特許第5976659号(P5976659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976659凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤からの研磨剤のリサイクル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976659
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤からの研磨剤のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 57/02 20060101AFI20160817BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20160817BHJP
【FI】
   B24B57/02
   B24B37/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-537573(P2013-537573)
(86)(22)【出願日】2012年10月5日
(86)【国際出願番号】JP2012075970
(87)【国際公開番号】WO2013051700
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-222942(P2011-222942)
(32)【優先日】2011年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100149412
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】本間 善弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩示
(72)【発明者】
【氏名】上原 大志
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−189503(JP,A)
【文献】 特開2007−296485(JP,A)
【文献】 特開2007−276055(JP,A)
【文献】 特開2003−205460(JP,A)
【文献】 特開2002−126754(JP,A)
【文献】 特開平10−280060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00
57/02
C09K 3/14
B01D 21/01
C01F 17/00
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤からの研磨剤のリサイクル方法であって、凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤のスラリーのpHを10.0〜14.0の範囲に調整する工程、その後当該スラリーのpHを1.0〜3.0の範囲に調整する工程を含むことを特徴とする研磨剤のリサイクル方法。
【請求項2】
pHを10〜14の範囲にするpH調整剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を用いることを特徴とする請求項1に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【請求項3】
pHを1.0〜3.0の範囲にするpH調整剤として、塩酸、硝酸、リン酸又は硫酸を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【請求項4】
pHを10〜14の範囲にするpH調整剤として、水酸化ナトリウムを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【請求項5】
pHを1.0〜3.0の範囲にするpH調整剤として、塩酸を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨剤のリサイクル方法でリサイクルガラス研磨剤を得ることを特徴とするリサイクルガラス研磨剤の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤からの研磨剤のリサイクル方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウム系ガラス研磨剤は、その組成に起因する化学的研磨作用から、各種ガラス研磨工程において広く工業的に使用されてきた。従来は、その価格及び供給状態から、ガラス研磨に用いられた後のガラス研磨屑を含む使用済みスラリーは固液分離などのプロセスを経て廃棄されることが一般的であった。しかし、近年の社会状況の変化を背景とした供給の不安定化、価格高騰などの状況から、ガラス研磨プロセスにおける研磨剤の使用量の低減、使用済みの研磨剤からのリサイクル、研磨剤の新たな供給源の開発などが大きな課題となっている。
【0003】
使用済み研磨剤の再生方法としては、使用済み研磨剤スラリーの沈殿物を密度差を利用して被研磨物と分離除去する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
研磨剤の凝集を促進するために凝集剤を用いる方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、分散状態を良好とするために、使用済み研磨剤スラリーをアルカリ性に調整しゼータ電位を変化させて、遠心分離により研磨剤を回収する技術が提案されている(特許文献3)。
【0006】
さらに、使用済み研磨剤スラリーを酸で処理する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−14187号公報
【特許文献2】特開平9−327603号公報
【特許文献3】特開2002−28662号公報
【特許文献4】特開2007−276055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、研磨剤を沈殿させるのに長時間を要し、設備投資が大きくなると考えられる。また、凝集剤を含む研磨剤廃棄物の場合、ガラス成分と凝集剤と研磨剤とが凝集剤により架橋されており分離することができなくなるため、この方法ではリサイクルは実施できないと考えられる。更に、リサイクルした研磨剤は、焼成を行わなければ、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨効果を奏していないことも開示されている。
また、特許文献2の凝集剤は、研磨用廃水の処理時に懸濁物を凝集させて廃棄するためのものであり、凝集物には研磨剤成分と被研磨剤成分が共に凝集されてしまうことから、研磨剤のリサイクルには適していない。
更に、本発明者らが、特許文献3に記載のアルカリを使用する方法で、研磨剤のリサイクルを試みたところ、得られたリサイクル研磨剤中には、ガラスの研磨屑成分であるSiOや凝集剤成分であるアルミニウム成分が十分に除去されておらず、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨効果が得られないことがわかった。
更にまた、特許文献4の酸処理による方法では、焼成を行わなければ、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨効果を奏するリサイクル品が得られていない(特許文献4の実施例1)。また、本発明者らが、特許文献4に記載の酸処理による方法で、研磨剤のリサイクルを試みたところ、酸処理溶液がpH1の場合には理由は不明であるが研磨レートが低下し、pH2の場合はガラス成分の残存量が多いことから研磨レートが不十分となり、pH3の場合はガラス成分と凝集剤成分が多く残存することから研磨レートが悪化することがわかった。一方、本発明者らが所定のアルカリ濃度まで調整した後にpH1〜3に調整したところ、上記酸処理のみを行う場合に対して研磨レートが向上することを知見した。
【0009】
本発明は、使用済み研磨剤のリサイクルにおいて、単に酸処理のみを行う場合に比べて珪素成分ガラス研磨屑成分(珪素成分)と凝集剤成分の双方の除去率を高め、得られるリサイクル研磨剤が新品の研磨剤と同等の研磨性能を有する、研磨剤のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤スラリーのpHを所定の2段階の範囲に制御することにより、ガラス成分や凝集剤が殆ど含まれず、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨効果を有する研磨剤を容易に回収できることを知見し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、最初のpH調整では、pHをアルカリ性に調整する。この工程では、ガラス研磨工程で使用済み研磨剤粒子の表面の化学的に研磨された分子状のガラス(SiO)等の研磨屑と、凝集剤の成分と、研磨剤のそれぞれの成分の分散性が向上すると考えられる。その後二回目のpH調整では、pHを酸性に調整する。この工程では、研磨剤成分を速やかに沈降させて、研磨剤とガラス研摩屑・凝集剤を分離できると考えられる。単にpHをアルカリへ調整するだけでは、凝集剤、ガラス研摩屑ともに除去できない。また、単にpHを低下させるだけでは、pHを2段階に調整する場合と比較して効果が小さい。
【0012】
本発明は、以下の通りである。
【0013】
1.凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤からの研磨剤のリサイクル方法であって、凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤のスラリーのpHを10.0〜14.0の範囲に調整する工程、その後当該スラリーのpHを1.0〜3.0の範囲に調整する工程を含むことを特徴とする研磨剤のリサイクル方法。
【0014】
2.pHを10〜14の範囲にするpH調整剤として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は炭酸塩を用いることを特徴とする上記1に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【0015】
3.pHを1.0〜3.0の範囲にするpH調整剤として、塩酸、硝酸、リン酸又は硫酸を用いることを特徴とする上記1又は2に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【0016】
4.pHを10〜14の範囲にするpH調整剤として、水酸化ナトリウムを用いることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【0017】
5.pHを1.0〜3.0の範囲にするpH調整剤として、塩酸を用いることを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載の研磨剤のリサイクル方法。
【0018】
6.上記1〜5のいずれか1項に記載の研磨剤のリサイクル方法で得られたことを特徴とするリサイクルガラス研磨剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤から、珪素成分や凝集剤成分の除去率が高く、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨性能を有する研磨剤を簡便にリサイクルする方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、凝集剤成分を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤から研磨剤をリサイクルする方法に関する。酸化セリウム系ガラス研磨剤は、使用に伴い研磨性能が低下してくるので、ある時点で廃棄されている。廃棄に際しては、使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤のスラリーに凝集剤を加えて、研磨剤成分を凝集して、これを脱水したケーキの形態で行われる。本発明は、スラリー又はケーキの形態で従来は廃棄されていた、凝集剤を含む使用済みの酸化セリウム系ガラス研磨剤から研磨剤をリサイクルする方法に関する。
【0021】
凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤は、酸化セリウム系ガラス研磨剤をガラスの研磨に用いる過程で発生し、かつ凝集剤を含むものであれば特に限定されない。
【0022】
使用済みガラス研磨剤に含まれる凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム、塩化鉄、硫酸アルミニウム、シリカ等が挙げられ、特にポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、シリカである。
【0023】
酸化セリウム系研磨剤は、材質、形状、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0024】
酸化セリウム系研磨剤の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化セリウムを少なくとも含有し、更に必要に応じて酸化ランタン、酸化プラセオジムなどを含有する酸化セリウム系研磨剤が挙げられる。
【0025】
酸化セリウム系研磨剤の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.5μm〜10μmが挙げられる。ここで、平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(一例として、島津製作所製、SALD2000A)により測定することができる。
【0026】
酸化セリウム系研磨剤に含有されるセリウム、ランタン、プラセオジムなどの希土類元素(レアアース)は、貴重な資源であり、回収による再利用が望まれている元素である。
【0027】
研磨剤廃棄物は、酸化セリウム系研磨剤と、ガラス研磨屑とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、凝集剤などのその他の成分を含有する。研磨剤廃棄物は、代表的にはケーキ状である。
【0028】
ケーキ状の研磨剤廃棄物は、例えば、使用済みの酸化セリウム系研磨剤とガラス研磨屑とが混在した混合物スラリーに凝集剤を添加して酸化セリウム系研磨剤を凝集させた後に、固液分離手段などにより水分を減少又は除去して湿ケーキ状(脱水ケーキ状)又はそれを乾燥することにより得られる。研磨剤廃棄物の水分量は、通常、30質量%〜60質量%程度である。
【0029】
ここで、「ケーキ」とは、固形分が水分を含有した状態でろ過装置による圧搾などで固まり状になったもののことをいい、「スラリー」とは、固形分が水などの液中に分散され、液状または泥状になったもののことをいう。
【0030】
研磨剤廃棄物の状態(大きさ)としては、特に制限はなく、解粒機に供給可能な大きさ(一般的には数cm程度以下)になっていればよい。
【0031】
ガラス研磨屑は、酸化セリウム系研磨剤を用いて、ガラスディスク、水晶ウエーハ、液晶パネルなどのガラス材料を研磨した際に発生する研磨屑である。
【0032】
酸化セリウム系研磨剤を用いた前記ガラス材料の研磨は、通常の研磨剤(例えば酸化アルミニウム)を用いた研磨のように、物理的又は機械的に被研磨物を削るようなものではなく、酸化セリウム研磨剤がガラス材料と接触したとき、珪素成分が化学的に反応を起こし、原子レベルの大きさで剥ぎ取られ、酸化セリウムに付着することによって行われると考えられている。そのため、前記ガラス研磨屑の大きさは、前記酸化セリウム系研磨剤よりも非常に小さい。そして、研磨剤廃棄物において前記ガラス研磨屑は、主に前記酸化セリウム系研磨剤に付着している。
【0033】
本発明のリサイクル方法は、使用済み研磨剤がケーキの形態の場合は、水を加えてスラリーとする工程を含む。この際に、ボールミル等により解粒処理するのが好ましい。
【0034】
解粒処理は、酸化セリウム系研磨剤及びガラス研磨屑を含有するケーキ状の研磨剤廃棄物を水などと混合し、解粒機により解粒する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。好ましくは、酸水溶液及びアルカリ水溶液のいずれかと混合することがよい。ここで、「解粒」とは、研磨剤廃棄物中の酸化セリウム系研磨剤の凝集状態を解きほぐすことを意味する。
【0035】
解粒機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メディア型ミル、ロールミル、強撹拌型の撹拌機、ラインミキサー、コロイドミルなどが挙げられる。
【0036】
メディア型ミルとしては、容器内にボール又はビーズ(以下、メディアと称することがある)を入れ、固体や液体と共に攪拌する装置であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記メディア型ミルとしては、例えば、密閉容器を機械的に振盪しメディアを強力に攪拌するペイントシェイカー、密閉容器を機械的に回転させメディアを攪拌するボールミル、蓋付き容器内に攪拌子(回転軸に多数の棒を取り付けた攪拌子や回転軸に多段の円盤を取り付けた攪拌子等、機器メーカーにより様々な形状を有する)を入れて回転させ、メディアを強力に攪拌するアトライターやサンドミル、密閉容器内に多数の円盤(アジテーターディスクと称される)が取り付けられた回転軸を有し、これを回転させ、メディアを強力に攪拌するビーズミルなどが挙げられる。
【0038】
メディア型ミルの装置の呼称は製造メーカーによって異なる場合も多々あるが、何れの装置においても、固体や液体と一緒に攪拌されるメディア同士の衝突力により、強力に解粒できることが特徴である。これらの装置は、無機物の粉砕、分散、混合等や、塗料顔料の練肉、分散等に広く用いられているものが使用できる。
【0039】
メディアの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソーダガラス、アルミナ、ジルコニア、テフロン(登録商標)などが挙げられる。
【0040】
メディアの大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、直径が、5mm〜30mmが好ましく、10mm〜20mmがより好ましい。
【0041】
ロールミルとしては、例えば、2本ロールミル、3本ロールミルなどが挙げられる。これらの中でも、解粒能力の点から3本ロールミルが好ましい。3本ロールミルの運転条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前ロール回転数50rpm〜200rpm、前ロール:中ロール:後ロールの各回転比が1.0:1.5:5.0〜1.0:3.0:8.0であることが好ましい。
【0042】
前記コロイドミルは、高速回転するディスクやローターに固定ディスクや固定環を極端に接近させ、その狭い隙間に対象物を投入することで、破砕するミルである。
【0043】
解粒機の運転時間、即ち解粒時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、研磨剤廃棄物中の凝集剤含有量が多い、又は含水率が低いなどの理由によりケーキの強度が高いときには、解粒の時間を長くすることで、解粒の効果を高めることができる。研磨剤廃棄物の成分組成や、ケーキの性状によって解粒の適正条件は変化するが、前記解粒の時間が短い場合には、充分な解粒が行われないことで、凝集状態を保った固形物の内部に酸およびアルカリ処理の効果が及ばず、目的とする再生品(回収物)の組成や粒度が得られないことがあり、前記解粒の時間が長い場合には、解粒後の一次粒子の粉砕が過剰に進行し、再生品(回収物)の粒度が研磨剤などのリサイクル用途の目的とそぐわないことがある。前記解粒の時間が、好ましい範囲であると、研磨剤を一次粒子まで均一に解粒することで、回収したい固形分と除去したい成分を効果的に分離することができると同時に、研磨剤粒子を過剰に粉砕することなく、研磨剤や他の用途に適した粒度を得られるという点で有利である。
【0044】
解粒処理により得られる解粒物の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.5μm〜10μmが挙げられる。ここで、平均粒子径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(一例として、島津製作所製、SALD2000A)により測定することができる。
【0045】
本発明のリサイクル方法は、凝集剤を含有する使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤のスラリーのpHを10.0〜14.0の範囲に調整する工程、その後当該スラリーのpHを1.0〜3.0に調整する工程を含む。
【0046】
pHを10.0〜14.0の範囲に調整する工程におけるpHは、好ましくは10.0〜13.5、より好ましくは12.0〜13.5である。スラリーのpH調整は、アルカリの添加により行う。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩が挙げられる。アルカリとして、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0047】
スラリーのpHを1.0〜3.0の範囲に調整する工程におけるpHは、好ましくは1.0〜2.5、より好ましくは1.0〜2.0である。pH調整は、無機又は有機の酸の添加により行うが、無機酸によるのが好ましい。無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸等が挙げられ、塩酸が特に好ましい。有機酸としては、蟻酸、酢酸が挙げられる。酸は、2種以上の酸を併用してもよい。
【0048】
2段階のpH調整におけるpHの組合せに関して、好ましくは10.0〜14.0と1.0〜3.0の組合せ、特に好ましくは10.0〜13.5と1.0〜2.5の組合せ、最も好ましくは12.0〜13.5と1.0〜2.0の組合せである。
【0049】
本発明のリサイクル方法は、さらに、2段階のpH調整されたスラリーから研磨剤を回収する工程、回収した研磨剤を洗浄、乾燥、解砕する工程を含むことができる。
【0050】
スラリーから研磨剤を回収する工程は、2段階のpH調整されたスラリーから研磨剤を分離する工程である。分離方法として、沈降分離する方法、遠心分離する方法、濾過による方法などが採用できる。
【0051】
回収した研磨剤を洗浄、乾燥、解砕する工程は、回収した研磨剤に付着する塩酸などの酸成分を水等で洗浄除去し、洗浄した研磨剤を通常の乾燥機で乾燥し、次いで、通常の解砕法により解砕する工程である。例えば、上述した解粒処理を行えばよい。
【0052】
本発明の方法で得られるリサイクルされたガラス研磨剤は、珪素成分やアルミニウム成分の除去率が高く、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨性能を有する。
【0053】
リサイクルガラス研磨剤の性状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乾燥粉体、含水ケーキ、スラリーなどが挙げられる。酸化セリウム系研磨剤を使用する工程や企業において、乾燥粉体であることがよければ、回収方法において、脱水・乾燥を行い乾燥粉体として回収物を得て、回収物を乾燥粉体として供給することも可能であるし、研磨工程で用いられるように水に分散された状態がよければ、適切なパルプ濃度のスラリー状態で回収物を得ることで、脱水・乾燥工程の実施を省略でき低コストで回収物を得ることできる。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の実施例で説明する。
【0055】
(実施例1)
凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤(酸化セリウムを主成分とするガラス研磨工程から排出される使用済みスラリーを、減容化するために凝集剤(ポリ塩化アルミニウム)を用いて脱水ケーキとして回収した廃棄物)を原料として、以下の試験を実施した。
【0056】
凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤の脱水ケーキ200g(乾燥重量)を磁性ポット(ボールミル、アズワン社製、容量2000ml)に入れ、水1000ml、直径10mmのジルコニアボール5kgをポットに投入した。この磁性ポットを回転数50rpmで10分間回転させ、脱水ケーキの解砕を行った。
【0057】
次に、磁性ポット内の内容物を目開き5mmの篩を通過させ、ジルコニアボールと解砕された研磨剤を分離し、凝集剤を含む使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤スラリーを得た。
【0058】
この研磨剤スラリー500mlを容量1Lのガラスビーカーに採取し、攪拌機を用いて250rpmで攪拌した。ここに一回目のpH調整として、25%水酸化ナトリウムを添加し、pH13.5となるように調整した。この状態で5分間攪拌した。
【0059】
次に二回目のpH調整として、35%の塩酸を添加して、pH1となるように調整し、10分間攪拌した。その後、遠心分離機(ベックマン社製)を用いて3000rpmで上澄みと固形物に分離した。この際、不純物である凝集剤成分やガラスの研磨屑は粒子が細かいか、または溶解しているために上澄み液側へ回収され、研磨剤は固形物として回収される。
【0060】
次に、遠心分離によって回収された固形物の水洗操作を行った。水洗操作は、遠心後の上澄みを捨て、沈降した固形物に水を400ml加えて解き解し、再度遠心して上澄みを捨てる操作とし、これを2回繰返した。
【0061】
回収された固形物を105℃の温度で12時間乾燥させ、得られた回収物(使用済み研磨剤のリサイクル品)の組成分析結果を試験原料と合わせて表1に示した。
【0062】
(実施例2から実施例8)
一回目、二回目の調整したpHを表1に示した通り行った以外は実施例1と同様の操作を行って回収物を得た。得られた回収物の組成分析結果を表1に示した。
【0063】
(分析例1)
得られたリサイクル研磨剤について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、Super mini)を用いて組成分析を行った。その結果を表1に示す。尚、組成は酸化物に換算した場合の表記である。
【0064】
【表1】
【0065】
(比較例1)
水酸化ナトリウムによる一回目のpH調整を行わなかった以外は実施例1の試験1と同様の処理を行い、得られた回収物の組成を表1に示した。尚、組成は酸化物に換算した場合の表記である。
【0066】
これらの結果から、pHを所定の2段階の範囲に制御することにより、よりガラスの研磨屑成分であるSiOや凝集剤成分であるアルミニウム成分が除去できることが確認された。ガラス研磨屑成分や凝集剤成分を除去する効果としては、最終的な(調整二回目)pHが1、2、3のそれぞれの場合において、一旦pHを上げた場合の方が、上げない場合よりもSi量、Al量が低減していた。
【0067】
(比較例2から比較例5)
一回目のpH調整を行わず、二回目のpH調整を表1に示した通り行った以外は比較例1と同様の操作を行って回収物を得た。得られた回収物の組成分析結果を表1に示した。
【0068】
(分析例2)
また、実施例2の方法を用いて作製したリサイクル研磨剤を用いてガラス研磨性能評価試験を行った。
【0069】
研磨対象は直径30mm、厚さ5mmの白板ガラスを用いた。試験方法は以下の通りである。
【0070】
まずリサイクル研磨剤濃度が10g/Lであるスラリーを10L調整した。このスラリー10Lをガラス研磨機(オスカー式研磨装置)に投入し、2kgf/cmの加圧条件下で、前述のガラス6枚について1枚あたり3分の研磨を行った。ガラス研磨はスラリーの入れ替えを行わずに6枚分連続して行い、各ガラス毎の研磨量から研磨レート(μm/min)を計測し、6回施行の平均値を求めた。
【0071】
また、未使用製品(ヴァージン品)を用いて同様の研磨試験を行い、ヴァージン品と実施例で得られたリサイクル品の性能を比較した。
【0072】
その結果を表2に示す。リサイクル品の研磨レート(平均値)は1.5μm/minであり、同じガラスを(ヴァージン品)にて研磨した際の研磨レート(平均値)は1.5μm/minであった。結果より、リサイクル品がヴァージン品と同等のガラス研磨性能を有することが確認できた。また、リサイクル品とヴァージン品の研磨レート6回施行の結果を有意水準5%としてF検定した結果を表3に示す。その結果から、分散比がF境界値よりも小さいことから、有意な差が認められないと言える。また、研磨後のガラス表面の外観、ヤケの状態、表面の状態は、ヴァージン品を用いた場合と差がなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、凝集剤を含有する使用済み酸化セリウム系ガラス研磨剤から簡便な方法で、珪素成分や凝集剤成分の除去率が高く、使用前の新品の研磨剤と同等の研磨性能を有する研磨剤がリサイクルできるので、経済的観点や環境保護の観点からも、産業上有用である。