(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976704
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
H01L 39/04 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
H01L39/04
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-20405(P2014-20405)
(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公開番号】特開2015-149345(P2015-149345A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年6月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】鶴留 武尚
【審査官】
恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−259903(JP,A)
【文献】
特開平6−21520(JP,A)
【文献】
特開平5−175558(JP,A)
【文献】
特開平6−331717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を冷却するための冷凍機と、
前記冷凍機に対してその一部が熱的に接続すると共に前記試料を収容可能な伝熱部と、
前記伝熱部内で前記試料の周囲を覆う輻射シールド部と、
を備える冷却装置であって、
前記輻射シールド部は、
略円筒状をなし、前記一方側の端部が複数のスリットによって複数の短冊状に分割され、その端部がそれぞれ内側に折り曲げられた第1シールド板と、
前記第1シールド板の前記一方側の端部に対応した略円形状をなす第2シールド板と、
前記第1シールド板の折り曲げられた端部と、前記第2シールド板とを挟みこんで補強する2枚の補強板と、
を含んで構成される冷却装置。
【請求項2】
前記第1シールド板は、前記略円筒状の周方向に沿って複数に分割されている請求項1記載の冷却装置。
【請求項3】
前記第2シールド板は、複数に分割されている請求項1又は2記載の冷却装置。
【請求項4】
前記第1シールド板の外側に設けられた略円筒状の支持部材をさらに備え、前記第1シールド板は、支持部材に対して固定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、極低温環境において超電導に係る種々の評価を行う際には、超電導コイルにより生成される磁場中に試料を冷却するクライオスタット(極低温真空容器)を配置する。クライオスタットには、被冷却体を超低温に維持するために、輻射熱から被冷却体を保護するための輻射シールドが設けられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−218184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
輻射シールドは、一般的に金属材料により製造されているが、何らかの原因で超電導コイルの運転中に急激な磁場変動が発生した場合には、その磁場変動によって輻射シールドに大きな電磁力が発生することが考えられる。このような大きな電磁力の作用に対して、特許文献1記載の輻射シールドには強度の面において改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、より強度が高められた輻射シールドを備えた冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る冷却装置は、試料を冷却するための冷凍機と、前記冷凍機に対してその一部が熱的に接続すると共に前記試料を収容可能な伝熱部と、前記伝熱部内で前記試料の周囲を覆う輻射シールド部と、を備える冷却装置であって、前記輻射シールド部は、略円筒状をなし、前記一方側の端部が複数のスリットによって複数の短冊状に分割され、その端部がそれぞれ内側に折り曲げられた第1シールド板と、前記第1シールド板の前記一方側の端部に対応した略円形状をなす第2シールド板と、前記第1シールド板の折り曲げられた端部と、前記第2シールド板とを挟みこんで補強する2枚の補強板と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0007】
上記の冷却装置によれば、略円筒形状をなす第1シールド板の一方側の端部を複数の短冊状に切り分けると共に内側に折り曲げられる。また、この一方側の端部を覆う略円形状の第2シールド板と共に2枚の補強板によって挟み込まれる。これにより、特に一方側の端部において輻射シールド部の剛性が高められ、急激な磁場変動に由来する電磁力によって輻射シールド部が破損することを防止することができる。
【0008】
ここで、前記第1シールド板は、前記略円筒状の周方向に沿って複数に分割されている態様とすることができる。
【0009】
このように、第1シールド板が複数に分割されていることで、急激な磁場変動によって生じる電磁力をより小さくすることができる。したがって磁場変動に由来する第1シールド板の破損を低減することができる。
【0010】
また、前記第2シールド板は、複数に分割されている態様とすることができる。
【0011】
このように、第2シールド板が複数に分割されていることで、急激な磁場変動によって生じる電磁力をより小さくすることができる。したがって磁場変動に由来する第2シールド板の破損を低減することができる。
【0012】
また、前記第1シールド板の外側に設けられた略円筒状の支持部材をさらに備え、前記第1シールド板は、支持部材に対して固定されている態様とすることができる。
【0013】
第1シールド板の外側に略円筒状の支持部材を備えることで、輻射シールド部のうち特に第1シールド板の近傍に係る剛性を高めることができ、急激な磁場変動によって生じる電磁力によって第1シールド板が破損することを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より強度が高められた輻射シールドを備えた冷却装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る冷却装置の概略構成図である。
【
図2】クライオスタットの第2伝熱部側の拡大図である。
【
図3】クライオスタットの第2伝熱部内の輻射シールド部について説明する概略斜視図である。
【
図4】輻射シールド部の底面について説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る冷却装置1の概略構成図である。また、
図2は、冷却装置1のうち、クライオスタット2の第2伝熱部20側の拡大図である。また、
図3は、クライオスタット2の第2伝熱部20内の輻射シールド部について説明する概略斜視図である。また、
図4は、輻射シールド部の底面について説明する概略断面図である。
【0018】
冷却装置1は、冷凍機冷却型のクライオスタット(極低温真空容器)2及び磁場発生部80を含んで構成される。クライオスタット2は、GM冷凍機3と、GM冷凍機3の下部に連結された第1伝熱部10と第2伝熱部20とを含んで構成されている。第1伝熱部10及び第2伝熱部20は、それぞれ外径が円柱状であり、軸線Xに沿って上下方向にGM冷凍機3、第1伝熱部10及び第2伝熱部20がこの順に連結されている。第1伝熱部10及び第2伝熱部20は被冷却物である試料Sを収容する真空容器としても機能する。
【0019】
GM冷凍機3は、2段式ギフォード・マクマホン(G−M:GiffordMacMahone)サイクルを用いた冷凍機であり、第1ステージでは約40K程度まで冷却可能であり、試料Sの周囲に設けられる輻射シールド等の冷却に用いられる。また、第2ステージは、約4K程度まで冷却可能であり、試料Sの冷却に用いられる。
【0020】
本実施形態に係るクライオスタット2では、第1ステージのコールドヘッド及び第2ステージのコールドヘッドを含む主要部が第1伝熱部10の本体部11内に収容されると共に試料Sは第2伝熱部20の本体部21内に収容される。そして、GM冷凍機3と第1伝熱部10の主要部とは熱的に接続される。
【0021】
第1伝熱部10及び第2伝熱部20は、それぞれ略円柱状をなしている。また、第1伝熱部10の本体部11の径は第2伝熱部20の本体部21の径よりも大きく、軸線X方向下側から見たときに、第2伝熱部20の本体部21に対して第1伝熱部10の下端面15が外方に突出している。第2伝熱部は、略円柱状の本体部21と、本体部21の上端に形成された本体部21よりも径が大きいフランジ部22とを含んで構成され、第1伝熱部10の下端面15に対してフランジ部22が固定されることで、第1伝熱部10と第2伝熱部20とが連結されている。第1伝熱部10と第2伝熱部20とを連結する連結部についての構成は後述する。
【0022】
また、冷却装置1においては、試料Sの周囲に磁場を生成する磁場発生部80が第2伝熱部20の周囲に設けられる。円環状をなし軸線Xに沿った開口81を備える磁場発生部80は、例えば、真空容器に封入され、軸線Xを中心にして配置された円環状の超電導コイル82を含んで構成される。開口81は、その径が、第2伝熱部20の本体部21よりも大きく、第1伝熱部10の本体部11よりも小さくされている。
【0023】
磁場発生部80は、図示しない冷却手段によって冷却されて超電導状態とされた超電導コイル82に対して電流を流すことにより、強力な磁場を発生させることができる。高磁場環境下において試料Sを冷却するために、第2伝熱部20は、磁場発生部80の開口81に挿入される。このとき、
図1に示すように、第1伝熱部10の下端面15と第2伝熱部20のフランジ部22とを含んで構成される連結部30が磁場発生部80の上面84に当接した状態となる。すなわち、磁場発生部80の上面84がクライオスタット2を載置する載置面となり、クライオスタット2の上下方向の座屈荷重は磁場発生部80の上面84によって支持される。
【0024】
また、第1伝熱部10の上端側には、第1伝熱部10の本体部11から外方に突出した本体部11よりも径が大きなフランジ部12が設けられる。
図1に示すように、第1伝熱部10の本体部11に対応する開口61を有すると共にクライオスタット2を磁場発生部80の上面84に載置した際にフランジ部12と当接する規制部材60を磁場発生部80とは別に設けることで、クライオスタット2の水平方向の移動を規制する構成とすることができる。
【0025】
次に、クライオスタット2の内部について、
図2を参照しながら説明する。上述したように、GM冷凍機3の第1ステージのコールドヘッド及び第2ステージのコールドヘッドを含む主要部が第1伝熱部10の本体部11内に収容される。第2伝熱部20の本体部21内には、第2ステージのコールドヘッドに対して熱的に接続して試料Sを冷却すると共に試料Sへの通電を行う棒状の冷却部材25が第1伝熱部10内から軸線Xに沿って延び、冷却部材25の下端部27に試料Sが吊り下げられる状態で試料Sが第2伝熱部20内に収容される。
【0026】
第2伝熱部20内では試料Sの周囲には略円筒状の輻射シールド部40が設けられる。輻射シールド部40は、第2伝熱部20の下端側にも試料Sの下端側を覆うように配置されている。輻射シールド部40は、第1伝熱部10内の第1ステージのコールドヘッドと熱的に接続し、約40K程度まで冷却される。
【0027】
次に、
図3及び
図4を参照しながら、輻射シールド部40について説明する。輻射シールド部40は、略円筒状の支持部材41の内壁に沿って複数の伝熱部材42が取り付けられた構成とされている。支持部材41は、例えばSUS等の強度が高く且つ伝熱部材42よりも熱伝導性が低い材料によって形成される。また、支持部材41は、略円筒状の側面を形成する側壁部411と、第2伝熱部20の下端側を塞ぐ下端部412と、を含んで構成される。また、伝熱部材42は、熱伝導性の高い銅やアルミニウムによって形成される。伝熱部材42は、第1シールド板421と第2シールド板422とを含んで構成される。
【0028】
側壁部411の内壁には、軸線X方向に沿って延びる第1シールド板421が設けられる。第1シールド板421はそれぞれ略長方形状をなし、周方向に沿って分割するように配置される。冷却装置1においては、4枚の第1シールド板421が周方向に沿って所定の間隔をあけて配置されている。これにより、隣接する第1シールド板421の間にはスリット415が形成される。第1シールド板421は、その端部(隣接する他の第1シールド板421側の端部)において、それぞれ軸線X方向に延びる矩形状の固定板425によって側壁部411に対して押し付けられる。固定板425がネジ426(締結部材)によって側壁部411に対して締結固定されることで、第1シールド板421はそれぞれ側壁部411に対して固定される。
【0029】
また、軸線方向に沿って延びる第1シールド板421は、第2伝熱部20の下端側、すなわち支持部材41の下端部412側において、複数のスリット431によって複数の短冊状に切り分けられている。短冊状の複数の短冊部433は、それぞれ、その下端側が軸線Xに向かう方向へ折り曲げられている。すなわち、短冊状の複数の短冊部433は、それぞれ、支持部材41の形状に沿って側壁部411側から下端部412側へ折り曲げられている。
【0030】
支持部材41の下端部412側には、第2シールド板422が下端部412を覆うように設けられる。第1シールド板421及び第2シールド板422によって、試料Sの側面及び下端側を覆う必要があるため、第2シールド板422の形状は、支持部材41の下端部412側、すなわち、第1シールド板421の形状に対応していることが好ましい。なお、第2シールド板422は1枚の略円形状の部材によって構成されていてもよいし、第1シールド板421と同様に複数に分割されていてもよい。
【0031】
第2シールド板422の上部(支持部材41の内部)には、SUS等によって形成された円盤状の支持板413が配置される。支持板413は、支持部材41の下端部412に対してネジ417によって締結固定される。これによって、支持板413と下端部412との間の第2シールド板422が固定される。また、側壁部411側から延びて折り曲げられた第1シールド板421の短冊部433も支持板413と下端部412によって挟み込まれることで固定される。すなわち、支持板413及び下端部412が、第1シールド板421の短冊部433及び第2シールド板422を挟みこんで補強する補強板となる。
【0032】
このように、本実施形態に係る冷却装置1によれば、第1シールド板421の一方側の端部が複数の短冊部433に切り分けられ、さらにその端部が内側に折り曲げられる。また、この一方側の端部を覆う略円形状の第2シールド板422と共に2枚の補強板によって挟み込まれる。これにより、下端部412側において輻射シールド部40の剛性が高められる。従来の輻射シールドの構成では、磁場発生部80の電源が異常遮断する等の理由によって急激な磁場変動が起きた場合、大きな電磁力が印加されるために、輻射シールドが破損する可能性があった。特に試料Sの下側を覆う輻射シールドについてはこの急激な磁場変動が起きた場合の影響があまり考慮されていなかった。これに対して、本実施形態に係る冷却装置1の輻射シールド部40では、輻射シールド部40の剛性が高められたため、急激な磁場変動に由来する電磁力によって破損することを防止することができる。
【0033】
また、上記実施形態の輻射シールド部40のように、周方向に沿って第1シールド板421が複数に分割されていることで、急激な磁場変動によって生じる電磁力をより小さくすることができる。したがって磁場変動に由来する第1シールド板の破損を低減することができる。なお、上記実施形態では4つに分割している場合について説明するがその数は限定されない。分割数を増やすことで磁場変動によって生じる電磁力が小さくなる一方で、部品点数やコストが上昇する可能性があるため、適宜変更することができる。
【0034】
また、第2シールド板422が複数に分割されている場合、急激な磁場変動によって生じる電磁力をより小さくすることができる。したがって磁場変動に由来する第2シールド板422の破損を低減することができる。第2シールド板422を分割する場合、径に沿った方向に分割することで、磁場変動による影響をより小さくすることができる。
【0035】
また、第1シールド板421の外側に円筒形状の支持部材41を備えることで、輻射シールド部40のうち特に第1シールド板421の近傍に係る剛性を高めることができ、急激な磁場変動によって生じる電磁力によって第1シールド板421が破損することを防止することができる。また、上記実施形態と同様に第1シールド板421を支持する側壁部411と2枚の補強板のうちの1枚として機能する下端部412とを一体化した場合には、輻射シールド部40全体としての剛性を更に高めることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態のクライオスタット2では、第1伝熱部に2段分のコールドヘッドが収容されて、第2伝熱部20には試料Sが収容されている構成とされていたが、この構成には限定されない。また、第1伝熱部10及び第2伝熱部20を一体化した構成であってもよい。
【0037】
また、磁場発生部80の構成は上記実施形態に限定されず、例えば超電導コイルの数等適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…冷却装置、2…クライオスタット、3…GM冷凍機、10…第1伝熱部、20…第2伝熱部、22…フランジ部、30…連結部、40…輻射シールド部、41…支持部材、42…伝熱部材、60…規制部材、80…磁場発生部。