(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976730
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】形状情報を引き出すための方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/14 20060101AFI20160817BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20160817BHJP
A61C 9/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
A61B6/14 300
A61B6/14ZDM
A61B17/56
A61C9/00 Z
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-148747(P2014-148747)
(22)【出願日】2014年7月22日
(62)【分割の表示】特願2010-503417(P2010-503417)の分割
【原出願日】2008年4月18日
(65)【公開番号】特開2014-237005(P2014-237005A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2014年8月8日
(31)【優先権主張番号】07106650.0
(32)【優先日】2007年4月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509290647
【氏名又は名称】メディシム・ナムローゼ・フエンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(72)【発明者】
【氏名】シュタイザー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】デ・グルーベ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン・デルム,ティンネ
(72)【発明者】
【氏名】モレマンス,ワウテル
(72)【発明者】
【氏名】スエステンス,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】スウェンネン,グウェン
(72)【発明者】
【氏名】ナジミ,ナセル
【審査官】
増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第03/028577(WO,A2)
【文献】
国際公開第2007/011314(WO,A2)
【文献】
国際公開第2007/026598(WO,A1)
【文献】
特開2005−261440(JP,A)
【文献】
米国特許第06640130(US,B1)
【文献】
特開2006−051359(JP,A)
【文献】
特開2005−161053(JP,A)
【文献】
特表2006−506153(JP,A)
【文献】
特表2006−512960(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/000063(WO,A1)
【文献】
特表2007−509033(JP,A)
【文献】
特開2007−061592(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/094436(WO,A2)
【文献】
米国特許第06120289(US,A)
【文献】
米国特許第06730091(US,B1)
【文献】
特表2002−542875(JP,A)
【文献】
大村 進, 福山英治, 尾崎周作, 岡本喜之, 太田信介,変形性関節症を伴う下顎後退症に対して上下顎移動術を施行した2例 -手術方針と術後経過について-,日顎変形誌,日本,2006年 4月,16(1),23-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人の頭蓋及び歯列の形状情報を引き出すための方法において、
−前記個人の歯列の印象を採得する段階と、
−前記個人が前記印象を装着している状態で、前記個人の頭部の第1の走査画像を撮影する段階と、
−前記印象単独の第2の走査画像をCT(コンピュータ断層撮影)により撮影し、前記第2の走査画像は、規準マーカー無しで行われる段階と、
−前記第1及び第2の走査画像を組み合わせ、ボクセルベース剛直位置合わせ法を前記第1及び第2の走査画像に適用する段階と、
−前記組み合わされた走査画像から前記形状情報を引き出す段階と、を備えている方法。
【請求項2】
前記印象を採得する段階は、予め定義された咬合で行われる、請求項1に記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項3】
前記印象を外した状態の前記個人の頭蓋単独の第3の走査画像を撮影する段階を更に備えている、請求項1又は2に記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項4】
前記第1の走査画像を撮影する前記段階は、45μSv未満の線量で行われる、請求項3に記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項5】
前記第3の走査画像は、前記個人の顎顔面複合像を備えている、請求項3又は4に記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項6】
前記第3の走査画像は、予め定義された咬合と顔の表情で撮影される、請求項3から5までの何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項7】
前記第2の走査画像は、前記印象を発泡体状の材料に載せて撮影される、請求項1から6の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項8】
前記印象を採得する前記段階は、印象材料としてアルギン酸塩又はシリコンを用いて行われる、請求項1から7の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項9】
前記印象を採得する前記段階は、ワックスバイトを用いて行われる、請求項1から7までの何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項10】
前記個人の歯列の前記印象は、両面印象である、請求項1から9の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項11】
前記印象を採得する前記段階は、CTスキャナで行われる、請求項1から10の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項12】
下顎の自転をコンピュータで計算する段階を更に備えている、請求項3から6の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
【請求項13】
骨体を配置し直すために頬顎異常矯正計画立案情報を引き出すための方法において、個人の頭蓋と歯列の情報が、請求項1から12までの何れかに記載の方法で引き出される、方法。
【請求項14】
計画された咬合を手術野に再現するために術中スプリントを設計及び製作するための方法において、前記スプリントが、請求項1から12までの何れかに記載の方法により引き出された形状情報に基づいて設計される、方法。
【請求項15】
計画された咬合を再現することができるように、上下の歯列を接続するための固定構造を設計及び製作するための方法において、前記固定構造が、請求項1から12までの何れかに記載の方法により引き出された形状情報に基づいて設計される、方法。
【請求項16】
前記固定構造は、上下歯列の一組の歯科用ブラケットと、前記ブラケットを一体に接続するための構造と、を備えている、請求項15に記載の固定構造を設計及び製作するための方法。
【請求項17】
請求項1から12までの何れかに記載の方法により引き出された形状情報によって設計された、特注仕様の骨接合術用プレートを設計及び製作するための方法。
【請求項18】
手術によって実現された設定状態を持続するための術後維持道具を設計及び製作するための方法において、これにより、請求項1から12までの何れかに記載の方法で引き出された形状情報が利用される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頬顎異常矯正(orthognathic)手術の分野に利用できる、頭蓋及び歯列(dentition)の形状を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顎顔面手術では、頭蓋及び歯列が外科的に作り直されるか又は復元される。この外科学分野には、修復の外科的介入、特に、頬顎異常矯正手術と呼ばれる、顎骨の互いに対する誤った配置関係を修復する外科的介入が含まれる。通常、頬顎異常矯正手術には、上顎及び/又は下顎の骨体を頭蓋の残りの部分に対して正しく配置し直して良好な咬合を作り出す、上顎及び/又は下顎の骨切り術が伴う。骨切り術は、骨を切断して、短くする、長くする、又はその整列状態を変える外科手術である。「咬合」とは、口を閉じた時に上弓の歯と下弓の歯が合わさる具合を指す。
【0003】
頬顎異常矯正手術の前処理を施す場合の今日の処置手順は、主に以下の段階から成り、即ち、 1.2D頭部X線像を取得し、それらについて測定を行い(後者の工程は「2D頭部X線像のトレース」と呼ばれている)、
2.患者顔面について重要な距離を直に測定し、
3.歯列の石膏模型を製作するために上下歯列弓の印象を採得する。患者の実際の咬合を知って、上下歯列の石膏模型を関係付けるために、ワックスバイトによる位置合わせを行い、両石膏模型を咬合器にセットし、
4.段階1と段階2の結果並びに患者の臨床的評価による追加の情報に基づき、咬合が最適化されるよう石膏モデルの位置を直す。この段階で、石膏モデルを切削することもある。
【0004】
5.新しい顔面プロフィールを推定し、トレースされた2D頭部X線像の上に描く。
【0005】
6.手術中に歯列弓の前記位置直しを行えるようするため、アクリル製の手術用スプリント(副木)を手作業で製作する。
【0006】
3D技術の出現に伴い、測定を仮想的に三次元で実施するための方法が確立された。データ入力として、最初はシングル又はマルチスライスCTスキャンが用いられた。歯科用の円錐ビームCT撮影法(CBCT)の出現に伴い、3D走査画像データの取得がこの分野での常識になりつつある。
【0007】
しかしながら、患者の歯列を視覚化するのに利用できるシステムで、顔面の軟組織を歪ませること無く臨床的に実現可能性のあるプロトコルを使用して詳細に視覚化できるシステムは皆無である。その様なシステムであれば、詳細な咬合計画、恐らくは軟組織の密接な関係の予測さえも含んだ計画を立てることができるようになり、計画された解法を確立するために術中道具を作製し術後もそれを維持することが可能になるであろう。
【0008】
国際公開WO2006/000063号には、硬組織及び軟組織の3D頭部X線像分析を行い、解剖学的に関係付けた運動を導き出して骨体を配置し直すための方法が記載されている。同特許では、更に、少なくとも4つのマーカーを具備した3Dスプリントを基準にして石膏モデルの走査画像を融合させることによって、視覚化物を強化する可能性も言及されている。前記手法の重大な欠点は、3Dスプリントが常に顔面プロフィールを邪魔することである。
【0009】
国際公開WO03/028577号には、手術用スプリントを生成する方法が記載されている。この方法のキーとなる要素は、患者の歯列を詳細に視覚化するのに、デジタル式の歯のコンピュータモデルと、コンピュータ処理された断層撮影コンピュータモデルの両方で識別することのできる幾つかのマーカーを患者の歯列に対して使用することである。位置合わせの方法は、点ベースの整合法に基づいている。しかしながら、この方法には、患者の走査中に、マーカーが自然な顔の表情を乱すという根本的な欠点がある。歯列の視覚化物を作成するためのこの方法は、歯科インプラント計画立案の分野における取り組みの単純で直線的な延長と見ることもできる(例えば、IEEE Trans Med Imaging、1998年、17、842−852頁、Verstrekenらによる「骨内口腔インプラントのための画像誘導による計画立案システム」('An image-guided planning system for endosseous oral implants’, Verstreken et al., IEEE Trans Med Imaging 1998, 17, pp.842-852)を参照)。
【0010】
米国特許第6152731号には、デジタル式の歯のモデルをデジタル式の咬合器で使用するための方法が記載されている。これは、石膏歯型を用いた従来の咬合器と同類のデジタル版である。しかしながら、この方法には、歯しか見えないために、患者の頭部の解剖学的構造との関係が欠失しているという根本的な欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、拡張頭蓋モデルから歯列の詳細な視覚化を提供する情報を引き出す方法を提供し、これにより、マーカーの使用を回避することを目的としている。第2の態様では、本発明は、頬顎異常矯正計画立案情報を引き出すための方法を提供することを目的としている。本発明の別の目的は、術中及び術後道具を製作するための方法を提供することであり、そこでは前記情報を引き出す方法が用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、個人の頭蓋及び歯列の形状情報を引き出すための方法に関し、同方法は、
−当人の歯列の印象を採得する段階と、
−当人が印象を装着している状態で、当人の頭部の第1の走査画像を撮影する段階と、
−印象単独の第2の走査画像を撮影する段階と、
−それら走査画像を組み合わせる段階と、
−組み合わされた走査画像から形状情報を引き出す段階と、を備えている。
【0013】
本発明の方法の主な利点は、臨床現場で容易に適用することができ、軟組織をそれらの自然な位置にある状態で撮影できるようにしていることである。それ以上に重要なこととして、本発明の方法は、(国際公開WO第03/028577号の様な)規準マーカーを一切必要としないため、本方法を行っている最中に顔面の軟組織が歪められることがないという実質的な利点をもたらす。
【0014】
印象を採得する段階は、予め定義されている咬合で行われるのが望ましい。
【0015】
或る好適な実施形態では、本方法は、印象を外した状態での当人の頭部単独の第3の走査画像を撮影する段階を更に備えている。この場合、前記第1の走査画像を撮影する段階は、45μSv未満の線量で行われる。第3の走査画像は、当人の顎顔面複合像を含んでいる。第3の走査画像は、予め定義されている咬合と顔の表情で撮影される。
【0016】
第2の走査画像は、前記印象を発泡体状の材料に載せた状態で撮影されるのが好都合である。印象を採得する段階は、印象材料としてアルギン酸塩又はシリコンを用いて行われるのが望ましい。印象は、ワックスバイトを用いて採得してもよい。或る好都合な実施形態では、当人の歯列の印象は両面印象である。印象を採得する段階は、CTスキャナで行われるのが望ましい。
【0017】
或る好適な実施形態では、方法は、更に、下顎の自転をコンピュータで計算する段階を含んでいる。
【0018】
第2の態様では、本発明は、骨体を配置し直すために頬顎異常矯正計画立案情報を引き出すための方法に関しており、同方法では、当人の頭蓋及び歯列の情報がこれまでに説明した方法で引き出される。
【0019】
本発明は、更に、計画された咬合を手術分野に再現するための術中スプリントを設計及び製作するための方法に関しており、同方法では、スプリントは上で示した方法により引き出された形状情報に基づいて設計される。
【0020】
本発明は、更に、計画された咬合を再現することができるように、上下歯列を接続するための固定構造を設計及び製作するための方法に関し、本方法により、前記固定構造は、説明した形状情報を引き出すための方法により引き出された形状情報に基づいて設計される。固定構造は、上下歯列の一組の歯科用ブラケットと、前記ブラケット同士を、計画された咬合を再現させるように、一体に接続するための構造を備えている。
【0021】
更に別の態様では、本発明は、これまでに説明した方法により引き出された形状情報に基づいて設計された、特注仕様の骨接合術用プレートを設計及び製作するための方法に関する。
【0022】
本発明は、更に、外科手術によって実現された設定状態を持続するための術後維持道具を設計及び製作するための方法を提示しており、本方法により、形状情報は、上で説明した方法で引き出された情報が利用される。
【0023】
本発明は、更に、プログラム可能な装置上で実行させることのできる、命令を保有しているソフトウェアプログラムであって、実行させると、説明されている方法の何れかを行うソフトウェアプログラムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】二段階走査処理手順のデータフローを示している。
【
図2】三段階走査処理手順のデータフローを示している。
【
図4】患者が印象を装着している状態で、患者の歯列の走査画像を撮影する段階を示している。
【
図5】印象の高分解能走査画像を得るための走査用セットアップを示している。
【
図6】医師が検査したいと考えている咬合を用いた患者の顎顔面複合像の随意的な走査画像を得るための走査用セットアップを示している。
【
図8】拡張モデルの結果を示している。
図8の(a)は患者走査画像のデータを示している。
図8の(b)は歯列の表面の詳細事項を備えている患者走査画像のデータを示している。
図8の(c)は肌理を付けた皮膚表面を付けた
図8の(b)のモデルを示している。
【
図9】顎骨を配置し直すことによって咬合を最適化する方法を示している。
【
図10】拡張モデル上での計画立案に基づいたスプリントのデジタル設計を示している。中間のスプリントは、同様のやり方で設計することができる。
【
図11】
図10に示されている計画立案のために製作されたスプリントを示している。
【
図12】
図10に示されている計画立案のために製作されたスプリントを示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
頬顎異常矯正手術を計画立案し、その計画に従って頬顎異常強制手術を行うには、3つの主要な臨床的要件が明らかであり、即ち、
1.患者の歯列を、頭部の画像データ並びに随意的には同画像ボリュームから取り出したセグメント化された表面部分とを組み合わせた詳細な視覚化。このデータセットを拡張モデルと呼ぶ。
【0026】
2.咬合の最適化のみならず全体的な骨格の関係と軟組織の調和を最適化するための簡単か且つ迅速な計画立案道具、
3.計画された通りに手術を行なうのに有効な術中支援。
【0027】
外科手術によって実現された解を維持するための術後装置が恐らくは必要になるかもしれない。
【0028】
これらの臨床的要件を満たすために、以下の技術要件が派生し、即ち、
1.歯列を、随意的には軟組織のプロフィールを乱すこと無く、詳細に視覚化できるようにする画像取得プロトコル。
【0029】
2.骨体を動かして正しい咬合状態にし、頭蓋と軟組織の調和を持続するのに適切な道具。
【0030】
3.患者の理想的な皮膚表面を設計及び視覚化するための道具。この理想的な皮膚表面は、シミュレーションでの目標皮膚皮面である。骨体の運動、軟組織手術、骨体彫刻、インプラントの挿入などに基づく軟組織の変形をシミュレートするための道具も用いて、理想の皮膚表面にどれ程巧く近づけられるかがチェックされる。或いは、骨体の運動を、理想的な皮膚皮面の条件に適うように、コンピュータで計算することもできる。
【0031】
4.計画通りに手術を行うための術中道具、並びに、随意的には手術の成果を維持するための術後道具の生成。
【0032】
更に、経済的要件が定義されることになり、即ち、
1.拡張モデルを得る際の患者取り扱いは、単純容易且つ迅速でなくてはならず(これは、少なくとも従来の印象採得及び石膏モデル製作並びに取り扱いと同程度に素早くという意味である)、
2.手術(及び術後)道具の生成は、(半)自動的で安価な処理手順でなくてはならない。
【0033】
本発明では、これらの要件全てを特徴としている。
【0034】
提案されている画像取得プロトコルは、マーカーを配置する必要無しに、極めて簡単且つ実際的な臨床的設定で、できる限り軟組織の変形の無い拡張モデルの生成を支援する。患者の歯列の石膏模型の使用はもはや不要である。
【0035】
計画立案プロトコルは、拡張モデルに基づく咬合計画立案最適化を用いて、骨体の解剖学的に関係のある運動を拡張する。それには、随意的に、軟組織シミュレーションと理想的な3D軟組織プロフィールの設計が含まれる。
【0036】
次に、これらの計画立案結果が、コンピュータによって生成された手術用スプリント又は上下歯列弓のブラケットの間の固定システムを用いることによって、又は特注仕様の骨接合術用プレートによって、手術野に再現される。
【0037】
手術の成果を持続するために、恐らくは術後道具が生成される。
【0038】
患者は、2つのやり方、即ち、軟組織を自然なそのままの状態に保たずに(所謂、二段階走査処置手順)(
図1参照)、又は軟組織を自然なそのままの状態に保って(所謂、三段階走査処置手順)(
図2参照)、撮影されることになる。
【0039】
これより二段階走査処理手順を説明する。最初に、患者の歯列の印象を製作する(
図1の(1)参照)。この印象は両面印象を含んでいるのが望ましい。それは、上下歯列弓の形状情報を含んでいる。印象材料として、(アルギン酸塩、シリコン...その他の様な)全ての歯科用印象材料、又は厚めのワックスバイト(CT番号(即ちグレイ値)を上げるために硫酸バリウムとの混合も可)が利用できる。印象材料の場合は両面印象トレイに塗布する(
図3参照)。ワックスバイトの場合はそれ自体でモデルを模る(
図7参照)。印象材料のグレイ値は、印象を軟及び硬組織から区別できるように、軟組織のグレイ値とは異なっているのが理想的である。二段階走査処理手順では、印象の咬合が巧く制御され、頬顎異常矯正手術計画立案に沿った臨床的に望ましい咬合に整合されるのが好都合である。
【0040】
次に、患者は、印象を装着した状態で走査される(
図1の(2)参照)。患者の頭部の関心領域が走査される。印象採得段階(
図1の段階1)は、CTスキャナで行われるのが理想的である。この場合、患者は、同じ印象を2回咬む必要はない(2回目に印象を全く同じ様に噛むことは難しいであろうから)。印象が全ての歯の尖頭部に完全に被さっていることを注意深くチェックしなければならない。
【0041】
更に、印象単独の第2の高分解能走査画像が取得される(
図1の段階(4)と
図5の表示)。セグメント化するために、印象は、理想的には、CT画像データ上に、あたかも空中に浮遊している様に映し出されなければならない。これを達成するために、印象は、例えば、スポンジの様な発泡体状の材料に載せてもよい。
【0042】
次に、様々な走査画像が、以下のやり方で重ね合わされ(
図1の段階(6))、即ち、
1.印象走査画像(4)を患者+印象走査画像(2)に対しボクセルベースで剛直的に位置合わせし(即ち、位置と向きを整列させ)、
2.詳細な印象走査画像(4)を顎顔面複合走査画像に画像融合し、拡張モデルを得る。
【0043】
ボクセルベース剛直位置合わせ法は、何らかの特徴について全ての幾何学に対応するボクセル対の類似性を機能的に測定する工程を最適化する。ボクセルベース剛直位置合わせ法は、論文「相互情報の最大化による多様相画像の位置合わせ」(Maes他、IEEE Trans Medical Imaging、1997年4月、第16巻、No.2、187−198頁)('Multimodality image registration by maximization of mutual information' (Maes et al., IEEE Trans. Medical Imaging, vol. 16. no. 2, pp. 187-198, April 1997))に説明されている様に、相互情報の最大化によって果たされる。
【0044】
走査画像の画像融合は、これらの走査画像から抽出された表面モデルを使用して、又は画像ボリューム内で、又は両者の組合せによって、行うことができる。
【0045】
或る好適な実施形態では、上で述べた方法は、通常、
図1の段階(2)と段階(4)の間で実施される、追加的な段階を備えている。段階(2)は、これにより僅かに修正される。その結果、
図2のデータフロースキームが得られる。これを三段階走査処理手順と呼ぶ。
【0046】
今回は、段階(1)に際し、印象材料を銜えた状態での咬合は重要ではなく、咬合は無作為に選定すればよい。技術的には、片面印象を利用することもできる。しかしながら、それでは、以降の段階で余分に患者を走査する必要が生じることになり、臨床的観点からはその様な状況はできる限り避けなくてはならない。
【0047】
段階2は、印象材を装着している患者の走査である(
図2の(2)参照)。この走査は単に中間結果をもたらすだけであることを考えれば、非常に低い線量の歯列走査で十分である(
図4参照)。この非常に低い線量とは、45μSv未満であると理解されたい。印象採得の段階(
図2の段階1)は、CTスキャナで行われるのが理想的である。この場合、患者は、同じ印象を2度咬む必要はない。印象が全ての歯の尖頭部に完全に被さっていることを注意深くチェックしなくてはならない。
【0048】
追加的段階として、患者を再度走査するが、今回は、患者は印象を外した状態で走査される(
図2の(3)参照)。頭部の関心領域が走査される。これは、通常、顎顔面複合像である。患者の咬合と顔の表情とに特に注意が向けられる。咬合は、医師が検査したいと考えている咬合にする必要がある。これは、走査中に、医師が、直接制御してもよい。或いは、咬合は、小型のワックスバイトで患者を正しい咬合に誘導することによって制御することもできる。更に、顔の表情は、医師が分析したいと考えている表情にする必要がある。通常、これは、中心咬合や中立的な弛緩した状態の顔の表情である。
【0049】
更に、
図1の段階(4)と同じやり方で、印象単独の第3の高分解能走査画像が取得される(
図2の段階(4)と
図5の表示)。
【0050】
次いで、これらの様々な走査画像が以下のやり方で組み合わされ、即ち、
1.印象走査画像(4)を患者+印象走査画像(2)に対しボクセルベースで剛直的に位置合わせし、
2.患者+印象走査画像(2)の上顎を患者走査画像(3)に上顎に対しボクセルベースで剛直的に位置合わせし、
3.患者+印象走査画像(2)の下顎を患者走査画像(3)の下顎に対しボクセルベースで剛直的に位置合わせし、
4.詳細な印象走査画像(4)を顎顔面複合走査画像に画像融合し、拡張モデルを得る。
【0051】
ボクセルベース剛直位置合わせ法は、何らかの特徴について全ての幾何学に対応するボクセル対の類似性を測定する機能を最適化する。ボクセルベース剛直位置合わせ法は、既に述べた様に、相互情報の最大化によって果たされる。
【0052】
走査画像の画像融合は、これらの走査画像から抽出された表面モデルを使用して、又は画像ボリューム内で、行うことができる。両者の組合せも考えられる。
【0053】
三段階走査処理手順では、患者は、2回撮影される(患者走査画像と患者+印象走査画像)。これらの走査画像では、患者は、口の開き方が異なっている。これら2つの走査画像から、最初の口の開閉時の下顎の運動を画定する回転軸を3D空間内で推定することができる。この推定回転軸は、例えば、頬顎異常矯正手術の計画立案時に使用することができ、というのも、上顎埋伏手術後、下顎はこの軸に従って元の位置へ戻ることになるからである。この下顎の動きをコンピュータで計算するのに、先ず、両方の走査画像を上顎の解剖学に基づいて整列させる。第2段階で、第2の位置合わせされた走査画像の下顎を第1の走査画像の下顎と整列させる。整列は、ボクセルベースの位置合わせ、マーカーベースの位置合わせ、又は表面に基づいた位置合わせ、を使ってコンピュータで計算することができる。得られた変換マトリクスは、下顎の運動を記述している。この変換マトリクスから、回転軸が3D空間内でコンピュータで計算される。最初の開/閉動作は、前記回転軸を中心とした回転である。
【0054】
頬顎異常矯正手術の計画立案ための別のガイドラインとして、患者の現在の皮膚表面に基づいた理想的な皮膚表面を設計することができる。
【0055】
理想的な皮膚表面を設計する第1の方法は、不正咬合の程度又は頭蓋測定値の様な機能的並びに審美的パラメータ、及び/又は身体的特徴パラメータ(体格指数、年齢、人種特性、性別など)を含め、臨床的に関係のあるパラメータに基づいている。
【0056】
理想的な皮膚表面を設計するための第2の方法は、皮膚表面の点を配置し直すことに基づいている。これらの点は、重要な解剖学的目印である。これらの点の新しい位置に基づいて、新しい皮膚表面がコンピュータにより計算される。
【0057】
これらの方法のためのコンピュータ的戦略として、大勢の個人集団についての皮膚表面の広範なデータベースに基づいた統計学的モデルが構築される。これらの皮膚表面は、3D写真撮影によって取得するか、又はCT又はMR画像から抽出することができる。後者では、更に、体積データを統計学的モデルに盛り込むこともできるようになる。この場合、モデルには、骨構造との関係も盛り込むこむことができる。第1の方法では、モデルは、前記パラメータに従ってパラメータ化される。初期の皮膚表面は、パラメータ値の変化に従って修正される。第2の方法では、統計学的に関係のある皮膚表面が、配置し直された点に従って作り直された初期皮膚表面から引き出される。
【0059】
理想的な皮膚表面は、手術の計画立案のための目標として設定することができる。手術計画が理想の皮膚表面にどれ程合致しているかを評価するには、両方の表面の差異を視覚化する必要がある。これは、両方の表面の距離マップをコンピュータで計算することによって行うことができる。この距離マップは、解剖学的に関係の或る点同士の間の距離に基づいているのが理想的である。理想的な皮膚表面と予想された皮膚表面との両者の間の差が小さければ、満足のいく手術計画が得られたことになる。
頬顎異常矯正手術の計画立案
仮想骨接合術の後、骨体を正しい位置へ動かさなくてはならない。骨体は、望ましい咬合と一致し、条件を満たす顔面の皮膚表面が得られるように、他の骨格的特徴に関して動かされる。
【0060】
通常、骨体(例えば、上顎)又は骨体群は、解剖学的に関係のある方向、基準面、及び解剖学的な目印を使用して、適切な位置へ動かされる。次に、骨体は、歯列咬合が最適化されるように動かされる。本発明によるこの手法では、骨体は、衝突を勘案しながら、ばね力によって一体に動かされる。この技法を、ソリッドボディシミュレーションと呼ぶ。最後に、骨体又は骨体群の配置に更に調節を加えてもよい。
【0061】
こうして作業しながらその間に、軟組織変形をシミュレーションし、理想の皮膚表面と比較してもよい。
術中道具
仮想計画立案を手術野に再現するのには、幾つかの手法が可能である。術中道具を備えれば、計画された咬合を患者に再現することができる。恐らくは、頭蓋底に対する(上顎の様な)骨体の正しい位置及び、TMJ窩(TMJは、側頭下顎関節)に対する下顎の上行枝も再現することができるであろう。
【0062】
仮想的な計画立案を再現する第1の方法は、デジタル式計画立案データに基づいて手術用スプリントを製作することである。スプリントは、計画立案データから設計され、高速プロトタイピング技法又はフライス加工技法によって製作される(
図10、11及び12を参照)。この方法は、正しい咬合を再現する。
【0063】
第2の方法は、計画された咬合を作り出すために、歯にワイヤーで取り付けられている上下ブラケット又はアーチバーを接続する固定構造を製作することである。この方法は、正しい咬合を再現する。
【0064】
第3の方法は、個人に合わせた骨接合術用プレートを製作することである。骨接合術用プレートが正しい位置に配置され、骨体がこれらのプレートに当てて固定されると、計画された骨体位置が術中に得られる。プレートは、解剖学的特徴に基づき、又は患者の走査工程前に配置され、二段階走査法の患者+印象走査画像又は三段階走査法の患者走査画像より得た画像データからセグメント化されている骨アンカーに基づいて、正しい位置に挿入される。
術後道具
手術結果を安定させ持続するために、術後スプリントが必要になることもある。更に、
この個人に合わせた部品は、計画立案ソフトウェアの結果から製作することもできる。
【0065】
提案されている手法の利点は、以下の通り要約することができる。今までとは違う位置合わせの概念を応用しているので、石膏模型はもはや不要であり、マーカー付きの3Dスプリントの使用も不要になる。これにより、実質的に、臨床的な適用可能性が広がる。更に、本発明は、歯を自然な軟組織プロフィールとの組み合わせて正確に視覚化できるようにしており、このことは軟組織の変形予測を実際に補正する上で必須条件である。
【0066】
更に、計画立案プロセスの分野では、この様な改善された歯の視覚化によって、正確な咬合計画立案と術中及び術後道具の製作が可能になる。
【0067】
以上、本発明を特定の実施形態に関連付けて説明してきたが、当業者には自明の様に、本発明は、前述の例証的な実施形態の詳細事項に限定されるものでななく、本発明は、その精神及び範囲を逸脱すること無く、様々な変更及び修正を加えて実施することもできる。従って、本実施形態は、あらゆる点で、説明を目的としており制限を課すものではないと考えられるべきであり、本発明の範囲は、前述の説明記述によってではなく、特許請求
の範囲によって指し示され、特許請求の範囲の等価物の意味と範囲の中に入る全ての変更は、従って、その中に含まれるものとする。言い換えれば、基本的な根本原理の精神と範囲に入り、その本質的な属性が本特許出願の中で請求対象になっている、ありとあらゆる修正、変型、又は等価物が包含されるものと考えている。更に、本特許出願を読まれた方には理解頂けるように、「〜を備えている」又は「〜を備える」という単語は、他の要素又は段階を除外しているわけではなく、英文明細書における冠詞「a」又は「an」の対訳である「或る」又は「一」という単語は、複数を除外しているわけではなく、また、コンピュータシステム、プロセッサ、又は別の一体型ユニットの様な単一要素が、特許請求の範囲に挙げられた数個の手段の機能を果たすことがあるかもしれない。特許請求の範囲の中の参照符号は何れも、関係のあるそれぞれの請求項に制限を課すものと考えられるべきでなない。「第1」、「第2」、「第3」、「a」、「b」、「c」、及び類似の用語については、説明又は特許請求の範囲で使用されている場合、それらは類似の要素又は段階を区別するために採用されているのであり、必ずしも順次的又は時系列的な順番を記述しているわけではない。同様に、「上部」、「下部」、「上方」、「下方」、及び類似の用語は、説明目的で採用されているのであり、必ずしも相対的な位置関係を示しているわけではない。この様に使用されている用語は、適切な状況下では置き換え可能であり、本発明の実施形態は、上で説明及び図示されている(単数又は複数の)順序又は向きとは異なる他の順序又は他の向きで運用することもできるものと理解頂きたい。
以上説明したように、本願発明は以下の形態を有する。
[形態1]
個人の頭蓋及び歯列の形状情報を引き出すための方法において、
−前記個人の歯列の印象を採得する段階と、
−前記個人が前記印象を装着している状態で、前記個人の頭部の第1の走査画像を撮影する段階と、
−前記印象単独の第2の走査画像を撮影する段階と、
−前記走査画像を組み合わせる段階と、
−前記組み合わされた走査画像から前記形状情報を引き出す段階と、を備えている方法。
[形態2]
前記印象を採得する段階は、予め定義された咬合で行われる、形態1に記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態3]
前記印象を外した状態の前記個人の頭蓋単独の第3の走査画像を撮影する段階を更に備えている、形態1又は2に記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態4]
前記第1の走査画像を撮影する前記段階は、45μSv未満の線量で行われる、形態3に記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態5]
前記第3の走査画像は、前記個人の顎顔面複合像を備えている、形態3又は4に記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態6]
前記第3の走査画像は、予め定義された咬合と顔の表情で撮影される、形態3から5までの何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態7]
前記第2の走査画像は、前記印象を発泡体状の材料に載せて撮影される、形態1から6の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態8]
前記印象を採得する前記段階は、印象材料としてアルギン酸塩又はシリコンを用いて行われる、形態1から7の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態9]
前記印象を採得する前記段階は、ワックスバイトを用いて行われる、形態1から7までの何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態10]
前記個人の歯列の前記印象は、両面印象である、形態1から9の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態11]
前記印象を採得する前記段階は、CTスキャナで行われる、形態1から10の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態12]
下顎の自転をコンピュータで計算する段階を更に備えている、形態1から11の何れかに記載の形状情報を引き出すための方法。
[形態13]
骨体を配置し直すために頬顎異常矯正計画立案情報を引き出すための方法において、個人の頭蓋と歯列の情報が、形態1から12までの何れかに記載の方法で引き出される、方法。
[形態14]
計画された咬合を手術野に再現するために術中スプリントを設計及び製作するための方法において、前記スプリントが、形態1から12までの何れかに記載の方法により引き出された形状情報に基づいて設計される、方法。
[形態15]
計画された咬合を再現することができるように、上下の歯列を接続するための固定構造を設計及び製作するための方法において、前記固定構造が、形態1から12までの何れかに記載の方法により引き出された形状情報に基づいて設計される、方法。
[形態16]
前記固定構造は、上下歯列の一組の歯科用ブラケットと、前記ブラケットを一体に接続するための構造と、を備えている、形態15に記載の固定構造を設計及び製作するための方法。
[形態17]
形態1から12までの何れかに記載の方法により引き出された形状情報によって設計された、特注仕様の骨接合術用プレートを設計及び製作するための方法。
[形態18]
手術によって実現された設定状態を持続するための術後維持道具を設計及び製作するための方法において、これにより、形態1から12までの何れかに記載の方法で引き出された形状情報が利用される、方法。
[形態19]
プログラム可能な装置上で実行させることのできる、命令を保有しているプログラムにおいて、実行させると、形態1から18までの何れかに記載の前記方法を行う、プログラム。