(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の周波数を持つ発振出力信号を生成し、第1周波数設定信号に応じて第1分解能で周波数が制御され、第2周波数設定信号に応じて前記第1分解能よりも高い分解能である第2分解能で周波数が制御され、バイアス設定信号に応じたバイアス電流で動作する発振回路と、
ループ設定信号がオンレベルの際に、前記発振出力信号を帰還した信号の位相と基準クロック信号の位相とが一致するように前記第2周波数設定信号を帰還制御し、前記ループ設定信号がオフレベルの際に、前記帰還制御を開放状態に設定する帰還ループ回路と、
前記ループ設定信号がオフレベルの状態で、前記発振出力信号の周波数を測定する測定回路と、
前記バイアス設定信号と前記第1周波数設定信号とを制御する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記ループ設定信号がオフレベルの状態で前記測定回路に測定を行わせ、前記バイアス設定信号を第1バイアス設定値に設定した際に得られる前記発振出力信号の周波数と、前記バイアス設定信号を第2バイアス設定値に設定した際に得られる前記発振出力信号の周波数との間の周波数差分量を測定する第1処理と、
前記第1処理によって得られる前記第2バイアス設定値と前記第1バイアス設定値との間の可変バイアス量と、前記周波数差分量との関係を一次関数に近似して保持する第2処理と、
前記ループ設定信号がオンレベルの状態で、前記バイアス設定信号を変化させる際に、当該バイアス設定信号の変化量に対する前記発振出力信号の周波数の変化量を前記一次関数に基づいて定め、当該定めた周波数の変化量に基づいて第1周波数設定信号を制御する第3処理と、を実行する、高周波信号処理装置。
所定の周波数を持つ第1発振出力信号を生成し、第1周波数設定信号に応じて第1分解能で周波数が制御され、第2周波数設定信号に応じて前記第1分解能よりも高い分解能である第2分解能で周波数が制御され、バイアス設定信号に応じたバイアス電流で動作する発振回路と、
前記第1発振出力信号が入力され、第2発振出力信号を出力するバッファ回路と、
電源電圧設定信号に応じた電源電圧を生成し、前記発振回路および前記バッファ回路のいずれか一方または両方にそれぞれ前記電源電圧を供給する電源回路と、
ループ設定信号がオンレベルの際に、前記第2発振出力信号を帰還した信号の位相と基準クロック信号の位相とが一致するように前記第2周波数設定信号を帰還制御し、前記ループ設定信号がオフレベルの際に、前記帰還制御を開放状態に設定する帰還ループ回路と、
前記ループ設定信号がオフレベルの状態で、前記第2発振出力信号の周波数を測定する測定回路と、
前記バイアス設定信号と、前記第1周波数設定信号と、前記電源電圧設定信号とを制御する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記ループ設定信号がオフレベルの状態で前記測定回路に測定を行わせ、前記電源電圧設定信号を第1電圧設定値に設定し、かつ前記バイアス設定信号を第1バイアス設定値に設定した際に得られる前記第2発振出力信号の周波数と、前記電源電圧設定信号を第2電圧設定値に設定し、かつ前記バイアス設定信号を第2バイアス設定値に設定した際に得られる前記第2発振出力信号の周波数との間の周波数差分量が、予め定めた範囲内に収まるように前記第2電圧設定値を探索する第1処理と、
前記第1処理によって得られる前記第2バイアス設定値と前記第1バイアス設定値との間の可変バイアス量と、前記第2電圧設定値と前記第1電圧設定値との間の可変電圧量との関係を保持する第2処理と、
前記ループ設定信号がオンレベルの状態で、前記バイアス設定信号を変化させる際に、当該バイアス設定信号の変化量に対する可変電圧量を前記第2処理で保持された関係に基づいて定め、当該定めた可変電圧量に基づいて前記電源電圧設定信号を制御する第3処理と、を実行する、高周波信号処理装置。
所定の周波数を持つ第1発振出力信号を生成し、第1周波数設定信号に応じて第1分解能で周波数が制御され、第2周波数設定信号に応じて前記第1分解能よりも高い分解能である第2分解能で周波数が制御され、バイアス設定信号に応じたバイアス電流で動作する発振回路と、
前記第1発振出力信号が入力され、第2発振出力信号を出力するバッファ回路と、
電源電圧設定信号に応じた電源電圧を生成し、前記発振回路および前記バッファ回路のいずれか一方または両方にそれぞれ前記電源電圧を供給する電源回路と、
ループ設定信号がオンレベルの際に、前記第2発振出力信号を帰還した信号の位相と基準クロック信号の位相とが一致するように前記第2周波数設定信号を帰還制御し、前記ループ設定信号がオフレベルの際に、前記帰還制御を開放状態に設定する帰還ループ回路と、
前記ループ設定信号がオフレベルの状態で、前記第2発振出力信号の周波数を測定する測定回路と、
前記バイアス設定信号と、前記第1周波数設定信号と、前記電源電圧設定信号とを制御する制御回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記ループ設定信号がオフレベルの状態で前記測定回路に測定を行わせ、前記バイアス設定信号を第1バイアス設定値に設定した際に得られる前記第2発振出力信号の周波数と、前記バイアス設定信号を第2バイアス設定値に設定した際に得られる前記第2発振出力信号の周波数との間の周波数差分量を測定する第1処理と、
前記第1処理によって得られる前記第2バイアス設定値と前記第1バイアス設定値との間の可変バイアス量と、前記周波数差分量との関係を保持する第2処理と、
前記ループ設定信号がオンレベルの状態で、前記バイアス設定信号を変化させる際に、当該バイアス設定信号の変化量に対する周波数差分量を前記第2処理で保持された関係に基づいて定め、当該定めた周波数差分量に基づいて前記第1周波数設定信号を制御する第3処理と、を実行する、高周波信号処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。
【0015】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0016】
また、実施の形態の各機能ブロックを構成する回路素子は、特に制限されないが、公知のCMOS(相補型MOSトランジスタ)等の集積回路技術によって、単結晶シリコンのような半導体基板上に形成される。なお、実施の形態では、MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)の一例としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)(MOSトランジスタと略す)を用いるが、ゲート絶縁膜として非酸化膜を除外するものではない。
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
《高周波信号処理装置および無線通信システム(本実施の形態)の概略構成》
図1は、本発明の一実施の形態よる無線通信システムにおいて、その概略構成例を示すブロック図である。
図1に示す無線通信システムは、例えば、携帯電話システムであり、ベースバンド処理装置BBICと、高周波信号処理装置RFICと、基準クロック生成装置TCXOと、電力増幅装置HPAと、アンテナスイッチANTSW(又はデュプレクサDPX)と、アンテナANTとを備える。
【0019】
ベースバンド処理装置BBICは、例えば、ベースバンド帯で必要な所定の処理をプロセッサ等を用いて行い、高周波信号処理装置RFICに向けた送信ベースバンド信号の出力や、RFICが出力した受信ベースバンド信号の処理等を行う。また、BBICは、図示しない基地局から送信される電力指示用の信号等に基づいてRFICに向けて送信電力指示信号VRMPを出力する。この電力指示用の信号は、基地局と当該無線通信システムとの距離に応じて適宜定められる信号であり、実際には、アンテナANTやRFIC等を介してBBICに伝送される。BBICは、さらに、RFICに向けて、送信周波数帯や受信周波数帯の指示等を行う。
【0020】
電力増幅装置HPAは、高周波信号処理装置RFICが出力した高周波信号を電力増幅し、アンテナスイッチANTSW(又はデュプレクサDPX)に向けて出力する。ANTSW(又はDPX)は、送信動作の際には、HPAによって電力増幅された高周波信号をアンテナANTに伝送し、受信動作の際には、ANTで受信した高周波信号をRFICに向けて伝送する。ANTSWは、例えばRFIC等からの送受信の指示信号に応じてオン・オフが制御される複数のスイッチ等を含む。例えば、GSM(Global System for Mobile Communications)等のようなTDD(Time Division Duplex)方式を用いる際には、当該ANTSWによってANTとRFICとの間の接続関係が制御される。一方、DPXは、送信周波数帯と受信周波数帯を分離するフィルタ等を含む。例えば、WCDMAやLTE(Long Term Evolution)等のようなFDD(Frequency Division Duplex)方式を用いる際には、当該DPXによってANTとRFICとの間の接続関係が制御される。
【0021】
基準クロック生成装置TCXOは、例えば、水晶発振回路等を用いて、固定の周波数を持つ基準クロック信号CKrefを生成する。高周波信号処理装置RFICは、送信ブロックTXBKと、受信ブロックRXBKと、送信用PLLブロックPLLBKtxと、受信用PLLブロックPLLBKrxとを備える。TXBKは、BBICが出力した送信ベースバンド信号を所定の送信周波数帯にアップコンバート(言い換えれば周波数変換又は変調)し、電力増幅装置HPAに向けて出力する。この際に、PLLBKtxは、CKrefを用いて、この所定の送信周波数帯を持つローカル信号(発振出力信号)LOtxを生成する。
【0022】
受信ブロックRXBKは、アンテナANTおよびアンテナスイッチANTSW(又はデュプレクサDPX)を介して伝送された所定の受信周波数帯を持つ高周波信号を受け、当該高周波信号をベースバンド帯にダウンコンバート(言い換えれば周波数変換又は復調)する。この際に、受信用PLLブロックPLLBKrxは、基準クロック信号CKrefを用いて、この所定の受信周波数帯を持つローカル信号(発振出力信号)LOrxを生成する。また、RXBKは、ダウンコンバートした信号を受信ベースバンド信号としてベースバンド処理装置BBICに向けて出力する。
【0023】
送信ブロックTXBKは、より詳細には、フィルタ回路FLTti,FLTtqと、ミキサ回路MIXti,MIXtqと、位相シフト回路SHFTtと、加算回路ADDと、電力増幅回路(パワーアンプ回路)PAとを備える。ここでは、所謂直交変調(IQ変調)を用いている。FLTti,FLTtqは、それぞれ、ベースバンド処理装置BBICが出力したI側送信ベースバンド信号およびQ側送信ベースバンド信号を、帯域制限を行ったのちMIXti,MIXtqに向けて出力する。SHFTtは、ローカル信号LOtxを受けて位相が互いに90°異なるローカル信号を生成し、その一方をMIXtiに、他方をMIXtqに出力する。
【0024】
ミキサ回路MIXti,MIXtqは、位相シフト回路SHFTtを介して入力されたローカル信号(発振出力信号)LOtxを用いて、フィルタ回路FLTti,FLTtqを介して入力されたI側およびQ側送信ベースバンド信号をそれぞれアップコンバート(IQ変調)する。加算回路ADDは、MIXti,MIXtqの出力信号を合成する。電力増幅回路PAは、ADDの出力信号を送信電力指示信号VRMPに基づくゲインで増幅し、これによって得られる高周波信号を電力増幅装置HPAに向けて出力する。なお、ここでは、HPAの入力電力を制御することで送信電力を制御する構成となっているが、場合によっては、VRMPに応じてHPAのゲインを制御するような構成や、PAとHPAの両方にVRMPを出力するような構成であってもよい。
【0025】
受信ブロックRXBKは、より詳細には、ロウノイズアンプ回路LNAと、ミキサ回路MIXri,MIXrqと、位相シフト回路SHFTrと、フィルタ回路FLTri,FLTrqと、可変利得増幅回路PGAi,PGAqとを備える。ここでは、所謂直交復調(IQ復調)を用いている。LNAは、アンテナANTおよびアンテナスイッチANTSW(又はデュプレクサDPX)を介して伝送された高周波信号を低雑音で増幅する。SHFTrは、ローカル信号LOrxを受けて位相が互いに90°異なるローカル信号を生成し、その一方をMIXriに、他方をMIXrqに出力する。
【0026】
ミキサ回路MIXri,MIXrqは、位相シフト回路SHFTrを介して入力されたローカル信号(発振出力信号)LOrxを用いて、ロウノイズアンプ回路LNAの出力信号をダウンコンバート(IQ復調)する。FLTri,FLTrqは、それぞれ、MIXri,MIXrqの出力信号を、帯域制限を行ったのち可変利得増幅回路PGAi,PGAqに向けて出力する。PGAi,PGAqは、それぞれ、FLTri,FLTrqを介して入力されたMIXri,MIXrqの出力信号を、その振幅ばらつきを低減するように増幅し、これによって得られるI側およびQ側受信ベースバンド信号をベースバンド処理装置BBICに向けて出力する。
【0027】
送信用PLLブロックPLLBKtxは、送信用発振回路DCOtxと、温度センサTMPと、記憶装置LUTと、送信用制御回路CTLtxとを備える。同様に、受信用PLLブロックPLLBKrxも、受信用発振回路DCOrxと、温度センサTMPと、記憶装置LUTと、受信用制御回路CTLrxとを備える。TMPやLUTに関しては、PLLBKtxとPLLBKrxで共用することも可能である。なお、PLLBKtxの詳細に関しては、以降で適宜説明する。
【0028】
ここで、送信用発振回路DCOtxの電流は、高周波信号処理装置RFICの低消費電力化やノイズ低減等の観点から、前述したように、パワーアンプ回路PAおよび電力増幅装置HPAの送信電力(すなわち送信電力指示信号VRMP)に応じて、インジェクションロックを防げる範囲内で最低限の電流値とすることが望ましい。そこで、PLLBKtxは、前述した送信電力指示信号VRMPに基づいて後述するバイアス設定信号を変化させ、このバイアス設定信号によってDCOtxのバイアス電流を制御する。
【0029】
《PLLブロックの構成および動作》
図2は、
図1における送信用PLLブロックの詳細な構成例を示すブロック図である。
図2に示す送信用PLLブロックPLLBKtxは、発振回路DCOと、帰還ループ回路FBLPUと、制御回路CTLと、カウンタ回路(測定回路)CNTと、記憶装置LUTとを備える。LUTは、場合によっては、高周波信号処理装置RFICの外部に設けることも可能である。DCOは、所定の周波数(すなわち送信周波数帯)を持つ発振出力信号CKout(ローカル信号LOtx)を生成する。この際に、DCOの周波数は、粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMと、微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEで制御される。CFINEによる周波数設定の分解能は、CTRMによる周波数設定の分解能よりも高い。また、DCOは、バイアス設定信号ISETに応じたバイアス電流で動作する。
【0030】
帰還ループ回路FBLPUは、ループ設定信号LPSETがオンレベルの際に、発振出力信号CKoutを帰還した信号の位相と基準クロック信号CKrefの位相とが一致するように微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEを帰還制御する。また、FBLPUは、LPSETがオフレベルの際に、当該帰還制御を開放状態に設定し、発振回路DCOをフリーラン(オープンループ)状態に設定する。
【0031】
帰還ループ回路FBLPUは、詳細には、位相比較回路DPFDと、ループフィルタ回路DLPFと、スイッチSWと、分周回路MMDを備える。MMDは、発振出力信号CKoutを設定された分周比で分周し、当該分周された発振出力信号をDPFDに向けて帰還する。DPFDは、当該帰還された発振出力信号と、
図1の基準クロック生成回路TCXOによって生成された基準クロック信号CKrefとの位相差を比較し、その位相差の方向および大きさに応じた制御信号を出力する。DLPFは、当該制御信号を平均化し、この平均化された制御信号を、SWを介して微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEとして発振回路DCOに出力する。SWは、ループ設定信号LPSETがオンレベルの際にはオンに、オフレベルの際にはオフに制御される。
【0032】
このような発振回路DCOおよび帰還ループ回路FBLPUの構成により、ロック状態での発振出力信号CKoutの周波数は、基準クロック信号CKrefの周波数と分周回路MMDに設定される分周比に基づいて定められる。当該分周比は、例えば、
図1のベースバンド処理回路BBICが出力する送信周波数帯の指示信号に基づいて適宜定められる。なお、ここでは、DCOおよびFBLPUの構成として、所謂ディジタルPLLを想定している。ディジタルPLLでは、微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEがディジタルコードで与えられ、DCOは、当該ディジタルコードに基づいてCKoutの周波数を調整する。ただし、ディジタルPLLに限定されるものではなく、アナログPLLであってもよい。アナログPLLでは、電圧制御型の発振回路が用いられ、第2周波数設定信号が電圧レベルによって与えられる。
【0033】
カウンタ回路(測定回路)CNTは、発振出力信号CKoutをカウントすることでCKoutの周波数を測定する。例えば、CNTは、CKrefの1周期内でのCKoutをカウント数を測定する。本実施の形態では、CNTは、ループ設定信号LPSETがオフレベル(すなわちスイッチSWがオフ)の状態で、発振回路DCOのフリーラン周波数を測定する際に使用される。制御回路CTLは、例えば、ロジック回路やプロセッサ等によって構成され、バイアス設定信号ISETと、粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMと、LPSETとを出力する。CTLは、詳細は後述するが、周波数自動選択部ABSやプロセスモニタ部PMを備え、送信電力指示信号VRMPや、CNTによる測定結果や、記憶装置LUT内の情報等を反映して、ISET,CTRM,LPSETを出力する。なお、ここでは、送信用PLLブロックPLLBKtxの構成について説明したが、受信用PLLブロックPLLBKrxの構成も同様である。
【0034】
図3は、
図2における発振回路の構成例を示す回路図である。
図3に示す発振回路DCOは、LCタンク回路LCUと、LCUに結合される増幅回路(負性抵抗生成回路)RNGENと、RNGENに結合される可変電流源ISVとを備える。LCUは、インダクタL1,L2と、粗調用可変容量(第1可変容量)Ctvと、微調用可変容量(第2可変容量)Cfvを備える。L1,L2は、一端に電源電圧VDDが供給される。Ctv,Cfvは、それぞれ、L1の他端とL2の他端との間に並列に接続される。Ctvは、粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMに応じて容量値(すなわち周波数)が制御され、Cfvは、微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEに応じて容量値(すなわち周波数)が制御される。特に限定はされないが、Ctvによる周波数分解能はMHzオーダであり、Cfvによる周波数分解能はkHzオーダである。
【0035】
粗調用可変容量(第1可変容量)Ctvは、インダクタL1,L2の他端の間に並列接続された複数の直列接続回路を含む。各直列接続回路は、順に接続された、容量(例えばCt1)、スイッチ(例えばSWt1)、容量(例えばCt2)を備えている。スイッチ(例えばSWt1)がオンに制御されることで、各容量(例えばCt1,Ct2)は、発振周波数の設定に寄与することになる。したがって、当該複数の直列接続回路にそれぞれ含まれるスイッチのオン・オフを粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMを用いて適宜制御することで、発振周波数が所定の分解能(例えばMHzオーダ)で制御される。
【0036】
同様に、微調用可変容量(第2可変容量)Cfvも、インダクタL1,L2の他端の間に並列接続された複数の直列接続回路を含む。各直列接続回路は、順に接続された、容量(例えばCf1)、スイッチ(例えばSWf1)、容量(例えばCf2)を備えている。スイッチ(例えばSWf1)がオンに制御されることで、各容量(例えばCf1,Cf2)は、発振周波数の設定に寄与することになる。したがって、当該複数の直列接続回路にそれぞれ含まれるスイッチのオン・オフを微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEを用いて適宜制御することで、発振周波数が所定の分解能(例えばkHzオーダ)で制御される。
【0037】
増幅回路(負性抵抗生成回路)RNGENは、所謂クロスカップルで接続された2個のNMOSトランジスタMN1,MN2を備え、LCタンク回路LCUの抵抗成分を相殺するように負性抵抗成分を生成する。MN1,MN2のドレインは、インダクタL1,L2の他端にそれぞれ接続される。可変電流源ISVは、MN1,MN2の共通ソースと、接地電源電圧GNDとの間に接続され、バイアス設定信号ISETに応じたバイアス電流を生成する。
【0038】
図4は、
図3の発振回路の概略的な動作例を示す説明図である。
図4に示すように、発振出力信号CKoutの発振周波数は、粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMのディジタルコードに応じて大まかに制御され、微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEのディジタルコードに応じて細かく制御される。例えば、CTRM=104に設定された場合、CTRM=104に対応する周波数を中心とする前後の範囲で、CFINEに基づき複数段階(例えば512段階等)の調整を行うことが可能となっている。CFINEに基づく周波数調整幅をここではΔVtuneで表している。また、例えば、CTRM=104とΔVtuneの組合せによって得られる周波数(絶対値)の範囲と、これに隣接するCTRM=103とΔVtuneの組合せによって得られる周波数(絶対値)の範囲とは、一部重複するように設計される。
【0039】
《周波数自動選択部の動作》
図5(a)および
図5(b)は、
図2の制御回路における周波数自動選択部の動作例を示す図である。周波数自動選択部ABSは、
図2におけるループ設定信号LPSETがオフレベルの状態でカウンタ回路(測定回路)CNTに測定を行わせ、発振出力信号CKoutの周波数を目標周波数に設定する際に最適となる粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMの設定値を自動探索する機能を持つ。
【0040】
図5(a)では、例えば、
図3における粗調用可変容量(第1可変容量)Ctvの容量値を512段階で設定できる場合を例としている。この場合、ABSは、まず、粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMの設定値を中心値となる256に設定し、発振回路DCOのフリーラン周波数をカウンタ回路CNTを用いて測定する(S101,S102)。次いで、ABSは、測定した周波数が予め設定された目標周波数に対して高いか低いかを判別する(S103)。目標周波数は、送信周波数に応じたカウント数として予め設定されている。
【0041】
続いて、周波数自動選択部ABSは、測定した周波数が目標周波数よりも高い場合には、粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMを128(=256−128)に設定し(S104)、目標周波数よりも低い場合には、CTRMを384(=256+128)に設定する(S105)。以降同様にして、ABSは、
図5(b)にも示されるような所謂2分探索方式を用いて、最適なCTRMが得られるまで、CTRMの設定、発振周波数の測定、目標周波数との比較を繰り返す。なお、ABSは、その他にも様々な方式が考えられ、最適なCTRMの設定値が得られる方式であれば、
図5(a)および
図5(b)の方式に限定されるものではない。
【0042】
《プロセスモニタ部の動作》
図6は、
図3の発振回路における可変電流源の詳細な構成例を示す回路図である。
図6に示すように、可変電流源ISVは、NMOSトランジスタMN1,MN2の共通ソースと接地電源電圧GNDの間に並列接続された複数の直列接続回路によって構成される。各直列接続回路は、順に、抵抗(例えばRi1)とNMOSトランジスタ(例えばMNi1)が接続された構成となっている。各直列接続回路内のNMOSトランジスタ(例えばMNi1)は、それぞれ、スイッチ(例えばSWi1)を介して固定電圧VRが共通に供給される。したがって、各NMOSトランジスタに対応するスイッチのオン・オフをバイアス設定信号ISETによって適宜制御することで、発振回路DCOのバイアス電流を可変設定することが可能になる。
【0043】
図7(a)〜
図7(d)は、
図2におけるプロセスモニタ部の動作を説明するための補足図である。
図7(a)に示すように、
図3のようなLC型の発振回路DCOでは、バイアス電流を増加させると発振出力信号CKoutの振幅も増加するが、振幅は電源電圧VDDに制限されるため、ある点から飽和する。これに伴い、
図7(b)に示すように、DCOのフリーラン周波数は、CKoutの振幅の増加に伴い増加し、振幅がさらに大きくなり飽和すると、高調波成分が大きくなる影響で低下する。
【0044】
図7(c)には、バイアス設定信号ISETとバイアス電流の関係が示されている。バイアス電流は、ISETの設定値(ディジタルコード)に応じて所定の傾きで変化するが、この傾きの大きさやバイアス電流のオフセット量は、実際には、製造プロセスのばらつき(例えばしきい値電圧Vthの高低等)に応じて変化する。これにより、CKoutの振幅の飽和点も、製造プロセスのばらつきに応じて異なる。その結果、
図7(d)に示すように、バイアス設定信号ISETに対する発振周波数の特性も製造プロセスのばらつきに応じて異なる。
【0045】
そこで、
図2のプロセスモニタ部PMは、
図7(d)に示したような、製造プロセスのばらつきに応じた発振周波数の特性の違いを識別することで、製造プロセスのばらつき度合いを判別する。
図8(a)および
図8(b)は、
図2の制御回路におけるプロセスモニタ部の動作例を示す図である。
図8(a)に示すように、PMは、まず、
図2のループ設定信号LPSETがオフレベルの状態で(S201)、カウンタ回路(測定回路)CNTに測定を行わせながらバイアス設定信号ISETの変化に対する発振出力信号CKoutの周波数の感度を検出する(S202〜S206)。この例では、
図8(a)および
図8(b)に示すように、ISETに基づきバイアス電流をI4に設定した際の周波数(f1)と、バイアス電流をI7に設定した際の周波数(f2)とを測定し(S202〜S205)、(f1−f2)の値を算出する(S206)。
【0046】
次いで、プロセスモニタ部PMは、予め設計段階で記憶装置LUT内に実装したプロセステーブルに基づいて、算出した(f1−f2)の値に対応するプロセス値(すなわち製造プロセスのばらつき度合い)を判別する(S207)。なお、(f1−f2)の値が想定値よりも大きい場合には、プロセス値を予め定めた初期値に設定する(S208)。なお、プロセスモニタ部PMは、その他にも様々な方式が考えられ、製造プロセスのばらつき度合いを判別できる方式であれば、
図8(a)および
図8(b)の方式に限定されるものではない。
【0047】
《高周波信号処理装置(前提構成)における問題点の詳細》
図28(a)は、LC発振回路において、バイアス電流に対する発振周波数(フリーラン周波数)の特性例を示す図であり、
図28(b)は、LC発振回路を含んだPLLにおいて、ロック中にバイアス電流を切り替えた際の過渡応答の一例を示す図である。
図7(b)でも述べたが、LC発振回路は、
図28(a)に示すように、バイアス電流を増加させると、出力振幅の増加に伴って発振周波数が上昇する。これは、非特許文献1に記載されているように、寄生容量の電流依存性に起因する。また、LC発振回路は、非特許文献2に記載されているように、さらにバイアス電流を増加させると、ある点で出力振幅が飽和するため、高調波が発生し、その影響で発振周波数が減少していく。
【0048】
ここで、
図28(a)に示すように、特定のバイアス電流でPLLをロックした状態で、バイアス電流を減少方向に切り替えた場合を想定する。そのとき、発振周波数は大きく上昇し、結果として、発振周波数の過渡応答は、
図28(b)のようになる。例えば、数GHzで発振している状態でバイアス電流値を最大幅で変動させた場合、発振周波数が十MHz以上変動する場合がある。
【0049】
PLLをロックした状態でLC発振回路のバイアス電流を切り替えたため、発振周波数が急激に増加し、一時的にロックが外れる。ただし、PLLは、フィードバックループにより発振周波数を一定に保とうとする機能を持つため、発振周波数の増加量が微調用可変容量(
図3のCfvに相当)の調整範囲内であれば、当該微調用可変容量の調整を行うことでターゲットに再収束する。しかし、周波数(位相)誤差は、通信方式ごとに仕様が定められており、決められた誤差の範囲内に決められた時間内に戻ってこなければならない。この再収束時間は、PLLのループ帯域を広げることで短縮できる。ただし、ループ帯域を広げることは、位相誤差とのトレードオフがあるため容易でない。
【0050】
そこで、例えば、特許文献1に示されるような方式を用いることが考えられる。
図29は、本発明の前提として検討したLC発振回路の構成例を示す回路図である。
図29に示すLC発振回路は、通常の可変容量(Ctr)のほか、追加の容量(Cadd)を持っている。この方式では、事前にキャリブレーションを行う中で、切り替え後のバイアス電流でLC発振回路を動作させ、その際の発振周波数を周波数カウンタでカウントする。そして、当該周波数をバイアス電流の切り替え前の周波数と比較し、その差分を小さくするための容量(Cadd)の値(CN)を予め探索し、テーブルに記憶しておく。PLLの通常動作時にバイアス電流の切り替えが生じた際には、当該テーブルを参照し、バイアス電流の切り替えと共に容量(Cadd)の値(CN)を切り替える。
【0051】
しかしながら、このようなキャリブレーション方式を用いると、選択可能な全てのバイアス電流を対象に、対応する容量(Cadd)の値(CN)を探索する必要がある。この場合、キャリブレーションに要する時間が増大し、キャリブレーションに要する消費電力も増大する。この対策として、例えば、バイアス電流の選択肢を減らすことが考えられるが、この場合、送信電力に応じたバイアス電流の最適化が不十分となる。すなわち、最低限必要とされるバイアス電流ではなく、それにある程度のマージンを持たせたバイアス電流が設定されることになる。その結果、消費電力の低減効果も不十分となる。
【0052】
また、温度変化等でキャリブレーション結果が変動することを考慮すると、PLLのロック直前にキャリブレーションを行うことが好ましい。ただし、キャリブレーション点数が多い場合には、ロック直前にキャリブレーションを行うことは容易でなく、現実的には、起動時(もしくは工場で製造時)に行うこととなる。その場合、キャリブレーション結果の変動(温度変化、その他経年変化など)に対応できない可能性がある。さらに、仮に温度変化を踏まえた上でキャリブレーションを行う場合であっても、複雑なテーブルが必要となる事態や、十分な精度を確保できない事態等が生じる恐れがあり、そのキャリブレーションの実現自体が容易でない。
【0053】
《代表的な実施の形態の概要》
<方式1>バイアス電流に応じた粗調容量の切り替え方式
方式1を用いた代表的な実施の形態による高周波信号処理装置は、例えば
図2および
図3を参照して、発振回路(DCO)、帰還ループ回路(FBLPU)、測定回路(カウンタ回路)(CNT)、および第1〜第3処理を実行する制御回路(CTL)を備える。制御回路は、第1処理において、ループ設定信号(LPSET)がオフレベルの状態で測定回路に測定を行わせ、発振出力信号(CKout)の周波数を測定する。具体的には、例えば
図13を参照して、バイアス設定信号(ISET)を第1バイアス設定値(B1)に設定した際に得られる周波数と、第2バイアス設定値(B2)に設定した際に得られる周波数との間の周波数差分量を測定する。
【0054】
次いで、制御回路は、第2処理において、例えば
図13を参照して、第1処理によって得られる第2バイアス設定値(B2)と第1バイアス設定値(B1)との間の可変バイアス量と、周波数差分量との関係を一次関数(SP1)に近似して保持する。その後、制御回路は、第3処理において、ループ設定信号(LPSET)がオンレベルの状態で、バイアス設定信号(ISET)を変化させる際に、当該バイアス設定信号の変化量に対する発振出力信号(CKout)の周波数の変化量を当該一次関数(SP1)に基づいて定め、これに基づいて第1周波数設定信号(CTRM)を制御する。
【0055】
実際に、発振回路がどの範囲でバイアス電流を使用するかは、高周波信号処理装置を使用するアプリケーションによって決まる。ここで、例えば
図11を参照して、出力振幅の飽和点を超えた領域(AR2)でバイアス電流を使用する際には、バイアス電流と発振周波数との関係はほぼ線形となる。このため、2点のバイアス電流でキャリブレーション(第1処理)を行えば、補間によってバイアス電流と発振周波数(すなわちバイアス電流と第1周波数設定信号(CTRM))との関係を得ることができる。また、出力振幅の飽和点を超えない領域で使う場合も同様にほぼ線形となるため、2点のバイアス電流でキャリブレーションを行えばよい。さらに、出力振幅が飽和し始める周辺(山の頂点周辺)の領域(AR1)でバイアス電流を使用する場合には、周波数変動が元々小さく、バイアス電流の切り替えに応じた第1周波数設定信号(CTRM)の制御は不要のため、キャリブレーションを省略可能である。
【0056】
これらのことを利用すれば、バイアス電流を切り替える際(第3処理の際)に、キャリブレーションの結果(すなわち第1および第2処理)に基づいて第1周波数設定信号(CTRM)を制御することで、バイアス電流の切り替えに伴う突発的な周波数変動を抑制でき、再収束時間を短縮できる。加えて、キャリブレーションに要する時間を大幅に短縮することができる。なお、例えば
図11を参照して、発振周波数とバイアス電流の関係は、実際には、製造プロセスのばらつきによって変動し、これに応じて最適な(すなわち一次関数による線形補間が適用可能な)第1および第2バイアス設定値も変動する場合がある。そこで、
図8(a)および
図8(b)に示すようなプロセスモニタ部によって予め製造プロセスのばらつきを把握しておくことが望ましい。
【0057】
<方式2>バイアス電流に応じた電源電圧の切り替え方式
方式2を用いた代表的な実施の形態による他の高周波信号処理装置は、例えば
図3および
図15を参照して、発振回路(DCO)、バッファ回路(BF)、電源回路(LDO1,LDO2)、帰還ループ回路(FBLPU)、測定回路(カウンタ回路)(CNT)、および第1〜第3処理を実行する制御回路(CTL)を備える。制御回路は、第1処理において、ループ設定信号(LPSET)がオフレベルの状態で測定回路に測定を行わせ、例えば、
図16(a)、
図16(b)、
図19に示すように、バイアス設定信号(ISET)と、電源電圧(VDD1および/またはVDD2)を設定する電源電圧設定信号(VSET)との関係を探索する。
【0058】
具体的には、制御回路は、電源電圧設定信号およびバイアス設定信号をそれぞれ第1電圧設定値(VSET=xx)および第1バイアス設定値(B1)に設定した際に得られる発振出力信号(CKout)の周波数と、第2電圧設定値(VSET=yy)および第2バイアス設定値(Bn)に設定した際に得られる発振出力信号の周波数との間の周波数差分量を測定する。そして、制御回路は、当該周波数差分量が予め定めた範囲内に収まるように(具体的にはゼロに近づくように)第2電圧設定値を探索する。
【0059】
次いで、制御回路は、第2処理において、第1処理によって得られる第2バイアス設定値と第1バイアス設定値との間の可変バイアス量と、第2電圧設定値と第1電圧設定値との間の可変電圧量との関係を保持する。その後、制御回路は、第3処理において、ループ設定信号(LPSET)がオンレベルの状態で、バイアス設定信号を変化させる際に、当該バイアス設定信号の変化量に対する可変電圧量を第2処理で保持された関係に基づいて定め、当該定めた可変電圧量に基づいて電源電圧設定信号を制御する。
【0060】
このように、方式2では、バイアス電流に対する発振周波数の特性を電源電圧の調整によってフラットにすることで、バイアス電流の切り替えに伴う突発的な周波数変動を抑制し、再収束時間を短縮する。発振回路の出力振幅が飽和している際のバイアス電流の増加に伴う発振周波数の低下は、非特許文献2に示されるように、電源クリップによる高調波の増加が原因であることがわかっている。そのため、出力振幅が飽和している領域のバイアス電流を使用する場合、バイアス電流の増加にあわせて発振回路(および/またはバッファ回路)の電源電圧も増加させることで、高調波の発生を抑え、発振周波数の変動を小さくすることができる。
【0061】
このときの最適な電源電圧は、事前に第1および第2処理を用いてキャリブレーションを行い、テーブルに保存しておく。そして、通常動作(すなわちループ設定信号(LPSET)がオンレベル)の際には、当該テーブルに基づき、バイアス電流の切り替えと共に電源電圧を切り替える。なお、当該キャリブレーションを行う際には、例えば、方式1の場合と同様に、2点のバイアス電流で最適な電源電圧の値を探索し、バイアス電流と最適な電源電圧との関係を補間(一次関数を用いた近似式)で得ることも可能である。これによって、キャリブレーションに要する時間を大幅に短縮することができる。なお、当該方式2を用いる場合、方式1のように、第1周波数設定信号(CTRM)に対するキャリブレーションは不要となる。
【0062】
<方式3>バイアス電流に応じた粗調容量および電源電圧の切り替え方式[1]
方式3を用いた代表的な実施の形態による他の高周波信号処理装置は、方式2と同様の構成を用いて、制御回路が方式1と同様の動作を実行するものである。方式3では、キャリブレーション精度の更なる向上を図るため、方式1での第1処理に先だって、例えば
図8(a)および
図8(b)等に示すようなプロセスモニタ部(PM)を用いた処理を実行することが望ましい。制御回路は、当該処理によって得られる製造プロセスのばらつき度合いに応じたオフセット量を予め設計段階で定めたプロセステーブルに基づいて定め、当該オフセット量をバイアス設定信号に加えることで製造プロセスのばらつきを予め補償しておく。
【0063】
さらに、温度補償を実現するため、例えば
図1を参照して、高周波信号処理装置に温度センサ(TMP)を設ける。制御回路は、温度を補償するための電源電圧設定信号(VSET)の電圧設定値を予め設計段階で実装した温度補償テーブルに基づいて定め、当該定めた電圧設定値に基づき電源電圧設定信号を制御した状態で、方式1の第1処理を実行する。すなわち、製造プロセスと温度の両方が補償された状態で方式1の第1処理を実行する。
【0064】
これによって、第1周波数設定信号(CTRM)に対するキャリブレーションをより高精度化できる。キャリブレーションの高精度化により、バイアス電流の切り替えに伴う突発的な周波数変動もより抑制でき、再収束時間をより短縮できる。さらに、製造プロセスのばらつきはバイアス電流によって補償し、温度は電源電圧によって補償するため、例えば、製造プロセスのばらつきと温度を一つの変数で補償するような場合と比べて、補償の容易化が実現可能になる。なお、方式1の第3処理(すなわち通常動作)の際に、制御回路は、バイアス電流の切り替えと共に第2処理での関係に基づき第1周波数設定信号(CTRM)を制御し、更に、バイアス電流を切り替える段階での温度に基づき、温度補償テーブルを参照して電源電圧設定信号を制御する。このように、通常動作時に温度変化が生じた場合でも、再度、キャリブレーションを行う必要性が無くなるため、結果として、キャリブレーション時間の短縮が実現可能になる。
【0065】
<方式4>バイアス電流に応じた粗調容量および電源電圧の切り替え方式[2]
方式4を用いた代表的な実施の形態による他の高周波信号処理装置は、方式2と同様の構成を用いて、制御回路が方式1と方式2を組み合わせたようなキャリブレーションを実行するものである。制御回路は、方式2のようなキャリブレーションによって、可変バイアス量と可変電圧量との関係を探索し、保持する。さらに、制御回路は、この可変バイアス量と可変電圧量との関係に基づき電源電圧設定信号(VSET)を制御した状態で、方式1のようなキャリブレーションによって、可変バイアス量と周波数差分量との関係を探索し、保持する。粗調容量と電源電圧の両方を用いてキャリブレーションを行うことで、キャリブレーションの更なる高精度化が実現できる場合がある。
【0066】
以下、これらの各方式を用いた高周波信号処理装置の更なる詳細について説明する。
【0067】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、前述した方式1を用いた高周波信号処理装置の詳細について説明する。本実施の形態1の高周波信号処理装置は、
図2に示した送信用PLLブロックPLLBKtx1を備え、発振回路DCOのバイアス電流の切り替えに応じて粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMを制御することで、バイアス電流の切り替えに伴う突発的な周波数変動を抑制する。まず、この突発的な周波数変動を抑制する際の動作原理について説明する。
【0068】
図9は、本発明の実施の形態1による高周波信号処理装置において、その動作原理の一例を示す模式図である。
図9には、粗調容量設定信号CTRMおよび微調容量設定信号CFINEに対する発振周波数特性の一例が示されている。
図9において、例えば、CTRMが100であり、CFINEがロックポイントLP0で動作している状態を想定する。この状態で、発振回路DCOのバイアス電流を切り替えた場合、
図2の送信用PLLブロックPLLBKtx1は、このバイアス電流の切り替えに伴う周波数変動を相殺するように帰還制御を行う。
【0069】
ここで、仮に粗調容量設定信号CTRMの切り替えを行わない場合、
図9に示すように、微調容量設定信号CFINEは、バイアス電流の切り替えに伴う周波数変動を相殺するため大きく変動し、ΔVtune1だけ変動したロックポイントLP1に再収束する。PLLでは、CFINEはループフィルタ回路DLPFを介した積分制御によって変動するため、ΔVtune1が大きいとLP1に到達するまでにある程度の時間を要し、その過渡期間では周波数が目標周波数から大きくずれた状態となる。また、ΔVtune1が非常に大きい場合には、再収束自体が困難となり得る。
【0070】
一方、粗調容量設定信号CTRMの切り替えを行う場合、
図9に示すように、例えばCTRMを100から102に切り替えることで、バイアス電流の切り替えに伴う周波数変動の大部分はこのCTRMの切り替えによって相殺される。その結果、再収束後のロックポイントLP2に到達するまでの微調容量設定信号CFINEの変動幅(ΔVtune2)を非常に小さくすることができる。ΔVtune2が小さいため、LP2に到達するまでの時間が短く、その過渡期間における周波数の目標周波数からのずれ幅も小さくなる。
【0071】
図10(a)および
図10(b)は、本発明の実施の形態1による高周波信号処理装置において、その作用の一例を示す模式図である。
図10(a)において、例えば粗調容量設定信号CTRMを102に設定した状態でバイアス設定信号ISETを切り替えた場合を想定する。この場合、CTRMが102のままでは、ISETを切り替えた瞬間に周波数が大きく変動し、これに応じて
図10(b)に示すように、所定の目標周波数の範囲に再収束するまでの時間(所謂セットリング時間)も増大する。一方、
図10(a)に示すように、例えばCTRMを100に切り替えた場合、ISETを切り替えた瞬間の周波数変動が抑制され、これに応じて
図10(b)に示すように、セットリング時間も短縮できる。
【0072】
図11は、本発明の実施の形態1による高周波信号処理装置において、バイアス設定信号に対する発振周波数特性の一例を製造ばらつきを含めて示す概略図である。
図11に示すように、バイアス電流設定信号ISETに対する発振周波数特性は、山状の特性カーブとなるが、この山の頂点に対応するISETのバイアス設定値は、製造プロセスのばらつき(SS特性、TYP特性、FF特性)に応じて変動する。SS特性は、TYP特性に比べてMOSトランジスタのしきい値電圧が高い場合等に該当し、FF特性は、TYP特性に比べてMOSトランジスタのしきい値電圧が低い場合等に該当する。例えば、ISETがある値に設定された場合、TYP特性に比べてSS特性の方がバイアス電流が流れ難くなるため、その分、出力振幅の飽和点(すなわち山の頂点)はISETのバイアス設定値が大きい側に変動する。
【0073】
図11において、バイアス設定信号ISETの可変範囲が出力振幅の飽和点(すなわち山の頂点)を超えた領域(AR2)の場合、ISETと発振周波数との関係はほぼ線形となる。また、ISETの可変範囲が出力振幅の飽和点を超えない領域の場合も同様に、ISETと発振周波数との関係はほぼ線形となる。さらに、ISETの可変範囲が出力振幅が飽和し始める周辺(山の頂点周辺)の領域(AR1)の場合、近似的に、ISETに対して発振周波数の変動は無いものとして取り扱うことができる。
【0074】
図12は、本発明の実施の形態1による高周波信号処理装置において、
図2の制御回路の詳細な処理内容の一例を示すフロー図である。
図13は、
図12のフローで作成される補間式の一例を示す説明図である。
図12に示すように、制御回路CTLは、まず、PLL起動時に、
図8(a)および
図8(b)等に示したようなプロセスモニタ部PMを用いて、バイアス設定信号ISETに対する発振周波数特性における山の形状を判別する(S301)。ここでは、プロセスモニタ部PMによって、製造プロセスのばらつきが
図11のTYP特性と判別された場合を例とし、さらに、ISETの可変範囲が出力振幅の飽和点(すなわち山の頂点)を超えた領域(
図11のAR1)および山の頂点周辺である場合を例とする。
【0075】
次いで、制御回路CTLは、製造プロセスのばらつき(ここではTYP特性)に基づいて、最適なバイアス設定信号ISETのバイアス設定値を2個(B1,B2)定める(S302)。最適なISETのバイアス設定値とは、例えば、
図11の線形領域(AR2)での両端のバイアス設定値である。続いて、CTLは、一方のバイアス設定値(B1)を設定し、
図5に示したような周波数自動選択部ABSを用いて粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMの最適値(C1)を取得する。同様に、CTLは、他方のバイアス設定値(B2)を設定し、ABSを用いてCTRMの最適値(C2)を取得する(S303〜S306)。
【0076】
この際に、周波数自動選択部ABSは、発振周波数の測定回路として機能する。例えば、バイアス設定値B1で目標周波数に設定する際に最適となる粗調容量設定信号CTRMがC1であり、バイアス設定値B2で当該目標周波数に設定する際に最適となるCTRMがC2であった場合、B1とB2との間の可変バイアス量によって生じた周波数差分量を相殺するように、C1がC2に変わったことになる。これは、当該可変バイアス量によって生じた周波数差分量をC1とC2との間のCTRMの設定値の差分量によって測定していることを意味する。
【0077】
なお、S303〜S306の処理は、
図2のカウンタ回路(測定回路)CNTを用いて各バイアス設定値(B1,B2)に対する発振周波数を直接測定する処理であってもよい。ただし、本実施の形態1の方式は、粗調容量設定信号CTRMの最適値を得ることを目的とするため、このように周波数自動選択部ABSを介してCNTに測定を行わせ、その周波数の測定結果をCTRMの設定値として取得する処理を用いる方が、より効率的となる。
【0078】
続いて、
図12において、制御回路CTLは、前述した可変バイアス量(B2−B1)と、粗調容量設定信号CTRMの最適値(C2−C1)との関係を補間式(一次関数の近似式)として
図2の記憶装置LUTに保持する(S307)。すなわち、
図11の線形領域(AR2)の特性を
図13に示すような補間式(一次関数の近似式)SP1で表す。SP1は、特に限定はされないが、INTを最も近い整数値として、式(1)のように定めることができる。
【0079】
CTRM=INT{|(C2−C1)/(B2−B1)|・(ISET−B1)−C1} (1)
なお、記憶装置LUT内には、当該補間式をそのまま保持するか、あるいは、当該補間式から求まる結果(すなわちISETとCTRMの離散値)を最適粗調容量予測テーブルとして保持してもよい。前者の場合、LUTの記憶容量が低減でき、後者の場合、バイアス設定信号ISETの切り替えの際に逐次演算を行う必要が無いため、粗調容量設定信号CTRMの最適値を迅速に定めることができる。
【0080】
次いで、
図12において、制御回路CTLは、バイアス設定信号ISETの初期のバイアス設定値でPLLをロックし、通常の動作状態となる(S308)。以降、CTLは、バイアス設定信号ISETの切り替えが必要となる度に、当該ISETに対応する粗調容量設定信号CTRMの設定値を、記憶装置LUT内の補間式(あるいは最適粗調容量予測テーブル)に基づいて定める(S309,S310)。そして、CTLは、CTRMの切り替えが必要な場合には、ISETと共に切り替えを行い、必要が無い場合にはISETの切り替えを行う(S311,S312)。
【0081】
なお、バイアス設定信号ISETの可変範囲が
図11における山の頂点周辺の領域の場合には、周波数変動が小さいため、制御回路CTLは、
図13に示すように近似的に周波数変動が無いものとして取り扱い、粗調容量設定信号CTRMの切り替えを行わない。場合によっては、ISETがこの領域のみで使用されるように設計することで、ISETの可変範囲は減少する(結果的にPLLの低消費電力化が図り難くなる)ものの、S301〜S307に示したようなキャリブレーション自体を省略することができ、PLLの起動を高速化することができる。
【0082】
図14は、
図12の処理を適用した送信用PLLブロックの時系列的な動作例を示す概略図である。
図14に示すように、送信用PLLブロックPLLBKtx1の起動時には、まず、
図12のS301〜S306の処理に伴い、周波数自動選択部ABSによる処理が最低2回(ABS1,ABS2)行われる。次いで、
図12のS308の処理により、PLLBKtx1の通常のロックに伴うABSの処理が行われる。その後は、
図12のS311の処理により、バイアス設定信号ISETの切り替えが生じる度に粗調容量設定信号CTRMの切り替えが行われる。
【0083】
以上、本実施の形態1の高周波信号処理装置を用いることで、例えば、次のような効果が得られる。まず、
図14のS311に示したバイアス設定信号ISETの切り替えの際には、併せて粗調容量設定信号CTRMの切り替えを行っているため、
図9や
図10(a)および
図10(b)で述べたように、ISETの切り替えに伴う突発的な発振周波数の変動が抑制され、セットリング時間の短縮が実現可能になる。
【0084】
さらに、
図14のS301〜S306に対応するキャリブレーションの時間(言い換えればPLLの起動時間)を短縮することができる。すなわち、例えば特許文献1のような方式を用いる場合には、S301〜S306の処理において、ISETの選択肢の数だけ周波数自動選択部ABSによる処理を実行する必要があるが、本実施の形態1では、
図13に示したように補間式を用いることで、ABSによる処理を数回(例えば2回)行えばよい。ABSによる処理は、例えば1回当たりに25μs程度要する場合があるため、その処理回数を低減することでキャリブレーションの時間を大幅に短縮できる。その結果、ISETの選択肢の数を容易に増加させることができ、高周波信号処理装置の更なる低消費電力化が図れる。
【0085】
なお、
図12のS301におけるプロセスモニタ部PMの処理は、製造プロセスのばらつきを判別できる処理であればよく、必ずしも、
図8(a)および
図8(b)の処理に限定されるものではない。
【0086】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、前述した実施の形態1の高周波信号処理装置の限定例について説明する。本実施の形態2の高周波信号処理装置は、前述した実施の形態1の高周波信号処理装置と同様の構成および動作を備え、プロセスモニタ部PMの処理を前述した
図8(a)および
図8(b)の処理に限定したものとなっている。
【0087】
プロセスモニタ部PMが
図8(a)および
図8(b)の処理を行う場合、
図12のS301の処理の段階で、2点のバイアス電流(
図8(b)のI4,I7)に対する発振周波数の測定が行われることになる。例えば、この2点のバイアス電流での測定結果に基づいて製造プロセスのばらつきが
図11のTYP特性と判別され、さらに、この2点のバイアス電流が
図11の線形領域(AR2)の両端(すなわち
図13のバイアス設定値B1,B2)に設定されていた場合、
図12のS303〜S306の処理を省略することができる。
【0088】
すなわち、
図12のS303〜S306のキャリブレーションの処理は、S301のプロセスモニタの処理と兼用されるため、当該キャリブレーションに要する時間は実質的にゼロとなる。なお、仮に、製造プロセスのばらつきが
図11のSS特性やFF特性であった場合でも、さらに発振周波数の測定を行うバイアス電流を1点追加することで、バイアス設定信号ISETと粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMとの関係を、補間によって規定できるようになる場合がある。例えば、
図8(b)において、SS特性(Vthが高い)の場合、I7よりも右側のバイアス電流での測定を1点追加すればよく、FF特性(Vthが低い)の場合、I4よりも左側のバイアス電流での測定を1点追加すればよい。
【0089】
これによって、
図8(a)および
図8(b)とは異なる処理を行うプロセスモニタ部を用いる場合と比較して、
図14のS301〜S306のキャリブレーションに要する時間を短縮することが可能になる。なお、ここでは、プロセスモニタ部PMは、バイアス電流(実際にはバイアス設定信号ISET)の変動量(すなわち可変バイアス量)に対する発振回路の周波数差分量を
図2のカウンタ回路CNTを介して測定している。実施の形態1でも述べたように、CNTによる発振周波数の測定と周波数自動選択部ABSによる粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMの探索処理は、実質的に等価であり、当該周波数差分量が判明すれば、これに基づいてCTRMの設定値も判明する。
【0090】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、前述した方式2を用いた高周波信号処理装置の詳細について説明する。本実施の形態3の高周波信号処理装置は、バイアス電流の切り替えに伴う突発的な周波数変動を、発振回路および/またはバッファ回路の電源電圧を制御することで抑制する。
【0091】
図15は、本発明の実施の形態3による高周波信号処理装置において、その送信用PLLブロックの詳細な構成例を示すブロック図である。
図15に示す送信用PLLブロックPLLBKtx2は、
図2に示した送信用PLLブロックPLLBKtx1と比較して、バッファ回路BFと、電源回路(例えば所謂シリーズレギュレータ)LDO1,LDO2とが追加された構成となっている。BFは、発振回路DCOの発振出力信号(第1発振出力信号)が入力され、それをバッファリングしたのち発振出力信号(第2発振出力信号)CKoutを出力する。LDO1は、DCOに電源電圧VDD1を供給し、LDO2は、BFに電源電圧VDD2を供給する。VDD1,VDD2の大きさは、制御回路CTLが出力する電源電圧設定信号VSETに基づいて制御される。なお、これ以外の構成に関しては
図2と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0092】
ここでは、例えば、バイアス設定信号ISETの可変範囲が前述した
図11における領域(AR2)である場合を想定する。
図11に示したように、ISETの増大に伴い出力振幅が飽和点を超えた領域(AR2)での発振周波数の低下現象は、電源クリップによる高調波成分の増加が原因であることがわかっている。そのため、飽和点を超えた領域でISETを可変制御する場合、ISETの増加に併せて出力振幅の飽和の原因となっている発振回路DCOの電源電圧VDD1および/またはバッファ回路BFの電源電圧VDD2を増加させることで、高調波成分の発生を抑制することができる。その結果、
図16(a)および
図16(b)に示すように、ISETの変化に対する発振周波数の特性をフラットにすることが可能になる。
【0093】
図16(a)および
図16(b)は、本発明の実施の形態3による高周波信号処理装置において、その動作原理の一例を示す模式図である。
図16(a)には、バイアス設定信号ISETに対する発振周波数特性の一例が示されている。当該特性は、これまでにも述べたように、山状の特性カーブとなる。電源電圧設定信号VSETを用いて電源電圧VDD1および/またはVDD2を増加させると、出力振幅が飽和し難くなるため、山の頂点がISETのバイアス設定値が増大する側に推移する。したがって、ISETのバイアス設定値の増大と共に、VDD1および/またはVDD2を増加させれば、ISETに対する動作点を山状の特性カーブ上のほぼ同じ位置に保つことができる。
【0094】
例えば、
図16(a)の例では、バイアス設定信号ISETをバイアス設定値(B1)を起点に順に増加させていき、発振周波数の低下量が予め定めた所定の範囲を超えた場合に電源電圧設定信号VSETを所定の可変電圧量だけ制御することで、発振周波数の低下量を相殺することができる。その結果、
図16(b)に示しように、理想的には、ISETに対する発振周波数特性をフラット(すなわちISETに対する発振周波数の感度をゼロ)にすることができる。本実施の形態3では、この所定の可変電圧量をキャリブレーションによって探索する。
【0095】
図17は、本発明の実施の形態3による高周波信号処理装置において、
図15の制御回路の詳細な処理内容の一例を示すフロー図である。
図17に示すように、制御回路CTLは、まず、プロセスモニタ部PMを用いて製造ばらつきを判別し(S401)、これに基づいて山の頂点付近に対応するバイアス設定信号ISETのバイアス設定値(B1)を決定する(S402)。次いで、CTLは、バイアス設定値(B1)で周波数自動選択部ABSを用いた処理を行い、最適な粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMの設定値を取得する(S403)。
【0096】
続いて、制御回路CTLは、バイアス設定信号ISETのバイアス設定値(ディジタルコード)を1ビット増加させ、周波数自動選択部ABSを用いた処理を行い、最適な粗調容量設定信号CTRMの設定値を取得する(S404,S405)。ここで、S403とS405とで得られたCTRMの設定値が変化した場合、CTLは、このCTRMの設定値の変化が相殺されるまで、電源電圧設定信号VSETの電圧設定値(ディジタルコード)を1ビット増加させる処理とABSを用いてCTRMの設定値を取得する処理とを繰り返す(S406〜S408)。CTLは、CTRMの設定値の変化が無い場合(あるいは相殺された場合)には、その際のVSETの電圧設定値を記憶装置LUTに記録する(S409)。次いで、CTLは、ISETのバイアス設定値が最大値に到達したか否かを判別し(S410)、最大値に未達の場合には、S404〜409の処理を更に繰り返す。
【0097】
その結果、バイアス設定信号ISETに対する発振周波数特性をフラットにするための電源電圧設定信号VSETの電圧設定値が記憶装置LUTに最適電源電圧予測テーブルとして保持される。次いで、制御回路CTLは、ISETの初期のバイアス設定値でPLLをロックし、通常の動作状態となる(S411)。以降、CTLは、ISETの切り替えが必要となる度に、当該ISETに対応するVSETの設定値を、LUT内の最適電源電圧予測テーブルに基づいて定める(S412,S413)。そして、CTLは、VSETの切り替えが必要な場合には、ISETと共に切り替えを行い、必要が無い場合にはISETの切り替えを行う(S414,S415)。
【0098】
なお、ここでは、
図5(a)および
図5(b)に示したように、周波数自動選択部ABSを介してカウンタ回路CNTに測定を行わせ、粗調容量設定信号CTRMの設定値を取得することで発振周波数の測定を行った。ただし、実施の形態1等の場合と同様に、ABSを用いずに、CNTに発振周波数の測定を直接行わせることも可能である。例えば、
図17のS406において、ABSを用いる場合には、CTRMの分解能で発振周波数の一致・不一致を判定することになるが、CNTに測定を直接行わせる場合には、測定分解能を更に高めた状態で一致・不一致を判定できるため、より最適なVSETの電圧設定値を探索することが可能になる。
【0099】
この場合、一致・不一致の判定は、例えば、発振周波数の差分(周波数差分量)が予め定めた所定の範囲内(ゼロに近い範囲内)である場合に一致とすることができる。また、別の方式として、一致・不一致を判定するのではなく、例えば、電源電圧設定信号VSETを実際に1ビットずつ変化させながら発振周波数の測定を行い、周波数差分量が極小点となるVSETの電圧設定値を探索するような方式でもよい。なお、
図17のS401におけるプロセスモニタ部PMの処理は、製造プロセスのばらつきを判別できる処理であればよく、必ずしも、
図8(a)および
図8(b)の処理に限定されるものではない。
【0100】
図18は、
図17の処理を適用した送信用PLLブロックの時系列的な動作例を示す概略図である。
図18に示すように、送信用PLLブロックPLLBKtx2の起動時には、まず、
図17のS401〜S410の処理に伴い、周波数自動選択部ABSによる処理が複数回(ABS1〜ABSn)行われる。次いで、
図17のS411の処理により、PLLBKtx2の通常のロックに伴うABSの処理が行われる。その後は、
図17のS414の処理により、バイアス設定信号ISETの切り替えが生じる度に電源電圧設定信号VSET(電源電圧VDD1および/またはVDD2)の切り替えが行われる。
【0101】
以上、本実施の形態3の高周波信号処理装置を用いることで、例えば、次のような効果が得られる。まず、
図18のS414に示したバイアス設定信号ISETの切り替えの際には、併せて電源電圧設定信号VSETの切り替えを行っているため、
図16(a)および
図16(b)に示されるように、ISETの切り替えに伴う突発的な発振周波数の変動が抑制され、セットリング時間の短縮が実現可能になる。この際に、VSETによって電源電圧VDD1,VDD2のいずれを切り替えるかは、そのどちら側(あるいは両方)が出力振幅の飽和の原因となっているかに依る。
【0102】
また、電源電圧設定信号VSETの切り替えを用いることで、実施の形態1等で述べた粗調容量設定信号(第1周波数設定信号)CTRMの切り替えを用いる場合と比べて、バイアス設定信号ISETの切り替えに伴う突発的な発振周波数の変動をより抑制できる場合がある。例えば、CTRMを用いる場合、CTRMの分解能によっては、CTRMの切り替えを行ったとしてもISETの切り替え前後で微調容量設定信号(第2周波数設定信号)CFINEがある程度変動する可能性が有るが、VSETの分解能を高めることで、このCFINEの変動量を更に小さくできる場合がある。
【0103】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、前述した実施の形態3における制御回路の処理内容の変形例について説明する。前述した
図17の処理内容では、バイアス設定信号ISETの各バイアス設定値に対して電源電圧設定信号VSETの電圧設定値を探索しているため、
図18のS401〜S410に示したキャリブレーションに要する時間が増大する恐れがある。そこで、本実施の形態4では、実施の形態1の場合と同様にして、VSETに対して補間式を用いることで、キャリブレーションに要する時間を短縮する。
【0104】
図19は、本発明の実施の形態4による高周波信号処理装置において、
図15の制御回路の詳細な処理内容の一例を示すフロー図である。
図20は、
図19の処理内容を説明する補足図である。
図19に示すように、制御回路CTLは、まず、プロセスモニタ部PMを用いて製造プロセスのばらつきを判別し、これに基づいて最適なバイアス設定信号ISETのバイアス設定値を2個(B1,B2)定める(S501,S502)。次いで、CTLは、一方のバイアス設定値(B1)を設定し、周波数自動選択部ABSを用いて粗調容量設定信号CTRMの最適値(C1)を取得する(S503,S504)。続いて、CTLは、他方のバイアス設定値(B2)を設定し、ABSを用いてCTRMの最適値(C2)を取得する(S505,S506)。
【0105】
次に、制御回路CTLは、取得した粗調容量設定信号CTRMの最適値(C1,C2)がC1=C2となるまで、電源電圧設定信号VSETの電圧設定値(ディジタルコード)を1ビット増加させる処理とABSを用いてCTRMの最適値(C2)を再度取得する処理とを繰り返す(S507〜S509)。これによって、
図20に示すように、バイアス設定値(B1)の場合のVSETの電圧設定値(VSET1)とバイアス設定値(B2)の場合のVSETの電圧設定値(VSET2)が得られ、その間の差分値となる可変電圧量ΔVSETが得られる。続いて、CTLは、可変バイアス量(B2−B1)と、可変電圧量ΔVSETとの関係を補間式(一次関数の近似式)として
図15の記憶装置LUTに保持する(S510)。当該補間式は、特に限定はされないが、例えば、式(2)のように定めることができる。
【0106】
VSET=INT{|ΔVSET/(B2−B1)|・(ISET−B1)+VSET1} (2)
その後、制御回路CTLは、バイアス設定信号ISETの初期のバイアス設定値でPLLをロックし、通常の動作状態となる(S511)。以降、CTLは、ISETの切り替えが必要となる度に、当該ISETに対応するVSETの設定値を、記憶装置LUT内の補間式に基づいて定める(S512,S513)。そして、CTLは、VSETの切り替えが必要な場合には、ISETと共に切り替えを行い、必要が無い場合にはISETの切り替えを行う(S514,S515)。
【0107】
以上、本実施の形態4の高周波信号処理装置を用いることで、実施の形態3で述べた各種効果に加えて、更に、キャリブレーションの時間(言い換えればPLLの起動時間)の短縮が実現可能になる。その結果、バイアス設定信号ISETの選択肢の数を容易に増加させることができ、高周波信号処理装置の更なる低消費電力化が図れる。なお、ここでは、発振周波数の測定を周波数自動選択部ABSを介して行ったが、実施の形態3の場合と同様にカウンタ回路CNTを用いて直接行ってもよい。また、記憶装置LUT内には、実施の形態1の場合と同様に、補間式の代わりに当該補間式に基づく離散値を記録してもよい。
【0108】
(実施の形態5)
本実施の形態5の高周波信号処理装置は、前述した実施の形態1および2に対するキャリブレーション精度の補償と精度向上方法であり、その構成は各実施の形態の構成に従う。ただし、本実施の形態5では、
図3の微調用可変容量(第2可変容量)Cfvの設定値を監視する機能が必要となる。例えば、
図3に示すようなディジタル型の発振回路DCOを用いる場合には、微調容量設定信号CFINEがディジタルコードで与えられるため、それを単に読み取るだけでCfvの設定値を監視できる。また、アナログ型の発振回路を用いる場合でも、可変容量(所謂バラクタ)の制御電圧をコンパレータ等で判別することで、Cfvの設定値を監視できる。
【0109】
前述した実施の形態1および2のいずれかを用いてバイアス電流の切り替えの際に粗調容量を最適値に切り替えることで、理想的には、バイアス電流の切り替え前後で微調容量設定信号CFINEの変動幅が最小となる状態を構築できる。ただし、当該変動幅は、最小ではあるが、バイアス電流の切り替え条件等に応じてある程度の値を持つことになる。例えば、バイアス電流の切り替え前後で粗調容量を切り替えずに対応できる場合には、バイアス電流の切り替え前後での周波数変動に応じた分だけCFINEの変動幅が生じる。また、バイアス電流の切り替え前後で粗調容量を切り替えた場合でも、実際には、ある程度のCFINEの変動幅が生じる。
【0110】
また、前述したように、理想的には微調容量設定信号CFINEの変動幅が最小となる状態を構築できるが、実施の形態1および2では線形補間を行っているため、実際には、理想状態からの誤差が生じる。さらに、このCFINEの変動幅は、仮に同じようにバイアス電流の切り替えを行った場合でも、実動作中に生じる温度変化等に応じて時系列的に変化する恐れがある。通常、PLLは、このような誤差分または変化分を微調容量で調整し、再収束する。
【0111】
ここで、PLLでは、周波数が飛んだとき、ループが再収束を始めるため、微調容量設定信号CFINEが大きく変化する。このときのCFINEの変化量(ΔCFINE)が大きくなるほど、ロックが外れてしまう可能性が高まり、ロックが外れない場合でも再収束を完了するまでの時間(すなわちセットリング時間)が遅くなる。このような問題は、例えば、ΔCFINEが、前述した線形補間に伴う理想状態からの誤差に伴い増加した場合や、あるいは、温度変化等に応じて時系列的に増加傾向にあるような場合に生じ得る。
【0112】
そこで、本実施の形態5では、各実施の形態1および2におけるキャリブレーションの後の通常動作の段階で、
図21に示すような処理を実行する。
図21は、本発明の実施の形態5による高周波信号処理装置において、その処理内容の一例を示すフロー図である。当該処理内容は、例えば、
図2の制御回路CTLによって実行される。
図21に示すように、CTLは、通常動作(S601)においてバイアス電流(バイアス設定信号ISET)の切り替えが生じた際に、その前後の微調容量設定信号CFINEの設定値を記録し、その差分ΔCFINE(|CFINE2−CFINE1|)を確認する(S602〜S605)。
【0113】
次いで、制御回路CTLは、ΔCFINEが十分小さい場合は問題ないが、ΔCFINEが想定値よりも大きく、粗調容量で最適化可能と判断された場合は、実施の形態1で述べた記憶装置LUT内の最適粗調容量予測テーブルを書き換える(S606)。具体的には、ΔCFINEが正か負かによって粗調容量を増加/減少のどちら側に1ビットずらせばよいかを判別し、そのずらした後の値を最適粗調容量予測テーブルに書き込む。
【0114】
図22(a)および
図22(b)は、
図21の処理内容を説明する補足図である。
図22(a)の例では、バイアス設定信号ISETの切り替え前後でΔCFINEの変動量が想定値よりも大きいため、粗調容量設定信号CTRMを1ビット増加させている。すなわち、当該切り替え後のISETに対応するCTRMの設定値を記憶装置LUT上で書き換える。これにより、
図22(b)に示すように、ISETの切り替えに伴う発振周波数の突発的な変動が抑制される。
【0115】
なお、ここでは、最適粗調容量予測テーブルを書き換える方式を用いたが、より安全性を高める場合は、ΔCFINEが想定値よりも大きく変化したことを検出した場合、その切り替えパターンを一時的に使用不能とし、バイアス電流の削減を一時的に行わないようにしてもよい。この場合、その後の適当なタイミングで、再度、実施の形態1および2のいずれかを用いてキャリブレーションを行う。
【0116】
(実施の形態6)
本実施の形態6では、前述した方式3を用いた高周波信号処理装置の詳細について説明する。本実施の形態6の高周波信号処理装置は、
図15に示した送信用PLLブロックPLLBKtx2を備え、更に、
図1に示したような温度センサTMPを備える。例えば、前述した実施の形態1〜5の高周波信号処理装置を用いた場合、PLLの起動時に、プロセスモニタを含めたキャリブレーションが行われるが、その後に、温度変化が生じた場合には、当該キャリブレーションの精度が低下する恐れがある。その対策として、例えば、温度がある程度変化する度にプロセスモニタを含めたキャリブレーションを再度行うことが考えられるが、この場合、当該キャリブレーションに伴う余分な時間や余分な消費電力が必要とされる。
【0117】
そこで、本実施の形態6では、PLLの起動時にキャリブレーションを一度行うことで、その後に温度変化が生じた場合でも、キャリブレーションを再度行わずにキャリブレーションの精度を確保できるようにする。
図23は、本発明の実施の形態6による高周波信号処理装置において、
図15の制御回路の詳細な処理内容の一例を示すフロー図である。
図24は、
図23の処理内容を説明する補足図である。
【0118】
図23に示すように、制御回路CTLは、まず、プロセスモニタによって製造プロセスのばらつきを判別し、バイアス電流(バイアス設定信号ISET)に対する発振周波数特性が
図24に示すようなTYP特性となるようにISETに所定のオフセット量を固定的に加える(S701)。更に、CTLは、温度センサTMPでPLL起動時の温度を取得し、設計段階で予め記憶装置LUT内に実装してある温度補償テーブルを参照して、バイアス電流(ISET)に対する発振周波数特性が常温時の特性となるように、電源電圧設定信号VSETの電圧設定値を定め、当該電圧設定値に基づき電源電圧VDD1および/またはVDD2を制御する(S702)。
【0119】
すなわち、本実施の形態6では、電源電圧設定信号VSETの可変制御を、実施の形態3および4のように発振周波数特性をフラットにするために使用するのではなく、温度を補償するために使用する。この
図23のS701およびS702の処理によって、
図24に示すように、バイアス電流(バイアス設定信号ISET)に対する発振周波数特性がTYP特性かつ常温特性となるように補正される。例えば、温度が上昇すると、バイアス電流が流れ難くなるため山状の特性カーブはSS特性に近づき、逆に、温度が低下すると、バイアス電流が流れ易くなるため山状の特性カーブはFF特性に近づく。この山状の特性カーブは、例えば
図16(a)に示したようにVSETによって制御することができるため、VSETによって温度変化を補償できることになる。なお、ここでは、常温特性となるように補正したが、勿論、これに限らず任意の温度特性となるように補正すればよい。
【0120】
次いで、
図23に示すように、制御回路CTLは、S702の後に、
図12のS303〜S308の処理と同様にして、キャリブレーション(すなわち補間式、最適粗調容量テーブルの作成ならびに保存)と初期バイアス設定値でのPLLロックとを行い、通常動作に移行する(S703〜S708)。その後、CTLは、バイアス設定信号ISETの切り替えが生じる度に、温度センサTMPを用いて再度温度を取得する(S709,S710)。
【0121】
続いて、制御回路CTLは、
図12の場合と同様にしてキャリブレーション結果(すなわち補間式、最適粗調容量テーブル)に基づき最適な粗調容量設定信号CTRMの設定値を定め、これに加えて、温度補償テーブルに基づいて最適な電源電圧設定信号VSETの電圧設定値も定める(S711)。そして、CTLは、CTRMおよび/またはVSETの切り替えが必要な場合には、バイアス設定信号ISETの切り替えと共に切り替えを行い、必要が無い場合にはISETの切り替えを行う(S712,S713)。
【0122】
以上、本実施の形態6の高周波信号処理装置を用いることで、例えば、次のような効果が得られる。まず、
図23のS703〜S707におけるキャリブレーション(すなわち補間式、最適粗調容量テーブルの作成ならびに保存)は、S701およびS702により製造プロセスのばらつきと温度が補償された状態で行われる。これにより、キャリブレーションの精度を高めることが可能になる。また、
図23のS709〜S713に示したように、通常動作の状態でバイアス設定信号ISETの切り替えを行う際にも、常に、TYP特性かつ常温特性に補正された状態で当該キャリブレーション結果に基づく粗調容量設定信号CTRMの決定と切り替えが行われる。
【0123】
これにより、キャリブレーションを実行する際と、その結果を反映する際とで、常に高精度なキャリブレーション結果が維持されることになる。したがって、バイアス設定信号ISETの切り替えに伴う突発的な発振周波数の変動をより抑制することができ、セットリング時間の短縮が実現可能となる。なお、S703〜S707におけるキャリブレーションの実行の際には、製造プロセスのばらつきと温度が予め補償されているため、バイアス設定値(B1)やバイアス設定値(B2)は、予め設計段階で定めた固定値とすることができる。
【0124】
さらに、キャリブレーションに要する時間を短縮することが可能になる。すなわち、
図23に示したように、キャリブレーションを一度行えば、それ以降に温度変化が生じた場合でも、キャリブレーションを再度行うことなく、当該温度変化を電源電圧設定信号VSETによって補償することができる。この際に、当該一度のキャリブレーションに伴う実行時間も、実施の形態1等の場合と同様に補間式を用いることで短縮することができる。ただし、仮に特許文献1のように補間式を用いない方式を用いる場合であっても、温度変化に伴うキャリブレーションを削減できる効果は得られる。
【0125】
また、温度補償を含めてキャリブレーションを容易化することができる。すなわち、製造プロセスのばらつきと温度変化をそれぞれ別の変数で補償した上でキャリブレーションを実行できるため、キャリブレーションに伴うテーブルを単純化でき、結果的に、キャリブレーションの容易化が図れる。記憶装置LUTに保持されるテーブルは、予め設計段階で実装したプロセステーブルと、予め設定段階で実装した温度補償テーブルと、キャリブレーション時に作成される最適粗調容量テーブル(または補間式)である。プロセステーブルには、例えば、
図8のプロセスモニタ部PMを前提とすると、測定結果となる周波数差に対応する製造プロセスのばらつきの判別結果および当該判別結果毎のバイアス設定信号ISETのオフセット量等が定められている。温度補償テーブルには、温度に対する電源電圧設定信号VSETの電圧設定値等が定められている。
【0126】
ここで、比較例として、プロセステーブルと温度補償テーブルの代わりに、例えば、製造プロセスのばらつきと、温度と、これらを補償するバイアス設定信号ISETのオフセット量との関係を規定したテーブルを設計段階で実装することも考えられる。ただし、当該テーブルは、複雑な内容になり得ることに加えて、ISETのオフセット量のみの補償では、十分な精度を確保できない場合もある。本実施の形態6の方式では、テーブルを2つに分けることで、テーブルの内容を単純化でき、また、ISETのオフセット量と電源電圧設定信号VSETの2個の変数を用いて補償を行うことで、補償の精度を向上させることが可能になる。
【0127】
(実施の形態7)
本実施の形態7では、前述した方式4を用いた高周波信号処理装置の詳細について説明する。本実施の形態7の高周波信号処理装置は、
図15に示した送信用PLLブロックPLLBKtx2を備え、制御回路が、実施の形態1で述べた
図12の処理と、実施の形態4で述べた
図19の処理とを組み合わせたような処理を行うものとなっている。実施の形態1では、補間式(一次関数の近似式)によって粗調容量設定信号CTRMの設定値を定めているため、若干誤差が生じる可能性がある。そこで、本実施の形態7では、実施の形態4の場合と同様の処理を用いて特性カーブの線形性を予め高めた上で、実施の形態1の場合と同様の処理を実行する。
【0128】
図25は、本発明の実施の形態7による高周波信号処理装置において、
図15の制御回路の詳細な処理内容の一例を示すフロー図である。
図26は、
図25に続く処理内容の一例を示すフロー図である。
図27(a)および
図27(b)は、
図25および
図26の処理内容を説明する補足図である。
図25および
図26において、制御回路CTLは、まず、プロセスモニタを実行し(S701)、その結果に基づいてバイアス設定信号ISETのバイアス設定値を3個(B1〜B3)決定する(S702)。
【0129】
次いで、制御回路CTLは、バイアス設定値B1とバイアス設定値B2との間で、
図19のS503〜S510と同様の処理によって電圧電圧設定信号VSETの補間式(一次関数の近似式)を作成(S703〜S710)する。さらに、CTLは、B2とバイアス設定値B3との間でも、
図19のS503〜S510と同様の処理によってVSETの補間式(一次関数の近似式)を作成する(S711〜S716)。この際に、B2に対する周波数自動選択部ABSの処理は、S703〜S710の段階で既に行われているため省略できる。
【0130】
ここで、
図27(a)に示すように、バイアス電流(バイアス設定信号ISET)に対する発振周波数特性の特性カーブは、実際には曲線であるが、実施の形態1では、これを直線とみなして2点間で線形補間を行っている。そこで、前述した
図25のS703〜S716の処理では、バイアス設定値B1とバイアス設定値B2と間と、B2とバイアス設定値B3との間でそれぞれ補間式を作成することで予め特性カーブの線形性を高める。なお、線形性を更に高めるために、バイアス設定値を更に追加してもよい。ただし、バイアス設定値が多くなるほどキャリブレーションに要する時間が増大するために、この時間との関係を加味して可能な限り多くのバイアス設定値を定め、互いに隣り合うバイアス設定値の間で線形補間を行うことが望ましい。
【0131】
図25および
図26において、制御回路CTLは、S716の処理を終えたのち、S701でのプロセスモニタの結果に基づいて、バイアス設定信号ISETのバイアス設定値を2個(B4,B5)定める。そして、CTLは、
図27(b)に示すように、
図12のS303〜S307と同様の処理によって粗調容量設定信号CTRMの補間式(一次関数の近似式)を作成する(S718〜S722)。なお、当該処理は、各バイアス設定値(B4,B5)に対して前述した電圧設定信号VSETの補間式(一次関数の近似式)に基づきVSETの電圧設定値を適宜設定した状態で行われる。
【0132】
続いて、制御回路CTLは、初期バイアス設定値でのPLLロックを行い、通常動作に移行する(S723)。その後、CTLは、バイアス設定信号ISETの切り替えが生じる度に、VSETの補間式(一次関数の近似式)および粗調容量設定信号CTRMの補間式(一次関数の近似式)に基づいてVSETの電圧設定値とCTRMの設定値を定める(S724,S725)。そして、CTLは、VSETおよび/またはCTRMの切り替えが必要な場合には、ISETの切り替えと共に切り替えを行い、必要が無い場合にはISETの切り替えを行う(S726,S727)。
【0133】
以上、本実施の形態7の高周波信号処理装置を用いることで、実施の形態1や実施の形態4の場合と比較して、キャリブレーションの精度をより向上させることが可能になる。その結果、バイアス設定信号ISETの切り替えに伴う突発的な発振周波数の変動をより抑制することができ、セットリング時間の短縮が実現可能となる。また、この際には、実施の形態5でも述べたような、線形補間に伴う理想状態からの誤差によって生じ得るロック外れの危険性等も併せて低減できる。
【0134】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、前述した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0135】
例えば、ここでは、送信用のPLLに対してバイアス電流の切り替えを行ったが、場合によっては、受信用のPLLに対しても同様にしてバイアス電流の切り替えを行うことが可能である。また、ここでは、携帯電話システム用の高周波信号処理装置に含まれるPLLを例に説明を行ったが、これに限らず、PLLを備えた装置およびシステムであり、PLLに複数の電力モードを設定可能な構成であれば、同様に適用して同様の効果が得られる。さらに、例えば、実施の形態7では、実施の形態1と実施の形態4との組合せを示したが、勿論、これに限定されるものではなく、同様にして、実施の形態1および2と、実施の形態3および4とを適宜組み合わせることも可能である。