(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイビームを可変配光とした技術において、自車両に搭載されたカメラによる撮影情報に基づいて前方車両(先行車、対向車)の輝点(例えばテールランプやヘッドランプ)を検出して前方車両を検出する場合、以下の課題がある。
【0007】
まず、前方車両の輝点の一部がカメラによる撮影範囲外にある場合、前方車両を検出できずに前方車両にグレアを与える場合がある。例えば、前方車両が車線変更する場合などに前方車両の輝点の一部がカメラによる撮影範囲から外れることがある。また、前方車両がテールランプやヘッドランプを非点灯の場合や、自車両及び前方車両がカーブを走行している場合、交差点など見通しが悪い箇所を走行している場合にも、カメラによる撮影範囲に前方車両の輝点が入らない場合がある。
【0008】
また、前方車両の車種の違いにより、カメラで撮影される画像に基づいて前方車両を検出することが困難な場合がある。例えば、前方車両の大きさによって左右の輝点間の距離が異なるため、実際は自車両から同一距離に存在する前方車両であっても、カメラで撮影される画像上での輝点間の間隔は車種により異なる。これにより、前方車両との距離を求めることが困難な場合がある。また、車種によってテールランプの数や配置が異なり、車両か否かの判別が困難な場合がある。
【0009】
さらに、前方車両の位置、姿勢によっては、カメラで撮影される画像に基づいて前方車両を検出することが困難な場合がある。例えば、前方車両が自車両に対して斜めの姿勢になる場合、テールランプ等の形状が不確実になり検出することが困難な場合がある。また、自車両からみて複数の前方車両が重なっている場合、すなわち前方車両のひとつが他の車両の陰に一部又は全部隠れている場合、全ての前方車両を検出することが困難な場合がある。例えば、自車両のすぐ前方にある第1の前方車両と、さらにその前方にある第2の前方車両が左右方向に若干ずれて存在する場合、前方車両の輝点が3点検出される場合があり、2台の車両をそれぞれ検出することが困難な場合がある。また、カメラにより撮影された画像を処理するには、座標等の演算に比べて時間を要する。
【0010】
次に、車両用前照灯に配光制御を行うに際し、車両間通信等により得られる前方車両の情報を用いる場合の課題を説明する。例えば、特許文献1では、「ナビゲーション装置から得られる自車両の位置情報や、車車間通信装置によって得られる対向車の車速や位置情報などに基づいて、車両角度変化を予測して対向車に対応する領域への前照灯からの光を非照射とするように前照灯の配光を制御する」ことが開示されている。しかし、特許文献1は、交差点等の転回時などの操舵角が大きくなる場合に、基準位置の照射分割領域から車両角度変化分移動した分割領域を特定するものであり、カメラやレーダを用いた配光制御をもとにしている。また、特許文献1では、自車両と前方車両の相互の姿勢、車種(特に車両の大きさ)の違い等は考慮されていない。例えば、自車両の姿勢が変わると前照灯による照射可能範囲が上下左右いずれかにシフトし、自車両の姿勢によらず同じ配光パターンを用いると前方車両が同じ位置にあってもグレアを与える場合がある。また、前方車両の姿勢が変わると、前方車両の基準点(例えばルームミラー位置など)の位置情報が同じであっても、グレアを与える範囲の位置(例えばドアミラー位置など)が変わり、前方車両の姿勢によらず同じ配光パターンを用いると前方車両にグレアを与える場合がある。また、車両によりグレアを与える範囲の大きさが異なる場合がある。
【0011】
特許文献4においても、車両用灯具における自車両前方に位置する物体を検出する検出装置について、「各車両に通信機を備え、車両間通信を行うことにより車両の位置を特定するようにしてもよい」ことが開示されているが、上述の特許文献1と同様の課題がある。
【0012】
本発明に係る具体的態様は、無線通信により取得された周辺車両の情報に基づき、前方車両にグレアを与えにくくする車両用前照灯の配光制御システム及び車両用前照灯システムを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る一態様の車両用前照灯の配光制御システムは、車両用前照灯による光照射状態を制御する、車両用前照灯の配光制御システムであって、(a)周辺車両の位置情報を、無線通信を介して周辺車両から取得する無線通信装置と、(b)無線通信装置により得られた周辺車両の位置情報と、位置検出手段から得られる自車両の位置情報とに基づいて、車両用前照灯の照射可能範囲に入る周辺車両のグレア対象範囲を特定する情報処理装置と、(c)周辺車両のグレア対象範囲に照射しないように、車両用前照灯による照射可能範囲のうち照射範囲を決定し、決定された照射範囲に従い車両用前照灯の光照射状態を制御する配光制御装置とを備え、周辺車両の位置情報に対応する基準点と、グレア対象範囲を特定する予め定められた複数の位置との位置関係が予め定められて
おり、(d)周辺車両の基準点とグレア対象範囲を特定する複数の位置との位置関係は、車種毎又は車両の大きさに基づく車両区分毎に予め定められており、(e)複数の位置で特定されるグレア対象範囲は直方体の内部の領域であり、(f)情報処理装置は、周辺車両の車種又は車両区分に対応する位置関係に基づき、周辺車両の位置情報から複数の位置を求めてグレア対象範囲を特定する、配光制御システムである。
【0014】
上述の配光制御システムによれば、無線通信により取得された周辺車両の位置情報に基づき自車両の前方に位置する車両のグレア対象範囲を特定して車両用前照灯を制御し、この車両にグレアを与えにくくすることができる。
また、周辺車両の大きさの違いに応じてグレア対象範囲を求めることができる。
【0015】
上述の配光制御システムにおいて、例えば、基準点は周辺車両のルームミラーの位置であり、直方体は、周辺車両全周のウインド及び左右のサイドミラーを含んで囲まれた最大外形に対応しており、複数の位置は、直方体の8つの頂点の位置である、ことも好ましい。
【0016】
これにより、好適なグレア対象範囲を特定できる。
【0017】
上述の配光制御システムにおいて、例えば、無線通信装置は、基準姿勢からの変動分を示す周辺車両の姿勢情報を、無線通信を介して周辺車両からさらに取得し、情報処理装置は、周辺車両の基準点の位置情報と、基準姿勢における基準点とグレア対象範囲を特定する複数の位置との位置関係と、周辺車両の姿勢情報とに基づいて、周辺車両の位置及び姿勢に応じたグレア対象範囲を特定することができる。
【0018】
これにより、周辺車両の姿勢を考慮して、自車両の車両用前照灯の光照射状態を制御できる。
【0019】
上述の配光制御システムにおいて、例えば、(g)自車両の姿勢情報を取得する自車両情報収集装置をさらに備え、情報処理装置は、位置検出手段から得られる自車両の位置情報と自車両情報収集装置により得られた姿勢情報とに基づいて、自車両の位置及び姿勢に応じた照射可能範囲に対して、照射可能範囲に入る周辺車両のグレア対象範囲を特定することができる。
【0020】
これにより、自車両の姿勢を考慮して車両用前照灯の光照射状態を制御できる。
【0021】
上述の配光制御システムにおいて、例えば、無線通信装置は、周辺車両の走行情報又は移動軌跡情報をさらに取得し、情報処理装置は、自車両の走行情報又は移動軌跡情報を取得し、周辺車両と自車両の走行情報又は移動軌跡情報に基づいて周辺車両と自車両の移動を予測し、移動後の車両用前照灯の照射可能範囲と周辺車両のグレア対象範囲を特定することができる。
【0022】
これにより、走行情報又は移動軌跡情報から車両の移動を予測した配光制御ができる。
【0023】
本発明に係る一態様の車両用前照灯システムは、上述の車両用前照灯の配光制御システムと、この車両用前照灯の配光制御システムの配光制御装置により制御される車両用前照灯とを備える。
【0024】
これにより、無線通信により取得された周辺車両の位置情報に基づき自車両の前方に位置する車両のグレア対象範囲を特定して車両用前照灯を制御し、この車両にグレアを与えにくくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.システム構成
図1は、一実施形態の車両用前照灯の配光制御システムを含む車両システムの全体構成図である。
【0027】
本車両システムは、例えば、車両用前照灯の配光制御システムを有する複数の車両21、22と、基地局23−1、23−2(以下単に基地局23という)と、GPS用衛星24を備える。
図1は、車両21の前方に車両22が存在し、車両21の前照灯によりハイビームとロービームが照射されている例を示している。以下、車両21を自車両と称し、車両22を前方車両又は周辺車両と称する。自車両21と周辺車両22は、車両間通信により、又は、基地局23を介して無線通信可能である。基地局23は、通信可能範囲に応じて異なる場所に複数設置され、各基地局23は車両の移動に対して情報を受渡し(ローミング)することが可能である。また、自車両21と周辺車両22は、ナビゲーション機能を備え、GPS用衛星24からGPS信号を受信して位置情報を特定する。
【0028】
自車両21の前照灯は、例えば、複数の光源により構成され、各光源が個々に点消灯制御されることにより照射範囲や照射パターン(形状)を変えることができ、又は、各光源の明るさが連続的や段階的に制御されることにより、明るさを自在に変えることが可能である。車両用前照灯の配光制御システムは、各光源の照射を、自車両21の情報及び無線通信により入手した周辺車両22などの情報によって配光制御を行う。なお、車両用前照灯の配光制御システムは、自車両21と周辺車両22の動きを予測した予測制御を含むこともできる。
【0029】
図2は、車両に搭載される装置のブロック図である。車両には、車両用前照灯1(以下前照灯1と称する)と、車両用前照灯の配光制御システムと、ナビゲーション装置5が搭載される。車両用前照灯の配光制御システムは、例えば、前照灯駆動装置2と、前照灯配光制御装置3と、情報処理装置4と、自車両情報収集装置6と、無線通信装置7と、無線通信アンテナ8を有する。車両用前照灯の配光制御システムは、さらに、姿勢センサ9と、方位センサ10を有してもよい。なお、ナビゲーション装置5、無線通信装置7、無線通信アンテナ8、姿勢センサ9及び方位センサ10等は他のシステムと共用してもよい。
【0030】
前照灯1は、例えば車両の左右にそれぞれ設置され、前照灯駆動装置2からの駆動信号に従い、車両の前方を照射する。左右の前照灯それぞれが複数の光源で構成され、配光パターンを変えることが可能である。前照灯1は、例えばすれ違い用のロービームと、例えば走行用のハイビームを形成することが可能である。なお、配光パターンについては後述する。
【0031】
前照灯駆動装置2は、前照灯配光制御装置3からの点灯方法指示信号に従い前照灯1の光源を駆動する。例えば、複数光源で構成された前照灯1を個別又は同時に点灯又は消灯してもよいし、連続的または段階的に各光源の明るさを制御してもよい。前照灯駆動装置2は、左右の前照灯1に対応する別個の構成でもよいし、左右一体であってもよい。
【0032】
前照灯配光制御装置3は、情報処理装置4からの自車両21の情報及びグレア対象となる周辺車両22の情報から、周辺車両22に対してグレアを与えない範囲や配光パターンを決定し、前照灯駆動装置2に指示信号を送る。
【0033】
情報処理装置4は、ナビゲーション装置5からの地図関連情報や自車両21の位置情報、自車両情報収集装置6からの情報、及び無線通信装置7からの周辺車両22の情報を処理する。情報処理装置4は、例えば自車両21と周辺車両22の位置関係の特定、移動予測などの処理を行う。また、情報処理装置4と無線通信装置7は、周辺車両22との送受信情報を交換する。自車両21が周辺車両22から取得する情報は、同様に自車両21から周辺車両22に送信される。
【0034】
ナビゲーション装置5は、GPSなどに基づくナビゲーションシステムの車載装置であり、情報処理装置4との間で、地図情報、自車両21の位置情報、移動軌跡などの情報を交換する。位置情報は、緯度と経度で表されるが、標高データを付加して3軸の座標系としてもよい。この位置情報から自車両21と周辺車両22の距離を求め、自車両21の前照灯の照射範囲が制御される。また、ナビゲーションシステムは、ガスレートセンサなどによる自立型によるものであってもよい。
【0035】
自車両情報収集装置6は、姿勢センサ9が検出する自車両21の姿勢情報、方位センサ10が検出する方位情報、車速、操舵角、ウインカースイッチ状態などの情報を収集し、情報処理装置4に送る。なお、自車両21は車速センサ、操舵角センサ等を備えてもよいし、適宜のセンサ情報から車速、操舵角を求めてもよい。
【0036】
無線通信装置7は、周辺車両22との車両間通信や、基地局23との車両・基地局間通信を行うための装置である。アンテナ8は、周辺車両22や基地局23と無線通信するための通信用アンテナある。
【0037】
姿勢センサ9は、自車両21の姿勢をロール(Roll)、ピッチ(Pitch)、ヨー(Yaw)の3軸で検出するセンサである。方位センサ10は、車両の前進方向に対する方位を検出するセンサである。
【0038】
なお、上述の各装置は、各装置の機能が集約された装置により実現されてもよい。また、一部の装置又は一部の機能は、車両に搭載されず、地上のサーバ等で実現されてもよい。この場合、サーバ等での処理結果が、無線通信装置7を介して車両に送信されてもよい。
【0039】
ここで、情報処理装置4が入力する情報及び処理する情報について説明する。情報処理装置4が自車両情報収集装置6を介して入力する情報は、自車両21の走行情報(例えば、ヘッドランプスイッチ状態、ウインカースイッチ状態、車速、ハンドルの操舵角)、自車両21の姿勢情報(例えば、ヨー(Yaw)・ピッチ(Pitch)・ロール(Roll)角で表される車両の姿勢)、及び、自車両21の方位情報(例えば車両の絶対方位角)を含むことができる。情報処理装置4がナビゲーション装置5から取得する情報は、例えば、GPS等に基づくナビゲーションシステムによる自車両周辺の地図情報、同地図情報における自車両の現在位置、同地図情報における自車両の移動軌跡、及び、同地図情報における自車両の予定走行路軌跡を含むことができる。なお、本実施の形態において自車両21の過去の移動履歴を表す移動軌跡と、これからの予定走行路軌跡とをまとめて移動軌跡情報と称する。また、情報処理装置4は、自車両の車両個別ID(識別子)、前照灯を構成する各光源単体及びその組合せによる照射範囲や配光パターンに関する情報を適宜の記憶部や装置から入力することができる。車両個別IDは、例えば車両毎に一意のもので、このIDにより車両の個別識別が可能である。
【0040】
情報処理装置4が無線通信装置7を介して取得する周辺車両22の情報は、例えば、周辺車両22の車両個別ID、周辺車両22の姿勢情報(例えば、ヨー(Yaw)・ピッチ(Pitch)・ロール(Roll)角で表される車両の姿勢)、周辺車両22の方位情報(例えば車両の絶対方位角)、周辺車両22の位置情報(例えば、GPS等に基づくナビゲーションシステムによる地図情報における車両の現在位置)、周辺車両22の移動軌跡情報(例えば、同地図情報における車両の移動軌跡等)、及び、周辺車両22の走行情報(例えば、車速、ハンドルの操舵角及びウインカースイッチ状態)を含むことができる。
【0041】
自車両及び周辺車両の位置情報及び姿勢情報は、自車両においてナビゲーションの地図情報上に反映することが可能である。さらに、これらの情報は走行距離や絶対方位センサなどにより補正を加えたものであってもよい。
【0042】
図3は、前照灯の光学ユニットの構成例を示す分解斜視図である。
図3に示すように、前照灯1の光学ユニットは、車両前後方向に延びる光軸AX上に配置された投影レンズ41と、この投影レンズ41の後側焦点面よりも後方に配置された光源ユニット30と、投影レンズ41を所定位置に保持するレンズ保持枠40と、光源ユニット30に取り付けられたヒートシンク50を含んで構成されている。この光学ユニットは、投影レンズ41がレンズ保持枠40に取り付けられ、このレンズ保持枠40がヒートシンク50にねじ止め固定されることにより一体化される。光源ユニット30は、複数の導光レンズ部31を一体化してなる干渉防止部材32と、一方向(水平方向)に配列された複数のLEDを有して干渉防止部材32の後方に配置された発光素子基板33を含んで構成されている。各LEDから放射される光は、干渉防止部材32の各導光レンズ部31によって投影レンズ41に導かれ、自車両の前方に投影される。このとき、各発光素子の点灯/消灯を個別に制御することにより、ハイビームの照射エリアを部分的に遮光するなど配光パターンを自在に制御できる。先行車や対向車の存在する配光エリアを非照射状態とし、他の配光エリアを照射状態とすることで、先行車等への眩惑を防止し、かつ自車両のドライバーの視認性を高めることができる。
【0043】
2.配光パターン
図4は、配光パターンの構成例である。
図4(a)は、ハイビームについては照射可能範囲を水平方向に複数の領域に分割し、ロービームについては照射可能範囲を分割していない例である。
図4(b)は、ハイビーム、ロービームともに照射可能範囲を水平方向に複数の領域に分割した例である。領域の分割数、分割方向は図示の例以外にも適宜の数、方向でもよい。分割された領域ごとの光源を有し、各光源を点消灯することで分割された各領域を照射領域及び非照射領域にすることができる。なお、複数の光源を点消灯する以外にも、光を遮光するなど適宜の方法で照射領域及び非照射領域を提供することができる。また、非照射領域は、光を減光する減光領域でもよい。
【0044】
3.グレア対象範囲
図5及び
図6は、周辺車両21のグレア対象範囲の説明図(1)及び(2)である。
図5(a)〜(c)はそれぞれ、車両の右斜め前方、車両右側、車両左側から見たグレア対象範囲を示す。
図6(a)〜(c)はそれぞれ、車両前方、車両上方、車両後方から見たグレア対象範囲を示す。
【0045】
周辺車両22のグレア対象範囲は、車両により固定であり、例えば車両全周のウインド及び左右のサイドミラーを含んで囲まれた最大外形が示す範囲(図中、網掛けで示す)で表すことができる。図示の例は、演算等の処理を簡単にするためにひとつの直方体としたものであり、ルームミラーの位置を基準点とし、対象範囲の各頂点(8ヶ所)をX,Y,Zの各々法線方向の3軸座標系として表現したものである。例えば、基準点を原点としたときの各頂点の座標(基準点に対する位置関係)が予め定められ、適宜の装置に記憶されている。
【0046】
また、周辺車両22のグレア対象範囲の別の特定方法として、ルームミラー位置を基準点とし、基準点からハンドルまでの位置、基準点から左及び右のサイドミラーまでの位置、基準点からフロントウィンドの下側中央までの位置、リアウインドの下側中央までの位置、を含む各座標系情報であってもよい。この場合、基準点を原点としたときの各位置の座標が予め定められ、適宜の装置に記憶されている。それぞれの位置を現す座標値から、グレア対象範囲を演算により求めてもよい。具体的には、基準点であるルームミラーの位置座標とフロントウィンド下側中央の位置座標の高さ方向の差から、フロントウィンドの凡その高さを求めることができる。さらに左右のサイドミラーの位置座標の水平方向の差から、フロントウィンドの左右方向の凡その長さ(幅)を求めることができる。フロントウィンドの凡その高さ及び幅から
図6(a)に示すようなグレア対象範囲を凡そ特定できる。なお、上述の直方体の頂点や、フロントウィンド下側中央の位置など以外にも、周辺車両22のグレア対象範囲を特定可能な適宜の複数の位置と、基準点の位置関係が予め定められていてもよい。
【0047】
周辺車両22のグレア対象範囲の基準点は、本来運転者等の目の位置であることが望ましいが、運転者等の体の大きさ、運転姿勢、左ハンドルか右ハンドルかなどのハンドル位置などによって変わるため、ここでは固定的なルームミラーの位置とする。しかし、車種の違いなどに極力依存しない場所であれば他の位置であってもよい。
【0048】
例えば、周辺車両22のグレア対象範囲の基準点はナビゲーションシステム上の車両位置と同じになるようにする。ナビゲーションシステムにより基準点の位置座標が得られれば、上述のようにグレア対象範囲の各頂点等の座標を求めることができる。周辺車両22のグレア対象範囲の基準点がナビゲーションシステム上の車両位置とずれている場合には、ずれ分を適宜補正すればよい。
【0049】
4.姿勢情報
図7は、自車両及び周辺車両の姿勢情報の説明図である。
図8は、自車両及び周辺車両の姿勢情報(ロール)の説明図である。
図9は、自車両及び周辺車両の姿勢情報(ピッチ)の説明図である。
図10は、自車両及び周辺車両の姿勢情報(ヨー)の説明図である。なお、
図10(a)は車両のヨーの変化を円周状に示したものであり、
図10(b)は車両のヨーの変化を同一場所に示したものである。
図8〜
図10に示すように、基準姿勢(例えば
図8(b)、
図9(a)、
図10(a)における12時方向の車両姿勢)に対して、車両の姿勢が変化すると、グレア対象範囲を表す直方体は傾くため、各頂点の座標は車両の姿勢によって変化する。
【0050】
車両の姿勢をロール(Roll、X軸)、ピッチ(Pitch、Y軸)、ヨー(Yaw、Z軸)の3軸座標系で表現する。また、絶対姿勢(方位)は、車両に設置された方位センサ10により検出する。車両の姿勢は、3軸のジャイロスコープなどの姿勢センサ9で検出される。なお、自車両21の照射光が到達する最遠距離点において、配光パターンを制御可能な分解能であれば、姿勢センサ9は、機械式、ファイバ式、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)式などのいずれの方式であってもよい。さらに所望の分解能を満足すれものであれば、ナビゲーションシステムに内蔵されていて、主にピッチ方向を検出するセンサ出力や、車両の横滑り防止装置に内蔵されていて、主にヨー方向を検出するセンサの出力を利用してもよい。車両のグレア対象範囲及び車両の姿勢情報を3軸の座標系に統一することで、演算等の処理を簡略化することができる。また、車両の位置情報も緯度、経度及び標高であるため、座標系として演算等の処理が比較的容易である。
【0051】
5.データ処理
図11は、情報処理装置4と前照灯配光制御装置3による処理のフローチャートである。
【0052】
まず、情報処理装置4は、無線通信により周辺車両22の情報を取得する(S11)。例えば、周辺車両22の位置情報及び姿勢情報等を取得する。なお、自車両21の情報を適宜、周辺車両22又は基地局23に送信する。周辺車両の情報の取得方法を無線通信とすることで、自車両21から直接見通せる範囲外に存在する周辺車両22の情報を得ることができ、さらに、周辺車両22の姿勢や無灯火、天候、周囲の照明環境などの影響を受けることなく情報を取得できる。
【0053】
なお、周辺車両22を含む各車両の情報は、各車両に搭載の無線通信装置7を通じて設置位置が固定の基地局23に送信される。それらの情報を受信した基地局23の制御装置は、各車両の位置情報や姿勢情報などから各車両の位置関係を特定し、各車両間の距離と位置を優先的な判定基準としてグルーピングし、同じグループの各車両にそれらの情報を送信する。なお、基地局23での処理は、基地局23と無線又は有線で通信可能な適宜のサーバ等で行うこともできる。また、車両の近傍に通信可能な基地局23が存在しない場合などにおいては、基地局23を経由せずに直接無線による車両間通信により、相互の情報を交換してもよい。この路車間通信や車々間通信については、標準的な無線LAN規格やルーティング手法により行うことができる。なお、車両間通信の場合は、基地局23にて行う各車両の位置関係の判定を自車両21にて行う。
【0054】
また、情報処理装置4は、自車両21の情報を取得する(S13)。例えば、情報処理装置4は、ナビゲーション装置5から自車両21の位置情報等を取得し、自車両情報収集装置6から自車両の姿勢情報等を取得する。なお、周辺車両22の情報の取得及び自車両21の情報の取得は、適宜のタイミングで行うことができ、順序が逆でもよい。
【0055】
情報処理装置4は、周辺車両22のグレア対象範囲(座標)を求める(S15)。例えば、無線通信装置7により得られた周辺車両の位置情報及び姿勢情報と、ナビゲーション装置7から得られる自車両の位置情報と、自車両情報収集装置6により得られた姿勢情報とに基づいて、前照灯1の照射可能範囲に入る周辺車両22のグレア対象範囲を特定する。取得された周辺車両の位置情報は上述のようにグレア対象範囲の基準点に対応するため、情報処理装置4は、取得された周辺車両の位置情報に基づいてグレア対象範囲の各頂点座標を求めることができる。さらに周辺車両22の姿勢情報を考慮することにより、周辺車両22の姿勢により位置が変わるグレア対象範囲の各頂点座標を求めることができる。なお、周辺車両22のうち、自車両21の後方や側面方向にある車両に関しては、処理の対象から除外することができ、前方車両、特に前照灯1の照射可能範囲に入る車両を対象とすることができる。これらの車両は、自車両21と周辺車両22の位置情報、自車両21の向き及び姿勢から判別できる。
【0056】
グレア対象範囲を示す基準点に対する各位置(例えば、直方体の頂点)の情報は、車種や車両個別に設定してもよいが、小型車、普通車、大型車、特殊車両、トレーラ、バスなど、車両の大きさや構造により複数に区分し、区分毎に基準点に対するグレア対象範囲を示す各位置の情報を固定的なデータとして保持することもできる。これにより、配光制御システムや基地局23などの処理負荷を低減できる。この場合、車両個別IDと上述の区分を対応させたデータと、各区分について基準点に対するグレア対象範囲を示す各位置の情報(座標)を予め記憶しておく。周辺車両22から取得された個別IDを検索キーとして区分を特定でき、区分に応じてグレア対象範囲を求めることができる。
【0057】
前照灯配光制御装置3は、前照灯1による照射可能範囲のうち、グレア対象範囲を除く範囲を照射範囲として配光パターンを決定する(S17)。例えば、前照灯配光制御装置3は、求められた周辺車両22のグレア対象範囲にグレアを与えないように照射範囲又は配光パターンを決定する。例えば、照射可能範囲を分割した複数の領域のうち、周辺車両にグレアを与える領域を非照射とし、他を照射範囲とするように配光パターンを決定する。前照灯配光制御装置3は、決定された配光パターンに従い、前照灯1の光照射状態(例えば点消灯等)を制御する。
【0058】
なお、前照灯配光制御装置3は、自車両21及び周辺車両22の車速や操舵角、ウインカースイッチ状態などの走行情報及び走行軌跡情報(過去の走行履歴及び走行予定軌跡)から照射範囲内に入ることが予測される周辺車両22を特定してもよい。この場合、車両移動を予測して先行した配光制御をすることができる。
【0059】
前照灯1による照射可能範囲内に周辺車両22が複数ある場合には、上述のステップS15及びS17の処理が各周辺車両22に対して実行され、それぞれの周辺車両22のグレア対象範囲が除かれた照射範囲が決定される。
【0060】
6.照射例
上述のように、自車両21及び周辺車両22の情報(例えば、地図上の位置、車両パラメータ、車両姿勢など)から、周辺車両22にグレアを与えにくい配光パターンが決定される。
【0061】
図12は、周辺車両22の位置と配光パターンの例の説明図である。
図12(a)に、直進先行車に対する例(配光パターン例1)を示す。先行車のグレア対象範囲に対応する領域では、ハイビームを非照射とし、他の領域をハイビームの照射範囲とする。なお、ロービームは照射される。
図12(b)に、直進対向車に対する例(配光パターン例2)を示す。この例も
図12(a)と同様である。
図12(c)に、直進先行車がバスである場合の例(配光パターン例3)を示す。バスのように大型の車両の場合、テールランプ位置が配光パターンのひとつの領域に収まっていてもグレア対象範囲は複数領域にまたがる場合がある。本実施の形態ではグレア対象範囲の頂点等が求められているため、このような例においてもグレア対象範囲に対応する複数の領域を非照射とすることができる。
図12(d)に、直進先行車が複数いる場合の例(配光パターン例4)を示す。先行車のテールランプ等をカメラで検出する方式においては、
図12(d)の状況ではテールランプが3点検出されるため例えば図中点線枠で囲まれた領域が照射範囲となる場合があるが、本実施の形態では各車両についてグレア対象範囲の頂点等が求められているため、図中点線枠で囲まれた領域を非照射とすることができる。
【0062】
図12(e)及び
図12(f)に、斜め先行車に対する例(配光パターン例5及び6)を示す。
図12(e)はバスのように大型の車両の例である。先行車が自車両に対して斜めに向いていても、グレア対象範囲の頂点等が求められているため、グレア対象範囲に対応する領域を非照射とすることができる。先行車のテールランプ等をカメラで検出する方式においては図中点線枠で囲まれた領域はテールランプが検出されないため照射範囲となる場合があるが、本実施の形態では姿勢情報を考慮してグレア対象範囲の頂点等が求められているため、図中点線枠で囲まれた領域を非照射とすることができる。
【0063】
図12(g)に、自車両前方を車両が横切る場合の例(配光パターン例7)を示す。前方車両が自車両に対して横向きでも、グレア対象範囲の頂点等が求められているため、グレア対象範囲に対応する領域を非照射とすることができる。先行車のテールランプ等をカメラで検出する方式においてはテールランプを検出できず、図中点線枠で囲まれた領域は照射範囲となる場合があるが、本実施の形態では姿勢情報を考慮してグレア対象範囲の頂点等が求められているため、図中点線枠で囲まれた領域を非照射とすることができる。
図12(h)に、斜め対向車に対する例(配光パターン例8)を示す。この場合も、
図12(e)及び(f)と同様である。
【0064】
図13〜
図15は、周辺車両22と照射領域を上方から見た場合の説明図である。前照灯1による照射可能範囲が示され、そのうち光を照射する範囲を網掛けで示し、光を非照射とする範囲を二点鎖線で示している。
【0065】
図13(a)は、自車両21と先行車が同じ向きに走行している例である。ロービームは全領域に照射され、ハイビームは先行車のグレア対象範囲が非照射となるように照射されている。
図13(b)は、先行車が自車両21に対して斜めを向いている場合の例である。照射の状態は
図13(a)と同様である。
図13(c)は、対向車が自車両21に対して斜めを向いている場合の例である。照射の状態は
図13(a)と同様である。
図14(a)〜(c)は、自車両21の位置はそれぞれ
図13と同様であるが、姿勢が
図13と異なる場合を示している。先行車の状態、光の照射の状態は
図13と同様である。なお、
図14(c)に示すように、自車両21の位置が
図13(c)と同じであっても向きが異なるため、自車両21からの照射可能範囲に対向車が入らない場合もある。
【0066】
図15(a)は、直進先行車が複数いる場合の例を示す。先行車が複数いる場合であっても、各先行車のグレア対象範囲に対応する領域を非照射とすることができる。
図15(b)は、追越車が自車両の右側から追い越していく例を示す。なお、先行車が車線変更した場合や自車両が先行車の左側から追い越す場合も同様の図となる。
図15(c)は、自車両前方を車両が横切る場合の例を示す。なお、
図15(b)、
図15(c)においてもロービームを全領域に照射してもよい。
【0067】
なお、本発明は上記した実施形態の内容に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、自車両が周辺車両の情報を入手した場合、自車両に搭載するナビゲーションシステムの地図データ上に、自車両の位置と姿勢、入手した周辺車両の位置、姿勢及び大きさなどの情報を配置し、ディスプレイで表示することで搭乗者に知らせてもよい。
【0068】
また、上記した実施形態では自車両の位置情報を検出するための位置検出手段の一例としてナビゲーション装置を挙げていたが、単にGPSに基づいて位置情報を検出する機能のみを有するものを位置検出手段として用いてもよい。
【0069】
また、グレア防止の対象物は周辺車両以外に、二輪車、歩行者、自転車などであってもよい。この場合、対象の情報取得手段は、携帯電話のGPS機能を用い、携帯電話の中継局との無線通信で行ってもよい。
【0070】
また、上述のようにLED点消灯で配光パターンを変える方式とは別に、バルブ点消灯方式や、適宜の機構(例えばソレノイドや回転シャッター)を用いて配光パターンを変える方式を適用することもできる。光源としてはLED以外の適宜の光源を用いてもよい。