特許第5976275号(P5976275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976275カスタマイズされたZレンズデザインプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976275
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】カスタマイズされたZレンズデザインプログラム
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20160809BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   G02C7/02
   G02C13/00
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-539712(P2010-539712)
(86)(22)【出願日】2008年12月16日
(65)【公表番号】特表2011-508266(P2011-508266A)
(43)【公表日】2011年3月10日
(86)【国際出願番号】US2008087035
(87)【国際公開番号】WO2009085774
(87)【国際公開日】20090709
【審査請求日】2011年11月2日
【審判番号】不服2014-1326(P2014-1326/J1)
【審判請求日】2014年1月24日
(31)【優先権主張番号】11/963,609
(32)【優先日】2007年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504159981
【氏名又は名称】オフソニックス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ダブリュー・ドレハー
(72)【発明者】
【氏名】ビル・フート
(72)【発明者】
【氏名】デイヴ・サンドラー
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス・ウォーデン
【合議体】
【審判長】 藤原 敬士
【審判官】 鉄 豊郎
【審判官】 清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−107342(JP,A)
【文献】 特表2001−524662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/02
G02C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ波面を決定する方法であって、
患者の眼の波面を測定して、瞳孔収差
【数1】
を生成する段階であって、ここで、瞳孔収差
【数2】
は、レンズ及び瞳孔を表示するグリッド上に表示され、瞳孔は前記グリッド内のサブグリッドとして表示され、n、mは行列要素の添え字であり、Lは瞳孔及び収差の行列の一辺の画素の総数である、段階と、
複数の矯正された波面収差
【数3】
を生成する段階であって、ここで、i、jはi番目の横方向の位置、j番目の縦方向の位置の添え字であり、i番目及びj番目の各矯正された波面収差
【数4】
は、
【数5】
と表され、ここで、
【数6】
は、(n+i)番目の横方向の位置及び(m+j)番目の縦方向の位置におけるレンズ光路遅延であり、瞳孔収差
【数7】
及びレンズ光路遅延
【数8】
はグリッド上に表示され、iは該グリッド上のi番目の横方向の位置、jはj番目の縦方向の位置を表す、段階と、
複数の矯正された波面収差
【数9】
の関数を生成する段階と、
複数の矯正された波面収差
【数10】
の関数を最適化することによって、レンズ波面を決定する段階と、を備え、
前記複数の矯正された波面収差
【数11】
の関数を生成する段階が、前記グリッド上のi番目の横方向の位置及び前記グリッド上のj番目の縦方向の位置の各組み合わせに対して、前記レンズ波面の特定の点に中心のある瞳孔に対する
【数12】
の直交成分を計算する段階を備え、
前記
【数13】
の直交成分を計算する段階が、
【数14】
と、前記グリッド上の対象の点に中心のある直交関数の組との内積を計算する段階を備え、
前記直交関数の組が、ゼルニケ多項式の近似式として表され、
前記ゼルニケ多項式のゼルニケ項の成分が重み付けされる、方法。
【請求項2】
前記グリッドが8×8のグリッドであり、前記サブグリッドが、前記8×8のグリッド内の3×3のサブグリッドである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
眼用レンズを、視力の問題を矯正するために多くの人が着用する。視力の問題は、眼に入射する光線の収差によって生じる。収差には、近視、遠視、乱視等の低次の収差と、球面収差、コマ収差、三葉状(トレフォイル,trefoil)収差、色収差等の高次の収差が含まれる。光学系内に収差によって導入される歪みは、そうした系のイメージ平面上のイメージの質を顕著に劣化させるので、こうした収差の減少には利点がある。
【0002】
眼用レンズは典型的に、レンズブランクに対する処方箋を書いて、作製される。これは、レンズブランク表面のトポグラフィーを変更することによって得られる。
【0003】
最近、患者の測定された波面情報を用いて低次のレンズを書く方法が注目を集めている。現状では、いくつかの方法を利用することができて、高次から最適な低次の屈折が決定されて、ガウスの最小二乗フィット、点広がり最適化、ニューラルネットワーク分析が挙げられる。これらの方法の一部は、高次の値から最良の低次の処方箋を導出するのに採用されるだけではなく、患者の測定された波面に基づいて眼鏡レンズ全体にわたる最適な波面を“フィッティングする”のにも用いられ得る。
【0004】
これらのフィッティング方法を一つ以上使用すると、中心部分において従来の主屈折よりも優れた屈折がもたらされるが、軸外凝視角を考慮しなければならない。特に、従来のレンズ製造の考慮すべき不利な点の一つは、多くの人が中心領域外を中心を外して見る際に経験する歪み、一般的に“めまい”と称されるである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6786603号明細書
【特許文献2】米国特許第6511180号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、患者が中心領域外を中心を外して見る際の歪みを減じるように、患者の測定された波面に基づいて患者の眼鏡に対する波面を決定する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、患者の測定された波面からレンズに対する波面を決定する方法を提供する。その波面は、患者の完全な測定された波面を考慮して、レンズ全体にわたる最適な矯正を備えた眼鏡レンズを製造するのに使用可能である。特定の実施形態は、頂点間距離、SEG高さ、広角傾斜、使用条件等の追加因子も一つ以上考慮することができる。
【0008】
レンズ波面は、矯正された波面を最適化することによって得ることができ、その矯正された波面は、患者の測定された波面とレンズ波面との効果の組み合わせとなる。本発明の一実施形態では、矯正された波面の最適化は、測定された波面及びレンズ波面をグリッド上に表示することを含む。一実施形態では、グリッドは平面内に存在する。最適化中に、グリッド上の点の測定された波面の表示用にグリッドのサブセットを使用することができて、グリッド上のその点の矯正された波面に寄与する測定された波面の部分を考慮することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態による眼鏡レンズを製造する方法のステップを示す。
図2】本発明の一実施形態によるフローチャートを示す。
図3】特定のシフト(凝視)におけるイメージとして眼鏡及び瞳孔のサンプルの上面図を示す。
図4】眼鏡及び眼の側面図を対応する破線と共に左側に示し、曲線の矢印と回転した眼とその曲線の矢印が指し示す対応する破線とによって示される凝視の回転、及び、直線の矢印とシフトした眼とその直線の矢印が指し示す対応する破線とによって示される凝視のシフトの側面図を右側に示す。
図5】i番目のシフトとしてi番目の方向を表す近似の概略図を示す。
図6】眼鏡レンズ応用の軸外対横方向矯正の対比を示す。
図7】コンタクトレンズ応用の横方向矯正の概略図を示す。
図8】単焦点高次領域及び移行領域を備えたレンズブランクの概略図を示す。
図9】レンズイメージを示す。
図10】トレフォイル収差の例を示す。
図11】コマ収差の例を示す。
図12】球面収差の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、患者の測定された波面からレンズに対する波面を決定する方法を提供する。その波面は、患者の完全に測定された波面を考慮してレンズ全体にわたる最適な矯正を備えた眼鏡レンズを製造するのに用いることができる。特定の実施形態では、頂点間距離、フィッティング高さ、広角(パントスコピック)傾斜、使用条件等の追加因子を一つ以上考慮することもできる。
【0011】
レンズ波面は、矯正された波面を最適化することによって得られ、その矯正された波面は患者の測定された波面とレンズの波面との効果の組み合わせとなる。矯正された波面の最適化は、測定された波面及びレンズ波面をグリッド上に表示することを含むことができる。一実施形態では、グリッドは平面上に存在する。最適化中においては、グリッドのサブセットを、グリッド上の点における測定された波面の表示用に使用して、そのグリッド上の点における矯正された波面に寄与する測定された波面の部分を考慮する。
【0012】
本発明の一実施形態は、ガウスの最小二乗フィット及び点広がり最適化ソフトウェアにおいて使用される山登り最適化法を利用して、測定された波面のものよりも大きな特定の表面にわたって最適な波面をフィッティングする。眼の中心を表す公称の回転軸から複数の方向に発する多数の点から、所望の波面が投射される。使用される波面パターンは低次のみに基づいたものであり得て、又は、一部又は全ての高次を含むこともできる。
【0013】
眼の中心から投射される波面の各位置は、レンズにわたって重み付け関数で畳み込まれて、特定の領域の波面を増強又は強調することができる一方で、他の領域は非強調される。波面は、レンズの中立軸を表す近軸レンズを表す表面に沿って最も良くフィッティングされる。この近軸レンズは、特定の中心頂点間距離において空間内に固定され、選択されたブランクレンズの基本レンズデザインの曲率に従う。基本レンズデザインの曲率は、中心の低次の処方箋から単純に導出されるか、又は高次及び他の因子(頂点間距離等)と共に使用され得る。
【0014】
最終的な波面は、以下の入力の一つ以上でフィッティング可能である:
・ 波面
・ 瞳孔間距離
・ 頂点間距離
・ 広角傾斜
・ フィッティング高さ
・ 瞳孔直径
・ レンズが使用される条件(日中、オフィス、夜間等)
・ 年齢
・ OD主屈折
・ ADD値
・ 眼鏡の幾何学的形状
・ レンズ材料の屈折率
【0015】
図1は、本発明による眼鏡レンズを製造する方法の一実施形態のステップを示し、図2は、波面最適化方法の一実施形態による情報の流れを示すフローチャートを示す。一実施形態では、頂点間距離と、レンズパワー及び乱視に対するその頂点間距離の効果とを、波面フィッティングプロセス用に補償することができる。波面フィッティングソフトウェアプロセス(図1のステップ1及び2)の出力は、カスタムレンズの製造を容易にする一組のインストラクションとなる。
【0016】
多様な方法を用いて実際のレンズを生じさせることができる。例えば、インストラクションは、レンズの前面及び/又は背面用の表面マップや、自由造形レンズ生成器内に提供可能なポイントファイルを含み得て、カスタムの前面及び背面をカッティングする。他の方法では、フィッティングソフトウェアからの情報でカスタマイズ可能なレンズブランク内の可変屈折率層を用いる。更に他の方法では、レンズ表面にわたって屈折率の異なるインクジェット堆積を用いて、フィッティングソフトウェアの出力に基づいて矯正された波面を生成することができる。更に他の方法では、ステレオリソグラフィをキャスティングと共に使用したり、上述の方法を組み合わせたりして、カスタムレンズ製造を達成することができる。
【0017】
図1のステップ3は、レンズ製造に対する自由造形研削法を表す。当該分野で知られているキャスティング、インクジェット、サンドイッチ型可変屈折率法も利用可能である。
【0018】
自由造形研削法を利用する場合、波面フィッティングソフトウェアの最後のステップは、レンズの前面及び背面の形状を生成して、所望の波面を達成することができる。前面及び背面の形状の開発では、レンズの厚さの変化も考慮に入れることができて、歪みを最小化する。一実施形態では、フィッティングされた波面ソフトウェアの出力は、ポイントファイルであり得て、レンズを製造する自由造形レンズ生成器に後で転送される。結果物のレンズは、レンズ全体にわたって本質的には最適化され得て、全入力パラメータに基づいて各患者用にカスタマイズされ得る。この自由造形研削法を屈折率可変材料と共に用いて、レンズの研削又は研磨後の屈折特性を更に微調整又は増強させることができる。
【0019】
一実施形態では、測定された波面及びターゲット瞳孔波面に対するシフト(回転ではなくて)のグリッドが使用されて、イメージによって数学的に表示される。ターゲット波面をレンズ波面として使用することができる。測定された波面から、本発明の一以上の実施形態を介してターゲット波面を決定することができる。多様な構成を用いて、患者用の眼鏡を介してターゲット波面を実現することができる。
【0020】
一例では、二つの表面を備えた単一のレンズを用いて、患者用の眼鏡を生成することができ、そのレンズ表面の一方又は両方がレンズに対する波面を変更するように制御可能である。代わりに、各々二つのレンズ表面を有するレンズブランクを、それら二つのレンズブランクの間の可変屈折率ポリマー材料と共に使用することができ、四つのレンズブランク表面のうち一つ以上及び/又はポリマー材料が、レンズに対する波面に影響を与えるように制御可能である。レンズ表面及び/又は硬化したポリマー材料の可変屈折率は、表面の高さ、又は平面上への屈折率層の投射に対応する二次元平面内に描かれる。
【0021】
収差は、同一のグリッド間隔上にサンプリングされた瞳孔の直交展開における成分として測定される。特定の実施形態では、グリッド間隔は略0.5mmであり、他の実施形態では、グリッド間隔は略0.1mmである。ゼルニケ多項式を用いる実施形態では、成分を、離散的なサンプリングによって、選択された瞳孔サイズに対して直交にすることができる。一例として、成分を、グラム・シュミットの直交化等のプロセスを介して直交にすることができる。眼鏡上の特定の点に中心のある瞳孔に対する収差の直交成分は、図3のように、対象の点に中心のあるレンズの(高さ又は投射の)イメージと、収差成分のイメージのサンプルごとの乗算(内積)によって計算され得る。図3は、特定のシフト(凝視)におけるイメージとして眼鏡及び瞳孔サンプルの上面図を示し、8つのサンプル分の直径を有する眼鏡グリッド上の選択された座標に中心のある3つのサンプル分の直径を有する瞳孔に対する収差の計算に利用可能である。
【0022】
ゼルニケ多項式は直交していて、サンプルを取ると、ゼルニケ多項式の近似式を生成することができる。一実施形態では、次に、ゼルニケ多項式の近似式を変更して、直交多項式を作り、新たな多項式を生成する。
【0023】
一実施形態では、瞳孔直径の外側にある瞳孔の点は、ゼロであると仮定する。瞳孔直径内の正方形内の選択された点をゼロにすることによって、正方形ではない瞳孔の形状を形成することができる。数学的には、グリッド上の考えられる全ての位置に中心のある内積を計算するプロセスは、相互相関であり、高速畳み込みアルゴリズムで実施可能である。イメージは、相互相関を介して各ゼルニケに対して生成可能である。各ゼルニケに対するイメージを用いて、ターゲット及び誤差を生成することができる。誤差を用いて、誤差識別式、又は、イメージの正方形内の全てのピクセルの重み付けされた和を生成することができる。
【0024】
特定の実施形態では、グリッドサイズ及び間隔は、平面内にレンズ及び瞳孔を表示するように選択される。このようなグリッドの一例は図3に示されている。対象の収差は、選択された瞳孔サイズにおいてグリッド上で直交化される。そして、各点に中心のある所定の収差を、直交化ゼルニケイメージ及び眼鏡イメージの相互相関によって見積もることができ、各ゼルニケ成分に対するイメージがもたらされる。レンズ上の各点に対する誤差イメージは、イメージの各点に中心のある計算されたものと所望のゼルニケ収差との間の差として見積もられる。
【0025】
所望の矯正を、一次近似に対して、所望の凝視角に対応するシフトを備えたこの平面内で一定であると仮定する。別のやり方では、図2に示されるように、回転を無視する。大きな凝視角に対して、回転の効果は、空間的に変化する矯正ターゲットを提供することによって、補償可能である。空間的に変化するターゲットは、近軸ターゲットを回転することによって近似可能である。
【0026】
単純な畳み込みを、固定グリッドに対する光線追跡型アルゴリズムに対応する光線表面交差のより厳密な幾何学計算に代えてもよい。他のグリッドの幾何学的構造を用いてもよい(例えば、矩形の代わりに六角形)。その結果は本質的には空間的に変化するサンプル間隔及び畳み込みであり、計算時間は増える。
【0027】
表面誤差の他の計量は、ゼルニケ成分誤差イメージから計算可能であり、単一の瞳孔表示で行われる。球面/円柱/値(又は所望のものからの誤差)のイメージは、例えばピクセルごとの通常の変換を適用することによって、計算可能である。
【0028】
総二乗平均平方根(rms,root−mean−square)は、特定の瞳孔位置に対する二乗した全ての成分項の和によって、又は、瞳孔内の二乗した(そして適切に正規化した)全てのピクセルの和によって表すことができる。これは、瞳孔サイズの開口と二乗したレンズ値のイメージの相互相関によって行うことができる。総高次は、総rmsイメージから低次の収差イメージを引くことによって計算可能である。高次の誤差は、ピクセルごとに二乗したターゲットの高次のイメージを引くことによっても計算可能である。誤差を最適化する特定の誤差選択に対して、これは、既知の正規化アルゴリズムと数学的に等価であり得る。
【0029】
総誤差判別式は、レンズ全体に対して所望の誤差イメージを足し合わせることによって、生成可能である。ピクセルごとの重み付けを取り入れて、レンズ内の多様な領域において誤差を選択的に重み付けるが、これは各ゼルニケ成分に対して独立に行うことができる。標準的な最適化法(例えば、凸プログラム)を用いて、誤差判別式を最小化するレンズイメージを生じさせることができる。レンズイメージが十分に小さい場合、相互相関は、当該分野において知られている最適化アルゴリズムの適用を更に単純化する行列乗算として表すことができる。より大きなイメージサイズに対して、これは現実的ではないが、そのアルゴリズムを、高速畳み込みアルゴリズムを実施する前に、問題に適合させるために使用することができる。
【0030】
誤差に対する制約も、最大及び/又は最小のゼルニケ成分又はその関数の制約イメージによって表される最適化において使用することができる。利用可能な制約の一例は、特定のゼルニケに対する誤差が特定の領域に対する特定の閾値を超えることができないというものである。
【0031】
浮動点(境界等)は、それらの点に対して重みをゼロに又は非常に小さくすることによって取り扱うことができる。これによって、最適化された領域が実際のグリッドよりも小さくなること、最適化された領域が任意の形状を有すること、及び/又は、最適化された領域が絶対に使用される点に対してのみ最適化されることができる。特定の実施形態では、患者の選択されたフレームのアウトラインが最適化の領域として入力され得る。無数の解法が存在し得るので、一つの試みでは、レンズ内部の特定の形状(眼鏡の形状等)を最適化するようにすることができる。最適化可能な特定の形状の一例は、レンズが使用されるフレームの形状内部で、例えばそのフレームの外側の重みをゼロにすることによって、最適化することである。
【0032】
固定点(最適化前に与えられて、変更されていない)は、矯正を計算する点を用いるが、最適化アルゴリズムにおいてそれらの点に最適化を適用しないことによって、与えることができる。これは、境界用に用いることができ、レンズの特定の部分のみが最適化される。
【0033】
制約のグリッドは、別途の最適化手順を介して重み付け及び/又はターゲット(制約されていない最適化用)に変換され得る。
【0034】
複数の表面を同時に最適化し得る。一例では、二つのグリッドを同時に最適化して、又は、各グリッド点が、最適化に関連する二つの数を有することができる。
【0035】
患者の処方箋(高次を含む)は、ターゲットとして使用され得て、利用可能であれば、決定論的な凝視の変化を含む。
【0036】
[実施例1 単純な位置合わせ耐性レンズ]
この例では、ボールドの小文字は、行列(又は等価なイメージ)を示し、光路遅延(OPD,optical−path delay)マップとしての二次元(単一表面)レンズ、又はOPDマップとしての二次元波面を表す。
【0037】
【表1】
【0038】
凝視角の範囲にわたるレンズに対するイメージの質の最適化は、並進移動の範囲にわたるイメージの質の最適化によって良く近似可能であると仮定する。従って、レンズに対する相対的な眼の回転は、本例では無視される。最適化を介して計算された所望のOPDは、例えば、光線追跡アプリケーションを介して一つの表面又は一対の表面に変換可能である。
【0039】
(i,j)番目の位置の矯正された波面収差は、瞳孔収差
【数1】
及び対応する眼鏡のOPD
【数2】
を含み、
【数3】
と表される。
【数4】
は行列である。最適化される総誤差は、全ての
【数5】
の関数である。行列は、例えば円形、矩形であり、又は非正方形のパターンを有する入力データ又は出力データ用の値としてゼロを有することができる。最も単純な関数は、シフト及び瞳孔の両方に対する重み付けでの全てのシフトに対する総二乗誤差であり、式(2)で表すことができる。
【数6】
【0040】
矯正された波面を最適化する方法の一つは、矯正される又は除外される特定のゼルニケ項を優先的に選択することである。特定のゼルニケ項の優先的な選択の一例は、プログレッシブ(累進)加入度レンズ(PAL,Progressive−Addition Lens)デザイン用に乱視のみを矯正することである。完全な波面収差から選択されたゼルニケ項の成分を選択するために、ゼルニケの正規直交性を利用し、単純に各ゼルニケと式(1)の波面との内積を取る。
【数7】
k番目のゼルニケに対する係数行列
【数8】

【数9】
として計算可能であり、適切に実施される相互相関演算又は等価な畳み込み演算を利用する。
【0041】
収差の特定のゼルニケ成分は、式(3)の成分の重み付けによって選択的に重み付け可能である。
【数10】
適切な
【数11】
をゼロに設定して、特定の成分を無視する。
【0042】
最も単純な方法であり、解析的に解くことのできる非常に数少ないものの一つは、全ての凝視位置又はシフトに対して重み付けされた総二乗誤差を最適化することであり、その誤差は、注意深く選択された及び/又は除外されたゼルニケの組み合わせにより定義される。
【0043】
重み付け無しの瞳孔の直径よりも大きな角度範囲に対して最適な最小二乗の最小値は、純粋に低次の解をもたらす。しかしながら、重み付けを用いると、一部領域における改善が他のものと交換される。
【0044】
式(2)及び式(5)を組み合わせると、対象の二乗誤差は
【数12】
となり、最適な
【数13】
に対する標準的な最適化アルゴリズムによって解くことができる。
【0045】
重み付け
【数14】
を全てのゼルニケ項に対して同じにすることによって、解析解が得られる。ゼロに等しい
【数15】
に対して式(6)の勾配を設定すると、以下のように記述することのできる最適化された結果が得られる。
【数16】
【0046】
演算子“×”及び“/”はそれぞれ、要素ごとの乗算、除算を示し、演算子“*”は二次元の畳み込みを示す。均一な瞳孔重み付けを用いて、式(7)を更に単純化して
【数17】
になる。
【0047】
【数18】
は単純な1の行列であり、分母項においてローパスフィルタリングされた
【数19】
となる。よって、結果は、フィルタリングバージョンの重み付けによって正規化された収差と重み付けとの畳み込みになる。
【0048】
特定のゼルニケ項に対するシミュレーション例を、図10A図10D図11A図11D図12A図12Dに示す。図10A図10Dはトレフォイル収差の例、図11図11Dはコマ収差の例、図12A図12Dは球面収差の例を示す。強度は1μmのrms収差に対して正規化されていて、y軸はゼルニケ直径に対して正規化されている。レンズの一次元断面に、誤差が与えられる。そして、図10A図10Dは、トレフォイル収差に対する結果も示し、図11A図11Dはコマ収差に対する結果も示し、図12A図12Dは球面収差に対する結果も示す。
【0049】
実施例1を参照すると、いくつかの異なる方法を
【数20】
(瞳孔に対する重み付け又は誤差を表す行列)の異なる選択に反映させることが可能であり、
【数21】
は位置i,jに対する有効瞳孔収差であり、
【数22】
は瞳孔に対する波面の重み付けを表す行列である。いくつかの方法の例を以下の表に与える。
【0050】
【表2】
【0051】
他の方法は、“未知の処方されたゼルニケ”を必要とし得る。例えば、これを用いて、レンズに対して一定(可能な限り)であるが必ずしもゼロではない傾斜が得られる。特定の収差に対して、これは、ある程度の拡大(この取り扱いにおいては、線形歪みと称される)を許容することによって、改善された視力の質をもたらすことができる。これは、ある程度の許容可能な範囲でc1,所望及びc2,所望に対する値を反復的に変更して、最も小さな誤差最小値をもたらす対を選択することによって達成可能である。
【0052】
[収差バンド幅]
点広がり関数(PSF,point−spread function)に基づいた計量の最適化の一方法を、特定の凝視角におけるPSFの計量としての空間“バンド幅”を考慮して、行うことができる。波面が、二次元的な単一成分FM信号として記述可能な場合、所定の点におけるその局所的空間周波数成分を、位相の空間導関数から見積もることができる。波面の空間導関数の平均二乗値を見積もることによって、PSFのバンド幅の見積もりを得ることができる。
【0053】
PSFの平均化されたバンド幅に対する見積もりは
【数23】
として、
【数24】
と記述することができ、ここで、
【数25】
は、有限差分法を介して平均化された局所的導関数を計算する行列である。導関数を近似する
【数26】
の考えられる選択肢は多様に存在する。
【0054】
実施例1の有限差分法を介して平均化された局所的導関数を計算する行列の使用と同様の方法であるが、瞳孔及び眼鏡の導関数を使用する方法を、用いることができる。
【0055】
他の実施形態では、
【数27】
は、パワーマッチングを近似するために、二次導関数を近似するように選択可能である。
【0056】
[領域に基づいた最適化]
一実施形態では、いくつかの選択された境界条件で勾配降下法等の標準的な反復法を用いて、最適化を行うことができる。これらの境界条件は、レンズのエッジ並びにその内側の領域の必要な結果を記述することができる。
【0057】
[移行領域]
移行領域に基づいたレンズデザインは、或る外半径における矯正に対する及び軸光線に対する完全性が一定(又は低次)であるという要求を有する。従って、単一領域の矯正は、ある程度の高次の矯正として予め決めることができ、その後、その最適化は、最適なレンズを見つけ出すために、この領域の外側の狭い領域のみを変更することができる。この移行領域の外側の残りの領域は、ある程度平坦であるか又は低次の矯正であることを要求され得る。
【0058】
[プログレッシブ加入度レンズ]
プログレッシブ加入度レンズ(PAL)は、一対の領域内に必要な低次の矯正を有し、それらをつなぐ線に沿ってある程度変動するパワーを備える。典型的には、その後、レンズの残りの部分を最適化して、歪みを減じる。本発明の一実施形態では、歪みを同じ様に減じるように、レンズを最適化することができる。例えば、パワーマッチング、二次の波面のみのマッチング、変動傾斜での完全な波面マッチングを介して、歪みを減じるようにレンズを最適化することができる。
【0059】
[実施例2 単純な回転及び位置合わせ耐性レンズデザイン]
本例は、高次のコンタクトレンズに対して“プログラムされた”矯正を最適化する方法を用いる。コンタクトレンズは、特定の配向にあるように設計されるが、その配向に対して回転し、また、すべり得るので、ずれることがある。レンズの通常の着用中におけるこの予測不能な回転及びずれをアドレッシングすることができる。回転及びずれの範囲を考えて、その範囲に対して足し合わされた総波面誤差を最小化することによって、全範囲にわたる視力を改善するように、コンタクトレンズデザインを最適化する。ずれに対する最適化は、実施例1の式(7)のように計算可能である。回転に対する最適化は以下のように計算される。
誤差判別式は
【数28】
である。
最適な結果は、ずれの場合とコンセプトとしては同じである。
【数29】
【0060】
本発明の特定の実施形態では、所望の最終的なプログラムされたサイズを決定することができ、眼の収差を記述する情報をより大きな“移行”半径に投射することができる。図9は、瞳孔領域及び移行領域の例を示す。好ましくは、外挿は連続的である一方、ゼロに向かって減衰する。代わりに、これらのことを、最適化の後に達成することもできる。
【0061】
回転及びずれに対する最適化は、独立して実施可能である。これらは、物理的振る舞いの予測に応じて、低次又は高次のいずれかにおいて行われ、ずれの範囲の回転対称性に応じて、厳密には同じではない可能性のある結果が得られる。
【0062】
一実施形態では、移行領域は、減衰するアポダイゼーションを適用することによって、非強調され得る。更に、イメージ全体を、ゼルニケ多項式で再フィッティングすることができる。
【0063】
本願で引用される全ての特許、特許出願、仮出願及び文献は、全ての図面及び表を含めて、本明細書の明確な教示と矛盾しない程度において、参照としてその全体が本願に組み込まれる。
【0064】
本願で説明される実施例及び実施形態は単に例示目的であり、それらを考慮して、当業者が多様な変更を提案し、それらが本発明の精神及び範囲内に含まれるということは理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12