【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表するシグナル質量スペクトルデータから質量分析計におけるノイズを代表するノイズ質量スペクトルデータを減算することで当該サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表する修正シグナル質量スペクトルデータを得ることで、質量分析計を用いて質量スペクトルデータを得る方法に関するものである。結果として、修正シグナル質量スペクトルデータでは好ましくはノイズが軽減されている。
【0011】
従って、本発明の第1の態様は、イオン源及びイオン検出器を有する質量分析計を用いて質量スペクトルデータを得る方法であって、
イオン源によって発生したサンプル材料のイオンをイオン検出器によって検出する、少なくとも1回のシグナル獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいて、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表するシグナル質量スペクトルデータを獲得する操作;及び
シグナル質量スペクトルデータから質量分析計におけるノイズを代表するノイズ質量スペクトルデータを減算することで、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表する修正シグナル質量スペクトルデータを得る操作
を含む方法を提供することができる。
【0012】
この方法の結果として、修正シグナル質量スペクトルデータでは好ましくは、ノイズが軽減されている。特に、修正シグナル質量スペクトルデータは、最初に獲得されたシグナル質量スペクトルデータと比較してシステムノイズが軽減されたものとすることができる。
【0013】
好ましくは、方法は、少なくとも1回のノイズ獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいて質量分析計においてノイズを代表するノイズ質量スペクトルデータを獲得する操作を含む。質量分析計を用いてノイズ質量スペクトルデータを獲得することで、ノイズ質量スペクトルデータは、シグナル質量スペクトルデータにおけるシステムノイズを良好に表すことができる。
【0014】
しかしながら、一部の実施形態において、例えばノイズ質量スペクトルデータは比較的早期に、例えば質量分析計を作製した時に獲得又は生成されていることから、当該方法は、ノイズ質量スペクトルデータを獲得する操作を含まない。例えば、シグナル質量スペクトルデータから減算されるノイズ質量スペクトルデータは、事前に記憶されたノイズ質量スペクトルデータ、すなわちシグナル質量スペクトルデータを獲得する前に記憶されている(例えば質量分析計のメモリーに)ノイズ質量スペクトルデータであるかそれに基づくものであることができる。事前に記憶されたノイズ質量スペクトルデータは、例えば平均ノイズ質量スペクトルデータであることができ、シグナル質量スペクトルが獲得される前に、例えば質量分析計の所期事件時又は質量分析計を構築した時に、比較的長期間にわたり(例えば1日より長く)記憶されているものであることができる。事前に記憶されたノイズ質量スペクトルデータを用いることの長所は、シグナル質量スペクトルデータを獲得する都度にノイズ質量スペクトルデータを獲得する必要がないという点である。短所は、例えば電源装置電圧、温度並びに質量分析計でノイズを生じさせる他の物理的及び電子的パラメータが経時的にドリフトし得ることから、事前に記憶されたノイズ質量スペクトルデータが、シグナル質量スペクトルデータを獲得する都度にノイズ質量スペクトルデータを獲得する場合と同等に良好な質量分析計におけるシステムノイズを表すものではない可能性があるという点である。
【0015】
好ましくは、少なくとも1回のノイズ獲得サイクルで、イオン検出器はイオン源からのイオンを検出しない。このようにして、その少なくとも1回のノイズ獲得サイクルでイオン検出器によって検出されるものは、質量分析計におけるノイズを代表するものである。そのようなノイズは、下記で詳細に説明するように、ランダムノイズ又はシステムノイズを含み得る。
【0016】
認められるべき点として、イオン検出器がイオン源からのイオンを検出しないノイズ獲得サイクルは少なくとも二つの異なる方法で実行できる。第1の例として、イオン検出器がイオン源からのイオンを検出しないノイズ獲得サイクルは、例えばサンプル材料をイオン化するためのレーザーが発光されないことから、イオン源がサンプル材料のイオンを発生しないノイズ獲得サイクルによって実行することができる。第2の例として、イオン検出器がイオン源からのイオンを検出しないノイズ獲得サイクルは、例えば、例えばデフレクター及び/又はアインツェルレンズ及び/又はイオンゲートを用いて、イオン源から発生したイオンがイオン検出器に到達するのを妨害することから、イオン源がサンプル材料のイオンを発生させるが、イオン源によって発生したイオンはイオン検出器によって検出されるのを妨害されるノイズ獲得サイクルによって実行することができる。従って、一部の実施形態では、少なくとも1回のノイズ獲得サイクルで、イオン源がサンプル材料のイオンを発生させないか、イオン源はサンプル材料のイオンを発生させるが、イオン源によって発生したそのイオン(サンプル材料のイオン)がイオン検出器によって検出されるのが妨害される。
【0017】
好ましくは、各ノイズ獲得サイクルは、少なくとも1回のノイズ獲得サイクルで、イオン検出器がイオン源からのイオンを検出しないことを除き、各シグナル獲得サイクルと同様に実施可能である。このようにして、ノイズ質量スペクトルデータは、シグナル質量スペクトルデータにおけるシステムノイズを良好に代表することができる。
【0018】
このためには、各ノイズ獲得サイクル及び各シグナル獲得サイクルは好ましくは、例えば質量分析計の1以上の高電圧源で1以上の高電圧パルス(例えば±500V以上、±1kV以上)を発生させる操作;例えば質量分析計の1以上の高電圧源から質量分析計の1以上の構成要素(例えば、イオンゲート、レーザー装置)に1以上の高電圧パルス(例えば±500V以上、±1kV以上)を供給する操作;及び質量分析計の1以上のモーターを動作させる操作のうちの1以上を含む。下記で詳細に説明するように、これらのプロセスは、質量スペクトルデータにおける「アナログ電子ノイズ」の原因となり得るものである。
【0019】
同様に、各ノイズ獲得サイクル及び各シグナル獲得サイクルは好ましくは、イオン検出器の出力に基づいて質量スペクトルデータを生じる電子機器を動作させる操作を含む。この電子機器には例えば、例えばイオン検出器からの出力をコンディショニングするためのアナログ入力部;例えばイオン検出器からの出力(例えば、アナログ入力部によってコンディショニングされたもの)をデジタル化するためのアナログ/デジタル変換器、;及び例えば質量スペクトルデータを記憶するための1以上のメモリーを含むことができる。下記で詳細に説明するように、これらのプロセスは、質量スペクトルデータにおける「デジタル電子ノイズ」の原因となり得るものである。
【0020】
簡潔に言えば、各ノイズ獲得サイクルにおいて、イオン源を用いてサンプル材料のイオンを発生させることをしないか、イオン源を用いてサンプル材料のイオンを発生させるが、イオン源によって発生したイオンはイオン検出器によって検出しない点を除き、各ノイズ獲得サイクルは、各シグナル獲得サイクルと実質的に同じであることができる。例えば、各ノイズ獲得サイクルにおいて、サンプル材料に発光させることでサンプル材料をイオン化するレーザー装置を発光させてサンプル材料をイオン化することは行わない以外は、各ノイズ獲得サイクルは各シグナル獲得サイクルと実質的に同じであることができる。別の例として、例えばデフレクター及び/又はアインツェルレンズ及び/又はイオンゲートを用いて、イオン源によって発生したサンプル材料のイオンがイオン検出器に到達するのを阻まれる以外は、各ノイズ獲得サイクルは各シグナル獲得サイクルと実質的に同じであることができる。
【0021】
好ましくは、特定の瞬間でのイオン検出器からの出力が、その瞬間にイオン検出器によって検出されるイオンの数を代表するものである。例えば、その出力は、イオンがイオン検出器を通過したか及び/又はイオン検出器に当たった特に誘導される電荷又は生じる電流を表すことができ、出力シグナルの振幅はイオン検出器によって検出されるイオンの数を代表するものである。
【0022】
質量スペクトルデータは、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を表すことができるいずれかの形態を取ることができる。実際にはこれは、イオン検出器によって検出されるイオンの数を代表する振幅をイオンの飛行時間又は質量/電荷比と関連付けるデータの形態を取る質量スペクトルデータによって達成することができる。好ましくは、イオンの飛行時間(又は質量/電荷比)は、個別の飛行時間(又は質量/電荷比)間隔又は「ビン(bin)」内に一緒にグループ分けされており、各飛行時間(又は質量/電荷比)「ビン」はある範囲の飛行時間(又は質量/電荷比)を代表するものである。従って、シグナル質量スペクトルデータからのノイズ質量スペクトルデータの減算は、ノイズ質量スペクトルデータの各飛行時間(又は質量/電荷比)「ビン」の振幅をシグナル質量スペクトルデータの相当する「ビン」から減算する操作を含むことができる。
【0023】
本願の文脈において、「ノイズ質量スペクトルデータをシグナル質量スペクトルデータから減算する」とは、実際に、ノイズ質量スペクトルデータをシグナル質量スペクトルデータから除く(減算する)操作又はシグナル質量スペクトルデータをノイズ質量スペクトルデータから除く(減算する)操作を意味するものとする。すなわち、ノイズ質量スペクトルデータからのシグナル質量スペクトルデータの減算は、本願に関しては、シグナル質量スペクトルデータからのノイズシグナル質量スペクトルデータの減算と均等であると見なす。
【0024】
複数のシグナル獲得サイクル及び複数のノイズ獲得サイクルがある場合、簡便には、ノイズ質量スペクトルデータは好ましくは、全てのノイズ質量スペクトルデータ及びシグナル質量スペクトルデータが獲得された後に、シグナル質量スペクトルデータから減算される。あるいは、各ノイズ獲得サイクル時に獲得されたノイズ質量スペクトルデータを、シグナル獲得サイクルの個々のサイクル時に獲得されたシグナル質量スペクトルデータから減算して、修正シグナル質量スペクトルデータを徐々に蓄積することができる。
【0025】
シグナル、ノイズ、又は修正シグナル質量スペクトルデータを、飛行時間又は質量/電荷比に対する振幅を示す質量スペクトルとしてプロットすることができ、その場合に振幅は、所定の飛行時間又は質量/電荷比に関して検出器によって検出されたイオンの数を代表するものである。
【0026】
好ましくは、シグナル質量スペクトルデータは、複数のシグナル獲得サイクル中のイオン検出器の出力に基づいて獲得される。すなわち、シグナル質量スペクトルデータを複数のサイクルにわたって獲得した後に、それからノイズ質量スペクトルデータを減算することができ、サンプル材料の個別のイオンは各シグナル獲得サイクルにおいてイオン源によって発生されるものである。このようにして、シグナル質量スペクトルデータにおけるランダムノイズの割合を低減させることができる。複数のシグナル獲得サイクルのそれぞれの間に獲得された質量スペクトルデータは、例えば積算、加算又は平均化して、シグナル質量スペクトルデータを得ることができる。
【0027】
好ましくは、ノイズ質量スペクトルデータは、複数のノイズ獲得サイクル中のイオン検出器の出力に基づいて獲得される。すなわち、ノイズ質量スペクトルデータを複数のサイクルにわたって獲得した後に、シグナル質量スペクトルデータからそれを減算することができる。このようにして、ノイズ質量スペクトルデータにおけるランダムノイズの割合を低減させることができる。複数のノイズ獲得サイクルのそれぞれの間に獲得された質量スペクトルデータは、例えば積算、加算又は平均化して、シグナル質量スペクトルデータを得ることができる。
【0028】
当該方法は、複数のセグメントでノイズ質量スペクトルデータを獲得する操作を含むことができ、ノイズ質量スペクトルデータの各セグメントは好ましくは、個々の質量/電荷比範囲にわたる質量分析計におけるノイズを代表するものであり、好ましくは少なくとも1回の個々のノイズ獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいて獲得される。複数のセグメントでノイズ質量スペクトルデータを獲得することの長所は、実際に、例えばノイズ質量スペクトルデータを保存するのに要する時間が質量分析計でのイオンの飛行時間より長いために、最初に、全質量/電荷比範囲にわたる質量分析計でのノイズを代表するノイズ質量スペクトルデータをメモリーに保存する(例えば積算によって)のに要する時間がノイズ質量スペクトルデータを得るのに要する時間より長くなる可能性があることを本発明者らは見出したことから、(ノイズ)獲得サイクル間の時間を短縮することができる点である。概してシステムノイズは獲得サイクル間であまり変動しないことから、複数のセグメントでのノイズ質量スペクトルデータの獲得を行うことは可能である。
【0029】
ノイズ質量スペクトルデータを複数のセグメントで獲得する場合、ノイズ獲得サイクル数は、セグメント数の係数だけシグナル獲得サイクル数より多い可能性がある。これは、ノイズ獲得サイクルの「有効」数をシグナル獲得サイクル数と等しくする上で有用である。
【0030】
当該方法はさらに、ノイズ質量スペクトルデータの複数のセグメントをシグナル質量スペクトルデータから減算して、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表する修正シグナル質量スペクトルデータを得る操作を含むことができる。ノイズ質量スペクトルデータの複数のセグメントを組み合わせて複合ノイズ質量スペクトルデータ(例えば、全質量/電荷比範囲にわたる質量分析計におけるノイズを代表するもの)を形成し、次にその複合ノイズ質量スペクトルデータをシグナル質量スペクトルデータから減算することで、それを行うことができる。あるいは、ノイズ質量スペクトルデータの複数のセグメントを個々にシグナル質量スペクトルデータから減算して、個々のセグメントを組み合わせることなく修正シグナル質量スペクトルデータを得ることができる。
【0031】
好ましくは、複数のシグナル獲得サイクル及び複数のノイズ獲得サイクルは、好ましくは連続サイクル間にわずかな差を設けて、例えば1秒以下、より好ましくは100ミリ秒以下、より好ましくは10ミリ秒以下、より好ましくは1ミリ秒以下、より好ましくは100ミクロ秒以下の連続サイクル間の時間差を設けて、質量分析形の連続するサイクルで行う。このようにして、例えば電源装置電圧、温度並びに質量分析計内の他の物理的及び電子的パラメータが経時的にドリフトし得ることから、ノイズ質量スペクトルデータはシグナル質量スペクトルデータにおけるノイズと非常に類似した特徴を有することができ、従ってシグナル質量スペクトルデータから減算して、向上したシグナル/ノイズ比を有する修正シグナル質量スペクトルデータを得ることができる。しかしながら、わずかな時間差で、より良好なシグナル/ノイズ比が得られることが認められたが、より大きい時間差で、例えば数時間又は数日という時間差で、許容されるシグナル/ノイズ比を得ることができることも認められている。
【0032】
複数のシグナル及びノイズ獲得サイクルは、いずれの順序でも行うことができる。しかしながら好ましくは、複数のシグナル獲得サイクルに複数のノイズ獲得サイクルを差し挟んで、すなわちシグナル獲得サイクルをノイズ獲得サイクル間で行うようにするか、その逆とする。このようにして、ノイズ質量スペクトルデータはシグナル質量スペクトルデータにおけるノイズと非常に類似した特徴を有することができることから、シグナル質量スペクトルデータから減算して、向上したシグナル/ノイズ比を有する修正シグナル質量スペクトルデータを得ることができる。しかしながら、複数のシグナル獲得サイクルは、複数のノイズ獲得サイクルとは別個に、すなわち差し挟んでではなく行うことができる。
【0033】
シグナル及びノイズ獲得サイクルを差し挟んで行うか否かとは無関係に、複数のシグナル及びノイズ獲得サイクルは、好ましくは上記のような連続サイクル間にわずかな時間差を設けて、質量分析計の連続サイクルで行う。
【0034】
簡潔に言えば、シグナル獲得サイクル数はノイズ獲得サイクル数と等しいものとすることができる。しかしながら、一部の実施形態では、シグナル獲得サイクル数とノイズ獲得サイクル数は等しくなくても良い。例えばノイズ質量スペクトルデータがセグメントで獲得される場合には(例えば、上記で説明したように)、シグナル数とノイズ獲得サイクル数が異なっていることが有用である可能性がある。
【0035】
シグナル獲得サイクル数がノイズ獲得サイクル数(または「有効」数)と等しくない場合、シグナル質量スペクトルデータ及び/又はノイズ質量スペクトルデータは、データ取得に用いた獲得サイクル数に応じてスケール決定することができる。このようにして、シグナル質量スペクトルデータから減算されるノイズの量は、シグナル質量スペクトルデータに存在する実際のノイズに一致することができる。
【0036】
好ましくは、当該方法は、シグナル質量スペクトルデータを解析するための処理装置に連繋された前処理装置でシグナル質量スペクトルデータからノイズ質量スペクトルデータを減算する操作を含む。処理装置は例えば、TOF質量分析計からの質量スペクトルデータを解析するためのソフトウェアでプログラミングされていても良いコンピュータであることができる。好ましくは、当該方法は、例えば処理装置による後の解析のために、前処理装置から処理装置に修正シグナル質量スペクトルデータを伝送する操作を含む。
【0037】
当該方法は、前処理装置でシグナル及び/又はノイズの質量スペクトルデータを獲得する操作を含んでいても良い。
【0038】
当該方法は、前処理装置における第1のメモリーにシグナル質量スペクトルデータを記憶する操作(例えば積算することで)及び/又は前処理装置における第2のメモリーにノイズ質量スペクトルデータを記憶する操作(例えば積算によってを含むことができる。
【0039】
そのような前処理装置を用いることで、修正シグナル質量スペクトルデータを得てから、それを処理装置によって解析することが可能となる。これによって、処理装置が修正シグナル質量スペクトルデータの取得及び解析の両方を行う必要がないことから、修正シグナル質量スペクトルデータを取得及び解析するのに要する時間を大幅に短縮することができる。さらに、シグナル質量スペクトルデータ及びノイズ質量スペクトルデータではなく修正された質量スペクトルデータのみを伝送する必要があることから、前処理装置を用いることで、処理装置に送る必要があるのはかなり小さいデータとなる。さらに、前処理装置を用いることで、減算を行うように処理装置を構成する必要がない。
【0040】
上記のように前処理装置を用いることが好ましいが、一部の実施形態では、質量スペクトルデータを解析するための処理装置で、ノイズ質量スペクトルデータをシグナル質量スペクトルデータから減算して、修正シグナル質量スペクトルデータを得ることができる。
【0041】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による方法を実行するための質量分析計に関するものである。
【0042】
従って、本発明の第2の態様は、
サンプル材料のイオンを発生させるイオン源;
イオン源によって発生したサンプル材料のイオンを検出するためのイオン検出器;
イオン源によって発生したサンプル材料のイオンをイオン検出器によって検出する、少なくとも1回のシグナル獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいて、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表するシグナル質量スペクトルデータを獲得するための第1のデータ獲得手段;及び
質量分析計におけるノイズを代表するノイズ質量スペクトルデータを第1のデータ獲得手段によって得られたシグナル質量スペクトルデータから減算することで、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表する修正シグナル質量スペクトルデータを与える減算手段
を有する質量分析計を提供することができる。
【0043】
質量分析計は、第1の態様との関連で記載されているあらゆる方法段階を実行するように構成されていることができるか、それを実行するための手段を有することができる。
【0044】
例えば、質量分析計は好ましくは、例えばイオン検出器がイオン源からのイオンを検出しない少なくとも1回のノイズ獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいて質量分析計におけるノイズを代表するノイズ質量スペクトルデータを獲得するための第2のデータ獲得手段を有する。しかしながら、一部の実施形態では第2のデータ獲得手段を除外することができ、例えば減算手段は第1のデータ獲得手段によって得られたシグナル質量スペクトルデータから事前に記憶されたノイズ質量スペクトルデータを減算するよう構成されている。質量分析計は、事前に記憶されたノイズ質量スペクトルデータを記憶するためのメモリーを含むことができる。
【0045】
別の例として、質量分析計は好ましくは、各ノイズ獲得サイクル及び各シグナル獲得サイクルが1以上の高電圧パルスの発生;質量分析計の1以上の構成要素への1以上の高電圧パルスの供給;及び質量分析計の1以上のモーターの動作のうちの1以上を含むように構成されている。
【0046】
別の例として、質量分析計は好ましくは、各ノイズ獲得サイクル及び各シグナル獲得サイクルがイオン検出器の出力に基づいて質量スペクトルデータを得るために電子機器(その電子機器は好ましくは質量分析計に含まれている。)を動作させる操作を含むように構成されている。
【0047】
別の例として、簡潔に言えば、質量分析計は、各ノイズ獲得サイクルにおいて、イオン源を用いてサンプル材料のイオンを発生させることをしないか、イオン源を用いてサンプル材料のイオンを発生させるがイオン源によって発生したイオンはイオン検出器によって検出しない以外は、各ノイズ獲得サイクルが各シグナル獲得サイクルと実質的に同じとなるように構成することができる。
【0048】
別の例として、質量分析計は、飛行時間又は質量/電荷比に対する振幅を示す質量スペクトルとしてシグナル、ノイズ又は修正シグナル質量スペクトルデータをプロットするための手段を含むことができ、その振幅は所定の飛行時間又は質量/電荷比用の検出器によって検出されたイオンの数を代表するものである。
【0049】
別の例として、質量分析計は、複数のシグナル獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいてシグナル質量スペクトルデータを獲得するように、及び/又は複数のノイズ獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいてノイズ質量スペクトルデータを獲得するように構成することができる。
【0050】
別の例として、第2のデータ獲得手段は、複数のセグメントでノイズ質量スペクトルデータを獲得するためのものであることができ、ノイズ質量スペクトルデータの各セグメントは好ましくは個々の質量/電荷比範囲全体にわたる質量分析計でのノイズを代表するものであり、好ましくは少なくとも1回の個々のノイズ獲得サイクル時のイオン検出器の出力に基づいて獲得される。質量分析計はさらに、シグナル質量スペクトルデータからノイズ質量スペクトルデータの複数のセグメントを減算することで、サンプル材料のイオンの質量/電荷比を代表する修正シグナル質量スペクトルデータを与える手段を含むことができる。
【0051】
別の例として、質量分析計は、複数のシグナル獲得サイクル及び複数のノイズ獲得サイクルを、好ましくは連続サイクル間は短い時間差で、例えば1秒以下、より好ましくは100ミリ秒以下、より好ましくは10ミリ秒以下、より好ましくは1ミリ秒以下、より好ましくは100ミクロ秒以下という連続サイクル間の時間差で、質量分析計の連続サイクルで実施するように構成することができる。
【0052】
別の例として、質量分析計は、複数のシグナル獲得サイクルに複数のノイズ獲得サイクルを差し挟んで行われるように構成することができる。
【0053】
別の例として、質量分析計は、シグナル獲得サイクル数がノイズ獲得サイクル数と等しくなるように構成することができる。
【0054】
別の例として、質量分析計は、データを獲得するのに用いられる獲得サイクルの数に従って、シグナル質量スペクトルデータ及び/又はノイズ質量スペクトルデータをスケーリング(scaling)する手段を含むことができる。
【0055】
別の例として、好ましくは減算手段は、シグナル質量スペクトルデータを解析するための処理装置に連結された前処理装置に含まれる。好ましくは、前処理装置は、例えば処理装置による後の解析のために修正質量シグナル質量スペクトルデータを処理装置に伝送するためのデータ伝送手段を含む。好ましくは、前処理装置は、シグナル質量スペクトルデータを記憶するための第1のメモリー及び/又はノイズ質量スペクトルデータを記憶するための第2のメモリーを含む。
【0056】
別の例として、前処理装置は、第1及び/又は第2のデータ獲得手段を含むことができる。
【0057】
上記のいずれの態様においても、イオン源は、サンプル材料に発光させることでサンプル材料をイオン化するためのレーザー装置を含むことができる。好ましくは、そのレーザー装置は、サンプル材料で光のパルスを発することでサンプル材料をイオン化するためのものである。レーザー装置は好ましくは、UV光を発生させる。従って、上記のシグナル獲得サイクルは、サンプル材料で光のパルスを発することで、サンプル材料のイオンのパルスを発生させるレーザー装置を含むことができる。
【0058】
上記のいずれの態様においても、イオン源はMALDIイオン源であることができる。MALDIイオン源の場合、サンプル材料には生体分子(例えばタンパク質)、有機分子及び/又はポリマーなどがあり得る。そのサンプル材料はサンプル材料及び光吸収性マトリックスの(好ましくは結晶化した)混合物に含めることができる。光吸収性マトリックスは、例えばDCTB(T−2−(3−(4−t−ブチル−フェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン)マロノニトリル)、DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、SA(シナピン酸)、DTL(1,8,9−アントレセントリオール(ジトラノール))又はCHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)を含むことができる。
【0059】
上記のいずれの態様においても、イオン源は、イオン源によって発生したイオンを所定の運動エネルギーまで加速するための加速手段を含むことができる。その加速手段は、電場を形成してイオン源によって発生したイオンを所定の運動エネルギーまで加速するための少なくとも一つの加速電極を含むことができる。上記の方法は、例えばイオン源によって発生したイオンのパルスを加速するための加速手段を用いてイオン(例えばサンプル材料をイオン化するためのレーザー装置によって発生したイオン)を所定の運動エネルギーまで加速する操作を含むことができる。
【0060】
上記のいずれの態様においても、イオン源はイオン源によってイオン化されるべきサンプル材料を保持するためのサンプル保持手段を含むことができる。サンプル保持手段は、1以上の「サンプルスポット」にサンプル材料を保持するためのサンプルプレートを含むことができる。サンプル保持手段は、サンプルプレートを運搬するためのサンプルプレートキャリアを含むことができる。サンプルプレートは好ましくは、イオン源から取り外されるように構成されるが、サンプルプレートキャリアはイオン源内に取り外しできないように取り付けることができる。
【0061】
上記のいずれの態様においても、イオン源は好ましくは、例えば加速手段及び/又はサンプル保持手段を入れる筐体を有する。筐体は好ましくは、排気されるように構成されており、すなわち減圧装置を含む構成となっている。
【0062】
上記のいずれの態様においても、質量分析計は、検出されるべきイオンを選択するための1以上のイオンゲートを含むことができる。
【0063】
上記のいずれの態様においても、質量分析計はリフレクトロンを含むことができる。リフレクトロンは、使用時には、イオンのパルスにおけるイオンをイオン源の方向でイオン検出器に反射し戻すイオン鏡であり、その検出器は、反射した後のイオンを検出することができる。リフレクトロンを用いることの一つの長所は、例え比較的低い最大質量範囲であっても、直線イオン検出器を用いる場合より高い質量分解能が得られる(従って、質量精度がより良好)という点である。
【0064】
上記のいずれの態様においても、質量分析計は、中にイオン源及びイオン検出器が配置された飛行管を含むことができる。他の構成要素、例えばリフレクトロンは、飛行管内に配置されていても良い。飛行管は好ましくは、質量分析計を使用する時は排気される。
【0065】
上記のいずれの態様においても、質量分析計はTOF質量分析計であることができる。従って、例えば、各獲得サイクルにおいて、イオン源は、サンプル材料のイオンがイオン検出器によって検出されるように、サンプル材料のイオンのパルスを発生させることができる(例えばサンプル材料で光のパルスを発するレーザー装置による)。TOF質量分析計はMALDI TOF質量分析計であることができる。
【0066】
本発明はまた、上記の態様及び好ましい特徴の組み合わせも含むが、そのような組み合わせが明瞭に許容されないか、明らかに回避される場合を除く。