特許第5976171号(P5976171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976171
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】有機EL用被膜付きステンレス箔
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   C23C26/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-130482(P2015-130482)
(22)【出願日】2015年6月29日
(62)【分割の表示】特願2011-227097(P2011-227097)の分割
【原出願日】2011年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-858(P2016-858A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】山田 紀子
(72)【発明者】
【氏名】小倉 豊史
(72)【発明者】
【氏名】山口 左和子
(72)【発明者】
【氏名】能勢 幸一
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−082899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/08,18/12,26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材であるステンレス箔に第1層、第2層が順に形成された絶縁被膜を有する有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔であって、
前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、金属酸化物被膜であり、
前記第2層が(SiO2y−(C65SiO2/3(1-y)(式中、0≦y<1.0)で表わされるフェニル基含有シリカ系被膜であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔のAFMを用いた15μm視野で測定した表面粗度Raが5nm以下であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔の3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10-8A/cm2未満であることを特徴とする有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【請求項2】
前記金属酸化物被膜がAl23、SiO2、ZrO2、TiO2、Nb25、MgO、V25、Ta25、Cr23のいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【請求項3】
前記金属酸化物被膜の厚さが、0.1〜0.4μmであることを特徴とする請求項1又2に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【請求項4】
前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する350℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【請求項5】
85℃85%RHの恒温恒湿槽に100時間被膜付きステンレス箔を放置した後のリーク電流の増加が放置前に比べて5%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜を有するステンレス箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被膜を有したステンレス箔は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、有機EL照明、太陽電池のデバイス用基板などへの応用が期待されている。有機EL照明基板ではガスバリア性並びに平滑性・絶縁性が重要な特性になる。
【0003】
有機EL素子のガスバリア性については、特にフレキシブル化を狙って樹脂基板を用いた時に問題になっている。樹脂基板の場合はそれを透過する水蒸気などのガス成分が問題になるがステンレス箔をフレキシブル基板として用いる場合は、ステンレスをガスが透過できないため、重要な特性は平滑性と絶縁性に絞られる。
【0004】
ステンレス箔の場合、有機EL素子を形成する各層は非常に薄いため、ステンレス箔の平滑化のために被膜を必要とする。有機ELの各層が途切れることなく成膜できるようにするには、ガラス基板並みの平滑性が求められる。AFMを用いて15μm視野で測定した場合、表面粗度Raが5nm以下であることが求められる。さらに、ステンレス箔上に存在する突起や付着異物による凹凸は、有機EL素子のダークスポットなどの欠陥の原因となるため凹凸をなくすことが重要である。絶縁性については、ステンレス箔上に複数の素子を形成したとき、それらを独立に制御できるように短絡箇所がないことが必要である。
【0005】
特許文献1(本件出願時未公開)には、平滑性と絶縁性のバランスを兼ね備えた被膜としてフェニル系の被膜が記載されている。この被膜はAFMレベルでのミクロな平滑性には優れているが、被膜の平滑性と絶縁性はステンレス箔のマクロな表面状態の影響も受ける。ステンレス箔の表面には圧延スジや疵に起因する突起、圧延工程で巻きこんだ変質油に起因する付着異物などが存在している。これらの高さが被膜の膜厚に比べて十分に低い場合は健全な被膜が形成されるが、1.0μm〜3.0μmを超えるような突起や付着異物高さがある場合には、被膜にクラックが発生したり、成膜時にハジキやピンホールが発生したりして、短絡が生じることが多い。このような高さの高い突起や異物の存在確率はステンレス箔の製造プロセスに依存するが一般的に言って10cm角内で1個以下にすることは非常に困難であり、3cm角内に10個以上存在しても珍しいことではない。このようなステンレス箔上の突起や付着異物のために、特許文献1では被膜にクラックが発生し、有機EL素子の発光面積内でのダークスポットなどの発生原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2010−293916号明細書(特開2012−140528号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、基板内に複数の有機EL発光素子を形成した場合にそれぞれの素子を独立して制御することができ、かつ、ダークスポットなどの発生がない良好な素子を形成することのできる被膜付きステンレス箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような特性を満足する被膜として、発明者らはステンレス箔を第1層と第2層で被覆し、第1層、第2層の順に被膜を形成するにあたって、図1に示すように、第2層を平滑性と絶縁性に優れたフェニル基含有シリカ膜の層とし、第2層形成時にステンレス箔表面の疵や異物によるクラック発生を抑制するためには、ステンレス表面の大きな突起や異物などの影響を緩和する目的で、第2層の成膜工程中に熱劣化しない耐熱性の高い第1層を設けることが有効であることを見出した。
【0009】
本発明はこれらの発見に基づいて完成されたものであって、その要旨は以下の通りである。
【0010】
(1)基材であるステンレス箔に第1層、第2層が順に形成された絶縁被膜を有する有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔であって、
前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高く、金属酸化物被膜であり
前記第2層が(SiO2y−(C65SiO2/3(1-y)(式中、0≦y<1.0)で表わされるフェニル基含有シリカ系被膜であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔のAFMを用いた15μm視野で測定した表面粗度Raが5nm以下であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔の3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10-8A/cm2未満であることを特徴とする有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【0011】
(削除)
【0012】
(削除)
【0013】
(削除)
【0014】
(削除)
【0015】
)前記金属酸化物がAl23、SiO2、ZrO2、TiO2、Nb25、MgO、V25、Ta25、Cr23のいずいれか一つであることを特徴とする()に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【0016】
)前記金属酸化物の厚さが、0.1〜0.4μmであることを特徴とする()又は()に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【0017】
)前記絶縁被膜の100℃加熱時に対する350℃加熱時における重量減少率が1.0%未満であることを特徴とする(1)〜()に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【0018】
)85℃85%RHの恒温恒湿槽に100時間被膜付きステンレス箔を放置した後のリーク電流の増加が放置前に比べて5%以下であることを特徴とする(1)〜()に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔。
【発明の効果】
【0019】
本発明の被膜を有するステンレス箔は、被膜のリーク電流が上部電極3×3cmにおいて100V印加時に10-8A/cm2以下であり、AFMを用いた15μm角視野での表面粗さRaが5nm以下であり、かつ、85℃85%RHの恒温恒湿槽に100時間被膜付きステンレス箔を放置した後のリーク電流の増加が放置前に比べて5%以下であるという顕著な効果を奏する。
【0020】
さらに、被膜を有するステンレス箔に複数の有機EL発光素子を形成した場合にそれぞれの素子を独立して制御することができ、かつ、ダークスポットなどの発生がない良好な有機EL素子を形成することのできるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の有機EL素子用被膜付きステンレス箔の基本的な構成を示す図である。
図2第1層が金属酸化物被膜であり、第2層がフェニル基含有シリカ系被膜である本発明の有機EL素子用被膜付きステンレス箔である。
図3】(a)突起を有するステンレス箔を表わした図である。(b)(a)に示すステンレス箔の上に金属酸化物被膜を形成したステンレス箔である。(c)(b)のステンレス箔の上にフェニル基含有シリカ系被膜を形成したステンレス箔である。
図4】有機ダイオードがガスの影響をうけることを説明する図である。
図5】リーク電流、印加電圧の計測方法を説明する図である。
図6】有機ELの構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の基本形態]
本発明の基本形態は、図1に示すように、基材であるステンレス箔1に第1層21、第2層22の順に形成される2つの層からなる絶縁被膜2を有し、前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高いことを特徴とする被膜付きステンレス箔であって、
前記第2層が(SiO2y−(C65SiO2/3(1-y)(式中、0≦y<1.0)で表わされるフェニル基含有シリカ系被膜であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔のAFMを用いた15μm視野で測定した表面粗度Raが5μm以下であり、
前記絶縁膜付きステンレス箔の3×3cmの面積に100Vの電圧を印加した時のリーク電流が10-8A/cm2未満であることを特徴とする有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔である。
【0023】
基板内に複数の有機EL発光素子を形成した場合にそれぞれの素子を独立して制御することができ、かつ、ダークスポットなどの発生がない良好な有機EL素子を形成することができる被膜付きステンレス箔を得るには、ステンレス箔基板そのものの凹凸を被膜によって完全に被覆することができればよく、上部電極として3cm角の電極を形成したときのリーク電流が100V印加時に10-8A/cm2以下であり、かつ、AFMを用いて15μm視野内で測定した表面粗度Raが5nm以下であることがその指標となり得ることを見出した。
【0024】
3cm角の電極を形成したときのリーク電流により、被膜の絶縁性とピンホールやクラックなどのマクロな被膜欠陥の有無がわかり、AFMによる表面粗度からミクロな平滑性がわかる。リーク電流の計測方法は図5に示した。
【0025】
また、図4のように被膜の横方向からのガス(特に水蒸気)拡散がないことも重要であり、その指標としては被膜を85℃85%RHの恒温恒湿槽に一定時間入れ、絶縁抵抗の変化がないことを確認すればよいことを見出した。
【0026】
ステンレス箔表面には圧延に伴う疵・スパイクや工程中で生じると思われる付着異物があり、被膜欠陥の誘因となっている。大面積になると被膜欠陥を含む確率が高くなるので、単位面積当たりのリーク電流が増加し、短絡が起こりやすい。また、印加電圧が高くなると被膜の薄い部分に過度の電圧がかかり短絡しやすくなる。
【0027】
しかしながら、第2層のフェニル基含有シリカ系被膜を形成する前に、下地層を薄く形成しておくと、図2及び3に示すような形でステンレス箔上の突起などに由来するクラックが抑制される。
【0028】
(ステンレス箔)
ステンレス箔としては、オーステナイト系SUS304、SUS316、フェライト系SUS430、SUS444などを用いることができる。これらの入手可能なステンレス箔は圧延して製造されるので、箔上に突起や付着異物が存在する。
【0029】
金属酸化物被膜をゾルゲル法やスパッタ法で成膜する場合は、金属酸化物被膜との熱膨張係数差が小さい方がよいのでフェライト系の方が望ましい。
【0030】
(削除)
【0031】
(削除)
【0032】
(削除)
【0033】
(削除)
【0034】
(削除)
【0035】
(フェニル基含有シリカ系被膜)
第2層のフェニル基含有シリカ膜は(SiO2y−(C65SiO2/3(1-y)(式中、0≦y<1.0)であらわすことができる。
yは小さい方が耐湿性がよい傾向があり、恒温恒湿槽にいれた後の絶縁抵抗の変化がより小さい。0.2≦y≦0.8が好ましく、0.4≦y≦0.6がさらに好ましい。
【0036】
フェニル基含有シリカ膜はゾルゲル法により作製することができる。
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランから選ばれる少なくとも1種以上のシランと、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシチタン、フェニルトリブトキシシランから選ばれる少なくとも1種以上のシランを有機溶媒中で混合し加水分解する。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、MEK、MIBKなどをそれぞれ単独、或いは混合して用いることができる。加水分解に使う水は全アルコキシ基に対して0.3モル〜3モル倍であることが望ましい。加水分解時には、シリコン以外の金属アルコキシド触媒、有機酸、無機酸を用いてもよい。作製した塗布液を第1層の金属酸化物で被覆されたステンレス箔上に塗布するには、スピンコート、ディップコート、ロールコートなどの方法がある。塗布後、80〜150℃程度で0.5〜5分乾燥後、350〜450℃で窒素中0.5〜60分熱処理をすることでフェニル基含有シリカ系被膜を得ることができる。
【0037】
フェニル基含有シリカ系被膜の膜厚は、本発明の有機ELに求められる特性を満たせばよいが、1〜6μmであることが好ましく、さらに1〜5μm、特に2〜4μm好ましい。フェニル基含有シリカ系被膜の膜厚が小さすぎると十分な低リーク電流と平滑性が得られないおそれがあり、大きすぎるとクラックが発生してしまう可能性がある
【0038】
本発明の実施形態]
本発明の実施形態は、図2に示すように、基材であるステンレス箔に第1層、第2層の順に形成された絶縁被膜を有し、前記第1層は前記第2層よりも耐熱性が高い被膜付きステンレス箔であって、前記第1層が金属酸化物被膜31であり、前記第2層がフェニル基含有シリカ系被膜33であることを特徴とする有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔である。
【0039】
下地膜はフェニル基含有シリカ系被膜の熱処理工程中に、脱ガスや熱分解を起こすことがない被膜であればよく、金属酸化物被膜を用いることもできる。
【0040】
(金属酸化物系被膜)
金属酸化物系被膜としては、Al23、SiO2、ZrO2、TiO2、Nb25、MgO、V25、Ta25、Cr23などが挙げられる。金属酸化物は金属であるステンレス箔に比べると熱膨張係数が小さく、例えばアルミナでは7.5×10-6/℃、シリカでは0.5×10-6/℃程度である。このため、金属酸化物被膜をクラックなしに形成することができる膜厚は極めて薄く、0.1〜0.2μm程度である。金属酸化物被膜の膜厚は厚いほどよいが、厚すぎると金属酸化物被膜自体にクラックが多数発生して、膜剥がれが起きるので一般的には0.1〜0.2μm程度にすることが望ましい。金属酸化物被膜の中では熱膨張係数が10.5×10-6/℃とフェライト系ステンレス鋼に近く靭性が高いジルコニアがクラックなしで0.3〜0.4μmの膜厚で被膜形成しやすいので特に望ましい。
【0041】
金属酸化物被膜の形成方法としては、ゾルゲル法、スパッタ法などが挙げられる。例えばゾルゲル法の場合、ジルコニア膜はジルコニウムアルコキシドを原料とし、有機溶媒中で加水分解したゾルをステンレス鋼の上に塗布する。加水分解には塩酸・酢酸などの酸触媒を用いてもよい。塗布方法はスピンコート、ディップコート、ロールコートなどが挙げられる。塗布はステンレス箔の両面に行っても片面のみでもよい。塗布後、70〜150℃で乾燥し、300〜600℃で熱処理を行う。乾燥・熱処理の雰囲気は大気でも不活性ガス雰囲気でもよい。
【0042】
ジルコニウムアルコキシドとしてはジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシドなどが挙げられる。また、ジルコニウムアルコキシドを加水分解する際に、イットリウム、マグネシウムまたはカルシウムの金属アルコキシドを同時に加水分解してそれぞれZrO2−Y2O3、ZrO2−MgO、またはZrO2−CaOの固溶体を作製してもよい。このとき、Zr+Yに対するYのモル比、Zr+Mgに対するMgのモル比、Zr+Caに対するCaのモル比はいずれも1〜20%であることが望ましい。Y、Mg、Caの添加により、ジルコニアの相転移に伴う体積変化が抑制されるため厚膜を形成してもクラックが入りにくくなることが期待できるからである。
【0043】
アルミナ膜、チタニア膜、シリカ膜などについても同様に、それぞれアルミニウムアルコキシド、チタニウムアルコキシド、シリコンアルコキシドを用いて作製することができる。スパッタ法の場合は、成膜したい金属酸化物のターゲットを用いて金属酸化物被膜を作製することができる。
【0044】
金属酸化物被膜については、ステンレス鋼を高温で熱酸化させて表面に金属酸化物の被膜を形成することもできる。高温熱酸化で金属酸化物の被膜を形成する場合は、ステンレス鋼中にAlやSiを比較的高濃度で含んでいる材料を用いると表面にアルミナやシリカの被膜ができやすい。具体的には、アルミナ被膜を形成するにはアルミニウムを鋼中に5%程度含んでいるYUS205M1、シリカ被膜を形成するにはシリコンを鋼中に2.5%程度含んでいるNSSC FH11を用いることができる。熱酸化は大気中でも不活性ガス雰囲気中でもよいが、絶縁性の低い酸化鉄の生成を抑制するには酸素を含まない不活性ガス雰囲気中の方が望ましいく、不活性ガスは水中でバブリングするなどして露点を挙げてもよい。
【0045】
熱酸化温度は500℃以上が望ましい。予め熱酸化したステンレス鋼の上に第2層を成膜してもよいが、YUS205M1の上にフェニル基含有シリカ系被膜を直接塗布し、フェニル系シリカ膜の熱処理中に、フェニル系シリカ膜の脱水縮合反応を進ませつつ、ステンレス鋼YUS205M1からはアルミナを表層に析出させるというように第1層の金属酸化物被膜と第2層のフェニル系シリカ膜を同時に形成してもよい。
【0046】
(有機EL用絶縁被膜の特性)
本発明の有機EL用絶縁被膜は、特に平滑性、絶縁性、ガスバリア性、耐熱性に優れる。
【0047】
平滑性は、AFMを用いて15μm視野で測定した表面粗度Raが5nm以下であることができ、好ましくは3nm以下、さらには2nm以下であり、特に1nm以下も可能である。
【0048】
絶縁性は、第1層及び第2層を形成した膜付きステンレス箔に3×3cmの金製上部電極を形成し100Vを印加して測定したリーク電流が、10-8A/cm2以下であることができ、好ましくは5×10-9A/cm2以下であり、さらには2×10-9A/cm2以下、特に10-9A/cm2以下も可能である。
【0049】
好ましくは、10×10cmの金製上部電極を形成し100Vを印加して測定したリーク電流が、10-8A/cm2以下であることができ、好ましくは5×10-9A/cm2以下であることも可能である。
【0050】
ガスバリア性は、85℃85%RHの恒温恒湿槽に100時間被膜付きステンレス箔を放置した後のリーク電流の放置前のリーク電流に比べた増加率が5%以下であることができ、好ましくは3%以下、さらには2%以下であることも可能である。
【0051】
耐熱性は、350℃における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値が1%以下であり、少なくとも350℃の耐熱性があることができる。好ましくは400℃以上の耐熱性も可能である。
【0052】
(有機EL)
本発明の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔の上に形成される有機ELの構造及び製造方法は公知である。図5に有機ELの構造の例を示す。図において、41はステンレス箔、42は絶縁被膜、43はパッシベーション膜、44は有機LED、45はパッシベーション膜、46は接着剤、47はガラスである。
【実施例】
【0053】
(リーク電流の測定)
リーク電流は第1層及び第2層を形成した膜付きステンレス箔に3×3cmの金製上部電極を形成し100Vを印加して測定した。図4の測定装置の例を示すが、1はステンレス箔、2は絶縁被膜、3は上部電極、4は電圧計、5は電流計、6は電源である。
【0054】
第1層及び第2層を形成した膜付きステンレス箔に10×10cmの金製上部電極を形成し100Vを印加して測定した。
【0055】
(耐熱性の評価)
熱重量分析を用い、所定の加熱温度における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値が1%以下である場合に当該温度において耐熱性があると評価する。 350℃における被膜の重量減少率から100℃における重量減少率を引いた値が1%以下である場合に少なくとも350℃の耐熱性があると評価した。
【0056】
(表面平滑性)
AFMを用いて15μm視野で表面粗度Ra(平均粗さ)を測定して表面平滑性の指標とした。
【0057】
(ガスバリア性:リーク電流増加率)
ガスバリア性、特に水蒸気バリア性の指標として、85℃85%RHの恒温恒湿槽に100時間被膜付きステンレス箔を放置した後のリーク電流の放置前のリーク電流に比べた増加率を測定した。
【0058】
(ステンレス箔)
SUS430:Crを16〜18%含む鉄からなるステンレス鋼
YUS205M1:アルミニウムをステンレス鋼中に5%程度含んでいる
NSSCFH11:シリコンをステンレス鋼中に2.5%程度含んでいる
NSSC190SB:NSSC190は新日鉄住金ステンレスの独自鋼種でSUS444とほぼ同じである。SBはスーパーブライト仕上げで新日鉄マテリアルズの独自仕上げを表わす。
【0059】
(本発明例1〜12
本発明例1〜で用いたステンレス箔は、NSSC190SBであった。
本発明例の第1層の形成方法について述べる。
本発明例1〜3はブタノール10モル中でジルコニウムブトキシド1モルをアセト酢酸エチル2モルと混ぜ、2モルの水で加水分解させたゾルを1000rpmでスピンコート後、大気中550℃で30分焼成したゾルゲル法によるジルコニア膜を用いた。得られた膜厚は100nmであった。
【0060】
本発明例4はエタノール15モル中でテトラエトキシシラン1モルを塩酸触媒下で3モルの水で加水分解したゾルを1500rpmでスピンコート後、大気中600℃で30分焼成したゾルゲル法によるシリカ膜を用いた。得られた膜厚は70nmであった。
【0061】
本発明例5〜7はマグネトロンスパッタにより、それぞれアルミナ、シリカ、ジルコニアをターゲットとして100nm、100nm、200nmの膜を形成した。
【0062】
本発明例8はYUS205M1を室温でバブリングした窒素ガスを流しながら700℃で5時間熱処理した。
【0063】
本発明例9はNSSC FH11を室温でバブリングした窒素ガスを流しながら700℃で5時間熱処理した。
【0064】
本発明例10はSUS430を室温でバブリングした窒素ガスを流しながら700℃で5時間熱処理した。
【0065】
本発明例11と12はそれぞれYUS205M1,NSSC FH11を大気中で700℃で5時間の熱処理をした。
【0066】
(削除)
【0067】
(削除)
【0068】
本発明例の第2層はフェニル基含有シリカ膜(SiO2y−(C65SiO2/3(1-y)においてy=0、0.5、0.9の3種類の膜を作製した。
いずれもエタノール溶媒中で、テトラメトキシシランyモルに対してフェニルトリエトキシシランを1−yモルの比で混合し、酢酸触媒下で全アルコキシ基に対して等モルの水で加水分解してゾルを作製した。
【0069】
スピンコーターで回転数を変えながらクラックが発生しないで成膜できる限界膜厚を調べ、それぞれ3.5、2.0、1.1μmで成膜した。
【0070】
塗布後150℃で1分乾燥し、窒素中420℃で10分の熱処理を行った。
リーク電流は第2層まで形成した膜付きステンレス箔に3×3cmの上部電極を形成し100Vを印加して測定した。絶縁膜付きステンレス箔に10×10cmの金製上部電極を形成し100Vを印加したリーク電流も測定した。表面粗さRaはAFMを用いて15μm視野角で測定した。リーク電流増加率は、85℃85%RHの恒温恒湿槽に100時間被膜付きステンレス箔を放置した後のリーク電流の増加が放置前に比べて何%増加したかを求めた。
【0071】
絶縁膜付きステンレス箔に10×10cmの金製上部電極を形成し100Vを印加したリーク電流においても、絶縁膜付きステンレス箔に3×3cmの金製上部電極を形成し100Vを印加したリーク電流と同様の値を得ることができることを確認した。
【0072】
本発明例1〜12について評価したところ、リーク電流が有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔として適切であり、○とした。
【0073】
全ての有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔の耐熱性試験において350℃以上の耐熱性が示された。
【0074】
本発明例1〜12について評価した結果を表1に表わした。
【表1】
(比較例)
比較例については表2に表わした。
比較例1〜4は第2層のみを形成した場合で、ステンレス箔上の突起によるクラック発生のために短絡した。
【0075】
比較例5はエタノール中で平均分子量3000のポリジメチルシロキサン(PDMS)0.25モルを1モルのチタニウムエトキシドと2モルのアセト酢酸エチルと混ぜ合わせたところに、2モルの水を加えて作製したゾルを1000rpmでスピンコートし、350℃窒素中で30分熱処理をして作製した。
【0076】
ポリジメチルシロキサン(PDMS)系被膜は300〜400℃で熱分解するため、第2層の熱処理中に被膜が剥離した。
【0077】
比較例1〜5について評価したところ、リーク電流が有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔として不適切であり、×とした。
【0078】
比較例6〜7はフェニル基含有シリカ系被膜を重ね塗りしたもので、第1層の膜厚によらず2層目形成時にクラックが発生した。第1層に含まれているフェニル基が第2層の成膜熱処理中に一部熱分解したためと推定される。
【0079】
比較例8〜9では、第1層の厚さを大きくした場合に、第2層としてフェニル基含有シリカ系被膜を組み合わせても特性が落ちることが示されている。
【表2】
【符号の説明】
【0080】
1 ステンレス箔
2 被膜
3 電極
4 電圧計
5 電流計
11 有機ダイオード
12 封止
13 ガス
21 第1層被膜
22 第2層被膜
31 金属酸化物被膜
33 フェニル基含有シリカ系被膜
41 ステンレス箔
42 絶縁被膜
43 パッシベーション膜
44 有機LED
45 パッシベーション膜
46 接着剤
47 ガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6