(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電池用電極とは、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含むところに特徴を有する。
M
n+([B(CN)
4-mY
m]
-)
n (1)
(式中、M
n+はH
+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Yは、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2、−SR
14または−OR
15を表し、R
14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、R
15は、炭素数1〜10のアルキルシリル基、炭素数1〜10のアルカノイル基、ハロスルフィニル基、ハロゲンを有していてもよい炭素数1〜10のアルキルスルフィニル基、ハロスルホニル基、または、ハロゲンを有していてもよい炭素数1〜10のアルキルスルホニル基を表し、lは1〜2の整数を表し、mは1〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。)
【0018】
(式中、M
n+はH
+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、Z(R
14)
2又は−XR
14を表し、R
14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。)
【0019】
本発明者等は、電池用電極が上記一般式(1)又は(2)で表される化合物(以下、化合物(1)、(2)をまとめてシアノボレート化合物と称する場合が有る)を含む場合に、電池の初期放電容量が高まり、経時的な放電容量の低下が生じ難く、サイクル特性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
電池用電極が化合物(1)や(2)を含む場合に、上述のような特性の向上効果が得られる明確な理由は判明していないが、本発明者らは次のように考えている。
【0021】
上述の通り、電池用電極に含まれる上記化合物(1)または(2)は、電池駆動時に適度に分解すると予測される。そして、このとき生じる分解生成物や化合物(1)、(2)により電極表面に被膜が形成されることで、溶媒や支持塩(電解質)等の分解が抑制され、支持塩の性能を損なうことなく安定した容量維持作用(高サイクル特性)が発揮されるものと考えられる。
【0022】
また、上記被膜はシアノ基を含有するものと考えられる。シアノ基を含有することにより化合物(1)、(2)の酸化電位が高まるのと同様、シアノ基を含む被膜も高い酸化電位を有するものと考えられ、化合物(1)、(2)及び上記被膜は、高電圧下に曝されても酸化分解し難いものとなる。その結果、電極から溶出した化合物(1)、(2)は、電解液中で安定に存在するようになる。すなわち、化合物(1)、(2)は、電極から徐放されると共に、電解液中で一定期間安定に存在した後、徐々に分解し、これにより、継続的に電極表面に被膜が形成されることが期待される。このように、電極表面に被膜が継続的に形成されることよって、電極の安定性が高まり、その結果、負極添加型添加剤(例えばVC、FEC、ES、1,3−PS等)の正極上での分解が抑制され、さらなる電池性能の改善が見込まれる。また、従来知られている溶媒の酸化分解も同様の理由より抑制されるものと考えられ、電解質を溶解させ易く誘電率が高い等優れた特性を有するものの還元され易い溶媒(PCやGBL等)を電解液に使用した場合の電池性能の低下抑制も期待できる。
【0023】
さらに、本発明に係る化合物(1)または(2)は、置換基Y、Y’を適宜選択することで、その酸化電位を自由に調整することが可能となる。したがって、上記化合物(1)、(2)を含む電極を使用すれば、高電圧負荷時にも電極表面に化合物(1)、(2)や電解液に由来する絶縁被膜が形成され、その結果、電池が過充電防止機能を有するものになると予想される。また、シアノ基を有することにより、化合物(1)、(2)の安定性が高まり、この化合物(1)、(2)が他の成分との反応し難くなっている点も、電池特性の向上に寄与しているものと考えられる。
【0024】
加えて、中心元素がホウ素であり、且つ、強力な電子吸引性基であるシアノ基が導入されている本発明に係る化合物(1)、(2)には、電解液中に含まれる水分や、充放電時に発生するフッ化リチウムやフッ化水素酸を捕集する効果も有すると考えられる。電解液中に水分が多く含まれていると、支持塩の分解等が進行し易くなり、機能面のみならず安全面でも問題が生じる。また、フッ化リチウムの析出は、電池発火の原因となったり、電極の表面被膜の性能劣化の原因となる。フッ化水素酸には毒性があり、また、正極に用いられる金属の電解液中への溶出の原因となることが知られている。したがって、電池内に存在するこれらの成分を捕集することは重要であり、電池用電極が、上記効果を有する化合物(1)、(2)を含有することで、電池の安全性の確保と共に、電池特性の向上が図れるものと考えている。
【0025】
まず、本発明の電池用電極に含まれる化合物(1)および(2)について説明する。
【0026】
1.シアノボレート化合物
本発明に係る化合物(1)、(2)は、いずれもM
n+で示されるカチオンと、シアノ基がホウ素に結合したシアノボレートアニオンとからなる。まず、化合物(1)、(2)に共通する構成であるカチオンについて説明する。
【0027】
1−1.カチオン;M
n+
一般式(1)、(2)中、M
n+はH
+、有機カチオンまたは無機カチオンを示す。
【0028】
本発明に係る化合物を構成する有機カチオンM
n+としては、一般式(3):L
+−R
S
(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表し、Rは、同一若しくは異なる有機基であり、互いに結合していてもよい。sはLに結合するRの数を表し、3または4である。なお、sは、元素Lの価数およびLに直接結合する二重結合の数によって決まる値である)で表されるオニウムカチオンが好適である。
【0029】
上記Rで示される「有機基」としては、水素原子、フッ素原子、または、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子等の他の原子や、置換基などを有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0030】
一般式(3)で表されるオニウムカチオンとしては、たとえば、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0031】
【化3】
(式中のRは、一般式(3)と同様)
【0032】
上記一般式で表される6つのオニウムカチオンの中でも、LがN,P,SまたはOであるものがより好ましく、さらに好ましいのはLがNのオニウムカチオンである。上記オニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。具体的に、LがN,P,SまたはOであるオニウムカチオンとしては、下記一般式(4)〜(6)で表されるものが好ましいオニウムカチオンとして挙げられる。
【0034】
【化4】
で表される15種類の複素環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0035】
上記有機基R
1〜R
8は、一般式(3)で例示した有機基Rと同様のものが挙げられる。より詳しくは、R
1〜R
8は、水素原子、フッ素原子、または、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖または環状(但し、R
1〜R
8が互いに結合して環を形成しているものを除く)の炭素数1〜18の炭化水素基、あるいは炭化フッ素基であるのが好ましく、より好ましいものは炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基である。また、有機基は、上記一般式(3)に関して例示した置換基や、N、O、Sなどのヘテロ原子及びハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0037】
【化5】
(式中、R
1〜R
12は、一般式(4)のR
1〜R
8と同様)
で表される9種類の飽和環オニウムカチオンの内の少なくとも一種。
【0039】
【化6】
(式中、R
1〜R
4は、一般式(4)のR
1〜R
8と同様)
で表される鎖状オニウムカチオン。
【0040】
例えば、一般式(6)で表される鎖状オニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウムおよびテトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、およびNH
4で表されるアンモニウム化合物等が挙げられる。
【0041】
上記一般式(4)〜(6)のオニウムカチオンの中でも、窒素原子を含むオニウムカチオンがより好ましく、さらに好ましいものとしては、下記一般式;
【0042】
【化7】
(式中、R
1〜R
12は、一般式(4)のR
1〜R
8と同様である。)
で表される6種類のオニウムカチオンの少なくとも1種が挙げられる。
【0043】
上記6種類のオニウムカチオンの中でも、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムおよびトリエチルメチルアンモニウム等の鎖状第4級アンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウムおよびジメチルエチルアンモニウム等の鎖状第3級アンモニウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムおよび1,2,3−トリメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム、N,N−ジメチルピロリジニウムおよびN−エチル−N−メチルピロリジニウム等のピロリジニウムは入手容易であるためより好ましい。さらに好ましいものとしては、第4級アンモニウム、イミダゾリウムが挙げられる。なお、耐還元性の観点からは、上記鎖状オニウムカチオンに分類されるテトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムおよびトリエチルメチルアンモニウムなどの第4級アンモニウムがさらに好ましい。
【0044】
無機カチオンM
n+としては、Li
+、Na
+、K
+、Cs
+、Pb
+等の1価の無機カチオンM
1+;Mg
2+、Ca
2+、Zn
2+、Pd
2+、Sn
2+、Hg
2+、Rh
2+、Cu
2+、Be
2+、Sr
2+、Ba
2+等の2価の無機カチオンM
2+;および、Ga
3+等の3価の無機カチオンM
3+が挙げられる。これらの中でも、Li
+、Na
+、Mg
2+およびCa
2+はイオン半径が小さく電池等に利用し易いため好ましく、より好ましい無機カチオンM
n+はLi
+である。
【0045】
1−2.化合物(1)
本発明に係る化合物(1)は、一般式(1);M
n+([B(CN)
4-mY
m]
-)
nで表される化合物であって、M
n+で示されるH
+、有機カチオンまたは無機カチオンと、ホウ素に、シアノ基:−CNと、−Yとが結合した一般式:[B(CN)
4-mY
m]
-で表される([B(CN)
4-mY
m]
-)で表されるシアノボレートアニオンとからなる。
【0046】
一般式(1)中、Yは、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2、−SR
14または−OR
15を表し、R
14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、R
15は、H、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキルシリル基、炭素数1〜10のアルカノイル基、ハロスルフィニル基、ハロゲンを有していてもよい炭素数1〜10のアルキルスルフィニル基、ハロスルホニル基、または、ハロゲンを有していてもよい炭素数1〜10のアルキルスルホニル基を表し、lは1〜2の整数を表し、mは1〜3の整数を表し、nは1〜3の整数を表す。
【0047】
上記一般式(1)において、mは1〜3の整数であるので、化合物(1)に係るシアノボレートアニオンには、トリシアノボレートアニオン(m=1):[B(CN)
3Y]
-;ジシアノボレートアニオン(m=2):[B(CN)
2Y
2]
-;モノシアノボレートアニオン(m=3):[B(CN)Y
3]
-;のシアノボレートアニオン類が含まれる。
【0048】
なお、mが2又は3である場合、2以上のYは同一でも異なってもよく、また、2以上のYが互いに結合してB原子を含む環状構造を形成していてもよい。環状構造を有するシアノボレートアニオンとしては、後述する化合物(2)に係るアニオンが挙げられる。上記シアノボレートアニオンを構成する置換基Yがハロゲンの場合、Yとしては、F、Cl、Br又はIが挙げられる。Yがハロゲンである場合、mは2以上であることが好ましい。また、このとき、2以上のYは異なるハロゲンであるか、ハロゲンとハロゲン以外の置換基であるのが好ましい。
【0049】
上記置換基Yが主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基の場合は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基等の炭素数1〜10のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、シクロヘキシルエチニル基、フェニルエチニル基等の炭素数1〜10のアルキニル基;フェニル基、ベンジル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等の炭素数6〜10のアリール基又はヘテロ原子含有アリール基;が挙げられる。
【0050】
主鎖の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基等、上記炭化水素基の水素原子の一部または全てがハロゲン(F、Cl、BrまたはI)で置換されたハロゲン化アルキル基又はハロゲン化アリール基等が挙げられる。
【0051】
上記ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基Yは、置換基(たとえば、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基等)を有していてもよい。また、Y(ハロゲンである場合を除く)は、Si、B、O、N、Alなどのヘテロ原子を含む官能基を有していてもよい。官能基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミニウム基、−CH
2CH
2B(CN)
3、−C
3H
6B(CN)
3などが挙げられる。
【0052】
上記−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2及び−SR
14中、R
14は、H、ハロゲン、又は、主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表す。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、又は、ヨウ素などが好ましい。上記有機置換基は、直鎖状、分岐鎖状、環状の何れであってもよく、これらの内2以上の構造を併せ持っていてもよく、また、置換基を有していてもよい。さらに、有機置換基R
14は不飽和結合を含んでいてもよい。有機置換基R
14の主鎖の原子数は上述の通りであるが、有機置換基R
14に含まれる炭素の数(置換基を含む)は1〜20の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜10の範囲である。有機置換基R
14の価数、即ち結合末端数は、一つでも二つ以上でもよい。有機置換基R
14には、炭素および水素以外のヘテロ原子(O、N、Si等)やハロゲン原子(F、Cl、Br等)が含まれていてもよく、その数や位置にも特に制限は無い。したがって、例えば、一般式(1)中のYについて、Yが−SR
14の場合、Sに隣接する原子の種類は、特に炭素に限定されるものではなく、例えばSiやAl等のヘテロ原子であってもよい。また、有機置換基R
14は、炭素以外の原子のみから構成されるものであってもよい。
【0053】
具体的な有機置換基R
14としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む飽和炭化水素基;ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、アリル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、メチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基、シクロヘキセニルメチル基、フェニル基、トリル基(メチルフェニル基)、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、シクロヘキシルフェニル基、ビニルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、メチレン基(メチリデン基)、エチレン基(エチリデン基)、プロピレン基(プロピリデン基)、シクロヘキセン(1,2−、1,3−、1,4−)基、フェニレン(o−、m−、p−)基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む不飽和炭化水素基;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基、フルオロシクロヘキセン基、フルオロフェニレン基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むハロゲン化炭化水素基;シアノメチル基、ジシアノメチル基、トリシアノメチル基、シアノエチル基、ジシアノエチル基、トリシアノエチル基、テトラシアノエチル基、シアノプロピル基、シアノブチル基、シアノオクチル基、シアノシクロヘキシル基、シアノフェニル基、シアノメチレン基、シアノエチレン基、ジシアノエチレン基、シアノシクロヘキセン基、シアノフェニレン基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むシアノ化炭化水素基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシシクロヘキシル基、メトキシビニル基、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、ペンチルオキシメチル基、ヘキシルオキシメチル基、シクロヘキシルオキシメチル基、フェニルオキシメチル基、ビニルオキシメチル基、イソプロペニルオキシメチル基、tert−ブチルオキシメチル基、ナフチルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシメチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、ペンチルオキシエチル基、ヘキシルオキシエチル基、シクロヘキシルオキシエチル基、フェニルオキシエチル基、ビニルオキシエチル基、イソプロペニルオキシエチル基、tert−ブチルオキシエチル基、ナフチルオキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、メチレンオキシメチル基、エチレンオキシエチル基、フェニレンオキシフェニル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むアルコキシ化及び又はアリールオキシ化炭化水素基;アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むアルカノイル基又はアルカノイル基を含む有機置換基;アセチルオキシメチル基、アセチルオキシエチル基、ベンゾイルオキシエチル基、ブチロラクチル基、カプロラクチル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含むエステル結合を有する有機置換基;アミノ基、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、アセチルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニルアミノ基、ジメチルアミノエチル基、ピロリジニルエチル基、ピロリドニルエチル基等の、1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せを含む含窒素有機置換基;メチルチオ基、エチルチオ基、トリルチオ基等のアルキル又はアリールチオ基;フルオロチオ基、クロロチオ基等のハロチオ基;トリフルオロメチルチオ基、ペンタフルオロエチルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基等のハロゲン化アルキル又はアリールチオ基といったチオアルコキシ構造を有する基;メチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基等のハロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、ペンタフルオロフェニルスルフィニル基等のハロゲン化アルキル又はアリールスルフィニル基等のスルフィニル基を有する有機置換基;メチルスルホニル基、トリルスルホニル基、フルオロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のスルホニル基を有する有機置換基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメトキシアルミ等の、ヘテロ原子を有する有機置換基;−CH
2CH
2OB(CN)
3、−C
3H
6OB(CN)
3;などが挙げられる。また、有機置換基R
14は、上述の有機置換基から選ばれる1種、或いは、2種以上の有機置換基が2以上連結した構造を有するものであってもよい。
【0054】
上記有機置換基R
14の中でも、フッ素、塩素等のハロゲン、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基及び2−エチルヘキシル基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数が1〜10の炭化水素基;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロクロロメチル基、フルオロジクロロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、フルオロクロロエチル基、クロロエチル基、フルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、フルオロクロロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基、ペンタフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、フルオロメチレン基、フルオロエチレン基及びフルオロシクロヘキセン基等の炭素数が1〜10のハロゲン化炭化水素基;フェニル基、トリル基、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、シクロヘキシルフェニル基、ビニルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基及びフェニレン(o−、m−、p−)基、ペンタフルオロフェニル基、パークロロフェニル基等の炭素数6〜10のアリール基又はハロゲン化アリール基;シアノメチル基、ジシアノメチル基、トリシアノメチル基、シアノエチル基等のシアノ化炭化水素基;アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、オキサリル基及びマロニル基、スクシニル基等の炭素数が1〜10のアルカノイル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の炭素数が1〜10のエステル結合を有する有機置換基、又は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等の炭素数が1〜10のアルキルシリル基;が好ましい。
【0055】
より好ましい有機置換基R
14としては、フッ素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、エチレン基、プロピレン基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、シアノエチル基、アセチル基、プロパノイル基、オキサリル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基、トリメチルシリル基が挙げられる。
【0056】
したがって、上記Yが−C(O)R
14で表される場合は、R
14が、ハロゲン、飽和または不飽和の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基、アルコキシ化またはアリールオキシ化炭化水素基、又は、含窒素有機置換基であるものが好ましく、R
14が、メチル基、エチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基であるものがより好ましい。従って、置換基Yとしては、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソブタノイル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基(−COCOCH
3)、メチルマロニル基(−COCH
2COCH
3)、メチルスクシニル基(−COCH
2CH
2COCH
3)等の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含むアルカノイル基又はアルカノイル構造を含む有機置換基、アセトキシメチルカルボニル基、アセトキシエチルカルボニル基、ベンゾイルオキシエチルカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メトキシエチレンオキシカルボニル基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含むエステル結合を有する有機置換基;アミド基、N−アルキルアミド基、N−フェニルアミド基等の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せを含む含窒素有機置換基が挙げられる。
【0057】
−S(O)
lR
14で表される基としては、R
14が、ハロゲン、又は、飽和又は不飽和の炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基であるものが好ましく、具体的には、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、ペンタフルオロエチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ペンタフルオロフェニルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等のスルフィニル基(l=1)、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、ペンタフルオロエチルスルホニル基、トリルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ペンタフルオロフェニルスルホニル基等のスルホニル基(l=2)がより好ましいものとして挙げられる。
【0058】
−C(O)R
14や−S(O)
lR
14は、シアノ基同様電子求引性の置換基であり、中心元素に帯電した負電荷を非局在化させる。その結果、シアノボレートアニオンが安定することで、本発明に係るシアノボレート化合物が高電圧下や高温下に曝される場合であっても分解し難い塩を形成することが可能となる。
【0059】
−Z(R
14)
2で表される基としては、ジメチルアミノ基、エチルメチルアミノ基等のZがNであるアミノ基;ジフェニルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基等のZがPであるホスフィノ基;が挙げられる。
【0060】
上記Yが−SR
14で表される基としては、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である基(例えば、メチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等);等が挙げられる。また、2以上の−SR
14がBに結合する場合、2以上のR
14は結合して環を形成していてもよい。
【0061】
上記−OR
15中、R
15は、上記R
14と同様のものが挙げられる。好ましいR
15としては、H、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキルシリル基、炭素数1〜10のアルカノイル基、ハロスルフィニル基、ハロゲンを有していてもよい炭素数1〜10のアルキルスルフィニル基、ハロスルホニル基、または、ハロゲンを有していてもよい炭素数1〜10のアルキルスルホニル基が挙げられる。
【0062】
上記Yが−OR
15で表される基としては、具体的には、R
15が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のアルキルシリル基である基;アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基等、R
15が1価または2価以上の、直鎖状、分岐鎖状、環状或いはその組合せから選択されるアルカノイル基又はアルカノイル構造を有する基;フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等、R
15がスルフィニル基を有する基、又は、フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等、R
15がスルホニル基を有する基;等が挙げられる。2以上のOR
15がBに結合する場合、2以上のR
15は結合して環を形成していてもよい。
【0063】
シアノボレート塩に−Z(R
14)
2、−SR
14や−OR
15を導入すると、高耐電圧はもちろん、溶媒への溶解性に優れた塩となる。この場合、R
14やR
15に電子吸引性の置換基が含まれていると、シアノボレートアニオンの安定性が増すため好ましい。具体的には、R
14、R
15にアルカノイル基、スルフィニル基、スルホニル基が含まれていることが好ましく、シアノボレート塩は、後述する化合物(2)のような構造であることがより好ましい。同様に、R
14、R
15はフッ素、又は、フルオロアルキル基等フッ素を含む基であることも好ましい。
【0064】
化合物(1)に係るシアノボレートアニオンとしては、たとえば、[B(CN)
3(SMe)]
-等のチオアルコキシトリシアノボレートアニオン;[B(CN)
3(CF
3)]
-、[B(CN)
3(C
2F
5)]
-等のハロゲン化又はハロゲン化アルキルシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(Ph)]
-、[B(CN)
3(Me)]
-、[B(CN)
3(CH
2)
6B(CN)
3]
2-、等のアルキル化又はアリール化シアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OCOCH
3)]
-、[B(CN)
3(OCOCF
3)]
-、[B(CN)
3(OCOC
2H
5)]
-、[B(CN)
3(OCOOCH
3)]
-、[B(CN)
3(OCOOC
2H
5)]
-、等のエステル系シアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OSO
2F)]
-、[B(CN)
3(OSO
2CF
3)]
-、[B(CN)
3(OSO
2CH
3)]
-、[B(CN)
3(OSO
2C
6H
4CH
3)]
−、[B(CN)
3(SO
2F)]
-、[B(CN)
3(SO
2CF
3)]
-、[B(CN)
3(SO
2CH
3)]-、[B(CN)
3(SO
2C
6H
4CH
3)]
-等のスルホニル基を有するシアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(COCH
3)]
-、[B(CN)
3(COCF
3)]
-等のアシル化シアノボレートアニオン類;[B(CN)
3(OSiCH
3)]
-、等のアルキルシロキシシアノボレートアニオン類;等が挙げられる。
【0065】
本発明に係る化合物(1)には、上記カチオンとアニオンの組み合わせからなるものが全て含まれる。具体的な化合物(1)としては、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェニルボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリフルオロメチル)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(シアノエトキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノフェニルボレート等の有機カチオンの塩;リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロメチル)ボレート、リチウムトリシアノフェニルボレート、リチウムトリシアノメチルボレート、リチウムトリシアノアセトキシボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロアセトキシ)ボレート、リチウムトリシアノ((メトキシカルボニル)オキソ)ボレート、リチウムトリシアノ(フルオロスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロメタンスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(メタンスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(p−トルエンスルホナート)ボレート、リチウムトリシアノ(フルオロスルホニル)ボレート、リチウムトリシアノアセチルボレート、リチウムトリシアノ(トリフルオロアセチル)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート等の無機カチオンの塩;が挙げられる。
【0066】
1−3.化合物(2)
本発明に係る化合物(2)は、下記一般式(2)で表される化合物である。下記一般式(2)に示すように、化合物(2)を構成するシアノボレートアニオンは、ホウ素原子を含む環状構造を有する。すなわち、化合物(2)は、上記化合物(1)を示す一般式(1)において、mが2または3であり、2つのYが互いに結合してホウ素原子を含む環状構造を形成している場合に相当する。
【0068】
一般式(2)中、M
n+はH
+、1価、2価、または3価の有機又は無機カチオンを表し、Y’はH、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2または−XR
14を表し、R
14は、H、ハロゲン、又は主鎖の原子数が1〜10の有機置換基を表し、ZはN又はPを表し、XはO又はSを表し、lは1〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、pは0〜10の整数を表す。上記一般式(2)のY’は、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基およびシアノ基よりなる群から選択される置換基であることが好ましい。
【0069】
上記一般式(2)で表されるシアノボレートアニオン中、pは、ホウ素に結合する二つのエステル結合を互いに結合させている直接結合またはメチレン基の炭素数を示す。pは好ましくは0〜4であり、より好ましくは0〜2である。
【0070】
上記一般式(2)において、pは0〜10の整数であるので、化合物(2)に係るシア
ノボレートアニオンとしては、シアノオキサラトボレート(p=0)、シアノマロナトボ
レート(p=1)、シアノスクシナトボレート(p=2)、シアノグルタラトボレート(
p=3)、シアノアジポラトボレート(p=4)等が挙げられる。
【0071】
上記シアノボレートアニオンを構成する置換基Y’の内、ハロゲン、ハロゲンを有していてもよい主鎖の炭素数が1〜10の炭化水素基、シアノ基、−C(O)R
14、−S(O)
lR
14、−Z(R
14)
2およびR
14は、化合物(1)と同様である。
【0072】
上記Y’が−XR
14で表される置換基としては、XがOであって、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基(例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基)である基;XがOであって、R
14がアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等)である基;XがOであって、R
14が1価の、直鎖状、分岐鎖状、環状あるいはその組合せから選択されるアルカノイル基又はアルカノイル構造を有する基(例えば、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、イソプロパノイル基、イソブタノイル基、ベンゾイル基、ペンタフルオロベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、メチルオキサリル基、メチルマロニル基、メチルスクシニル基等)である基;XがOであって、R
14がスルフィニル基(例えば、フルオロスルフィニル基、クロロスルフィニル基、トリフルオロメチルスルフィニル基、トリルスルフィニル基等)、または、スルホニル基(フルオロスルホニル基、クロロスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基、トリルスルホニル基等)を有する基;XがSであって、R
14がハロゲンを有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である基(例えば、メチルチオ基、トリフルオロメチルチオ基等);等が挙げられる。なお、Xは、OまたはSであるが、原料の入手のしやすさ、コストの面から、XはOであることが好ましい。
【0073】
化合物(2)に係るより具体的なアニオンとしては、下記式(2−1)〜(2−14)で表されるものが挙げられる(pは0〜2の整数であるのが好ましく、0または1がより好ましく、0がさらに好ましい)。好ましいアニオンとしては(2−1),(2−2),(2−3),(2−4),(2−7),(2−9)および(2−10)が挙げられる。
【0075】
本発明に係る化合物(2)には、上記カチオンとアニオンの組合せからなるものが全て含まれる。具体的な化合物(2)としては、トリエチルメチルアンモニウムシアノフルオロオキサラトボレート、トリエチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリブチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルアンモニウムジシアノマロナトボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノスクシナトボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサラトボレート(トリエチルメチルアンモニウムジシアノオキサリルボレート)、トリエチルメチルアンモニウムメチルシアノオキサラトボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリフルオロメチルシアノオキサラトボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアノフェニルマロナトボレート等の有機カチオンの塩;リチウムシアノフェニルオキサラトボレート、ナトリウムジシアノオキサラトボレート、マグネシウムビス(ジシアノオキサラトボレート)、リチウムトリフルオロメチルシアノスクシナトボレート、リチウムシアノフェニルオキサラトエトキシボレート、リチウムシアノペンタフルオロフェノキシオキサラトブトキシボレート、リチウムトリフルオロメトキシシアノマロナトボレート、リチウムシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)スクシナトボレート、リチウムシアノ(アセトキシ)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロアセトキシ)マロナトボレート、リチウムシアノ((メトキシカルボニル)オキソ)オキサラトボレート、リチウムシアノ(フルオロスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロメタンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(メタンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(p−トルエンスルホナート)オキサラトボレート、リチウムシアノ(フルオロスルホニル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(アセチル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリフルオロアセチル)オキサラトボレート、リチウムシアノ(トリメチルシロキシ)オキサラトボレート、リチウムジシアノオキサラトボレート(リチウムジシアノオキサリルボレート)、リチウムシアノフルオロオキサラトボレート(リチウムシアノフルオロオキサリルボレート)等の無機カチオンの塩;が挙げられる。
【0076】
2.電池用電極
本発明の電池用電極は、上記一般式(1)または(2)で表されるシアノボレート化合物を含む。電極がシアノボレート化合物を含む場合には、電極近傍におけるシアノボレート化合物の濃度を向上させ易く、電極表面に被膜を速やかに形成できるので好ましい。また、シアノボレート化合物が電極から徐放されるので、放電容量やサイクル特性の経時的な低下が一層起こり難くなる。上記シアノボレート化合物を含む電極は、正極であるのが好ましい。なお、本発明の電極は、上記化合物(1)または(2)を含むものであればよいが、化合物(1)、(2)の双方を含むものであってもよい。
【0077】
本発明の電極は、活物質、導電助剤、結着剤からなる正極合剤100質量部に対して化合物(1)又は(2)で表されるシアノボレート化合物を0.01質量部〜10質量部含有することが好ましく、より好ましくは0.05質量部〜5質量部であり、より一層好ましくは0.1質量部〜3質量部である。シアノボレート化合物の含有量が少なすぎると電極の腐食や溶媒の分解抑制効果が得られ難くなる虞があり、一方、多量に使用しても使用量に比例する効果は得られ難く、また、電極構成材料におけるシアノボレート化合物の比率が大きくなり、電極を製造し難くなる虞がある。なお、本発明の電極が化合物(1)と(2)とを含む場合は、化合物(1)および(2)の合計量が上記範囲であるのが好ましい。
【0078】
シアノボレート化合物を電極に担持(保持)させる方法は特に限定されない。例えば、電極構成材料の一部としてシアノボレート化合物を使用し、従来公知の製造方法で電極を製造すれば、シアノボレート化合物を担持した電極が得られる。具体的には、シアノボレート化合物を、後述する電極活物質や、導電助剤、バインダー等の電極材料と混合して電極材料組成物を調製し、これを集電体に塗工し、乾燥する方法;シアノボレート化合物を含む電極材料組成物を混練成形し乾燥して得たシートを集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;電極材料組成物を集電体に塗工し、乾燥して得たシート状の電極にシアノボレート化合物を含む溶液を塗布又は噴霧し、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した液状又はスラリー状の電極材料組成物(シアノボレート化合物を含む)を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。上記化合物(1)、(2)には吸湿性を有するものが含まれるので、電極の製造は、露点−20℃以下の雰囲気下で行うのが好ましい。
【0079】
3.電池
本発明の電池は、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物を含む電極を使用するものであればよく、特に限定されるものではないが、具体的な電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池、リチウム一次電池、多価カチオン二次電池等が挙げられる。また、こられの電池の構成についても特に限定されるものではなく、本発明には、電解液、電極、セパレータなど、従来公知の電池の構成を採用することができる。なお、いずれの電池も、露点−20℃以下の雰囲気下で製造するのが好ましい。上記化合物(1)、(2)には、吸湿性を有するものが含まれるからである。
【0080】
上記電池に共通の構成である電解液について説明する。
【0081】
3−1.電解液
電池に用いられる電解液は、通常、電解質と媒体とを含む。まず、電解質について説明する。
【0082】
3−1−1.電解質
本発明では従来公知の電解質を使用することができる。電解質としては、電解液中での解離定数が大きく、また、後述する非水系溶媒と溶媒和し難いアニオンを有するものが好ましい。具体的な電解質としては、LiCF
3SO
3、NaCF
3SO
3、KCF
3SO
3等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(CF
3CF
2SO
2)
2、LiN(FSO
2)
2等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミド又はフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF
6、NaPF
6、KPF
6等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO
4、NaClO
4等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF
4、NaBF
4等のテトラフルオロ硼酸塩;リチウムテトラシアノボレート、リチウムトリシアノメトキシボレート、ナトリウムトリシアノメトキシボレート、マグネシウムビス(トリシアノメトキシボレート)、リチウムトリシアノイソプロポキシボレート、リチウムトリシアノブトキシボレート、リチウムトリシアノフェノキシボレート、リチウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、リチウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、リチウムトリシアノメチルチオボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート、リチウムジシアノジメトキシボレート、リチウムシアノトリメトキシボレート等のシアノホウ酸のアルカリ金属塩;LiAsF
6、LiI、LiSbF
6、LiAlO
4、LiAlCl
4、LiCl、NaI、NaAsF
6、KI等のアルカリ金属塩;過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の第4級アンモニウム塩;(C
2H
5)
4NBF
4、(C
2H
5)
3(CH
3)NBF
4等のテトラフルオロ硼酸の第4級アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムテトラシアノボレート、テトラエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノイソプロポキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノブトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノフェノキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ペンタフルオロフェノキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(トリメチルシロキシ)ボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノメチルチオボレート、トリエチルメチルアンモニウムトリシアノ(ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリブチルアンモニウムトリシアノメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムジシアノジメトキシボレート、トリエチルメチルアンモニウムシアノトリメトキシボレート等のシアノホウ酸のアンモニウム塩;(C
2H
5)
4NPF
6等の第4級アンモニウム塩;(CH
3)
4P・BF
4、(C
2H
5)
4P・BF
4等の第4級ホスホニウム塩;等が挙げられる。これらの電解質は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0083】
上記電解質の中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好適である。また、非水系溶媒中での溶解性、イオン伝導度の観点からは、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましく、耐還元性の観点からは、鎖状第4級アンモニウム塩が好ましい。なお、アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましいのはリチウム塩である。
【0084】
電解質の濃度は、本発明に係る電解液中、0.1mol/L以上、飽和濃度以下となるように使用するのが好ましい。より好ましくは0.2mol/L〜2.5mol/Lであり、より一層好ましくは0.3mol/L〜2mol/Lであり、さらに好ましくは0.6mol/L〜1.8mol/Lであり、さらに一層好ましくは0.8mol/L〜1.4mol/Lである。電解質量が少なすぎると所望の伝導度が得られ難い場合があり、一方、電解質量が多すぎると、イオンの移動が阻害される虞がある。
【0085】
3−1−2.媒体
媒体としては、電解質を溶解できるものであれば特に限定されず、非水系溶媒、ポリマー、ポリマーゲル等、電池に用いられる従来公知の媒体はいずれも使用できる。
【0086】
非水系溶媒としては、誘電率が大きく、電解質の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、且つ、電気化学的安定範囲が広い溶媒が好適である。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル(メチルエチルカーボネート)、炭酸ジエチル(ジエチルカーボネート)、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン(エチレンカーボネート)、炭酸プロピレン(プロピレンカーボネート)、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチルニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン等を挙げることができる。
【0087】
これらの中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類、脂肪族カルボン酸エステル類、ラクトン類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がより好ましい。上記非水系溶媒は1種を単独で用いてもよく、又、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
媒体として用いられるポリマーとしては、エポキシ化合物(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、アリルグリシジルエーテル等)の単独重合体又は共重合体であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル(PAN)等のニトリル系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素系ポリマー、および、これらの共重合体等が挙げられる。また、これらのポリマーと他の有機溶媒とを混合したポリマーゲルも本発明に係る媒体として用いることができる。他の有機溶媒としては上述の非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0089】
上記ポリマーゲルを媒体とする場合は、従来公知の方法で成膜したポリマーに、上述の非プロトン性溶媒に電解質を溶解させた溶液を滴下して、電解質並びに非プロトン性溶媒を含浸、担持させる方法;ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融、混合した後、成膜し、ここに非プロトン性溶媒を含浸させる方法;予め電解質を有機溶媒に溶解させた電解液とポリマーとを混合した後、これをキャスト法やコーティング法により成膜し、有機溶媒を揮発させる方法(以上、ゲル電解質);ポリマーの融点以上の温度でポリマーと電解質とを溶融し、混合して成形する方法(真性ポリマー電解質);等が挙げられる。
【0090】
3−1−3.添加剤
本発明に係る電解液は、電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。
【0091】
添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、メチルビニレンカーボネート(MVC)、エチルビニレンカーボネート(EVC)等の不飽和結合を有する環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート及びエリスリタンカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブサルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、テトラメチルチウラムモノスルフィド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩等のリン酸塩;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素化合物;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の不飽和炭化水素化合物;等が挙げられる。
【0092】
上記添加剤は、本発明の電解液中の濃度が0.1質量%〜10質量%の範囲で用いるのが好ましい(より好ましくは0.2質量%〜8質量%、さらに好ましくは0.3質量%〜5質量%)。添加剤の使用量が少なすぎるときには、添加剤に由来する効果が得られ難い場合があり、一方、多量に他の添加剤を使用しても、添加量に見合う効果は得られ難く、また、電解液の粘度が高くなり伝導率が低下する虞がある。
【0093】
本発明の電池は、満充電時の正極電位がリチウム基準で4.0V以上であるのが好ましく、より好ましくは4.3V以上である。なお、満充電時の正極電位は高いほど好ましいが、安全性の観点からは、5.5V以下であるのが好ましい。より好ましくは5.0V以下である。
【0094】
本発明の電池の定格充電電圧は特に限定されないが、2.5V以上であることが好ましく、より好ましくは3.5V以上であり、さらに好ましくは4.0V以上であり、さらに一層好ましくは4.3V以上である。なお、定格充電電圧が高いほど、エネルギー密度を高めることはできるが、高すぎると安全性を確保し難い場合がある。したがって、定格充電電圧は5.5V以下であるのが好ましい。より好ましくは5.0V以下である。
【0095】
4.リチウムイオン二次電池
上記例示の電池の内、リチウムイオン二次電池についてさらに詳細に説明する。リチウムイオン電池とは、正極と負極と、電解液とを有するものであり、より詳細には、上記正極と負極との間にセパレータが設けられており、且つ、電解液は、上記セパレータに含浸された状態で、正極、負極等と共に外装ケースに収容されている。
【0096】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記化合物(1)又は(2)を含む電極を有する。
【0097】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、リチウムイオン二次電池の形状として従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V〜数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
【0098】
4−1.正極
正極は、正極活物質、導電助剤、結着剤及び分散用溶媒等を含む正極活物質組成物が正極集電体に担持されているものであり、通常、シート状に成形されている。
【0099】
正極の製造方法としては、例えば、正極集電体に正極活物質組成物をドクターブレード法等で塗工したり、浸漬した後に、乾燥する方法;正極活物質組成物を混練成形し乾燥して得たシートを正極集電体に導電性接着剤を介して接合し、プレス、乾燥する方法;液状潤滑剤を添加した正極活物質組成物を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する方法;等が挙げられる。正極に化合物(1)又は(2)を担持させたい場合には、正極活物質組成物を構成する材料として化合物(1)又は(2)を使用すればよい。なお、正極の製造は、露点−20℃以下の雰囲気下で行うのが好ましい。
【0100】
4−1−1.正極集電体
正極集電体の材料としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、SUS(ステンレス鋼)、チタン等の導電性金属が使用できる。中でも、アルミニウムは、薄膜に加工し易く、安価であるため好ましい。
【0101】
4−1−2.正極活物質
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であれば良く、リチウム二次電池で使用される従来公知の正極活物質が用いられる。
【0102】
具体的には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、LiMn
2O
4系でNiに一部置換したLiNi
0.5Mn
1.5O
4、LiNi
1-x-yCo
xMn
yO
2やLiNi
1-x-yCo
xAl
yO
2(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される三元系酸化物等の遷移金属酸化物、LiAPO
4(A=Fe、Mn、Ni、Co)等のオリビン構造を有する化合物、遷移金属を複数取り入れた固溶材料(電気化学的に不活性な層状のLi
2MnO
3と、電気化学的に活性な層状のLiM’’O[M’’=Co、Ni等の遷移金属]との固溶体)等が正極活物質として例示できる。これらの正極活物質は、1種を単独で使用してもよく、又は、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0103】
4−1−3.導電助剤
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、金属粉末材料、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0104】
4−1−4.結着剤
結着剤としては、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム等の合成ゴム;ポリアミドイミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリアクリル酸;カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂;等が挙げられる。これらの結着剤は単独で使用してもよく、複数種を混合して使用してもよい。また、これらの結着剤は、使用の際に溶媒に溶けた状態であっても、溶媒に分散した状態であっても構わない。
【0105】
導電助剤及び結着剤の配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視等)、イオン伝導性等を考慮して適宜調整することができる。
【0106】
正極を製造するに際して、正極活物質組成物に用いられる溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトン、エタノール、酢酸エチル、水等が挙げられる。これらの溶媒は組み合わせて使用してもよい。溶媒の使用量は特に限定されず、製造方法や、使用する材料に応じて適宜決定すればよい。
【0107】
4−2.負極
負極は、負極活物質、分散用溶媒、結着剤及び必要に応じて導電助剤等を含む負極活物質組成物が負極集電体に担持されてなるものであり、通常、シート状に成形されている。
【0108】
4−2−1.負極集電体
負極集電体の材料としては、銅、鉄、ニッケル、銀、ステンレス鋼(SUS)等の導電性金属を用いることができる。なお、薄膜への加工が容易である観点からは、銅が好ましい。
【0109】
4−2−2.負極活物質
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池で使用される従来公知の負極活物質を用いることができ、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであればよい。具体的には、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛材料、石炭・石油ピッチから作られるメソフェーズ焼成体、難黒鉛化性炭素等の炭素材料、Si、Si合金、SiO等のSi系負極材料、Sn合金等のSn系負極材料、リチウム金属、リチウム−アルミニウム合金等のリチウム合金を用いることができる。
【0110】
負極の製造方法としては、正極の製造方法と同様の方法を採用することができる。また、負極の製造時に使用する導電助剤、結着剤、材料分散用の溶媒も、正極で用いられるものと同様のものが用いられる。
【0111】
4−3.セパレータ
セパレータは正極と負極とを隔てるように配置されるものである。セパレータには、特に制限がなく、本発明では、従来公知のセパレータはいずれも使用することができる。具体的なセパレータとしては、例えば、非水電解液を吸収・保持するポリマーからなる多孔性シート(例えば、ポリオレフィン系微多孔質セパレータやセルロース系セパレータ等)、不織布セパレータ、多孔質金属体等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン系微多孔質セパレータは、有機溶媒に対して化学的に安定であるという性質を有するため好適である。
【0112】
上記多孔性シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する積層体等が挙げられる。
【0113】
上記不織布セパレータの材質としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、アラミド、ガラス等が挙げられ、非水電解液層に要求される機械強度等に応じて、上記例示の材質を単独で、又は、混合して用いることができる。
【0114】
4−4.電池外装材
正極、負極、セパレータ及び本発明の電解液等を備えた電池素子は、リチウムイオン二次電池使用時の外部からの衝撃、環境劣化等から電池素子を保護するため電池外装材に収容される。本発明では、電池外装材の素材は特に限定されず従来公知の外装材はいずれも使用することができる。なお、上記化合物(1)、(2)が吸湿性を有する場合、リチウム二次電池の製造は、露点−20℃以下の雰囲気下で行うのが好ましい。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0116】
実験例 電池特性評価
1.正極シートの作製
三元系正極活物質であるLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(LNMC)、アセチレンブラック(AB、導電助剤1、電気化学工業株式会社製)、グラファイト(導電助剤2、粒度D50=3.2μm、比表面積245m
2/g)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF、「KF1120」、株式会社クレハ製)を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液中で均一に混合して、固形分濃度が67%であるペースト状の正極合剤A(固形分比(質量比)、正極活物質:AB:グラファイト:PVdF=92:2:2:4)を作製した。
【0117】
次に、正極合剤Aに対してリチウムジシアノオキサラトボレート(LiB(CN)
2(C
2O
4)、下記一般式(2−2−1))又はリチウムシアノ(フルオロ)オキサラトボレート(LiBFCN(C
2O
4) 、下記一般式(2−1−1))を固形分比(質量比)で、正極活物質:AB:グラファイト:PVdF:LiBFCN(C
2O
4)又はLiB(CN)
2(C
2O
4)=91.6:2:2:4:0.4となるよう混練して、ペースト状の正極合剤B及びCを作製した。正極合剤A〜Cの配合組成(固形分比)を表1に示す。
【0118】
【化10】
【0119】
【表1】
【0120】
得られたペースト状の正極合剤A、B及びCをそれぞれアルミニウム集電体上に塗工し、乾燥して、正極シート(初期充電容量:2.3mAh/cm
2)を作製した。
【0121】
2.非水電解液の調製
電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6、キシダ化学株式会社製、LBGグレード)を、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC:EMC=3:7(体積比)、いずれもキシダ化学株式会社製、LBGグレード)に溶解させて、1.0mol/Lの非水電解液を調製した。
【0122】
3.コイン型リチウム電池の作製
上記正極の作製で得られた正極シート、市販の負極シート(負極集電体:銅箔、負極活物質:グラファイト、放電容量:2.4mAh/cm
2)、及び、ポリエチレン製セパレータを、それぞれ円形(正極φ12mm、負極φ14mm)に打ち抜いた。宝泉株式会社より購入したCR2032コイン型電池用部品(正極ケース(アルミクラッドSUS304L製)、負極キャップ(SUS316L製)、スペーサー(1mm厚、SUS316L製)、ウェーブワッシャー(SUS316L製)、ガスケット(ポリプロピレン製))を用いてコイン型リチウム電池を作製した。具体的には、ガスケットを装着した負極キャップ、ウェーブワッシャー、スペーサー、負極シート(負極の銅箔側がスペーサーと対向するように設置)、セパレータをこの順で重ねた後、上記非水電解液70μLをセパレータに含浸させた。次いで、正極合剤塗布面が負極活物質層側と対向するように正極シートを設置し、その上に正極ケースを重ね、カシメ機でかしめることによりコイン型リチウム電池を作製した。
【0123】
4.サイクル特性試験
得られたコイン型リチウム電池について、充放電試験装置(株式会社計測器センター製)を使用して、充放電速度1.0C(定電流モード)、2.75V〜4.4Vの条件にて、各充放電時には10分の充放電休止時間を設けてサイクル試験を行った。結果を
図1に示す。
【0124】
図1より、正極が、(LiB(CN)
2(C
2O
4))(正極合剤B)、(LiBFCN(C
2O
4))(正極合剤C)を含有する本発明のコイン型リチウム電池は、上記化合物(1)、(2)のいずれも含まない正極を用いた例(正極合剤A)と比較して初期容量が高く、加えて経時の容量劣化が抑えられており、良好なサイクル特性を示すものであった。