特許第5976335号(P5976335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5976335-構造物の表面処理方法 図000002
  • 特許5976335-構造物の表面処理方法 図000003
  • 特許5976335-構造物の表面処理方法 図000004
  • 特許5976335-構造物の表面処理方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976335
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】構造物の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/50 20060101AFI20160809BHJP
   C23C 22/58 20060101ALI20160809BHJP
   C23C 22/48 20060101ALI20160809BHJP
   C23C 22/82 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
   C23C22/50
   C23C22/58
   C23C22/48
   !C23C22/82
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-33138(P2012-33138)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170275(P2013-170275A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】金留 正人
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 博徳
(72)【発明者】
【氏名】吉永 智美
(72)【発明者】
【氏名】三井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴司
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−260160(JP,A)
【文献】 特開昭51−119630(JP,A)
【文献】 特表2005−508823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともクロムを含む材料からなる構造物の表面に過酸塩水溶液を供給することで、前記構造物中のクロムによる被膜を該構造物の表面に形成する表面処理方法であって、
前記構造物を前記過酸塩水溶液に浸漬する浸漬工程と、
該浸漬工程の後に、前記過酸塩水溶液を加熱する加熱工程とを備えることを特徴とする構造物の表面処理方法。
【請求項2】
請求項に記載の表面処理方法において、
前記過酸塩水溶液は、過マンガン酸カリウムを含む水溶液であることを特徴とする構造物の表面処理方法。
【請求項3】
請求項に記載の表面処理方法において、
前記過酸塩水溶液は、過鉄酸カリウムを含む水溶液であることを特徴とする構造物の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電所や火力発電所等の発電プラントにおける蒸気発生器に設けられた熱交換器(以下、構造物とする。)は、低合金鋼等の金属材料で構成されている。このような構造物では、使用環境により金属材料が腐食を起こして、腐食生成物を溶出したり、該構造物の表面に腐食生成物が付着することがある。
【0003】
上記の腐食生成物は、ボイラの配管やオリフィス等の表面に付着して、過熱障害や流路閉塞による流量計誤指示等の不具合を起こす可能性がある。また、蒸気発生器内の伝熱管に付着して、伝熱障害を起こしてしまう虞があり、また原子力発電所においては、腐食生成物が放射化されて放射性物質として他の機器や配管に付着してしまうこともある。
そこで、発電プラントの健全性の観点から、腐食生成物を除去する以下の技術が提案されている。
【0004】
例えば、構造物を硝酸等の水溶液中に浸漬することで、金属材料と該強酸水溶液とを化学反応させて該構造物の表面に耐腐食性のある被膜を形成させる。これにより、金属材料の腐食を抑制して、腐食生成物の溶出を抑える効果がある(下記特許文献1参照)。
【0005】
また、構造物を高温高圧条件の水蒸気中に置くことで、金属材料と水蒸気とを化学反応させて該構造物の表面に耐腐食性のある被膜を形成させる技術もある。これにより、上記と同様に、金属材料の腐食を抑制して、腐食生成物の溶出を抑える効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−292531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、構造物を浸漬する水溶液が強酸性であるため、該水溶液により構造物が局部的に腐食する場合があり、構造物そのものの健全性が維持されない虞がある。
【0008】
また、高温高圧条件の水蒸気中に構造物を置く方法では、温度及び圧力を調整するのに時間がかかるとともに、施設が大型化するため費用が嵩むという問題点がある。
さらに、水蒸気と反応して形成される被膜は多孔質で構成されるポーラスでもろいため、構造物に強固に付着できず、該被膜が剥がれてしまう虞がある。
また、高温及び高圧の一定環境を維持することは困難であるため、環境の変化にともない不均一な被膜が形成されてしまう虞がある。この場合、被膜の薄い箇所では耐腐食性が低くなり、金属材料の腐食を抑制することができないという問題点がある。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、コンパクトな設備で、構造物の表面に強固に被膜を形成して、腐食を防止することができる構造物の表面処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る構造物の表面処理方法は、少なくともクロムを含む材料からなる構造物の表面に過酸塩水溶液を供給することで、前記構造物中のクロムによる被膜を該構造物の表面に形成する表面処理方法であって、前記構造物を前記過酸塩水溶液に浸漬する浸漬工程と、該浸漬工程の後に、前記過酸塩水溶液を加熱する加熱工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
構造物を構成するクロムは該過酸塩水溶液と反応して、酸化クロム又は水酸化クロムを含む被膜が生成される。よって、構造物の表面には酸化クロム又は水酸化クロムを含む耐腐食性のある被膜が形成されるため、金属の腐食を防止することができる。
また、上記の構成は過酸塩水溶液を供給するだけでよいため、設備をコンパクトとすることができる。
さらに、加熱工程により過酸塩水溶液を過熱し高温状態とすることでクロムの化学反応を促進することができるため、確実に酸化クロム又は水酸化クロムを含む被膜を生成することができる。よって、構造物の表面には被膜が確実に形成されるため、金属の腐食を効果的に防止することができる。
【0014】
また、本発明に係る構造物の表面処理方法は、前記過酸塩水溶液は、過マンガン酸カリウムを含む水溶液であってもよい。
【0015】
このような構造物の表面処理方法では、クロムは過マンガン酸カリウムと反応して構造物の表面に酸化クロム又は水酸化クロムを含む被膜を確実に形成することができるため、金属の腐食を確実に防止することができる。
【0016】
また、本発明に係る構造物の表面処理方法は、前記過酸塩水溶液は、過鉄酸カリウムを含む水溶液であってもよい。
【0017】
このような構造物の表面処理方法では、クロムは過鉄酸カリウムと反応して構造物の表面に酸化クロム又は水酸化クロムを含む被膜を確実に形成することができるため、金属の腐食を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る構造物の表面処理方法によれば、構造物を構成するクロムは該過酸塩水溶液と反応して酸化クロム又は水酸化クロムを含む被膜を生成することができるため、コンパクトな設備で、構造物の表面に被膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る構造物の表面処理方法に用いる表面処理装置の概略全体構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る構造物の表面処理方法のフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る構造物の表面処理方法における(a)化学反応を示す模式図であり、(b)構造物の表面に被膜が形成された状態を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係る構造物の表面処理方法における時間と腐食生成物の溶出量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る構造物の表面処理方法について説明する。
まず、本実施形態で用いる表面処理装置について説明する。
図1は、本実施形態に係る構造物の表面処理方法に用いる表面処理装置の構成を示す概略全体構成図である。
図1に示すとおり、表面処理装置1は、表面処理の対象となる構造物Aを浸漬する装置本体2と、該装置本体2を加熱する加熱器3と、該装置本体2に過酸塩水溶液Pとして過マンガン酸カリウム(KMnO)を含む水溶液(以下、過マンガン酸水溶液とする。)を供給するポンプ4とを備えている。
装置本体2は、構造物Aを配設可能とされた容器であり、内部にはポンプ4から供給された過マンガン酸カリウム水溶液Pが満たされている。
加熱器3は、例えばヒータ等で構成され、ガスや電気等の動力源を利用して装置本体2の内部の過マンガン酸カリウム水溶液Pを加熱し、高温状態にする。
ポンプ4は、過マンガン酸カリウム水溶液Pを装置本体2の内部に供給する。
【0021】
次に、上記の表面処理装置1を用いた構造物Aの表面処理方法について説明する。
なお、本実施形態の構造物Aとしては、クロムを含む材料からなる金属材料が対象となる。例えば、金属材料としては、低合金鋼、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル基の超合金、コバルト系の合金等が挙げられる。
図2に示すように、構造物Aの表面処理方法は、浸漬工程S1と、加熱工程S2とを備えている。
【0022】
まず、前工程として、ポンプ4から装置本体2に過マンガン酸カリウム水溶液Pを供給するとともに、構造物Aの表面の汚れや付着物を除去しておく。
過マンガン酸カリウム水溶液Pとしては、例えば0.03wt% 〜1wt%(好ましくは0.03wt%)の濃度であることが望ましい。
また、装置本体2の内部に過マンガン酸カリウム水溶液Pを循環させる構成であっても良い。
【0023】
次に、浸漬工程S1を実行する。
すなわち、浸漬工程S1では、装置本体2に満たされた過マンガン酸カリウム水溶液P中に構造物Aを浸漬する。
【0024】
次に、加熱工程S2を実行する。
すなわち、加熱工程S2では、装置本体2に満たされたた過マンガン酸カリウム水溶液Pを加熱し、所望の高温状態にする。ここでは、過マンガン酸カリウム水溶液Pは、例えば大気圧条件下で常温から95度の間(好ましくは常温)とすることが望ましい。
なお、上記の条件下で、構造物Aを30分以上浸漬させておくことが望ましい。
この後、装置本体2から過マンガン酸カリウム水溶液Pを排出して、構造物Aを純水
で洗浄する。
【0025】
次に、上記の構造物Aの表面処理方法における構造物Aの変化について説明する。
図3は、構造物Aの表面処理方法における化学反応を示す模式図である。
図3に示すとおり、過マンガン酸カリウム水溶液中に浸漬された構造物Aでは、該構造物Aを構成するクロムが酸化され、酸化クロムCr又は水酸化クロムCr(OH)が生成される。そして、該酸化クロムCr、水酸化クロムCr(OH)及びこれらを含む鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr酸化物が構造物Aの表面に被膜Bとして形成される。
【0026】
次に、このように構成され構造物Aの表面処理方法の効果について説明する。
上記のように、構造物A中のクロムが過マンガン酸カリウム水溶液Pと反応して、酸化クロムCr、水酸化クロムCr(OH)及びこれらを含む鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr酸化物である耐腐食性のある被膜Bを該構造物Aの表面に形成するため、金属の腐食を防止することができる。
さらに当該被膜Bは、薄く緻密な構成であるため、構造物Aに強固に付着する。よって、金属の腐食を確実に防止することができる。
【0027】
ここで、図4に示すように、構造物Aの表面に被膜Bを形成していない場合と比較すると、本実施形態では腐食生成物の溶出を抑制することができるため、過熱障害や流路閉塞などの不具合が起きることはない。また、構造物Aが原子力発電所に設けられた場合には放射化されることはないため、発電プラントの維持・管理を容易にすることができる。
【0028】
また、発電プラントにおける化学洗浄等で構造物Aの金属母材表面が露出した場合でも、該母材表面に被膜Bを形成することで新たな腐食生成物の溶出を抑制できるとともに、腐食生成物の付着を抑制することもできる。
【0029】
また、構造物Aが複雑な形状の機器や配管である場合であっても、過マンガン酸カリウム水溶液Pの条件を一定に維持することで該構造物Aの表面に均一に被膜Bを形成することができるため、構造物Aの全範囲にわたって金属の腐食を防止することができる。
【0030】
また、一般に、粗度の高い表面の構造物と比較して平滑な表面の構造物の方が腐食生成物の付着が少ない。よって、構造物Aの製鋼時にミルスケールが生じた場合でも、平滑な被膜Bを形成することで腐食生成物の付着を抑制することができる。
【0031】
また、表面処理装置1は、装置本体2、加熱器3及びポンプ4を備えるだけという簡易な構成であるため、設備をコンパクトにすることができ、設備の維持管理の負担も低減することができる。
【0032】
(変形例)
上記の実施形態の変形例として、過マンガン酸水溶液の代わりに過鉄酸カリウム(KFeO)水溶液を用いてよい。
この場合でも、構造物A中のクロムが過鉄酸カリウム水溶液と反応して、酸化クロムCr、水酸化クロムCr(OH)及びこれらを含む鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr酸化物である耐腐食性のある被膜Bを該構造物Aの表面に形成するため、金属の腐食を防止することができる。
【0033】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0034】
例えば、浸漬工程S1と加熱工程S2との順序を逆として、加熱工程S2の次に浸漬工程S1を実行してもよい。
この場合でも、構造物Aの表面に過酸塩水溶液Pを供給することができるとともに、該過酸塩水溶液Pを高温状態とすることができるため、構造物A中のクロムが過酸塩水溶液Pと反応して耐腐食性のある被膜Bを該構造物Aの表面に形成することができる。
【0035】
また、過酸塩水溶液Pとして、過マンガン酸(HMnO)水溶液、過硫酸水溶液、過ホウ素水溶液、過酢酸水溶液等も採用することができる。また、硝酸や水酸化ナトリウムを適宜加えて、条件に応じて酸性及びアルカリ性を調整して反応速度を調整してもよい。
【符号の説明】
【0036】
A…構造物
P…過酸塩水溶液
S1…浸漬工程
S2…加熱工程
図1
図2
図3
図4