(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施例について図面を用いて説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0017】
まず、筒内噴射式の内燃機関に使用される燃料噴射システムの概略について
図1を用いて説明する。同図に示すように、ポンプ本体1は燃料吸入通路104、燃料吐出通路105および加圧室106を有しており、加圧室106には燃料を加圧するための往復動式のプランジャ101が収納されている。プランジャ101は内燃機関によって回転されるカム7によって駆動されるものであり、カム7の回転によってプランジャ101を上下運動させて加圧室106内の燃料を加圧するものである。
【0018】
燃料吸入通路104には電磁式のスピル弁102が設置されており、スピル弁102はスプリング109によって閉じる方向に付勢されている。尚、スプリング109はスピル弁102を閉じる方向に付勢しているが、開く方向に付勢していても良い。また、燃料吐出通路105には流体圧式の吐出弁103が設置されており、吐出弁103はスプリング103Aによって閉じる方向に付勢されている。
【0019】
燃料吸入通路104には低圧配管21が接続されており、低圧ポンプ31から低圧の燃料が供給される構成となっている。また、燃料吐出通路105は高圧配管22でコモンレール5に接続されている。
【0020】
ポンプ本体1は可変容量制御機構107を備えており、可変容量制御機構107は、ソレノイドコイル108、コア112、ストッパ113、ロッド110、スプリング109より構成されている。
【0021】
ロッド110の先端にはアンカー111が設けられており、可変容量制御機構107に駆動信号が与えられていない状態ではアンカー111に電磁力が作用せず、スプリング109によってスピル弁102を閉弁する方向にロッド110を付勢している。
【0022】
可変容量制御機構107に駆動信号が与えられていない状態では、スピル弁102が閉弁状態となる、いわゆるノーマルクローズ型のポンプである。尚、スピル弁102の動作がノーマルクローズ型とは逆になる、いわゆるノーマルオープン型のポンプであっても本発明は適用可能である。つまり、ノーマルクローズ型では電流が供給されない時にはスピル弁102が閉じられているが、ノーマルオープン型では電流が供給されない時にはスピル弁102が開かれている。このため、スピル弁102の開閉動作は逆になるが、作動音は当然のごとく開弁音と閉弁音が発生するものである。
【0023】
燃料タンク3から低圧ポンプ31によって吸い上げられた燃料は、プレッシャレギュレータ32によって一定の圧力の調圧された後に、ポンプ本体1の燃料吸入通路104に供給される。その後、ポンプ本体1によって加圧されて燃料吐出通路105を通ってコモンレール5に送られる。
【0024】
コモンレール5には燃料噴射弁4、圧力センサ51、安全弁52が取り付けられている。燃料噴射弁4は内燃機関の気筒毎に設けられ、これらは夫々の気筒に装着されてコントローラ6の駆動信号によって燃料を気筒内に噴射する。
【0025】
圧力センサ51は検出した圧力信号をコントローラ6に送り、燃料圧力をフィーバック制御したり、異常燃圧を検出して適切な安全処理を行なうために使用される。
【0026】
安全弁52はコモンレール5内の燃料圧力が所定の値を超えた時に開弁してコモンレール5の破損を防止する機能を備えている。
【0027】
コントローラ6は内燃機関の動作状態を検出するセンサから得られるクランク回転角、スロットル開度、エンジン回転数、燃料圧力等の状態量に基づいて適切な燃料噴射量や燃料圧力及びスピル弁102や燃料噴射弁4を駆動するタイミングを演算し、可変容量制御機構107や燃料噴射弁4の駆動信号61、62を生成して可変容量制御機構107や燃料噴射弁4に送っている。
【0028】
ポンプ本体1のプランジャ101はカムシャフトによって駆動、回転されるカム7によって往復運動を付与され、この往復運動によって加圧室106の容積を変化させて高圧状態を作り出している。
【0029】
コントローラ6よりポンプ1の可変容量制御機構107へ駆動信号61が送られると、ソレノイドコイル108に電流が流れて電磁場を発生し、電磁力によってアンカー111によってロッド110を押し出すことによってスピル弁102が開弁する。
【0030】
プランジャ101が吸入工程及び圧縮工程にある間でスピル弁102を開弁及び閉弁させることで燃料噴射弁4に必要な燃料が加圧されてコモンレール5に圧送される。つまり、可変容量制御機構107によるスピル弁102の開弁タイミングと閉弁タイミングを制御することで加圧燃料量を調整することができる。
【0031】
そして、この可変容量制御機構107によるスピル弁102の駆動に起因して以下の作動音が発生する。第1に、スピル弁102を開くためにアンカー111がコア112に衝突して衝突音を発生する。第2に、ソレノイドコイル108への電流がOFFとなってスピル弁102が閉弁するが、その際にスピル弁102とストッパ113が衝突して衝突音を発生する。本実施例においては、アンカー111がコア112に衝突して発生する衝突音の方が、スピル弁102がストッパ113に衝突して発生する衝突音より大きい場合を例示している。
【0032】
次に、燃料噴射弁4は内燃機関の気筒数に対応して設けられており、
図1では4気筒であるので4個の燃料噴射弁が設けられている。これらは、カム軸が1回転する1サイクルにつき1回駆動されるため、コントローラ6は1サイクルにつき4回の燃料噴射弁駆動信号62を送る。
【0033】
このため、コントローラ6は燃料噴射が必要なタイミングと必要な噴射量を演算し、それぞれの燃料噴射弁4に駆動信号を与えるように構成されている。
【0034】
コモンレール5に燃料が圧送されている状態で、燃料噴射弁4に駆動信号62が与えられると、燃料噴射弁4は内部に収納されている閉弁スプリングの力に抗して弁を開いて燃料を気筒内に噴射し、更に駆動信号62が断たれると閉弁スプリングの力によって弁を閉じて燃料の噴射を停止するものである。
【0035】
そして、燃料噴射弁4の作動に起因して以下の作動音が発生する。第1に、燃料噴射弁4の弁を開くために燃料噴射弁4内のアンカーがコアに衝突して衝突音を発生する。第2に、燃料噴射弁4の駆動信号がOFFとなって燃料噴射弁4の弁が閉弁スプリングによって弁座に衝突して衝突音を発生する。本実施例においては、燃料噴射弁4の弁が弁座に衝突して発生する衝突音の方が、燃料噴射弁4内のアンカーがコアに衝突して発生する衝突音より大きい場合を例示している。
【0036】
一般には、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音の方が高圧燃料ポンプのスピル弁の駆動に起因する作動音に対して大きい場合が多く本実施例ではこれを前提としている。
【0037】
ただ、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音が燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音に対して大きいこと場合もあり、これについては実施例2において説明する。
【0038】
次に、本発明で特徴的な技術的事項について説明する。本発明では人間の聴感覚に存在する時間マスキング効果によって、実際に発生している作動音を他の作動音によって搭乗者に聞こえづらくして見かけ上の静粛性を向上していることである。
【0039】
一般に、2つの騒音が発生する場合において発生タイミングを合わせて重複させると両者が重ね合わされて大きくなり、発生タイミングをずらし過ぎると2つの音が別々に聞こえるだけとなって騒音の低減効果は少ない。
【0040】
そこで、時間マスキング効果という人間の聴感覚特性を利用して、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音で高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音を聞こえづらくして見かけ上の静粛性を向上するようにしたものである。
【0041】
図2に時間マスキング効果の概念を示している。時間マスキング効果とは、ある音が鳴りやんだ直後に別の音を鳴らした場合、人間の耳では後の音が前の音にかき消されて聞こえなくなってしまう現象である。これは、前の音を聞いているときの耳の中の鼓膜の振動がすぐには止まらずに、徐々に減衰するためといわれている。
【0042】
図2に示すように、あるタイミングの間(ON→OFFの期間)でマスカー(マスクする音)81を発生させた場合、これに続くマスキー(マスキングされる音)82がマスカー81によって定まるマスキング特性領域83にあれば、マスキー82はマスカー81によってマスキングされるというものである。この場合、マスカー81はマスキー82より音の大きさ(音圧)が大きいことが前提となる。そして、本実施例においては燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音をマスカー81としている。
【0043】
時間マスキング効果は、マスカー81の後の音がマスクされる場合を順向マスキング、マスカー81より前の音がマスクされる場合を逆向マスキングという。尚、逆向マスキングは時間的に後の音が前の音をマスクすることであるが、音が人間の聴覚神経を伝わるときに、音圧が大きい音の方が神経パルスの伝達路が活性化されて神経の接続部(シナプス)でのパルスの連絡が速くなるために生じているといわれている。
【0044】
図3に時間マスキングの事例を示しており、マスカー81を70dB、50ms間発生させた白色雑音とし、マスキー82を70dB、5ms間発生させた1000Hzの正弦波とした時のマスキング効果を実験的に調査したものである。これにより、マスキング効果は上述の通り、時間間隔が長いと指数関数的に弱まっていることが分かり、効果を出すには、出来るだけマスカー81とマスキー82を重複しない程度に近接させる必要があることがわかる。
【0045】
一般的には時間マスキング特性領域は、順向マスキングで約100ms、逆向マスキングで約20ms程度であり、時間マスキング効果はマスカー81とマスキー82との時間間隔が大きくなると指数関数的に弱まるため、マスカー81とマスキー82の発生時期は重複しない範囲で出来るだけ時間間隔は短い方が良い。
【0046】
本実施例においても燃料噴射弁4の駆動時期と高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動時期を燃料噴射弁4の時間マスキング特性領域に収まるようにすることが重要である。
【0047】
次に、時間マスキング効果を利用した高圧燃料ポンプのスピル弁102と燃料噴射弁4の駆動タイミングについて
図4に基づいて説明する。
【0048】
図4において、(a)はプランジャ7の動作状態を示しており、TDC(トップデッドセンタ)とBDC(ボトムデッドセンタ)の間でプランジャ7の位置が変位している。したがって、プランジャ7の位置が上昇すると圧縮工程となり、プランジャ7の位置が下降すると吸入工程となる。
【0049】
(b)は可変容量制御機構107のソレノイドコイル108へ通電する電流信号であり、ONタイミングでスピル弁102が開き、OFFタイミングでスピル弁102が閉じるものである。これに同期して(c)にあるようにスピル弁102がON時間だけ開くようになる。
【0050】
したがって、このON時間だけスピル弁102は開いているので、吸入工程であれば燃料が燃料吸入通路104から吸入され、或いは圧縮工程にあれば燃料吸入通路104に戻されるものである。
【0051】
そして、スピル弁102が閉じることで実質的な加圧が始まり、(a)に示したOutputの時間だけ加圧されるものである。また、(d)は加圧室106の圧力変化を示しており、スピル弁102が閉じた時点からプランジャ101による加圧が始まっている。
【0052】
そして、(e)は燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期を示している。具体的には燃料噴射弁4の噴射タイミングと実質的に同時期、或いは若干遅れて発生している。
【0053】
また、(f)は高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音の発生時期を示しており、この発生時期は燃料噴射弁4の作動音94によって定まる時間マスキング特性領域に収まる範囲に設定されている。つまり、高圧燃料ポンプのスピル弁102は燃料噴射弁4の作動音94によって定まる破線で示す期間MASKの間の時間マスキング特性領域内で駆動されることになる。
【0054】
実施例では燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94が最も大きい音源としたため、逆向マスキング(期間BT)と順向マスキング(期間AT)の両方を採用している。
【0055】
このような制御を行なうための制御フローチャートを
図8に示している。
図8において、ステップ85においてエンジンの回転数を検出し、ステップ86で検出された回転数からアイドリングか、そうでないかを判断する。アイドリングでないならばこれ以上のステップに進まず終了する。
【0056】
ステップ86でアイドリングと判断されると本実施例になる騒音コントロール機能を実施する。騒音コントロール機能はステップ87において、燃料噴射弁4の駆動信号マップから燃料噴射弁4の作動音が発生するタイミング(騒音発生タイミング)を演算する。この作動音の発生タイミングが時間マスキングするための時間的な基準位置となる。尚、アイドリング状態での燃料噴射弁4の作動音の大きさ(音圧)は予め測定されているので時間マスキング効果を得るための時間マスキング特性領域は予め求められている。
【0057】
ステップ87で燃料噴射弁4の作動音が発生するタイミングが決まると、ステップ88に進んで時間マスキング特性領域(時間マスキング曲線)内の範囲で、高圧燃料ポンプのスピル弁102に与える電流信号のON/OFFタイミングを演算する。したがって、燃料噴射弁4の作動音が発生するタイミングを基準として前後の所定マスキング時間内で高圧燃料ポンプのスピル弁102が駆動されることになる。
【0058】
次に、ステップ88で演算された高圧燃料ポンプのスピル弁102の電流信号のON/OFFタイミングに基づいて、ステップ89で実際にスピル弁102を駆動制御して、この制御フローを終了するものである。
【0059】
以上において、
図4に戻って更に詳細に説明すると、
図1のポンプ駆動信号61がコントローラ6から送られるとポンプ本体1が駆動され、スピル弁102の駆動に起因する作動音92、93が発生する。また、燃料噴射弁4の駆動信号62がコントローラ6から送られると燃料噴射弁4が駆動され、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94が発生する。
【0060】
高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音は、
図5にあるようにスピル弁102が開弁する時のアンカー111とコア112の衝突によって、
図4の(f)にある衝突音(開弁音)92が発生する。また、
図6にあるようにスピル弁102が閉弁する時のスピル弁102とストッパ113の衝突によって、
図4の(f)にある衝突音(閉弁音)93が発生する。
【0061】
本実施例では、
図1にあるようにカム7は4葉、つまりカム山を4つ持つのでプランジャ101はカム軸1回転につき4回往復する。
図4でプランジャ変位の上昇行程が加圧行程であり、下降行程が吸入行程である。
【0062】
プランジャ101が吸気行程に入るとコントローラ6から高圧燃料ポンプの可変容量制御機構107へ駆動信号61が送られ、ソレノイドコイル108が通電されて電磁場を発生し、この電磁力によってアンカー111がロッド110を押し出すことによってスピル弁102が開弁する。この時に、アンカー111がコア112に衝突することによって衝突音(開弁音)92が発生する。
【0063】
また、スピル102が開弁されて燃料が加圧室106に送られた後にソレノイドコイル108への通電がOFFとなり電磁力が消滅し、スプリング109によってスピル弁102が閉弁する。その時に、スピル弁102とストッパ113が衝突することによって衝突音(閉弁音)93が発生する。
【0064】
本実施例において、これらのスピル弁102の開閉に伴う衝突音は衝突音(開弁音)92の方が大きいとしたが、種々のポンプを考慮するとどちらも衝突による衝撃音なので、どちらが大きいとはいえない場合がある。このため、上述したように本実施例では両方の衝突音92、93を時間マスキングするため、逆向マスキングと順向マスキングの両方を採用することにしている。
【0065】
同様に、コントローラ6から燃料噴射弁4に燃料噴射弁駆動信号62が送られると、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94が発生する。上述したように、燃料噴射弁4の弁を開くために燃料噴射弁4内のアンカーがコアに衝突して衝突音を発生する。また、燃料噴射弁4の駆動信号がOFFとなって燃料噴射弁4の弁が閉弁スプリングによって弁座に衝突して衝突音を発生する。したがって、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音は燃料噴射弁4の開閉タイミングで2回発生することになるが、本実施例では、ON時よりもOFF時の閉弁による作動音が支配的であるとして、閉弁による作動音94に着目して説明する。
【0066】
図4の(e)及び(f)に示すように、本実施例においては燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音(閉弁による作動音)94と高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音92、93の発生タイミングを適切に制御して、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音(閉弁による作動音)94で高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動ポンプ駆動に起因する作動音92、93を時間マスキングする構成としている。
【0067】
つまり、本実施例においては燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音(閉弁による作動音)94が最も大きいとして
図2にあるマスカー81に設定し、この燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音(閉弁による作動音)94を基準にして時間マスキング特性領域を設定する。
【0068】
この時間マスキング特性領域は内燃機関がアイドリング状態にある時に燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音(閉弁による作動音)94の平均的な大きさ(音圧)を測定し、この値に応じて
図3にあるような時間マスキング特性領域を求めている。
【0069】
これに基づいて逆行マスキング側の時間BTと順向マスキング側の時間ATの間においてマスキー82の発生時期、つまりスピル弁102の開閉による作動音92、93の発生時期を決めることができる。言い換えれば、スピル弁102の開閉時期を決めることができる。
【0070】
図4に示すように、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94を基準にして、逆行マスキング側の所定時間BT内でスピル弁102を開き、順行マスキング側の所定時間AT内でスピル弁102を閉じるようにすると、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94に基づいて定まる時間マスキング領域にスピル弁102の作動音92、93の発生時期を収めることができる。
【0071】
逆行マスキングと順向マスキングの時間的な長さは、基本的には燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の大きさ(音圧)に基づいて定まるので、音圧を推定して逆行マスキングと順向マスキングの時間的な長さを求めてスピル弁102の作動音92、93の発生時期を決めることも可能である。
【0072】
内燃機関が高速運転されている時には内燃機関の作動音自体が支配的になるため、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音や燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音は目立たなくなるが、800回転くらいのアイドリング状態では内燃機関の作動音が小さくなるので、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音や燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音が目立ってくる傾向にある。
【0073】
本実施例はアイドリング時等に高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音や燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音を対策するため、燃料噴射弁4の作動音によって定まる時間マスキング特性領域でスピル弁102を駆動することによって、時間マスキング効果を利用してスピル弁102の作動音を搭乗者に聞こえづらくすることで、見掛け上の静粛性を向上するようにしたものである。
【0074】
例えば、800回転のアイドリング状態を考えると、本実施例は4葉カムを想定しているので、プランジャ1017の或る上死点から次に上死点までの移動にかかる時間は約42msである。
【0075】
燃料噴射弁4の作動音から求まる時間マスキング特性領域から有効な逆向マスキング時間BTは燃料噴射弁4の作動音の発生時期を基準に前側に約10msであり、同様に順向マスキング時間ATは燃料噴射弁4の作動音の発生時期を基準に後側に約25msと考えられる。したがって、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期より手前側で約10ms以内にスピル弁102の開弁音92を発生するように可変容量制御機構107に駆動信号を送れば良く、同様に燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期より後側で約25ms以内にスピル弁102の閉弁音93を発生するように可変容量制御機構107に駆動信号を送れば良い。
【0076】
この具体的な手法としては、高圧燃料ポンプの駆動信号61、つまり可変容量制御機構107のソレノイドコイル108への通電時間のON/OFFのタイミングを制御することによって、スピル弁102の開弁音92と閉弁音93の発生タイミングを制御できる。
【0077】
このため、燃料噴射弁4の駆動タイミングを基に可変容量制御機構107のソレノイドコイル108への通電タイミングと通電時間を決めてやれば、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94で高圧燃料ポンプのスピル弁の駆動に起因する作動音92、93を時間マスキングできるようになる。
【0078】
以上に説明した実施例においては、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音の方が高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音より大きいとして説明したが、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音の方が燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音より大きい場合でも同様に本発明の考え方を適用できるものである。
【0079】
この場合は、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音より前に燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音が存在しないため、順向マスキングだけを考慮して高圧燃料ポンプのスピル弁102の作動音の発生時期を決めてやれば良いものである。
【0080】
図7に基づいて、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音の方が燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音より大きい場合の高圧燃料ポンプのスピル弁102と燃料噴射弁4の駆動タイミングについて説明する。
【0081】
図7において
図4と異なるタイミングチャートは(e)及び(f)のタイミングチャートであるので、これ以外のタイミングチャートの説明は省略する。
【0082】
そして、
図7の(e)は燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期(具体的には燃料噴射弁4の噴射タイミングと実質的に同時期、或いは若干遅れて発生する)を示している。
【0083】
また、
図7の(f)は高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音の発生時期を示しており、この発生時期は高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音92によって定まる時間マスキング特性領域内に、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期が収まるようになっている。
【0084】
つまり、燃料噴射弁4の駆動時期は内燃機関の燃焼に大きく関与するため、基本的には従来から行なわれている駆動時期と基本的には同一である。
【0085】
このため、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期を基準にして、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音92によって定まる時間マスキング特性領域に燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94の発生時期が入るようにしている。つまり、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音92と燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94が時間マスキング特性領域で発生するようにスピル弁102の開弁時期を制御するように構成している。
【0086】
この実施例では、スピル弁102の開弁音92が発生してから後側に約25ms以内に燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94及びスピル弁102の閉弁音93が発生するようにスピル弁102の開閉タイミングを調整している。これは高圧燃料ポンプの駆動信号61、つまり可変容量制御機構107のソレノイドコイル108への通電時間のON/OFFのタイミングを制御することによって実現できる。
【0087】
このように、上述した実施例に代表されるように、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音或いは高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音の発生時期を制御することによって人間の聴感覚に存在する時間マスキング効果を搭乗者に与え、実際の作動音は発生しているのに拘わらず見かけ上の静粛性を向上できるものである。
【0088】
尚、以上のような実施例において、燃料噴射弁4の駆動信号62の発生タイミングがあらかじめ分かっている場合は、高圧燃料ポンプの駆動信号61であるソレノイドコイル108への通電時間のON/OFFの適切なタイミングをマッチング等の手法によって求め、これをコントローラ6の記憶領域を構成するフラッシュROM等の半導体メモリに予めマッピングして記憶させることで、スピル弁102の開閉時期を制御できるので燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音の時間マスキングが可能となる。
【0089】
一方、燃料噴射弁4の駆動信号62の発生タイミングが予め分かっていない場合、或いは燃料噴射弁4の駆動信号62の発生タイミングが変化する場合は以下の方法で時間マスキングが可能となる。
【0090】
例えば、
図1で燃料噴射弁駆動信号62がコントローラ6から燃料噴射弁4に送られるときに、コントローラ6内で高圧燃料ポンプの駆動信号61、つまりソレノイドコイル108への通電時間を演算し、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94が発生する時期を基準に、スピル弁102の開弁音92が逆行マスキング側で約10msの間に発生し、スピル弁の閉弁音93が順向マスキング側で約25msの間に発生するように高圧燃料ポンプの駆動信号61を調整すれば良い。
【0091】
また、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94で高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音92,93を時間マスキングする方法として、駆動カム7の位相をあらかじめ設定しておく方法がある。例えば、
図1にある筒内噴射方式の燃料噴射システムに使用される高圧燃料ポンプの場合であれば、内燃機関のカム軸にプランジャ101を駆動する駆動カムが取り付けられているので、その駆動カム7とプランジャ7の相対的な位相を調整すれば良い。
【0092】
駆動カム7の位相を調整する場合は、
図4の高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する作動音92、93が時間的に前後にずれる形となる。つまり、燃料噴射弁4の駆動に起因する作動音94を基準に、高圧燃料ポンプのスピル弁102の駆動に起因する開弁音92が逆行マスキング側で約10msの間に発生し、スピル弁の閉弁音93が順向マスキング側で約25msの間に発生するように駆動カムの位相を調整することで実現できる。
【0093】
また、上述した駆動カム7の位相調整と高圧燃料ポンプのソレノイドコイル108への駆動信号の通電時間、ON/OFFのタイミングの制御を併用すること何ら差し支えないものである。
【0094】
以上述べたように、本発明の特徴は燃料噴射弁の駆動に起因する作動音と高圧燃料ポンプのスピル弁の駆動に起因する作動音を重複することなく高圧燃ポンプを駆動すると共に、高圧燃料ポンプ或いは燃料噴射弁のどちらか一方の作動音に基づいて定まる時間マスキング特性で決まる時間内に他方の作動音が発生するようにしたところにある。
【0095】
そして、このような構成を採用したことによって、燃料噴射弁の駆動に起因する作動音或いは高圧燃料ポンプのスピル弁の駆動に起因する作動音の発生時期を制御することによって人間の聴感覚に存在する時間マスキング効果を搭乗者に与え、実際の作動音は発生しているのに拘わらず見かけ上の静粛性を向上できるものである。