(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光透過性基材上に塗布したマット層を有してなり、前記マット層はバインダー樹脂と顔料とを含み、前記顔料の平均粒子径と前記マット層の厚みとの比率が0.5〜3倍であり、前記顔料の粒子径の変動係数が20%以上、35%以下であり、前記顔料の平均粒子径が4〜12μmであり、ヘーズが60%以上であることを特徴とする目隠し用シート。
【背景技術】
【0002】
近年、商業施設の大面積透明窓ガラス等の一部等を目隠しするために、目隠し用シートを貼合することが行なわれている。この目隠し用シート(例えば特許文献1参照)は、光透過性基材表面に微細な凹凸が有り、透過光線が散乱されるので外からの視界が妨げられる。
【0003】
一般に、目隠し用シートは、光透過性基材表面に微細な凹凸を施している。その凹凸を施す方法にはいくつかあり、代表的な方法として、光透過性基材表面に砂を打ち付け光透過性基材表面を荒らすサンドブラスト法と、光透過性基材表面に塗料を塗布乾燥しマット層を設ける塗工法がある。近年は量産性に優れた後者の塗工法をとることが多い。
【0004】
この塗工法によるマット層は主に、バインダーとなる樹脂と顔料の混合物であり、その目隠し度と鏡面光沢度は樹脂と顔料の種類と量の選択によるところが大きい。
【0005】
しかし、これらの手法では目隠し度が良好でも、マット層表面を見る角度により鏡面光沢度が変化し、見かけの外観に不具合が生じたり、あらゆる角度から入光する外光が反射することにより生じる反射公害の懸念が有った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、光透過性基材表面のマット層において、鏡面光沢度の角度依存性が抑えることができる 目隠しシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、マット層の顔料として粒子径の変動係数が20%以上である顔料を選択した。そして、粒子径の変動係数が20%以上である顔料を含有することにより、光透過性基材表面のマット層において、鏡面光沢度の角度依存性も抑えた目隠しシートを得ることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の目隠し用シートは、光透過性基材上に塗布したマット層を有してなり、前記マット層はバインダー樹脂と顔料とを含み、前記顔料の平均粒子径と前記マット層の厚みとの比率が0.5〜3倍であり、前記顔料の粒子径の変動係数が20%以上、35%以下
であり、前記顔料の平均粒子径が4〜12μmであり、ヘーズが60%以上であることを特徴とするものである。
【0011】
なお、本発明でいう鏡面光沢度は、JIS−Z8741:1997に基づき光沢計を用いて測定した(単位は%)。鏡面光沢度は、マット層表面に入射した光の反射の程度を示すパラメータであり、この値が小さいほど低光沢度であるとされ、低光沢度であるほど艶消し効果があるものと判断される。45度鏡面光沢度(G45)とは、マット層表面の垂直方向を0度とし、ここから45度傾いた角度で入射した100の光が、反射側に45度傾いた受光部にどれだけ反射(受光部に入射)するかを示すパラメータである。60度鏡面光沢度(G60)、75度鏡面光沢度(G75)も同様の考えによる。
【0012】
また、本発明でいう平均粒子径は、コールターカウンター法によって測定した値である。
【0013】
また、本発明でいう顔料の粒子径の変動係数は、顔料の粒子径のばらつきが平均粒子径に対してどの程度あるのかを表したものであり、その値は、粒子径の標準偏差を平均粒子径で除して求められた値の百分率値である。そして、粒子径の変動係数が小さいほど粒度分布が狭く、粒子径が均一で粒子サイズが揃っていることを意味し、逆に、粒子径の変動係数が大きいほど粒度分布が広く、粒子径が不均一で粒子サイズが揃っていないことを意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の目隠しシートを窓ガラスに貼ると、外部からの視界を十分妨げることができ、優れた目隠し効果が得られる。また、光透過性基材表面のマット層において、鏡面光沢度の角度依存性も抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目隠し用シートは、光透過性基材上にマット層を有してなり、前記マット層はバインダー樹脂と顔料とを含み、前記顔料の粒子径の変動係数が20%以上であることを特徴とするものである。以下、各構成要素の実施の形態について説明する。
【0017】
本発明の目隠し用シートは、光透過性基材上にマット層を有する構成となっている。
【0018】
光透過性基材としては、各種光透過性プラスチックフィルムや光透過性ガラスを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、フッ素系樹脂などからなるプラスチックフィルムを用いることができる。これら光透過性基材の厚みは特に制限されないが、6μm〜2mm程度とすることが好ましく、さらには12μm〜200μm程度とすることが好ましい。また、これらは全光線透過率が50%以上のものが好ましく、70%以上のものがより好ましく、90%以上のものがさらに好ましい。紫外線吸収剤や光安定剤を含有しているものでも良い。
【0019】
マット層は、バインダー樹脂と顔料とを含む。
【0020】
マット層に含まれるバインダー樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン/ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリイソシアネート、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられる。バインダー樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物が用いられ、使用するフィルム基材への接着性、光透過性、使用する顔料の分散性等を考慮し、選択することができる。
【0021】
マット層に含まれる顔料としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの無機粒子、アクリル系樹脂粒子、シリコーン系樹脂粒子、ナイロン系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子、ベンゾグアナミン系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子などの樹脂粒子があげられる。本発明では無機粒子を用いても良いが、球形の樹脂粒子を用いると、鏡面光沢度の角度依存性をより抑えることができるので、球形の樹脂粒子が好ましく用いられる。
【0022】
本発明では、マット層の顔料として粒子径の変動係数が20%以上である顔料を含有することにより、鏡面光沢度の角度依存性を抑えることができた。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0023】
まず、種々の入射角での入射光の反射光量を調べて見ると、マット層の表面に対して鉛直方向に近い角度の反射光量を抑えるには、単に表面が粗れていれば低光沢になるが、G45、G60およびG75のように水平方向に近い角度から入射した光の反射量を抑えるには、単に粗れているだけでは低光沢にならない場合があった。鋭意検討した結果、鉛直に近い方向からの入射光の反射を抑えるには、マット層の表面の小さな凹凸で均一に粗らす手段でも有効であるが、水平に近い方向からの入射光の反射を抑えるには、小さな凹凸だけでは達成できず、大きくて深い凹凸が存在している必要があることが判った。
【0024】
以下、図を用いて説明を行なう。まず、粒子径の変動係数が20%以下の顔料は、その値が小さいので、顔料の粒子径は比較的揃っている。そして、粒子径の変動係数が20%以下の顔料を含むマット層では、顔料の粒子径が揃っているので、マット層の表面には、小さくて浅い凹凸ができやすい(
図1)。一方、粒子径の変動係数が20%以上の顔料は、その値が大きいので、顔料の粒子径は不揃いである。そして、粒子径の変動係数が20%以上の顔料を含むマット層では、顔料の粒子径が揃っていないので、マット層の表面には大きくて深い凹凸と、小さな凹凸の両方が併存しているものができやすい(
図2)。
【0025】
そして
図2のように、粒子径の変動係数が20%以上の顔料を含むマット層では、水平方向に近い角度から入射した光は、大きい凸部分で遮られ、反対方向へは到達し難く、遮られた光は、小さい凹凸で吸収されるか、乱反射されて減衰すると考えられる。従って、粒子径が揃っていない顔料が存在し大きくて深い凹凸があることにより、鏡面光沢度の角度依存性を抑えることができると考えられる。
【0026】
以上のように、本発明では、マット層の顔料として粒子径の変動係数が20%以上である顔料を含有することにより、マット層の表面に大きくて深い凹凸と小さい凹凸が存在し、鏡面光沢度の角度依存性を抑えることができる。なお、顔料の粒子径の変動係数は、25%以上がよりに好ましく、30%以上がさらに好ましい。
【0027】
また、顔料の平均粒子径は、マット層の厚みにより異なるため一概には言えないが、4〜12μmが好ましい。顔料の平均粒子径が4μm以上であると、マット層の表面に大きくて深い凹凸が生じやすくなり、鏡面光沢度の角度依存性を抑えやすくなる。また、顔料の平均粒子径が12μm以下であれば、顔料の塗膜からの脱落を防ぎやすくなる。なお、顔料の平均粒子径は、4.5〜11μmがよりに好ましく、5〜10μmがさらに好ましい。
【0028】
さらに、顔料の平均粒子径は、マット層の厚みに対して0.5〜3倍が好ましい。顔料の平均粒子径がマット層の厚みに対して0.5倍以上であると、マット層の表面に大きくて深い凹凸が生じやすくなり、鏡面光沢度の角度依存性を抑えやすくなる。また、顔料の平均粒子径がマット層の厚みに対して3倍以下であれば、顔料の塗膜からの脱落を防ぎやすくなる。なお、顔料の平均粒子径は、マット層の厚みに対して0.6〜2.5倍がより好ましく、0.7〜2倍がさらに好ましい。
【0029】
また、顔料の含有量は、要求される隠蔽性や光沢度が異なるため一概には言えないが、バインダー樹脂100重量部に対して20〜80重量部にするのが好ましい。バインダー樹脂100重量部に対して、顔料の含有量を20重量部以上とすることにより、目隠し効果が十分にしやすくなり、80重量部以下とすることにより、基材との接着性を保つことができる。なお、顔料の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して30〜70重量部とすることがより好ましく、40〜60重量部とすることがさらに好ましい。
【0030】
さらに本発明では、マット層の厚みは、顔料の粒子径により異なるが4〜8.5μmであることが好ましい。マット層の厚みを4μm以上とすることにより、マット層の表面には大きくて深い凹凸ができやすくなり、鏡面光沢度の角度依存性を抑えやすくなる。また、マット層の厚みを8μm以下とすることにより、粒子がマット層に埋れにくくなるので、マット層の表面には大きくて深い凹凸ができやすくなる。なお、マット層の厚みは、4.5〜8μmであることがより好ましく、5〜7.5μmであることがさらに好ましい。
【0031】
以上の目隠し用シートの目隠し効果の指標としては、JIS K7136:2000のヘーズが60%以上であることが好ましい。
【0032】
プラスチックフィルムのマット層とは反対側の面には、被着体に貼り合わせるための接着層を設けることが好ましい。接着層としては、アクリル系感圧接着剤、ゴム系感圧接着剤などの感圧接着剤、ホットメルト接着剤などの接着剤の他、熱圧着可能な熱可塑性樹脂フィルムなどを用いることができる。感圧接着剤を用いる場合、接着層上には、目隠し用シートの取り扱い性を損なわないようにセパレータを貼り合わせておくことが好ましい。セパレータとしては、各種合成樹脂フィルムに離型処理を施したものなどを使用することができる。
【0033】
なお、マット層、および接着層には、紫外線吸収剤、または紫外線遮蔽剤を添加しても良い。そうすることによって、目隠し用シートを貼合した被着体の内側にある物の紫外線劣化を防ぐことができる。
【0034】
上述したマット層、接着層中には、硬化剤、レベリング剤などの添加剤を添加してもよい。
【0035】
以上のようなマット層、接着層を設ける方法としては、各層を構成する材料を、適宜必要に応じて添加剤や希釈溶剤等を加えて塗布液として調整して、当該塗布液を従来公知のコーティング方法により塗布、乾燥する方法があげられる。
【0036】
以上説明した本発明の目隠し用シートは、主として、窓ガラスや間仕切りなどの外側、または内側に貼り付けて使用されるが、接着層のないマットフィルムを透明ガラス窓の外側、または内側に吊るしても同様の効果が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0038】
1.目隠し用シートの作製
基材として、厚み50μmのPETフィルム(HB3:帝人デュポン社)を使用し、その一方の面に、下記処方の塗布液をそれぞれバーコート法により乾燥後の厚みが表1の厚みとなるように塗布した。各塗布液の各顔料の粒子径の変動係数、平均粒子径を表1に示す。各塗布液の固形分はいずれも30%に調製した。
【0039】
その後、乾燥を行ってマット層を形成し、実施例1〜12および比較例1〜6の目隠し用シートを作製した。各マット層の厚みは、後述の表1に示した。
【0040】
<目隠し用シート塗布液の処方>
・樹脂(固形分35.2%) 41.8部
(916-257スプラクリヤーTXF:ミクニペイント株式会社)
・触媒(固形分78.5%) 4.2部
(D14-354:ミクニペイント株式会社)
・表1記載の顔料 9.0部
・希釈溶剤 35.0部
【0041】
なお、表1記載の 粒子径の変動係数32%、平均粒子径5μmの顔料は積水化成品工業株式会社のMB20X−5、粒子径の変動係数35%、平均粒子径7μmの顔料は積水化成品工業株式会社のMBX−8、粒子径の変動係数35%、平均粒子径10μmの顔料はガンツ化成株式会社のGM1007S、粒子径の変動係数10%、平均粒子径3μmの顔料は東芝シリコーン株式会社のトスパール130、粒子径の変動係数10%、平均粒子径10μmの顔料は綜研化学株式会社MX1000KSを用いた。
【0042】
【表1】
【0043】
CV:顔料の粒子径の変動係数(%)
R:顔料の平均粒子径(μm)
T:マット層の厚み(μm)
R/T:顔料の平均粒子径をマット層の厚みで割った値(倍)
【0044】
2.評価
各実験例で得られた目隠し用シートについて、下記の方法で鏡面光沢度の角度依存性の評価をした。結果を表2に示す。
【0045】
表2より、G45、G60及びG75の最大値を最小値で割った値が小さいほど、鏡面光沢度の角度依存性が低いことが認められる。
【0046】
評価結果
【表2】
【0047】
鏡面光沢度の最大値/最小値:G45、G60及びG75の最大値を最小値で割った値
【0048】
3.考察
表2から以下のことが理解できる。
実施例1〜12の目隠し用シートは、顔料を含み、顔料の粒子径の変動係数が20%以上であり、G45、G60及びG75の最大値を最小値で割った値が1.04〜1.45と小さい値となり、鏡面光沢度の角度依存性が低いことが認められた。
特に、実施例9〜12の目隠し用シートは、顔料の粒子径の変動係数が35%と大きく、また顔料の平均粒子径も10μmと大きいので、G45、G60及びG75の最大値を最小値で割った値が1.04〜1.21と小さい値となり、鏡面光沢度の角度依存性をさらに低くすることができた。
【0049】
一方、比較例1〜6の目隠し用シートは、顔料の粒子径の変動係数が20%以上から外れるので、G45、G60及びG75の最大値を最小値で割った値が1.47〜2.34と大きくなり、鏡面光沢度の角度依存性が高いことが認められた。
【0050】
したがって、顔料を含み、顔料の粒子径の変動係数、顔料の平均粒子径とマット層の厚みを特定の範囲とした本発明の優位性は示されている。
【0051】
以上のように、すべての実施例の目隠し用シートにおいて、G45、G60及びG75の最大値を最小値で割った値が、比較例の目隠し用シートと比べて小さく、鏡面光沢度の角度依存性が低いことが認められた。また、目隠し用シートの目隠し効果の指標として、実施例のヘーズは60%以上で良好な目隠し効果が得られることが確認できた。