(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976470
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】吹付け材料、及びそれを用いた吹付け工法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20160809BHJP
C04B 24/32 20060101ALI20160809BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20160809BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20160809BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/32 A
C04B24/22 C
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-200721(P2012-200721)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2013-177286(P2013-177286A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-22709(P2012-22709)
(32)【優先日】2012年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺島 勲
(72)【発明者】
【氏名】荒木 昭俊
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−121061(JP,A)
【文献】
特開2001−294464(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1706769(CN,A)
【文献】
国際公開第2014/148523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS縮合物を含有してなる粉末状急結剤とを、含有してなる吹付け材料であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け材料。
【請求項2】
セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS縮合物を含有してなる粉末状急結剤とスラリー水を含有する急結剤スラリーとを、含有してなる吹付け材料であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け材料。
【請求項3】
ポリアルキレンオキサイドの平均分子量が100万〜500万であり、ポリアルキレンオキサイドの使用量が、セメント100部に対して、0.001〜0.1部である請求項1又は2記載の吹付け材料。
【請求項4】
ビスフェノールS縮合物の平均分子量が5,000〜30,000である請求項1〜3のうちの1項記載の吹付け材料。
【請求項5】
セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS縮合物を含有してなる粉末状急結剤とを、混合してなる吹付け工法であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け工法。
【請求項6】
セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS縮合物を含有してなる粉末状急結剤とスラリー水を含有する急結剤スラリーとを、混合してなる吹付け工法であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け工法。
【請求項7】
ポリアルキレンオキサイドの平均分子量が100万〜500万である請求項5又は6記載の吹付け工法。
【請求項8】
ビスフェノールS縮合物の平均分子量が5,000〜30,000である請求項5〜7のうちの1項記載の吹付け工法。
【請求項9】
ポリアルキレンオキサイドの使用量が、セメント100部に対して、0.001〜0.1部である請求項5〜8のうちの1項記載の吹付け工法。
【請求項10】
セメントコンクリートと粉末状急結剤を吹付け直前で混合して吹付け、かつ、急結剤の使用量がセメント100
部に対して固形分換算で5〜15部であることを特徴とする請求項5記載の吹付け工法。
【請求項11】
セメントコンクリートと急結剤スラリーを吹付け直前で混合して吹付け、かつ、急結剤スラリーの使用量がセメント100
部に対して固形分換算で5〜15部であり、スラリー水の
使用量が、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部
に対して、30〜150部であることを特徴とする請求項6記載の吹付け工法。
【請求項12】
カルシウムアルミネート類の使用量が、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計10
0部中、10〜90部であり、硫酸塩の使用量が、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部中、10〜90
部であり、アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部に対して
、1〜20部である請求項5〜11のうちの1項記載の吹付け工法。
【請求項13】
セメントの使用量が330〜500kg/m3であり、水セメント比が40〜65%であり、セメントコンクリートの圧送速度は4〜20m3/hである請求項5〜12のうちの1項記載の吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルにおいて、露出した地山面へ急結性セメントコンクリートを吹付ける際に使用する吹付け材料、及びそれを用いた吹付け工法に関する。
本発明でいう部や%は特に規定のないかぎり質量基準である。本発明でいうセメントコンクリートとは、モルタルやコンクリートを総称するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘削等、露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をコンクリートに混合した急結性コンクリートの吹付け工法が用いられている(特許文献1)。
【0003】
この工法は、通常、掘削工事現場に設置した計量混合プラントで、セメント、骨材、及び水を計量混合して吹付け用のコンクリートを調製し、それをアジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で他方から圧送された急結剤と混合して急結性吹付けコンクリートとし、地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
【0004】
しかしながら、この工法では、(吹付けの際に付着せずに落下した急結性コンクリート量)/(吹付けに使用した急結性コンクリートの全体量)×100(%)で示されるリバウンド(跳返り)率が大きく、経済的に好ましくないという課題があった。
【0005】
このような課題を解決する方法として、ポリエチレンオキサイドとアルキルナフタレンスルホン酸縮合物やリグニンスルホン酸を個別に添加して合流混合することでリバウンド率を低減する工法が提案されている(
特許文献3)。
【0006】
同様な技術としてポリエチレンオキサイドとビスフェノール系縮合物が提案されているが、ビスフェノールSの有効性に関する記載がない。ビスフェノールSの使用量は、急結剤100部に対して0.7部未満(セメント100部、ビスフェノール類0.1部、急結剤15部)だとリバウンドが増加する場合があるとされている(特許文献4)。同様な技術は法面のフリーフレーム工法にも適用されているが、ビスフェノールSの使用量が、急結剤100部に対して0.5部未満だと吹付け直後の急結性セメントコンクリートのダレを防止できず、効果がない(特許文献5、特許文献6)。同様な技術は、硫酸アルミニウムを急結剤として法面に適用しているが、ビスフェノールSの使用量が、硫酸アルミニウム100部に対して2部未満(セメント100部、ビスフェノール類0.1部、硫酸アルミニウム5部)だとセメントコンクリートのずり落ち防止を防ぐ効果が小さい(特許文献7)。
【0007】
いずれの技術も、ビスフェノールSを、急結剤100部に対して0.5部未満使用した実施例の記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭60−004149号
【特許文献3】特開2001−163652号
【特許文献4】特開2001−294464号
【特許文献5】特開2002−220266号
【特許文献6】特開2002−220267号
【特許文献7】特開2002−121061号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、人体への安全性が高く、材料の圧送性が良好で、リバウンドの少ない吹付け材料が得られる知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、
カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS
縮合物を含有してなる
粉末状急結剤とを、
含有してなる吹付け材料
であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け材料であり、セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS縮合物を含有してなる粉末状急結剤とスラリー水を含有する急結剤スラリーとを、含有してなる吹付け材料であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け材料であり、ポリアルキレンオキサイドの平均分子量が100万〜500万であ
り、ポリアルキレンオキサイドの使用量が、セメント100部に対して、0.001〜0.1部である該吹付け材料であり、ビスフェノールS
縮合物の平均分子量が5,000〜30,000である該吹付け材料であり
、セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、
カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS
縮合物を含有してなる
粉末状急結剤とを、混合してなる吹付け工法
であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け工法であり、セメントとポリアルキレンオキサイドを含有してなるセメントコンクリートと、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部に対して0.5部未満のビスフェノールS縮合物を含有してなる粉末状急結剤とスラリー水を含有する急結剤スラリーとを、混合してなる吹付け工法であり、セメントコンクリートがモルタルとコンクリートからなる群の1種以上である吹付け工法であり、ポリアルキレンオキサイドの平均分子量が100万〜500万である該吹付け工法であり、ビスフェノールS
縮合物の平均分子量が5,000〜30,000である該吹付け工法であり、ポリアルキレンオキサイドの使用量が、セメント100部に対して、0.001〜0.1部である該吹付け工法であり、
セメントコンクリートと
粉末状急結剤を吹付け直前で混合して吹付け
、かつ、急結剤の使用量がセメント100
部に対して固形分換算で5〜15部であることを特徴とする該吹付け工法であ
り、セメントコンクリートと急結剤スラリーを吹付け直前で混合して吹付け、かつ、急結剤スラリーの使用量がセメント100
部に対して固形分換算で5〜15部であり、スラリー水の
使用量が、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルミン酸塩からなる粉末状急結剤100部
に対して、30〜150部であることを特徴とする該吹付け工法であり、カルシウムアルミネート類の使用量が、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計10
0部中、10〜90部であり、硫酸塩の使用量が、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部中、10〜90
部であり、アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部に対して
、1〜20部である該吹付け工法であり、セメントの使用量が330〜500kg/m3であり、水セメント比が40〜65%であり、セメントコンクリートの圧送速度は4〜20m3/hである該吹付け工法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、吹付け時における急結性セメントコンクリートのリバウンド率を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で使用するポリアルキレンオキサイド(以下、PAOという)は、ビスフェノールS
縮合物(以下ビスフェノールSということもある)と反応した瞬間にセメントコンクリートに可塑性を与え、吹付け直後の吹付け面からのセメントコンクリートのダレを防止し、リバウンド率を低減するものである。
【0014】
PAOとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、及びポリブチレンオキサイド等が挙げられるが、これらの中では効果が大きい面でポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0015】
PAOの平均分子量は100万〜500万が好ましい。100万未満ではリバウンド率を低減する効果が小さいおそれがあり、500万を越えると急結性セメントコンクリートの圧送性が低下するおそれがある。
【0016】
PAOの使用量は、セメント100部に対して、0.001〜0.1部が好ましく、0.005〜0.05部がより好ましい。0.001部未満では急結性セメントコンクリートの可塑性が小さく、吹付けたときにダレが生じ、リバウンド率が大きくなるおそれがあり、0.1部を越えると急結性セメントコンクリートの粘性が大きくなり、圧送性に支障が生じるおそれがある。
【0017】
本発明で使用するビスフェノールSは、ビスフェノール類、芳香族アミノスルホン酸、及びホルムアルデヒドを縮合反応させることによって得られるビスフェノール系縮合物の中の一つで、化学名は4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンであり、市販品が使用可能である。ビスフェノール系縮合物の中には、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンの別名であるビスフェノールAがある。ビスフェノールAは、ビスフェノールSと同様にPAOと反応して瞬間にセメントコンクリートに可塑性を与え、吹付け直後の吹付け面からのセメントコンクリートのダレを防止し、リバウンド率を低減する効果がある。しかしながら、ビスフェノールAは環境ホルモン問題から代替が検討されており、ビスフェノールSに比べて使用量が多くなり経済的でない。
【0018】
本発明で使用するビスフェノールSの平均分子量は、5,000〜30,000が好ましい。平均分子量が5,000未満ではリバウンド率を低減する効果が小さいおそれがあり、30,000を越えると強度発現性が低下するおそれがある。平均分子量は、重量平均分子量をいう。
【0019】
ビスフェノールSの使用量は、急結剤100部に対して、固形分換算で0.5部未満が好ましく、0.05〜0.45部がより好ましく、0.1〜0.4部が最も好ましい。0.05部未満ではリバウンド率を低減する効果が小さいおそれがあり、0.5部以上だと逆に可塑性が強くなりすぎるためリバウンド率が増加するおそれがある。使用量が多くなると材料コストが上がり経済的でない。
【0020】
本発明で使用するセメントは特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、及び低熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末、又はシリカを混合した各種混合セメント、更には、アルミナセメント、膨張セメント、及びコロイドセメント等、いずれも使用可能である。
【0021】
本発明で使用する急結剤はカルシウムアルミネート類を含有することが好ましい。カルシウムアルミネート類と併用する助剤としては、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。これらの中では、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩を含有することが好ましい。
【0022】
本発明で使用するカルシウムアルミネート類とは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料とを混合し、キルンでの焼成や、電気炉での溶融等の熱処理をして得られる、CaOとAl2O3とを主たる成分とし、水和活性を有するカルシウムアルミネート類を意味する。
【0023】
カルシウムアルミネート類の中では、反応活性の点で、非晶質のカルシウムアルミネートが好ましく、12CaO・7Al
2O
3(C
12A
7)組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
【0024】
カルシウムアルミネート類の比表面積は、ブレーン値で5000cm
2/g以上が好ましい。5000cm
2/g未満だと急結性や初期強度発現性が低下するおそれがある。
【0025】
カルシウムアルミネート類の使用量は、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部中、10〜90部が好ましく、30〜70部がより好ましく、45〜55部が最も好ましい。10部未満だと初期凝結が遅れ、地山に対する付着性が小さくなるおそれがあり、90部を越えると長期強度発現性が小さくなるおそれがある。
【0026】
本発明で使用する硫酸塩は、強度発現性を向上するために使用するものである。硫酸塩としては、硫酸ナトリウムや硫酸カリウム等のアルカリ金属硫酸塩、硫酸マグネシウムや石膏等のアルカリ土類金属硫酸塩、並びに、硫酸アルミニウム等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用してもよい。これらの中では、スラリー化や強度発現性の点で、石膏が好ましい。
【0027】
本発明で使用する石膏としては、無水石膏、半水石膏及び二水石膏が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用してもよい。これらの中では、強度発現性の点で、無水石膏が好ましい。
【0028】
石膏の比表面積は、強度発現性の点で、ブレーン値で2500cm
2/g以上が好ましく、4000cm
2/g以上がより好ましい。2500cm
2/g未満だと強度発現性が低下するおそれがある。
【0029】
硫酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部中、10〜90部が好ましく、30〜70部がより好ましく、45〜55部が最も好ましい。10部未満だと長期強度発現性が小さくなるおそれがあり、90部を越えると初期凝結が遅れ、地山に対する付着性が小さくなるおそれがある。
【0030】
本発明で使用するアルカリ金属アルミン酸塩(以下アルミン酸塩という)は、セメントの初期凝結を促進するもので、例えば、水酸化アルミニウムとアルカリ金属水酸化物を混合溶解し、乾燥して粉末状として得られるものである。
【0031】
アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウム等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用してもよい。これらの中では、凝結性の点で、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0032】
アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート類と硫酸塩の合計100部に対して、1〜20部が好ましく、3〜10部がより好ましい。1部未満だと初期凝結が遅れ、地山に対する付着性が小さくなるおそれがあり、20部を越えると長期強度発現性が低下するおそれがある。
【0033】
急結剤は、粉末、スラリーの状態で使用可能である。粉じんやリバウンド低減の面で急結剤スラリーが好ましい。
【0034】
本発明で使用する急結剤スラリーは、急結剤と水(以下スラリー水という)を、セメントコンクリートに添加する前に、混合するものである。急結剤スラリー中のスラリー水の使用量は、カルシウムアルミネート類、硫酸塩、アルミン酸塩を含有する急結剤100部に対して、30〜150部が好ましく、50〜100部がより好ましい。30部未満だと、急結剤スラリーのゲル化時間が短くなり、急結剤スラリーの粘度が上昇するので、圧送管内でスケーリングが発生し、圧送管を閉塞し、急結剤スラリーの圧送性や吹付セメントコンクリートとの混合性が低下し、又、凝結性が悪くなり、リバウンド率が大きくなり、粉塵量が多くなるおそれがあり、150部を越える凝結性や強度発現性が低下するおそれがある。
【0035】
急結剤の使用量は使用材料により一義的に規定することはできないが、セメント100部に対して固形分換算で5〜15部が好ましく、7〜12部がより好ましい。急結剤の使用量がこれより少ないと初期凝結が充分に得られず、リバウンドやセメントコンクリートの剥落が多くなるおそれがあり、急結剤の使用量をこれより多くすると長期強度発現性が低下し、経済的にも不利になるおそれがある。
【0036】
本発明では、前記各材料や、砂や砂利等の骨材の他に、繊維状物質、凝結調整剤、AE剤、消泡剤、防錆剤、SBRやポリアクリレート等の高分子エマルジョン、酸化カルシウムや水酸化カルシウム等のカルシウム化合物
、ベントナイト等の粘土鉱物、ゼオライト、ハイドロタルサイト、及びハイドロカルマイト等のイオン交換体、無機リン酸塩、並びに、ホウ酸等の一種又は二種以上を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0037】
急結剤の混合方法としては、例えば、セメントコンクリートと粉末状急結剤を別々に空気圧送して合流混合する方法や、セメントコンクリートと急結剤が合流混合する手前で粉末状急結剤に加水してスラリー化させた急結剤スラリーをセメントコンクリートに合流混合する方法等があり、いずれも使用可能である。特に、急結剤スラリーを使用すると効果的である。
【0038】
本発明において、セメント、骨材、及び水等を混合する装置としては、既存の撹拌装置が使用できる。例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、V型ミキサ、ヘンシェルミキサ、及びナウタミキサ等が使用可能である。
【0039】
本発明で使用するセメントコンクリート中のセメントの使用量は、330〜500kg/m
3が好ましく、水セメント比は40〜65%が好ましい。
【0040】
本発明の吹付け工法としては、乾式吹付け工法や湿式吹付け工法が可能である。乾式吹付け工法は、例えば、セメント、骨材を混合して空気圧送し、水と急結剤を合流混合して吹付ける工法である。又、湿式吹付け工法は、例えば、予め、セメント、骨材、及び水を混合してセメントコンクリートとし、これを空気圧送して急結剤又は急結剤スラリーを合流混合して吹付ける工法である。このうち、乾式吹付け工法では粉塵量が多くなる場合があるため、湿式吹付け工法を用いることが好ましい。
【0041】
本発明の吹付け工法においては、従来の吹付け設備等が使用可能である。吹付け設備は吹付けが充分に行われれば特に限定されるものではなく、例えば、セメントコンクリートの圧送にはアリバ社製「アリバ285」が、急結剤の圧送にはちよだ製作所製「ナトムクリート」等が、急結剤スラリーの圧送にはプツマイスター社製「アンコマットポンプ」等が使用可能である。
【0042】
急結剤を圧送する圧縮空気の圧力は、セメントコンクリートが急結剤の圧送管内に侵入して圧送管内が閉塞しないように、セメントコンクリートの圧送圧力より0.01〜0.3MPa大きいことが好ましい。セメントコンクリートの圧送速度は4〜20m
3/hが好ましい。
【0043】
急結剤とセメントコンクリートとの合流点は、混合性を良くするために、管の形状や内壁をらせん状や乱流状態になりやすい構造とすることが可能である。
【0044】
本発明の吹付け材料は、PAOを予めセメントコンクリートと混合しておき、ビスフェノールSを予め急結剤又は急結剤スラリーに混合し、セメントコンクリートと混合して吹き付けることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
【0046】
実験例1
普通セメント500gにPAO0.05gを予め混合し、水350gを加えて混合したセメントミルクと、急結剤100部と表1に示す量のビスフェノールを予め混合した粉体急結剤とを、使用した。セメントミルクにこの粉体急結剤を添加して素早く混合し、流動性を失った時間を測定した。粉体急結剤の使用量はセメント100部に対して10部であった。結果を表1に併記した。
【0047】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン比表面積3,200cm
2/g、比重3.16
急結剤:カルシウムアルミネート/石膏/アルミン酸塩=100/100/14(質量比)からなる混合物。ただし、カルシウムアルミネートは12CaO・7Al
2O
3組成に対応し、ブレーン比表面積5,500cm
2/gで非晶質のものを使用し、石膏はII型無水石膏でブレーン比表面積5,000cm
2/gのものを使用し、アルミン酸塩はアルミン酸ナトリウムを使用した。
PAOイ:ポリエチレンオキサイド、平均分子量200万、市販品
PAOロ:ポリエチレンオキサイド、平均分子量100万、市販品
ビスフェノールS−c:平均分子量20,000、市販品
ビスフェノールA:平均分子量25,000、市販品
【0048】
<測定方法>
ブレーン値:JIS R 5201の比表面積試験に従った。
ゲル化時間:セメントミルクと急結剤を混合してから、セメントミルクが流動性を失うまでの時間、即ちセメントミルクがゲル化して容器を傾けても流れなくなるまでの時間を示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、ビスフェノールSは、ビスフェノールAよりゲル化時間が短く、急結性に優れることが判った。
【0051】
実験例2
各材料の単位量を、セメント450kg/m
3、水203kg/m
3、細骨材1,114kg/m
3、及び粗骨材611kg/m
3としたコンクリートを調製し、圧送速度10m
3/h、圧送圧力0.4MPaの条件下でコンクリート圧送機「アリバ280」で圧送した。
又、コンクリート中のセメント100部に対して、表2に示す量のPAOイをコンクリートに予め混合し、急結剤100部に対して固形分換算で表2に示す量のビスフェノールS−cを急結剤に予め混合して使用した。
この粉体急結剤100部に対して、70部のスラリー水を圧縮空気と一緒に加圧条件下で加え、急結剤スラリーとした。
吹付けノズルの手前に設けた混合管に、コンクリート中のセメント100部に対して、急結剤スラリーが固形分換算で10部となるように吹込み、コンクリートと急結剤スラリーを混合し、急結性コンクリートとし、模擬トンネルに吹付けてリバウンド率、圧送性、及び圧縮強度の評価を行った。結果を表2に併記した。
【0052】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、ブレーン比表面積3,200cm
2/g、比重3.16
細骨材:新潟県姫川産川砂、比重2.62
粗骨材:新潟県姫川産川砂利、比重2.67、最大骨材寸法15mm
急結剤:カルシウムアルミネート/石膏/アルミン酸塩=100/100/14(質量比)からなる混合物。ただし、カルシウムアルミネートは12CaO・7Al
2O
3組成に対応し、ブレーン比表面積5,500cm
2/gで非晶質のものを使用し、石膏はII型無水石膏でブレーン比表面積5,000cm
2/gのものを使用し、アルミン酸塩はアルミン酸ナトリウムを使用した。
PAOイ:ポリエチレンオキサイド、平均分子量200万、市販品
ビスフェノールS−c:平均分子量20,000、市販品
【0053】
<測定方法>
リバウンド率:急結性コンクリートを15m3/hの圧送速度で5分間、高さ4.5m、幅5.5mの模擬トンネルに吹付けた。吹付け終了後、付着せずに落下した急結性コンクリートの量を測り、(リバウンド率)=(吹付けの際に付着せずに落下した急結性コンクリート)/(吹付けに使用した全体の急結性コンクリート)×100(質量%)の式より算出した。
圧送性:急結性コンクリートを吹付ける際の圧送管内の圧力を測定した。
圧縮強度:材齢3時間の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性コンクリートで被覆し、型枠の裏側よりピンを引抜き、その時の引き抜き強度を求め、(圧縮強度)=(引抜き強度)×4/(剪断面積)の式から圧縮強度を算出した。材齢1日以降の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性コンクリートを吹付け、コアリングして採取した直径5cm×長さ10cmの供試体の強度を耐圧試験器で測定した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、PAOとビスフェノールSを適量使用することにより、リバウンド率が小さいことが判った。ビスフェノールSの使用量が多いと、リバウンド率が大きいことが判った。
【0056】
実験例3
セメント100部に対してPAOイ0.01部と、急結剤100部に対して固形分換算で表3に示す量のビスフェノールSを用いたこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に併記した。
尚、ビスフェノールSを予め急結剤に混合して使用した。
【0057】
<使用材料>
ビスフェノールS−a:平均分子量5,000、市販品
ビスフェノールS−b:平均分子量10,000、市販品
ビスフェノールS−d:平均分子量30,000、市販品
【0058】
【表3】
【0059】
表3より、分子量の異なるビスフェノールSを使用しても、本発明の効果が得られることが判った。
【0060】
実験例4
セメント100部に対してPAOイ0.01部、急結剤100部に対して固形分換算でビスフェノールS−c0.3部、セメント100部に対して固形分換算で表4に示す量の急結剤スラリーを用いたこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表4に併記した。
【0061】
【表4】
【0062】
表4より、急結剤を使用することにより、リバウンド率が小さくなり、初期強度発現性が大きいことが判った。
【0063】
本発明の吹付け材料、及びそれを用いた吹付け工法により、吹付け時における急結性セメントコンクリートのリバウンド率を低減でき、経済的な施工が可能となる。本発明は、トンネルで露出した地山面へ急結性セメントコンクリートを吹付けることができる。