【発明が解決しようとする課題】
【0008】
  かかるバッキング材では、バフ加工を施していない発泡層2の表面2aを、被加工物を吸着保持する保持面とするので、発泡層2の表面2aを、バフ加工する従来例に比べて吸着保持力が向上するが、発泡の際のばらつきなどに起因して発泡層の表面の平滑度が必ずしも十分でない。
【0009】
  また、
図16(c)に示すように発泡層2の裏面2bをバフ加工するために、気泡(ポア)15が開口した孔16内に、バフ粉が残留し、発泡層2の圧縮変形を妨げ、部分的に圧縮変形率に差が生じて被加工物の品質が悪化したり、両面テープ8との貼り合わせ界面にバフ粉が存在して粘着力を低下させるといった難点もある。
【0010】
  さらに、かかるバッキング材では、発泡による多数の気泡(ポア)を有しており、被加工物の研磨加工の際には、被加工物を保持する表面(保持面)から研磨液が浸透して、被加工物の平坦度を悪化させたり、裏面側の基材や両面テープとの接着強度が弱くなって、基材や両面テープから剥がれる場合がある。
【0011】
  また、湿式凝固による発泡ウレタンは、表面に多数の気泡が開口しているので、表面から亀裂が入って破断しやすく、被研磨物の脱着時に被加工物保持材を破損してしまう場合がある。
【0012】
  本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、被加工物を保持する被加工物保持材の保持力を高めるとともに、バフ加工を不要とし、更に、表裏面からの研磨液などの水分の浸透を抑制できるとともに、表裏面の強度を高めた被加工物保持材を提供することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0013】
  本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0014】
  本発明の被加工物保持材は、
多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、前記被加工物を保持する保持面とされる前記発泡層の表面が、湿式凝固されてなる発泡層の表面よりも平滑であって、かつ、気泡が押し潰された状態の緻密な層が前記表面に形成されており、前記発泡層の裏面が、気泡が押し潰された状態の平滑かつ緻密な層である。
 
【0015】
  前記保持面とされる前記発泡層の表面は、基材に樹脂溶液を塗工して、湿式凝固されてなる発泡層の表面に比べて、表面に開口した気泡が押し潰されて平滑化されているのが好ましく、この平滑化は、樹脂フィルム等の平滑部材を介した加熱加圧処理によって行なわれるのが好ましい。
【0016】
  発泡層は、その表面側よりも裏面側が大きな涙滴状の気泡を有するのが好ましく、また、発泡層の裏面側は、バフ加工することなく、したがって、発泡層の裏面側では、涙滴状の気泡が開口していないのが好ましい。
【0017】
  本発明によると、被加工物を保持する保持面とされる発泡層の表面は、基材に樹脂溶液を塗工して、湿式凝固されてなる発泡層の表面よりも平滑であるので、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0018】
  本発明の被加工物保持材は、
多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備え、被加工物を保持する被加工物保持材であって、前記被加工物を保持する保持面とされる前記発泡層の表面は、うねり曲線要素の高さの最大値(Wcmax)が3μm以内であり、前記発泡層の裏面は、気泡が押し潰された状態の平滑かつ緻密な層である。
【0019】
  本発明によると、被加工物を保持する保持面とされる発泡層の表面は、うねり曲線要素の高さの最大値(Wcmax)が3μm以内であり、従来例に比べて平滑であるので、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。
【0020】
  本発明の被加工物保持材は、次のような製造方法によって製造されるのが好ましい。
【0021】
  すなわち、本発明の被加工物保持材の好ましい製造方法は、基材に、樹脂溶液を塗工し、湿式凝固して発泡層を形成する発泡層形成工程と、前記発泡層が形成された基材を、平滑な平滑部材で挟んで加熱加圧する加熱加圧工程と、前記平滑部材を、前記発泡層が形成された基材からそれぞれ剥離する平滑部材剥離工程とを含んでいる。
【0022】
  平滑部材は、少なくとも発泡層形成工程で形成される発泡層の表面よりも平滑であればよい。
【0023】
  前記加熱加圧工程では、発泡層が形成された基材の両面に平滑部材をそれぞれ重ねて同時に加熱加圧してもよいし、一方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧した後、他方の面に平滑部材を重ねて加熱加圧してもよい。
【0024】
  この製造方法によると、発泡層が形成された基材の両面を、平滑な平滑部材で挟んで加熱加圧した後、平滑部材を剥離するので、被加工物を保持する保持面となる発泡層の表面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。また、発泡層の表面および裏面のいずれもバフ加工を施さないので、気泡(ポア)が開口して形成される孔内に、バフ粉が残留するといったこともない。更に、発泡層の表面には、加熱加圧によって、押し潰された平滑で緻密な層が形成されているので、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が基材や両面テープから剥離するのを抑制することができる。
【0025】
  また、発泡層の表面の緻密な層によって、表面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【0026】
  好ましい製造方法では、前記加熱加圧工程に先立って、前記発泡層から前記基材を剥離する基材剥離工程を含み、前記加熱加圧工程では、前記基材が剥離された前記発泡層を、前記平滑部材で挟んで加熱加圧する。
【0027】
  発泡層形成工程では、湿式発泡の際に、発泡層が若干収縮するのに対して、樹脂フィルム等からなる基材が収縮しないために、発泡層に歪が生じる。この歪が、被研磨物を保持する発泡層の表面に筋となって現れ、例えば、2psi以下の低圧研磨においては、前記筋を押し潰すことができないために、研磨面に影響を及ぼす場合がある。この製造方法では、発泡層から基材を剥離するので、発泡層の歪が解放されることになり、これによって、歪に起因する上記のような不具合が生じることもない。
【0028】
  更に、この製造方法では、発泡層の表面のみならず、裏面にも、加熱加圧によって、押し潰された平滑で緻密な層が形成されるので、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表裏面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が基材や両面テープから剥離するのを抑制することができる。また、発泡層の表裏面の緻密な層によって、表裏面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。
【0029】
  一つの製造方法では、前記平滑部材が、フィルム状またはシート状であり、前記平滑部材剥離工程で前記平滑部材を剥離した前記発泡層の片面に、両面テープを貼り付ける工程を含んでいる。
【0030】
  この製造方法によると、発泡層の片面を裏面として両面テープを貼り付け、発泡層の表面を、被加工物保持材を保持する保持面とすることができる。
【0031】
  他の製造方法では、前記加熱加圧工程では、前記発泡層が形成された基材または前記発泡層を前記平滑部材で挟んで、少なくとも一方がヒートロールである2本のロール間を通過させるものである。前記ヒートロールの温度は、平滑部材が溶融しない70℃〜200℃であるのが好ましい。
【0032】
  この製造方法によると、2本のロール間を通過させることで、容易に加熱加圧できるとともに、ヒートロールの温度、通過速度やロール間の隙間等の条件の選択によって、発泡層の平滑性や厚み等の特性を調整することができる。
【0033】
  好ましい製造方法では、前記樹脂溶液が、ウレタン樹脂溶液であり、前記基材および前記平滑部材が、樹脂フィルムである。
【0034】
  上記のような製造方法によれば、発泡層が形成された基材を平滑部材で挟んで、加熱加圧した後、平滑部材を剥離するので、被加工物を保持する保持面となる発泡層の表面は、従来例に比べて平滑なものとなり、被加工物を保持するための吸着保持力が向上する。また、発泡層の表面および裏面のいずれもバフ加工を施さないので、気泡(ポア)が開口して形成される孔内に、バフ粉が残留するといったこともない。
【0035】
  さらに、発泡層の表面には、平滑で緻密な層が形成されるので、研磨加工の際の研磨液の浸透が、表面の緻密な層によって阻止されることになり、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、両面テープから剥がれるのを抑制することができる。
【0036】
  また、発泡層の表面は、気泡が潰されて緻密な層となっているので、表面の強度が高まり、破断しにくいものとなる。