特許第5976384号(P5976384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976384ダイス、絶縁電線の製造装置および絶縁電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976384
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ダイス、絶縁電線の製造装置および絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/16 20060101AFI20160809BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   H01B13/16 C
   H01B13/00 517
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-105064(P2012-105064)
(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-232380(P2013-232380A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 惇一
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】志波 正隆
(72)【発明者】
【氏名】畑中 悠史
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−111942(JP,A)
【文献】 実開昭59−085529(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/16
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一方端面および他方端面を有し、前記一方端面と前記他方端面との間を貫通する貫通孔を有する本体部と、
前記本体部の前記一方端面上に配置された潤滑部とを備え、
前記潤滑部の摩擦係数は前記本体部の前記一方端面の摩擦係数よりも小さく、
前記潤滑部は、互いに間隔を隔てて配置された複数の潤滑領域を含む、ダイス。
【請求項2】
前記潤滑部は、PTFE、DLCおよび潤滑油の少なくともいずれかを含む、請求項1に記載のダイス。
【請求項3】
前記潤滑部は、前記貫通孔に沿った仮想の軸を中心とした同心円状に配置されている、請求項1または2に記載のダイス。
【請求項4】
導体に絶縁塗料を塗布するための塗布部と、
前記塗布部によって前記導体に塗布される前記絶縁塗料の厚みを調節するためのダイスと、
前記導体の移動方向へ向かう前記ダイスの移動を制限するためのストッパーとを備え、
前記ダイスは、互いに対向する一方端面および他方端面を有し、前記一方端面と前記他方端面との間を貫通する貫通孔を有する本体部を含み、
前記ストッパーは、前記ダイスの前記一方端面に対向するストップ面を含み、さらに
前記一方端面および前記ストップ面の少なくとも一方上に配置された潤滑部を備え、
前記潤滑部の摩擦係数は、前記潤滑部が設けられている面の摩擦係数よりも小さく、
前記潤滑部は、互いに間隔を隔てて配置された複数の潤滑領域を含む、絶縁電線の製造装置。
【請求項5】
導体に絶縁塗料を塗布する工程と、
前記塗布する工程の後に、前記導体に塗布される前記絶縁塗料の厚みを調整するために前記導体をダイスの貫通孔に通す工程とを備え、
前記ダイスはストッパーによって前記導体の移動方向に向かう移動を制限されており、
前記ダイスは、互いに対向する一方端面および他方端面を有し、前記一方端面と前記他方端面との間を貫通する前記貫通孔を有する本体部を含み、
前記ストッパーは、前記ダイスの前記一方端面に対向するストップ面を含み、
前記一方端面および前記ストップ面の少なくとも一方上には潤滑部が設けられており、
前記潤滑部の摩擦係数は、前記潤滑部が設けられている面の摩擦係数よりも小さく、
前記潤滑部は、互いに間隔を隔てて配置された複数の潤滑領域を含む、絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイス、絶縁電線の製造装置および絶縁電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導体上に絶縁塗料を被覆したエナメル線が知られている。エナメル線は、たとえば各種電気機器の配線、モータや変圧器などの巻線として広く利用されている。
【0003】
従来は、断面が略円形状の導体上に絶縁皮膜が形成されたエナメル線が使用されていたが、占積率が高く、各種電気機器の小型化を図ることができる観点から、断面が略四角形状の導体(以下、「平角導体」とも称す)と、当該平角導体に絶縁皮膜が形成された絶縁電線が広く使用されるようになっている。
【0004】
平角導体に絶縁塗料を形成する技術として、塗布部において平角導体に絶縁塗料を塗布した後に、ダイスに形成された略四角形状の開口部に平角導体を通すことによって、平角導体に塗布される絶縁塗料の厚みを調整する方法が、特開2008−123759号公報(特許文献1)に記載されている。ダイスの開口部は平角導体の断面と略相似形である。そのため、平角導体がダイスを通過することで余分な絶縁塗料が除去されて、平角導体の外周に形成される絶縁塗料が均一な厚みに調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−123759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当該絶縁塗料の厚みは、ダイスと導体との間隙によって決まる。そのため、均一な厚みの絶縁塗料を得るためには、ダイスと導体との位置関係を良好に保ちながら導体を搬送する必要がある。平角導体の場合、導体がねじれると図12に示すように導体11に塗布される絶縁塗料24の厚みが不均一になり膜厚のばらつきが生じる。また、断面が略円形状の導体の場合においても、ダイスの中心部と導体の中心部とがずれる(言い換えれば導体が偏心する)ことにより導体に塗布される絶縁塗料の厚みが不均一になり膜厚のばらつきが生じる場合がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、導体に塗布される絶縁塗料の厚みのばらつきを低減することができる、ダイス、絶縁電線の製造装置および絶縁電線の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るダイスは、本体部と、潤滑部とを有している。本体部は、互いに対向する一方端面および他方端面を有し、一方端面と他方端面との間を貫通する貫通孔を有する。潤滑部は、本体部の一方端面上に配置されている。潤滑部の摩擦係数は本体部の一方端面の摩擦係数よりも小さい。潤滑部は、互いに間隔を隔てて配置された複数の潤滑領域を含む。
【0009】
本発明に係る絶縁電線の製造装置は、塗布部と、ダイスと、ストッパー、潤滑部とを有していいる。塗布部は、導体に絶縁塗料を塗布するためのものである。ダイスは、塗布部によって導体に塗布される絶縁塗料の厚みを調節するためのものである。ストッパーは、導体の移動方向へ向かうダイスの移動を制限するためのものである。ダイスは、互いに対向する一方端面および他方端面を有し、一方端面と他方端面との間を貫通する貫通孔を有する本体部を含む。ストッパーは、ダイスの一方端面に対向するストップ面を含む。潤滑部は、一方端面およびストップ面の少なくとも一方上に配置されている。潤滑部の摩擦係数は、潤滑部が設けられている面の摩擦係数よりも小さい。潤滑部は、互いに間隔を隔てて配置された複数の潤滑領域を含む。
【0010】
本発明に係る絶縁電線の製造方法は以下の工程を有している。導体に絶縁塗料が塗布される。塗布する工程の後に、導体に塗布される絶縁塗料の厚みを調整するために導体がダイスの貫通孔に通される。ダイスはストッパーによって導体の移動方向に向かう移動を制限されている。ダイスは、互いに対向する一方端面および他方端面を有し、一方端面と他方端面との間を貫通する貫通孔を有する本体部を含む。ストッパーは、ダイスの一方端面に対向するストップ面を含む。一方端面およびストップ面の少なくとも一方上には潤滑部が設けられている。潤滑部の摩擦係数は、潤滑部が設けられている面の摩擦係数よりも小さい。潤滑部は、互いに間隔を隔てて配置された複数の潤滑領域を含む。
【0011】
本発明に係るダイスによれば、潤滑部は本体部の一方端面上に配置されており、潤滑部の摩擦係数は本体部の一方端面の摩擦係数よりも小さい。また本発明に係る絶縁電線の製造装置および絶縁電線の製造方法によれば、潤滑部は一方端面およびストップ面の少なくとも一方面上に配置されており、潤滑部の摩擦係数は潤滑部が設けられている面の摩擦係数よりも小さい。これにより、潤滑部を有していない場合と比較して、ダイスはストッパーに対して容易に移動することができる。それゆえ、導体がねじれたり偏心している場合でも、ダイスは導体のねじれや偏心に追随して移動することができる。結果として、導体に塗布される絶縁塗料の厚みのばらつきを低減することができる。
【0012】
上記のダイスにおいて好ましくは、潤滑部は、PTFE、DLCおよび潤滑油の少なくともいずれかを含む。これにより、潤滑部を容易に形成可能である。
【0013】
上記のダイスにおいて好ましくは、潤滑部は、貫通孔に沿った仮想の軸を中心とした同心円状に配置されている。これにより、ダイスの一方端面がストッパーのストップ面に対して傾斜することを抑制することにより、導体に塗布される絶縁塗料の厚みがばらつくことを低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、導体に塗布される絶縁塗料の厚みのばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態における絶縁電線の製造装置の構成を概略的に示す模式図である。
図2】本発明の一実施の形態におけるダイスの構成を概略的に示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態におけるダイスおよびストッパーの構成を概略的に示す側面図である。
図4】本発明の一実施の形態のダイスにおける潤滑部の配置を示す平面模式図である。
図5】本発明の一実施の形態のダイスにおける潤滑部の配置を示す平面模式図である。
図6】本発明の一実施の形態のダイスにおける潤滑部の配置を示す平面模式図である。
図7】本発明の一実施の形態におけるダイスおよびストッパーの構成を概略的に示す側面図である。
図8】本発明の一実施の形態のストッパーにおける潤滑部の配置を示す平面模式図である。
図9】本発明の一実施の形態のストッパーにおける潤滑部の配置を示す平面模式図である。
図10】本発明の一実施の形態のストッパーにおける潤滑部の配置を示す平面模式図である。
図11】従来例のダイスとストッパーとを示す図である。
図12】従来例のダイスによって導体に絶縁塗料が塗布された状態を示す図である。
図13】本発明例のダイスとストッパーとを示す図である。
図14】本発明例のダイスによって導体に絶縁塗料が塗布された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。なお本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0017】
図1を参照して、本実施の形態の絶縁電線の製造装置100は、導体11に絶縁塗料を塗布することで絶縁電線を製造するためのものであり、複数の塗布部12と、複数のストッパー15と、複数の乾燥用加熱装置16と、複数の硬化用加熱装置17と、搬送部13と、複数のダイス10とを主に有している。
【0018】
本実施の形態において、導体11の断面形状は円形であるが、断面形状は円形に限られずたとえば四角形であってもよい。断面形状が四角形である導体11とは、断面において対向する二組の辺を有する形状であればよく、角部が丸まっている場合を含む。断面形状が四角形である導体11の具体例としては、長方形や正方形が挙げられる。なお、導体11の断面形状は、楕円、六角形などの多角形であっても構わない。
【0019】
複数の塗布部12の各々は、たとえばポリアミドイミド樹脂ワニス、ポリイミド樹脂ワニスなどの絶縁塗料が充填されるものであり、導体11が塗布部12内を通過することで導体11の外周面に絶縁塗料を塗布できるように構成されている。
【0020】
複数のダイス10の各々は、本体部1と潤滑部2とを有している。導体11が本体部1に設けられた貫通孔5の開口部6を通過することで導体11の外周面に塗布される絶縁塗料の厚みを一定厚みに制御できるように構成されている。ダイス10の構成の詳細については後述する。
【0021】
複数の乾燥用加熱装置16は、導体11上に塗布された絶縁塗料を主に乾燥させるために導体11および絶縁塗料を加熱するためのものである。ここで絶縁塗料の乾燥とは、絶縁塗料に含まれる溶剤を気化させる温度であって、絶縁塗料が硬化しない温度に加熱することを意味する。この乾燥用加熱装置16の各々は、誘導加熱コイルであってもよい。硬化用加熱装置17は、導体11上にて絶縁塗料を主に硬化させるために導体11および絶縁塗料を加熱するためのものである。ここで絶縁塗料を硬化させるとは、絶縁塗料を硬化させる温度以上に加熱することを意味する。この硬化用加熱装置17は、誘導加熱コイルであってもよい。
【0022】
塗布部12によって、導体11に対して絶縁塗料が塗布され、ダイス10によって絶縁塗料の厚みが制御され、乾燥用加熱装置16によって絶縁塗料が乾燥され、硬化用加熱装置17によって絶縁塗料が硬化されるという一連の動作が行われる。塗布部12と、ダイス10と、ストッパー15と、乾燥用加熱装置16と、硬化用加熱装置17とを一組の塗布ユニットとした場合、本実施の形態の絶縁電線の製造装置100は、複数組の塗布ユニットを有している。これにより、導体11に対して絶縁塗料を複数回塗布することができる。
【0023】
搬送部13は、導体11を上流側から下流側に搬送するためのものである。搬送部13によって、導体11が塗布部12や硬化用加熱装置17などを通過することができる。
【0024】
図2図10を参照して、本実施の形態のダイス10およびストッパー15の構成について説明する。
【0025】
図2に示すように、ダイス10は、本体部1と潤滑部2とを有している。本体部1は、互いに対向する一方端面3および他方端面4を有している。本体部1の一方端面3と他方端面4とを貫通するようにテーパー状の貫通孔5が形成されている。この貫通孔5の一方端面3における開口部6と、他方端面4における開口部とは、ともに円形状を有している。本実施の形態において、他方端面4における開口部の面積は、一方端面3における開口部6の面積よりも大きい。潤滑部2は、一方端面3側に設けられており、導体11を通す孔2bを有している。
【0026】
図3を参照して、ダイス10とストッパー15との構成について説明する。図3に示すように、ダイス10は本体部1と潤滑部2とを有しており、ストッパー15はストップ面15Aと他の面15Bとを有している。図3に示すように、潤滑部2は本体部1の一方端面3側に配置されている。一方端面3とは、ストッパー15のストップ面15Aと対向する面のことである。潤滑部2の摩擦係数は本体部1の一方端面3の摩擦係数よりも小さい。より詳細には、潤滑部2のストップ面15Aに対する摩擦係数は、本体部1の一方端面3のストップ面15Aに対する摩擦係数よりも小さい。潤滑部2の摩擦係数はたとえば0.1以下である。また、摩擦力が小さいとは滑り性が良いということである。なお、ダイス10はたとえば合金からなり、ストッパー15はたとえば鉄からなる。
【0027】
潤滑部2とは、たとえばPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)、DLC(Diamond Like Carbon)および潤滑油などである。PTFEは、フッ素原子と炭素原子からなるフッ素樹脂であり摩擦力が非常に小さい性質を有する。DLCは、たとえばイオンを利用した気相合成法により合成されるダイヤモンドに類似した高硬度、電気絶縁性、赤外線等価性などを有するカーボン薄膜の総称である。DLC塗膜はアモルファス構造のため非常に平滑な表面を有する。潤滑部2としては、他にもナイロン、ポリエチレン、ポリアセタール、ポリカーボネートなどを用いることもできる。好ましくは、潤滑部2はPTFE、DLCおよび潤滑油の少なくともいずれかを含む。
【0028】
潤滑部2は、たとえば蒸着や塗布によってダイス10の一方端面3上に形成可能である。潤滑部2の厚みはたとえば10μm以上50μm以下である。
【0029】
図4に示すように、潤滑部2はたとえば本体部1の一方端面3の全体に形成されている。また、図5に示すように、潤滑部2は一方端面3の一部に、貫通孔5が貫通する方向(仮想の軸X:図2参照)を中心とした半径rの仮想の円の円周上に配置されていても構わない。潤滑部2の平面形状はたとえばリング状である。さらに、潤滑部2は複数の潤滑領域2aを有していてもよい。図6に示すように、一方端面3の一部に、貫通孔5が貫通する方向(仮想の軸X:図2参照)を中心として同心円状に複数の潤滑領域2aが形成されていても構わない。なお、同心円とは中心が同じで半径の異なる円のことである。本実施の形態において、潤滑領域2aは半径r1の円の円周上と、半径r2の円の円周上とに配置されている。
【0030】
図7を参照して、潤滑部2はたとえばストッパー15のストップ面15Aに形成されていても構わない。ストッパー15は、導体11の移動方向へ向かうダイス10の移動を制限するためのものである。これにより、ダイス10がストップ面15Aよりも下流側へ移動しないように制限している。ストップ面15Aは、ダイス10の一方端面3と対向する面である。
【0031】
潤滑部2がストップ面15Aに形成されている場合、潤滑部2の摩擦係数はストッパー15のストップ面15Aの摩擦係数よりも小さい。より詳細には、潤滑部2のダイス10の一方端面3に対する摩擦係数は、ストップ面15Aのダイス10の一方端面3に対する摩擦係数よりも小さい。
【0032】
図8に示すように、潤滑部2はたとえばストッパー15のストップ面15Aの全体に形成されていても構わない。また、図9に示すように、潤滑部2はストップ面15Aの一部に、ストッパー15の開口部20を中心とした半径rの円の円周上に配置されていても構わない。さらに、図10に示すように、ストップ面15Aの一部に、ストッパー15の開口部20を中心として同心円状に複数の潤滑領域2aが形成されていても構わない。本実施の形態において、潤滑領域2aは半径r1の円の円周上と、半径r2の円の円周上に配置されている。
【0033】
好ましくは、潤滑部2は、ダイス10の一方端面3およびストッパー15のストップ面15Aの各々に形成されている。また、一方端面3に形成される潤滑部2とストップ面15Aに形成される潤滑部2の材料および配置は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0034】
以上のように、本実施の形態の絶縁電線の製造装置100は、ダイス10とストッパー15とを有し、ダイス10の一方端面3およびストッパー15のストップ面15Aの少なくとも一方上に配置された潤滑部2を有している。潤滑部2の摩擦係数は、潤滑部2が設けられている面(以下、潤滑部搭載面と称し、潤滑部2が対向する面を潤滑部対向面と称する)の摩擦係数よりも小さい。より詳細には、潤滑部2の潤滑部対向面に対する摩擦係数は、潤滑部搭載面の潤滑部対向面に対する摩擦係数よりも小さい。
【0035】
ここで、ダイス10の動作について説明する。
まず、絶縁塗料が塗布された導体11がダイス10に形成された貫通孔5を通過する際に、当該貫通孔5の内側面は導体11の外周面に塗布された絶縁塗料と接する。導体11が搬送部13により上流側から下流側に移動すると、ダイス10に対して導体11の進行方向X(すなわち図1中上方向であって、重力と反対の方向)へ引き上げる力がかかる。この引き上げる力は、絶縁塗料の粘性が高くなるとより大きくなる。同時に、ダイス10はダイス10自身の質量を有しているため、ダイス10に対して重力がかかっている。つまり、ダイス10は、ダイス10にかかる重力と、ダイス10にかかる当該引き上げる力とがつりあった状態で浮いた状態にある。絶縁塗料の粘性が高い場合、当該引き上げる力が重力よりも大きくなるため、ダイス10は導体11の進行方向Xへ移動する。
【0036】
導体11の進行方向Xへ移動したダイス10は、ダイス10よりも下流側に位置するストッパー15のストップ面15Aと接触する。このストッパー15により、ダイス10がこれ以上、下流側へ移動することができない。
【0037】
図11および図12を参照して、比較例のダイス10(つまり潤滑部2を有しないダイス)を使用して導体11に絶縁塗料を塗布する場合、ダイス10が絶縁塗料の粘性により持ち上げられ、ダイス10の一方端面3がストッパー15のストップ面15Aと接触する。ダイス10の一方端面3とストッパー15の端面との間の摩擦力によって、ダイス10はストッパー15に対して移動することできない。導体11が進行方向を回転軸としてねじれた状態でダイス10の貫通孔を通過すると、図12に示すように導体11に塗布される絶縁塗料24の厚みにばらつきが生じる。
【0038】
図13および図14を参照して、本実施の形態のダイス10を使用して断面形状が四角形の導体11に絶縁塗料24を塗布すると、導体11が進行方向を回転軸としてねじれている場合でも、絶縁塗料24の厚みを均一にすることができる。以下、その理由について説明する。
【0039】
本実施の形態のダイス10は、一方端面3に潤滑部2が形成されている。潤滑部の摩擦係数は小さいので、ダイス10の一方端面3がストッパー15に接触した場合でも、ダイス10は潤滑部2によって貫通孔5が貫通する貫通方向に垂直な平面内を滑ることで移動可能である。
【0040】
導体11がねじれた状態でダイス10の貫通孔を通過したとき、導体11の外周部とダイス10の内壁部との間に存在する絶縁塗料24の厚みが厚い場合に絶縁塗料24の粘性によってダイス10にかかる力と、絶縁塗料24の厚みが薄い場合に絶縁塗料24の粘性によってダイス10にかかる力は異なっている。
【0041】
当該ダイス10およびストッパー15を用いて絶縁塗料を導体11に塗布する場合、ダイス10はストッパー15に固定されずに、絶縁塗料24の粘性によってダイス10にかかる力を均一化するように、ダイス10が導体11の進行方向に延在する軸線周りに自由に回転したり、貫通孔5が貫通する貫通方向Xに直交する平面内で移動することができる。結果として、ダイス10は、導体11のねじれに追随するように移動することで、導体11の外周部に塗布される絶縁塗料24の厚みが均一になる。
【0042】
次に、本実施の形態に係る絶縁電線の製造方法について説明する。
図1を参照して、まず導体11は、導体11の移動経路の最上流に位置する塗布部12を通過することにより、導体11の外周面に第1層目の絶縁塗料が塗布される。その後、第1層目の絶縁塗料が塗布された導体11が、ダイス10に形成された貫通孔5を通過する。この際、導体11のねじれに追随してダイス10が回転または貫通孔が貫通する貫通方向Xを法線とする平面内で移動することにより、導体11の外周面に塗布された第1層目の絶縁塗料の厚みが一定に制御される。その後、ダイス10の貫通孔5を通過した導体11は、乾燥用加熱装置16に移動する。乾燥用加熱装置16において、導体11上に塗布された絶縁塗料が乾燥される。その後、導体11は硬化用加熱装置17へ移動する。硬化用加熱装置17では、導体11に塗布された絶縁塗料が硬化される。
【0043】
1層目の絶縁塗料が塗布された導体11は、2つ目の塗布部12へと移動する。2つ目の塗布部12では、第1層目の絶縁塗料の上に第2層目の絶縁塗料が塗布される。第1層目の絶縁塗料とその上に第2層目の絶縁塗料が塗布された導体11は、2つ目のダイス10の貫通孔5を通過する。2つ目のダイス10の貫通孔5のサイズは、1つ目のダイス10の貫通孔5のサイズよりも大きくなっている。導体11が2つ目のダイス10の貫通孔5を通過する。
【0044】
第1層目の絶縁塗料とその上に第2層目の絶縁塗料が塗布された導体11は、乾燥用加熱装置16および硬化用加熱装置17を通り、2層目の絶縁塗料が乾燥、硬化される。塗布、乾燥、硬化が所定回数(n回:たとえば10回)繰り返されることにより、導体11の外周面にn層の絶縁塗料が塗布される。以上のようにして、導体11に絶縁塗料が塗布されることにより絶縁電線が製造される。
【0045】
なお、ダイス10およびストッパー15は上述した構成を有しており、ダイス10はストッパー15によって導体11の移動方向に向かう移動を制限されている。ダイス10の一方端面3およびストッパー15のストップ面15Aの少なくとも一方上には潤滑部2が設けられている。潤滑部2の摩擦係数は、潤滑部2が設けられている面の摩擦係数よりも小さい。
【0046】
また、本実施の形態に用いられる絶縁塗料24としては、たとえばエナメル被覆の構成樹脂を溶剤で溶解したものが用いられる。この構成樹脂は、絶縁性が高く、耐熱性が高い樹脂であれば特に限定されない。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂などが好適に使用され得る。また溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンやクレゾールを利用することができる。
【0047】
また、導体11の具体例としては、たとえば銅線、銅合金線、錫めっき銅線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、鋼心アルミニウム線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミニウム線などが挙げられる。
【0048】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態に係るダイス10によれば、潤滑部2は本体部1の一方端面3上に配置されており、潤滑部2の摩擦係数は本体部1の一方端面3の摩擦係数よりも小さい。また本実施の形態に係る絶縁電線の製造装置100および絶縁電線の製造方法によれば、潤滑部2は一方端面3およびストップ面15Aの少なくとも一方面上に配置されており、潤滑部2の摩擦係数は潤滑部2が設けられている面の摩擦係数よりも小さい。これにより、潤滑部2を有していない場合と比較して、ダイス10はストッパー15に対して容易に移動することができる。それゆえ、導体11がねじれたり偏心している場合でも、ダイス10は導体11のねじれや偏心に追随して移動することができる。結果として、導体11に塗布される絶縁塗料24の厚みのばらつきを低減することができる。
【0049】
本実施の形態において、潤滑部2は、PTFE、DLCおよび潤滑油の少なくともいずれかを含む。これにより、潤滑部2を容易に形成可能である。
【0050】
本実施の形態において、潤滑部2は、貫通孔5に沿った仮想の軸Xを中心とした同心円状に配置されている。これにより、ダイス10の一方端面3がストッパー15のストップ面15Aに対して傾斜することを抑制することにより、導体11に塗布される絶縁塗料24の厚みがばらつくことを低減することができる。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 本体部、2 潤滑部、2a 潤滑領域、3 一方端面、4 他方端面、5 貫通孔、6 開口部、11 (平角)導体、12 塗布部、13 搬送部、15 ストッパー、15A ストップ面、16 乾燥用加熱装置、17 硬化用加熱装置、20 開口部、24 絶縁塗料、100 製造装置。
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