(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976491
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】地下構造物躯体の内装構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/04 20060101AFI20160809BHJP
E21D 13/02 20060101ALI20160809BHJP
E21D 11/38 20060101ALI20160809BHJP
E21D 9/04 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
E21D11/04 Z
E21D13/02
E21D11/38 Z
!E21D9/04 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-226440(P2012-226440)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-77306(P2014-77306A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】桑原 清
(72)【発明者】
【氏名】有光 武
(72)【発明者】
【氏名】長尾 達児
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄徳
(72)【発明者】
【氏名】八代 浩二
(72)【発明者】
【氏名】岩沢 理恵
(72)【発明者】
【氏名】西村 知晃
(72)【発明者】
【氏名】中村 征史
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−336191(JP,A)
【文献】
特開2001−173384(JP,A)
【文献】
特開2011−214273(JP,A)
【文献】
特開2010−240905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00−19/06
E21D 9/04−9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って断面略C字形の継手が形成された多数の覆工エレメントを、前記継手を嵌合させながら地山に並列して貫入することによって形成された地下構造物躯体の内装構造であって、
前記躯体の内表面を形成する覆工エレメントの表面に、各覆工エレメントごとにその長さ方向に沿って直接固定された多数枚の矩形の内装版を備え、
この内装版の覆工エレメントの長さ方向に沿う両端部には、該覆工エレメントの表面から突出している前記継手を覆う迫り出し部が形成され、
互いに隣接する覆工エレメントに固定された内装版の前記迫り出し部どうしは、前記継手の上方で目地を形成するように対向し、この目地にシーリング材が充填されていることを特徴とする地下構造物躯体の内装構造。
【請求項2】
前記内装版の裏面に弾性マットが設けられていることを特徴とする請求項1記載の地下構造物躯体の内装構造。
【請求項3】
前記内装版は複数のボルト・ナットにより前記覆工エレメントに固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の地下構造物躯体の内装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下構造物躯体の内装構造に関し、より詳細には、多数の覆工エレメントを地山に貫入することによって、鉄道線路や道路の下方に構築された地下構造物(トンネル)躯体の内装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路や道路の下方の地盤に立体交差する地下構造物を構築する工法の1つとして、長尺の多数の鋼製エレメントを地山に貫入して覆工を行うHEP&JES(High Speed Element Pull & Jointed Element Structure) 工法が知られている。
【0003】
この工法は、
図1に示すように、例えば線路1下の地盤に構造物の断面を区画するように、長尺の多数の鋼製覆工エレメント2,3を牽引又は推進により並列させて地山に順次挿入し、エレメント内部にコンクリートを打設して箱形ラーメン形式又は円形等の覆工壁4を構築した後、覆工壁4内方の地山を掘削して、覆工壁4を構造物躯体とする工法である。
【0004】
このような工法に使用する覆工エレメントとして、断面が四角形の基準覆工エレメントと、その側部に順次連設される断面コ字形の一般部覆工エレメントとを用い、さらに各エレメント間の継手を全強状態に接合することができる構造とした工法について既に提案がされている(特許文献1,2参照)。
【0005】
これらの基準覆工エレメント及び一般部覆工エレメントは、いずれも鋼製のもので、その構造が
図2に示されている。すなわち、基準覆工エレメント2は、4枚のプレート5によって断面四角形に形成され、各隅角部には断面略C字形の継手6が長手方向に沿って設けられている。また、一般部覆工エレメント3は、3枚のプレート7,8によって断面コ字形に形成され、各隅角部及びプレート7の開放側端部には上記継手6と同形状の継手9,10が長手方向に沿ってそれぞれ設けられている。基準覆工エレメント2は最初に地山に貫入され、次いで、基準覆工エレメント2の両側部の地山に一般部覆工エレメント3が貫入される。
【0006】
その際、
図2では一方側のみを示すように、一般部覆工エレメント3は、その開放部側の継手10を基準覆工エレメント2の継手6に嵌合させながら地山に貫入される。先行して地山に挿入された一般部覆工エレメント3に並列させて、さらに後行する一般部覆工エレメント3が地山に貫入され、この後行する一般部覆工エレメント3は、その開放部側の継手10を先行する一般部覆工エレメントの隅角部側の継手9に嵌合させながら地山に貫入される。このようにして、一般部覆工エレメント3を順次地山に貫入し、エレメント2,3内部にコンクリートを打設して、
図1に示したような覆工壁4が構築される。
【0007】
覆工壁4は地下構造物の躯体として本体利用されるのであるが、その際、覆工壁すなわち躯体4の内表面には美観上の理由から内装版が施されることが多い。従来、内装版としては、建築物等に用いられている外装版や内装版をそのまま流用している。しかし、隣接するエレメントどうしは、その長手方向に延びる継手6,9,10を介して連結され、これらの継手部分がエレメントのプレート5,7面から突出していることから、躯体4の内表面は平坦面ではない。
【0008】
そこで、従来は、取り付ける内装版の平面性を確保するために、下地材等をエレメント表面から浮かせた状態で固定し、これにパネルを取り付ける方式を採用していた。このため、設計にあたっては、150〜200mmの取付余裕を考慮しなければならず、その分躯体4の内空断面を拡げる必要が生じ、構造物自体も不経済なものとならざるをえなかった。
【0009】
また、自動車等から衝撃を受ける部分については、
図9に示すように、コンクリート構造物に用いられる埋設型枠50を流用している(特許文献3も併せて参照)。この場合、エレメント3にセパレータとなる取付ボルト51等を溶接し、エレメント3との間に空隙を形成するように埋設型枠50を取り付けた後、その空隙部にモルタル等を充填している。この場合も、埋設型枠50とエレメント3との間に空隙を形成する必要があることから、躯体4の内空断面を拡げなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−120372号公報
【特許文献2】特開2000−179282号公報
【特許文献3】特開2006−336191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、内装版の取付け余裕を大幅に低減することができ、それによって地下構造物躯体の必要内空断面を極力小さくすることができる内装構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、長手方向に沿って断面略C字形の継手が形成された多数の覆工エレメントを、前記継手を嵌合させながら地山に並列して貫入することによって形成された地下構造物躯体の内装構造であって、
前記躯体の内表面を形成する覆工エレメントの表面に、各覆工エレメントごとにその長さ方向に沿って直接固定された多数枚の矩形の内装版を備え、
この内装版の覆工エレメントの長さ方向に沿う両端部には、該覆工エレメントの表面から突出している前記継手を覆う迫り出し部が形成され、
互いに隣接する覆工エレメントに固定された内装版の前記迫り出し部どうしは、前記継手の上方で目地を形成するように対向し、この目地にシーリング材が充填されていることを特徴とする地下構造物躯体の内装構造にある。
【0013】
上記内装構造において、前記内装版の裏面に弾性マットが設けられている構成を採用することが好ましい。前記内装版は、具体的には複数のボルト・ナットにより前記覆工エレメントに固定されている。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、躯体の内表面であるエレメント表面に内装版を直接固定したので、内装版の取付け余裕を低減することができる。これによって、エレメントによる躯体の必要内空断面を小さくすることができ、経済性に優れた地下構造物を構築することができる。また、エレメント表面から突出する継手は、内装版に設けた迫り出し部によって覆われ、かつ互いに隣接するエレメントに固定された内装版の迫り出し部間には目地が形成されてシーリングされるので突起部が完全に隠れることとなり、外観上も優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明による内装構造が適用される地下構造物躯体を示す断面図である。
【
図2】地下構造物躯体の構築に使用される覆工エレメントを示す断面図である。
【
図3】この発明による内装構造の実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図3,
図4及び
図5は、
図1,
図2を参照して説明した地下構造物躯体の内表面に施された、この発明による内装構造の実施形態を示している。この発明による内装構造では、躯体の内表面を形成する覆工エレメント3の表面に、覆工エレメント3ごとに多数枚の矩形の内装版11がエレメントの長さ方向に沿って直接固定される(覆工エレメント2についても同様)。固定される内装版11は覆工エレメント3ごとに一列であり、互いに隣接するものどうしが接するように配列される。
【0017】
内装版11としては、重量を極力抑えて取付作業の軽減を図るために、プラスチック版やアルミニウム、ホーロー等の軽量パネルが用いられるが、自動車等の衝撃を受ける箇所はコンクリート構造が採用される。この内装版11には補強のためのワイヤーメッシュ12が埋め込まれている。また、覆工エレメント3の表面には溶接線等による若干の凹凸があるので、
図5に示すように、内装版11の裏面にはゴムマット13が設けられ、このゴムマット13を内装版11とエレメント3との間に挟み込む構造となっている。
【0018】
内装版11はゴムマット13を加えた厚みが、継手9,10のエレメント表面からの突出高さよりも大きくなっている。そして、内装版11のエレメント3の長さ方向に沿う両端部には継手9,10を覆う迫り出し部14が設けられている。迫り出し部14の内面は、継手9,10の外形に倣うように湾曲面15となっている。
【0019】
内装版11の表面には複数の凹部16が設けられている。この凹部16にはその底面から内装版裏面に貫通する孔が設けられ、この孔に挿入されるボルト・ナット17により内装版11がエレメント3に固定される。互いに隣接するエレメント3,3に固定された内装版11,11の迫り出し部14,14どうしは、継手9,10の上方で目地18を形成するように対向する。この目地18にはシーリング材が充填される。
【0020】
図6,
図7及び
図8は、この発明による内装構造の別の実施形態を示している。上記実施形態は内装版11が50mm厚の場合であるが、この実施形態は内装版11がそれよりも厚く80mmの場合である。この実施形態の場合は、上記実施形態と同様の構造であると内装版1枚あたりの重量が大きくなってしまう。そこで、この実施形態では内装版の裏面に複数の凹部20が設けられている。その他の構成は上記実施形態と同様である。
【0021】
以上のように、この発明によれば、躯体4の内表面であるエレメント表面に内装版11を直接固定したので、従来、150〜200mm必要としていた内装版の取付け余裕を75〜100mmに低減することができる。これによって、エレメントによる躯体の必要内空断面を小さくすることができ、経済性に優れた地下構造物を構築することができる。また、エレメント表面から突出する継手9,10は、内装版に設けた迫り出し部14によって覆われ、かつ互いに隣接するエレメントに固定された内装版の迫り出し部14,14間には目地が形成されてシーリングされるので突起部が完全に隠れることとなり、外観上も優れたものとなる。
【符号の説明】
【0022】
2 基準覆工エレメント
3 覆工エレメント
4 覆工壁(地下構造物躯体)
6,9,10 継手
11 内装版
12 ワイヤーメッシュ
14 迫り出し部
17 ボルト・ナット
18 目地