室31に抜け止め保持する。
【0036】
さらに、ハウジング16の連通孔34から、予め形成した導電体51とコイルばね52とを挿入した状態で、プラグ37の外周縁部を取付段部40に取り付け、この取付段部40の周縁部を中心側へとかしめ変形することでかしめ変形部41を形成してプラグ37の外周縁部を固定する。
【0037】
この結果、コイルばね52が導電体51の先端部51aをボールシート17の貫通孔46から露出するボール部21の外周面21aに圧接した状態となる。
【0038】
この後、ハウジング16の段部35とボールスタッド15のスタッド部22の鍔部26との間にダストカバー18を取り付けて固定することで、ボールジョイント11が完成する。
【0039】
この完成したボールジョイント11は、ボールスタッド15のスタッド部22の縮径部25側をナックルの被取付部に挿入し、ねじ溝27にナットを締め付けることで、例えばダストカバー18の上端部を座面としてナックルに接続固定される。この結果、サスペンションとナックルとが導電部19の導電体51を介して、ハウジング16及びボールスタッド15によって電気的に接続される。すなわち、サスペンションとナックルとの間が、ハウジング16、導電体51及びボールスタッド15という経路で電気的に接続される。
【0040】
このように、上記一実施の形態によれば、絶縁性のボールシート17の摺接面47に連通する貫通孔46に、導電性のハウジング16と電気的に接続した導電体51の一部を配置するとともに、この導電体51(導電体51の先端部51a)を、ハウジング16の連通孔34に配置したコイルばね52によってボール部21(ボール部21の外周面21a)へと圧接することにより、ボールシート17及び潤滑剤48が絶縁体として作用しても、導電体51を介してボールスタッド15とハウジング16とを電気的に接続できる。したがって、ボール部21の摺動性をボールシート17の摺接面47によって確保しつつ、ボールスタッド15とハウジング16との間の導電性を導電体51によって確保できる。
【0041】
しかも、摺接面47を構成するボールシート17としては従来の安価な合成樹脂などの素材を用いながら、摺接面47の限られたごく一部の領域に貫通孔46から突出させる導電体51のみを用いてボールスタッド15とハウジング16との導電性を得るため、コスト増を抑制して導電性を安価に確保できる。
【0042】
そして、このボールジョイント11は、ボールスタッド15とサスペンションアームの一部を構成するハウジング16との導通が単体で完了しているため、スタッド部22をナックルに接続して組み付けるだけで、サスペンション側とナックル側との電気的な導通を得ることができ、組み付け後にコネクタなどを用いて結線する作業などが不要となり、車両の組み立て時の工数を低減できる。すなわち、このボールジョイント11を用いることで、車体からナックル(ホイール)までの電線を一切不要とすることができる。
【0043】
さらに、導電体51を、導電性材料を含む(合成)樹脂により形成することにより、例えば導電体51を金属などによって形成する場合と比較して、ボール部21と導電体51との摺接による摩耗をより確実に抑制でき、摺動の信頼性をより向上できる。
【0044】
特に、導電性材料を含む樹脂は、一般に高価であるため、この導電性材料を含む樹脂の使用を導電体51のみに制限することで、ボールジョイント11をより安価に構成できる。
【0045】
そして、ボールシート17の貫通孔46を、摺接面47のボール部21の赤道位置Eを除く位置に設けることにより、この貫通孔46に一部を配置した導電体51にボールスタッド15からの荷重が加わりにくい。そのため、ボール部21と導電体51との間の摩擦力を低減でき、ボール部21と導電体51との摺動による摩耗をより確実に抑制でき、摺動の信頼性をより向上できる。
【0046】
なお、上記一実施の形態において、ボールジョイント11は、操舵装置のタイロッドエンドなどに用いてもよい。
【0047】
また、ハウジング16は、連通孔34をプラグ37により閉塞する構成に代えて、例えば予め有底円筒状に形成した内室31の底部33に収容部を凹設する構成などとしてもよい。
【0048】
さらに、付勢部材としては、コイルばね52に限らず、例えば弾性を有する合成樹脂などにより形成したクッションなどを用いてもよい。
【0049】
また、導電体51を直接ハウジング16と摺接させてこのハウジング16と電気的に接続する構成に限らず、例えばコイルばね52を、導電性を有する部材により形成し、このコイルばね52を介して、導電体51をハウジング16と電気的に接続するように構成してもよい。
【0050】
そして、上記のボールジョイント11は、例えば車両のドアミラー、ルームミラー、ワイパなどの各部に用いてもよいし、車両以外でも、例えばロボットアーム、あるいは電気スタンドの首部などに用いてもよい。すなわち、上記のボールジョイント11は、3次元的に動作する可動部を有する種々の電気機器に用いることができる。