特許第5976530号(P5976530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976530
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20160809BHJP
   B63G 8/14 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   G05D3/12 306P
   B63G8/14
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-288762(P2012-288762)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-130532(P2014-130532A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】粟屋 伊智郎
(72)【発明者】
【氏名】安達 丈泰
(72)【発明者】
【氏名】中田 昌宏
【審査官】 川東 孝至
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−232056(JP,A)
【文献】 特開2011−168168(JP,A)
【文献】 特開昭60−124595(JP,A)
【文献】 実開平5−28800(JP,U)
【文献】 特開2006−224695(JP,A)
【文献】 特開2003−58201(JP,A)
【文献】 特開2014−75101(JP,A)
【文献】 特開2014−73729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/12
B63G 8/14
G05B 11/00−11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象に対して操作量を与えるアクチュエータに速度飽和が生ずるシステムに適用され、前記制御対象を目標状態に一致させるための位置指令を生成するメインループと、前記位置指令に前記アクチュエータの操作量を追従させるためのマイナーループとを備える制御装置であって、
前記メインループにおいて生成された前記位置指令が入力される速度飽和補償手段を備え、
前記速度飽和補償手段は、
位置に対する速度制限値を定義した関数を予め有し、該関数を用いて前記位置指令の前回値に対応する速度制限値を設定する速度制限値設定手段と、
前記位置指令の前回値と前記メインループから入力された前記位置指令の今回値とから指令速度を算出する速度算出手段と、
前記速度算出手段によって算出された前記指令速度が、前記速度制限値設定手段によって設定された前記速度制限値以下である場合に、前記位置指令の今回値を補償位置指令とし、該指令速度が該速度制限値を超えている場合に、前記位置指令の前回値を用いて、該指令速度が該速度制限値以下となるような補償位置指令を算出する補償手段と
を備え、
前記補償位置指令を前記マイナーループの入力情報として出力する制御装置。
【請求項2】
前記関数は、位置が前記アクチュエータの可動範囲の中心位置である原点の場合に、前記速度制限値が前記アクチュエータの出し得る最大速度またはそれ以下の値をとり、位置が最大値及び最小値をとる場合に、前記速度制限値がゼロをとり、かつ、位置が最小値よりも大きく最大値未満の範囲において、前記速度制限値が前記アクチュエータの出し得る最大速度以下の値をとる関数である請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記関数は、位置、速度、及び加速度が連続である請求項2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に係り、特に、速度飽和を含むシステムに適用されて好適な制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水中航走体等の姿勢制御には、目標姿勢と現在の姿勢との差分に対して比例積分微分制御を行うことで得られた舵角指令を舵へ与え、船体の姿勢を目標姿勢に追従させることが行われている。
図11に、一般的な従来の制御装置50のブロック線図を示す。図11に示すように、船体51の姿勢θpと目標指令θpとの差分がPID制御部52に入力され、舵角指令φが生成される。舵角指令φは、舵54を制御する舵制御系に与えられ、舵54の舵角が舵角指令φに追従するように制御される。このようにして、舵角指令φに基づいて舵角が変化することで、船体51の姿勢も変化し、船体51の姿勢θpが目標指令θpに近づくこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−282589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、目標姿勢に対する船体の応答性をより一層向上させることが要求されている。しかしながら、水中航走体等に設けられている舵は、舵角指令の急激な変化に追従することができないという速度飽和の要素を有している。このため、所定の振幅を超える領域或いは周波数が所定の周波数を超える領域の舵角指令が舵制御系に入力された場合には、実舵角がそのような指令に追従できず、速度飽和が生じてしまう。
速度飽和が生ずると、比較的大きな位相遅れが発生し、舵の応答性が極めて悪化する。これにより、例えば、船体が振動してしまい、制御系が不安定になるなどの問題があった。
更に、このような速度飽和が懸念される水中航走体等では、船体の制御系に設けられているPID制御部52の制御ゲインを上げることができず、動作領域が制限されてしまうため、一層の応答性の悪化を招いていた。
【0005】
従来は、このような速度飽和を解消する対策として、舵に与える舵角指令の範囲を速度飽和の発生しない周波数領域及び振幅領域に制限するという消極的な解決策しか取られていなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、速度飽和が生じていた動作範囲にまで制御領域を拡大するとともに、制御の安定及び追従性の向上を図ることのできる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、制御対象に対して操作量を与えるアクチュエータに速度飽和が生ずるシステムに適用され、前記制御対象を目標状態に一致させるための位置指令を生成するメインループと、前記位置指令に前記アクチュエータの操作量を追従させるためのマイナーループとを備える制御装置であって、前記メインループにおいて生成された前記位置指令が入力される速度飽和補償手段を備え、前記速度飽和補償手段は、位置に対する速度制限値を定義した関数を予め有し、該関数を用いて前記位置指令の前回値に対応する速度制限値を設定する速度制限値設定手段と、前記位置指令の前回値と前記メインループから入力された前記位置指令の今回値とから指令速度を算出する速度算出手段と、前記速度算出手段によって算出された前記指令速度が、前記速度制限値設定手段によって設定された前記速度制限値以下である場合に、前記位置指令の今回値を補償位置指令とし、該指令速度が該速度制限値を超えている場合に、前記位置指令の前回値を用いて、該指令速度が該速度制限値以下となるような補償位置指令を生成する補償手段と、前記補償位置指令を前記マイナーループの入力情報として出力する制御装置を提供する。
【0008】
上記制御装置によれば、メインループからの位置指令に応じて速度制限値が設定され、アクチュエータに出力される位置指令がこの速度制限値内に制限される。このように、位置に応じて速度制限を行うことにより、無理のない位置指令をアクチュエータの制御系であるマイナーループに与えることが可能となる。この結果、アクチュエータの位相遅れを低減することができ、例えば、メインループにおけるPID制御器の制御ゲインを上げることが可能となる。よって、制御対象の制御、すなわち、メインループにおける動作領域を拡大することができ、制御対象の応答性を向上させることができる。更に、本発明によれば、メインループからマイナーループへ位置指令が入力される信号入力ラインに、速度飽和補償手段を直列的に設けるので、構成が簡易であり、既存の回路に適用しやすいという利点が得られる。
【0009】
上記制御装置において、前記関数は、例えば、位置が前記アクチュエータの可動範囲の中心位置である原点の場合に、前記速度制限値が前記アクチュエータの出し得る最大速度またはそれ以下の値をとり、位置が最大値及び最小値をとる場合に、前記速度制限値がゼロをとり、かつ、位置が最小値よりも大きく最大値未満の範囲において、前記速度制限値が前記アクチュエータの出し得る最大速度以下の値をとる関数であることが好ましい。
更に、前記関数は、位置、速度、及び加速度が連続であることが好ましい。このような関数とすることで、位置指令を滑らかに推移させることができ、安定したアクチュエータの制御を行うことができる。すなわち、「機械に作用する力=加速度×質量」の関係からわかるように、位置、速度、加速度を連続にすることで、機械に対して円滑に力を作用させることができる。これにより、例えば、音の発生や機械への衝撃を抑制することができ、機械保護、騒音防止の観点から好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、速度飽和が生じていた動作範囲にまで制御領域を拡大するとともに、制御の安定及び追従性の向上を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置の制御ブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る速度飽和補償部の機能ブロック図である。
図3】舵角指令の速度について示した図である。
図4】本発明の一実施形態に係る速度制限値設定部が有する関数の位相面軌道を示した図である。
図5図11に示した従来の制御装置に、舵角指令を与えた場合の舵角指令と実舵角との関係を示した図である。
図6図11に示した従来の制御装置に、図5と同一の舵角指令を与えた場合の舵角指令速度と実舵角速度との関係を示した図である。
図7図1に示した制御装置において、図5と同一の舵角指令が速度飽和補償部に入力された場合の補償舵角指令と、実舵角と、舵角指令との関係を示した図である。
図8図1に示した制御装置において、図5と同一の舵角指令が速度飽和補償部に入力された場合の補償舵角指令と、実舵角と、舵角指令速度との関係を示した図である。
図9図1に示した制御装置に、ピッチ角指令を与えたときの船体の(a)ピッチ角、(b)舵角、(c)舵角速度の応答性を示した図である。
図10】本発明の一実施形態に係る速度制限値設定部が有する他の例の関数の位相面軌道を示した図である。
図11】従来の制御装置のブロック線図の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施形態に係る制御装置について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、制御対象に対して操作量を与えるアクチュエータに速度飽和が生ずるシステムに広く適用されるものである。アクチュエータの一例としては、舵、翼などが挙げられ、制御対象の一例としては、船舶、水中航走体、ロケット、航空機等が挙げられる。
以下、制御対象として水中航走体を、アクチュエータとして舵を想定した場合の実施形態について説明するが、本発明の制御装置は、この範囲に限定されるものではなく、上記のごとく、速度飽和が生ずるシステムに広く利用されるものである。
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る制御装置1について、図を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る制御装置1の制御ブロック図である。図1に示すように、制御装置1が適用される水中航走体は、舵10の舵角を変化させることにより船体2の姿勢を制御するものである。
【0014】
制御装置1は、船体2の姿勢θpを目標姿勢θpに一致させるための舵10への舵角指令ri[n]を生成するメインループ20と、メインループ20において生成された舵角指令ri[n]が入力され、補償制御指令ro[n]を出力する速度飽和補償部40と、速度飽和補償部40から出力された補償舵角指令ro[n]に舵10の実舵角を追従させるためのマイナーループ30とを主な構成として備えている。
【0015】
メインループ20は、船体2の姿勢θpをフィードバックするフィードバック部21と、この姿勢θpと目標姿勢θpとの差分を算出する差分演算部22と、差分演算部22の出力に対して比例積分微分制御を行い、舵10に対する舵角指令ri[n]を生成するPID制御部23とを主な構成として備えている。
【0016】
PID制御部23から出力される舵角指令ri[n]は、速度飽和補償部40において速度飽和によって船体2の位置制御が不安定にならないように補償され、補償後の舵角指令が補償舵角指令ro[n]として舵10の制御系であるマイナーループ30に入力される。なお、速度飽和補償部40の詳細については後述する。
マイナーループ30は、実舵角が補償舵角指令ro[n]に一致するように舵を制御する。具体的には、マイナーループ30は、舵10の実舵角をフィードバックするフィードバック部31と、補償舵角指令ro[n]と舵10の実舵角との差分を算出する差分演算部32とを備え、差分演算部32の出力が舵指令として舵10に与えられる。これにより、舵10の舵角が補償舵角指令ro[n]に追従するように制御される。
このようにして、補償舵角指令ro[n]に基づいて舵10の実舵角が変化することで、船体2の姿勢も変化し、船体2の姿勢θpが目標指令θpに近づくこととなる。
【0017】
図2は、速度飽和補償部40の機能ブロック図である。図2に示すように、速度飽和補償部40は、位置制限部41、速度制限値設定部42、速度算出部43、補償部44を主な構成として備えている。
【0018】
位置制限部41は、メインループ20から入力された舵角指令ri[n]を、舵10の角度最大値範囲内(−rlim≦ri[n]≦+rlim)に制限して出力するリミッタである。
速度制限値設定部42は、舵角(位置)に対する速度制限値を定義した関数Fx(r)を予め保有しており、この関数Fx(r)を用いて、舵角指令の前回値ro[n−1]に対応する速度制限値vmaxを取得する。ここで、舵角指令の前回値ro[n−1]とは、1サンプリング周期前の舵角指令である。また、関数Fx(r)については、後述する。
【0019】
速度算出部43は、位置制限部41から出力された舵角指令の今回値ri[n]と、舵角指令の前回値ro[n−1]とから舵角指令の速度を算出する。舵角指令の速度v[n]は、以下の(1)式で与えられる。
v[n]=(ri[n]−ro[n−1])/dt (1)
ここで、dtは、サンプリング周期である。
図3は、舵角指令の速度v[n]について示した図である。図3に示すように、舵角指令の速度v[n]は、横軸に時間、縦軸に舵角指令を示した座標空間において、点ri[n]とro[n−1]とを繋ぐ直線の傾きである。
【0020】
補償部44は、速度算出部43によって算出された舵角指令の速度v[n]が、速度制限値設定部42によって設定された速度制限値vmax以下である場合に、舵角指令の今回値ri[n]を補償位置指令ro[n]としてマイナーループ30に出力する。一方、速度算出部43によって算出された舵角指令の速度v[n]が、速度制限値設定部42によって設定された速度制限値vmaxを超えていた場合には、舵角指令の速度v[n]が速度制限値vmax以下となるような舵角指令を算出し、この舵角指令を補償舵角指令ro[n]として、マイナーループ30に出力する。例えば、補償部44は、以下の(2)式を用いて補償舵角指令ro[n]を算出する。
【0021】
ro[n]=ro[n−1]+sign(vmax)×vmax・dt (2)
【0022】
次に、上記速度制限値設定部42における、関数Fx(r)について説明する。
関数Fx(r)は、舵角(位置)rに対する速度制限値vmaxを定義した関数であり、例えば、舵角(位置)rが原点(舵の可動範囲の中心位置)をとる場合に、速度制限値vmaxが舵10の出し得る最大速度vlimをとり、舵角(位置)rが最大値+rlim及び最小値−rlimをとる場合に、速度制限値vmaxがゼロをとり、かつ、位置rが最小値よりも大きく最大値未満の範囲(−rlim<r<+rlim)において、速度制限値vmaxが舵10の出し得る最大速度vlim以下の値を取るような関数とされている。
ここで、関数Fx(r)は、舵角(位置)、速度、及び加速度が連続であることが好ましい。
【0023】
以下の(3)式に関数Fx(r)の一例を、図4に、以下の(3)式で表わされる関数Fx(r)の位相面軌道(phase plane trajectory)を示す。
【0024】
【数1】
【0025】
上記(3)式で表わされる関数Fx(r)は、舵10の取り得る角度最大値rlim及び舵の取り得る最大速度vlimに対して、正弦波を描く自由振動の関係式である以下の(4)式を変形したものである。
【0026】
【数2】
【0027】
このように、本実施形態においては、上記(3)式で示される関数Fx(r)のrに、舵角指令ro[n−1]を代入したときの速度制限値vmaxを取得し、この速度制限値vmaxを超えないように、舵角指令の速度を制限することで、船体の姿勢制御の安定化を図っている。
【0028】
次に、本実施形態に係る制御装置1の動作内容について説明する。
まず、船体の位置がフィードバックされ、船体の姿勢θpと目標姿勢θpとの差分が差分演算部22により算出され、PID制御部23において、この差分に対して比例積分微分制御が行われることで、舵10に対する舵角指令ri[n]が生成される。この舵角指令ri[n]は、速度飽和補償部40に出力される。
【0029】
速度飽和補償部40の位置制限部41において、舵角指令ri[n]は、舵10の角度最大値範囲内(−rlim≦ri[n]≦+rlim)に制限された後、速度制限値設定部42に出力される。
速度制限値設定部42では、舵角指令に対する速度制限値を定義した関数Fx(r)を用いて舵角指令の前回値ro[n−1]に対する速度制限値が設定される。具体的には、上述の(3)式において、位置rに舵角指令の前回値ro[n−1]を代入することにより、速度制限値vmaxを取得し、この速度制限値vmaxを補償部44に出力する。
一方、速度算出部43では、上記(1)式を用いて、位置制限部41から出力された舵角指令の今回値ri[n]と、舵角指令の前回値ro[n−1]とから舵角指令の速度が算出され、舵角指令の速度が補償部44に出力される。
【0030】
補償部44では、速度算出部43によって算出された舵角指令の速度v[n]が、速度制限値設定部42によって設定された速度制限値vmax以下である場合に、舵角指令の今回値ri[n]が補償位置指令ro[n]としてマイナーループ30に出力される。
一方、速度算出部43によって算出された舵角指令の速度v[n]が、速度制限値設定部42によって設定された速度制限値vmaxを超えていた場合には、舵角指令の速度v[n]が速度制限値vmax以下となるような舵角指令が、上記(2)式を用いて算出され、この舵角指令が補償舵角指令ro[n]として、マイナーループ30に出力される。
【0031】
マイナーループ30では、補償舵角指令ro[n]と実舵角との差分が差分演算部32によって算出され、この差分が舵指令として舵10に与えられる。これにより、舵10の舵角が補償舵角指令ro[n]に追従するように制御される。このようにして、補償舵角指令ro[n]に基づいて舵角が変化することで、船体2の姿勢も変化し、船体2の姿勢θpが目標指令θpに近づくこととなる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る制御装置1によれば、速度飽和補償部40において、舵角指令(位置指令)に応じて速度制限値を設定し、舵角指令の速度がこの速度制限値以下となるような補償舵角指令が設定される。これにより、無理のない舵角指令を舵10に与えることができ、位相遅れを抑制することが可能となる。
また、制御装置1において、速度飽和補償部40は、メインループ20からマイナーループ30へ舵角指令が入力される信号入力ラインに直列的に設けられるので、構成が簡易であり、既存の回路に適用しやすいという利点が得られる。
【0033】
図5は、図11に示した従来の制御装置50に、舵角指令を与えた場合の舵角指令と実舵角との関係を示した図である。図6は、図11に示した従来の制御装置50に、図5と同一の舵角指令を与えた場合の舵角指令速度と実舵角速度との関係を示した図である。また、図7は、図1に示した本実施形態に係る制御装置1において、図5と同一の舵角指令が速度飽和補償部40に入力された場合の補償舵角指令と、実舵角と、舵角指令との関係を示した図である。図8は、図1に示した本実施形態に係る制御装置1において、図5と同一の舵角指令が速度飽和補償部40に入力された場合の補償舵角指令と、実舵角と、舵角指令速度との関係を示した図である。
【0034】
図5図6に示すように、従来の制御装置50では、舵角指令、舵角指令速度に対する応答に約半周期の遅延が生じており、追従性が極めて悪いことがわかる。これに対し、図7及び図8に示すように、本実施形態に係る制御装置1によれば、舵角指令、舵角指令速度に対する応答にほとんど遅延が見られず、また、舵角の応答性に関しては、舵角指令に沿って略同じ動きをしていることがわかる。このように、本実施形態に係る制御装置1によれば、従来に比べて高い応答性を実現できる。
【0035】
更に、図9は、図1に示した本実施形態に係る制御装置1に、ピッチ角指令を与えたときの船体のピッチ角(図9(a)参照)、舵角(図9(b)参照)、舵角速度(図9(c)参照)の応答性を示した図である。
図9に示すように、図1に示した本実施形態に係る制御装置1によれば、舵角及び舵角速度が、補償舵角指令及び補償舵角指令速度に速やかに追従しているため、船体2のピッチ角も指令に対して優れた追従性を示している。特に、図9(c)に示すように、舵角指令速度の変動が非常に大きい場合であっても、補償舵角指令速度は所定の範囲内に制限されていることから、実舵角速度が補償舵角指令に速やかに追従できていることがわかる。
このように、本実施形態に係る制御装置1によれば、従来よりも舵角及び舵角速度の追従性を向上させることができ、これにより、船体の姿勢制御の追従性を向上させることができる。
【0036】
なお、本実施形態において、関数Fx(r)は、図3に示すような円形状の位相面軌道を描く関数を用いて速度制限値vmaxを設定することとしたが、関数Fx(r)は、この例に限定されない。例えば、上記(4)式において、2乗を3乗、4乗等にした関数を用いることとしてもよい。また、図10に示すような形状の位相面軌道を描く関数を用いても良い。図10に示すような形状の位相面軌道を描く関数を用いて速度制限値vmaxを設定することにより、−r≦r≦+rの範囲で、速度制限値vmaxを舵10の取り得る最大速度vlimに設定することができる。これにより、図4に示した円形状の位相面軌道を描く関数に比べて、舵10の最大速度vlimで動く位置範囲を広くすることができる。
このように、関数Fx(r)は、舵角(位置)rが原点、換言すると、舵10の可動範囲の中心位置において、速度制限値vmaxが舵10の出し得る最大速度vlimまたはそれ以下の値をとり、舵角(位置)rが最大値+rlim及び最小値−rlimの場合に、速度制限値vmaxがゼロをとり、かつ、位置rが最小値よりも大きく最大値未満の範囲(−rlim<r<+rlim)において、速度制限値vmaxが舵角10の出し得る最大速度vlim以下の値を取るような関数とされていればよく、この条件を満たす範囲で設計者が自由に関数を設定することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 制御装置
2 船体
10 舵
20 メインループ
21、31 フィードバック部
22、32 差分演算部
23 PID制御部
30 マイナーループ
40 速度飽和補償部
41 位置制限部
42 速度制限値設定部
43 速度算出部
44 補償部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11