特許第5976623号(P5976623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976623
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】被加工物保持材
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/30 20120101AFI20160809BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160809BHJP
【FI】
   B24B37/04 L
   H01L21/304 622G
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-237521(P2013-237521)
(22)【出願日】2013年11月18日
(62)【分割の表示】特願2009-165414(P2009-165414)の分割
【原出願日】2009年7月14日
(65)【公開番号】特開2014-54723(P2014-54723A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2013年11月18日
【審判番号】不服2015-14969(P2015-14969/J1)
【審判請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・ハース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145849
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 眞樹子
(72)【発明者】
【氏名】玉川 智史
(72)【発明者】
【氏名】川端 克昌
(72)【発明者】
【氏名】水本 英伸
【合議体】
【審判長】 平岩 正一
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 渡邊 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−151666(JP,A)
【文献】 特開2008−119861(JP,A)
【文献】 特開2006−334745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00-37/04
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、
前記被加工物を保持する保持面とされる前記発泡層の表面が、湿式凝固されてなる発泡層の表面よりも平滑であって、かつ、気泡が押し潰された状態の緻密な層が前記表面に形成されており、
前記発泡層の裏面が、気泡が押し潰された状態の平滑かつ緻密な層であることを特徴とする被加工物保持材。
【請求項2】
多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、
前記被加工物を保持する保持面とされる前記発泡層の表面は、うねり曲線要素の高さの最大値(Wcmax)が3μm以内であり、
前記発泡層の裏面は、気泡が押し潰された状態の平滑かつ緻密な層であることを特徴とする被加工物保持材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨加工などの加工が施される被加工物を保持する被加工物保持材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハやLCD用ガラス等の被加工物の研磨加工は、例えば、次のようにして行なわれる。すなわち、図14に示すように、研磨装置の上下に対向する定盤の上側定盤9に、研磨加工が施される被加工物10を保持し、下側定盤11に、研磨パッド12を貼り付け、被加工物10の表面を研磨パッド12に圧接させつつ両定盤間に砥粒を含む研磨液を供給しながら両定盤9,11を矢符で示すように相対回転させることにより行なわれる。
【0003】
従来、被加工物10は、上側定盤9に固定されて被加工物10の裏面を吸着保持する被加工物保持材としてのバッキング材13と、被加工物10の外周を取り囲んで被加工物10がバッキング材13表面で位置ずれするのを防止する枠状のテンプレート14とを用いて上側定盤9に保持される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記バッキング材13としては、例えば、基材に塗工したウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液層を水中にて湿式凝固させ、温水中で洗浄、熱風で乾燥を行って、図15(a)に示すように基材1上に発泡層2を形成し、所要の厚みに揃えるなどの目的で、図15(b)に示すように、前記発泡層2の表面2aをバフ加工したものが用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
前記バフ加工後の発泡層2の表面2a−2は、被加工物を吸着保持する保持面となるのであるが、バフ加工では、十分な平滑面が得られず、このため、被加工物の吸着保持力が不十分となっていた。
【0006】
このため、図16(a)に示すように、基材1上に形成された発泡層2の表面2aをバフ加工することなく、図16(b)に示すように、基材1から発泡層2を剥離し、図16(c)に示すように、表面2aを平坦な圧接ローラ7に圧接し、図16(d)に示すように発泡層2の裏面2b側をバフ加工した後、図16(e)に示すように両面テープ8等に再び接着したバッキング材がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−321001号公報
【特許文献2】特許第3187769号
【特許文献3】特開2006−62058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかるバッキング材では、バフ加工を施していない発泡層2の表面2aを、被加工物を吸着保持する保持面とするので、発泡層2の表面2aを、バフ加工する従来例に比べて吸着保持力が向上するが、発泡の際のばらつきなどに起因して発泡層の表面の平滑度が必ずしも十分でない。
【0009】
また、図16(c)に示すように発泡層2の裏面2bをバフ加工するために、気泡(ポア)15が開口した孔16内に、バフ粉が残留し、発泡層2の圧縮変形を妨げ、部分的に圧縮変形率に差が生じて被加工物の品質が悪化したり、両面テープ8との貼り合わせ界面にバフ粉が存在して粘着力を低下させるといった難点もある。
【0010】
さらに、かかるバッキング材では、発泡による多数の気泡(ポア)を有しており、被加工物の研磨加工の際には、被加工物を保持する表面(保持面)から研磨液が浸透して、被加工物の平坦度を悪化させたり、裏面側の基材や両面テープとの接着強度が弱くなって、基材や両面テープから剥がれる場合がある。
【0011】
また、湿式凝固による発泡ウレタンは、表面に多数の気泡が開口しているので、表面から亀裂が入って破断しやすく、被研磨物の脱着時に被加工物保持材を破損してしまう場合がある。
【0012】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、被加工物を保持する被加工物保持材の保持力を高めるとともに、バフ加工を不要とし、更に、表裏面からの研磨液などの水分の浸透を抑制できるとともに、表裏面の強度を高めた被加工物保持材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0014】
本発明の被加工物保持材は、多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、前記被加工物を保持する保持面とされる前記発泡層の表面が、湿式凝固されてなる発泡層の表面よりも平滑であって、かつ、気泡が押し潰された状態の緻密な層が前記表面に形成されており、前記発泡層の裏面が、気泡が押し潰された状態の平滑かつ緻密な層である。
【0015】
前記保持面とされる前記発泡層の表面は、基材に樹脂溶液を塗工して、湿式凝固されてなる発泡層の表面に比べて、表面に開口した気泡が押し潰されて平滑化されているのが好ましく、この平滑化は、樹脂フィルム等の平滑部材を介した加熱加圧処理によって行なわれるのが好ましい。
【0016】
発泡層は、その表面側よりも裏面側が大きな涙滴状の気泡を有するのが好ましく、また、発泡層の裏面側は、バフ加工することなく、したがって、発泡層の裏面側では、涙滴状の気泡が開口していないのが好ましい。
【0017】
本発明によると、被加工物を保持する保持面とされる発泡層の表面は、基材に樹脂溶液を塗工して、湿式凝固されてなる発泡層の表面よりも平滑であるので、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0018】
本発明の被加工物保持材は、多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、前記被加工物を保持する保持面とされる前記発泡層の表面は、うねり曲線要素の高さの最大値(Wcmax)が3μm以内であり、前記発泡層の裏面は、気泡が押し潰された状態の平滑かつ緻密な層である。
【0019】
本発明によると、被加工物を保持する保持面とされる発泡層の表面は、うねり曲線要素の高さの最大値(Wcmax)が3μm以内であり、従来例に比べて平滑であるので、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0020】
本発明の被加工物保持材は、次のような製造方法によって製造されるのが好ましい。
【0021】
すなわち、本発明の被加工物保持材の好ましい製造方法は、基材に、樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層を形成する発泡層形成工程と、前記発泡層が形成された基材を、平滑な平滑部材で挟んで加熱加圧する加熱加圧工程と、前記平滑部材を、前記発泡層が形成された基材からそれぞれ剥離する平滑部材剥離工程とを含んでいる。
【0022】
平滑部材は、少なくとも発泡層形成工程で形成される発泡層の表面よりも平滑であればよい。
【0023】
前記加熱加圧工程では、発泡層が形成された基材の両面に平滑部材をそれぞれ重ねて同時に加熱加圧してもよいし、一方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧した後、他方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧してもよい。
【0024】
この製造方法によると、発泡層が形成された基材の両面を、平滑な平滑部材で挟んで加熱加圧した後、平滑部材を剥離するので、被加工物を保持する保持面となる発泡層の表面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。また、発泡層の表面および裏面のいずれもバフ加工を施さないので、気泡(ポア)が開口して形成される孔内に、バフ粉が残留するといったこともない。更に、発泡層の表面には、加熱加圧によって、押し潰された平滑で緻密な層が形成されているので、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が基材や両面テープから剥離するのを抑制することができる。
【0025】
また、発泡層の表面の緻密な層によって、表面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【0026】
好ましい製造方法では、前記加熱加圧工程に先立って、前記発泡層から前記基材を剥離する基材剥離工程を含み、前記加熱加圧工程では、前記基材が剥離された前記発泡層を、前記平滑部材で挟んで加熱加圧する。
【0027】
発泡層形成工程では、湿式発泡の際に、発泡層が若干収縮するのに対して、樹脂フィルム等からなる基材が収縮しないために、発泡層に歪が生じる。この歪が、被研磨物を保持する発泡層の表面に筋となって現れ、例えば、2psi以下の低圧研磨においては、前記筋を押し潰すことができないために、研磨面に影響を及ぼす場合がある。この製造方法では、発泡層から基材を剥離するので、発泡層の歪が解放されることになり、これによって、歪に起因する上記のような不具合が生じることもない。
【0028】
更に、この製造方法では、発泡層の表面のみならず、裏面にも、加熱加圧によって、押し潰された平滑で緻密な層が形成されるので、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が基材や両面テープから剥離するのを抑制することができる。また、発泡層の表裏面の緻密な層によって、表裏面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【0029】
一つの製造方法では、前記平滑部材が、フィルム状またはシート状であり、前記平滑部材剥離工程で前記平滑部材を剥離した前記発泡層の片面に、両面テープを貼り付ける工程を含んでいる。
【0030】
この製造方法によると、発泡層の片面を裏面として両面テープを貼り付け、発泡層の表面を、被加工物保持材を保持する保持面とすることができる。
【0031】
他の製造方法では、前記加熱加圧工程では、前記発泡層が形成された基材または前記発泡層を前記平滑部材で挟んで、少なくとも一方がヒートロールである2本のロール間を通過させるものである。前記ヒートロールの温度は、平滑部材が溶融しない70℃〜200℃であるのが好ましい。
【0032】
この製造方法によると、2本のロール間を通過させることで、容易に加熱加圧できるとともに、ヒートロールの温度、通過速度やロール間の隙間等の条件の選択によって、発泡層の平滑性や厚み等の特性を調整することができる。
【0033】
好ましい製造方法では、前記樹脂溶液が、ウレタン樹脂溶液であり、前記基材および前記平滑部材が、樹脂フィルムである。
【0034】
上記のような製造方法によれば、発泡層が形成された基材を平滑部材で挟んで、加熱加圧した後、平滑部材を剥離するので、被加工物を保持する保持面となる発泡層の表面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。また、発泡層の表面および裏面のいずれもバフ加工を施さないので、気泡(ポア)が開口して形成される孔内に、バフ粉が残留するといったこともない。
【0035】
さらに、発泡層の表面には、平滑で緻密な層が形成されるので、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、両面テープから剥がれるのを抑制することができる。
【0036】
また、発泡層の表面は、気泡が潰されて緻密な層となっているので、表面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の被加工物保持材によれば、被加工物を保持する保持面とされる発泡層の表面が、従来例に比べて平滑であるので、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一つの実施の形態に係る被加工物保持材の製造工程を示す図である。
図2】ヒートロールによる加熱加圧工程を示す図である。
図3】比較例の500倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例の500倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
図5】比較例の2000倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
図6】実施例の2000倍の表面側の走査型電子顕微鏡写真である。
図7】比較例の1000倍の裏面の走査型電子顕微鏡写真である。
図8】実施例の1000倍の裏面の走査型電子顕微鏡写真である。
図9】比較例の表面のうねり曲線を示す図である。
図10】実施例の表面のうねり曲線を示す図である。
図11】別の比較例の表面のうねり曲線を示す図である。
図12】別の実施例の表面のうねり曲線を示す図である。
図13】本発明の他の実施の形態に係る被加工物保持材の製造工程を示す図である。
図14】研磨装置の概略構成図である。
図15】従来例の製造工程を示す図である。
図16】別の従来例の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面によって本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明の実施形態に係る被加工物保持材を製造する方法を示す図である。
【0041】
この実施形態の被加工物保持材の製造方法では、先ず、ウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、PETフィルム等の基材1上に塗工し、湿式凝固法により、図1(a)に示すように、基材1上に、涙滴状の気泡などの多数の気泡を有する多孔質の発泡層2を形成する。この発泡層2を、図1(b)に示すように基材1から剥離する。
【0042】
湿式凝固法によって、発泡層2を形成する工程では、湿式発泡の際に、発泡層が若干収縮するのに対して、PETフィルム等からなる基材1が収縮しないために、発泡層2に歪が生じ、この歪が、被研磨物を保持する発泡層2の表面に筋となって現れ、例えば、2psi以下の低圧研磨においては、前記筋を押し潰すことができないために、研磨面に影響を及ぼす場合があるが、この実施形態では、発泡層2から基材1を剥離するので、発泡層2の歪が解放されることになり、これによって、歪に起因する上記のような不具合が生じることもない。
【0043】
次に、発泡層2の表裏両面2a,2bに図1(c)に示すように、平滑部材としてのPETフィルム等の樹脂フィルム3をそれぞれ重ね、2本のヒートロール間を通過させることによって図1(d)に示すように加熱加圧して一体化する。
【0044】
その後、表裏面の樹脂フィルム3を図1(e)に示すように剥離し、裏面2b−1に両面テープ4を貼り付けて図1(f)に示すように表面2a−1を被加工物の保持面とした被加工物保持材を得る。
【0045】
この実施形態の被加工物保持材では、発泡層2に樹脂フィルム3を重ねてヒートロールによる加熱加圧を行うので、発泡層2の表面2a−1および裏面2b−1は、基材1に樹脂溶液を塗工して、湿式凝固されてなる発泡層2の表面2aおよび裏面2bに比べて、平滑である。特に、被加工物を保持する保持面となる発泡層2の表面2a−1は、後述のように、うねり曲線要素の高さの最大値(Wcmax)が3μm以内の平滑面となっている。
【0046】
また、発泡層2の裏面2b−1は、バフ加工を行わないので、図16(d)のように涙滴状の気泡が開口していない。
【0047】
発泡層2を形成するためのウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などのウレタン樹脂を用いることができ、異なる種類のウレタン樹脂をブレンドしてもよい。
【0048】
ウレタン樹脂を溶解させる水溶性有機溶媒としては、上述のジメチルホルムアミドの他、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等の溶媒を用いることができる。
【0049】
この実施形態の被加工物保持材を製造する方法では、基材1から剥がした発泡層2の表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を挟んでヒートロールで加熱加圧した後、樹脂フィルム3を剥がすので、発泡層2の表裏両面2a−1,2b−1は平滑なものとなり、したがって、被加工物保持材を保持する保持面となる発泡層2の表面2a−1の吸着保持力が向上する。
【0050】
更に、発泡層2の表裏両面2a−1,2b−1は、加熱加圧によって、気泡(ポア)等が押し潰された平滑で緻密な層が形成されており、研磨加工する際に、研磨液の浸透が表裏面の緻密な層によって阻止されることになる。これによって、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層2が、両面テープ4から剥がれるのを抑制することができる。また、表裏両面2a−1,2b−1は、気泡が押し潰されて緻密な層となっているので、強度が高まり、破断しにくいものとなり、被研磨物の脱着時に被加工物保持材が破損するのを防止することができる。
【0051】
この発泡層2の表面2a−1について、次のようにして評価を行った。すなわち、図1(c)に示すように、表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を重ねて厚みを1.2mmとした発泡層2を、図2に示すように間隙が1.0mmで、150℃の上下のヒートロール5,6間を1.0m/minで通過させ、その後、樹脂フィルム3を剥離した表面、すなわち、図1(e)に示される実施例の発泡層2の表面2a−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、後述の測定装置によって表面うねりを計測した。また、樹脂フィルム3を剥離した裏面、すなわち、図1(e)に示される裏面2b−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。
【0052】
一方、比較例として、図1(b)に示す基材1から剥離した発泡層2の表面2aおよび裏面2b、すなわち、樹脂フィルム3を重ねたヒートロール5,6による加熱加圧を行っていない発泡層2の表面2aおよび裏面2bについて、同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、表面うねりを計測した。
【0053】
図3および図4は、倍率500倍の比較例および実施例の表面の縁部分におけるSEM写真であり、図5および図6は、倍率2000倍の比較例および実施例の表面の縁部分のSEM写真であり、これらの図では、表面の縁部分をSEM像とし、表面および側面を観察できるようにしている。
【0054】
また、図7および図8は、倍率1000倍の比較例および実施例の裏面のSEM写真である。
【0055】
樹脂フィルム3を重ねてヒートロール5,6を通過させた後、樹脂フィルム3を剥離した図4および図6に示される実施例の発泡層の表面は、図3および図5の比較例の発泡層の表面に比べて、表面が平滑となっており、小さな気泡(ポア)がつぶれ、緻密な層が形成されている。
【0056】
このように、被加工物保持材を保持する保持面となる発泡層の表面は、平滑な面となっているので、被加工物保持材を保持するための吸着保持力が向上する。
【0057】
また、発泡層の表面および裏面のいずれもバフ加工する必要がないので、バフ粉が、開口した気泡(ポア)の孔内に残存することがない。
【0058】
また、図8の実施例の発泡層の裏面も小さな気泡(ポア)がつぶれ、図7の比較例に比べて緻密な層が形成されている。
【0059】
このように発泡層の表裏面は、いずれも従来に比べて平滑で緻密な層となっており、被加工物保持材を保持して研磨加工する際に、研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって抑止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、研磨液の浸透によって両面テープから剥がれるのを防止することができる。
【0060】
次に、上記実施例および比較例の表面のうねりの測定結果を示す。
測定条件は、下記の表1の通りである。
【0061】
【表1】
【0062】
図9に比較例のろ波うねり曲線を、図10に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0063】
また、実施例と比較例のWa(算術平均うねり)、Wcmax(うねり曲線要素の高さの最大値)、および、Wfpd(ろ波中心線うねり曲線中のある基準長さについての真直度の、評価長さの範囲内での最大値)の計測結果を、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
図9図10および表2に示すように、実施例の発泡層の表面は、比較例に比べて、うねりが低減されていることがわかる。
【0066】
表2に示されるように、実施例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、2.1813μmであって、3μm以内であるのに対して、比較例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、5.9305μmである。
【0067】
したがって、実施例の被加工物保持材によれば、被加工物の平坦性を改善することができる。
【0068】
更に、実施例の発泡層の裏面に両面テープを貼り付けた被加工物保持材の圧縮率を測定した。
【0069】
圧縮率は、サンプルに初期荷重を1分間かけたときの厚みT1を測定し、続けて第二荷重を1分間かけたときの厚みT2を測定し、次式によって算出した。
【0070】
圧縮率(%)=[(T1−T2)/T1]×100
実施例の被加工物保持材の圧縮率は、35.1%であった。
【0071】
この圧縮率は、20%〜60%であるのが好ましい。
【0072】
また、上記実施例および比較例とは、組成の異なる低モジュラスの発泡ポリウレタン樹脂を用いて別の実施例および別の比較例を製作し、同様に表面うねりを計測した。
【0073】
図11に比較例のろ波うねり曲線を、図12に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0074】
また、実施例と比較例のWa、Wcmax、および、Wfpdの計測結果を、表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
図11図12および表3に示すように、組成の異なるポリウレタン発泡樹脂であっても、うねりが低減されていることがわかる。
【0077】
表3に示されるように、実施例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、2.058μmであって、3μm以内であるのに対して、比較例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、3.3328μmである。
【0078】
図13は、本発明の他の実施形態に係る被加工物保持材を製造する方法を示す図であり、上述の図1に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0079】
この実施形態の被加工物保持材を製造する方法では、先ず、ウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、PETフィルム等の基材1上に塗工し、湿式凝固法により、図13(a)に示すように、基材1上に、涙滴状の気泡などの多数の気泡を有する多孔質の発泡層2を形成する。
【0080】
次に、発泡層2が形成された基材1を、図13(b)に示すように、樹脂フィルム3で挟んで、2本のヒートロール間を通過させることによって図13(c)に示すように加熱加圧して一体化する。その後、表裏面の樹脂フィルム3を図13(d)に示すように剥離し、表面2a−1を被加工物の保持面とした被加工物保持材を得るものである。
【0081】
この実施形態の被加工物保持材では、発泡層2の表面に樹脂フィルム3を重ねてヒートロールによる加熱加圧を行うので、発泡層2の表面2a−1は、基材1に樹脂溶液を塗工して、湿式凝固されてなる発泡層2の表面2aに比べて、平滑である。
【0082】
その他の構成は、上述の実施の形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、半導体ウェハや精密ガラス基板などの研磨に有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 基材 2 発泡層
3 樹脂フィルム 4 両面テープ
5,6 ヒートロール
図1
図2
図9
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