(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイアフラムは、前記センサチップから見て前記長手方向に、前記センサチップ搭載領域の厚さよりも薄い部分を有することを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
前記ダイアフラムの受圧側に設けられた溝により、前記長手方向に沿った断面におけるダイアフラムの最小厚みが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
前記ダイアフラムは、前記長手方向における前記ダイアフラムの中央と端部の間における短手方向の最大寸法が、前記長手方向中央付近における短手方向の寸法よりも大きい形状であることを特徴とする請求項1から6に記載の圧力センサ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1(a)から(c)は、本発明の圧力センサの第一実施例の平面図および断面図を示している。
図1(a)において、X軸に沿った中心線をX中心線10、Y軸に沿った中心線をY中心線11とし、
図1(b)はX中心線10における断面図を、
図1(c)はY中心線11における断面図を示している。圧力センサ1は、ダイアフラム2が形成された金属製のセンサ筐体3上に、方形状のセンサチップ4を接合層5を介して接合した構成となっている。
図1(a)には、ダイアフラム2の外形を点線で示している。センサチップ4には、ダイアフラム2と接合しない側の表面の中央部にゲージ領域6を有し、ゲージ領域6内に第1〜第4歪ゲージ7a〜7dを有する。第1〜第4歪ゲージ7a〜7dは、図示されていない配線で接続され、
図2に示すホイートストンブリッジ回路を構成している。ダイアフラム2は短手と長手を有する異方性形状であり、短手方向をX軸、長手方向をY軸としている。ゲージ領域6はダイアフラム2の中央部上に配置されている。第1歪ゲージ7aおよび第2歪ゲージ7bはダイアフラム2の短手方向(X軸方向)が電流方向となるように配置され、第3歪ゲージ7cおよび第4歪ゲージ7dはダイアフラム2の長手方向(Y軸方向)が電流方向となるように配置されている。センサ筐体3のセンサチップ4が接合される側の面に第1溝8aと第2溝8bが形成されている。第1溝8aと第2溝8bはセンサチップ4から長手方向側に形成されており、第1溝8aと第2溝8bの間にセンサチップ4が位置するよう、センサチップの両側に形成されている。溝8a、8bにより、センサチップ4を搭載した部分よりも薄い部分が、ダイアフラム2のセンサチップ4からY軸側上にそれぞれ形成される。
【0013】
圧力センサ1は、ダイアフラム2のセンサチップ4接合面と反対側の面に印加された圧力に対して、ダイアフラム2が変形することで各歪ゲージ7a〜7dの応力が変化し、それに伴い各歪ゲージ7a〜7dの抵抗が変化する。抵抗値の変化をブリッジ回路の差動出力とし、圧力に比例した出力が得られる。
【0014】
ダイアフラム2を含むセンサ筐体3はステンレスなどの金属を材質とする。センサ筐体3は円筒形をしており、中央部を片面から加工し、薄く残った部分がダイアフラム2となっている。加工方法には、切削や放電加工、あるいはプレス加工などを用いることができる。ダイアフラム2の加工された側の面の端部には、R形状が形成されており、圧力印加時に端部に発生する応力集中を緩和する働きがある。
【0015】
センサチップ4は単結晶シリコン基板を材料として製作される。各歪ゲージ7a〜7dは、不純物拡散により製作された、p型シリコンのピエゾ抵抗ゲージである。シリコン基板は結晶面(100)のものを用い、X軸およびY軸が、シリコン結晶軸の<110>と一致するようにしている。よって第1〜第4歪ゲージ7a〜7dは、全てp型シリコン<110>方向のピエゾ抵抗ゲージである。
【0016】
接合層5にはAu/Snはんだが用いられている。接合のプロセスは、例えば、センサチップ4の接合面にNi/Au膜をスパッタで形成しておき、ダイアフラム2のセンサチップ4接合領域にはSn膜をめっきで形成しておき、ペレット状のAu/Snを挟んで位置合わせし、加熱してAu/Snを溶融することで接合する。
【0017】
第一実施例の圧力センサにおいては、第1〜第4歪ゲージ7a〜7dが全て、ダイアフラム2の中央部上に位置するゲージ領域6内に近接して配置されていることに特徴がある。圧力が印加された際にダイアフラム2表面に発生する応力の分布は、ダイアフラム2の端部付近に比べて、ダイアフラム2の中央部ではなだらかである。よってセンサチップ4の接合位置がずれるなどして、各歪ゲージ7a〜7dのダイアフラム2に対する相対位置ずれが発生しても、歪ゲージ7に発生する応力が変化しにくい。すなわち、位置ずれに対してセンサ感度の変化を小さくすることができる。
【0018】
また、第一実施例の圧力センサ1は、ダイアフラム2は長手と短手を有する異方性形状とし、第1〜第4の歪ゲージのうち2つを長手方向(Y軸)に沿って、他の2つを短手方向(X軸)に沿って配置することに特徴がある。
図2に示したホイートストンブリッジ回路では、第1ゲージ7aと第2ゲージ7bの組と、第3ゲージ7cと第4ゲージ7dの組で、両者の間に応力差が発生することで、中点電位に差が発生して出力が得られる。よって、第1〜第4ゲージ7a〜7dに発生する応力が全て同じだと出力が得られず、センサ感度はゼロとなる。4つの歪ゲージ7をダイアフラム2の中央に配置した場合、例えばダイアフラム2が円形や正方形であると、ダイアフラム2の中央部の応力はX軸方向とY軸方向で等しくなるので、センサ感度はゼロになってしまう。第一実施例では、ダイアフラム2をY軸方向に長い異方性形状としているので、ダイアフラム2の中央部に発生する応力は、Y軸方向よりも、X軸方向の方が大きくなる。よって、電流方向をX軸方向に合わせた第1歪ゲージ7aおよび第2歪ゲージ7bと、電流方向をY軸方向に合わせた第3歪ゲージ7cおよび第4歪ゲージ7dとの間で、発生する応力が異なり、応力変化に応じた抵抗変化量が異なるため、センサ感度を得ることができる。
【0019】
第一実施例の圧力センサ1は、温度変化に対するセンサ出力の変化を小さくする効果がある。
【0020】
上述のように、第1〜第4歪ゲージ7a〜7dは、半導体製造に用いられる不純物拡散により製作され、高度に管理されたプロセスにより均質な特性の歪ゲージが得られる。これにより初期抵抗、ピエゾ抵抗係数、ピエゾ抵抗係数の温度依存性などの特性が均質となり、温度変化に対する変化も均質となる。このような均質な変化はホイートストンブリッジ回路により相殺されるため、第一実施例の圧力センサは温度変化に対して出力変化しにくくなる。
【0021】
また、第一実施例では第1〜第4の歪ゲージ7a〜7dが近接配置している。センサチップ4内に温度差が発生した場合に、各歪ゲージの位置が互いに離れていると、各歪ゲージの抵抗変化に差が発生する虞がある。第一実施例の圧力センサは、第1〜第4の歪ゲージ7a〜7bが近接配置しているため、各歪ゲージの間で温度差が発生しにくく、その結果センサ出力が変化しにくくなる。
【0022】
さらに、第1〜第4歪ゲージ7a〜7dが全てセンサチップ4の中央部に配置されている。温度変化によって、ダイアフラム2とセンサチップ4の熱膨脹係数差に起因して熱応力が発生するが、この熱応力は、センサチップ4の端部付近を除いてはほぼ等方的になる。そのため、歪ゲージのうちのいくつかがセンサチップ4の端部に近く配置されていると、熱応力の差により出力変化が発生しやすくなる。一方、第一実施例の圧力センサは第1〜第4の歪ゲージ7a〜7bが全てセンサチップ4の中央部に配置されているので、各歪ゲージの応力がほぼ等しくなり、熱応力に差が出にくくなる。よって、センサ出力が変化しにくくなる。
【0023】
ここで、ダイアフラム2の形状が異方性を有することに起因して、熱応力はX軸方向とY軸方向とで差が発生する。そのため、ダイアフラム2の異方性形状に起因したセンサ出力の変化が発生してしまう。ここで、ダイアフラム2の中央部では熱応力の分布が端部と比べてなだらかである。そのため、ダイアフラム2の中央部付近では、ダイアフラム2の端部と比べてダイアフラム2の異方性形状に起因するセンサ出力の変化は小さくなるが、なお改善の余地がある。
【0024】
ダイアフラム2の異方性形状に起因したセンサ出力の変化をさらに低減するため、第一実施例ではセンサ筐体3に第1溝8aと第2溝8bを形成している。溝8a、8bをセンサチップ4に対してダイアフラムの長手方向(Y軸方向)に近接して配置することで、Y軸方向の熱応力をX軸方向の熱応力に近づける効果がある。そのため、各歪ゲージの間の熱応力差を更に低減することが可能であり、ダイアフラム2の異方性形状に起因したセンサ出力の変化を更に低減することが可能である。
【0025】
溝8a、8bの効果は、温度変化に対する圧力センサの熱変形挙動を本発明者が詳細に調べた結果、導かれたものである。本発明者は、歪ゲージ7a〜7bがあるセンサチップ4の中央において、温度変化に対するX軸方向とY軸方向の応力に差が生じる原因を詳細に調べた。温度が上昇する場合を考えると、線膨張係数が大きいセンサ筐体3の方がセンサチップ4よりも膨張が大きいため、センサチップ4は全体に引張応力を生じる。同時に厚さが薄いダイアフラム2とセンサチップ4が接合された部分においては、面外方向の曲げ変形も生じる。この曲げ変形はダイアフラム側が凸となる変形で、歪ゲージ7があるセンサチップ4表面側には圧縮応力を生じるが、この圧縮応力はセンサチップ4全体にかかる引張応力に対しては小さい。しかし、ダイアフラム2の異方性形状のために、短手方向であるX軸方向は長手方向であるY軸方向に比べて曲げの曲率が小さくなり、X軸方向の圧縮応力はY軸方向の圧縮応力よりも大きくなる。引張応力から差し引かれる圧縮応力の大きさがX軸方向の方が大きいため、結果として引張応力はY軸方向の方が大きくなり、X軸方向とY軸方向の応力差が発生していた。
【0026】
そこで、ダイアフラム2のセンサチップ4の搭載部に対してY軸方向に溝8a、8bを形成することで、Y軸方向のセンサ筐体3の剛性を低下させ、センサチップ4に加わるY軸方向の熱応力を低減している。その結果、Y軸方向の熱応力をX軸方向の熱応力に近づけて、X軸方向とY軸方向の応力差を低減することができる。
【0027】
溝8a、8bの位置は、センサチップ4に近いほうが、センサチップ4に加わる応力を低減する効果が高く望ましい。そのため、センサチップ4の端部と溝8a、8bの端部を一致させてもよいが、センサチップ4の接合位置ずれを考慮して例えば0.1mm程度の一定距離離れた位置に溝8a、8bを形成するのが望ましい。溝8a、8bの形状は様々な形状にすることができる。
図1のように、X軸方向の長さは、センサチップ4の長さよりも長くするのが、センサチップ4に加わる応力を低減しやすく望ましい。ただし、センサチップ4より短くても一定の効果は得られるものであり、限定されるものではない。また、
図3に示すように、第1溝8aおよび第2溝8bがセンサ筐体3の端部まで達するように広い領域に形成した段差のようにしてもよい。ダイアフラム2の薄い部分の領域を大きくすることができ、Y軸方向の応力を低減する効果が高くなる。また、センサ筐体3の構造が単純となり、製造が容易になる。
【0028】
ダイアフラム2とセンサチップ4の位置関係については、第一実施例のように、X軸方向に見たときに(YZ断面において)センサチップ4の寸法がダイアフラム2の寸法よりも大きくなるようにするのが望ましい。
【0029】
上記の構成では、X軸方向において、センサチップ4の端部がダイアフラム2の外側に位置するため、センサチップ4の接合端部に高い応力が発生しにくくでき、センサ特性の変化を軽減することができる。
【0030】
さらには、Y軸方向に見たときに(XZ断面において)センサチップ4の寸法がダイアフラム2の寸法よりも小さくなるようにするのが望ましい。
【0031】
必要以上にセンサチップ4を大きくすると、センサチップ4の製造コストが高くなり、またセンサチップ4とダイアフラム2の熱膨脹係数差に起因してセンサチップ4の接合部に発生する熱応力が高くなるなどの懸念がある。限られたサイズのセンサチップ4に対して、ダイアフラム2が全てセンサチップ4の内部に配置されるようにすると、ダイアフラム2のサイズが小さくなる。すると、ダイアフラム2の応力分布の変化も急峻になり、歪ゲージ7を配置できる領域が限られる上に、歪ゲージ7の位置ずれの影響も大きくなる課題がある。ダイアフラム2のサイズを、短手方向にはセンサチップ4よりも小さくし、かつ、長手方向にはセンサチップ4よりも大きくすることで、ダイアフラム2のサイズが小さくならないようにするとともに、センサチップ4の接合部のエッジに発生する応力も小さくできる。
【0032】
センサチップ4には、ブリッジ回路だけでなく、出力アンプ、電流源、A/D変換、出力補正回路、補正値を格納するメモリ、温度センサなど、周辺回路を作り込むことができる。上記のような信号処理回路をセンサチップ4内に有することにより、出力信号の増幅や温度補正、ゼロ点補正などが行え、出力信号の精度を高くすることができる。温度補正においては、歪ゲージ7と温度センサを同じセンサチップ4上に形成できるので、歪ゲージ7の温度を正確に測定でき、温度補正を高い精度で行うことができる。
【0033】
第一実施例では、圧力を受けるダイアフラム2およびセンサ筐体3が耐力性の優れるステンレス製であるため、高い圧力範囲を測定可能なセンサを構成しやすい。また、測定対象である液体や気体が腐食性の高い場合にも使用することができる。ステンレスの種類は、耐力を重視する場合はSUS630など析出硬化型のステンレスを選び、耐腐食性を重視する場合はSUS316など、耐腐食性の高いステンレスを選ぶなど、材質を選択できる。また、材質はステンレスに限ったものではなく、耐力や耐腐食性、シリコンとの熱膨脹係数差などを考慮して、様々な材質を選択できる。
【0034】
また、接合層5の材質および接合プロセスについても、上述した材質、プロセスに限るものではない。接合層5としては、例えばAu/Geはんだや、Au/Siはんだを用いることで、接合層5のクリープ変形をより小さくすることができる。また、クリープ変形はしやすいが、それを許容する用途であれば、各種の接着剤を用いることができる。接合プロセスについては、上述のAu/Suペレットを用いる方法以外にも、Au/Snを直接ダイアフラムまたはセンサチップ裏面にめっきなどで形成する方法などがある。
【0035】
本発明の第二実施例を、
図4を用いて説明する。なお、第一実施例と同様の構成は説明を省略する。
【0036】
第1〜第4歪ゲージ7a〜7dを複数のピエゾ抵抗が直列に繋る構成とする。
図4(a)はゲージ領域6内の歪ゲージ7の配置を、
図4(b)はブリッジ回路の構成を示す。第1〜第4歪ゲージ7a〜7dを構成する1つずつのピエゾ抵抗の組が、ゲージ領域内に4組配列した構成である。4つに分割された第1歪ゲージ7aは、図示されていない配線で直列につながれている。第2〜第4歪ゲージ7b〜7dについても同様である。そうして、
図4(b)に示すように、4つに分かれた歪ゲージをひとまとまりとして、
図2に示したブリッジ回路と等価なブリッジ回路を構成している。
【0037】
このように、歪ゲージを分割して、ゲージ領域6内に分散して配置することにより、応力の平均値を均質化する効果がある。例えば、ゲージ領域6内で応力分布が均一にならず、Y方向に勾配ができた場合、第1歪ゲージ7aがゲージ領域6内のY軸のプラスの領域に、第2歪ゲージ7bがY軸のマイナスの領域に分かれて配置されていると、両者の間に応力差が発生して出力が出てしまう。第二実施例の構成により、歪ゲージを分割して、ゲージ領域6内に分散配置することで、歪ゲージ7間の応力差が出にくくすることができる。
【0038】
本発明の第三実施例を、
図5を用いて説明する。なお、第一実施例と同様の構成は説明を省略する。
【0039】
図5(a)から(c)は、本発明の圧力センサ1の第三実施例の平面図および断面図を示している。
図5(a)において、X軸に沿った中心線をX中心線10、Y軸に沿った中心線をY中心線11とし、
図5(b)はX中心線10における断面図を、
図5(c)はY中心線11における断面図を示している。
【0040】
ダイアフラム2は、長手方向の中央から端部までの領域における短手方向の寸法が、長手方向中央付近における短手方向の寸法よりも大きくなる部分を設ける構成とし、中央部がくびれたひょうたんのような形状とする。すなわち、X中心線10上におけるダイアフラム2の寸法をダイアフラム中央寸法12とすると、X中心線10よりもY軸方向にはずれた、ダイアフラム2の長手方向端部付近におけるX軸方向の寸法(ダイアフラム端部寸法13)が、上記ダイアフラム中央寸法12よりも大きくなっている。
【0041】
ダイアフラム2の中央部にくびれを有する第三実施例においては、くびれのない場合と比べて、ダイアフラム2の中央部における短手方向と長手方向の応力差を拡大できる。センサ感度は、上記応力差に比例するため、センサ感度に対する応力利用効率(歪ゲージに発生する最大応力に対して得られるセンサ感度の比率)が向上する。また、ダイアフラム2の中央部付近の応力分布の変化が小さくなり、位置ずれの影響をより小さくできる。
【0042】
第三実施例においても、センサ筐体3に溝8a、8bを形成している。溝8a、8bをセンサチップ4に対してダイアフラム2の長手方向(Y軸方向)に近接して配置することで、Y軸方向応力をX軸方向応力に近づける効果があり、応力差が低減して出力変化が低減する。ダイアフラム2をひょうたん型とした第三実施例では、溝8を配置する位置においてダイアフラム2のX軸方向長さが広がっているので、溝の形成によりダイアフラム2の厚みを薄くできる領域が、第一実施例と比べて広い。そのため、Y軸方向の応力を低減する効果を得やすく、出力変化を低減しやすい効果がある。
【0043】
溝8a、8bは、
図5に示したように、X軸方向の長さがダイアフラム2の長さよりも長く形成し、ダイアフラム2をX軸方向に完全に横断するように形成することができる。また、
図6の平面図に示すように、溝8a、8bがダイアフラム2の外形よりも内側に収まるように形成することもできる。そうすることで、ダイアフラム2の端部においては溝形成前の厚みを確保することができる。圧力を受けた際にダイアフラム2に発生する応力はダイアフラム2の端部において高くなるので、端部の厚みを確保することで、ダイアフラム2に発生する最大応力を低減し、塑性変形しにくくできる。溝8a、8bのX軸方法の長さは、センサチップ4の長さよりも長いことが望ましいが、センサチップ4より短くても一定の効果は得られるものであり、限定されるものではない。また、第1実施例における
図3に示した変形例のように、溝8a、8bをセンサ筐体3の端部まで達するように広い領域に形成した段差のようにしてもよい。ダイアフラム2の薄い部分の領域が大きくなり、Y軸方向の応力の低減効果が高くなる。また、センサ筐体3の構造が単純となり、製造が容易になる。
【0044】
上述した第三実施例の歪ゲージの構成としては、第二実施例に記載の構成を採用することもできる。それにより、第二実施例に記載した効果と同様の効果を得ることができる。
【0045】
本発明の第四実施例を、
図7を用いて説明する。なお、第一実施例と同様の構成は説明を省略する。
【0046】
図7(a)から(c)は、本発明の圧力センサ1の第四実施例の平面図および断面図を示している。
図7(a)において、X軸に沿った中心線をX中心線10、Y軸に沿った中心線をY中心線11とし、
図7(b)はX中心線10における断面図を、
図7(c)はY中心線11における断面図を示している。
【0047】
第四実施例では、溝8(第1溝8aおよび第2溝8b)がダイアフラム2のセンサチップ4が接合される面と反対の面側に形成されている。本構成においても、センサチップ4から見て長手方向にダイアフラム2の厚さが薄い部分が形成されるため、センサチップ4中央のY軸方向応力を低減する効果があり、温度変化に対する出力変化を低減することができる。第四実施例の構成では、センサ筐体3へのダイアフラム2および溝8の形成の際に、一方向からの加工で済む利点がある。
【0048】
図8(a)から(c)は、第四実施例の変形例を示す。
図8(a)において、X軸に沿った中心線をX中心線10、Y軸に沿った中心線をY中心線11とし、
図8(b)はX中心線10における断面図を、
図8(c)はY中心線11における断面図を示している。
【0049】
本変形例のように、ダイアフラム2に形成される溝8a、8bは、ダイアフラム2の端部まで達していてもよい。また、センサチップ4接合面と反対の面側であるので、センサチップ4の外形より内側まで溝8が達していてもよい。いずれも、ダイアフラム2の薄い部分の領域を大きくでき、Y軸方向応力の低減効果が高い。
【0050】
また図示しないが、
図5で示した第三実施例のようにひょうたん型のダイアフラムを用いた場合においても、第四実施例のようにセンサチップ4接合面の反対の面側に溝8a、8bを形成することができる。
【0051】
また、第四実施例の歪ゲージの構成としては、第二実施例に記載の構成を採用することもできる。それにより、第二実施例に記載した効果と同様の効果を得ることができる。
【0052】
本発明の第五実施例を、
図9を用いて説明する。なお、第一実施例と同様の構成は説明を省略する。
【0053】
図9は、本発明の圧力センサの第五実施例の断面図を示している。第五実施例は、第一から第四実施例に記載の圧力センサを、製品形態に組み上げた圧力センサアセンブリ21の構成例を示している。
【0054】
センサ筐体3は、第一から第四実施例に記載した構成に加えて、外周部を円筒状に下方に伸ばした円筒部22を有し、外側面にフランジ部23とねじ部24を設置した形状に一体形成されている。ねじ部24はおねじになっており、測定対象の配管側にめねじの継手(図示せず)を用意して取り付けるようになっている。上記円筒部22の内部は圧力導入口25を形成していて、この圧力導入口25を介して測定対象である液体や気体をダイアフラム2の表面まで導入する。センサ筐体3の上面には、センサチップ4と隣接するよう配線基板26が配置されている。配線基板26は、接着剤27によりセンサ筐体3の上面に接着保持されている。センサチップ4と配線基板26の電極パッド間は、ワイヤ28により電気的に接続されている。センサチップ4の表面やその周辺部を保護するため、円筒形のカバー29が、センサ筐体3のフランジ部23に接続して設置されている。カバー29の上端には、複数の外部電極ピン30が、カバー29を貫通するように設けられている。外部電極ピン30と配線基板26は、フレキシブル配線基板31を介して電気的に接続されている。センサチップ4は、ワイヤ28、配線基板26、フレキシブル配線基板31、外部電極ピン30を介して外部に信号を送信する。第五実施例の構成により、測定対象の装置の配管に容易に取り付け可能で、センサへの給電および信号取り出しのための配線も容易な、圧力センサアセンブリ21を得ることができる。
【0055】
第五実施例のような圧力センサアセンブリ21では、測定対象の配管にねじ止めした際にセンサアセンブリ21に力が加わると、センサ筐体3に変形が伝わり、センサチップ4中央の応力が変化してセンサ出力が変化することが課題となる場合がある。上記の力の加わり方は、X軸およびY軸に対して等方的になるはずだが、ダイアフラム2の形状に異方性があるために、温度変化に対する挙動と同様に、上記応力にも異方性が発生する。
【0056】
本発明の圧力センサでは、ダイアフラム2の長手方向に溝8a、8bを形成したことにより、上記のねじ止めの力の影響に対しても、センサチップ4中央に発生するX軸方向応力とY軸方向応力を近づける効果があり、センサ出力の変化を低減できる。
【0057】
以下に、本発明により得られる効果の検証を行った結果について示す。
【0058】
本発明の、溝8a、8bの形成により温度変化に対する出力変化を低減する効果について確かめるため、有限要素法(FEM)を用いた数値解析を行った。
図10は解析に用いたモデル形状を示す斜視図である。円板状のセンサ筐体の中央に、方形状のセンサチップを設置した形状のモデルとし、接合層は省略した。温度変化に対する出力変化を調べるため、温度を1℃上昇させる解析を実施した。センサチップは材質をシリコンとして線膨張係数を2.5×10
-6/℃とした。センサ筐体は材質をステンレスとして線膨張係数を10.8×10
-6/℃とした。温度を上昇させると、線膨張係数が大きいセンサ筐体の方がより膨張するため、センサチップには全体的に引張応力が生じることとなる。
【0059】
図11は比較検討した解析モデル形状を示す。X軸およびY軸に対して対称なので、解析はXY対称の1/4モデルで実施し、
図11も1/4の形状を示している。
図11(a)に示したモデル1は、センサ筐体がダイアフラムを形成しない円板とした場合であり、センサチップにはX軸方向にもY軸方向にも同様の応力が働く。
図11(b)に示したモデル2は、X軸方向を短手、Y軸方向を長手とする長方形のダイアフラムを形成した場合である。
図11(c)に示したモデル3は、モデル2の形状に溝を追加した場合である。溝はセンサチップから見て長手の方向にセンサチップに近接して配置し、溝の短手方向の長さはセンサチップよりも長くした。溝の深さはダイアフラムの厚さの半分とした。
【0060】
図12は解析結果の応力分布のグラフである。歪ゲージが形成されるセンサチップ表面の応力分布を示す。
図12中に示したように、センサチップの中心からX軸に沿って引いたライン上のX軸方向応力をXライン応力、また中心からY軸に沿って引いたライン上のY軸方向応力をYライン応力とする。
図12のグラフには、モデル1〜3の解析結果について、Xライン応力およびYライン応力を示した。グラフの横軸はセンサチップ中心からの距離を、センサチップ端部を1として基準化して示しており、グラフの縦軸の応力は、モデル1におけるセンサチップ中央の応力を1として基準化して示した。
【0061】
ダイアフラムのないモデル1では、Xライン応力とYライン応力の分布は一致し、センサチップ中央では引張の応力になる。長方形ダイアフラムを形成したモデル2では、モデル1と比べてセンサチップ中央の応力が低下し、Xライン応力はYライン応力よりも小さくなった。モデル1と比べて、ダイアフラムの部分が薄くなったためにセンサ筐体の剛性が低下し、センサチップを引っ張る力が弱まったために応力が低下した。また、薄いダイアフラムとセンサチップの積層構造では両者の熱膨張差により反り変形(面外曲げ変形)も発生し、反りによる応力はセンサチップ表面では圧縮方向になり、引張応力を少し緩和するように働く。このとき、X軸方向はダイアフラムが短いために、反り変形の曲率が小さく、センサチップ中央の引張応力の緩和量がY軸方向よりも大きい。そのため、歪ゲージのあるセンサチップ中央では、X軸方向応力がY軸方向応力より小さくなり、XY応力差が発生して出力が変化すると考えられる。溝を形成したモデル3の結果を見ると、Xライン応力の分布はモデル2とほぼ変わらないが、Yライン応力の分布がモデル2と比べて低下した。センサチップから見てY軸方向に溝を形成したことにより、センサ筐体の剛性が低下し、Y軸方向のみセンサチップを引っ張る力が低下し、Y軸方向応力のみを下げることができた。その結果、Y軸方向応力がX軸方向応力と近くなり、XY応力差が低減し、出力変化を低減できる。本解析の結果では、センサチップ中央でのXY応力差は、モデル2で0.092、モデル3で0.034となった。センサ出力がセンサチップ中央のXY応力差に比例すると仮定すると、温度変化に対するセンサ出力変化(すなわち温度特性)を、溝の追加により約63%低減できたことになる。