(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976677
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】平坦部材に機能要素を適用する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/12 20160101AFI20160817BHJP
【FI】
C23C4/12
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-549731(P2013-549731)
(86)(22)【出願日】2011年11月7日
(65)【公表番号】特表2014-503037(P2014-503037A)
(43)【公表日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】EP2011069535
(87)【国際公開番号】WO2012097890
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年9月2日
(31)【優先権主張番号】102011002872.2
(32)【優先日】2011年1月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】595157503
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル シーリング システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Federal−Mogul Sealing Systems GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ミューラー ニエブス
【審査官】
深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−169791(JP,A)
【文献】
特開昭64−027666(JP,A)
【文献】
特開平10−298733(JP,A)
【文献】
米国特許第04983427(US,A)
【文献】
特開平10−103521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの機能要素をもつシリンダヘッドガスケットを製造する方法であって、前記少なくとも1つの機能要素は、後背部ストッパー又は燃焼室ストッパーであり、
基板を準備するステップと、
プラズマジェットに、形成すべき前記少なくとも1つの機能要素の材料を混入するステップと、
液状の材料を、混入されたプラズマジェットによって適用し、基板に結合し、硬化させて、基板上に少なくとも1つの機能要素を適用するステップとを含み、
混入材料の位置依存の変化及び/又は、
前記基板の位置依存の表面処理によって、
前記基板と前記機能要素の間の接触角を位置依存的に調整し、
前記表面処理は、
プラズマ活性化と、
エッチングと、
クリーニングと、
グラインディングと、
コーティングとのうち、
1つ以上を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記基板上の前記プラズマジェットの照射点は、適用の最中に変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマジェットの照射点の変化は、前記プラズマジェットを前記基板に対して動かすこと及び/又は前記基板を前記プラズマジェットに対して動かすことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマジェットの照射点の変化は、時間依存及び/又は位置依存的に照射点の面積を変化させることを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記適用は時間依存及び/又は位置依存の堆積速度で行われる、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記混入材料は時間依存及び/又は位置依存的に変化する、請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記混入材料は、金属粉、焼結ペースト、はんだペースト又はこれらの組み合わせを含む、請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記硬化は焼結を含む、請求項1〜7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
基板と、
少なくとも1つの機能要素と、で構成され、
前記少なくとも1つの機能要素は、当該少なくとも1つの機能要素の材料が混入されたプラズマジェットによって形成されたものであり、
前記少なくとも1つの機能要素の前記材料は、前記混入プラズマジェットによって液状の形で前記基板に適用させることで、前記基板に結合し、硬化させたものである、シリンダヘッドガスケットであって、
前記基板と前記機能要素の間の位置依存の接触角があり、
前記位置依存の接触角は、前記混入材料の位置依存の変化及び/又は前記基板の位置依存の表面処理によってもたらされ、
前記基板の表面は、
プラズマ活性化と、
エッチングと、
クリーニングと、
グラインディングと、
コーティングとのうちの、
1つ以上がなされたものである、シリンダヘッドガスケット。
【請求項10】
前記シリンダヘッドガスケットはフラット部材である、請求項9に記載のシリンダヘッドガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材、特には、後背部
ストッパー又は燃焼室ストッパー等の機能要素を1つ以上もつ平板部材を製造するための方法に関する。具体的には、本発明は、プラズマジェットを用いた焼結によって機能要素を適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような機能要素の一例として挙げられる焼結されたストッパーは、現状では、費用のかかるスクリーン印刷工程によって平坦部材に適用され、その後に続く、労力を要する高コストな焼結プロセスによって焼き付けられ、硬化される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここから発展し、本発明の課題は、機能要素を適用する、より簡単で費用効率の高い方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1態様によると、少なくとも1つの機能要素をもつ部材を製造する方法であって、
基板を準備するステップと、
プラズマジェットに、形成すべき前記少なくとも1つの機能要素の材料を混入するステップと、
少なくとも本質的には液状である材料を、混入されたプラズマジェットによって適用し、基板に結合し、硬化させて、基板上に少なくとも1つの機能要素を適用するステップと、
を含む方法が提供される。
【0005】
本発明による方法を用いることで、非常に柔軟に、機能要素を部材に適用することができる。意図する材料の適用の結果、エネルギー入力を最低限に抑え、廃棄物を大幅に減少させて、製造を行うことができる。同時堆積、基板との結合及び硬化を含む適用によって、非常に高い、単位時間当たりの処理量を達成できる。
【0006】
一実施形態によると、基板上のプラズマジェットの照射点は、適用の最中に変化する。
【0007】
機能要素は、このように漸次的に、その都度プラズマジェットの照射点にて形成される。照射点の面積と関連性のある、より大きな又はより長い機能要素を形成するために、照射点は適用の最中に変化させることができる。
【0008】
一実施形態によると、プラズマジェットの照射点の変化は、プラズマジェットを基板に対して動かすこと及び/又は基板をプラズマジェットに対して動かすことを含む。
【0009】
一実施形態によると、プラズマジェットの照射点の変化は、時間依存及び/又は位置依存的に、照射点の面積を変化させることを含む。このことは、例えば時間依存及び/又は位置依存の可変焦点調節及び/又は照射点までの距離によって達成することができる。
【0010】
本実施形態では、例えば位置依存の幅をもつ機能要素を製造することができる。
【0011】
一実施形態によると、適用は時間依存及び/又は位置依存の堆積速度で行われる。
【0012】
単位時間当たりの堆積速度をより低く、又はより高くすることによって、例えば部材の表面に対して垂直(Z方向)に延びる、機能要素のトポグラフィー(topography)を生成することができる。
【0013】
あるいは、Zトポグラフィーを生成するために、各照射点においてプラズマジェットの位置依存の滞留時間を用いることによって、位置によって度合いの異なる材料の堆積量を達成することができる。
【0014】
一実施形態によると、混入材料は時間依存及び/又は位置依存的に変化する。このことは、時間及び/又は位置に応じて用いられる2種類以上の異なる混入材料の使用を伴う。多成分材料を用いることもでき、その複数成分のそれぞれの割合は時間依存及び/又は位置依存的に変化させられる。
【0015】
本実施形態において、位置に応じて機能要素の特性を調整するために、例えば位置に応じて変わる材料又は材料混合物(例えば、堆積材料A及び第2の材料Bを含む混合物)を用いることができる。
【0016】
一実施形態によると、混入材料は、金属粉、焼結ペースト、はんだペースト又はこれらの組み合わせを含む。
【0017】
一実施形態によると、硬化は焼結を含む。
【0018】
一実施形態によると、上記の方法はさらに、基板と機能要素の間の接触角の位置依存の調整を含む。接触角の可変調整によって、機能要素における部材への応力分布の改善及び力の導入の改善を達成できる。例えば部材(例えば、本発明による部材を設置したエンジン等の他の部材の状況に依存している、設置状態の部材)の特に剛性の高い箇所へ導入される応力の増加も、意図どおりに達成でき、これにより、より剛性の低い他の箇所への負荷が緩和される。さらに、例えば特に軟質の又はより剛性の低い箇所における応力分布を意図どおりに達成することができ、これにより、これら軟質の又はより剛性の低い箇所への負荷が緩和され、または、剛性の高い箇所へと意図どおりに力が伝達される。
【0019】
混入材料の位置依存の変化及び/又は基板の位置依存の表面処理によって、基板と機能要素の間の接触角を位置依存的に調整することができる。例えば、所与の材料の組み合わせによる、意図どおりの位置依存の平滑化又は粗化によって接触角に所望の影響を与えることができる。あるいは、このことは混入材料又はコーティング材料の位置依存の選択によって達成することができる。また基板の表面処理と混入材料の変化を組み合わせることも可能である。
【0020】
一実施形態によると、表面処理は、
プラズマ活性化と、
エッチングと、
クリーニングと、
グラインディングと、
(予備)コーティングとのうち、
1つ以上を含むことができる。
【0021】
本発明のさらなる態様によると、上記の方法によって製造される部材が利用可能となる。
【0022】
一実施形態によると、部材は、シリンダヘッドガスケット等の平坦部材である。
【0023】
一実施形態によると、前記少なくとも1つの機能要素は、後背部
ストッパー又は燃焼室ストッパーである。
【0024】
一実施形態によると、前記少なくとも1つの機能要素は、
円孤状、
扇形、
円形層状、
楕円状、
多角形、
球面多角形、
半菱形、
凧形、及び
台形、
のうち1つ又はこれらの組み合わせを含む断面を有する。
【0025】
断面形状を適切に選択することで、例えば機能要素を介して部材に力が導入されるときの応力の拡散を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】本発明による機能要素の取り得る断面図である。
【
図3】本発明による機能要素の他の取り得る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の記載は、簡略化のために平坦部材に関する。しかし、本発明は以下に限定されず、必ずしも平坦ではない他の部材に用いることもできる。
【0028】
接触角は、固体表面上の流体が該表面と成す角度を示す。接触角は、平坦部材及び機能要素の材料の様々な組み合わせの特性である。
【0029】
機能要素には、表面処理(クリーニング、グラインディング、プラズマ励起、コーティング、エッチング)を施しても良い。表面処理の性質は、所与の材料の組み合わせによって接触角に影響を与えるものであり、本発明によると、所望の接触角を達成するために用いることができる。局所的に異なる表面処理は、基板の材料及び混入材料又はコーティング材料については同一のものを選択した場合であっても、位置依存的に接触角を形成することを可能にする。これに加えて又はこの代わりに、所望の接触角を得るために、材料、特にコーティング材料又は混入材料の選択を適宜行ってよい。
【0030】
使用に関しては、本発明の意義の範囲内では、基板表面上の機能要素に関連しており、以下のとおりである。すなわち、接触角は、機能要素にて発生する応力が、最適の方法(例えば、応力の集中が起こることなく、材料が保護される方法)で平坦部材に伝わる角度とする。この最適な角度は、その後固体形状の機能要素上に、時間を要する労働集約的な方法で機械加工及び化学処理によって賦与することができ、これにより誤差及び他の障害が生じる。
【0031】
しかし、発明者は、本発明によると機能要素を適用するために、液体を代わりに用いることができることを見出した。液体は自然に最適な接触角を作ろうとするため、本発明によると、この場合には角度を得るために問題の多い後処理を省くことができる。
【0032】
固体は通常、少数の点で接するのみである一方で、液体は湿潤であることにさらなる利点がある。このように、機能要素を形成するために液体を用いることによって、部材全体において、応力分布の改善も達成される。これは、機能要素と平坦部材の間の接触面積が拡大されることによる。本発明は、このように、液体の濡れ性を活用する。
【0033】
一方では、スポット溶接又は線形溶接と対照的に、機能要素は平坦部材と全体的に接合される。他方では、機能要素及び部材の材料の適切な選択によって、最終製品における、力のフォーカス、力の分布又は力のデフォーカスの所望特性を達成する濡れ角をつくり出すことが可能である。
【0034】
本発明は、このように、特定の種類の応力分布を得るために、特定の接触角を意図どおりに選択及び調整することにも関連する。例えば固体の機能要素と平坦部材の間の接触角が直角のときは、ピーク応力が生じる。対照的に、応力は接触角が90°未満のときにより良く分布される。例えばエンジンの構造的な剛性に大きなばらつきがあり、力を構造的に強い部分にのみ導入するとき又は密封するために高い押圧値を達成しなければならないときには、故意に応力を集中させることもまた望ましい。この場合には、接触角が90°より大きいときに、適切な箇所に応力をより良く集中させることができる。
【0035】
図1は、概略的に、本発明による方法の機能状態を示す。材料A及びB(ここでは、2種類の異なる材料)をプラズマジェット装置2に供給することができる。これらの材料は、例えば金属粉、はんだペースト、焼結ペースト等を含むことができる。ここに示していない代替の実施形態においては、3種類以上の異なる材料を用いることができる。多成分材料を用いることもでき、その場合は複数の成分の割合も任意に異なっていてよい。
【0036】
例えば焼結ペーストが混入されたプラズマジェット4を、その後、例えばロボット又は回転テーブルによって、意図どおりに、正確に平坦部材10上の任意の位置に向けることができる。到達した位置にて、機能要素の一部を形成するために、プラズマジェット4によって、平坦部材10上において、プラズマジェットの照射を受けて液化された焼結用粉末の同時の適用、結合及び硬化(焼結)が行われる。
【0037】
プラズマジェット4を所定の経路に沿って動かし、継続的な堆積を行うことによって、任意のジオメトリー(X方向、Y方向及びZ方向のトポグラフィー)をもつ相互に結合した機能要素をつくり出すことができる。特定の箇所に繰り返し到達すること及び/又はプラズマジェット4の混入又はプラズマジェット4の堆積速度を促進することで、機能要素の高さを、所望のとおりに調整することができる。このように、所望の機能要素の断面(すなわち、例えば幅広の底部とテーパー状の先端)をつくり出すこともできる。
【0038】
高度な実施形態において、プラズマジェットの照射点の面積及び/又は形状は、調整可能な断面及び/又は調整可能な進路をもつ機能要素を形成するために、位置依存及び/又は時間依存的に変化する(例えば、トポグラフィーを生成するために同一箇所への繰り返しのコーティング等を伴いながら、変化する)。
【0039】
可能な機能要素の例として、燃焼室12用の燃焼室ストッパー8及び後背部
ストッパー6を
図1に示している。
【0040】
プラズマジェット4を部材に対して移動させる代わりに、平坦部材10自体をプラズマジェット4に対して移動させることができる。
【0041】
概して、焼結されたストッパー等の機能要素の断面は曲線状の輪郭をえがく。典型的な輪郭は以下のとおりである。これらは、非対称に、対称に又は完全に不規則に構成される場合がある。
1.円弧
2.扇形
3.円形層
4.楕円形の輪郭
5.多角形(1−n角形)
6.球面多角形(1−n角形)
7.半菱形、凧形、台形
【0042】
図2に表わすように、平坦部材と焼結された機能要素の間に角度を形成することが、これらの断面ジオメトリーの特性である。この接触角(濡れ角とも称される)は0°より大きく、180°未満であってよい。90°よりもはるかに小さな角度の場合に親水性とされ、約90°の角度の場合に疎水性とされ、90°よりはるかに大きな角度の場合に超疎水性とされる。
【0043】
さらに可能な断面形状を
図2に示しており、また別の種類の断面形状を
図3に示している。
【0044】
例えば機能要素又は平坦部材における応力分布の最適化及び応力の拡散の最適化について最適な接触角を有する材料を選択できることは、本発明が提案する方法の利点である。接触角の適切な選択又は接触角に与える影響によって、正確且つ省スペースとなるように、平坦部材に対して直角に材料を組み立てできることは、さらなる利点である。接触角の意図どおりの選択又は接触角に与える影響によって、応力分布の改善を達成できるか又は、他の領域より良くこれらの応力に適応できる領域に応力を故意に集中させることができ、前記の他の領域において負荷が緩和される。
【0045】
本発明は以下の利点を提供する。
a)費用の節約
廃棄物を省き、エネルギーを節約する方法で、機能要素を製造することができる。
b)時間を要する焼結を行わないため、時間サイクル当たりの製造処理量を向上することができる。
c)材料の慎重な取り扱い
エンボス加工のストッパーとは対照的に、エンボス加工又は引き抜きによる部材構造の損傷が生じない。
d)最適な材料の使用
必ず妥協を伴う統一的又は一体型の溶液を用いる代わりに本発明を用いることで、意図どおりに、必要な箇所にのみ所与の用途に合わせた機能要素を適用することができる。
e)新しい設計方法
部材の、従来は薄過ぎた箇所に機能要素を適用することができるため、トポグラフィーの生成が可能であり、より小さな種類の構成も可能である。