【実施例】
【0096】
実施例1:移植した筋芽細胞生存および筋形成を増強するための足場の設計
筋芽細胞移植は現在、細胞の生存不良と宿主筋系への細胞の組み込み不良のために限定的である。細胞の生存率を増強して損傷した筋に定着するようにその外向きの遊走を誘導する移植系は、筋再生に対するこのアプローチの成功を増強する。初代培養筋芽細胞の濃縮集団を、アルギネートで形成された送達媒体に播種して、細胞の生存および遊走における媒体の設計および局所増殖因子送達の役割を調べた。ナノ孔アルギネートゲルに播種した細胞の5+/-2.5%のみが24時間生存し、ゲルから遊走した細胞は4+/-0.5%に過ぎなかった。ゲル化の前に細胞接着ペプチド(たとえば、G
4RGDSP)をアルギネートにカップリングさせると、足場内の細胞の生存率はわずかに増加して16+/-1.4%となり、外向きの遊走は6+/-1%となった。しかし、材料からのHGFおよびFGF2の持続的な送達と共にマクロ孔足場を生じるようにペプチド改変アルギネートゲルを加工すると、播種された細胞の生存率は5日間のあいだに劇的に増加して、外向きの遊走は110+/-12%となった。これらのデータは、ポリマー送達媒体内に留置された筋芽細胞の長期生存および遊走が、適当な足場組成物、構造、および増殖因子送達によって大きく増加することを示している。この系は筋組織の再生において特に有用であり、他の組織の再生において広く有用である。
【0097】
足場材料におけるまたはその上に生物活性組成物が存在することにより、同時に周辺の宿主筋線維に定着するように細胞の外向きの遊走を助長しながら、長期間にわたって細胞の生存率が維持される。衛星細胞と、筋再生に関与するように内因性の細胞にシグナルを送る誘導分子とを同時送達する生体分解性のポリマーマトリクスは、このアプローチにおいて特に有用である。細胞接着リガンドをマトリクス、材料孔構造、および材料からの増殖因子送達にカップリングさせる役割をインビトロで調べた。海草に由来する親水性の生物学的適合性の多糖類であるアルギネートは、細胞接着ペプチドによる共有結合改変を可能にするカルボン酸官能基を有し、組織発達を誘導するシグナルの制御された提示を可能にする。さらに、ゲルを形成するために用いられるポリマーの分子量分布を制御することによって、ゲル分解を調節してアルギネート封入細胞の生存率を増加させることができる。併せて考慮すると、これらの特性により、アルギネートハイドロゲルはこれらの試験にとって有用なモデル材料となる。最後に、初代培養筋芽細胞のほかに、特徴的な筋タンパク質を産生する筋芽細胞株(C2C12細胞)を、筋原性タンパク質の発現分析のためのモデル系として用いた。
【0098】
以下の材料および方法を用いて本明細書に記述のデータを生成した。
【0099】
アルギネート改変
低分子量(Mw=5.3×10
4 g/mol、LMWと省略する)改変アルギネートは、極めて純粋なMVGアルギネート粉末(Pronova, Oslo Norway)をコバルト-60線源によってγ線量5.0 Mrad(Phoenix Lab, University of Michigan, Ann Arbor, USA)で照射することによって産生した。極めて純粋な等級の高分子量(MVG, Pronova, Mw=2.7×10
5 g/mol)アルギネートも同様に足場を製作するために用いた。いずれのアルギネートも、当技術分野において公知のカルボジイミド化学(たとえば、Rowley, Madlambayan et al. 1999 Bio. Mat. Res. 60:217-233;Rowley J.2002 Bio. Mat. Res.20:45-53)を用いて、アルギネートモノマーの平均密度3.4 mMペプチド/moleでG
4RGDSP配列(Commonwealth Biotechnology Inc.)を有する共有結合オリゴペプチドによって改変した。2%照射アルギネート溶液を凍結して完全に乾燥するまで凍結乾燥した。凍結乾燥アルギネートをMES緩衝液(Sigma)に加えて1%w/v溶液を生じ、溶解したアルギネートにEDC、スルホ-NHSおよびRGDSPペプチドを加えて20時間反応させた。ヒドロキシルアミンによって反応を停止させて、溶液をNaClの減少濃度(7.5%、6.25%、5%、3.75%、2.5%、1.25%、および0%)によって3日間透析した。活性炭を加えることによって溶液を精製した後濾過滅菌した。濾過滅菌したアルギネートを凍結して凍結乾燥し、-20℃で保存した。最後に、改変アルギネートをカルシウムを含まないDMEM(Invitrogen)に溶解してゲル化の前に2%w/v溶液(50%LMW;全ての実験において用いた50%MVG)を得た。溶解したアルギネートを4℃で保存した。
【0100】
足場の製作
3つの物理的形状の足場を調製した:ナノ孔、ミクロ孔、およびマクロ孔。ナノ孔アルギネート足場を製作するために、筋芽細胞(10
6細胞/ml)を含有する非改変またはペプチド改変アルギネート5 mlを、CaSO
4(CaSO
4 0.41g/ml ddH
2O)(Aldrich)200μlを加えることによってクロスリンクして、得られた溶液をポリビニルスルホキサン(PVS)(Kerr)で構築された鋳型(2×2×5 mm)に絞り出した。アルギネートを完全にゲル化させて、高グルコースDMEM中で37℃にした。ミクロ孔(10〜20μm孔)足場を形成するために、細胞の非存在下でアルギネートをゲル化させた後、-120℃で凍結した。凍結した足場を凍結乾燥して細胞を播種するまで-4℃で保存した。マクロ孔アルギネート足場(直径400〜500μmの整列した孔)を製作するために、アルギネート/硫酸カルシウム溶液を、ワイヤポロジェン(RMO歯科矯正ワイヤ、PO Box 17085, Denver CO)を含有するPVS鋳型に押し出した。アルギネートを含有する鋳型の上に滅菌ガラスプレートを載せて、30分間放置した。アルギネートが完全にゲル化した後(30分)、ワイヤポロジェンを含有するアルギネートを-70℃で凍結した。凍結したアルギネートゲルを終夜凍結乾燥して、ワイヤポロジェンを注意深く除去して、細胞を播種するまで、乾燥した鋳型を-20℃で保存した。
【0101】
筋芽細胞培養
筋芽細胞は4週齢C57BL/6マウス後肢の骨格筋系に由来した。無菌的条件で後肢の脛骨筋を外科的に切除して、細切し、0.02%トリプシン(GIBCO)および2%4型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical, Lakewood, NJ.)において、オービタルシェーカーにおいて撹拌しながら37℃/5%CO
2で60分間解離させた。解離させた細胞を70μmのふるいを通して濾し、1600 rpmで5分間遠心して、ピルビン酸塩(GIBCO)を加えた高グルコースDMEMに浮遊させた。培地にはさらに、10%ウシ胎児血清(FBS)、および10%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)(GIBCO)を添加して、この培地を全ての細胞培養試験において用いた。細胞を播種して37℃/5%CO
2で72時間培養した後培地を交換した。培養72時間後、細胞が80%コンフルエントとなるまで(約7日)培地を48時間毎に交換した。遠心によって細胞を回収して、15 ml FalconチューブにおいてPercoll勾配(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)に重層した。勾配は、PBS(GIBCO)において希釈した20%Percoll 3 ml、DMEM(Invitrogen)において希釈した30%Percoll 3 ml、およびHam's F-12(GIBCO)において希釈した35%Percoll 3 mlからなった。細胞を直ちに25℃で1600 rpmで20分間遠心した。30%分画からの細胞を回収して高グルコースDMEMに浮遊させた。
【0102】
免疫組織化学
筋原性タンパク質の発現に関して筋芽細胞培養物の特徴を調べるために、Percoll精製一次筋芽細胞を滅菌カバーガラスに終夜載せて、0.2%パラホルムアルデヒドによって20分間固定した。カバーガラスを、0.5%Triton-X(PBS-X)を含むリン酸緩衝生理食塩液によってすすいで、ヘキスト核色素(1:1000)においてインキュベートした。カバーガラスはまた、抗デスミン(1/100)モノクローナル抗体(Chemicon, Temecula CA)においてインキュベートした後、免疫蛍光二次抗体(1:1000)(FITC, Jackson Labs, West Grove, PA.)と共にインキュベートした。二次抗体の結合後、カバーガラスを封入水性培地と共にスライドガラスに載せて透明なネイルポリッシュによって密封した。スライドガラスを通常の蛍光光学顕微鏡(Nikon Eclipse E-800, Tokyo, Japan)によって観察するか、または後に分析するために完全な暗所で保存した。画像は、NIHイメージングソフトウェア(National Institutes of Health, Bethesda, MD)、スポットデジタルカメラおよびアドビフォトショップを利用して獲得した。
【0103】
ウェスタンブロット
初代培養筋芽細胞を含有する改変アルギネート足場を細切することによって総細胞質タンパク質を回収して、得られた溶液を1.5 ml Eppendorfチューブに入れた。受動溶解緩衝液(Promega, Madison WI)50μlを細切した足場に直接加えて37℃で10分間インキュベートした。各試料におけるタンパク質の量は、200μmタンパク質アッセイ試薬(BioRad)において試料1μmを希釈することによって定量して吸光度を595 nmで測定した(Sunrise spectrometer)。
【0104】
試料は全て標準的なSDS pageプロトコールを用いて変性させ、総タンパク質25μg/ウェルを8%トリスグリシンポリアクリルアミドゲル(Ready Gels, BioRad)にローディングして、100ボルトで120分間電気泳動を行った(Laemmli, 1970)。電気泳動後、BioRadミニブロットを利用してタンパク質をPDVFメンブレン(BioRad)に100ボルトで1時間転写した。PDVFメンブレンを0.1%Tween-20(TBS-T)を有するトリス緩衝生理食塩液において1%ウシ血清アルブミン(BSA)においてブロックした。ブロック後、PDVFメンブレンを、デスミン(1/100)、ミオゲニン(1/100)、またはMyoD(1/100)(Santa Cruz Biotechnologies, CA)に関する適当な一次モノクローナル抗体と共に室温で1時間インキュベートした。次に、メンブレンをTBS-T(15分×2)において30分間すすいで、TBS-Tにおいて1:1000希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ共役ヤギ抗マウス二次抗体(BioRad)において1時間インキュベートした。メンブレンをTBS-Tにおいて30分間(15分間×2)すすぎ、タンパク質を化学発光検出キット(ECL、Amersham)によって検出して、Hyperfilm ECL(Amersham)に露出することによって可視化した。
【0105】
増殖因子の取り込みと放出速度論
改変バイナリアルギネート足場に組み入れられたHGFの放出速度論を決定するために、定量的サンドイッチ酵素イムノアッセイ技術(ELISA)を用いた。組換え型HGFタンパク質(Santa Cruz Biotechnologies, CA)をアルギネート溶液(500 ng/ml)にゲル化前に組み入れて、ゲルを既に記述したようにキャストした。ゲルが完全に重合化した後、それらを5 mm四方に切断して24ウェルプレートに入れてPBS 1 mlを各ウェルに加えた。様々な時点でPBSを採取して4℃で保存して、新しいPBSを足場に加えた。PBS試料を定量的ELISA(Quantikine)によって総HGF含有量に関して測定し、結果を最初に取り込まれたHGFと比較した。FGF2の取り込み効率および放出速度論を決定するために、
125I-ボルトンハンター(PerkinElmer Life Sciences, Boston, MA)標識FGF2 5μciをゲル化前のアルギネート溶液2.5 mlに組み入れた。ゲル化後、ゲルを四角に切断した(2×10×10 mm)。標識FGF2約1μciをそれぞれの足場に組み入れた。アルギネート足場をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)3 mlを含有する異なるポリプロピレンチューブに入れて37℃でインキュベートした。様々な時点において、PBSをチューブから採取して、新鮮なPBSを足場に加えた。足場からのFGF2の放出は、足場から採取したPBS中に存在する放射活性をγカウンター(Beckman)によって計数して、試料に組み入れられた初回総
125I FGF2の結果と比較することによって決定した。
【0106】
遊走および生存率
アルギネート足場に播種した初代培養筋芽細胞の生存率を決定するため、および足場からの遊走能を測定するために、精製初代培養筋芽細胞を、24ウェルプレートにおいて三次元アルギネート足場(2×10
6細胞/ml)に播種した。培地における細胞の溶液(50μl)をピペットによって各凍結乾燥足場に加えた;培地は急速に吸収された。次に、アルギネート足場からの筋芽細胞に関して得られた生存率および遊走を、HGFおよびFGF2(250 ng/足場)の双方の取り込みと共に、様々な時点で足場を培養において維持することによって測定した。足場内での細胞の生存率を分析するために、足場を細切して、トリプシン50μlおよび5 mM EDTA 50μlによって5分間処置した。溶解したアルギネートおよび浮遊細胞20μlを4%トリパンブルー溶液(Sigma)20μlに加えた。生存細胞の百分率を、標準的な顕微鏡条件(Nikon Eclipse E800, 20X)下で血球計算盤において観察して、トリパンブルー排除(死細胞はその核からトリパンブルーを排除できないことにより青く見える)により決定した。足場からの筋芽細胞の遊走を測定するために、足場を新しい24ウェルプレートに様々な時点で入れて、先の24時間のあいだに24ウェルプレートに定着した細胞をトリプシン処理によって採取して、コールターカウンター(Beckman Corp.)において計数した。足場から遊走した細胞の総数を、アルギネート鋳型に最初に播種した細胞の総数に対して標準化した。
【0107】
SEM足場の特徴分析
アルギネート鋳型における孔の大きさおよび方向を、走査型電子顕微鏡(ISI-DS 130, Topcon Techn. CA)を利用して画像化した。試料は全て乾燥させて、分析前にスパッタコーティング(Desk II, Denton Vacum; NJ)した。
【0108】
マウス後肢から単離した筋芽細胞の特徴分析
骨格筋から単離した初代培養細胞をカバーガラスに載せて、ヘキスト核特異的染色液による染色、およびデスミンに関する免疫組織化学染色によって分析した。無作為な顕微鏡視野の光学顕微鏡による分析により、初回単離によって不均一な細胞集団が得られ、その75%がデスミンを発現した(
図1A)。細胞培養物を筋原細胞に関して濃縮するために、初回初代培養細胞単離物を7日間培養において拡大して、その後Percoll密度勾配分画によって精製した。得られた培養物は、95%デスミン陽性集団からなった(
図1B)。
【0109】
ペプチド改変の役割
筋芽細胞が、細胞接着ペプチドを有しない足場内で生存して留まっている、または足場から遊走できるか否かを、以下の3つの条件下で足場に筋芽細胞を播種することによって試験した:ナノ孔アルギネート足場、HGFを放出するナノ孔足場、およびHGFを放出するミクロ孔足場。組み入れられたHGFの約1/3が最初の10時間に放出されて、その後の期間に持続的な放出が観察された(
図2a)。最初の24時間のあいだに生存率を維持した細胞の百分率は全ての条件において10%未満であった(
図2B)。96時間までに、HGFを放出するミクロ孔足場において生存細胞の小さい割合を測定できたに過ぎなかった。細胞の喪失と一致して、足場からの筋芽細胞の遊走は最小であった(
図2C)。最初の24時間において、これらの任意の条件において足場から遊走したのは、取り込まれた細胞全体の5%未満であった。これはミクロ孔足場において2日目までにわずかに増加したが、いかなる条件においてもさらに改善することはできなかった。
【0110】
足場の製作前の、接着オリゴペプチドによるアルギネートの共有結合改変は、細胞の生存率を改善すると共にその外向きの遊走を改善した(
図3A〜B)。ナノ孔ペプチド改変足場に播種した筋芽細胞は、類似の非ペプチド改変足場における細胞と比較して、24時間で細胞生存率の2倍の増加を示した。HGF放出は生存率をさらに40%まで増加させ、HGF放出を伴うペプチド改変ミクロ孔足場に播種した細胞は類似の生存率を示した(
図3A)。しかし、生存率は全ての条件で経時的に減少した。同様に、累積遊走はHGF放出およびミクロ孔性と協調してペプチド改変によって増強された。ペプチド改変ナノ孔足場によって、播種した細胞の約20%が足場から遊走した(
図3B)。HGFの自然放出およびミクロ孔との併用によって、非ペプチド改変ナノ孔足場と比較して、細胞の遊走は約4倍増加した(
図3B)。それらの条件において、播種した細胞の40%が足場から遊走して、宿主筋線維と融合するために利用可能であった。
【0111】
マクロ孔アルギネートおよびFGF2放出
次に、整列した孔チャンネルの作製(マクロ孔足場;
図4A)およびFGF2放出(
図4B)の筋芽細胞生存率および外向きの遊走に及ぼす効果を調べた。マクロ孔の作製は、類似のミクロまたはナノ孔足場と比較して筋芽細胞の生存率および遊走を有意に増強した(
図5A〜B)。この状況で生存細胞の割合は24時間で63%であり、増強された生存率は実験の96時間を通して維持された(
図5A)。さらに、HGFとFGF2の放出は共に、最高レベルの外向きの遊走を引き起こした(
図5B)。
【0112】
細胞溶解物のウェスタンブロット分析を行って、これらの足場内のまたはこれらの足場から遊走した細胞の分化状態を決定した。HGFおよびFGF2を放出する足場内に存在するまたは足場から遊走した細胞は、高レベルのMyoDを発現した(
図6)。ペプチド改変またはHGF/FGF2を伴わない足場に存在する細胞は、有意なレベルのMyoDを発現しなかった。対照的に、いかなる足場における細胞も足場から遊走した細胞も、筋原細胞の最終段階分化に関連する転写因子であるミオゲニンを発現しなかった(
図6)。
【0113】
筋細胞生存と標的組織への遊走の増強
筋芽細胞の生存率および移植された足場からの遊走能は、足場材料、孔構造、および材料からの増殖因子の放出に関連した接着リガンドの存在によって強く調節されることが見いだされた。
【0114】
細胞接着リガンドを欠損する足場に筋芽細胞を組み入れると、生存率の急速かつ重度の喪失が起こり、細胞の遊走は最小であった。しかし、アルギネートをG
4RGDSPペプチドによって改変すると、細胞の生存率および遊走は増加した。
【0115】
細胞接着ペプチドによって改変したアルギネートは、細胞をポリマーに接着させて、増殖させ、筋芽細胞の場合には筋線維に融合させる。フィブロネクチンにおいて見いだされるモチーフ(たとえば、RGD)を提示するペプチドは、フィブロネクチンに対する筋芽細胞の接着が筋形成の初期増殖相に関連することから、骨格筋工学に特に関連している。RGDペプチドは足場からの筋芽細胞の遊走のためのシグナルを提供した;しかしRGDシグナルと組み合わせた足場のさらなる特色により、より強い遊走が起こった。足場におけるマクロ孔の整列によって、後の時点でより高い細胞生存が起こり、最も重要なことに、足場からの細胞の非常に効率的な遊走が起こった。マクロ孔性は、細胞の遊走にとって重要であり、平滑筋細胞は、より大きい孔を有する足場において最も都合よく生育することが証明されている
【0116】
公知の増殖因子、たとえば筋芽細胞の場合にはHGFおよびFGFを組み込むことにより、足場の化学および構築の全ての変化体における播種された筋芽細胞の生存率および遊走が有意に増加した。FGFは、筋原細胞に対して効果を有することが示された最初の増殖因子であり、筋原細胞に及ぼすFGF2の効果は、HGFを加えることによって増強される。さらに、筋挫滅損傷における筋原細胞の修復は、FGF2抗体を注射することによって妨害された。これらのデータは、FGF2に関する重要な生理的役割、および骨格筋再生におけるFGF2とHGFシグナル伝達の併用に関する役割を示している。しかし、FGF2を損傷後に骨格筋に注射しても筋修復を増強せず、この因子を適切な状況で用いることの重要性を示唆している。特に、骨格筋を再生させるための現在のアプローチにおいて、筋原細胞はその正常な分化傾向を迂回して、組織を再生させるために十分数の細胞が達成されるまで増殖相に留まるように指示されなければならず、細胞はまた足場から遊走した。FGF2は、HGFの遊走誘発効果が後者の機能を提供しているあいだ、移植された細胞の未成熟な分化を防止するために特に有用である。
【0117】
これらの結果は、移植された細胞のための足場が、細胞生存率を維持して媒体からの遊走を促進するための任意の表現型のために、最適化されて設計されうることを示している。足場の構成、生存率を維持して遊走させる接着リガンド、および表現型を調節する増殖因子の適当な組み合わせは、移植された細胞の運命に対する複雑な制御を得るために併用して用いられる。
【0118】
筋再生のための移植細胞の活性化
マクロ孔アルギネート足場は、筋裂傷部位での移植された筋前駆細胞(衛星細胞)のための微小環境として役立つように設計された。衛星細胞の活性化および遊走を促進するが衛星細胞の最終分化を促進しない因子(肝細胞増殖因子および線維芽細胞増殖因子2)を放出することによって、損傷した宿主組織の再生に関与するために有能な細胞が、筋線維再生のための前駆細胞のプールを維持するためのニッシェとしての足場を用いて持続的に有効に放出される。
【0119】
前脛骨筋が筋中心線で完全に裂傷したC57B1/6Jマウスを用いて、インビボ試験を行った。裂傷後、筋末端を非吸収性の縫合糸を用いて縫合して、増殖因子の組み合わせを含有する足場および細胞を損傷の上部に留置した。筋再生を30日目にアッセイした。
【0120】
外植された組織は、筋肉量および欠損領域の減少によって定量すると、細胞と双方の増殖因子を含有する足場によって処置した場合に、最大の新しい組織形成領域を示す。
【0121】
再生筋線維の形態学的分析から、他の全ての試料タイプと比較して、増殖因子および細胞を含有する足場によって処置した動物において、線維直径の増加および中心に位置する核の数の増加が示された。
【0122】
β-ガラクトシダーゼ遺伝子を含有するトランスジェニックRosa 26マウスに由来する筋芽細胞移植により、再生しつつある宿主組織への移植細胞の取り込みが観察された。増殖因子を含有する足場に細胞を移植すると、足場または増殖因子を伴わずに細胞を注入した場合と比較して再生線維への移植細胞の接合が増加する。
【0123】
実施例2:ニッシェ足場は移植細胞を用いて筋再生を促進する
生存率を維持して、最終分化を防止し、外向きの遊走を促進する合成ニッシェ内に筋芽細胞を移植すると、損傷した宿主筋のその再定着および再生を増強する。筋芽細胞を培養において拡大して、筋肉への直接注入、筋芽細胞活性化および遊走を誘発する因子(HGFおよびFGF)を放出するマクロ孔送達媒体上での移植、または因子放出を欠損する材料上での移植によって、マウスの前脛骨筋裂傷部位に送達する。対照には、ブランク足場、および細胞を含まないが因子を放出する足場の埋め込みが含まれた。足場の非存在下で細胞を注入すると、損傷した筋の限られた再定着が示され、筋再生の改善はわずかであった。遊走を促進しない足場に細胞を送達しても、筋再生の改善が起こらなかった。顕著なことに、筋芽細胞の活性化および遊走を促進する足場に細胞を送達すると、宿主筋組織の広範な再定着が起こり、筋線維の再生が増加して、損傷した筋肉の質量は全体的により大きくなった。細胞移植のためのこの戦略は、移植細胞からの筋再生を有意に増強して、様々な組織および臓器系に対して広く適用可能である。
【0124】
本明細書において記述された足場は、足場周辺の組織形成を誘導することを意図していないが、対照的に、周辺の宿主損傷組織に再定着してその再生を増強するように、その外向きの遊走を同時に助長して指示しながら、通行する細胞の生存率を維持することが意図される。足場は、娘細胞を遊走させて、ニッシェから離れて特殊な機能を達成させながら、幹細胞集団の能力を維持する、ニッシェと呼ばれる特殊な組織微小環境と類似の機能を提供する。宿主組織再定着を首尾よく促進して、同時に前駆細胞の未成熟な最終分化を防止するための足場の物理的および化学的局面。
【0125】
足場は、移植された筋芽細胞からの損傷筋の再定着を増強するために、筋芽細胞の生存、遊走を促進して、最終分化を防止するように設計された。先に記述したように、RGD-提示アルギネートポリマーから製作されたマクロ孔足場からのHGFおよびFGF2放出は、インビトロで足場において培養された衛星細胞の生存率を有意に増強して、HGFおよびFGF2は足場における最終分化を防止しながら播種した細胞の外向きの遊走を相加的に促進するように働く。インビトロ筋裂傷モデルはアスリートおよび外傷における一般的な損傷を反復するために用いた。このモデルはヒト損傷の正確かつ信頼できるモデルである。いくつかの他のマウス試験は、ヒトの損傷または疾患に対するモデルの関連性が間接的である(放射線照射、心毒素の注入、または低温損傷)ために、部分的に批判されている。さらに、筋再生におけるドナー対宿主筋芽細胞の関与を決定するために、ドナー筋芽細胞をRosa 26マウスから得て、β-ガラクトシダーゼの過剰発現によって同定した。
【0126】
足場の調製
低分子量アルギネート(Mw=5.3×10
4 g/mol)を産生するために、超純粋MVGアルギネート粉末(Pronova, Oslo Norway)にコバルト-60線源を5.0 Mradのγ線量で4時間照射した(Phoenix Lab, University of Michigan, Ann Arbor, USA)。アルギネートを、G
4RGDSP配列(Commonwealth Biotechnology Inc.)を有する共有結合で共役したオリゴペプチドによって、平均密度3.4 mMペプチド/モルアルギネートモノマーで、カルボジイミド化学を用いてさらに改変した。高分子量超純粋アルギネート(MVG、Pronova, Mw=2.7×10
5 g/mol)も同様にこのオリゴペプチドによって共有結合で改変された。
【0127】
非常に多孔性であるアルギネート足場を製作するために、鋳型(2 mm×5 mm×5 mm)をポリビニルスルホキサン(PVS)(Kerr)から構築した。長さ10 mmに切断したサイズ14のステンレススチール歯科矯正直線ワイヤからポロジェンを構築した。歯科矯正ワイヤを500μm離した平行な2組の列で配置して、滅菌して足場鋳型に入れた。放射線照射した低分子量(1%w/v)および非照射高分子量改変アルギネート(1%w/v)の等濃度を含有する溶液を、カルシウムを含まないDMEM(Invitrogen)において調製した。HGF(Santa Cruz Biotechnologies, CA.)およびFGF2(B&D)をアルギネート溶液に加えた(最終濃度100 ng/ml)。硫酸カルシウムスラリー(CaSO
4 0.41 g/ml ddH
2O)(Aldrich)をCaSO
4 40μl/アルギネート1 mlの比率で加えて、激しく混合した。得られた溶液を、ワイヤポロジェンを含有するPVS鋳型に直ちに絞り出した。滅菌ガラスプレートを鋳型の上に載せて、アルギネートが完全にゲル化した後(30分)、ワイヤポロジェンを含有するゲルをPVSから注意深く持ち上げて、100 cm
3ペトリ皿に入れた。開いた互いに接続した孔を有するマクロ孔足場を産生するために、ゲルを-70℃まで冷却して、ワイヤポロジェンを注意深く除去して、ゲルを凍結乾燥して、必要となるまで-20℃で保存した。
【0128】
細胞培養および播種
4ヶ月齢のB6.129S7-Gt(ROSA)26Sor/J(Jackson Laboratory, Bar Harbor ME)を屠殺して、衛星細胞を後肢から単離した。後肢の骨格筋系を外科的に切除して、細切し、0.02%トリプシン(GIBCO)および2%4型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical, Lakewood, NJ)においてオービタルシェーカーにおいて撹拌しながら37℃/5%CO
2において60分間解離した。解離した筋肉を70μmふるいにおいて濾し、1600 rpmで5分間遠心し、ピルビン酸塩(GIBCO)を添加した高グルコースDMEM 10 mlに浮遊させた。培地に10%ウシ胎児血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)を添加した。浮遊させた細胞を75 cm
3組織培養フラスコ(Fisher)に播種して、HGF(50 ng/ml)およびFGF2(50 ng/ml)を培地に加えた。7日後、培養物を継代して精製衛星細胞浮遊液をpercoll分画によって得た。精製培養物を80%コンフルエントになるまで37℃で7日間インキュベートした後、トリプシン処理によって回収して、改変した開口孔アルギネート足場に10
7細胞/mlで播種した。
【0129】
外科技法および分析
4週齢のC57BL/6マウスを、ケタミン(0.5 ml/kg)およびキシラジン(0.25 ml/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。両側の切開を作製して、双方の後肢の前脛骨筋を露出した。露出した後、筋を中等度の長さの腹側-背側で完全に裂傷を作製した。裂傷を作製した筋の近位末端を#4黒色の絹の連続縫合を用いて閉鎖して、足場を創傷部に載せるか、または筋芽細胞を筋肉に注射した。筋芽細胞移植を利用した全ての条件において、全体で5×10
5細胞を送達した。手術部位を#4黒色絹の断続縫合によって閉鎖して、10または30日目に筋を回収するまで手術部位を放置した。
【0130】
前脛骨筋を切除して、4%パラホルムアルデヒドにおいて2時間固定し、PBSにおいて1時間すすいだ。筋全体を、25μl/ml Xgal保存液を含有するβ-ガラクトシダーゼ染色液において終夜インキュベートした。筋をパラフィン抱埋して専属切片(厚さ5μm)に切断して、組織学分析のためにスライドガラスに載せた。切片を漸減濃度のEtOHによって脱パラフィン化してH
2Oによって再水和して、いかなる内因性のペルオキシダーゼ活性も消失させるために3%H
2O
2(Sigma)において5分間洗浄した。切片をGill's 3ヘマトキシリン(Sigma)およびエオジン水溶液(Sigma)によって染色して、組織の形態を可視化した。最後に連続切片をモノクローナル抗β-ガラクトシダーゼ抗体(1:1000)(Chemicon, Temecula CA)と共に1時間インキュベートした後HRP-共役二次抗体(1:1000)(DakoCytomation, Carpinteria, CA)と共にインキュベートした。試料をすすいで、Permount(Fisher, Fairlawn, NJ)によって封入した。
【0131】
欠損サイズ分析はAdobe PhotoshopおよびImage Pro Plusソフトウェアを用いて行った。Leica CTR 5000光学顕微鏡およびOpen Labソフトウェア(Improvision)を用いて高倍率(100×)画像を得た。各条件に関して6つの試料を分析した。筋欠損領域を、組織された筋線維の欠損によってヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色切片において同定した。線維の大きさおよび核の数は、筋欠損に隣接する再生筋線維の無作為な視野10個の高倍率顕微鏡分析によって決定した。再生筋線維の顕著な特徴である中心に位置する核のみを、核の数の定量において計数した。
【0132】
両側のstudentのt-検定を用いて統計学的有意差を決定した。統計学的有意性はp<0.05によって定義した。データは全て平均値+/-平均値の標準偏差(SD)としてプロットした。
【0133】
移植細胞による筋組織の再定着
各マウスの脛骨筋に裂傷を作製して、次に裂傷を縫合糸によって閉鎖した。5つの条件の1つを用いて裂傷部位を処置した:1)筋芽細胞を裂傷部位の筋に直接注入した、2)ブランク足場を裂傷の上に留置した、3)筋芽細胞を播種した足場を裂傷の上に留置した、4)HGFおよびFGF2を放出する足場(−細胞)を裂傷の上に留置した、ならびに5)筋芽細胞を含有しHGFおよびFGF2を放出する足場を留置した。インプラントは、いかなる接着剤または糊の助けもなく留置して、10および30日目に回収すると、インプラントの80%が手術時と同じ位置に存在した。インプラントは、筋膜様組織によって損傷部位および上層上皮に付着した。増殖因子および筋芽細胞を含有する足場によって処置した損傷筋の大きさの肉眼的な差は、他の全ての条件と比較して30日目に観察され、これらの筋肉は調べた他の条件よりあらゆる寸法において大きかった(
図7A〜C)。これらの筋量の定量によって、他の条件と比較して筋肉量の統計学的に有意な30%の増加が判明した(
図7D)。肉眼での観察によってまた、lacZ染色によって示されるように、β-ガラクトシダーゼ活性は、筋芽細胞を移植した他の条件より、筋芽細胞と増殖因子とを含有する足場によって処置した筋肉において顕著により強いことが判明し(
図7A)、この条件において移植された細胞による本来の筋の再定着がより大きいことを示している。
【0134】
組織切片の分析から、全ての条件において大きく壊死性であるように思われた欠損が10日目で明らかとなった(
図8A〜E)。この初期の時点で欠損内に正常な筋組織は認められなかった。欠損は、細胞破片、血液および好塩基球によって満たされた。欠損領域に及ぶ筋線維は認められなかった。欠損境界域に並ぶ筋線維は大きく脱構築され、中心に存在する核を含有した。増殖因子単独の局所の持続的な送達によって処置した筋損傷は、この時点での他の任意の条件より大きい残存欠損領域を有したが、この差は、筋芽細胞と増殖因子の双方の持続的な送達によって処置した損傷と比較した場合に限って統計学的に有意であった。筋芽細胞移植によって処置した筋欠損からの切片を高倍率で観察すると、この時点で組織に存在するlacZ(+)細胞数の肉眼的な差は観察されなかった。
【0135】
初期の結果とは対照的に、筋芽細胞と増殖因子の持続的な局所送達によって処置した筋における欠損は30日目に大きく消散した(
図8J)。これらの動物の多くにおいて、唯一の残存欠損は、縫合糸によって引き起こされたものであった。さらに、いくつかの脂肪沈着領域を認め、この時点で実質的に瘢痕組織を認めなかった。他の実験条件における非消散欠損領域も同様に、10日目での欠損領域と比較して大きさが低減したが(
図8F〜I)、細胞/HGFおよびFGF2送達条件よりなおかなり大きかった。さらに、瘢痕組織または脂肪の沈着はこれらの他の条件において明らかであった。非消散欠損領域を定量した場合、10日目での条件に統計学的有意差を認めなかった(
図9A)。しかし、損傷後30日目では、細胞および増殖因子を送達する足場によって処置した筋における欠損は、他の任意の条件より有意に小さかった(
図9B)。欠損の大きさのより小さい低減はまた、細胞の注入、またはHGFとFGF2を送達する足場によって処置した筋においても認められた。
【0136】
筋再生をさらに分析するために、再生した筋線維の幅の平均値および消散しつつある筋欠損に対して近位の領域における筋線維の長さあたりの、分裂後の中心に位置する核の数を、高倍率光学顕微鏡分析によって定量した。再生線維の幅の平均値および中心に存在する核の密度は、細胞および増殖因子を送達する足場によって処置した筋では、増殖因子のみを送達する足場(
図10A)、または他の任意の実験条件と比較して定性的に大きかった(
図10B)。損傷後30日目の幅の平均値の決定により、増殖因子と併用して筋芽細胞によって処置した筋肉が、ブランク足場、細胞の注入、または足場のみに移植した細胞と比較して線維の大きさの3倍の増加を示したことが確認された(
図10C)。線維の幅はまた、HGFおよびFGF2送達を伴う実験群においても増加したがそれほど劇的ではなかった。さらに、足場の送達により筋芽細胞と増殖因子とによって処置した損傷群における筋線維は、損傷後30日目で他の任意の条件より30%多く中心に位置する核を含有し(
図10D)、筋芽細胞の線維へのより多くの融合を示し、これらの線維の大きさがより大きいという知見を支持する。
【0137】
最後に、損傷30日後の前脛骨筋からの組織切片の免疫染色により、細胞をHGF/FGF2を放出する足場に移植した場合に、筋の大きさ、線維の幅および線維の核における増加が筋を再生しつつある宿主への移植筋芽細胞の強い定植を伴うことが判明した(
図11A、C)。筋芽細胞の直接注入を用いた条件ではより限定的な数の定植ドナー細胞が認められた(
図11B、D)。他の実験および対照条件ではLacZ(+)細胞を認めなかった。
【0138】
筋芽細胞移植による損傷後の骨格筋再生の調節は、ドナー筋芽細胞の生存および宿主組織内の筋線維へのその安定な取り込みを必要とする。その外向きの遊走を促進する足場に筋芽細胞を移植することは、細胞教育足場を用いる場合について可能な移植細胞の運命に対する制御と、直接細胞注入によって得られる宿主筋線維再生の長所を組み合わせる。損傷した筋への筋芽細胞の直接注入は、足場からのHGFおよびFGF2の併用の局所送達と同様に、再生を増強するが、HGFおよびFGF2を同時に送達する足場からの細胞の移植は、筋再生における移植細胞の関与および再生の全体的な程度を増強した。
【0139】
直接注入による筋芽細胞の移植、および増殖因子を放出しない足場による送達は、モデル系において異なる転帰に至った。筋芽細胞単独の注入は、程度は中等度であるものの筋再生を増強した。注入した細胞は、欠損部位におけるRosa26-由来細胞の同定によって証明されるように、筋線維形成に関与して、30日での欠損の大きさの平均値を減少させ、骨格筋線維の幅を増加させた。対照的に、増殖因子を有しない足場に同じ細胞数を移植しても、欠損部位にブランク足場を埋め込んだ場合と比較して、筋再生に検出可能な変化は起こらなかった。足場からの細胞の遊走は、HGFおよびFGF2の活性化効果の非存在下では低く(播種した細胞の20〜30%がインビトロで4日間のあいだに足場から遊走する)、それらの足場はHGF/FGF2足場と比較して再生に関与することができる周辺組織に少数の細胞を提供する。
【0140】
移植細胞の非存在下で、足場からのHGFおよびFGF2の併用を送達すると、筋再生に中等度の効果を有した。再生線維の幅は、ブランク足場と比較してこの条件で増加し、再生筋線維の顕著な特徴であるこれらの線維における中心に位置する核の数も同様に増加した。これらの効果は30日目に認められた欠損領域における中等度の減少と一致した。筋再生部位への局所HGFおよびFGF2送達に関する他の研究によって、本明細書において報告した結果とは異なる結果が得られた。局所HGF送達はこれまで、注入した筋肉内で活性化筋芽細胞の数を増加させることが報告されており、衛星細胞の活性化におけるその役割と一致するが、HGFの繰り返し提示は実際には再生を阻害した。Miller et al., 200 Am. J. Physiol. Cell. Physiol. 278: C174-181。高用量のHGFは、宿主筋芽細胞が細胞周期から撤退して最終分化する能力を遅らせる可能性がある。さらに、内因性のFGF2の適用はこれまで筋再生を増強しないことが報告されている。それらのこれまでの研究とは対照的に、本明細書において記述された足場は少量の増殖因子(たとえば、5 ng)を送達し、長期間、たとえば3〜10日間にわたって因子を持続的に放出し、1つの因子ではなくて2つの因子の併用を送達し、筋損傷のタイプもこれまでの系とは異なった。前述のデータを生成するために用いられたモデル系は、初期の研究と比較してヒトの損傷または筋欠損により厳密に類似している。
【0141】
HGFおよびFGF2を放出する足場において筋芽細胞を移植することは、調べたあらゆる手段による筋再生を有意に増強した。β-ガラクトシダーゼに関する免疫組織化学染色によって示されるように、筋再生に関与する移植細胞数は劇的に増加した。再生しつつある線維の幅は、線維における中心に位置する核の数と同様に有意に増強され、これらはいずれも筋再生に関与する筋芽細胞数の増加と一致する。増強された再生によって30日までに損傷欠損のほぼ完全な消散が起こり、損傷によって誘導された移植後の筋肉量の有意な回復が起こった。これらの増殖因子放出足場に留置された細胞は、インビトロで足場から非常に効率的に遊走して(4日間で100%の遊走)、増殖因子放出は、足場において、細胞を活性化され、増殖するが非分化状態(myoD陽性、ミオゲニン陰性)に維持する。本発明の前まで、筋肉に注入された筋芽細胞は、接着基質の欠如および損傷に存在する炎症環境のために生存が不良であった。足場における細胞の移植は、炎症環境からそれらを保護しながら、移植された細胞の生存率を維持する。HGFおよびFGF2に対する曝露後の筋芽細胞の活性化はまた、その遊走および増殖を増加させ、このようにその宿主筋系に対する定着能を増強させる。筋肉量、筋線維の大きさ、および線維あたりの筋核数の増加は、筋裂傷および筋組織の他の欠損の治癒に関連する筋組織の通常の再生に類似している(たとえば、造血系の再構成から神経再生に及ぶ適用)。
【0142】
実施例3:皮膚創傷の処置
皮膚欠損の状況において、治療目標は創傷のタイプ(たとえば、急性の火傷、瘢痕の修正、または慢性潰瘍)および創傷の大きさによって左右される。小さい慢性潰瘍の場合、目的は真皮の再生による創傷の閉鎖である。表皮は、隣接する表皮からの宿主ケラチノサイトの遊走によって再生する。大きい創傷の場合、最適には自己のケラチノサイトが、表皮の再生を促進するために装置によって提供される。細胞を、創傷部位に直接留置される足場材料、たとえば絆創膏の形での足場構造にローディングする。材料は、再生を促進するために適当な細胞の流れを提供する。真皮再生の場合、線維芽細胞を用いて装置に播種して、これらの細胞は自己(別の部位から採取した生検および移植前に拡大)または同種異系のいずれかである。自己細胞の長所には、疾患の伝搬のリスクの減少、および細胞の免疫学的許容が含まれる。しかし、処置にとって十分な細胞を生成するためには患者の生検後数日から数週間の期間が必要であろう。同種異系細胞は、貯蔵された細胞バンクから患者の即時の処置を可能にして、治療の費用を有意に低減させる。患者の免疫系によるこれらの細胞の拒絶を低減または防止するために、免疫抑制剤が任意で同時投与される。
【0143】
装置の設計には以下の特色の1つまたは組み合わせが含まれる:1.(物理的特性)細胞が装置からその下の組織へと容易に遊走できるようにする孔;2.(物理的特性)創傷からの液体の喪失を制御する、感染症を予防する、および装置からの細胞の組織を離れた遊走の防止;3.(接着リガンド)材料の中および外に線維芽細胞を遊走させるための細胞接着リガンド、たとえばRGD含有ペプチドを含めること;4.(増殖因子)装置内での線維芽細胞増殖を誘導するためにFGF2の局所提示;5.(酵素)装置は創傷の組織切除において有用な酵素の創傷への急速な放出を可能にするように設計される;6.(ヘルパー細胞)個体が限られた血管新生反応を有すると期待される場合、内皮細胞または内皮前駆細胞を装置に含めて、血管形成を促進するために線維芽細胞と協調して創傷に再定着するように刺激する。
【0144】
本発明の適用は、比較的低い弾性係数、たとえば0.1〜100、1〜100 kPaを有する材料を利用する。堅固な材料は、創傷に適合しないであろうころから適していないであろう。ハイドロゲルまたはエラストマーポリマーは、創傷に適合させるため、および液体輸送に対する制御を提供して、感染症を予防し、装置から創傷の中に細胞が遊走するために必要な物理的接触を可能にするために、この装置において有用である。ハイドロゲルまたは他の材料はまた、接着特性を有する。接着表面は、患者が動いても残りが固定されるように創傷との接触を可能にする。任意で、装置自身は接着性である;または装置は、薬学的に許容されるテープまたは糊のような接着組成物を用いて創傷に留置される。複合材料(たとえば、多孔性装置の外表面に留置された非多孔性シリコンシート)を用いることによって、または異方性の多孔性を作製するために装置を加工することによって、半透過性の外表面が提供される。
【0145】
実施例4:血管新生を促進するための装置および系
血管新生は任意の組織再生努力における肝要な要素であり、血管内皮増殖因子(VEGF)の時間的に明確なシグナル伝達はこのプロセスにおいて肝要である。内皮細胞と共に血管新生を促進する組成物を含有する装置によって、相乗的な血管新生効果が得られた。アプローチは、血管新生プロセスにおいて役割を果たす細胞、たとえば内皮前駆細胞および外殖内皮細胞(たとえば、臍帯血または末梢血試料に由来する)を利用する。
【0146】
低酸素組織の新生血管形成を誘導する因子の空間的分布および時間的制御を提供するために、注射型アルギネートハイドロゲルが開発された。C57BL/6Jマウスの後肢を、大腿動脈および静脈の結紮により虚血にして、増殖因子を含有するハイドロゲルを虚血筋に直接注入し(VEGFのボーラス送達を対照として用いた)、VEGF
121およびVEGF
165のインビボ放出速度論および分布を、組織試料においてELISAを用いて査定した。ゲルによって28日までに組織灌流が正常レベルまで完全に回復したが、正常な灌流レベルはVEGFのボーラス送達では得られなかった。
【0147】
臍帯血から培養された内皮前駆細胞(EPC)が含まれるいくつかのタイプの幹細胞が治療的血管新生において有用である。これらの細胞に基づく治療は、タンパク質または遺伝子に基づく治療に対していくつかの長所を示す。内皮前駆細胞(EPC)と外殖内皮細胞(OEC)を同時移植すると、それぞれの細胞タイプ単独の移植と比較して血管形成を増強する。これらの細胞は、筋肉内注射を通してと共に血管形成が望ましい他の組織に送達される。細胞生育および遊走を支持するためのニッシェとして具体的に設計された合成細胞外マトリクス装置におけるEPCとOECの同時移植によって、虚血部位での血管形成が劇的に改善された。ミクロ孔アルギネートに基づくハイドロゲルは、Arg-Gly-Asp配列(RGDペプチド)を含有する合成オリゴペプチドと血管内皮増殖因子(VEGF)とを含有した。RGDペプチドは細胞接着、ゲルマトリクス内での生育および遊走を支持し、VEGFの持続的な放出は細胞の遊走を刺激する。
【0148】
ハイドロゲルは、共有結合したRGDペプチドを含有するアルギネート分子をカルシウムイオンとクロスリンクさせることによって調製した。VEGFを、クロスリンク前にアルギネート溶液と混合することによってゲルマトリクスにローディングした。ゲルマトリクスにおけるマイクロサイズの孔は、-20℃でゲルを凍結した後凍結乾燥することによって誘導された。ヒト微小血管内皮細胞をアルギネート足場に播種して、24ウェルプレートにおいてコラーゲンゲルに入れた。3日間培養後、ゲルは分解して細胞数を定量した。
【0149】
EPCとOECの混合物をミクロ孔にローディングして結紮部位に移植した。SCIDマウスの後肢の大腿動脈を結紮して、動脈の末端を縫合糸によって結んだ。右後肢における血液灌流の回復をレーザードップラー灌流造影(LDPI)系を用いて評価した。
【0150】
RGDペプチドを含有するマトリクスに留置したヒト内皮細胞は、アルギネートゲル足場から遊走してマトリクスに接した培養皿の表面に定着したが、その外向きの遊走は、マトリクスにVEGFを含めることによって有意に増強された。より多数の内皮細胞がコラーゲンに局在して、これを3日目に定量した(
図12)。VEGFを含有する合成微小環境内でEPCおよびOECを移植すると、右後肢の血液灌流は6週間以内に完全に回復した(
図13a)。対照的に、細胞のボーラス注射によって血液灌流の限局的な回復が起こり、最終的に右後肢は壊死のために失われた(
図13b)。EPCおよびOECの双方をゲルマトリクス内に移植すると、ゲルマトリクス内にEPCまたはOECのいずれか単独を移植する場合と比較して血液灌流の優れた回復が起こった(
図13c)。
図13dは、調べた動物における血液灌流の回復をさらに図示している。先に記述した装置および細胞ニッシェ系は、インビボで血管形成の相乗的な増強に至る適切な微小環境を移植細胞に提供する。
【0151】
実施例5:細胞遊走を調節するワクチン装置
ポリマーに基づく送達系は、局所インビボ細胞遊走を調節するために設計された。装置が投与される体の細胞は装置/足場に入り、物質を取り込み(たとえば、標的抗原または免疫刺激分子)、後に遠隔部位へと移動する。これらのタイプのポリマー系は、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、siRNA、またはDNAのような分子を、その機能を有効に調節する特異的標的細胞にインビボで送達することを求める組織および細胞工学適用またはワクチンプロトコールにおいて特に有用である。装置は足場の中に体の細胞を動員して、その中で細胞はその機能を変化させる(たとえば分化または活性化の状態)物質に出会い、改変された細胞はインプラント部位を離れて、疾患部位または他所で生物効果を有する。装置から細胞が出て行くことは、装置に関連する組成物、孔の大きさ、および/または物質(たとえば、サイトカイン)によって制御される。
【0152】
ポリラクチド-コグリコリドマトリクスからのGM-CSFの送達は、CD11c+樹状細胞(DC)のインビボ動員および浸潤を用量依存的に促進した(
図14A〜Cおよび15A〜B)。蛍光タグ、フルオレセインをマトリクスに組み入れると、フローサイトメトリーを用いて、足場から離れて排液リンパ節への宿主DCのマトリクスの遊走の通行が許可された(
図16A〜C)。GM-CSF送達は、マトリクス埋め込み後14日および28日で埋め込み部位に由来するリンパ節におけるDCの総数を増強した。これらのデータは、装置足場系が、生物活性物質を取り込み、それによって免疫活性化のような細胞機能を改変しながら、インビボで局所部位へのおよび局所部位からの細胞の遊走を促進することを示している。
【0153】
本明細書において参照された特許および科学文献は、当業者にとって入手可能な知識を確立する。本明細書において引用された米国特許および公開または未公開の米国特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された公開された外国の特許および特許出願は全て、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書において引用された他の全ての公開された参考文献、文書、原稿、および科学文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0154】
本発明は、その好ましい態様を参照して特に示し、記述してきたが、形および詳細に様々な変更を行ってもよく、それらも添付の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲に含まれることは当業者によって理解されるであろう。