【課題を解決するための手段】
【0009】
本課題は、本発明の主請求項に基づく三端子素子によって解決される。別の有利な実施形態は、それを参照する従属請求項から明らかとなる。
【0010】
本発明の範囲内において、三端子素子を開発した。その素子は、ソース電極と、ドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極の間を接続する、イオンの供給及び/又は除去によって電子伝導率が変化する材料から成るチャネルとを備えている。
【0011】
この関係において、電子伝導率とは、場合によっては、個々の電子の場所にクーパー対が発生する、チャネル内に存在する超伝導特性であるとも理解する。本発明の意味においては、p型にドーピングした半導体の正孔の伝導率も電子伝導率であると理解する。
【0012】
本発明による三端子素子は、ゲート電極と接触するイオン貯留域を備えており、それは、ゲート電極に電圧を印加した場合に、チャネルとイオンを交換できるように、チャネルと接続されている。イオン貯留域とチャネルの間でイオンが移動すると、チャネル内の可動イオンの濃度が変化する。このようなドーピングは、チャネルの伝導率を変化させる。ドーピングの小さい変化は、チャネルの伝導率を何倍も変化させるのに全く充分である。この場合、イオン貯留域は、電子的に導電性である限り、同時にゲート電極としても充分に動作できる。
【0013】
イオン貯留域とチャネルに存在するイオン全体をイオン貯留域とチャネルに分布させることによって、三端子素子に情報を保存できることが分かった。好適な電圧をゲート電極に印加するでイオンの分布を変化させることによって、本素子に情報を保存できる。ソース電極とドレイン電極の間の電気抵抗を測定することによって、この情報を非破壊的に読み出すことができる。ゲート電極への駆動電圧を取り去ると、イオンがイオン貯留域とチャネルの間を充分に遅く拡散する場合、このメモリは不揮発性となる。
【0014】
本素子は、デジタル情報を保存、消去並びに上書きできる。そのために、例えば、論理的な1は、チャネルが小さい電気抵抗を有し、所定の読出電圧を印加した場合に大きな電流が流れることができる状態として符号化できる。そして、論理的な0は、チャネルが大きな電気抵抗を有し、そのため、読出電圧を印加しても小さい電流しか流れない状態として符号化できる。しかし、任意の中間値を保存することもできる。そのため、本素子は、例えば、測定データなどのアナログ情報用のメモリとしても適している。
【0015】
このような形態の保存によって、抵抗変化メモリ(RRAM)の根本的な目標の競合が解決されることが分かった。従来の抵抗変化メモリは二端子素子であり、そのため、同じ電極への電圧の印加によって、情報の保存と読出しが行なわれている。保存のために、大きな書込電圧を印加すると、メモリ材料の抵抗が変化する。そのような変化は、大幅に小さい読出電圧を印加した場合に、その読出電圧によってメモリを通って流れる電流の変化として顕在化する。
【0016】
ここで、書込電圧は、メモリのサイズと電子的な要件によって数ボルトに制限される。他方では、充分な信号対雑音比でメモリ材料の抵抗を測定できるためには、読出電圧を充分に大きくしなければならない。従って、書込及び読出電圧を凡そ一桁だけ引き離すことができる。
【0017】
このような抵抗変化メモリでは、同時に、確かに書込電圧の印加によって数ナノ秒以内にスイッチングできるが、読出電圧を常時印加した場合でも、その状態が少なくとも10年間安定し続けることを目標としている。そのため、一桁だけの電圧の相違に基づき、スイッチング時間特性における約10桁の違いを達成するものとしている。このような目標の競合は、当業者には「電圧と時間のジレンマ」として知られている。
【0018】
本発明では、情報を保存するために、追加のゲート電極が配備されている。チャネルとイオン貯留域におけるイオンの分布は、それに対応する駆動電圧をゲート電極に印加した場合に、そして、その場合にのみ変化する。それに対して、ソース電極とドレイン電極の間に印加される読出電圧は、読出し時にチャネルとイオン貯留域の間の電界を上昇させないので、イオンの分布に影響を与えない。それに応じて、読出しと書込みのために大きく異なる電圧レベルを規定する必要も全く無い。スイッチングの負担が有利に軽減される。しかし、読出し時にも、書込み時にイオン貯留域とチャネルの間を流れる電流よりも大幅に大きな電流がチャネルを通して流れる可能性が有るが、それによって、チャネルとイオン貯留域の間のイオンの交換が開始されることはない。
【0019】
イオン貯留域とチャネルの間のイオンの移動を始動するために必要な電圧よりも低い電圧をゲート電極に印加した場合、本素子は、電界効果トランジスタと同様に、増幅器として動作し、そのような増幅器として使用できる。
【0020】
本発明の特に有利な実施形態では、イオン貯留域は、標準状態で固体である。それを結晶、アモルファス、さもなければ、例えば、ポリマーとすることができる。その場合、イオンは、基本的にイオン貯留域内、並びにイオン貯留域とチャネルの間を拡散することによってのみ移動できる。例えば、液体又は気体状のイオン貯留域の対流などの、それ以外の移動機構は、拡散よりも有利な機構ではない。また、温度と関連して電圧をゲート電極に印加することによって、拡散を制御することが可能である。
【0021】
基本的に、電荷の中立性を維持しつつ、チャネルに陽イオン及び/又は陰イオンを放出する如何なる材料もイオン貯留域として適している。特に、イオン価が可変である少なくとも一つの陽イオン及び/又は陰イオンを有する材料が、そのような能力を持っている。そのような陽イオン及び/又は陰イオンには、別の種類のイオンが緩く結合するか、或いは同じ種類のイオンのために非占有場所を提供できる。そして、そのような種類のイオンは、比較的小さい活性化エネルギーにより移動して、イオン貯留域とチャネルの間で交換できる。特に、イオン貯留域とチャネルの間で交換されたイオンは、この交換時に酸化又は還元、或いはイオン化又は消イオン化される。
【0022】
有利には、イオン貯留域、イオン伝導体及び/又はチャネルは、イオン貯留域とチャネルの間でのイオン交換時に変化しない結晶構造を有する。それに代わって、イオン貯留域、イオン伝導体及び/又はチャネルをアモルファスとすることもできる。
【0023】
イオン貯留域、イオン伝導体及びチャネルの多くの固体特性、特に、電子及びイオン伝導率がそれぞれの結晶構造に依存することが分かった。イオン貯留域とチャネルの間のイオンの移動によって、その材料の結晶構造が変化した場合、固体特性が変化する。しかし、ここで、巧く構成された結晶構造は、通常製作時に負担のかかる技術で材料に設定されるが、動作時には最早自動的に再生できない。そのため、イオン貯留域とチャネルの間でのイオン交換時における結晶構造の如何なる悪化も、各材料の非可逆的な消耗を意味する。従って、イオン貯留域、イオン伝導体及び/又はチャネルの結晶構造が動作時に変化しないか、或いは各材料がアモルファスであるために当初から存在しない場合、本素子は、特に多くの回数の書込サイクルに耐えられる。特性が巧く構成された結晶構造に依存しないアモルファス材料は、本素子を製造する場合に、プロセスパラメータに関する余地が著しく大きくなるとの追加の利点を提供する。
【0024】
巧く構成された結晶構造では、結晶構造全体を変更することなく、イオンを収容するとともに、再び排出できる場所を設けることができる。例えば、イオン貯留域の材料内における格子の隙間にイオンを差し込むことができる場合、イオン貯留域の結晶格子の空いた場所にイオンを配置するか、或いは(例えば、転位、点欠陥、粒界、積層欠陥などの)結晶欠陥に沿ってイオンを動かすことができる。
【0025】
使用温度及びゲート電極とチャネルの間の電圧降下により規定される動作電界強度におけるイオン貯留域のイオン移動度は、殆どチャネルの伝導率を変化できる速度によって決まる。
【0026】
イオン伝導体がイオン貯留域と同じでない場合、ゲート電極とチャネルの間の電位差が主にイオン伝導体によって降下し、そのため、それがイオン伝導体を通してイオンを移動させるための活性化エネルギーを提供するように、イオン貯留域は充分に大きな電子伝導率を有するものとする。
【0027】
しかし、イオン貯留域が同時にイオン伝導体である場合、それは、ソース電極からチャネルを通ってドレイン電極までの電流パスを短絡させないために、小さい電子伝導率しか持たないものとする。イオン貯留域とチャネルの間でのイオンの交換によって起こるチャネル内の電子伝導率の変化を無効にしないために、この交換時に、イオン伝導体としても動作するイオン貯留域の電子伝導率が、チャネルの電子伝導率よりも少なくとも一桁悪く変化するものとする。
【0028】
特に、イオン伝導率が大きな結晶又はアモルファスの固体がイオン貯留域として適している。結晶の固体とは、特に有利には、結晶が立方体又は層の形状で構成された灰チタン石の構造である。そのような材料の例は、SrFeO
3-x とLaNiO
3-x である。
【0029】
SrFeO
3-x では、鉄が2+、3+、それどころか4+として出現できる。この場合、酸素含有量は、SrFeO
2 (Fe
2+)からSrFeO
2.5 (Fe
3+)を経てSrFeO
3 (Fe
4+)まで連続的に変化する。この場合、組成が化学量論的組成から大幅に逸脱しない限り、結晶格子は歪むが、灰チタン石の構造は維持される。そのため、この材料は、構造を大きく変化させずに、相当な量の酸素を収容又は排出できる。それは、例えば、LiFePO
4 などのLiイオン蓄電池内のリチュウムイオン用のメモリ材料と同等の物を構成する。LiFePO
4 内のリチュウム含有量に代わって、SrFeO
3 内の酸素含有量を変化させ、電荷の中立性を維持するために、両方の場合において、鉄イオンの酸化数を変化させる。
【0030】
基本的に、貴金属は、チャネル又はイオン貯留域としてのp型の酸化物と接触させるための電極として特に良く適している。それに対して、インジウムやアルミニウムなどの卑金属は、(例えば、セリウムをドーピングしたNd
2 CuO
4 などの)n型の酸化物と接触させるための電極として特に良く適している。La
2 CuO
4 、SrRuO
3 又はLaNiO
3 などの電気伝導率が大きい酸化物は、汎用的に使用可能な電極材料である。これらの酸化物、例えば、La
2 CuO
4 の酸化物は、例えば、Sr又はBaなどの二価の陽イオンを用いてp型にドーピングするか、さもなければ、セリウムなどの四価の陽イオンを用いてn型にドーピングできる。そして、異原子を用いたドーピングは、それぞれ酸素の不足又は過剰によるドーピングよりも大幅に大きく電子伝導率に寄与する。そのため、標準的に導電性の酸化物の伝導率は、異原子を用いたドーピングによって、殆ど酸素含有量に依存しなくなる。しかし、電極は、高温超伝導体とするか、或いはここで提示した材料の組合せから構成できる。
【0031】
有利には、チャネルによってブリッジジングされるソース電極とドレイン電極の間の間隔は、20nm〜10μm、有利には、20nm〜1μmである。有利には、チャネルは、3〜50nm、有利には、5〜20nmの厚さの薄い層として構成される。これらの措置は、個別に、或いは組み合わせて、チャネルの容量を低減し、そのため、電気抵抗の変更(書込み)のためにも、測定(読出し)のためにも移動しなければならない電荷量を低減する。それによって、書込みと読出しの速度が有利に上昇される。
【0032】
本発明の特に有利な実施形態では、イオン貯留域は、電子伝導率がチャネルよりも少なくとも二桁小さいイオン伝導体を介して、チャネルと接続される。そして、拡散用の駆動力としての電圧をゲート電極に印加していない場合のチャネルとイオン貯留域におけるイオンの分布が特に安定している。経験による式として、イオン伝導体の固有抵抗r
L とチャネルの固有抵抗r
K に関して、次の式が成り立つ。
r
L > r
K *l
2 /(d
L *d
K )
ここで、d
L とd
K は、イオン伝導体とチャネルの厚さであり、lは、ソース電極とドレイン電極の間のチャネルの長さである。チャネルを短くした場合、イオン伝導体の所要の固有抵抗r
L は指数関数的に低下する。本素子を横方向に関して小型化することが有利な場合、それによって、多くの材料がイオン伝導体として使用可能となる。
【0033】
イオン貯留域がチャネルとの間で酸素イオンを交換できる、本発明の別の特に有利な実施形態では、ゲート電極とチャネルの間の電位差は、イオン交換用の駆動力として特別な意味を持つこととなる。全ての周知のイオン伝導体では、酸素イオンは、室温において、駆動力としての電界が充分に大きくなくても測定不可能な程ゆっくりとしか拡散しない。従って、例えば、電解質を通して酸素イオンを移動させるための駆動力として、燃料電池によって発生した1ボルト規模の電圧だけを利用できる固体電解質燃料電池は、800〜1,000°Cの規模の温度で動作しなければならない。
【0034】
しかし、燃料電池では、イオン伝導体は、数百マイクロメートルの厚さを有する。それに対して、本発明による三端子素子では、イオン伝導体は、有利には、100ナノメートル以下、更に有利には、50ナノメートル以下、特に有利には、30ナノメートル以下の厚さを有する。イオン伝導体を介して降下する電圧が同じ場合、100ナノメートルの厚さは、電界を千倍増幅させる。そのような電界は、イオンを移動させるための活性化エネルギーを提供するので、その移動は、指数関数的に増大する。そのため、室温においても、三端子素子への情報の書込みが可能である。
【0035】
イオン伝導率と比べて大幅に小さい、イオン伝導体の電子伝導率は、ゲート電極に印加された電圧全体がイオン貯留域とチャネルの間に電界を形成するために使用できるとの更に別の作用効果を有する。イオン伝導体が電子を良好に伝導する場合、電圧は部分的に短絡されて、イオンを交換するための駆動力としては、一層限定された形でしか使用できない。更に、並列に接続された貯留域によって、チャネルの短絡が防止される。
【0036】
イオン伝導体、イオン貯留域及び/又はチャネルとしては、それぞれ固体電解質が特に適している。ちょうど一つの固体電解質によって、良好なイオン伝導率をイオン貯留域とチャネルの間の良好な電子絶縁と組み合わせ可能となることが分かった。特に、電子伝導率が小さい如何なる安定した酸化物においても、ゲート電極とチャネルの間の電位差がそのための充分な大きさの電界を提供する場合、基本的にイオンの移動を強制できる。そのような材料の例は、SrTiO
3 、Sr
1-x Ba
x TbO
3 又はAl
2 O
3 である。
【0037】
有利には、固体電解質は、400°C以上の温度での酸素イオンを拡散させるための活性化エネルギーが1eV以内、有利には、0.1eV以内の材料である。そのような材料の例は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)とMn及び/又はMgをドーピングしたLaGaO
3 である。そのような材料では、酸素イオンは、格子の隙間を用いた場所の交換によって移動する。この場合、イオンはポテンシャル障壁を克服しなければならない。本発明による素子が通常使用される室温は、そのようなポテンシャル障壁を克服するのに充分な活性化エネルギーを提供しない。従って、酸素の移動は起こらず、素子に書き込まれた情報は室温で長時間安定している。ゲート電極への電圧の印加によって生成される、イオン伝導体内の電界が、漸くイオン貯留域とチャネルの間でイオンを交換するための活性化エネルギーを提供する。この場合、イオン電流は、式I=I
0 *exp(−[ΔH−0.5*q*d*E]/[k*T])で表され、ここで、Iは電流、I
0 は比例係数、ΔHは占有格子場所から非占有格子場所に飛躍させるための活性化エネルギー(1eVの規模)、qは移動したイオンの電荷の絶対値(電気素量の数倍)、dはイオンを占有格子場所から非占有格子場所に飛躍させる距離(200pmの規模)、Eは電界強度、kはボルツマン定数、Tはケルビン単位での温度である。電界強度が小さい範囲では、即ち、例えば、イオン伝導体の重要な用途としての高温燃料電池(SOFC)では、この電流が、ほぼ電界強度に比例して、イオン伝導体が、オームの法則に従う。しかし、本発明と関連する大きな電界強度の範囲では、そのような電界が活性化エネルギーに大きく寄与する。そのため、電界強度は、0.1〜1GV/mの範囲内である、即ち、イオンをクーロンの力の方向における隣接する空きの場所に飛躍させる場合、その飛躍のためのエネルギー障壁が1/10以下に低減され、そのことが移動を数桁加速させる。
【0038】
本素子に関して、SOFCでの使用には大き過ぎる電子伝導率を有する材料も考慮の対象となる。チャネルが短くなる程、イオン伝導体の伝導率が大きくなる可能性が有る。活性化エネルギーは、転位、粒界、双晶境界、積層欠陥及びそれ以外の広範な格子欠陥において特に小さく、そのため、そのような欠陥に沿った移動が容易となる。
【0039】
有利には、固体電解質は、アモルファス材料である。有利には、それは結晶化傾向が無く、広い温度範囲で化学的に安定している。そして、固体電解質には、基本的に特性を瞬間的に大きく変化させる粒界、転位及びそれ以外の欠陥個所が無い。即ち、その特性は空間的に均一である。材料が結晶秩序を形成する傾向が無い場合、多数回の書込みサイクル後でも、前記の種類の欠陥個所は形成されない。そのため、その特性は、長期間安定しており、動作中に劣化しない。そのような固体電解質の例は、GdScO
3 、LaLuO
3 及びHfO
2 である。GdScO
3 の薄い層は、1,000°Cまでの温度でも短い時間(10秒〜20秒)安定しており、アモルファス状態に留まっている。
【0040】
有利には、固体電解質は、開放された構造の、即ち、イオンがドリフトできる格子の隙間又はチャネルが大きい酸化物である。そのような材料の例は、WO
3 とCBN−28(Ca
0.28Ba
0.72Nb
2 O
6 )である。
【0041】
有利には、イオン伝導体及び/又は固体電解質は、異方性のイオン移動度を有する。そのためには、それは、例えば、ドーピングエージェントを差し込むための一次元のチャネルを備えることができる。しかし、それは、異なる材料の間に境界面を備えることもでき、その面に沿って、イオンがイオン貯留域とチャネルの間を二次元方向に動くことができる。有利には、チャネル及び/又は境界面は、チャネルを通る電流方向に対してほぼ垂直にチャネルに当接する。そして、基本的にチャネル及び/又は境界面が突き当たるチャネル内の場所だけにイオンが注入されるか、或いはそこから取り出される。即ち、例えば、ジョセフソン接点内の弱結合部のイオンン含有量を目的通り調整でき、それによって、弱結合部によって分離された超伝導電極を変化させない。
【0042】
異方性のイオン移動度は、例えば、イオン伝導体又は固体電解質が層構造を有し、それらの層に沿ったイオンの移動をそれらの層に対して垂直方向の移動と比べて少なくとも一桁促進することによって実現できる。そのような材料の例は、イットリウム・バリウム・酸化銅(YBa
2 Cu
3 O
7-x )とランタン・バリウム・酸化銅(La
2 CuO
4+x )である。
【0043】
そのようなイオン伝導体又は固体電解質が隣接する材料とイオンを交換するようにする場合、隣接する材料との境界面を層と交差させることが有利である。それは、成長パラメータ、特に、基板温度と共に基板表面の結晶方向を調整することによって制御できる。そのような成長パラメータは、非特許文献2に記載されている。
【0044】
電子伝導率は、通常イオン伝導率と同じ有利な方向を有する。
【0045】
酸素イオンの代わりに、それ以外のイオンをスイッチングのために使用することもできる。銀の陽イオンのための好適な固体電解質は、例えば、ヨウ化銀、ヨウ化銀ルビジウム及び硫化銀である。アルカリ陽イオンに関しては、WO
3 又はNa
3 Zr
2 Si
2 PO
12(NASICON)が検討の対象となる。ナフィオンなどの所定のポリマーは、大きな陽子伝導率を有する。
【0046】
書込みのためには、伝導されたイオンの全数が重要である。そのような全数を達成するためには、長い時間に渡って、ゲート電極に低い電圧を印加するか、或いは高い電圧を短い時間印加することができる。大きな電界強度の範囲では、固体電解質を通るイオンの移動は非線形効果となる。固体電解質を介して大きな電圧が降下した場合、時間単位当たり指数関数的に増大する数のイオンが移動する。そのため、高い書込電圧の短いパルスをゲート電極に印加すれば、書込み速度を大幅に上昇できる。
【0047】
ゲート電極とチャネルは、ゲート電極とチャネルの間の電荷移動によって充電されるコンデンサを構成する。イオン伝導体の電気抵抗が非常に大きい場合、このコンデンサは非常にゆっくりとしか放電しない。そして、高い書込電圧の短いパルスを印加した後、著しく低い電圧の逆極性の長いパルスを印加することが有利な場合が有る。それは、ゲート電極とチャネルから成るコンデンサを放電させるが、その前に実施されたゲート電極とチャネルの間でのイオンの移動を小さい割合でしか再び逆行させず、その理由は、そのような移動は、低い電圧では指数関数的にゆっくり推移するからである。
【0048】
有利には、イオン伝導体内の電圧は、イオン貯留域からチャネルへの経路に沿って非対称的に推移する。そのような電圧の推移を如何にして実現できるかは、例えば、特許文献1に記載されている。そして、イオン伝導体を通してイオンを移動させるための活性化エネルギーは、移動方向に依存する。一方でのイオン貯留域からチャネルへのイオンの移動と他方でのチャネルからイオン貯留域へのイオンの逆方向の移動に関して、著しく異なる活性化エネルギーを設定する。それによって、例えば、イオン貯留域からチャネルへのイオンの移動は、その逆方向の行程と比べて有利にできる。そして、活性化エネルギーによっては、イオン伝導体が、一つの方向にだけイオンを通し、そのため、イオンの整流器として作用する。それは、例えば、イオン伝導体及び/又はチャネルを少なくとも三つの多層から製造して、その電圧の推移が超格子を形成することによって実現できる。
【0049】
イオン貯留域を同時にイオン伝導体とすることができ、それは、三端子素子の製造を容易にする。しかし、その場合、荷電状態がイオンにより変化しなければならないイオン貯留域としての特性と、化学量論が変化せず、小さい電子伝導率を維持すべきイオン伝導体としての特性との間に目標の競合が生じる。電荷の中立性を維持しつつ、陽イオン及び/又は陰イオンをチャネルに放出でき、それにも関わらず、同時に比較的小さい電子伝導率を維持できる材料の例は、LaMnO
3 、EuScO
3-x 、EuTiO
3-x 及びLaNiO
3-x である。これらの材料の酸素含有量は、陽イオンのイオン価を変化させることによって変更できる。
【0050】
例えば、TiO
2+x などの多くの酸化物は、酸素含有量の増減によって、電子的にn型の導体(酸素不足、x<0)から、絶縁体(化学量論的組成、x=0)を経て、電子的にp型の導体(酸素過剰、x>0)にまで変更できる。従って、本発明の特に有利な実施形態では、チャネルは、イオン貯留域との間でのイオンの導入又は排出によって電気抵抗が少なくとも一桁変化する金属酸化物を有する。それは、例えば、金属酸化物が化学量論的組成において電気絶縁体であり、その組成から逸脱した場合に導電性(又は非導電性)となることによって実現できる。有利には、そのような金属酸化物は、灰チタン石を有する。そして、それは、基板としての単結晶の酸化物上のエピタキシャル層システムとして特に良好に実現できる。基板としては、例えば、SrTiO
3 、LaAlO
3 、MgO又はNdGaO
3 が適している。
【0051】
チャネルとイオン貯留域の間でメモリ用途に関して充分な速度でイオンを交換できるためには、チャネルもイオン貯留域も、1GV/mの電界強度で少なくとも2*10
-8Sm
-1の充分なイオン伝導率を持つべきである。具体的な用途に必要な伝導率は、周知の伝導法則により、移動すべきイオン数、実現すべき電界強度、目標とするスイッチング時間及び幾何学的形状因子から計算できる。例えば、超伝導量子干渉計(SQUID)内でのジョセフソン接点を用いた大抵の用途に対しては、例えば、スイッチング時間をメモリよりも著しく長く、1分のオーダーにまですれば、それで充分である。
【0052】
本発明の特に有利な実施形態では、イオン貯留域とチャネルが同じ型(p型又はn型)にドーピングされた半導体で構成されるか、或いはイオン伝導体が逆の型にドーピングされた半導体で構成される。そして、チャネル、イオン貯留域及びイオン伝導体に関しても、同様の材料、そのため製造時に互いに互換性の有る材料を使用できる。それどころか、同じ材料を使用することもでき、そのため、チャネル、イオン貯留域及びイオン伝導体の間の違いが僅かにドーピングの違いだけとなる。そして、化学量論的に見て、この違いは、使用するドーピングエージェントの量だけであり、酸化物の場合のドーピングエージェントの濃度は、通常僅か数パーセントの範囲である。チャネルとイオン伝導体の間及びイオン伝導体とイオン貯留域の間のpn遷移域は、更に、チャネルの電気絶縁体の役割を果たすことができる。
【0053】
本発明の別の有利な実施形態では、イオン伝導体を全く省略できる。その実施形態では、イオン貯留域とチャネルは、互いに逆の型(pとn)にドーピングされた半導体で構成される。そして、イオン貯留域は、イオンを好適に分布させた場合、チャネルの一部として動作できる。例えば、イオン貯留域がn型の導電性であり、チャネルがp型の導電性である場合、酸素イオンがn型の導電性領域からp型の導電性領域に移動すると、イオン貯留域とチャネルの伝導率が同時に上昇する。酸素イオンが逆方向に移動すると、それに応じて、イオン貯留域とチャネルの伝導率が同時に低下する。
【0054】
本発明の特に有利な実施形態では、チャネルの少なくとも一つの区画は、転移温度を有し、その温度以内では超伝導となる。そして、この超伝導体の特性は、従来技術に基づき材料の定数によって決まり、ゲート電極への電圧の印加によって変更できる。特に、臨界電流と、臨界電流を上回った時に出現する常伝導抵抗とを変更できる。即ち、例えば、テラヘルツ周波数用の電波源又は検出器、或いは発振器における共振回路を変更できる。それどころか、薄いフィルムを超伝導状態と常伝導状態の間で切り換えることができる。従来技術に基づき、単に局所的な電界、磁界又はレーザー照射によって、超伝導体とジョセフソン接点を常伝導状態と超伝導状態の間で切り換えることができる。本発明により実現可能な切換と異なり、これらの効果は、純粋に電子的な性質であり、従って、揮発性である。それに対して、本発明では、超伝導体の特性を調整できる、不揮発性の反転可能なスイッチ又は素子を実現できる。
【0055】
超伝導性の区画は、単結晶として実現できる。特に、ソース電極とドレイン電極の間のチャネル全体を超伝導性の単結晶として実現できる。しかし、超伝導性の区画は、例えば、ソース電極とドレイン電極の間の電流パスに対して平行としないことによって、電気的に直列に接続された多数の欠陥を含むこともできる。それらは、特に、電流パスに対して交差させることができる。そのような欠陥は、特に、粒界、積層欠陥及び双晶境界とすることができる。そして、イオン伝導体及びチャネルからのイオンの移動は、有利には、欠陥の所で行なわれ、そのスイッチング効果は、弱結合部としての粒界の直列接続によって数倍となる。欠陥を電流パスに対して平行な方向に向けないことは、ソース電極とドレイン電極の間での短絡の発生を防止する。
【0056】
この区画が超伝導性でない場合でも、例えば、臨界温度T
c 以上に置かれるか、或いは全く一般的に大部分が超伝導材料から構成されない場合でも、チャネルの電気抵抗は、全く粒界へのイオンの導入によって決まり、そのため、そのような導入によって目的通り変更できる。
【0057】
それに代わって、欠陥は、チャネル内の電流方向に対して平行に延びることもできる。そして、それは、確かに弱結合部としての役割を果たさないが、チャネルとイオン伝導体又はイオン貯留域の間でのイオン交換を促進する。
【0058】
イオンの移動による超伝導特性の切換は、特に、本発明の別の特に有利な実施形態で用いられる。この実施形態では、転移温度以内で超伝導となる、障壁で分離されたチャネルの二つの区画が、イオン貯留域とイオンを交換できる。特に、この障壁を弱結合部とすることができ、そのため、チャネルの両方の区画は、弱結合部と共にジョセフソン接点を形成する。この場合、弱結合部は、特に、超伝導区画の間の粒界内に形成できる。そして、この障壁の巨視的な伝導率も、超伝導区画の間をトンネリングするクーパー対に対する量子力学的な障壁の高さも、ゲート電極への適切な電圧の印加による弱結合部との間のイオンの導入及び排出によって調整できる。このようにして、特に、各ジョセフソン接点の基本的なパラメータとしての臨界電流と常伝導状態の抵抗を調整できる。そのようにして変更可能なジョセフソン接点は、量子電子素子に、特に、超伝導量子干渉計(SQUID)又はテラヘルツ電子機器用の高周波素子、例えば、0.1〜10THzの周波数帯域の放射線用の電波源(発振器)又は検出器に使用できる。そのような周波数帯域の放射線は、例えば、ヒルベルト分光器を用いた試料の化学分析に必要である。本発明による変更可能なジョセフソン接点は、高速単一磁束量子(RSFQ)技術に基づくデジタル回路又は量子コンピュータでも使用できる。
【0059】
転移温度は、有利には、77K以上である。そして、液体窒素による冷却が可能である。本発明による三端子素子で使用できる高温超伝導体の例は、クプラート、特に、化学式RBa
2 Cu
3 O
7-x のクプラート又はアルカリ土類をドーピングした化学式R
2 CuO
4+x のクプラートであり、ここで、Rは希土類金属又は希土類金属の組合せである。Rは、特に、Y、Nd、Ho、Dy、Tb、Gd、Eu、Smのグループの中の希土類金属とすることができる。Bi、Tl及びHg−Cu酸化物も高温超伝導体として使用できる。鉄をベースとするプニクチドとオキシプニクチドも、充分に高い転移温度が達成される場合には検討の対象となる。鉄プニクチドに関しては、これまで約55Kまでの転移温度が達成されている。
【0060】
本発明の別の有利な実施形態では、チャネルは、酸素含有量又はフッ素含有量の変更によって、常伝導体から超伝導体に、特に有利には、半導体にも変更できる材料を有する。そのような材料は、例えば、更に一つ以上のアルカリ土類金属を含む鉄又は銅の酸化物、例えば、LaCuO
4+x 、(Sr,Ba,Ca)CuO
2+x 、La
2 CuO
4 F
x 又は(Sr,Ba,Ca)CuO
2 F
x などである。
【0061】
チャネル、イオン貯留域及び/又はイオン伝導体の特性は、目的通り生成した欠陥(粒界、転位、積層欠陥)と目的通りの方向を向いた結晶格子によって設定できる。即ち、例えば、ジョセフソン接点は、一つの同じ超伝導材料から成る、結晶の向きが異なる二つの区画を互いに隣接させて配置することによって、チャネルとして実現できる。そして、そのような二つの区画の間の粒界が障壁を形成する。更に、結晶格子は、イオン移動度が大きな方向がスイッチング電界の方向と一致するような方向に向けることができる。
【0062】
特に、高温超伝導のクプラートは、粒界・ジョセフソン接点を実現するために特に有利である。このクプラートでは、酸素の移動は、有利には、粒界に沿って、並びに層の間のCuOチェーン面内で起こる。ここで、それらの層がチャネルとイオン伝導体の間の境界面に対して平行な方向、特に、基板の結晶方向に対して平行な方向を向いている場合、数個のイオンしかチャネルの超伝導区画とイオン伝導体の間の境界面を通過できない。そして、イオン伝導体を介したチャネルとイオン貯留域の間でのイオンの交換は、基本的にジョセフソン接点の弱結合部を同時に形成する、チャネルの超伝導区画の間の粒界に集中する。しかし、そのような弱結合部の特性が、まさにイオン交換によって変更すべきことである。この効果は、チャネル内の粒界がイオン伝導体内の粒界と接する場合に一層強化できる。
【0063】
有利には、弱結合部のイオン伝導体と逆側の境界面は、第二のゲート電極と接触する。このゲート電極も、有利には、第一のゲート電極に印加される電圧と異なる極性の電圧を印加されると、イオン伝導体を介して降下する電圧全体を、そのためイオンの移動を増大できる。
【0064】
チャネル、イオン貯留域及び/又はイオン伝導体の材料は、純粋な形で存在するか、さもなければ、例えば、電気伝導率又はイオン伝導率などの特性を最適に調整するために好適な元素でドーピングすることができる。それらは、化学量論的な組成で存在するか、さもなければ、そのような組成と比べて、例えば、酸素などの一つ以上の元素の含有量を増減できる。特に有利には、チャネルは、チャネルとイオン貯留域の間でイオンを交換できる元素の含有量を増減できる。そのようにして、三端子素子の動作点を予め調整できる。そして、ゲート電極への電圧の印加によって、そのような動作点の周りでチャネルの特性を変更できる。
【0065】
チャネル、イオン貯留域及び/又はイオン伝導体は、基板上の薄い層として実現できる。それらは、例えば、スパッタリング(特に、高圧酸素スパッタリング)、蒸着、PLD又はCVDによって製造できる。
【0066】
本発明の特に有利な実施形態では、チャネルは、伝導率が少なくとも一桁悪い二つの材料の間の導電性の境界層で構成される。この境界層は、例えば、二次元の電子ガスとすることができる。しかし、それは、例えば、逆の型にドーピングされた互いに隣接する材料の間の相互拡散によっても製作できる。これらの材料は、特に、半導体とすることができる。
【0067】
導電性の境界層は、例えば、ランタン・アルミニウム酸化物(LaAlO
3 )とストロンチウム・チタン酸化物(SrTiO
3 )の間に製作される。それは、大きな電子移動度を持つだけでなく、同時に極めて薄い。そのため、そのようなチャネルの伝導率を非常に大きく変化させるためには、少数のイオンだけを導入又は排出しなければならない。それは、非常に短い時間で実現可能であり、そのため、そのようなチャネルを備えた本素子は、特に速いスイッチとなる。
【0068】
特に、本素子を用いて、従来のDRAMと同様に破壊的に読み出すメモリを実現する場合、出来る限り速いスイッチング速度、そのため書込速度が重要である。そして、読出し毎に情報を新たに書き込む必要がある。この場合、本発明による素子における非常に多くの回数の書込みサイクルに渡る保存の可逆性も有利である。
【0069】
三端子素子への情報の書込みを容易にするために、チャネルへの大きな電流パルスの印加又はそのために配備された別個の熱伝導部によって、この素子を短時間加熱できる。書込み時に温度が重要となるイオン伝導体は、特に、チャネルの抵抗による熱と、書込みのためにゲート電極に印加される電流パルスとによって同時に加熱できる。
【0070】
本素子は、例えば、高精度のリソグラフィーと化学的及び/又は物理的エッチング法により製造できる。La
2 CuO
4 とYBa
2 Cu
3 O
7-x のための好適なエッチング液は、例えば、エタノールの臭素溶液である。一般的に、混合酸化物の幾つかが加水分解して、水酸化物を形成し、それが表面を傷つけることとなるので、水を含まないエッチング液が有利である。
【0071】
有利には、本素子は、不活性ガスの環境下で製造される。それによって、チャネル、イオン貯留域及び/又はイオン伝導体が周囲環境から湿気及び/又はCO
2 或いはそれ以外のガスを吸収できることが防止される。湿気の吸収と表面のその他の劣化を防止するために、製造後で取出前に、例えば、ストロンチウム・チタン酸化物から成る薄い被覆膜を本素子に配備できる。本発明者の研究において、1nmのストロンチウム・チタン酸化物でも有効であることが分かった。
【0072】
本素子は、所定の環境での製造後に熱処理できる。それによって、例えば、それぞれドーピングすべき材料内にドーピングエージェントの相互拡散を引き起こして、材料内にドーピングを均一に分布させることができる。しかし、例えば、酸素イオンでイオン貯留域を充たすこともできる。それが酸素分子だけでは不可能である場合、そのような充填をマイクロ波プラズマ、酸素原子又はオゾンによって支援できる。
【0073】
一般的に、本素子の動作のためには、必ずしもイオン貯留域、イオン伝導体及びチャネルの間の境界面を絶対的に急峻にする必要はない。むしろ、全ての構成要素を多層又は勾配層として実現することもできる。
【0074】
イオン貯留域、イオン伝導体及びチャネルの材料は、通常元素ではなく、化合物である。それらの化合物を基板上にエピタキシャル成長させた場合、各表面は、エピタキシャル成長が終了した時の元素を過剰に有することとなる。そのような元素は、次に積層させる構成要素のためのドーピングエージェントとしての役割を果たすことができる。
【0075】
本素子を製造する場合、積層させたイオン伝導用材料の親和力は、積層中に基板に機械的な応力を加えることによって、目的通り制御できる。それによって、例えば、チャネルを拡大して、それに沿ってイオンを移動させることができ、それは、イオンの移動を容易にする。
【0076】
以下において、図面に基づき本発明の特徴を詳しく説明するが、それによって、本発明の特徴は制限されない。