特許第5976141号(P5976141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976141
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】赤外線検知器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0264 20060101AFI20160809BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20160809BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20160809BHJP
   H01L 27/144 20060101ALI20160809BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20160809BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   H01L31/08 L
   H01L31/10 Z
   H01L29/06 601D
   H01L27/14 K
   B82Y30/00
   G01J1/02 B
   G01J1/02 Q
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-11379(P2015-11379)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-136585(P2016-136585A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2015年1月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、防衛省、試作研究請負契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】小山 正敏
(72)【発明者】
【氏名】小林 雅子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 僚
(72)【発明者】
【氏名】西野 弘師
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−023307(JP,A)
【文献】 特開2009−065142(JP,A)
【文献】 特開2009−065141(JP,A)
【文献】 M. NAGASHIMA et al.,Photodetection around 10μm wavelength using s-p transitions in InAs/AlAs/AlGaAs self-assembled quantum dots,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2010年 3月 3日,Vol.107,pp.054504-1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコンタクト層上方に複数の単位構造体を積層する工程と、
前記複数の単位構造体上方に第2のコンタクト層を形成する工程と、
を有し、
前記複数の単位構造体を積層する工程は、
第1の中間層を形成する工程と、
前記第1の中間層上に厚さが0.85nm以上の第1の障壁層を形成する工程と、
前記第1の障壁層上に平面形状が等方的な複数の量子ドットを485℃以上で形成する工程と、
前記第1の障壁層上に前記複数の量子ドットを覆う第2の障壁層を形成する工程と、
前記第2の障壁層上に第2の中間層を形成する工程と、
を繰り返す工程を有し、
前記第1の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、
前記第2の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、
前記量子ドットのキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層及び前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低いことを特徴とする赤外線検知器の製造方法。
【請求項2】
前記複数の量子ドットの長軸の寸法に対する短軸の寸法の比率の平均値が0.90以上であり、標準偏差が0.05以下であることを特徴とする請求項に記載の赤外線検知器の製造方法。
【請求項3】
前記第1の中間層としてAlGaAs層を形成し、
前記第1の障壁層としてAlAs層を形成し、
前記量子ドットとしてInAs量子ドットを形成することを特徴とする請求項又はに記載の赤外線検知器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検知器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットを含む量子ドット型半導体装置の一つに量子ドット型赤外線検出器(QDIP:quantum dot infrared photo-detector)がある。QDIPでは、赤外線が照射されると量子ドット内に閉じ込められたキャリアが励起されるため、赤外線が光電流として検出される。QDIPの構造については、種々の研究がなされている。例えば、所望の長波長特性の実現、暗電流の低減、及び十分な感度の確保を図ったQDIPが開示されている。
【0003】
しかしながら、従来のQDIPには偏光依存性がある。つまり、入射光が偏光している場合、偏光方向により感応波長が変化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−65141号公報
【特許文献2】特開平8−88438号公報
【特許文献3】特開2007−123731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、波長によらず安定した感度を得ることができる赤外線検知器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
赤外線検知器の製造方法の一態様では、第1のコンタクト層上方に複数の単位構造体を積層し、前記複数の単位構造体上方に第2のコンタクト層を形成する。前記複数の単位構造体を積層する際には、第1の中間層の形成と、前記第1の中間層上への厚さが0.85nm以上の第1の障壁層の形成と、前記第1の障壁層上への平面形状が等方的な複数の量子ドットの485℃以上での形成と、前記第1の障壁層上への前記複数の量子ドットを覆う第2の障壁層の形成と、前記第2の障壁層上への第2の中間層の形成と、を繰り返す。前記第1の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、前記第2の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高い。前記量子ドットのキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層及び前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低い。
【発明の効果】
【0008】
上記の赤外線検知器等によれば、適切な障壁層及び量子ドットが含まれているため、波長によらず安定した感度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来のQDIPにおける量子ドットの平面形状を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る赤外線検知器を示す図である。
図3】第1の実施形態における量子ドットの平面形状を示す図である。
図4】第2の実施形態に係る赤外線検知器を示す図である。
図5A】第2の実施形態に係る赤外線検知器の製造方法を工程順に示す断面図である。
図5B図5Aに引き続き、赤外線検知器の製造方法を工程順に示す断面図である。
図5C図5Bに引き続き、赤外線検知器の製造方法を工程順に示す断面図である。
図6】2方向間の寸法の比率の頻度を示すグラフである。
図7図6から換算した頻度の分布を示すグラフである。
図8】感応波長の測定結果を示すグラフである。
図9】第3の実施形態に係る赤外線撮像装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明者らは、従来のQDIPにおいて、偏光依存性が生じる原因について検討を行った。この結果、量子ドットの平面形状が楕円になっていることが明らかになった。例えば、図1(a)に示すように、表面のミラー指数が(100)のGaAs基板の上方に形成された量子ドット501の[01−1]方向の寸法が[011]方向の寸法よりも著しく長くなっていることが明らかになった。このような寸法の大きな相違があるため、図1(b)に示すように、キャリアの遷移元の基底準位502が共通でありながら、赤外線を吸収したキャリアの遷移先となる励起準位503、504が大きく相違しているのである。このように、[01−1]方向の励起準位503と基底準位502との間のエネルギ差が、[011]方向の励起準位504と基底準位502との間のエネルギ差から大きく相違し、これら2方向の間で吸収する赤外線の波長が相違している。また、励起準位503にキャリアが遷移するのは、[01−1]方向に偏光した赤外線を吸収した場合のみであり、励起準位504にキャリアが遷移するのは、[011]方向に偏光した赤外線を吸収した場合のみである。このような理由により偏光依存性が生じているのである。
【0011】
そして、このような偏光依存性のために、図1(c)に示すように、2つの感応波長が存在している。この結果、QDIPに入射する赤外線の偏光方向を変えると、その偏光方向によって感応する波長が変化する。つまり、赤外線を偏光しない場合には、赤外線の波長が2つの感応波長のいずれであってもQDIPは感応するが、赤外線が[011]方向に偏光している場合と、[01−1]方向に偏光している場合とでは、QDIPが感応する波長が相違する。
【0012】
更に、本願発明者らは、従来のQDIPにおいて、量子ドットの平面形状が楕円になっている原因についても検討を行った。この結果、量子ドットの成長中に、量子ドットが混晶化していることが明らかになった。従来のQDIPでは、量子ドットが薄い障壁層上に形成されている。これは、キャリアが容易に障壁層をトンネルできるようにするためである。ところが、障壁層が薄いために、ストランスキークラスタノフ成長様式の自己組織化による量子ドットの成長時に、障壁層の下にある中間層の材料が量子ドットに取り込まれ、混晶化しているのである。
【0013】
以下、実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態に係る赤外線検知器は、QDIPに関する。図2は、第1の実施形態に係る赤外線検知器を示す図である。図2(a)は断面構造を示し、図2(b)はキャリアに対するポテンシャルを示している。
【0015】
第1の実施形態に係る赤外線検知器には、図2(a)に示すように、コンタクト層101、コンタクト層101上方に積層された複数の単位構造体110、及び複数の単位構造体110上方のコンタクト層102が含まれている。単位構造体110には、中間層111、中間層111上の障壁層112、障壁層112上の複数の量子ドット113、障壁層112上で複数の量子ドット113を覆う障壁層114、及び障壁層114上の中間層115が含まれている。図2(b)に示すように、障壁層112のキャリア、ここでは電子に対するポテンシャルは、中間層111のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、障壁層114のキャリアに対するポテンシャルは、中間層115のキャリアに対するポテンシャルよりも高い。また、量子ドット113のキャリアに対するポテンシャルは、中間層111及び中間層115のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低い。従って、量子ドット113のキャリアに対するポテンシャルは、障壁層112及び障壁層114のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低い。キャリアに対するポテンシャルはバンドギャップを反映している。このため、障壁層112のバンドギャップは中間層111のバンドギャップよりも大きく、障壁層114のバンドギャップは中間層115のバンドギャップよりも大きい。また、量子ドット113のバンドギャップは、中間層111及び中間層115のバンドギャップの各々よりも小さく、障壁層112及び障壁層114のバンドギャップの各々よりも小さい。
【0016】
また、第1の実施形態では、障壁層112の厚さが0.85nm以上であり、図3(a)に示すように、複数の量子ドット113の[01−1]方向の寸法と[011]方向の寸法とが実質的に等しく、複数の量子ドット113の平面形状が等方的である。
【0017】
第1の実施形態では、量子ドット113内において、量子化により基底準位及び励起準位が形成される。また、障壁層112及び障壁層114により高い量子閉じ込め効果が得られる。更に、量子ドット113の[01−1]方向の寸法と[011]方向の寸法とが実質的に等しいため、図3(b)に示すように、[01−1]方向と[011]方向との間で、基底準位602及び励起準位603がいずれも実質的に等しい。このため、入射する赤外線がどの方向に偏光していたとしても、基底準位602にあるキャリアが、サブバンド間遷移で励起準位603に励起される。励起されたキャリアは障壁層をトンネル等により透過し量子ドット113外に移動して自由キャリアとなる。この結果、光電流が発生する。そして、本実施形態では、励起準位603が[01−1]方向と[011]方向との間で実質的に共通するので、図3(c)に示すように、安定した感応波長が得られる。つまり、偏光方向によらず、安定した感度を得ることができる。
【0018】
ここで、複数の量子ドットの平面形状が等方的であるとは、複数の量子ドットの長軸の寸法に対する短軸の寸法の比率の平均値が0.90以上であり、かつ標準偏差が0.05以下であることをいう。量子ドットの平面形状が円である場合、長軸の寸法に対する短軸の寸法の比率は1である。例えば、図1(a)に示す量子ドット501の[01−1]方向の寸法が20nm、[011]方向の寸法が17nmの場合、上記比率は0.85である。
【0019】
また、複数の量子ドット113の[01−1]方向の寸法と[011]方向の寸法とが実質的に等しく、複数の量子ドット113の平面形状が等方的であるのは、障壁層112の厚さが0.85nm以上であるからである。すなわち、障壁層112の厚さが0.85nm以上であるため、量子ドット113の成長時における障壁層112の下にある中間層111の材料の取り込みが抑制され、混晶化が抑制されているのである。
【0020】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る赤外線検知器は、QDIPに関する。図4は、第2の実施形態に係る赤外線検知器を示す図である。図4(a)は断面構造を示し、図4(b)はキャリアに対するポテンシャルを示している。
【0021】
第2の実施形態に係る赤外線検知器には、図4(a)に示すように、基板205上にバッファ層206が形成され、バッファ層206上にコンタクト層201が形成されている。この赤外線検知器には、更に、コンタクト層201上方に積層された複数、例えば10〜20の単位構造体210、及び複数の単位構造体210上方のコンタクト層202が含まれている。単位構造体210には、中間層211、中間層211上の障壁層212、障壁層212上の複数の量子ドット213、障壁層212上で複数の量子ドット213を覆う障壁層214、及び障壁層214上の中間層215が含まれている。また、コンタクト層201上に電極203が形成され、コンタクト層202上に電極204が形成されている。
【0022】
基板205は、例えば表面のミラー指数が(100)のGaAs基板である。バッファ層206は、例えば厚さが100nmのGaAs層である。コンタクト層201は、例えば厚さが250nmで電子濃度が1×1018cm-3のn型GaAs層である。中間層211及び215は、例えば厚さが25nmのAlGaAs層である。障壁層212及び214は、例えば厚さが0.85nmのAlAs層である。量子ドット213は、例えば直径が約10nm〜20nm、高さが約1nm〜2nmのInAs量子ドットである。量子ドット213の面密度は、例えば約1011個/cm2である。コンタクト層202は、例えば厚さが150nmで電子濃度が1×1018cm-3のn型GaAs層である。コンタクト層201及び202には、例えばSiがドーピングされている。また、電極203及び電極204は、例えば、AuGe膜、その上のNi膜、及びその上のAu膜を含む。
【0023】
図4(b)に示すように、障壁層212のキャリア、ここでは電子に対するポテンシャルは、中間層211のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、障壁層214のキャリアに対するポテンシャルは、中間層215のキャリアに対するポテンシャルよりも高い。また、量子ドット213のキャリアに対するポテンシャルは、中間層211及び中間層215のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低い。従って、量子ドット213のキャリアに対するポテンシャルは、障壁層212及び障壁層214のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低い。キャリアに対するポテンシャルはバンドギャップを反映している。このため、障壁層212のバンドギャップは中間層211のバンドギャップよりも大きく、障壁層214のバンドギャップは中間層215のバンドギャップよりも大きい。また、量子ドット213のバンドギャップは、中間層211及び中間層215のバンドギャップの各々よりも小さく、障壁層212及び障壁層214のバンドギャップの各々よりも小さい。
【0024】
また、第2の実施形態では、量子ドット213の[01−1]方向の寸法と[011]方向の寸法とが実質的に等しく、量子ドット213の平面形状が等方的である。これは、障壁層212の厚さが0.85nmであるからである。すなわち、障壁層212の厚さが0.85nmであるため、詳細は後述するが、量子ドット213の成長時における障壁層212の下にある中間層211の材料の取り込みが抑制され、混晶化が抑制されているのである。
【0025】
従って、第2の実施形態によっても、第1の実施形態と同様に、偏光方向によらず、安定した感度を得ることができる。
【0026】
次に、第2の実施形態に係る赤外線検知器の製造方法について説明する。図5A乃至図5Cは、第2の実施形態に係る赤外線検知器の製造方法を工程順に示す断面図である。
【0027】
先ず、図5A(a)に示すように、バッファ層206を基板205上に形成する。バッファ層206は、例えば分子線エピタキシー(MBE:molecular beam epitaxy)法により形成することができる。バッファ層206の形成前に基板205の表面の酸化膜を除去しておくことが好ましい。例えば、基板205をMBE装置の基板導入室の中に導入し、準備室において脱ガス処理し、超高真空に保持された成長室へ搬送し、As雰囲気下で加熱することにより、酸化膜を除去することができる。バッファ層206は、例えば基板205の温度を600℃として成長させることができる。バッファ層206の形成後、コンタクト層201をバッファ層206上に形成する。コンタクト層201も、例えば基板205の温度を600℃としてMBE法により形成することができる。
【0028】
次いで、図5A(b)に示すように、中間層211及び障壁層212をコンタクト層201上に形成する。中間層211及び障壁層212も、例えば基板205の温度を600℃としてMBE法により形成することができる。
【0029】
その後、図5A(c)に示すように、量子ドット213を障壁層212上に形成する。量子ドット213の形成では、例えば基板205の温度を485℃として、例えば厚さが2〜3原子層分に相当するInAsの原料をMBE装置内に供給する。つまり、量子ドット213も、例えばMBE法により形成することができる。InAsの原料の供給の初期段階では、InAsが平坦に2次元的に成長して濡れ層が形成される。InAsの原料の供給が続けられると、障壁層212のAlAsとInAsとの格子定数の差異から発生する歪みによってInAsが島状に3次元的に成長して量子ドット213が形成される。このとき、量子ドット213はその周辺から材料をかき集めるようにして成長する。障壁層212が薄い場合、障壁層212下の中間層211からGaが混入して量子ドット213の平面形状が等方的でなくなることがあるが、本実施形態では、障壁層212の厚さが0.85nmであるため、中間層211からのGaの混入が抑制され、平面形状が等方的な量子ドット213が得られる。
【0030】
続いて、図5A(d)に示すように、量子ドット213を覆う障壁層214を障壁層212上に形成する。障壁層214は、例えば基板205の温度を485℃としてMBE法により形成することができる。
【0031】
次いで、図5B(e)に示すように、中間層215を障壁層214上に形成する。中間層215は、例えば基板205の温度を600℃としてMBE法により形成することができる。このようにして、中間層211、障壁層212、量子ドット213、障壁層214、及び中間層215を含む単位構造体210が得られる。その後、他の単位構造体210に含まれる中間層211を中間層215上に形成する。この中間層211は中間層215と連続した一つの層として形成することができる。つまり、中間層211及び中間層215のいずれもが厚さが25nmのAlGaAs層の場合、50nmのAlGaAs層を中間層211及び中間層215の積層体として形成してもよい。
【0032】
このような中間層211、障壁層212、量子ドット213、障壁層214、及び中間層215の形成を、例えば総計で10回〜20回繰り返し、図5B(f)に示すように、10〜20の単位構造体210を形成する。次いで、コンタクト層202を単位構造体210上に形成する。コンタクト層202も、例えば基板205の温度を600℃としてMBE法により形成することができる。
【0033】
その後、図5C(g)に示すように、マスクを用いてコンタクト層202及び各単位構造体210を選択的にエッチングすることにより、コンタクト層201の一部を露出させる。
【0034】
続いて、図5C(h)に示すように、コンタクト層201上に電極203を形成し、コンタクト層202上に電極204を形成する。
【0035】
このようにして赤外線検知器を製造することができる。
【0036】
ここで、障壁層の厚さと量子ドットの形状異方性との関係に関し、本願発明者らが行った実験について説明する。この実験では、実施例として厚さが0.85nmのAlAs障壁層上に複数のInAs量子ドットを形成し、参考例として、厚さが0.28nmのAlAs障壁層上に複数のInAs量子ドットを形成した。そして、[01−1]方向の寸法に対する[011]方向の寸法の比率の平均値及び標準偏差を求めた。なお、実施例及び参考例のいずれにおいても、AlAs障壁層はAlGaAs中間層上に形成した。この結果を表1、図6及び図7に示す。図6は、比率の頻度を示し、図7は、図6から換算した頻度の分布を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1、図6及び図7に示すように、実施例では、AlAs障壁層の厚さが適切だったため、比率の平均値及び標準偏差が良好であったが、参考例では、比率が0.90未満のものが多数存在し、標準偏差が大きかった。
【0039】
また、これら実施例及び参考例における障壁層を用い、第2の実施形態に倣って赤外線検知器を製造し、その感応波長を測定したところ、図8に示す結果が得られた。つまり、実施例では量子ドット下の障壁層の厚さが0.85nmであったため単一の安定した感応波長が得られたのに対し、参考例では量子ドット下の障壁層の厚さが0.28nmであったため2つの感応波長が現れた。このことから、実施例では偏光依存性が抑制されたのに対し、参考例では偏光依存性が顕著に現れたことが明らかである。
【0040】
なお、障壁層212の厚さは0.85nm以上でもよい。障壁層212の厚さが0.85nm以上であれば中間層211からのGaの取り込みが効果的に抑制される。また、障壁層212の厚さはキャリアがトンネル可能な厚さであることが好ましい。
【0041】
量子ドット213を形成する際の基板205の温度は、例えば485℃以上であることが好ましい。障壁層214、並びに中間層211及び中間層215の材料は特に限定されない。例えば、xの値がyの値よりも大きければ、障壁層214の材料としてAlxGa1-xAs(0<x≦1)を用い、中間層211及び中間層215の材料としてAlyGa1-yAs(0≦y<1)を用いてもよい。コンタクト層201及びコンタクト層202に含有される不純物はSi以外のものであってもよく、キャリアが電子ではなく正孔であってもよい。QDIPの各層及び量子ドットの形成を有機金属気相成長(MOCVD:metal organic chemical vapor deposition)法等により行ってもよい。
【0042】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態は、赤外線検知器を含む赤外線撮像装置に関する。図9は、第3の実施形態に係る赤外線撮像装置を示す図である。
【0043】
第3の実施形態に係る赤外線撮像装置300には、図9(a)に示すように、複数の画素302が配列したQDIPアレイ301が含まれる。各画素302は、例えば第2の実施形態に係る赤外線検知器を備える。また、図9(b)に示すように、赤外線撮像装置300では、画素302毎にバンプ303が設けられ、各バンプ303が読み出し回路304に接続される。なお、画素302の数は特に限定されず、例えば数百×数百以上の画素302が配列していてもよい。この場合、赤外線撮像装置300を暗視装置及び熱源探知装置等として利用することができる。
【0044】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0045】
(付記1)
第1のコンタクト層と、
前記第1のコンタクト層上方に積層された複数の単位構造体と、
前記複数の単位構造体上方の第2のコンタクト層と、
を有し、
前記単位構造体は、
第1の中間層と、
前記第1の中間層上の第1の障壁層と、
前記第1の障壁層上の複数の量子ドットと、
前記第1の障壁層上で前記複数の量子ドットを覆う第2の障壁層と、
前記第2の障壁層上の第2の中間層と、
を有し、
前記第1の障壁層の厚さが0.85nm以上であり、
前記複数の量子ドットの平面形状が等方的であり、
前記第1の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、
前記第2の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、
前記量子ドットのキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層及び前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低いことを特徴とする赤外線検知器。
【0046】
(付記2)
前記複数の量子ドットの長軸の寸法に対する短軸の寸法の比率の平均値が0.90以上であり、標準偏差が0.05以下であることを特徴とする付記1に記載の赤外線検知器。
【0047】
(付記3)
前記第1の中間層がAlGaAs層であり、
前記第1の障壁層がAlAs層であり、
前記量子ドットがInAs量子ドットであることを特徴とする付記1又は2に記載の赤外線検知器。
【0048】
(付記4)
前記量子ドットが[011]方向の寸法と[01−1]方向の寸法とが実質的に等しい平面形状を有することを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の赤外線検知器。
【0049】
(付記5)
複数の画素を備え、
前記複数の画素の各々が付記1乃至4のいずれか1項に記載の赤外線検知器を有することを特徴とする赤外線撮像装置。
【0050】
(付記6)
第1のコンタクト層上方に複数の単位構造体を積層する工程と、
前記複数の単位構造体上方に第2のコンタクト層を形成する工程と、
を有し、
前記複数の単位構造体を積層する工程は、
第1の中間層を形成する工程と、
前記第1の中間層上に厚さが0.85nm以上の第1の障壁層を形成する工程と、
前記第1の障壁層上に平面形状が等方的な複数の量子ドットを形成する工程と、
前記第1の障壁層上に前記複数の量子ドットを覆う第2の障壁層を形成する工程と、
前記第2の障壁層上に第2の中間層を形成する工程と、
を繰り返す工程を有し、
前記第1の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、
前記第2の障壁層のキャリアに対するポテンシャルは、前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルよりも高く、
前記量子ドットのキャリアに対するポテンシャルは、前記第1の中間層及び前記第2の中間層のキャリアに対するポテンシャルの各々よりも低いことを特徴とする赤外線検知器の製造方法。
【0051】
(付記7)
前記複数の量子ドットの長軸の寸法に対する短軸の寸法の比率の平均値が0.90以上であり、標準偏差が0.05以下であることを特徴とする付記6に記載の赤外線検知器の製造方法。
【0052】
(付記8)
前記第1の中間層としてAlGaAs層を形成し、
前記第1の障壁層としてAlAs層を形成し、
前記量子ドットとしてInAs量子ドットを形成することを特徴とする付記6又は7に記載の赤外線検知器の製造方法。
【0053】
(付記9)
前記量子ドットが[011]方向の寸法と[01−1]方向の寸法とが実質的に等しい平面形状を有することを特徴とする付記6乃至8のいずれか1項に記載の赤外線検知器の製造方法。
【符号の説明】
【0054】
101、102、201、202:コンタクト層
110、210:単位構造体
111、115、211、215:中間層
112、114、212、214:障壁層
113、213:量子ドット
300:赤外線撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9