特許第5976419号(P5976419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976419急結性セメントコンクリート、及びそれを用いた吹付け工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976419
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】急結性セメントコンクリート、及びそれを用いた吹付け工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20160809BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20160809BHJP
   C04B 24/00 20060101ALI20160809BHJP
   C04B 22/12 20060101ALI20160809BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20160809BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20160809BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B22/14 A
   C04B24/00
   C04B22/12
   C04B24/12 A
   C04B24/02
   C04B24/04
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-143545(P2012-143545)
(22)【出願日】2012年6月26日
(65)【公開番号】特開2014-5183(P2014-5183A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒木 昭俊
(72)【発明者】
【氏名】原 啓史
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−287458(JP,A)
【文献】 特開2006−273605(JP,A)
【文献】 特開2004−035387(JP,A)
【文献】 特開2004−026630(JP,A)
【文献】 特開昭60−131855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)セメントコンクリートと、(2)液体急結剤100質量部中、硫酸アルミニウム25〜50質量部とリン酸エステル類0.02〜5質量部を含有する液体急結剤とを、含有する急結性セメントコンクリートであり、リン酸エステル類が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル及び/又はポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩である急結性セメントコンクリート。
【請求項2】
更に、液体急結剤がフッ素化合物を含有する請求項記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項3】
更に、液体急結剤がアルカノールアミン類を含有する請求項1又は2記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項4】
更に、液体急結剤がヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類を有する化合物を含有する請求項1〜のうちの1項記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項5】
液体急結剤の使用量が、セメント100質量部に対して固形分換算で0.5〜15質量部である請求項1〜4のうちの1項記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項6】
更に、硫酸アルミニウム100部に対して、0.2〜10部のフッ素化合物、0.2〜10部のアルカノールアミン類、0.2〜5部のヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類を含有する請求項1〜5のうちの1項記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項7】
セメントの使用量が330〜500kg/mであり、水セメント比が40〜65質量%である請求項1〜6のうちの1項記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項8】
液体急結剤が−10℃〜45℃の温度領域で分散した懸濁状液体である請求項1〜7のうちの1項記載の急結性セメントコンクリート。
【請求項9】
(1)セメントコンクリートと、(2)液体急結剤とを、混合して吹き付ける請求項1〜8のうちの1項記載の急結性セメントコンクリートの吹付け工法。
【請求項10】
−10℃〜45℃の温度領域で保存してなる液体急結剤を使用する請求項9記載の急結性セメントコンクリートの吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用される急結性セメントコンクリート、それを用いた吹付け工法に関する。本発明のセメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、コンクリートを総称するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために急結剤をコンクリートに配合した急結コンクリートの吹付工法が行われている。この工法は、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材、及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、アジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で、他方から圧送した急結剤と混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。吹付け方法としては、硫酸アルミニウムを主成分とする液状急結剤を用いる方法が知られている。特許文献として下記が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−89276号公報
【特許文献2】特開2006−193388号公報
【特許文献3】特開2009−256201号公報
【特許文献4】特開昭60−131855号公報
【特許文献5】特開昭52−19721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液状急結剤の急結力を向上する方法として、アルカリ金属塩を添加する方法がある(特許文献1)。アルカリ金属塩の添加では、液の安定性の点で添加できる量が限定され、十分な急結力を付与することが難しいおそれがあった。
【0005】
液の安定性を確保する方法としては、亜リン酸及び/又はその有機酸塩を配合する方法がある(特許文献2)。
【0006】
本発明のリン酸エステル類は、亜リン酸及び/又はその有機酸塩とは、異なる。本発明の安定化剤の添加により、貯蔵安定性と急結力が向上することについて、特許文献2は記載がない。
【0007】
リン酸エステルをセメントコンクリートに配合し、早強剤として利用する方法がある(特許文献3)。特許文献3は、セメントコンクリートを型枠に打ち込んで、20時間後の圧縮強度を測定している。特許文献3は、リン酸エステルを液体急結剤中に予め含有することについて記載がない。特許文献3は、作業時間を確保した上でセメントコンクリートに早強性を付与する技術であることから、本発明の技術的思想と異なっている。
【0008】
リン酸エステルは、セメントコンクリート側に添加し、ワーカビリティーを改善することを目的で使用している(特許文献4、5)。従って、それ自体にセメントの硬化を劇的に促進する作用はなく、セメントの水和を遅延する作用を示すものが多い。本発明は、リン酸エステルを液体急結剤側に予め添加することにより、液体急結剤を懸濁状態で安定化させると共に、急結力や強度発現性を向上するものである。本発明の効果は、硫酸アルミニウムとリン酸エステル類の組み合わせにより発現するものであり、特許文献4〜5からは予期できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は(1)セメントコンクリートと、(2)液体急結剤100質量部中、硫酸アルミニウム25〜50質量部とリン酸エステル類0.02〜5質量部を含有する液体急結剤とを、含有する急結性セメントコンクリートでありリン酸エステル類が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル及び/又はポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩であ急結性セメントコンクリートであり、更に、液体急結剤がフッ素化合物を含有する該急結性セメントコンクリートであり、更に、液体急結剤がアルカノールアミン類を含有する該急結性セメントコンクリートであり、更に、液体急結剤がヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類を有する化合物を含有する該急結性セメントコンクリートであり、液体急結剤の使用量が、セメント100質量部に対して固形分換算で0.5〜15質量部である該急結性セメントコンクリートであり、更に、硫酸アルミニウム100部に対して、0.2〜10部のフッ素化合物、0.2〜10部のアルカノールアミン類、0.2〜5部のヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類を含有する該急結性セメントコンクリートであり、セメントの使用量が330〜500kg/mであり、水セメント比が40〜65質量%である該急結性セメントコンクリートであり、液体急結剤が−10℃〜45℃の温度領域で分散した懸濁状液体である該急結性セメントコンクリートであり、(1)セメントコンクリートと、(2)液体急結剤とを、混合して吹き付ける該急結性セメントコンクリートの吹付け工法であり、−10℃〜45℃の温度領域で保存してなる液体急結剤を使用する該急結性セメントコンクリートの吹付け工法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、液体急結剤が広い温度領域で分散安定性に優れるといった効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、特記しない限り、部、%は質量単位の値をいう。
【0012】
本発明の液体急結剤は、硫酸アルミニウム、リン酸エステル類、水を含有する。
【0013】
本発明の硫酸アルミニウムは、市販されているものであれば特に限定なく使用できる。硫酸アルミニウムとしては、無水硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウム12水塩等の結晶水を持つ硫酸アルミニウム、水溶液の状態で購入できる液体硫酸アルミニウム等が挙げられる。
【0014】
液体急結剤中、硫酸アルミニウムの固形分濃度は、急結性セメントコンクリートの急結力や強度発現性等の点で、25〜50%が好ましく、30〜40%がより好ましい。25%未満では、低温時の安定性が低下する場合があり、50%を越えると貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0015】
本発明のリン酸エステル類とは、リン酸エステル及び/又はリン酸エステル塩をいう。リン酸エステル類は、液体急結剤が懸濁状態である場合に、液体急結剤の分散安定性を向上し、かつ、液体急結剤をセメントコンクリートに添加した場合に、急結力を向上する化合物である。
【0016】
リン酸エステル類としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル類が好ましい。アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。これらの中では、エチレン基が好ましい。アルキル基は、炭素数8〜20個の炭化水素基が好ましく、炭素数8〜12個の炭化水素基がより好ましい。ポリオキシアルキレングリコールエーテルのリン酸エステルは、モノエステルでもよく、ジエステルでもよい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステルの製造方法は特に限定されない。通常、リン酸、ポリリン酸、五酸化リン、オキシ塩化リン等のリン酸化剤と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとの反応により、化合物をリン酸エステル化して得られる。このリン酸エステル化反応では、モノエステル及びジエステルが生成し、それらの混合物として得られることもある。このような混合物であっても使用できる。ポリオキシアルキレンアルキルモノエーテルのリン酸エステルがリン酸ジエステルの場合、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル基は、同じ構造でもよく、異なる構造でもよい。
【0017】
本発明は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩でもよい。アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。これらの中では、エチレン基が好ましい。アルキル基は、炭素数8〜20個の炭化水素基が好ましく、炭素数8〜12個の炭化水素基がより好ましい。リン酸エステル塩としては、リン酸エステルのアルカリ金属塩(K、Na等)、リン酸エステルのアルカリ土類金属塩(Mg、Ca、Ba等)、リン酸エステルのアンモニウム塩、リン酸エステルのアルカノールアミン塩、及びリン酸エステルのアルキルアミン塩等が挙げられる。アミンとしては、1級〜3級のアルキルアミン若しくはアルカノールアミン、1級アルキルアミン若しくは2級アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、及びジアミン等が挙げられる。アルキル基は、炭素数1〜10個の炭化水素基が好ましい。塩の種類は1種でもよく、2種以上の異なる塩を併用してもよい。
【0018】
リン酸エステル類の使用量は、硫酸アルミニウム100部に対して0.02〜5部が好ましく、0.05〜3部がより好ましい。0.02部未満では、分散性を向上させる効果が小さい場合があり、5部を越えると、強度発現性を低下させる場合がある。
【0019】
分散安定性は、吹付け施工時にタンクから液体急結剤を圧送する時に重要な性能である。液体急結剤が分離し、液体急結剤中の沈降物が多いと、タンクからのポンプによる排出ができない場合がある。液体急結剤を送液できたとしても、液体急結剤の有効成分濃度が均一でないために吹付けたセメントコンクリートの品質に影響を与える場合がある。分離安定性を分離度合(懸濁状態の液体急結剤において懸濁粒子が沈降して生じた上澄み液の割合)で評価すると、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0020】
本発明の液体急結剤は、フッ素化合物を含有しても良い。フッ素化合物は、凝結性状を改善する目的で使用する。フッ素化合物は、水に溶解又は分解する化合物であれば特に限定されるものではない。フッ素化合物としては、フッ化塩、ケイフッ化塩、フッ化ホウ素塩、有機フッ素化合物、及びフッ化水素酸等が挙げられる。これらの一種又は二種以上が使用可能である。
【0021】
フッ化塩として、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、及びクリオライト等が挙げられる。クリオライトはヘキサフルオロアルミン酸ナトリウムを成分とし、天然物又は合成した物何れも使用可能である。
【0022】
ケイフッ化塩として、ケイフッ化アンモニウム、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウム、及びケイフッ化マグネシウム等が挙げられる。
【0023】
フッ化ホウ素塩としては、フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミンコンプレックス、三フッ化ホウ素酢酸コンプレックス、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、ホウフッ化アンモニウム、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化カリウム、及びホウフッ化第一鉄等が挙げられる。
【0024】
フッ素化合物の中では、安全性が高く、製造コストが安く、凝結性状が優れる点で、クリオライトが好ましい。
【0025】
フッ素化合物の使用量は、硫酸アルミニウム100部に対して0.2〜10部が好ましく、0.7〜7部がより好ましい。0.2部未満では凝結力の向上効果が小さい場合があり、10部を越えると強度発現性を阻害する場合がある。
【0026】
本発明の液体急結剤は、アルカノールアミン類を含有してもよい。アルカノールアミン類は、セメントと混合した時に瞬間的な凝集力を向上する目的で使用する。アルカノールアミン類は、特に限定されないが、液体急結剤に溶解可能であれば使用できる。アルカノールアミン類とは、構造式において>N−R−OH構造を有する有機化合物である。ここで、Rは通常アルキル基又はアリル基と呼ばれる原子団であり、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基等の直鎖型のアルキレン基、イソプロピレン基等の枝分かれ構造を有するアルキレン基、並びに、フェニル基及びベンジル基等の芳香族環を有するアリル基等が挙げられる。Rは窒素原子と2箇所以上で結合していてもよく、Rの一部又は全部が環状構造であってもよい。Rは複数の水酸基と結合していてもよい。Rはアルキル基の一部に炭素以外の元素及び水素以外の元素、例えば、イオウ、フッ素、塩素、及び酸素等を有してもよい。Rは複数の水酸基が結合していてもよい。
【0027】
アルカノールアミン類としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの一種又は二種以上が使用可能である。
【0028】
アルカノールアミン類の中では、溶解時の安定性や凝結性状の点で、ジエタノールアミンが好ましい。
【0029】
アルカノールアミン類の使用量は、硫酸アルミニウム100部に対して0.2〜10部が好ましく、0.7〜7部がより好ましい。0.2部未満では、瞬間的な凝集力の向上が小さい場合があり、10部を越えると強度発現性を低下させる場合がある。
【0030】
本発明の液体急結剤は、ヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類を含有してもよい。
ヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類は、液の分散安定化にも多少寄与するが、1日後の強度を改善する目的で使用する。
【0031】
ヒドロキシル基を有する化合物としては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等の低分子化合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類又はその誘導体等が挙げられる。ヒドロキシル基を有する化合物の中では、グリセリンが好ましい。
【0032】
カルボン酸類とは、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩をいう。カルボン酸類としては、ギ酸、酢酸、及びプロピオン酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、及びフタル酸等のジカルボン酸類、トリメリト酸やトリカルバリリル酸等のトリカルボン酸類、ヒドロキシ酪酸、乳酸、及びサリチル酸等のオキシモノカルボン酸類、リンゴ酸のオキシジカルボン酸類、アスパラギン酸やグルタミン酸等のアミノカルボン酸類、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やトランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CyDTA)等のアミノポリカルボン酸類が挙げられる。カルボン酸塩を構成する塩としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属等が挙げられる。これら一種又は二種以上が使用可能である。カルボン酸類の中では、容易に入手でき、安価である点で、シュウ酸が好ましい。
【0033】
ヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類の使用量は、硫酸アルミニウム100部に対して0.2〜5部が好ましく、0.5〜3部がより好ましい。0.2部未満では、目的とする効果を得にくい場合があり、5部を越えると凝結力を低下する場合がある。
【0034】
本発明の液体急結剤は、夏場から冬場までの施工性や貯蔵安定性に優れる点で、−10℃〜45℃の温度領域で安定に溶解又は懸濁状で分散していることが好ましい。
【0035】
本発明の液体急結剤の使用量は、セメント100部に対して固形分換算で0.5〜15部が好ましく、3〜10部がより好ましい。0.5部未満では十分な急結力を得ることが難しい場合があり、15部を越えるとセメントコンクリート中の水の量が増えて強度発現性が低下する場合がある。
【0036】
本発明のセメントは、特に限定するものではなく、一般的に市販されているセメントが使用できる。セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームを混合した各種混合セメント、高炉徐冷スラグや石灰石微粉末を混合したフィラーセメント、並びに都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)等が挙げられる。これらを微粉末化した微粉セメントも使用可能である。混合セメントにおける混合物とセメントの割合は特に限定されるものではない。
【0037】
本発明は、セメントに砂等の細骨材や砂利等の粗骨材といった骨材を配合し、モルタルやコンクリートとして使用できる。骨材は特に限定するものではなく、天然骨材又は人工的に産出する骨材、重量骨材、再生骨材等が使用できる。
【0038】
本発明は減水剤類を使用してもよい。減水剤類としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。減水剤としては、アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、及びポリエチレングリコール系等が挙げられる。減水剤は、液状のものや粉状のもの何れも使用できる。これらの中では、高性能減水剤が好ましい。
【0039】
減水剤類の使用量は、セメント100部に対して、固形分換算で0.05〜5部が好ましく、0.1〜3部がより好ましい。
【0040】
本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で、流動性保持剤、繊維、防凍剤、収縮低減剤、防錆剤、粘土鉱物、遅延剤、ポリマーディスパージョン、膨張材、高強度混和材、着色剤、AE剤、粉塵低減剤、増粘剤、防水剤、エフロレッセンス防止剤等のセメント混和剤を併用可能である。
【0041】
本発明で使用するセメントコンクリート中のセメントの使用量は、330〜500kg/mが好ましく、水セメント比は40〜65%が好ましい。
【0042】
本発明の吹付け工法は、一般的に行われている湿式の吹付け工法及び乾式の吹付け工法が適用可能である。湿式工法としては、セメント、骨材、水を混合したセメントコンクリートに本液体急結剤を混合する方法等が挙げられる。乾式工法としては、セメントと骨材を混合したセメントコンクリートに、水及び本液体急結剤を混合したり、液体急結剤のみを混合したりする方法等が挙げられる。
【0043】
液体急結剤をセメントコンクリートに混合し、吹付け材料にする方法としては、シャワー状に液体急結剤を添加できるシャワーリング管やY字管等を用いて、液体急結剤とセメントコンクリートを吹付け直前に混合する方法が好ましい。本発明の液体急結剤をセメントコンクリートに混合する時は、液体急結剤を予め圧縮空気でミスト状にし、添加してもよい。
【0044】
本発明の吹付け材料は、トンネル建設を代表とする地下構造物建設時の支保部材として利用できる。本発明の吹付け材料は、地山の法面に直接吹き付ける法面の安定化工法、フレーム骨格を配置した個所に吹き付ける法面の安定化工法、及び各種コンクリート構造物の補修にも利用できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づき詳細に説明する。表中に示すゲル化とは、懸濁粒子が完全に沈降し、容器を上下反対にしても落下せずに留まっている状態をいう。
【実施例1】
【0046】
硫酸アルミニウム370g、水630g、硫酸アルミニウム100部に対して表1に示す量のリン酸エステル類を加え、20℃で5分間撹拌し、液体急結剤を調製した(硫酸アルミニウムの固形分濃度:37%)。撹拌後、ガラス製の容器に移し、密封してから、3カ月間保存し、分散状態を観察し、分離度合を評価した。結果を表1に示す。
比較例として、リン酸エステル類を添加しない組成も評価した。表2に比較例の液体急結剤の組成を示す。
【0047】
(使用材料)
硫酸アルミニウム:粉末、市販の12水塩、試薬1級
リン酸エステル類a:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、第一工業製薬社製 商品名「プライサーフA208F」、アルキルの炭素数は8個。
リン酸エステル類b:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル・モノエタノールアミン塩、第一工業製薬社製 商品名「プライサーフDB−01」
フッ素化合物:ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム、市販品 試薬1級
アルカノールアミン類:ジエタノールアミン、市販品 試薬1級
カルボン酸類A:シュウ酸、市販品 試薬1級
ヒドロキシル基を有する化合物:グリセリン、市販品 試薬1級
カルボン酸類B:蟻酸カルシウム、市販品 試薬1級
【0048】
(試験方法)
分散状態:撹拌後、液体急結剤を直ぐに100ccまで目盛が付いたガラス瓶に移し、翌日から液の状態を観察した。1週間毎に液の状態を観察し、液面の容積(100cc)に対する懸濁状態の液面の容積の割合を求め、下記式で分離状態(分離度合)を評価した。観察は3ヶ月まで実施した。保存時の環境温度は20℃。分離度合が0%ならば、液体急結剤は沈降せずに良好な分散状態を保持している。分離度合が大きくなるに従い、液体急結剤の分散安定性は低下する。
(式)
分離度合(%)=100−[(懸濁状態の液面の容積(cc)/100(cc))×100]
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【実施例2】
【0051】
硫酸アルミニウムの固形分濃度を表3に示す量とし、硫酸アルミニウム100部に対してリン酸エステル類a0.3部を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】
【実施例3】
【0053】
硫酸アルミニウム100部、リン酸エステルa類0.3部、表4に示す量のフッ素化合物を加えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【実施例4】
【0055】
硫酸アルミニウム100部、リン酸エステル類a0.3部、表5に示す量のアルカノールアミン類を加えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【実施例5】
【0057】
硫酸アルミニウム100部、リン酸エステル類a0.3部、表6に示す量のヒドロキシル基を有する化合物及び/又はカルボン酸類を加えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0058】
【表6】
【実施例6】
【0059】
硫酸アルミニウム100部、表7に示す量のリン酸エステル類a、表7に示す量のフッ素化合物、表7に示す量のアルカノールアミン類、表7に示す量のヒドロキシル基を有する化合物、表7に示す量のカルボン酸類を加えたこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表8に示す。
【0060】
【表7】
【0061】
【表8】
【実施例7】
【0062】
表9に示す組成の液体急結剤を用い、液体急結剤保存時の温度条件を表9の温度にし、3ヶ月後の分散状態を確認したこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表9に示す。
【0063】
【表9】
【実施例8】
【0064】
砂2100g、セメント700g、水315g、セメント100部に対して固形分換算で1.0部の高性能減水剤を加え、モルタルミキサーで練り混ぜて吹付けモルタルを調製した。このモルタルに表10に示す組成の液体急結剤をセメント100部に対して固形分換算で8部加え、10秒間高速で撹拌し、急結性モルタルを調製した。急結性モルタルについて凝結性状とモルタル圧縮強度を評価した。評価では、翌日まで保存した液体急結剤を用いた。結果を表10に示す。
比較のために、リン酸エステル類aを液体急結剤側に加えず、モルタル側に、液体急結剤中の硫酸アルミニウム100部に対して0.3部となるように添加した場合の性能も評価した(実験No.7−27〜実験No.7−29)。液体急結剤の組成は実験No.1−1、実験No.1−2、実験No.1−3と同一にした。実験No.7−27では、実験No.1−1の液体急結剤は翌日ゲル化するため、調製直後の液体急結剤を用いた。
【0065】
(使用材料)
砂:新潟県糸魚川産砕砂 密度2.66g/cm
セメント:市販品、ポルトランドセメント 密度3.15g/cm
水:水道水
高性能減水剤:市販品、ポリカルボン酸系減水剤
【0066】
(試験方法)
凝結性状:JSCE−D 102に準拠し、始発に達する時間範囲と終結に達する時間範囲を分単位で測定した(例えば、始発時間が10−11の場合、始発時間は10〜11分である)。試験温度は25℃。モルタル圧縮強度:JISR 5201に準拠し、圧縮強度を測定した。試験温度は25℃。
【0067】
【表10】
【実施例9】
【0068】
セメント100部に対して固形分換算で表11に示す量の液体急結剤を用いたこと以外が実施例8と同様に行った。結果を表11に示す。
【0069】
【表11】
【実施例10】
【0070】
各材料の単位量をセメント400kg/m、細骨材1058kg/m、粗骨材710kg/m、水200kg/m、高性能減水剤4kg/mとして吹付けコンクリートを調製し、この吹付けコンクリートを吹付け圧力0.4MPa、吹付け速度10m/hの条件下で、コンクリート圧送機「MKW−25SMT」(シンテック社製)によりポンプ圧送した。液体急結剤を合流する混合管から3m後方の位置で圧縮空気を導入して吹付けコンクリートを空気搬送した。混合管の一方より、予め圧縮空気でミスト状にした表12の液体急結剤を吹付けコンクリートに合流混合させた。液体急結剤を合流する混合管の内側には、管円周上に8個の孔(径3mm)が等間隔で配置されており、液体急結剤がシャワー状にセメントコンクリートに合流混合する方式である。圧縮空気と共に合流する液体急結剤の使用量はセメント100部に対して固形分換算で8部になるように調製した。この急結性吹付けコンクリートについてコンクリート圧縮強度、リバウンド率を測定した。結果を表12に示す。
【0071】
(使用材料)
粗骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.66、最大寸法10mm
細骨材:新潟県糸魚川市姫川産川砂利、表乾状態、比重2.62
【0072】
(測定方法)
コンクリート圧縮強度:材齢3時間と1日の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性吹付けコンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引き抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢28日の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性吹付けコンクリートを吹付け、採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定し、圧縮強度を求めた。
リバウンド率:急結性吹付けコンクリートを10m/hの圧送速度で10分間、鉄板でアーチ状に作成した高さ3.5m、幅2.5mの模擬トンネルに吹付けた。その後、(リバウンド率)=(模擬トンネルに付着せずに落下した急結性吹付けコンクリートの量)/(模擬トンネルに吹付けた急結性吹付けコンクリートの量)×100(%)で算出した。
【0073】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の液体急結剤を用いることにより、液体急結剤が懸濁状態である場合、広い温度領域で分散安定性に優れる。そのため、圧送中の閉塞トラブル等がなく、良好な吹付け施工を行うことが可能である。本発明は急結力が優れるため、リバウンドが少なく、はく落等も少ない吹付け施工が可能となる。従って、本発明は、施工時間の短縮化と材料ロスの削減によるコスト削減が実現でき、トンネル工事、法面工事、補修工事等の幅広い分野で適用することができる。
【0075】
十分な急結力を付与するために、液体急結剤中の硫酸アルミニウムの濃度を大きくした場合、例えば、硫酸アルミニウムの固形分濃度が27%を越えた場合、溶解性が低下し、沈降物が生成するおそれがあった。加熱により液状急結剤を溶解してもゲル化を起こすおそれがあり、液の安定性に課題があった。本発明は、これらの課題を解決し、液の安定性を向上した発明である。本発明の産業上利用性は極めて大きい。