(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の積層多孔フィルムの製造方法の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含し、特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占める意を包含するものである。
【0018】
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に、規定しない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0019】
(ポリオレフィン系樹脂多孔フィルム)
ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムで用いるポリオレフィン系樹脂として、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキサンなどを重合した単独重合体または共重合体が挙げられる。この中でも、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0020】
(ポリプロピレン系樹脂)
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、積層多孔フィルムの機械的強度、耐熱性などを維持する観点から、ホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0021】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が80〜99%であることが好ましい。より好ましくは83〜98%、更に好ましくは85〜97%であるものを使用する。アイソタクチックペンタッド分率が低すぎるとフィルムの機械的強度が低下するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合についてはこの限りではない。
【0022】
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelliet
al(Macromolecules8,687,(1975))に準拠した。
【0023】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが2.0〜10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0〜8.0、更に好ましくは2.0〜6.0であるものが使用される。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnが2.0以上であれば押出成形性が低下する等の問題が生じることがなく、工業的に生産することが容易となる。一方、Mw/Mnが10.0以下であれば低分子量成分が少なく、積層多孔フィルムの機械的強度の低下を起こすことがない。Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって得られる。
【0024】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5〜15g/10分であることが好ましく、1.0〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.5g/10分以上とすることで、成形加工時の樹脂の溶融粘度が高く、十分な生産性を確保することができる。一方、15g/10分以下とすることで、得られる積層多孔フィルムの機械的強度を十分に保持することができる。MFRはJISK7210に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定する。
【0025】
なお、前記ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムTPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」、「Adsyl」、「HMS−PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル)など市販されている商品を使用できる。
【0027】
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂多孔フィルムは、β活性を有することが好ましい。
【0028】
本発明のポリオレフィン系樹脂多孔フィルムにおいて、「β活性」の有無は、示差走査型熱量計で積層多孔フィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β活性を有すると判断している。
【0029】
また、前記多孔フィルムのβ活性度は、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算している。
【0030】
β活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、ポリプロピレン系樹脂がホモポリプロピレンの場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上170℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばエチレンが1〜4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムのβ活性度は20%以上が好ましく、さらに、40%以上、60%以上であることが特に好ましい。積層多孔フィルムが20%以上のβ活性度を有すれば、延伸により微細かつ均一な孔が多く形成され、結果として機械的強度が高く、透気性能に優れたリチウムイオン電池用セパレータとすることができる。
【0032】
β活性度の上限値は特に限定されないが、β活性度が高いほど前記効果がより有効に得られるので100%に近いほど好ましい。
【0033】
また、前記β活性の有無は、特定の熱処理を施した積層多孔フィルムの広角X線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断できる。
【0034】
詳細には、ポリプロピレン系樹脂の融点を超える温度である170℃〜190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた積層多孔フィルムについて広角X線回折測定を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°〜16.5°の範囲に検出された場合、β活性が有ると判断している。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造と広角X線回折に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643−652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361−404(1991)、Macromol.Symp.89,499−511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。広角X線回折を用いたβ活性の詳細な評価方法については、後述の実施例にて示す。
【0036】
前記β活性は、ポリプロピレン系樹脂多孔フィルムが単層構造である場合であっても、他の多孔性層と積層される場合のいずれにおいても測定することができる。
【0037】
また、仮に、ポリプロピレン系樹脂からなる層以外に、ポリプロピレン系樹脂を含有する層などを積層させる場合には、両層ともにβ活性を有することが好ましい。
【0038】
前述したβ活性を得る方法としては、特許第3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレンを添加する方法、及び組成物にβ晶核剤を添加する方法などが挙げられる。
【0039】
(β晶核剤)
本発明で用いる前記β晶核剤としては、以下に示すものが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成・成長を増加させるものであれば特に限定される訳ではなく、また2種類以上を混合して用いても良い。
【0040】
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。そのほか核剤の具体的な種類については、特開2003−306585号公報、特開平06−289566号公報、特開平09−194650号公報に記載されている。
【0041】
β晶核剤の市販品としては新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU−100」、β晶核剤の添加されたポリプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「BepolB−022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)−PP
BE60−7032」、Mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP−LN」などが挙げられる。
【0042】
前記ポリプロピレン系樹脂に添加するβ晶核剤の割合は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することが必要であるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対しβ晶核剤0.0001〜5.0質量部が好ましい。0.001〜3.0質量部がより好ましく、0.01〜1.0質量部が更に好ましい。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成・成長させることができ、セパレータとした際にも十分なβ活性が確保でき、所望の透気性能が得られる。また、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、積層多孔フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
【0043】
また、仮にポリプロピレン系樹脂からなる層以外に、ポリプロピレン系樹脂を含有する層などを積層させる場合には、各層のβ晶核剤の添加量は同じであっても、異なっていても良い。β晶核剤の添加量を変更することで各層の多孔構造を適宜調整することができる。
【0044】
(他の成分)
ポリプロピレン系樹脂に、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および積層多孔フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤または着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0045】
(ポリエチレン系樹脂)
本実施形態では、前記ポリプロプレン系樹脂からなる多孔フィルムと積層する多孔フィルムとして、ポリエチレン系樹脂多孔フィルムが好適に用いられる。
【0046】
該ポリエチレン系樹脂としては、具体的に超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、また分子量に特徴のある超高分子量ポリエチレンのようなホモポリマーポリエチレンだけでなく、エチレンプロピレン共重合体、またはポリエチレン系樹脂と他のポリオレフィン系樹脂とのコポリマーポリエチレンが挙げられる。中でも、ホモポリマーポリエチレン、或いはα−オレフィンコモノマー含量が2モル%以下のコポリマーポリエチレンが好ましく、ホモポリマーポリエチレンであることが更に好ましい。α−オレフィンコモノマーの種類については特に制限はない。
【0047】
前記ポリエチレン系樹脂の密度は、0.910〜0.970g/cm
3であることが好ましく、0.930〜0.970g/cm
3であることがより好ましく、0.940〜0.970g/cm
3であることが更に好ましい。密度が0.910g/cm
3以上であれば適度なSD特性を有することができるため好ましい。一方、0.970g/cm
3以下であれば適度なSD特性を有することができるほか、延伸性が維持される点で好ましい。密度の測定は密度勾配管法を用いてJIS K7112に準じて測定することができる。
【0048】
また、前記ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常MFRは0.03〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.03g/10分以上であれば成形加工時の樹脂の溶融粘度が十分に低いため生産性に優れ好ましい。一方、30g/10分以下であれば、十分な機械的強度を得ることができるために好ましい。
【0049】
MFRはJIS K7210に従い、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定している。
【0050】
ポリエチレン系樹脂の重合触媒には特に制限はなく、チーグラー型触媒、フィリップス型触媒、カミンスキー型触媒等いずれのものでも良い。ポリエチレン系樹脂の重合方法として、一段重合、二段重合、もしくはそれ以上の多段重合等があり、いずれの方法のポリエチレン系樹脂も使用可能である。
【0051】
(多孔化促進化合物)
ポリエチレン系樹脂に、多孔化を促進させる多孔化促進化合物Xを添加することが好ましい。前記多孔化促進化合物Xを添加することにより、より効率的に多孔構造を得ることができ、孔の形状や孔径を制御しやすくなる。
【0052】
前記多孔化促進化合物Xは限定はしないが、具体的に例示すると、変性ポリオレフィン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂若しくはその変性体、エチレン系共重合体、またはワックスから選ばれる多孔化促進化合物Xのうち少なくとも1種が含まれていることがより好ましい。中でも、多孔化でより効果の大きい脂環族飽和炭化水素樹脂若しくはその変性体、エチレン系共重合体、またはワックスがより好ましく、成形性の観点からワックスが更に好ましい。
【0053】
脂環族飽和炭化水素樹脂及びその変性体として、石油樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、クマロン−インデン樹脂、及びそれらの変性体等が挙げられる。
【0054】
本発明における前記石油樹脂とは、ナフサの熱分解などによる副生物から得られるC4〜C10の脂肪族オレフィン類やジオレフィン類、オレフィン性不飽和結合を有するC8以上の芳香族化合物で、それらの中に含まれる化合物の一種又は二種以上を単独若しくは共重合することにより得られる脂肪族系、芳香族系及び共重合系石油樹脂を言う。
【0055】
石油樹脂としては、例えばC5留分を主原料とする脂肪族系石油樹脂、C9留分を主原料とする芳香族系石油樹脂、それらの共重合系石油樹脂、脂環族系石油樹脂がある。テルペン樹脂としてはβ−ピネンからのテルペン樹脂やテルペン−フェノール樹脂が、またロジン系樹脂としては、ガムロジン、ウツドロジンなどのロジン樹脂、グリセリンやペンタエリスリトールで変性したエステル化ロジン樹脂などが例示できる。脂環族飽和炭化水素樹脂及びその変性体はポリエチレン系樹脂に混合した場合に比較的良好な相溶性を示すが、色調や熱安定性といった面から石油樹脂がより好ましく、水添石油樹脂を用いることが更に好ましい。
【0056】
水添石油樹脂は、石油樹脂を慣用の方法によって水素化することにより得られるものである。例えば、水素化脂肪族系石油樹脂、水素化芳香族系石油樹脂、水素化共重合系石油樹脂及び水素化脂環族系石油樹脂、並びに水素化テルペン系樹脂が挙げられる。水添石油樹脂の中でも、水素化脂環族系石油樹脂で、シクロペンタジエン系化合物と芳香族ビニル系化合物とを共重合して水素添加したものが特に好ましい。市販されている水添石油樹脂としては、「アルコン」(荒川化学工業社製)などが挙げられる。
【0057】
本発明におけるエチレン系共重合体とは、エチレンと、酢酸ビニル、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、またはカルボン酸エステル等の中から1種類以上とを共重合させることにより得られる化合物である。
【0058】
エチレン系共重合体は、エチレン単量体単位の含有率が好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上である。一方、上限については、エチレン単量体単位の含有率が好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下であることが望ましい。エチレン単量体単位の含有率が所定の範囲内であれば、より効率的に多孔構造を形成することができる。
【0059】
前記エチレン系共重合体は、MFR(JIS K7210、温度:190℃、荷重:2.16kg)が0.1g/10分以上10g/10分以下のものが好適に用いられる。MFRが0.1g/10分以上であれば、押出加工性を良好に維持でき、一方、MFRが10g/10分以下であればフィルムの強度低下を起こしにくく、好ましい。
【0060】
前記エチレン系共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体として「EVAFLEX」(三井・デュポン ポリケミカル社製)、「ノバテックEVA」(日本ポリエチレン社製)、エチレン−アクリル酸共重合体として「NUCコポリマー」 (日本ユニカー社製)、「エバフレックス−EAA」(三井・デュポン ポリケミカル社製)、「REXPEARL EAA」(日本エチレン社製)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体として「ELVALOY」(三井・デュポン ポリケミカル社製)、「REXPEARL EMA」(日本エチレン社製)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体として「REXPEARL EEA」(日本エチレン社製)、エチレン−メチル(メタ)アクリル酸共重合体として「アクリフト」(住友化学社製)、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体として「ボンダイン」(住友化学社製)、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体として「ボンドファースト」(住友化学社製)などが商業的に入手できる。
【0061】
本発明におけるワックスとは、以下の(ア)および(イ)の性質を満たす有機化合物のことである。
【0062】
(ア)融点が40℃〜200℃である。
【0063】
(イ)融点より10℃高い温度での溶融粘度が50Pa・s以下である。
【0064】
ワックスについて、極性または非極性ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス及びワックス改質剤を含む。具体的には、極性ワックス、非極性ワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、酸化フィッシャー−トロプシュワックス、ヒドロキシステアロマイドワックス、機能化ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ワックス改質剤、アモルファスワックス、カルナウバワックス、キャスター・オイルワックス、マイクロクリスタリンワックス、蜜ろう、カルナウバろう、キャスターワックス、植物ろう、カンデリラろう、日本ろう、ouricuryワックス、ダグラスファーバーク・ワックス、米ぬかワックス、ホホバワックス、ヤマモモワックス、モンタンワックス、オゾケライトワックス、セレシンワックス、石油ろう、パラフィンワックス、化学変性炭化水素ワックス、置換アミドワックス、及びこれらの組み合わせ及び誘導体が挙げられる。中でも多孔構造を効率的に形成できる点から、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックスが好ましく、SD特性の観点より孔径をより微小化できるマイクロクリスタリンワックスが更に好ましい。市販されているポリエチレンワックスとしては「FT−115」(日本精蝋社製)、マイクロクリスタリンワックスとしては「Hi−Mic」(日本精蝋社製)などが挙げられる。
【0065】
前記多孔化促進化合物Xの配合量は、ポリエチレン系樹脂と前記多孔化促進化合物Xとの界面を剥離させて微細孔を形成させる場合、一層に含まれるポリエチレン系樹脂100質量部に対し、下限として1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましい。一方、上限として50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましい。前記多孔化促進化合物Xの配合量がポリエチレン系樹脂100質量部に対し、1質量部以上とすることで、目的とする良好な多孔構造が発現する効果が十分に得られる。また、前記多孔化促進化合物Xの配合量が50質量部以下とすることで、より安定した成形性を確保することができる。
【0066】
必要に応じてポリエチレン系樹脂や多孔化促進化合物X以外に、多孔フィルムの熱特性、具体的には多孔化を損なわない範囲で熱可塑性樹脂を用いても良い。前述のポリエチレン系樹脂との混合させることができる他の熱可塑性樹脂としては、スチレン、AS樹脂、もしくはABS樹脂等のスチレン系樹脂:ポリ塩化ビニル、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートもしくはポリアリレート等のエステル系樹脂;ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトンもしくはポリフェニレンサルファイド等のエーテル系樹脂;6ナイロン、6−6ナイロン、6−12ナイロン等のポリアミド系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0067】
また、必要に応じて熱可塑性エラストマー等のゴム成分と呼ばれているものを添加しても良い。熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン系、ポリオレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2−ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル系、アイオノマーなどが挙げられる。
【0068】
ポリエチレン系樹脂や多孔化促進化合物X以外に、一般に樹脂組成物に配合される添加剤または他の成分を含んでいてもよい。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および積層多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤または着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0069】
中でも、核剤はポリエチレン系樹脂の結晶構造を制御し、延伸開孔時の多孔構造を細かくするという効果があるため好ましい。市販されているものとして、「ゲルオールD」(新日本理化社製)、「アデカ スタブ」(旭電化工業社製)、「Hyperform」(ミリケンケミカル社製)、または「IRGACLEARD」(チバ スペシャルケミカルズ社製)等が挙げられる。また、核剤の添加されたポリエチレン系樹脂の具体例としては、「リケマスター」(理研ビタミン社製)等が商業的に入手できる。
【0070】
(ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの層構成)
本発明において、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムは、単層でも積層でも構わない.2層以上に積層させる場合には、ポリプロピレン系樹脂を含有する層とポリエチレン系樹脂を含有する層とを積層したものが好ましい。
【0071】
ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの層構成は、ポリプロピレン系樹脂を含有する層(以降「A層」と称す)が少なくとも1層存在すれば特に限定されるものではない。また、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの機能を妨げない範囲で他の層(以降「B層」と称す)を積層することもできる。強度保持層、耐熱層(高融解温度樹脂層)、シャットダウン層(低融解温度樹脂層)などを積層させた構成が挙げられる。例えば、リチウムイオン電池用セパレータとして用いる際には、特開平04−181651号公報に記載されているような高温雰囲気化で孔閉塞し、電池の安全性を確保する低融点樹脂層を積層させることが好ましい。
【0072】
具体的にはA層/B層を積層した2層構造、A層/B層/A層、若しくは、B層/A層/B層として積層した3層構造などが例示できる。また、他の機能を持つ層と組み合わせて3種3層の様な形態も可能である。この場合、他の機能を持つ層との積層順序は特に問わない。更に層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。
【0073】
本発明のポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの物性は、層構成や積層比、各層の組成、製造方法によって自由に調整できる。
【0074】
(ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの製造方法)
次に、本発明のポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの製造方法について説明するが、本発明はかかる製造方法により製造される積層多孔フィルムのみに限定されるものではない。
【0075】
無孔膜状物の作製方法は特に限定されず公知の方法を用いてよいが、例えば押出機を用いて熱可塑性樹脂組成物を溶融し、Tダイから押出し、キャストロールで冷却固化するという方法が挙げられる。また、チューブラー法により製造した膜状物を切り開いて平面状とする方法も適用できる。
【0076】
無孔膜状物の多孔化方法としては特に限定されることなく、湿式による一軸以上の延伸多孔化、乾式による一軸以上の延伸多孔化など、公知の方法を用いてもよい。延伸方法については、ロール延伸法、圧延法、テンター延伸法、同時二軸延伸法などの手法があり、これらを単独あるいは2つ以上組み合わせて一軸延伸あるいは二軸延伸を行う。中でも、多孔構造制御の観点から逐次二軸延伸が好ましい。
【0077】
また、本発明において、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムを積層にする場合、製造方法は、多孔化と積層の順序によって次の4つに大別される。
【0078】
(a)各層を多孔化したのち、多孔化された各層をラミネートしたり接着剤等で接着したりして積層する方法。
【0079】
(b)各層を積層して積層無孔膜状物を作製し、ついで当該無孔膜状物を多孔化する方法。
【0080】
(c)各層のうちいずれか1層を多孔化したのち、もう1層の無孔膜状物と積層し、多孔化する方法。
【0081】
(d)多孔層を作製した後、無機・有機粒子などのコーティング塗布や、金属粒子の蒸着などを行うことにより積層多孔フィルムとする方法。
【0082】
本発明においては、その工程の簡略さ、生産性の観点から(b)の方法を用いることが好ましく、なかでも2層の層間接着性を確保するために、共押出で積層無孔膜状物を作製した後、多孔化する方法が特に好ましい。
【0083】
以下に、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの製造方法の詳細を説明する。
【0084】
まず、ポリプロピレン系樹脂と、必要であれば熱可塑性樹脂、添加剤の混合樹脂組成物を作製する。例えば、ポリプロピレン系樹脂、β晶核剤、および所望によりその他添加物等の原材料を、好ましくはヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて、または袋の中に全成分を入れてハンドブレンドにて混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等、好ましくは二軸押出機で溶融混練後、カッティングしてペレットを得る。
【0085】
前記のペレットを押出機に投入し、Tダイ押出用口金から押出して膜状物を成形する。Tダイの種類としては特に限定されない。例えば、本発明の当該実施形態の積層多孔フィルムが2種3層の積層構造をとる場合、Tダイは2種3層用マルチマニホールドタイプでも構わないし、2種3層用フィードブロックタイプでも構わない。
【0086】
使用するTダイのギャップは、最終的に必要なフィルムの厚み、延伸条件、ドラフト率、各種条件等から決定されるが、一般的には0.1〜3.0mm程度、好ましくは0.5〜1.0mmである。0.1mm以上であれば生産速度という観点から好ましく、また3.0mm以下であれば、ドラフト率が小さくなるので生産安定性の観点から好ましい。
【0087】
押出成形において、押出加工温度は樹脂組成物の流動特性や成形性等によって適宜調整されるが、概ね180〜350℃が好ましく、200〜330℃がより好ましく、220〜300℃が更に好ましい。180℃以上の場合、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れ生産性が向上することから好ましい。一方、350℃以下にすることにより、樹脂組成物の劣化、ひいては得られる積層多孔フィルムの機械的強度の低下を抑制できる。
【0088】
β晶核剤を添加する場合には、キャストロールによる冷却固化温度は非常に重要であり、膜状物中のポリプロピレン系樹脂のβ晶の比率を調整することができる。キャストロールの冷却固化温度は好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。冷却固化温度を80℃以上とすることで、膜状物中のβ晶の比率を十分に増加させることができるために好ましい。また、150℃以下とすることで押出された溶融樹脂がキャストロールへ粘着し巻き付いてしまうなどのトラブルが起こりにくく、効率よく膜状物化することが可能であるので好ましい。
【0089】
前記温度範囲にキャストロールを設定することで、延伸前の膜状物のポリプロピレン系樹脂のβ晶比率は20〜100%に調整することが好ましい。40〜100%がより好ましく、50〜100%が更に好ましく、60〜100%が最も好ましい。延伸前の膜状物中のβ晶比率を30%以上とすることで、その後の延伸操作により多孔化が行われやすく、透気特性の良いポリオレフィン系樹脂多孔フィルムを得ることができる。
【0090】
延伸前の膜状物中のβ晶比率は、示差走査型熱量計を用いて、該膜状物を25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温させた際に、検出されるポリプロピレン系樹脂(A)のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算される。
【0091】
β晶比率(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
延伸工程においては、縦方向又は横方向に一軸延伸してもよいし、二軸延伸であってもよい。また、二軸延伸を行う場合は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。本発明のポリオレフィン系樹脂多孔フィルムを作製する場合には、各延伸工程で延伸条件を選択でき、かつ多孔構造を制御し易い逐次二軸延伸がより好ましい。
【0092】
なお、膜状物及びフィルムの長手方向を「縦方向」、長手方向に対して垂直方向を「横方向」と称する。また、長手方向への延伸を「縦延伸」、長手方向に対して垂直方向への延伸を「横延伸」と称する。
【0093】
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度は用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時変える必要があるが、縦延伸での延伸温度は概ね0〜130℃が好ましく、より好ましくは10〜120℃、更に好ましくは20〜110℃の範囲で制御される。また、縦延伸倍率は2〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍、更に好ましくは4〜7倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を抑制しつつ、適度な空孔起点を発現させることができる。
【0094】
一方、横延伸での延伸温度は概ね100〜160℃、好ましくは110〜150℃、更に好ましくは120〜140℃である。また、好ましい横延伸倍率は2〜10倍、より好ましくは3〜8倍、更に好ましくは4〜7倍である。前記範囲内で横延伸することで、縦延伸により形成された空孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができる。
【0095】
前記延伸工程の延伸速度としては、500〜12000%/分が好ましく、1500〜10000%/分がさらに好ましく、2500〜8000%/分であることが更に好ましい。
【0096】
このようにして得られた多孔フィルムは、寸法安定性の改良を目的として熱処理を施すことが好ましい。この際、温度は好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上とすることで、寸法安定性の効果が期待できる。一方、熱処理温度は好ましくは170℃以下、より好ましくは165℃以下、更に好ましくは160℃以下である。熱処理温度が170℃以下であれば、熱処理によってポリプロピレンの融解が起こりにくく、多孔構造を維持できるため好ましい。また、熱処理工程中には、必要に応じて1〜20%の弛緩処理を施しても良い。なお、熱処理後、均一に冷却して巻き取ることにより、本発明の多孔フィルムが得られる。
【0097】
(表面処理)
本発明における表面処理とは、前記ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの表面の密着性を向上させることができる物理的及び/又は化学的な表面改質処理を意味する。その例としては、コロナ処理、プラズマ処理、大気圧下のプラズマ処理、フレームプラズマ処理(火炎処理)、UV処理などがあげられるが、これらに限定されない。本発明においては、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムにおいて使用できる公知の条件・装置を用いて、表面処理を行なうことができる。
【0098】
また、本発明においては、多孔フィルムを全幅に亘って表面処理することもできるし、また、ストライプ状等部分的に表面処理することもできる。積層多孔フィルムの製造の際に、非処理部分はコーティング等で塗工することができず、または塗工できても基材の多孔フィルムと密着していないので剥がすことができる。従って、ストライプ状等部分塗工品が必要な場合でも、全面塗工で製造できる。
【0099】
(積層多孔フィルムの製造方法)
本発明においては、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの少なくとも片面に、コーティングにより被覆層を積層して積層多孔フィルムを製造する。本発明の積層多孔フィルムの製造方法において、該積層多孔フィルムを巻取る際に、被覆層の側の面をタッチロールに接するように巻き取ることが好ましい。
【0100】
本発明の製造方法に使用されるコーティング装置の例の概略フローシートを
図1に示す。
【0101】
また、
図2、
図3に、本発明の実施態様である、積層多孔フィルムを巻取る際に、被覆層の側の面をタッチロールに接するように巻き取る場合のフィルムの搬送ラインの例(概略図)を示す。
図2はタッチロールと巻取りフィルムが接しているケース(タッチ巻取り)を示し、
図3は、タッチロールと巻取りフィルムとの間に一定の間隔があるケース(ニア巻取り)を示している。
図1において、タッチロールは巻き取りロールに対向して設置されている。
【0102】
図2、
図3で例示されるように、本発明の方法においては、被覆層の側の面をタッチロールに接するように積層多孔フィルムを巻き取る。通常、コーティングなどがされた被覆フィルムを巻き取る場合は、
図4に示すように、被覆層のある面と反対側の面がタッチロールに接するようにするのが一般的である。しかしながら、本発明の方法で使用するポリオレフィン系樹脂多孔フィルムは、非常に薄く、多孔性であるという特徴から、タッチロールと接触するとすべりが悪く、タッチロールに接触する際にシワが発生し易い。これに対して、
図2、
図3に示すように、被覆層の側の面をタッチロールに接するように積層多孔フィルムを巻き取ると、フィルムとタッチロールとの滑りが改善され、シワの発生が防止できる。本発明のこの利点は、被覆層として、後述するフィラーと樹脂バインダーを含む被覆層を用いる場合に、被覆層とタッチロールとの滑りが良好となり、シワの発生をより効果的に防止することができる。
【0103】
また、本発明においては、タッチロールに対する多孔積層フィルムの抱き角を制御することで、シワの発生をより有効に防止することができる。タッチロールに対する多孔積層フィルムの抱き角とは、
図5で示すように、多孔フィルムとタッチロールの2つの接点とタッチロールの中心を結んだときにできる角度である。本発明においては、タッチロールの抱き角は、好ましくは150度以下であり、より好ましくは120度以下である。一方、抱き角が小さくなり過ぎると、タッチロール上でのシワ解消効果が小さくなるため、抱き角は10度以上、好ましくは30度以上にすることが良い。
【0104】
本発明においては、タッチロールとして、鉄等の金属製軸芯の外周面に硬度30〜85°のエチレン・プロピレン共重合体系、NBR系、ウレタン系、フッ素系、シリコーン系等のゴムを一重、または二重巻きして被覆・加工し、表面を研磨したものなどが使用できる。また、本発明においては、金属製弾性タッチロールも使用することができる。またタッチロールの表面は、被覆層とタッチロールとの滑り性を向上させるために、性能に影響を与えない範囲で凹凸を形成させても良い。
【0105】
本発明においては、タッチロールを冷却することができ、そのために、タッチロールが冷却流体を流す空間の構造を有していてもよい。例えば、幅方向に行きと戻りが交互に流れるようにしたり、スパイラル状に流れるようにすることでロール表面の温度分布の小さい温度制御が可能になる。
【0106】
本発明においては、タッチロールと巻取りロールは、接していても接していなくてもよいが、巻取り速度が速い場合は、巻取りフィルムの層間に介在する空気量(空気層の厚み)が多くなり、巻きズレ等を生じやすくなるため、接する方式(タッチ巻取り)を選択することが好ましい。
【0107】
本発明においては、被覆層は多孔フィルムの全幅に亘って形成することもできるし、また、ストライプ状等、部分的に被覆層を形成することもできる。部分的に被覆層を形成する方法としては、塗工ヘッドを部分的に塗工できるように工夫すれば良く、例えばグラビア塗工方式であれば、グラビアロールを部分的(被覆層を形成したい部分のみ)に彫刻する方法、更には、非塗工部を形成したい部分のグラビアロールの径を塗工部分と比較して若干小さくすること等が挙げられる。ダイコート方式であれば非塗工部を形成したい位置のダイリップ間にシムを挿入し塗布液の排出を抑制すれば良い。また、部分的な被覆層は、塗工前の表面処理を部分的に行うことでも形成することができる。非処理部分と塗布液の表面張力差が大きければ、そのエネルギー差のみによって形成することもできるし、非処理部分も含めて全面塗布した後で、密着性が低い非処理部分の被覆層を剥がして形成することもできる。
【0108】
非塗工部分は、基材の多孔フィルムの両端に設けることができ、及び/又は、幅方向の数箇所に設けることもできるが、端部が非塗工面であると、巻取りの際などでシワが発生し易いため、フィルムの両端部は塗工部分として残すことが好ましい。端部を塗工面としておくことにより、巻取りがきれいになり、また、巻き取ったロールの塗工面の端部に圧力が集中することを防止できる。
【0109】
通常、積層多孔フィルムは、幅の広い多孔フィルムに被覆層を形成し、その後、所定の幅にスリットされるが、被覆層が硬い場合はスリット刃が摩耗し易いという問題がある。上記のようにストライプ状に被覆層を形成すると、非処理部分でフィルムをスリットでき、スリット刃の摩耗も防ぐことができる。
【0110】
(被覆層)
本発明においては、被覆層として、種々の被覆層を使用することができるが、本発明では特に、フィラーと樹脂バインダを含む耐熱層であることが好ましい。耐熱層は、フィラーと樹脂バインダとを溶媒に溶解または分散させたフィラー含有樹脂溶液(分散液)を、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの表面処理がされた面に塗布することによって、多孔フィルムの表面に形成することができる。以下に耐熱層を構成する成分とその製造方法を記載する。
【0111】
(フィラー)
本発明に用いることができるフィラーとして無機フィラー、有機フィラーなどがあるが特に制約されるものではない。
【0112】
無機フィラーの例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカなどの酸化物のほか、タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、硫酸バリウム、酸化アルミニウムが好ましい。
【0113】
有機フィラーの例としては、超高分子量ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、メラミン、ベンゾグアナミンなどの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、特に架橋させたポリスチレンなどが好ましい。
【0114】
前記フィラーの平均粒径としては、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上であり、上限として好ましくは3.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。平均粒径を0.1μm以上とすることで、積層多孔フィルムの収縮率を低減して破膜しにくくする観点、及び、耐熱性を実現する観点から好ましい。一方、平均粒径を3.0μm以下とすることで、積層多孔フィルムの収縮率を低減して破膜しにくくする観点から好ましい。また、平均粒径を1.5μm以下とすることは、層厚の小さい多孔層を良好に形成する観点、及び無機フィラーの多孔層中における分散性の観点から好ましい。
【0115】
なお、本実施の形態において「無機フィラーの平均粒径」とは、SEMを用いる方法に準じて測定される値である。
【0116】
耐熱層において、前記フィラーと前記樹脂バインダとの総量に占めるフィラーの割合(以後、「F%」と称す)が92質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。前記F%が92質量%以上であれば、連通性がある積層多孔フィルムを作製でき、優れた透気性能を示すことができるために好ましい。
【0117】
(樹脂バインダ)
本発明に用いることができる樹脂バインダの例として、前記フィラー、前記ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムを良好に接着でき、電気化学的に安定で、かつ積層多孔フィルムを電池用セパレータとして使用する場合には、有機電解液に対して安定であれば特に制限はない。具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素樹脂[ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン−トリクロロエチレンなど]、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルアルコール(PVA)、シアノエチルポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアラミド、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの有機バインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。これらの中でもポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸が好ましい。
【0118】
(耐熱層の形成方法)
本発明においては、前記フィラーと前記樹脂バインダとを溶媒に溶解または分散させたフィラー含有樹脂溶液(分散液)を、前記ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの表面処理がされた面に塗布することによって、多孔フィルムの表面に耐熱層を形成することができる。
【0119】
前記溶媒としては、前記フィラーと前記樹脂バインダとが均一かつ安定に溶解または分散可能な溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサンなどを挙げることができる。また、無機フィラー含有樹脂溶液を安定化させるため、あるいはポリオレフィン樹脂多孔膜への塗工性を向上させるために、前記分散液には界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、酸やアルカリを含めたPH調製剤、等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去や可塑剤抽出の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば、電池内(積層多孔フィルム内)に残存してもよい。
【0120】
前記フィラーと前記樹脂バインダとを溶媒に溶解または分散させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法、等が挙げられる。
【0121】
前記分散液をポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの表面に塗布する方法としては、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定されない。このような塗布方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、等が挙げられる。また、前記分散液は、その用途に照らし、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの片面だけに塗布されてもよいし、両面に塗布されてもよい。
【0122】
前記溶媒としては、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムに塗布した分散液から除去され得る溶媒であることが好ましい。溶媒を除去する方法としては、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムに悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定することなく採用することが出来る。溶媒を除去する方法としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムを固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、樹脂バインダに対する貧溶媒に浸漬して樹脂バインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法などが挙げられる。
【0123】
なお、本発明のポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの表面に耐熱層を積層した積層多孔フィルムは、上述した製造方法とは異なる方法を用いて製造することも可能である。例えば、一方の押出機にポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの原料を投入し、他方の押出機に耐熱層の原料を投入し、一つのダイで一体化させて積層膜状物を成形した後に、多孔化処理する方法を採用することも可能である。
【0124】
本発明においては、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの表面に本発明の表面処理を行なった後、インラインで耐熱層を形成することもできるが、表面処理後に多孔フィルムを巻き取って、別工程によりオフラインで耐熱層を形成することもできる。
【0125】
(積層多孔フィルムの形状及び物性)
本発明の製造方法により得られる積層多孔フィルムの膜厚は、前記のように、5〜100μmが好ましい。より好ましくは8〜50μm、更に好ましくは10〜30μmである。電池用セパレータとして使用する場合、5μm以上であれば、実質的に必要な電気絶縁性を得ることができ、例えば電極の突起部分に大きな力がかかった場合でも、電池用セパレータを突き破って短絡しにくく安全性に優れる。また、膜厚が100μm以下であれば、積層多孔フィルムの電気抵抗を小さくすることができるので、電池の性能を十分に確保することができる。
【0126】
前記耐熱層としては、耐熱性向上の観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上、特に好ましくは4μm以上である。上限としては、透過性や電池の高容量化の観点から、好ましくは90μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0127】
本発明の積層多孔フィルムにおいて、空孔率は前記のように30%〜70%が好ましく、30%以上であれば、連通性を確保し透気特性に優れた積層多孔フィルムとすることができる。また、70%以下であれば、積層多孔フィルムの強度が低下しにくく、ハンドリングの観点からも好ましい。
【0128】
本発明の積層多孔フィルムは、前記のように、JIS P8117に準拠して測定した透気度を2000秒/100ml以下としている。
【0129】
また、電池用セパレータとして使用時において、SD特性を付与するため、135℃で5秒間加熱後の透気度は10000秒/100ml以上とし、異常発熱時において空孔が速やかに閉塞し、電流を遮断して、電池の破裂等のトラブルを回避できるようにしている。
【0130】
(電池)
本発明の前記積層多孔フィルムを電池用セパレータとして収容している非水電解液電池について、
図6を参照して説明する。
【0131】
正極板21、負極板22の両極は電池用セパレータ10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。
【0132】
前記正極板21、電池用セパレータ10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、前記電解質を電池缶内に注入し、電池用セパレータ10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液電池からなる二次電池20を作製している。
【0133】
電解液としては、リチウム塩を電解質とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
【0134】
なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
【0135】
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。
【0136】
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0137】
本実施形態では、負極として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
【0138】
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0139】
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。すなわち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)に導電助剤としてリン状黒鉛を(リチウムコバルト酸化物:リン状黒鉛)の質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにする。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【0140】
[実施例]
以下に実施例および比較例を示し、本発明の表面処理方法について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0141】
(シワの評価)
巻取時に積層多孔フィルムに入るシワの評価を以下の基準により行なった。
【0142】
◎:目視にて観察してシワ発生が全くない
○:目視にて観察してシワ発生がほとんどない(実用範囲内)
△:目視にて観察して部分的にシワがある
×:目視にて観察して全面にシワがある
××:目視にて観察して全面に顕著なシワがある
(ポリオレフィン系樹脂多孔フィルム)
A層として、ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製、プライムポリプロ F300SV、密度:0.90g/cm
3、MFR:3.0g/10分)と、β晶核剤として、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンを準備した。ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、β晶核剤を0.2質量部の割合で各原材料をブレンドし、東芝機械株式会社製の同方向二軸押出機(口径:40mmφ、L/D:32)に投入し、設定温度300℃で溶融混合後、水槽にてストランドを冷却固化し、ペレタイザーにてストランドをカットし、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを作製した。ポリプロピレン系樹脂組成物のβ活性は80%であった。
【0143】
次にB層を構成する混合樹脂組成物として、高密度ポリエチレン(日本ポリエチ社製、ノバテックHD
HF560、密度:0.963g/cm
3、MFR:7.0g/10分)100質量部に、グリセリンモノエステルを0.04質量部、及びマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋社製、Hi−Mic1080)10質量部を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて220℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物を得た。
【0144】
前記2種類の原料を用いて、外層がA層、中間層がB層となるように別々の押出機を用いて、2種3層のフィードブロックを通じて積層成型用の口金より押出し、124℃のキャスティングロールで冷却固化させて、A層/B層/A層とした2種3層の積層膜状物を作製した。
【0145】
前記積層膜状物を、縦延伸機を用いて縦方向に4.6倍延伸し、その後、横延伸機にて98℃で横方向に1.9倍延伸後、熱固定/弛緩処理を行った。その結果、膜厚20μm、透気度450秒/100mlのポリオレフィン系樹脂製の積層多孔フィルムを得た。
【0146】
得られたポリオレフィン系樹脂製の多孔フィルムは、コロナ処理装置(春日電機社製、アルミ5型電極、2山×6本、ライン速度:50m/min、処理出力:1.5kW)を用いて、以下の各実施例の条件でコロナ表面処理を施した。
【0147】
(耐熱層用の塗工液)
アルミナ(住友化学社製、スミコランダムAA−03、平均粒径:0.3μm)39.2質量部、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA120、鹸化度:98.0〜99.0、平均重合度:2000)0.8質量部を60.0質量部の水に分散させた分散液を得た。
【0148】
[実施例1]
グラビア塗工方式を備えたテストコーター(ヒラノテクシード製)で上記ポリオレフィン系樹脂製多孔フィルムのコロナ処理面に上記分散液を塗工し、乾燥、巻取りをおこない積層多孔フィルムを得た。フィルム巻取部のフィルム搬送ラインとして、
図2で示す搬送ラインを用いて、フィルムに全面塗工をした。
【0149】
[実施例2]
実施例1と同様にして、上記ポリオレフィン系樹脂製多孔フィルムのコロナ処理面に上記分散液を塗工し、乾燥、巻取りをおこない積層多孔フィルムを得た。フィルム巻取部のフィルム搬送ラインとして、
図2で示す搬送ラインを用いて、フィルムに部分塗工(ストライプ塗工)をした。
【0150】
[比較例1]
実施例1と同様にして、上記ポリオレフィン系樹脂製多孔フィルムのコロナ処理面に上記分散液を塗工し、乾燥、巻取りをおこない積層多孔フィルムを得た。フィルム巻取部のフィルム搬送ラインとして、
図4で示す搬送ラインを用いて、フィルムに全面塗工をした。
【0151】
[比較例2]
実施例1と同様にして、上記ポリオレフィン系樹脂製積層多孔フィルムのコロナ処理面に上記分散液を塗工し、乾燥、巻取りをおこない積層多孔フィルムを得た。フィルム巻取部のフィルム搬送ラインとして、
図4で示す搬送ラインを用いて、フィルムに部分塗工(ストライプ塗工)をした。
【0152】
実施例1、2及び比較例1、2についてシワの評価結果を以下に示す。
【表1】
【0153】
表1で示すように、本発明の製造方法により、巻き取りの際に被覆層の側の面がタッチロールに接するように積層多孔フィルムを巻き取ることにより、シワの発生を抑制することができることが確認された。また、通常の搬送ライン(比較例2)では、部分(ストライプ)塗工によりシワの発生がより顕著となるが、本発明の方法を用いることで、部分塗工においても、シワの発生を抑制して良好な状態で積層多孔フィルムを巻き取ることできることが確認された。