特許第5975985号(P5975985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5975985単核球調製材、及び前記調製材を利用した単核球調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5975985
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】単核球調製材、及び前記調製材を利用した単核球調製方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20160809BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20160809BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20160809BHJP
   A61M 1/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   C12M1/00
   C12N5/00
   A61K35/14
   A61M1/00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-509854(P2013-509854)
(86)(22)【出願日】2012年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2012058977
(87)【国際公開番号】WO2012141032
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-87789(P2011-87789)
(32)【優先日】2011年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 伸好
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】塚本 彩子
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/093205(WO,A1)
【文献】 特開平02−193069(JP,A)
【文献】 特開2008−022822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)血液を、単核球調製装置の入口側より導入し出口側より導出することにより、顆粒球を単核球調製装置内に捕捉する工程、及び
(B)洗浄液を単核球調製装置の入口側より導入し出口側より導出することにより、単核球調製装置内に残留する単核球を回収する工程、
を有する、単核球調製方法であって、
前記単核球調製装置が、ポリアミド樹脂で作製された、通気度が10mL/cm/sec以上、かつ75mL/cm/sec以下である不織布を含む、血液から顆粒球を除去し単核球を調製するための単核球調製材を、入口と出口を有する容器に充填して得られる単核球調製装置であり、且つ
前記洗浄液が、2価カチオンを含む洗浄液である、
単核球調製方法。
【請求項2】
さらに、前記工程(A)の前に、プライミングする工程を有する、請求項に記載の単核球調製方法。
【請求項3】
2価カチオンが、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンである、
請求項1または2に記載の単核球調製方法。
【請求項4】
2価カチオンの濃度が500mEq/L以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単核球調製方法。
【請求項5】
単核球調製装置の出口側より導出した単核球調製通過液に含まれる、顆粒球回収率に対する単核球回収率比が、3.5以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の単核球調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便且つ効率的に単核球を調製する単核球調製材、又はこれを利用した単核球調製方法に関する。さらには、顆粒球の混入を低減することができることを特徴とする単核球調製材、又はこれを利用した単核球調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脳梗塞、心筋梗塞及び肢虚血などの虚血性疾患領域において骨髄、臍帯血又は末梢血由来の単核球画分移植療法が臨床応用されている。これら単核球画分に含まれる間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞に代表される幹細胞が血管新生や神経再生を促進することによって治療効果を得られると考えられている。
【0003】
例えば、田口らは、末梢動脈閉塞性疾患であるBuerger病患者に、CD34陽性細胞を含む骨髄単核球画分を移植し、血管新生を促進することによってBuerger病を効果的に治療可能であることを見出している(非特許文献1)。また、脳梗塞をはじめとする急性虚血性疾患又は虚血性心疾患患者に対する骨髄由来単核球の移植治療が有効であると報告されている(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら単核球を調製する際には、炎症などの副作用を引き起こし単核球の治療効果を低減させる顆粒球を除去する必要があり、現行では遠心分離又は比重液を使用した密度勾配遠心法によって顆粒球を除去している。密度勾配遠心法は遠心操作などに時間を要すること、操作が煩雑であること、作業者間でのバラツキが大きいこと、開放系での操作が必要であり細胞治療を行う上では大型のセルプロセッシングセンター(CPC)が必須であること等、種々の問題がある。
【0005】
遠心分離法を用いない顆粒球除去方法として、顆粒球が選択的に吸着する素材、例えばポリエステルで作製された不織布を利用した方法が報告されている(特許文献1)。上記除去方法を用いると、閉鎖系で簡便に顆粒球を除去することが可能となるため、特殊な設備は必要なく、市民病院等の一般的な医療施設で実施することができる。また、処理時間も密度勾配遠心法に比べて短い。しかし、不織布の空隙率が高いために、単核球も不織布内に残存し、単核球回収率が低くなるといった問題点がある。
【0006】
また、デキストランを含む生理的溶液により不織布を洗浄することで、不織布内に残存する必要細胞を回収する方法が報告されている(特許文献2)。しかし、デキストランを含む回収液は粘度が高く、細胞生存率の低下が懸念される。
【0007】
さらに、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2価カチオンは顆粒球を活性化し、活性化された顆粒球は不織布へより強固に接着することが知られている(非特許文献3)。しかし、顆粒球の混入を低減したまま単核球回収率を向上する目的で、2価カチオンを含む生理的溶液で不織布を洗浄する報告は一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第06/093205号パンフレット
【特許文献2】特許第3938973号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Taguchi.et al., Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg.2003, 25, 276−278
【非特許文献2】A.Taguchi.et al.,Stem Cells.2010, 28, 1292−1302
【非特許文献3】A.Bruil.et al.,Transfusion Med.Rev.1995,9,145−166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、効率的に単核球を調製することが可能な単核球調製材、又はこれを利用した単核球調製方法を提供することを目的に各種検討を行ってきた。特に顆粒球の混入を低減したまま、単核球回収率を向上させる手段として、血液を通液した後に細胞に負の影響を与えない洗浄液を流し、不織布の空隙に残留する単核球を更に回収する方法を考え、検討を行ってきた。しかし、上記方法では、洗浄液を流すことで単核球だけではなく、顆粒球も流出してしまうことが明らかとなった。また、顆粒球の不織布への接着性を向上させ顆粒球の流出を抑制する目的で、2価カチオンを添加した血液を通液する検討を行ってきた。しかし、上記方法でも顆粒球が流出してしまう結果が得られた。
【0011】
従って、本発明の課題は、顆粒球を混入させることなく単核球回収率を向上することが可能な単核球調製材、さらには単核球回収率を向上することが可能な単核球調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来は容易に実現することが困難であった、顆粒球の混入を低減したまま、効率的に単核球を調製する単核球調製材、又はこれを利用した単核球調製方法に関して、鋭意検討を行った。その結果、特定の性質を持つ不織布を用いると、顆粒球の混入を低減したまま、効率的に単核球を調製できることを見出した。さらに、血液中ではなく、洗浄液中にカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2価カチオンを添加すると、顆粒球の混入を低減したまま、効率的に単核球を調製することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、ポリアミド樹脂で作製された、通気度が10mL/cm/sec以上、かつ75mL/cm/sec以下である不織布を含む、血液から顆粒球を除去し単核球を調製するための単核球調製材に関する。
【0014】
また、本発明は、単核球調製材を、入口と出口を有する容器に充填して得られる単核球調製装置に関する。
【0015】
また、本発明は、
(A)血液を、単核球調製装置の入口側より導入し出口側より導出することにより、顆粒球を単核球調製装置内に捕捉する工程、及び
(B)洗浄液を単核球調製装置の入口側より導入し出口側より導出することにより、単核球調製装置内に残留する単核球を回収する工程、
を有する、単核球調製方法に関する。
【0016】
さらに、前記工程(A)の前に、プライミングする工程を有することが好ましい。
【0017】
洗浄液に2価カチオンが含まれることが好ましい。
【0018】
2価カチオンが、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンであることが好ましい。
【0019】
2価カチオンの濃度が500mEq/L以下であることが好ましい。
【0020】
単核球調製装置の出口側より導出した単核球調製通過液に含まれる、顆粒球回収率に対する単核球回収率比が、3.5以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、顆粒球の混入を低減したまま、単核球回収率を向上することができ、より効率的に単核球画分を調製することが可能となる。また、少量の血液から効率的に必要量の単核球画分を調製することが可能となり、ドナー患者の負担低減が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】単核球調製回路の一例
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の説明中の特定の例に限定されるものではない。
【0024】
本発明は、ポリアミド樹脂で作製された不織布を含む、血液中から顆粒球を除去し単核球を採取するための単核球調製材に関するものである。
【0025】
ここでいう血液とは、末梢血、骨髄、臍帯血、月経血に限られず、羊水、組織抽出物等、あるいはそれらを粗分離又は加工や培養したものも含むものとする。また動物種に関しても制限はなく、ヒト、ウシ、マウス、ラット、ブタ、サル、イヌ、ネコ等、各種哺乳動物の血液を対象とすることができる。なお、この単核球調製材を利用して得られた単核球が、主に虚血性疾患等の治療として哺乳動物に戻されること、即ち、虚血性疾患治療薬として使用する場合を鑑みると、血液として造血幹細胞や間葉系幹細胞といった各種幹細胞が豊富に含まれる、骨髄、臍帯血、あるいは羊水を用いることが好ましい。
【0026】
また、血液として、必要に応じ各種抗凝固剤などを添加したものを使用することができる。血液に添加できる化合物として、ヘパリン、低分子ヘパリン、フサン(メチル酸ナファモスタット)、EDTA、ACD(acid−citrate−dextrose)液、CPD(citrate−phosphate−dextrose)液、CPDA(citrate−phosphate−dextrose−adenine)液等が挙げられる。
【0027】
さらに、本発明で使用する血液は、採取後48時間以内であることが、虚血性疾患等の治療目的の点から好ましい。しかし、冷蔵血液、あるいは冷凍血液を解凍したものを処理した場合でも、顆粒球除去効率はさほど変わらないことから、各種保存状態の血液を対象に使用することができる。
【0028】
単核球調製材で調製される単核球の具体例として、例えば、単球、リンパ球が挙げられる。また、単核球調製材で除去される顆粒球の具体例として、例えば、好中球、好酸球、好塩基球、およびこれらの幼若細胞が挙げられる。
【0029】
不織布とは、編織によらずに、繊維或いは繊維の集合体が、化学的、熱的、又は機械的に結合された布状のものをいう。繊維と繊維とが互いに接触することによる摩擦により、或いは互いにもつれ合うことなどにより一定の形状を保っている場合も機械的な結合に該当する。
【0030】
単核球調製材は、ポリアミド樹脂で作製された不織布を含むが、特にポリアミド樹脂を主成分として含有(50重量%以上含有)するように作製されたものであることが好ましい。ポリアミド樹脂としては、ナイロン、アラミド等その種類は特に制限されないが、不織布に成型することが容易なナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等のナイロン樹脂が好ましい。なお、顆粒球除去効率の点から、ナイロン6が特に好ましい。これらの材料は単独で使用することに限定されず、必要に応じて材料を複合・混合・融合して用いることもできる。さらに必要ならば、不織布を構成する繊維上に、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、糖類など、特定の細胞に親和性のある分子を固定してもよい。これらのポリアミド樹脂を用いることで、洗浄液を導入した際に顆粒球が流出して単核球調製装置通過溶液に混入することが防止でき、顆粒球の混入を低下させたまま、高い回収率で効率的に単核球を調製することが可能になる。
【0031】
不織布は、その通気度が10mL/cm/sec以上、かつ75mL/cm/sec以下であるものを使用できる。通気度は15mL/cm/sec以上、かつ70mL/cm/sec以下であることが好ましく、20mL/cm/sec以上、かつ65mL/cm/sec以下であることがより好ましい。10mL/cm/sec未満だと、不織布の目開きが小さすぎて単核球が不織布を通過することができず、単核球調製装置を通過した溶液の単核球回収率が低下する傾向がある。一方で、75mL/cm/secを超えると不織布の目開きが大きすぎて、血液通液時に、一部の顆粒球が不織布に接触することなく単核球調製装置を通過してしまう結果、顆粒球回収率が大きくなる傾向がある。
【0032】
ここでいう通気度は、フラジール型通気試験機により測定した数値であり、以下の方法によって測定されたものとする。まず、試験機のクランプに試料を挟み、傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように吸い込みファンを調節する。次いで、その時の垂直型気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量を求める。
【0033】
不織布を構成する繊維の繊維径は特に限定されないが、25μm以下であることが好ましい。顆粒球除去効率の点から20μm以下がより好ましく、16μm以下であることがさらに好ましい。繊維径とは繊維軸に対して直角方向の繊維の幅である。繊維径は、不織布からなる分離材を走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、写真に記載されたスケールから求めた繊維径の計算値を平均することにより求めることができる。繊維径は、50個以上の平均値であることが好ましく、100個以上の平均値であることがより好ましい。但し、繊維が多数に重なりあった場合、他繊維が邪魔をしてその幅が測定できない場合、著しく直径の異なる繊維が混在している場合などは、そのデータは除いて繊維径を算出する。また、太さの大きく異なる、例えば7μm以上繊維径の異なる複数の繊維から構成される不織布の場合には、繊維径が細い方が顆粒球捕捉効率への影響が大きいため、別々に繊維径を計算し、細い繊維径をその不織布の繊維径とする。
【0034】
単核球調製材の使用形態としては、単核球調製材を容器に入れず使用することも可能であるが、実用性を考慮すると、単核球調製材を、血液の入口と出口を備えた容器に入れて使用する方が好ましい。また、単核球調製材は適当な大きさに切断した平板状や、ロール状に巻いた形状で血液を処理することが可能である。
【0035】
単核球調製材を入口と出口を供えた容器に充填する際には、圧縮して容器に充填することができ、圧縮せずに容器に充填することもできる。単核球調製材の好ましい使用例としては、不織布からなる単核球調製材を適当な大きさに切断し、厚み1mmから200mm程度に、単層又は積層状態で使用することが好ましい。厚みは、顆粒球捕捉効率の面から2mmから150mmがより好ましく、3mmから100mmがさらに好ましい。また顆粒球調製材をロール状に巻いて、容器に充填することもできる。ロール状で使用する場合、該ロールの内側から外側に向けて血液を処理することにより血球を分離しても良いし、あるいはその逆に該ロールの外側から内側に向けて血液を処理することもできる。
【0036】
単核球調製材を充填する容器の形態、大きさ、材質は特に限定されない。容器の形態は、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ、カラム等が挙げられる。好ましい具体例としては、例えば、直径10mmから50mm程度、高さ1mmから50mm程度の半透明の筒状容器;一片の長さ10mmから50mm程度の長方形又は正方形で、厚みが1mmから50mm程度の四角柱容器等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
容器は任意の構造材料を使用して作製することができる。容器を構成する構造材料としては具体的には、非反応性ポリマー、生物親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。容器の材料として有用な金属材料(生物親和性金属、合金)について、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、及びそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼等が挙げられる。また、滅菌菌耐性を有する点から、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が特に好ましい。
【0038】
本発明の単核球調製方法は、(A)血液を上記の単核球調製装置の入口側より導入し出口側より導出することにより、顆粒球を単核球調製装置内に捕捉する工程、及び、(B)洗浄液を単核球調製装置の入口側より導入し出口側より導出することにより、単核球調製装置内に残留する単核球を回収する工程、を有することを特徴とする。血液及び洗浄液を通液する方向としては、重力下向き、重力上向き、水平方向等が挙げられる。血液が単核球分離材に万遍なく行き渡る、重力下向きあるいは重力上向きの方向であることが好ましい。
【0039】
また、血液を通液する速度及びその方法は特に制限されず、例えば重力を利用して通液する方法、ローラークレンメやシリンジポンプを用いて流速を一定にしながら通液する方法、高い圧力をかけて一気に通液する方法が挙げられるが、顆粒球除去効率の点から、シリンジポンプを用いて流速を一定にして通液する方法が好ましい。シリンジポンプを用いて2.5mL/min以下の流速で通液することがより好ましく、これにより血液が不織布にゆっくりと接触するため、より多くの顆粒球を不織布に捕捉させることができる。
【0040】
単核球調製方法においては、単核球調製装置内のエアーを除去し、顆粒球除去効率の向上、及び血液流路確保の目的で、血液を単核球調製装置に導入する前に、プライミング液を導入する工程が含まれることが好ましい。プライミング液は特に限定されないが、生理食塩水や緩衝液が好ましい。回路システムの単純化と操作性の観点から洗浄液と同一であることがより好ましい。プライミング液の量としては、単核球調製材が充填される容器の1倍から100倍程度が実用的であり好ましい。
【0041】
洗浄液として、例えば生理食塩水の他、2価カチオン、糖類、血清、蛋白質を含む液体、緩衝液、培地、血漿やそれらを含む液体等を有効に使用することができる。特に、2価カチオンを血液中に加えるのではなく、2価カチオンを含む液体を洗浄液として用いることで、顆粒球の不織布への接着性が向上し、顆粒球の混入を低下したまま効率的に単核球を調製することが可能になる。2価カチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、バリウムイオンが、顆粒球除去効率の点から好ましい。注射用剤として使用実績のある、カルシウムイオン、マグネシウムイオンがより好ましい。2価カチオンの濃度は、500mEq/L以下であることが好ましい。360mEq/L以下であることがより好ましく、180mEq/L以下であることがさらに好ましい。500mEq/Lを超えると、細胞に対する負の影響を無視できなくなる。なお、mEq/Lは、mmol/Lにイオン価数をかけたものである。
【0042】
洗浄液としては、塩化カルシウムや硫酸マグネシウムを含有する生理食塩水や、リンゲル液等、細胞に対して負の影響を与えず、かつ医療用途に用いられている実績があるものが好ましい。
【0043】
本発明においては、血液を通液した後に洗浄液を導入することで、単核球分離装置内に残留している単核球を回収することが可能となる。不織布の空隙率は一般に高いので、とくに血液処理量が少量の場合、処理量に対する単核球分離装置内に残留する血液量はかなり大きな割合を占めることから、洗浄操作により単核球分離装置内の単核球を回収することは非常に重要である。しかし一方で、洗浄液を導入すると、単核球分離装置内に残留する単核球に加え、通常は顆粒球も流出してしまう。本発明によれば、ポリアミド樹脂を用いることで、洗浄液を導入した場合においても単核球調製装置内に捕捉された顆粒球を流出させることなく、単核球分離器内に残留している単核球を回収することができる。
【0044】
洗浄液を通液する速度及びその方法についても特に制限されず、血液通液時同様、重力を利用して通液する方法、ローラークレンメやシリンジポンプを用いて流速を一定にしながら通液する方法、高い圧力をかけて一気に通液する方法が挙げられる。
【0045】
血液処理量は1mLから100mLが好ましく、虚血性疾患等の治療用途を鑑みると、2mLから80mLがより好ましく、3mLから60mLがさらに好ましい。一方、洗浄液処理量は、単核球調製装置の容積の1倍以上、20倍未満が好ましい。2倍以上、15倍未満であることがより好ましく、3倍以上、10倍未満であることがさらに好ましい。1倍未満の場合、単核球調製装置内に残留する血液を完全に置換することができないので、単核球調製装置を通過した溶液の単核球回収率が低下する傾向がある。一方、20倍を超えると回収された血液が希釈されすぎる傾向がある。
【0046】
本発明によって得られた単核球調製装置通過溶液が、主に虚血性疾患等の治療用途として哺乳動物に戻される場合、即ち、虚血性疾患治療薬として使用する場合を鑑みると、閉鎖系の回路を用いて無菌的に単核球を調製することが望ましい。
【0047】
また、回路を用いる場合は、各種回路を形成可能であるが、通常、単核球調製装置の入口側に血液、及び洗浄液を収容する手段が配置される。また、無菌的に作業を行う上で、血液、洗浄液を収容する手段に至る回路をそれぞれ個別に設けることが好ましいが、1つの回路で、血液、及び洗浄液を収容する手段を差し替えて使用することも可能である。一方で、出口側に単核球調製装置を通過した血液及び洗浄液を収容する手段が配置される。但し、必要に応じ血液と洗浄液を分取し、別個の処理を行った後に混合することも可能である。
【0048】
プライミングを行う場合は、通常、単核球調製装置の入口側と出口側に、それぞれ、プライミング溶液を収容する手段、及び単核球調製装置を通過したプライミング溶液を収容する手段が配置されるが、プライミング溶液を流す方向によって、それぞれ入口又は出口側の何れに配置するかが変更される。また、血液、洗浄液を収容する手段とは別個に回路を設けても良いし、或いはこれらと差し替えて使用することも可能である。
【0049】
図1には、上述の全ての手段を有し、特にこれら手段に至る回路を個別に設けた例を示した。尚、プライミング溶液を単核球調製装置の出口側から入口側に向けて流すことを想定している。これら各手段は、本発明の単核球調製方法の各工程に応じて各活栓等が開閉される。
【0050】
一方、血液を収容する手段、及び単核球調製装置を通過した溶液を収容する手段は、取り扱いやすさの点からバッグ形状が好ましいが、これらに限定されない。また前記収容手段はチューブ等によって接続されており、各チューブにはクランプ、二方活栓、三方活栓、ローラークレンメ等、溶液の流れや流速を制御できる手段が付属されていることが、取り扱いやすさの点から、好ましい。
【0051】
単核球回収率比は、単核球回収率を顆粒球回収率で割ることにより算出できる。この値が高いほど顆粒球除去性能が高いことを示している。本発明においては、2価カチオンを含む液体を洗浄液として用いることで、顆粒球の不織布への接着性が向上し、顆粒球の混入を低下したまま効率的に単核球を調製することが可能になる。顆粒球回収率に対する単核球回収率の比は、3.5以上であることが好ましい。4.1以上であることがより好ましく、4.5以上であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例において本発明に関して詳細に述べるが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
高さ(内寸)7mm、直径(内径)18mmのポリカーボネート製容器に、ナイロン6製不織布(通気度40mL/cm/sec、厚さ0.30mm、繊維径16.0μm)を40枚積層状態で充填し(不織布総厚み12mm)、単核球調製装置を作成した。次に50mLシリンジにプライミング溶液として生理食塩水45mLを入れ、メスロックコネクターを介してシリンジと単核球調製装置の入口側を接続し、ゆっくりシリンジのブランジャーを押して生理食塩水45mLを通液した。続いて、50IU/mLヘパリンナトリウムで抗凝固し70μmのセルストレーナーに通して凝集物を除去したブタ骨髄液5mLを20mLシリンジに入れ、ポアロンチューブを介してシリンジと単核球調製装置の入口側を接続し、シリンジポンプに取り付けた。ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで8分かけて単核球調製装置内に導入し、出口側より導出した単核球調製装置通過液を回収容器に収容した。最後に、20mLシリンジに洗浄液として生理食塩水10mLを入れ、ポアロンチューブを介してシリンジと単核球調製装置の入口側を接続し、シリンジポンプを用いて流速0.625mL/minで16分かけて単核球調製装置内に導入し、出口側より導出した単核球調製装置通過液を回収容器に収容した。
【0054】
得られた単核球調製装置通過液15mL、及び処理前血液の白血球濃度を血球カウンター(シスメックス(株)製、K−4500)により測定した。また、処理前血液、及び単核球調製装置通過液をFACS PharmLyseで溶血後、フローサイトメーター(BD社製、FACSCanto)により顆粒球及び単核球の存在比率を測定した。得られた白血球濃度と顆粒球及び単核球の存在比率から、総単核球数を以下の式により求めた。
(処理前血液5mL中の総単核球数)=(処理前血液の白血球濃度)×(処理前血液における白血球中の単核球存在比率)×5[mL]
(単核球調製装置通過液15mL中の総単核球数)=(単核球調製装置通過液の白血球濃度)×(単核球調製装置通過液における白血球中の単核球存在比率)×15[mL]
これら処理前後の総単核球数より、単核球回収率[%]を(単核球調製装置通過液の単核球数)/(処理前血液の単核球数)×100として算出した。その結果、単核球回収率は74%であった。
【0055】
また、単核球調製装置通過液の総顆粒球数についても同様に算出し、顆粒球回収率[%]を(単核球調製装置通過液の顆粒球数)/(処理前血液の顆粒球数)×100として算出した。その結果、顆粒球回収率は49%であった。
さらに、単核球回収率及び顆粒球回収率より、単核球回収率比を、(単核球回収率)/(顆粒球回収率)として算出した。その結果、単核球回収率比は1.5であった。結果を表1に示した。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様の容器に、ナイロン6製不織布(通気度20mL/cm/sec、厚さ0.46mm、繊維径5.0μm)24枚を積層状態で充填し(不織布総厚み11mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて生理食塩水10mLを流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様の容器に、ナイロン6製不織布(通気度20mL/cm/sec、厚さ0.46mm、繊維径5.0μm)16枚を積層状態で充填し(不織布総厚み7.4mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて生理食塩水10mLを流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同様の容器に、ナイロン6製不織布(通気度20mL/cm/sec、厚さ0.46mm、繊維径5.0μm)16枚を積層状態で充填し(不織布総厚み7.4mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて塩化カルシウム含有生理食塩水10mL(カルシウム濃度:36mEq/L)を流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0059】
(実施例5)
実施例1と同様の容器に、ナイロン6製不織布(通気度20mL/cm/sec、厚さ0.46mm、繊維径5.0μm)16枚を積層状態で充填し(不織布総厚み7.4mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて硫酸マグネシウム含有生理食塩水10mL(マグネシウム濃度:34mEq/L)を流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0060】
(実施例6)
実施例1と同様の容器に、ナイロン6製不織布(通気度20mL/cm/sec、厚さ0.46mm、繊維径5.0μm)16枚を積層状態で充填し(不織布総厚み7.4mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLに硫酸マグネシウムをマグネシウム終濃度が34mEq/Lになるよう添加し、これを流速0.625mL/minで通液した。続いて硫酸マグネシウム含有生理食塩水10mL(マグネシウム濃度:34mEq/L)を流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0061】
(実施例7)
実施例1と同様の容器に、ナイロン6製不織布(通気度65mL/cm/sec、厚さ0.19mm、繊維径2.7μm)40枚を積層状態で充填し(不織布総厚み7.6mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて生理食塩水10mLを流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0062】
(比較例1)
実施例1と同様の容器に、ポリプロピレン製不織布(通気度33mL/cm/sec、厚さ0.43mm、繊維径5.7μm)28枚を積層状態で充填し(不織布総厚み12mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて生理食塩水10mLを流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同様の容器に、ポリブチレンテレフタラート製不織布(通気度36mL/cm/sec、厚さ0.61mm、繊維径4.6μm)20枚を積層状態で充填し(不織布総厚み12mm)、まず生理食塩水45mLを入口側よりシリンジを用いて手押しで通液した。次にヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液5mLを流速0.625mL/minで通液した。続いて生理食塩水10mLを流速0.625mLで単核球調製装置入口側より導入した。実施例1と同様に得られた単核球調製装置通過液15mLの単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0064】
(比較例3)フィコールパック分画法による単核球の調製方法
ヘパリン抗凝固の新鮮ブタ骨髄液2mLを、生理食塩液2mLと混合して希釈した。次に、容量15mLの遠沈管に、Ficoll Paque−Plus(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)溶液を3mL添加し、該Ficoll溶液の上層に、上述の通り希釈した骨髄液を重層した。遠心分離機にて、回転数1400rpmで30分間遠心分離することにより、得られた単核球画分層を回収した。Ficoll溶液を除去する目的で、回収した単核球画分層に生理食塩液を10mL添加し、遠心分離機にて、回転数1500rpmで10分間遠心分離した。上清を除いた後、再度生理食塩液を10mL添加し、回転数1500rpmで10分間遠心分離した。再び上清を除き、生理食塩水を液量が1mLになるように加えた。実施例1と同様の方法で回収液の単核球回収率、顆粒球回収率、及び単核球回収率比を算出し、結果を表1に示した。
【0065】
フィコールパック分画法を使用した場合、該単核球回収率及び顆粒球回収率は実施例2とほぼ同じであるが、遠心操作などに時間を要すること、操作が煩雑であること、作業者間でのバラツキが大きいこと、開放系での操作が必要である等の問題がある。
【0066】
【表1】
【符号の説明】
【0067】
1 チャンバー
2 単核球調製材が充填された容器(単核球調製装置)
3 単核球調製装置を通過したプライミング溶液を収容する手段
4 血液を収容するための手段
5 洗浄液を収容するための手段
6 プライミング溶液を収容する手段
7 単核球調製装置を通過した血液及び洗浄液を収容する手段
8〜10 三方活栓
11〜19 回路
図1