【文献】
Journal of Dairy Science,2007年,Vol. 90,pp.4966-4973
【文献】
Journal of food science,1991年,Vol. 56, No. 4,,pp.943-947
【文献】
Journal of Chromatography,1989年,Vol. 473,pp.189-206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記の(a)、(c)及び(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチドを有効成分として含有するジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(配列番号1)
(c)His−Pro−His−Pro−His(配列番号3)
(d)Ala−Pro−Lys(配列番号4)
ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖低下剤、抗糖尿病剤、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤の製造のための、下記の(a)、(c)及び(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの使用(ただし、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤の製造のための、(c)のアミノ酸配列からなるペプチドの使用を除く)。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(配列番号1)
(c)His−Pro−His−Pro−His(配列番号3)
(d)Ala−Pro−Lys(配列番号4)
下記の(a)、(c)及び(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖低下剤、抗糖尿病剤、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤への使用(ただし、(c)のアミノ酸配列からなるペプチドの、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤への使用を除く)。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(配列番号1)
(c)His−Pro−His−Pro−His(配列番号3)
(d)Ala−Pro−Lys(配列番号4)
哺乳動物(ヒトを除く)のジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病又は血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療のための、下記の(a)、(c)及び(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの使用(ただし、哺乳動物(ヒトを除く)の血管内皮障害又は血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療のための、(c)のアミノ酸配列からなるペプチドの使用を除く)。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(配列番号1)
(c)His−Pro−His−Pro−His(配列番号3)
(d)Ala−Pro−Lys(配列番号4)
下記の(a)、(c)及び(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチドを有効成分として用いる、哺乳動物(ヒトを除く)のジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病又は血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療方法(ただし、(c)のアミノ酸配列からなるペプチドを有効成分として用いる、哺乳動物(ヒトを除く)の血管内皮障害又は血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療方法を除く)。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(配列番号1)
(c)His−Pro−His−Pro−His(配列番号3)
(d)Ala−Pro−Lys(配列番号4)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示のペプチドは、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を有する、配列番号1〜5で表されるアミノ酸配列を有するペプチドである。
本開示のアミノ酸残基3〜5個からなるペプチドとして、以下のものが挙げられる。
テトラペプチドとして、Ser−Pro−Ala−Gln(配列番号1)からなるペプチド(以下、「SPAQ」とする):及びGly−Pro−Val−Arg(配列番号2)からなるペプチド(以下、「GPVR」とする);
ペンタペプチドとして、His−Pro−His−Pro−His(配列番号3)からなるペプチド(以下、「HPHPH」とする);
トリペプチドとして、Ala−Pro−Lys(配列番号4)からなるペプチド(以下、「APK」とする)が挙げられる。
これら配列番号1〜4に示すアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のものを利用することができる。
なお、SPAQ、GPVR、APKは、1つのL−プロリン残基を含むペプチド、及びHPHPHは、2つのL−プロリン残基を含むペプチドである。
ここで、本開示において、Ser(S)はL−セリン残基、Pro(P)はL−プロリン残基、Ala(A)はL−アラニン残基、Gln(Q)はL−グルタミン残基、Gly(G)はL−グリシン残基、Val(V)はL−バリン残基、Arg(R)はL−アルギニン残基、His(H)はL−ヒスチジン残基、Lys(K)はL−リシン残基を示す。
【0015】
また、本開示の3〜5ペプチドは、このペプチドの塩類であってもよい。当該塩類としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属類;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属類等が挙げられ、このうち適宜1種又は2種以上を使用すればよい。
【0016】
本開示のペプチドの製造方法については、例えば国際公開2003/044044号パンフレット〔参考文献1〕等に記載されるような方法に準じて行うことが可能であり、以下の方法が例示されるが、これに特に限定されない。
例えば、配列番号1(SPAQ)、配列番号2(GPVR)、配列番号3(HPHPH)及び配列番号4(APK)で表されるアミノ酸配列から選ばれる1種又は2種以上のアミノ酸配列を含む蛋白質やペプチドを加水分解等にて分解し、得られた分解物から分離精製して得る方法;ペプチドの化学合成方法にて本開示の3〜5ペプチドを合成した後、得られた合成物から本開示の3〜5ペプチドを分離精製して得る方法;本開示の3〜5ペプチド及びこれを含むペプチド等を生産する植物、動物や微生物から抽出し、得られた抽出物から分離精製する方法等が挙げられる。
【0017】
本開示の3〜5ペプチドは、例えばカゼイン等の蛋白質を、適宜、酸アルカリや酵素等にて加水分解することで、製造することが可能である。
原料蛋白質を加水分解酵素で加水分解して前記ペプチドを得る方法を例示する。
まず、原料蛋白質を酵素で加水分解する前に、蛋白質を水に溶解、分散又は懸濁させる。
前記原料蛋白質は、配列番号1〜4で表されるアミノ酸配列のいずれかを少なくとも含む蛋白質であって、適宜加水分解酵素で消化したときに本開示の3〜5ペプチドが生成可能なものであれば、特に限定されない。前記蛋白質として、例えば、動物由来や微生物由来のもの等が挙げられ、大量に入手可能なカゼインが好適である。
このとき、原料蛋白質の性状により処法は異なるが、原料蛋白質が可溶性の場合には、原料蛋白質を水又は温水に分散し、溶解すればよく、また、難溶性の場合には熱水に蛋白質を混合撹拌にてホモジナイズすればよい。
【0018】
そして、前記蛋白質を含有する溶液に、アルカリ剤又は酸剤を添加し、pHを調整してもよい。このpHは使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近に調整することが好ましい。
前記アルカリ剤又は酸剤として、特に限定されず、食品又は医薬品に許容されるものを使用すればよい。アルカリ剤として、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等の水酸化物;炭酸カリウム等の炭酸塩などが挙げられ、これらはアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩でもよい。また、酸剤として、例えば、塩酸、リン酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、ギ酸等の有機酸などが挙げられる。これらのうち、適宜1種又は2種以上を使用すればよい。
また、前記蛋白質を含有する溶液を70〜90℃で15秒〜10分間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。
【0019】
次に、前記蛋白質を含有する溶液に、所定量の加水分解酵素を加え、温度10〜85℃程度で0.1〜48時間反応を行い、加水分解物を得る。
このとき、前記加水分解酵素を添加した後、当該溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持して、蛋白質の加水分解を開始するのが望ましい。
また、加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ければよい。本開示の3〜5ペプチドを得るには、前記原料蛋白質の分解率20〜60%が好ましい。さらに本開示のSPAQ(配列番号1)、GPVR(配列番号2)、及びHPHPH(配列番号3)のアミノ酸残基4〜5個からなる各ペプチドを得る場合には、前記原料蛋白質の分解率20〜30%が望ましい。また、本開示のAPK(配列番号4)のアミノ酸残基3個からなるペプチドを得る場合には、前記原料蛋白質の分解率40〜60%が望ましい。
前記加水分解酵素反応の停止は、例えば、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができるが、例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。
【0020】
前記加水分解酵素は、特に限定されないが、前記原料蛋白質を加水分解して本開示のペプチドを生成させ得る酵素であるのが好ましく、当該生成させ得る酵素として、具体的にはエンドペプチダーゼが好ましい。
【0021】
前記エンドペプチダーゼとして、例えば、微生物由来や動物由来のものがあるが、具体的には、バチルス(Bacillus)属細菌由来、アスペルギルス(Aspergillus)属細菌由来のプロテアーゼ及び動物膵臓由来のプロテアーゼ等が挙げられる。前記プロテアーゼは市販されているものを利用することが可能である。
市販品のプロテアーゼとして、例えば、ビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)及びプロテアーゼN(天野エンザイム社製)等のバチルス属細菌由来のプロテアーゼ;PTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)等の動物膵臓由来のプロテアーゼ等が好ましいものとして例示できる。また、例えば、プロテアーゼA(天野エンザイム社製)等のアスペルギルス属細菌由来のプロテアーゼ;パンクレアチン(天野エンザイム社製)等の動物膵臓由来のプロテアーゼ等が好ましいものとして例示できる。
例えば、バチルス属細菌由来のプロテアーゼを使用する際には、蛋白質1g当たり100〜5000活性単位の割合で添加するのが望ましい。また、動物膵臓由来のプロテアーゼを使用する際には、蛋白質1g当たり3000〜8000活性単位の割合で添加するのが望ましい。
【0022】
本開示において用いる加水分解酵素は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。2種以上の酵素を用いる場合には、それぞれの酵素反応は同時に又は別々に行ってもよい。
本開示において、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなるペプチド(具体的には、SPAQ、GPVR又はHPHPH)を得る場合には、ビオプラーゼsp−20、プロテアーゼN及びPTN6.0Sを併用するのが好ましく、これら3酵素を混合して使用することが特に好ましい。
本開示において、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるペプチド(具体的には、APK)を得る場合には、パンクレアチン及びプロテアーゼを併用するのが好ましく、これら2酵素を混合して使用することが特に好ましい。
【0023】
なお、原料蛋白質の分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0024】
前記加水分解液物から、本開示の3〜5ペプチドを単離又は精製するのが好適である。
本開示の3〜5ペプチドの精製は、通常、オリゴペプチドの精製に用いられているのと同様の手法、例えばイオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を適宜組み合わせることによって、行うことができる。
【0025】
本開示の3〜5ペプチドの単離又は精製に際しては、目的物質を含む画分は、後述するジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を指標として決定することができる。また、それらの画分の活性成分は質量分析法により同定することができる。
【0026】
また、加水分解酵素によって得られる蛋白質分解物は、SPAQ(配列番号1)、GPVR(配列番号2)、HPHPH(配列番号3)及びAPK(配列番号4)から選ばれる1種又は2種以上のものが含まれるものが好ましい。
【0027】
また、本開示の3〜5ペプチドは、化学合成によっても製造することができる。
本開示の3〜5ペプチドの化学合成は、オリゴペプチドの合成に通常用いられている液相法または固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは必要に応じて脱保護され、未反応試薬や副生物等を除去して、本開示の3〜5ペプチドを単離することが可能である。
このようなペプチドの合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。目的とするペプチドが得られたことは、後述するジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を指標として確認することができる。
【0028】
本開示の3〜5ペプチドは、後記実施例に示すとおり、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を有する。
ジペプチジルペプチダーゼ−IVが、生体内の生理機能に関与している化合物を分解することで、種々の疾患や症状が生じる場合がある。このため、ジペプチジルペプチダーゼ−IVを阻害すると、ジペプチジルペプチダーゼ−IVによって分解されていた生体内の生理機能に関与している化合物の寿命が延びることを利用して、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療が可能となる。
前記生理機能に関与する化合物として、例えば、インクレチンのグルカゴン様ペプチド1(GLP−1)及びグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)が挙げられる。そして、このインクレチンのグルカゴン様ペプチド1の分解抑制によって、インスリンの生合成及び分泌に対するグルコース誘導性の刺激、グルカゴン分泌抑制、遺伝子発現の調整、Β細胞に対する栄養性の効果、食物摂取の抑制、及び胃内容排出の緩徐化などの各作用を奏することが可能である。これによって、上昇した血糖値の正常化、並びに空腹感及び体重の改善・調整に寄与することが可能である。
【0029】
また、ジペプチジルペプチダーゼ−IVの作用によって、血管の内皮細胞の機能が低下したり、血管の内皮細胞が障害されることが知られている。この血管の内皮細胞の機能低下や障害によって、血管の緊張増加による血管収縮、動脈硬化、血栓形成等の血管障害が生じ、これらの原因によって臓器の血流障害が生じ、臓器機能不全となり、糖尿病の合併症が誘発されることとなる。
近年、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害薬の投与による内皮細胞の機能改善効果が多数報告されている(例えば、参考文献2〜5参照〔参考文献2〕Endocrine Journal 2011, 58 (1), 69-73;〔参考文献3〕J Am Coll Cardiol. 2012, 59(3), 265-76;〔参考文献4〕Diabetes Care. 2011, 34(9), 2072-7;〔参考文献5〕Cardiovascular Diabetology2011, 10(85) (http://www.cardiab.com/content/10/1/85))。
これらの効果は単に血糖値を下げることによる改善の他に、インクレチンによる血管の保護作用を介していると考えられている。高血糖により内皮細胞の機能が低下し、血管のしなやかさが失われると、血圧が上昇し、上昇した血圧がさらに血管を傷めるという悪循環が、心臓・腎臓・脳といった臓器への悪影響となって現れる。この悪循環を断ち切るために、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害薬とアンジオテンシン変換酵素阻害薬の併用も試みられており、ジペプチジルペプチダーゼ−IVの阻害剤は循環器系の治療においても、重要な役割を果たすものと考えられている。
【0030】
すなわち、本開示の3〜5ペプチドは、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を有するので、血糖値上昇抑制作用、高血糖改善作用、血管内皮機能低下抑制作用、血管内皮障害抑制作用、血管障害抑制作用、血管内皮細胞の保護作用及び食欲抑制作用等を示す。
また、本開示の3〜5ペプチドは、食欲抑制及び血管内皮細胞の保護等も可能と考える。なお、ここでいう「血糖値上昇抑制」とは、血糖値低下を含む意味であるが、特に「正常値以上又は必要以上に上昇した血糖値を下げることができること」を意味するものである。血糖値の正常値の判断は、日本糖尿病学会の2010年の診断基準を参考にすればよい。
さらに、本開示のペプチド3〜5により、ジペプチジルペプチダーゼ−IVを阻害することで、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療が可能と考えられる。よって、本開示のペプチド3〜5は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患や症状等の予防、改善及び/又は治療を図るための方法に使用することができる。
本開示のジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する各種疾患や症状として、例えば、高血糖症、糖尿病、糖尿病合併症、血管内皮障害、血管障害等が挙げられる。なお、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する各種疾患等は、ジペプチジルペプチダーゼ−IVが介在する各種疾患等であってもよい。
さらに、高血糖症、糖尿病及び高血糖状態によって引き起こされる種々の疾患として、例えば、糖尿病性の細小血管症(例えば、網膜症、腎症、神経障害等)及び大血管合併症(例えば、狭心症・心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞、閉塞性動脈硬化、壊疽等)等が挙げられる。
【0031】
なお、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤が前記種々の疾患の予防剤や治療剤として利用できることについては、前記の特許文献1〜5及び参考文献2〜5にも開示されているとおりであり、本開示の3〜5ペプチドについても同様に前記種々の疾患の予防剤や治療剤としても実施できることについては言うまでもない。
よって、本開示の3〜5ペプチドは、上述のような、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害、血糖値上昇抑制、高血糖改善、血管内皮障害抑制、及び抗糖尿病等のために使用してもよく、また、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、血管内皮障害抑制剤及び抗糖尿病剤等の上述のような使用を目的とした各種製剤に使用することができ、これら各種製剤を製造するために使用することができる。
【0032】
以上従って、本開示の3〜5ペプチド及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤(以下、「前記ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤等」ともいう)は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、上述の、高血糖症、糖尿病(特に2型糖尿病)及び糖尿病合併症(例えば、糖尿病性の血管内皮障害や腎症等)、血管内皮障害、血管障害等の予防、改善及び/又は治療を図るための方法に使用することができる。
また、本開示3〜5ペプチド及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤は、上述のような高血糖症、糖尿病、血管障害等の予防、改善及び/又は治療のためのヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、皮膚外用剤、化粧品及び食品等の有効成分としてこれらに配合して使用可能である。
医薬品に配合する場合、経口投与剤や非経口投与剤などとすることができる。また、食品に配合する場合には、上述のジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する各種疾患、並びに高血糖状態によって引き起こされる各種疾患などの予防、改善又は治療、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害、血糖値上昇抑制、高血糖改善等の生理機能をコンセプトとする機能性食品、病者用食品、特定保健用食品などに応用できる。
前記ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤等は、上述のような、高血糖症、糖尿病、血管障害等の予防、改善及び/又は治療のためのヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、皮膚外用剤、化粧品及び食品等の有効成分としてこれらに配合して使用可能である。
【0033】
本開示3〜5ペプチド及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤は、経口投与及び非経口投与の何れでもよいが、経口投与が望ましい。非経口投与として、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。経口投与の剤形として、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、酸剤、軟膏等が挙げられる。
製剤化に際しては、乳蛋白加水分解物や本開示の3〜5ペプチドの他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。
【0034】
また、本開示の3〜5ペプチドは、公知の又は将来的に見出されるジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用及び/又はアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する薬、抗糖尿病薬、血糖低下薬などを併用することも可能である。
糖尿病のヒト又はその予備群(この予備群とは、糖尿病には至っていないが、高血糖値状態のヒトをいう)のヒトは、高血圧に留意する必要性がある。しかし、一般的に、血糖値上昇抑制薬で血糖値の上昇を抑制できても血圧を降下させることはできるとは言えず、一方、血圧降下薬で血圧を降下させても血糖値の上昇が抑制できるとは言えない。このため、糖尿病かつ高血圧のヒトは、血糖値上昇抑制薬と血圧降下薬の両方を処方されることが多く、薬の組み合わせによる副作用の懸念もある。しかし、本開示の3〜5ペプチドは、カゼイン酵素分解物から分取可能なペプチドであるので安全性が高いと考えられることから、他の薬を組み合わせた場合でも副作用の低減が期待できる。
【0035】
また、本開示の3〜5ペプチドを有効成分として食品中に含有させ、本開示3〜5ペプチド及びこれを有効成分として含有する上述の各種製剤の一態様として、ジペプチジルペプチダーゼ−IV作用を有する食品として加工することも可能である。
このような食品として、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等のほか、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、飲料、これら以外の市販品等が挙げられる。
【0036】
例えば、前記小麦粉製品として、パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等が挙げられる。前記即席食品類として、即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等が挙げられる。
例えば、前記農産加工品として、農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等が挙げられる。前記水産加工品として、水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等が挙げられる。前記畜産加工品として、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等が挙げられる。
例えば、前記乳・乳製品として、加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等が挙げられる。前記油脂類として、バター、マーガリン類、植物油等が挙げられる。
例えば、前記基礎調味料として、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等が挙げられ、前記複合調味料・食品類として、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等が挙げられる。
例えば、前記冷凍食品として、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等が挙げられる。
例えば、前記菓子類として、キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、その他の菓子等が挙げられる。
例えば、前記飲料類として、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等が挙げられる。
例えば、上記以外の市販食品として、ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等が挙げられる。
【0037】
本開示の前記ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤等において、本開示の3〜5ペプチドの配合量は、製剤の最終組成物に対し、少なくとも0.001質量%であることが好ましい。
本開示の3〜5ペプチドの投与量は、年齢、症状等により異なるが、通常、0.001〜3000mg/日、好ましくは0.01〜30mg/日であり、1日1回から3回に分けて投与してもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、具体的な実施例等を説明するが、本発明(本開示)はこれに限定されるものではない。
【0039】
製造例1:カゼインの酵素分解によるテトラペプチドSPAQ、テトラペプチドGPVR、ペンタペプチドHPHPH及びトリペプチドAPKの製造
<カゼインの酵素分解1>
市販のカゼイン(ニュージーランドデーリーボード製)100gに水900gを加え、よく分散させ、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整し、カゼインを完全に溶解し、濃度約10%のカゼイン水溶液を調製した。該カゼイン水溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、50℃に温度調整し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.5に調整した後、ビオプラーゼsp−20(長瀬生化学工業社製)100,800活性単位(蛋白質1g当り1,200活性単位)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)168,000活性単位(蛋白質1g当り2,000活性単位)、及びPTN6.0S(ノボザイムズ・ジャパン社製)588,000活性単位(蛋白質1g当り7,000活性単位)を添加して、加水分解反応を開始した。カゼインの分解率が25.0%に達した時点で、80℃で6分間加熱して酵素を失活させて酵素反応を停止し、10℃に冷却した。この加水分解液を分画分子量10,000の限外ろ過膜(旭化成社製)で限外ろ過し、濃縮後凍結乾燥し、凍結乾燥品(カゼイン酵素分解物1)87gを得た。
【0040】
<HPLCによるペプチドの分離>
逆相HPLCで上記カゼイン加水分解物の分離を行った。このHPLC条件は下記HPLC条件1に示した。
〔HPLC条件1〕
カラム:Cadenza CD−C18
10mmI.D.×250mm (インタクト(株)製)
検出:UV 215nm
流速:3ml/分
溶離液A:0.2% FAを含む水溶液
溶離液B:0.2% FAを含むアセトニトリル溶液
溶離液Aの割合98%から、30分後に75%、40分後に50%、43分後に20%、になるようなグラジエント条件で、加水分解物を分離し、溶出液を0.75ml毎に分画した。溶出画分について、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を測定したところリテンションタイム10〜15分に溶出された画分に強い阻害活性能が認められた。
さらに、精製するため、別条件のHPLCで精製した。このときの条件を下記HPLC条件2に示した。このとき、条件1の溶離液A、Bを、それぞれ条件2の溶離液A、Bに変更し、その他の条件は条件1と同様に行った。
〔HPLC条件2〕
カラム:Cadenza CD−C18
10mmI.D.×250mm (インタクト(株)製)
検出:UV 215nm
流速:3ml/分
溶離液A:0.1% TFAを含む水溶液
溶離液B:0.1% TFAを含むアセトニトリル溶液
【0041】
同グラジエント条件で、加水分解物を分離し、溶出液を0.75ml毎に分画した。溶出画分について、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を測定したところリテンションタイム16.0分に溶出された画分に強い阻害活性能が認められた。このフラクションにおける酵素活性の50%阻害濃度は、10〜30μg/mlであった。
上記活性ピークの化合物1を、島津製作所製のプロテイン・シーケンサー(PPSQ−23A)で同定した。その結果、SPAQ(配列番号1)という新規な構造をもつことがわかった。なお、これらアミノ酸残基はL−型であった。
更に、サーモクエスト社製質量分析計LTQにより、分子量は401.2、m/z=402.2(MH+)をプリカーサーイオンとするMS/MS分析により、
図1に示す通り、m/z=147.2,218.2,256.1等のプロダクトイオンが検出された。
こうして、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を有するペプチドの活性ピーク化合物1の構造は、SPAQであることが明らかとなった
また、後述の製造例2で得られた合成ペプチドSPAQでの50%阻止濃度は、16μg/mlであり、精製フラクションの値と一致した。
【0042】
さらに、同様の操作を行い、上記「カゼイン酵素分解物1」中から、テトラペプチドSPAQ(配列番号1)のほか、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性を持つペプチドとして、活性ピークの化合物2〜3を得、これを同定した。この同定の結果、上記「カゼイン酵素分解物1」中に、テトラペプチドGPVR(配列番号2)及びペンタペプチドHPHPH(配列番号3)が含まれていることを確認できた。これら化合物2〜3のアミノ酸残基は全てL−型であった。
なお、活性ピークの化合物2を同定したところ、この分子量は427.3、m/z=428.3(MH+)をプリカーサーイオンとするMS/MS分析により、
図2に示す通り、m/z=175.2,254.2等のプロダクトイオンが検出された。その結果、この化合物は、GPVR(配列番号2)という新規な構造をもつことがわかった。
また、活性ピークの化合物3を同定したところ、その分子量は623.3、m/z=624.3(MH+)をプリカーサーイオンとするMS/MS分析により、
図3に示す通り、m/z=235.2,372.3,390.3等のプロダクトイオンが検出された。その結果、この化合物は、HPHPH(配列番号3)という構造をもつことがわかった。
こうして、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を有するペプチドの活性ピーク化合物2〜3の構造は、GPVR及びHPHPHであることが明らかとなった。
【0043】
<カゼインの酵素分解2>
市販のカゼイン(ニュージーランドデーリーボード製) 100gに水900gを加え、よく分散させ、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを7.0に調整し、カゼインを完全に溶解した。該カゼイン水溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、50℃に温度調整し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.0に調整した後、パンクレアチンを2g(天野エンザイム社製)、プロテアーゼAを4g(天野エンザイム社製)それぞれ添加して、加水分解反応を開始した。カゼインの分解率が55.0%に達した時点で、80℃で6分間加熱して酵素を失活させて酵素反応を停止し、10℃に冷却した。この加水分解液を珪藻土ろ過し、濃縮後凍結乾燥し、凍結乾燥品(カゼイン酵素分解物2)79gを得た。
得られた「カゼイン酵素分解物2」を、上述の<HPLCによるペプチドの分離>に従って、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を測定したところ第1回目のHPLC分離のリテンションタイム8.5分に溶出された画分を回収し、さらに第2回目のHPLC分離のリテンションタイム16.25分に溶出されたフラクションに強いジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性能が認められた。このフラクションにおける酵素活性の50%阻害濃度は、11μg/mlであった。
さらに、上述の強いジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性能が認められたフラクションから活性ピークの化合物4を得、これを同定したところ、この分子量は314.2、m/z=315.2(MH+)をプリカーサーイオンとするMS/MS分析により、
図4に示す通り、m/z=147.1,169.1,244.2等のプロダクトイオンが検出された。その結果、この化合物4は、トリペプチドAPK(配列番号4)という構造をもつことがわかった。なお、化合物4のアミノ酸残基は全てL−型であった。
こうして、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害能を有するペプチドの活性ピーク化合物4の構造は、APKであることが明らかとなった。
【0044】
製造例2:SPAQ(配列番号1)、GPVR(配列番号2)、HPHPH(配列番号3)、APK(配列番号4)の3〜5ペプチドの化学合成
ペプチドシンセサイザー(Model 433A型、アプライドバイオシステムズ社)を使用し、Fmoc−Val((株)ペプチド研究所))、Fmoc−Pro((株)ペプチド研究所)、Fmoc−Ala((株)ペプチド研究所)、Fmoc−Gln−Wang−PEG Resin(渡辺化学工業(株))を原料に用いて、固相合成法によりペプチドSPAQを合成した。
操作はアプライドバイオシステムズ社のマニュアルに従って行った後、脱保護した。このペプチドは、上記HPLC条件1で精製した。
得られたペプチドSPAQは、質量分析により分子量(M)は401.2と測定され、m/z=402.2(MH+)をプリカーサーイオンとするMS/MS分析により、精製フラクションでのスペクトルと同様のスペクトルが得られた(
図1参照)。
【0045】
また、上述と同様に固相合成法により、GPVR、HPHPH及びAPKを得、MS/MS分析により、それぞれの精製フラクションでのスペクトルと同様のスペクトルが得られた(
図2〜4参照)。
また、Val−Pro−Pro(VPP:配列番号5)、Ile−Pro−Pro(IPP:配列番号6)、Leu−Tyr(LY:配列番号7)を化学合成した。
【0046】
試験例1:各ペプチドのジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性確認試験
表1に示す、製造例2で得た各ペプチドのジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性確認試験を行い、その結果を表1に示した。
【0047】
【表1】
【0048】
テトラペプチドSPAQ、テトラペプチドGPVR、ペンタペプチドHPHPH及びトリペプチドAPKは、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用を有するものであった。 さらに、SPAQ(配列番号1)、GPVR(配列番号2)、HPHPH(配列番号3)及びAPK(配列番号4)を含むカゼインの酵素分解物は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用等を有する素材又は食材として、食品、医薬品等に利用可能であると考える。
これら3〜5ペプチドを含む市販品のカゼイン分解物を検索したところ、森永ミルクペプチドMKP(森永乳業社製)にSPAQ、GPVR、及びHPHPHが認められた。また、CU5000(森永乳業社製)にAPKが認められた。
森永ミルクペプチドMKP(森永乳業社製)のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害の50%阻止濃度は、356μg/mlであった。SPAQ、GPVR及びHPHPHは、森永ミルクペプチドMKP(森永乳業社製)のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用に寄与していると考えられる。
CU5000(森永乳業社製)のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害の50%阻止濃度は、84μg/mlであった。APKは、CU5000(森永乳業社製)のカゼイン分解物のジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害作用に寄与していると考えられる。
【0049】
<DPP−4阻害活性の測定方法>
ジペプチジルペプチダーゼ(DPP−4)阻害の測定は、カトウらの方法「Kato, T. et al. Biochem. Med. 19, p351, 1978」に準じて行った。
具体的には、酵素(DPP-4)は Recombinant Human DPPIV/CD26 (R&D Systems, Inc.)、基質はH-Gly-Pro-AMC (Biomol GmbH) を用いて、酵素反応を行なった。
96穴マイクロプレート(nunc 137101)の各ウエルに、水又は各濃度の試験物質の水溶液または、HPLCの分画フラクションを添加し、Tris−HCl(0.25M,pH8.0)を20μl添加して全量を80μlに調製した。撹拌の後プレートを37℃のインキュベーターで約10分程度温め、DPP−4溶液10μlと、基質溶液10μlを添加し(全液量100μl)、撹拌して反応を開始した。酵素の代わりに水を添加したウエルをコントロールとした。
酵素反応の測定はマイクロプレートリーダー(SH-9000,コロナ電気(株))を用い、庫内温度を37℃に保った条件下で測定した(5分間隔、ex360nm/em460nm)。
蛍光強度の経時的な増加が直線的な期間(反応開始から30分以内)の蛍光強度の値から、下式により阻害活性を算出した陽性対象として Vildagliptin (JS Research Chemicals Trading 社)を用いた。
【0050】
阻害率(%)=100%−[(Y−b)/(X−a)]×100%
X:水+酵素+基質
Y:試験物質+酵素+基質
a:水+基質
b:試験物質+基質
<IC
50の濃度の求め方>
試験物質の濃度を段階的に希釈し(10〜2000μg/ml)、その阻害率を求めた。その結果を基に試験物質の添加濃度の対数(log
10)と阻害率の間の関係式を求めた。そしてこの関係式から酵素の阻害率が50%になる濃度を逆算することで、IC
50を算出した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示の3〜5ペプチド(具体的には、SPAQ、GPVR、HPHPH、APK)は、カゼイン加水分解物から単離することが可能なものがあるので、安全性が高く、医薬品、食品、皮膚外用剤及び機能性食品等の幅広い分野に利用することが可能である。
【0052】
また、本技術は、以下の構成をとることも可能である。
〔1〕下記の(a)〜(d)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドから選ばれる1種又は2種以上のペプチドを有効成分として含有する、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、高血糖改善剤、抗糖尿病剤、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(SPAQ:配列番号1)
(b)Gly−Pro−Val−Arg(GPVR:配列番号2)
(c)His−Pro−His−Pro−His(HPHPH:配列番号3)
(d)Ala−Pro−Lys(APK:配列番号4)
【0053】
〔2〕ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、抗糖尿病剤、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤の製造のための、SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの使用。
〔3〕ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害用食品、血糖値上昇抑制用食品、抗糖尿病用食品、血管内皮障害抑制用食品又は血管改善用食品の製造のための、SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの使用。
【0054】
〔4〕SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害剤、血糖値上昇抑制剤、抗糖尿病剤、血管内皮障害抑制剤又は血管改善剤への使用。
〔5〕SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの、ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害用食品、血糖低下用食品、抗糖尿病用食品、血管内皮障害抑制用食品又は血管改善用食品への使用。
〔6〕ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病、血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療のための、SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチド。
〔7〕SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチドを有効成分として、ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病、血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療方法。
〔8〕ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病又は血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療における使用のための、SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチド。
〔9〕ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患、高血糖状態に起因する疾患、糖尿病又は血管内皮障害若しくは血管障害に起因する疾患の、予防、改善又は治療のための、SPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチドの使用。
前記ジペプチジルペプチダーゼ−IVに起因する疾患及び/又は症状が、高血糖症、糖尿病、糖尿病合併症、血管内皮障害及び血管障害から選ばれるものであるのが好適である。
【0055】
〔10〕下記の(a)〜(c)のいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド。
(a)Ser−Pro−Ala−Gln(SPAQ:配列番号1)
(b)Gly−Pro−Val−Arg(GPVR:配列番号2)
(c)His−Pro−His−Pro−His(HPHPH:配列番号3)
〔11〕カゼインを加水分解して得られるSPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチド及びその製造方法。
〔12〕カゼインを以下の工程にて分離精製して得られるSPAQ、GPVR、HPHPH及びAPKから選ばれる1種又は2種以上のペプチド及びその製造方法。
(a)加水分解酵素(好適にはエンドペプチダーゼ)にて行うこと。好適には10〜85℃、0.1〜48時間の条件下にて行う。
(b)その加水分解分解物を、クロマトグラフィーにて分離精製すること。好適にはイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー等から選ばれる1種又は2種のものを使用。