特許第5976314号(P5976314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976314排水処理材及び該排水処理材を用いた排水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976314
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】排水処理材及び該排水処理材を用いた排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20060101AFI20160809BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20160809BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20160809BHJP
   B01D 39/04 20060101ALI20160809BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20160809BHJP
   B01D 39/18 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   C02F1/52 Z
   B01D21/01 101A
   C02F3/00 D
   B01D39/04
   B01D39/16 Z
   B01D39/18
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-287225(P2011-287225)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136008(P2013-136008A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】512002079
【氏名又は名称】株式会社エコリカバー
(73)【特許権者】
【識別番号】597069420
【氏名又は名称】松岡紙業 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】井上 一之
(72)【発明者】
【氏名】国島 武史
(72)【発明者】
【氏名】尹 恢允
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 常明
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−197068(JP,A)
【文献】 特開平07−096284(JP,A)
【文献】 特開2007−319792(JP,A)
【文献】 特開2009−165914(JP,A)
【文献】 特表2004−500231(JP,A)
【文献】 特許第4634725(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/01
39/00−41/04
C02F 1/28
1/52− 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水中の汚濁物質を排水から分離及び回収するために用いられる排水処理材であって、
排水中の汚濁物質を凝集する凝集剤と、
内部に空隙を有し、該空隙と外部とを連通する連通経路を含み、前記空隙を形成する表面及び前記連通経路を形成する表面を含む少なくとも表面に疎水性が付与されるとともに、前記凝集剤の少なくとも一部が、脱落しないように前記表面に付着している、網目構造体と、
を含む排水処理材であり該排水処理材を排水中の汚濁物質と接触させたときに前記凝集剤の作用により凝集した汚濁物質の凝集体が前記網目構造体に支持されることによって前記凝集体の集合体が形成されるとともに、前記集合体を前記排水から分離したときに前記集合体に含まれる水分の排出が速やかに行われるように構成されたことを特徴とする、排水処理材。
【請求項2】
請求項1に記載の排水処理材であって、前記網目構造体は、少なくとも表面が油膜で被覆された繊維材からなることを特徴とする排水処理材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の排水処理材であって、前記網目構造体は、比重が排水の比重より小さいことを特徴とする排水処理材。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の排水処理材であって、前記網目構造体は、比重が排水の比重より大きいことを特徴とする排水処理材。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の排水処理材であって、微生物活性化剤をさらに含むことを特徴とする排水処理材。
【請求項6】
排水中の汚濁物質を排水から分離及び回収するための排水処理方法であって、
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の排水処理材を排水と接触させることによって、前記凝集剤の作用により凝集した汚濁物質の凝集体が前記網目構造体に支持された集合体を形成する工程と、
前記集合体の水分を外部に排出させることによって、前記集合体を減容化する工程と、
を含むことを特徴とする排水処理方法。
【請求項7】
請求項に記載の排水処理方法であって、
前記集合体を形成する工程は、前記排水処理材を、容器内に貯留された排水中に投入する工程を含み、
集合体を形成する工程の後に、前記容器内に貯留された排水の水面近くに浮上した前記集合体又は前記容器内の排水の下方に沈降した前記集合体を、排水中から除去する工程をさらに含む、
ことを特徴とする排水処理方法。
【請求項8】
請求項に記載の排水処理方法であって、前記集合体を形成する工程は、前記排水を、前記排水処理材からなるろ材を通すことを含むことを特徴とする排水処理方法。
【請求項9】
請求項から請求項までのいずれか一項に記載の排水処理方法であって、前記集合体に支持された前記凝集体内の汚濁物質に含まれる有機物を分解させる工程をさらに含むことを特徴とする排水処理方法。
【請求項10】
請求項又は請求項に記載の廃水処理方法であって、
前記集合体を減容化する工程による減容化率は10%〜80%であることを特徴とする排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の処理に関し、特に汚濁物質を含む排水から汚濁物質を凝集させて回収するための排水処理材、及び、該排水処理材を用いた排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活排水や産業排水などの排水は、処理槽において汚濁物質と水分とを分離した後に、水分のみを下流の排水管に排出する必要がある。排水源に応じて異なる、例えば脂質、タンパク質、無機質、炭水化物といった物質からなる汚濁物質は、排水中において混濁した状態で存在している。排水中の汚濁物質を水分と分離するために、一般に、凝集剤を排水中に混合して汚濁物質を凝集させる処理が行われる。こうした汚濁物質の凝集物は、排水中から回収される。
【0003】
凝集物は、含まれる汚濁物質に応じて、処理槽の水面付近に浮上するもの、処理槽の中間部分に浮遊するもの、処理槽の底部に沈降するものなど、処理槽内に分散して存在する場合がある。凝集物は、このように排水中に分散している状態では排水中から除去することが困難であるため、処理槽内で浮上させて水面付近に集めるか、沈降させて槽の底部に集めることが好ましい。
【0004】
凝集物を水面付近に浮上させる方法として、例えば特許文献1に開示されている技術がある。特許文献1の技術は、処理槽の下方から発生させた気泡を凝集物に付着させ、気泡の浮力を利用して凝集物を水面付近に浮上させるものである。
【0005】
また、凝集物は、物理的な強度が弱いことが多く、凝集の当初からまとまりにくく、さらに外力によって処理槽内で破壊されて分散する場合がある。こうした課題を解決することを目的とした技術が、特許文献2に開示されている。この技術においては、吸着捕集助剤によって捕集された汚濁物質が繊維にからみあうことにより、破壊されにくい塊状の汚濁物質が形成される。形成された塊状の汚濁物質は、凝集沈降又は浮上させて処理される。
【0006】
同様の技術として、特許文献3に開示された技術がある。特許文献3の技術は、捕集剤又は凝集剤と合成繊維とを用いることによって、強度の高い凝集物を形成するとともに、繊維の浮力を利用して凝集物を水面付近に浮上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−239558号公報
【特許文献2】特開平7−124550号公報
【特許文献3】特開2003−53106号公報
【特許文献4】特開2002−32100号公報
【特許文献5】特開2011−45846号公報
【特許文献6】特開2001−25762号公報
【特許文献7】特開2009−165914号公報
【特許文献8】特許第4634725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献にも示されるとおり、排水中の汚濁物質を効率的に凝集してより強度の高い凝集物を形成し、その凝集物を排水中で浮上又は沈降させることについて、種々の方法が提案されている。いずれの方法においても、浮上又は沈降後に排水中から取り出された凝集物は、多量の水分を含んでいるだけでなく、含まれた水分は凝集物から脱水されにくいことが多い。多量の水分を含んだ凝集物は、その後の利用、廃棄又は保管の際における取り扱いが難しくなること、体積及び重量が大きいため保管や運搬のための空間効率性が悪くなること、廃棄物としての処理コストが高価になることなどといった様々な問題を有する。特に、吸水性の高分子化合物を含む凝集剤を用いて形成された凝集物の場合には、こうした問題は一層顕著である。したがって、排水から取り出された凝集物は、何らかの方法で適切に脱水する必要がある。
【0009】
排水から取り出された凝集物を脱水する技術について、例えば、脱水装置を用いた脱水技術が開示された特許文献4、複数段の振動篩による脱水技術が開示された特許文献5、走行する濾布による脱水技術が開示された特許文献6などがある。これらの技術のように、凝集物に物理的な処理を施すための装置を用いた技術は、凝集物の脱水効率の点では優れるものの、別途装置を配置する空間を用意することが必要であり、空間効率、環境、及びコストの面で問題がある。
【0010】
本発明は、排水中において凝集した汚濁物質の凝集物を物理的な強度が高い集合体とし、生成された凝集物の集合体を排水中で浮上又は沈降させることによって排水中から除去し易くするとともに、排水中から取り出された集合体から特別な装置を用いることなく効率的な脱水を行うことが可能となる排水処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様においては、排水中の汚濁物質を排水から分離及び回収するために用いられる排水処理材が提供される。排水処理材は、排水中の汚濁物質を凝集する凝集剤と、内部に空隙を有し、該空隙と外部とを連通する連通経路を含み、空隙を形成する表面及び連通経路を形成する表面を含む少なくとも表面に疎水性が付与された、網目構造体と、を含む。排水処理材は、排水処理材に含まれる凝集剤の作用により凝集した汚濁物質の凝集体が、同様に排水処理材に含まれる網目構造体に支持されることによって、物理的な強度の高い凝集体の集合体が形成されるように構成される。さらに、排水処理材は、集合体を排水から分離したときに集合体に含まれる水分の排出が速やかに行われるように構成される。排水処理材に含まれる網目構造体は、少なくとも表面が油膜で被覆された繊維材からなることが好ましい。
【0012】
排水処理材に含まれる網目構造体は、比重が排水の比重より小さいものを選択することができる。この場合には、生成される集合体は、排水中において水面近傍に浮上する。排水処理材に含まれる網目構造体は、比重が排水の比重より大きいものを選択することもできる。この場合には、生成される集合体は、排水中において下方に沈降する。
【0013】
排水処理材は、空隙及び連通経路内に凝集剤の少なくとも一部が存在するように構成されていることが好ましい。また、排水処理材は、微生物活性化剤をさらに含んでいることが好ましい。さらに、排水を排水処理材と接触させることにより生成された集合体は、網目構造体の少なくとも一部が集合体の表面に現れていることが好ましい。
【0014】
本発明の別の態様においては、排水中の汚濁物質を排水から分離及び回収するための排水処理方法が提供される。排水処理方法は、上述の排水処理材を排水と接触させることによって、凝集剤の作用により凝集した汚濁物質の凝集体が網目構造体に支持された集合体を形成する工程と、集合体の水分を外部に排出させることによって集合体を減容化する工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
排水処理方法は、集合体を形成する工程が、排水処理材を容器内に貯留された排水中に投入する工程を含み、集合体を形成する工程の後に、容器内に貯留された排水の水面近くに浮上した集合体又は容器内の排水の下方に沈降した集合体を、排水中から除去する工程をさらに含むことが好ましい。別の実施形態においては、排水処理方法は、集合体を形成する工程が、排水を排水処理材からなるろ材を通すことを含むようにすることもできる。
【0016】
排水処理方法は、集合体に支持された凝集体内の汚濁物質に含まれる有機物を分解させる工程をさらに含んでもよい。
【0017】
集合体は、排水中から取り出された後に速やかに脱水されて減容化されるが、集合体を減容化する工程による減容化率は10%〜80%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排水中の汚濁物質の凝集体を集合させて物理的な強度の高い集合体とし、生成された集合体を処理槽における排水中の上方に浮上又は下方に沈降させることによって、集合体を排水中から取り出すことが容易になり、効果的な水質改善が可能となる。疎水性が付与された表面に排水中の油脂が吸着されるため、より高い水質改善効果が得られる。
【0019】
また、表面に疎水性が付与されているため、集合体に取り込まれた水分は、集合体を排水中から取り出したときに速やかに排出され、その後に利用、保管、運搬又は廃棄される集合体の体積及び重量を著しく低減することが可能となる。その結果、集合体の利用、保管、運搬、及び廃棄に要するエネルギーを削減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
<排水>
本発明の排水処理材による処理対象の排水は、産業排水、家庭排水などといったあらゆる種類の排水とすることができる。本発明の排水処理材は、例えば厨房排水のように、汚濁物質として油脂及び固形分を有し、これらが混濁した状態で水中に浮遊又は溶け込んでいる排水の処理に用いるのに特に適している。
【0021】
<凝集剤>
本発明の排水処理材の成分として用いることができる凝集剤は、無機系凝集剤、有機系凝集剤のいずれであってもよい。無機系凝集剤としては、例えば珪酸、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、硫酸鉄などを用いることができる。無機系凝集剤を用いて生成される凝集体は、小さめで壊れやすいものが多い。有機系凝集剤としては、天然高分子系凝集剤及び合成高分子系凝集剤のいずれを用いることもできる。高分子系凝集剤は、イオン性によって、カチオン(プラスイオン)、アニオン(マイナスイオン)、ノニオン(中性)、両性高分子凝集剤があり、これらのいずれを用いてもよい。無機系と比較すると、有機系凝集剤を用いて生成される凝集体は大きいものが多い。このように、凝集剤を用いて生成される凝集体の性質は、本来、凝集剤の種類によって異なるものであるが、本発明においては、網目構造体の表面積や網目の粗さを調節することによって凝集体をより効果的に捕捉して集合体を形成することが可能であるため、無機系凝集剤、有機系凝集剤のいずれを用いることもできる。実際に使用する凝集剤の種類は、排水に含まれる汚濁物質の成分及び濃度に応じて適宜選択されることが好ましい。
【0022】
<網目構造体>
本発明の排水処理材の成分として用いることができる網目構造体は、その内部に多数の空隙を有し、これらの多数の空隙と網目構造体の外部とを連通する多数の連通経路を含む構造を有するものである。空隙及び連通経路の大きさ及び数は特に限定されない。
【0023】
上述の凝集剤は、網目構造体と一体化していることが好ましい。ここで一体化とは、凝集剤が網目構造体から容易に脱落しないように、凝集剤が、例えば物理的、化学的又は電気的作用によって、網目構造体に付着している状態をいう。こうした凝集剤と網目構造体との一体化は、例えば、網目構造体の表面の突起若しくは網目又は表面の油膜等に凝集剤が捕捉されることによる物理的な接着、網目構造体の表面に塗布された接着剤などの有する親和力による凝集剤の網目構造体への接着、又は凝集剤と網目構造体のイオン吸着などによって、実現することができる。
【0024】
凝集剤の作用のみで排水中の汚濁物質が凝集することによって生成される凝集体は、そのままでは物理的な強度が低い。そのため、こうした凝集体は、排水の流れによる衝撃を受けたり排水中から回収される際に衝撃を受けたりすると破砕され、排水中から凝集体を効率的に回収することができない。また、生成された凝集体は、排水中で微小な多数の凝集体として浮遊することが多い。したがって、凝集体のままでは、効果的な水質改善効果が得られない場合が多い。本発明の排水処理材を用いると、物理的強度が低く、場合によっては微小な多数の凝集体が、網目構造体の網目と絡み合い、網目構造体に支持された一体的で強度の高い集合体を形成する。この集合体は、排水中の流れや排水中からの回収による衝撃によって容易に破砕されないものである。したがって、排水からの汚濁物質の分離及び回収が効果的に行われ、水質改善効果が高まるとともに、集合体の回収に要する作業時間の短縮も可能になる。集合体の物理的な強度を維持するために、網目構造体は、排水中においてそれ自体の形状や構造が破壊されないように不溶性・耐水性を有することが望ましい。
【0025】
また、網目構造体は、内部に多数の空隙を有し、これらの空隙と網目構造体の外部とを連通する多数の連通経路を有しており、空隙及び連通経路の内部に汚濁物質の一部を取り込むこともできるため、汚濁物質の効果的な分離が可能である。連通経路のサイズが十分に小さい場合には、毛細管現象によって水分とともに汚濁物質を排水中から取り込むこともできるため、さらに効果的な分離が可能となる。さらに、凝集剤の一部が空隙及び連通経路の内部に存在するように排水処理材を構成すれば、内部に取り込まれた汚濁物質を凝集させることができるため、汚濁物質のさらに効率的な除去効果が得られる。
【0026】
さらに、網目構造体は、空隙を形成する表面及び連通経路を形成する表面を含む少なくとも表面に、疎水性が付与されている。そのため、特に排水中に油脂等の脂質が含まれている場合には、その脂質が網目構造体の疎水性の表面に吸着されるため、排水からの脂質の分離効率がより高くなり、水質改善効果の向上が可能になる。また、集合体の物理的な強度もより高くなる。網目構造体の表面に疎水性を付与する手段としては、網目構造体の表面を油膜で被覆する方法、網目構造体の表面をシリコーン樹脂で覆ったり表面をフッ素加工したりする方法がある。
【0027】
さらに、網目構造体は少なくとも表面に疎水性が付与されているため、集合体が排水中から取り出されたときに、集合体に取り込まれた水分は速やかに集合体から排出される。また、内部に取り込まれた水分も毛細管現象によって連通経路を通って外部に排出されるため、集合体の脱水効果は高い。また、空隙を形成する表面及び連通経路を形成する表面にも疎水性が付与されていることによって、集合体に含まれる水分はより効率的に排出される。集合体からの脱水効果が高ければ、排水中から集合体を回収するときに脱水が進み、回収直後の集合体の重量がより小さくなる。したがって、その後の集合体の利用又は廃棄の際に、運搬、保管及び処分に要するエネルギーが削減されるという利点がある。
【0028】
本発明の排水処理材によって生成される集合体は、排水中において鉛直方向のいずれかの位置に任意に誘導できれば、その後の集合体の回収の利便性が向上する。本発明の排水処理材においては、網目構造体の比重を調整することによって、集合体の位置を制御することができる。例えば、網目構造体として、処理対象である排水の比重より小さい比重の材料を用いた場合には、凝集物及び網目構造体からなる集合体を排水中において水面近傍に浮上させることができる。逆に、網目構造体として、処理対象の排水の比重より大きい比重の材料を用いた場合には、凝集物及び網目構造体からなる集合体を排水中において下方に沈降させることができる。必要に応じて、例えば、比重が排水の比重より大きい材料と小さい材料とからなる2種類の網目構造体を排水処理材の成分として用いれば、排水中において浮上する集合体と沈降する集合体とを形成することもできる。
【0029】
排水処理材使用量、及び、含まれる凝集剤と網目構造体との重量比は、排水に含まれる汚濁物質の成分及び濃度によって適宜変えることが好ましい。排水に含まれる汚濁物質の成分及び濃度に対して排水処理材の使用量が少なすぎると、排水中の汚濁物質の一部が集合体に取り込まれなくなるため排水からの汚濁物資の分離効果が低下する。逆に、排水処理材の使用量が多すぎると、余分な排水処理材が回収されることになるため回収コストや作業量が多くなるとともに、最終的な廃棄物量が多くなる。同様に、排水に含まれる汚濁物質の成分及び濃度に対して排水処理材に含まれる凝集剤の量が相対的に少なすぎると、排水中の汚濁物質を効果的に凝集することができないため排水からの汚濁物資の分離効果が低下する。逆に、凝集剤の量が相対的に多すぎると、余分な凝集剤を使用することになることに加えて、生成される集合体の強度が低下する。
【0030】
本発明の排水処理材によって生成される集合体においては、網目構造体の表面全体が凝集体によって覆われていてもよいし、網目構造体の表面全体が凝集体に覆われずに網目構造体の一部が集合体の表面から外部に現れていてもよい。一実施形態においては、排水処理材によって生成される集合体は、網目構造体の少なくとも一部が集合体の表面から外部に現れていることが好ましい。集合体の表面から外部に現れている網目構造体の少なくとも一部が、いわば水の「通り道」として機能することによって、集合体に取り込まれた水は、さらに速やかに集合体の外部に排出されることになる。
【0031】
また、一実施形態においては、集合体が排水中において飽和状態にあるときに、網目構造体の体積は、集合体の体積の約5%以上であることが好ましい。ここで集合体が排水中において飽和状態にあるとは、排水処理材が排水中に投入された後、十分に時間が経過して、排水処理材に含まれる凝集剤がその限界まで汚濁物質を凝集し、集合体と排水との間で水の出入りがなくなった状態をいう。この条件は、発明者らが行った実験により、凝集剤によって形成された凝集体の比重が約1.0であり、網目構造体の比重が約0.3である場合に、網目構造体の占める体積が集合体の約5%以上のときに排水中から取り出すことができた集合体の量が、網目構造体の占める体積が集合体の約5%より小さいときと比べて多くなるという結果が得られたことに基づくものである。
【0032】
<網目構造体の例>
本発明の排水処理材における網目構造体としては、例えば、繊維材が絡み合うことによって立体的な構造体(三次元構造体)として形成されたものや、例えば焼結体又はスポンジといった多孔質材料からなるものなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。網目構造体として、比表面積の大きな材料を用いることが好ましい。一実施形態においては、網目構造体として、少なくとも表面を油膜で被覆することによって表面が親油性を有する繊維材が絡まり合うことにより全体として三次元的な網目構造を呈するようになったものを利用することがより好ましい。繊維材として、天然繊維、合成繊維などといった様々な繊維材を用いることができる。例えば、繊維材として、外表面の全体にわたってワックスがコーティングされた段ボール紙を繊維状に粉砕することによって得られる繊維材を用いることができ、こうした繊維材及びその製造方法については、例えば特許文献7に開示されている。網目構造体として天然繊維材を用いた場合には、天然繊維材は一般に水より比重が小さいため、生成された集合体は排水中において水面近傍に浮上する。一実施形態においては、繊維材は、長さが約0.3mm〜約50mmであることが好ましい。
【0033】
<排水処理材に混合することができる他の物質>
本発明の排水処理材には、必要に応じて他の物質を混合することができる。こうした物質として、例えば、微生物活性化剤、吸着剤などが挙げられる。排水処理材に微生物活性化剤を混合することによって、微生物を活性化させて、集合体に支持された凝集体内の汚濁物質に含まれる有機物の分解を促進し、例えば回収後の利用又は保管等における悪臭の低減を可能にする。こうした用途に適した微生物活性化剤としては、例えば特許文献8に記載される活性化剤がある。
【0034】
また、排水処理材に吸着剤を混合することによって、排水中のより多くの汚濁物質を集合体に取り込むことが可能になる。さらに、網目構造体及び凝集体からなる集合体の比重を変えることができる物質を排水処理材に混合し、用途に応じて排水中における集合体の位置を制御するようにしてもよい。
【0035】
<排水処理材の製造方法>
本発明の排水処理材は、凝集剤と網目構造体とを容器内に投入し、撹拌・混合することによって製造することができる。撹拌・混合は、網目構造体の内部の空隙にも凝集剤が入り込むように、十分に行われることがより好ましい。網目構造体の内部の空隙に凝集剤が入り込むようにすることにより、網目構造体の内部の空隙にも汚濁物質が取り込まれるため、排水からの汚濁物質の分離効果がより高まる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いることによって、本発明の排水処理材を用いた排水処理方法及び作用効果を具体的に説明する。
(繊維材を含む排水処理材による厨房排水の処理)
ここでは、繊維材からなる網目構造体を含む排水処理材による厨房排水処理の実施例を説明するとともに、本発明の排水処理材の使用方法及び作用効果を説明する。本実施例においては、凝集剤として株式会社エコリカバー製 無機凝集剤を用い、網目構造体として、表面に油膜が形成された繊維材(松岡紙業株式会社製、製品名;ECO2)からなる網目構造体を用いた。排水処理材は、無機凝集剤と繊維材とを容器内にて攪拌・混合して一体化した状態となるように製造されたものを用いた。処理対象の厨房排水量は8リットルであり、排水中の油脂成分濃度は8,600mg/リットルであった。容器に収容した厨房排水8リットルに対して、無機凝集剤と繊維材との割合が表1の実施例1及び実施例2に示される排水処理材を投入し、排水を約1分間撹拌した。
【0037】
厨房排水は、汚濁物質として厨房から排出される上述のような油脂及び固形分からなる成分を有し、これらが混濁した状態で水中に浮遊又は溶解している。厨房排水は、処理槽で汚濁物質を除去してから公共の下水に排出することが義務付けられている。この処理槽は、通常、グリストラップと呼ばれる。グリストラップには、時間ともに油脂及び固形分が溜まるため、これらの油脂及び固形分は定期的に除去しなければならない。しかし、グリストラップでは、固形分の一部はバスケットによって除去されるものの、除去されなかった固形分及び油脂は、浄化槽内に高濃度かつ混濁した状態で一体的に排水中に浮遊又は溶解しているため、除去作業に多くの手間と時間がかかる。したがって、本発明の排水処理材を用いて、油脂及び固形分を一体的な集合体として浄化槽の水面近傍に誘導することによって、除去作業が容易になる。
【0038】
本発明の排水処理材は、好ましくは、こうしたグリストラップの排水中に投入して用いられる。排水処理材が排水中に投入されると、排水処理材と排水とが接触して、排水中の油脂及び固形分からなる汚濁物質が、排水処理材に含まれる凝集剤の作用によって凝集し、凝集体が形成される。形成された凝集体は、排水処理材に含まれる繊維材と絡み合い、繊維材に支持された物理的な強度の高い一体的な集合体を形成する。繊維材からなる網目構造体は、繊維材同士の隙間、すなわち、内部の多数の空隙及びこれらの空隙と網目構造体の外部とを連通する経路を有している。そのため、これらの空隙及び連通経路にも汚濁物質が取り込まれる。さらに、排水処理材が、これらの空隙及び連通経路にも凝集剤が存在するように構成されている場合には、それらの凝集剤が汚濁物質を凝集させて網目構造体の内部に閉じ込めるため、汚濁物質のさらに効果的な分離が可能であり、強度がより高い集合体が得られる。繊維材は、表面に油膜が形成されているため、排水中の油脂を効果的に吸着することができ、厨房排水からの油脂の分離効率がより高くなり、水質がさらに改善される。なお、排水処理材を処理槽に投入した後、処理槽内の排水を人為的に撹拌することがより好ましい。撹拌することによって、網目構造体と生成された凝集体とを、より速やかに、かつ、強く絡み合わせることができる。繊維材の少なくとも表面には油膜が形成されているため、生成された集合体は排水中において浮力を生じ、浄化槽の水面近傍に浮上する。水面近傍に浮上した集合体は、容易に回収される。
【0039】
グリストラップにおいて形成され、処理槽の水面近傍に浮上した集合体は、処理槽から回収され、堆肥などとして利用されるか、又は廃棄されることになる。繊維材は油膜が形成されているため、集合体に取り込まれた水は、集合体が排水中から回収されるときに集合体から容易に排出される。繊維材からなる網目構造体の内部に取り込まれた水分も、繊維材の間の隙間をとおって外部に排出される。したがって、排水中の汚濁物質を凝集剤のみで凝集させることによって生成された凝集物を排水中から回収した場合と比べて、排水中から回収した直後における集合体の重量を著しく減少させることができるとともに、回収後における保管中において排出される水の量を減少させることができる。
【0040】
表1は、排水処理材を用いて厨房排水を処理した場合における汚濁物質の除去効果について、排水中の油脂成分比率を示すノルマルヘキサン抽出物質量を用いて示す。表1の実施例1及び実施例2から、本発明の排水処理材を用いる前の状態の厨房排水では8,600mg/リットルであったノルマルヘキサン抽出物質量が、本発明の排水処理材を用いることによって92〜112mg/リットルまで減少しており、高い油脂分物質除去効果が得られたことが分かる。また、表1から、実施例1及び実施例2の場合は、繊維材を用いることなく凝集剤のみによって汚濁物質を分離させた比較例1の場合と比べて油脂分の除去効果は同程度であるが、凝集剤の使用量を1/2以下に削減することができるという効果も示されていることが分かる。
【0041】
【表1】
【0042】
表2は、本発明の排水処理材を用いて厨房排水を処理した後に、生成された集合体を処理槽から取り出してから40分経過した後、及び、4日間経過した後における、集合体の重量を示す。繊維材からなる網目構造体が排水処理材に含まれた実施例1及び実施例2のいずれも、回収直後(40分後)の集合体の重量は、比較例1と比べて、約1/2に減少することが分かる。また、実施例1及び実施例2の集合体について、4日後までに重量が65g〜75g減少しているが、この減少分は保管中に集合体から排出される水分の重量である。このことは、実施例1及び実施例2の場合には、比較例1の230gと比べて保管中の集合体からの脱水量が約1/3まで低減されることを示しており、保管中における脱水量が減少したことが分かる。
【0043】
【表2】