(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976824
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】NdBRウェットマスターバッチ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20160817BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20160817BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20160817BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20160817BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08L91/00
C08J3/22CEQ
B60C1/00 Z
【請求項の数】21
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-539296(P2014-539296)
(86)(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公表番号】特表2015-502990(P2015-502990A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】EP2012071288
(87)【国際公開番号】WO2013064434
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2014年6月5日
(31)【優先権主張番号】PCT/US2011/059134
(32)【優先日】2011年11月3日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ・クロッペンブルグ
(72)【発明者】
【氏名】アレックス・ルカッセン
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・ハルディ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・グロース
(72)【発明者】
【氏名】ジュディ・エリザベス・ダグラス
【審査官】
今井 督
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−536945(JP,A)
【文献】
特開2010−163544(JP,A)
【文献】
特開2003−292675(JP,A)
【文献】
特開昭48−096636(JP,A)
【文献】
国際公開第2002/059193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08J 3/22
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 95%を超える高いcis−1,4単位比率および1%未満の低い1,2−ビニル含量比率、3未満の狭い多分散性、30〜90MUの間のムーニー粘度(ML1+4 100℃)、3〜10mPas/MUの高い直線性指数(溶液粘度対ムーニー粘度の比率)、および30秒後、2〜12%のムーニー緩和を有し、溶液重合の手段により調製された、ネオジム触媒によるポリブタジエン
− ASTM D1510−1304に従って測定して95〜210mg/gの間のヨウ素吸収量(ION)、およびASTM D2414に従って測定して80〜120mL/100gの間のオイル吸収量(OAN)を有する、全体のポリブタジエン含量を基準にして50〜100phrの少なくとも1種のカーボンブラック
および
− オイル、
を含む、NdBRウェットマスターバッチ。
【請求項2】
前記オイルが、−80℃〜−40℃の間のガラス転移温度(Tg)を有し、IP 346法による、DMSOを用いて抽出したときの抽出可能分のレベルが3重量%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項3】
前記オイルが、水素化ナフテン系オイルであり、Grimmer試験により測定して、多環芳香族化合物の合計量が10ppm未満であり、アルファ−ベンゾピレンの量が1ppm未満であることを特徴とする、請求項1に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項4】
前記カーボンブラックが、ASTM D1510−1304に従って測定して100〜160mg/gの間のヨウ素吸収量、およびASTM D2414に従って測定して85〜120mL/gの間のオイル吸収量を有することを特徴とする、請求項2または3に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項5】
全体のポリブタジエンを基準にして、0.1phr〜30phrのオイルを含むことを特徴とする、請求項1に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項6】
オイルよりも多いカーボンブラックが使用されることを特徴とする、請求項5に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項7】
カーボンブラックのphrとオイルのphrとの差が、70以下であることを特徴とする、請求項6に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項8】
次式で定義されるマスターバッチファクター(MF)、
MF=前記ネオジム触媒によるポリブタジエンのムーニー粘度−[カーボンブラックのphr−オイルのphr]
が、130以下であることを特徴とする、請求項7に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項9】
前記ネオジム触媒によるポリブタジエンが、
− ムーニー粘度(ML1+4 100℃):40〜85MU、
− 直線性指数(溶液粘度対ムーニー粘度の比率):4〜8mPas/MU、
− 30秒後のムーニー緩和:4〜8%、
− 多分散性:2.2未満、
を有することを特徴とする、請求項1に記載のNdBRマスターバッチ。
【請求項10】
− 100phrのネオジム触媒によるポリブタジエン、
− ASTM D1510−1304に従って測定して95〜210mg/gの間のヨウ素吸収量(ION)、およびASTM D2414に従って測定して80〜120mL/100gの間のオイル吸収量(OAN)を有する、50〜70phrのカーボンブラック、
− 3〜10phrのオイル、及び
− 0.2〜2phrの安定剤を含み、
− その他の助剤を含むか、又は含まない、
NdBRマスターバッチ。
【請求項11】
溶液混合操作を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のNdBRマスターバッチを製造するための方法。
【請求項12】
以下の工程:
a)溶液重合により調製されたネオジム触媒によるポリブタジエンを、ASTM D1510−1304に従って測定して80〜210mg/gの間のヨウ素吸収量(ION)およびASTM D2414に従って測定して40〜150mL/100gの間のオイル吸収量(OAN)を有するカーボンブラックと共に混合する工程であって、前記混合の前に、前記カーボンブラックを液体の中で懸濁させておく、工程、
b)この工程の後、前、または途中にオイルを添加する工程、
c)安定剤を添加する工程、および
d)その他の助剤を添加するか、又は添加しない工程、
e)次いで、前記液体を除去する工程、
を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記成分が、工程a)〜c)および、存在する場合はd)のいかなる順序で混合することも可能であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
均質になるまで工程a)を実施することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程a)で、調製された前記ネオジム触媒によるポリブタジエンが、前記重合溶媒の中に溶解されて使用されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程a)で、10〜30%カーボンブラック−液体懸濁液が使用されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記溶媒および液体が、ストリッピング方法の手段によるか、または蒸発濃縮の手段によって除去されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
タイヤ、コンベヤベルト、靴底において使用するためのゴムコンパウンド物を製造するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載のNdBRマスターバッチの使用。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のNdBRマスターバッチを含む、タイヤ。
【請求項20】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のNdBRマスターバッチを含む、コンベヤベルト。
【請求項21】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のNdBRマスターバッチを含む、靴底。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された転がり抵抗を有する加硫ゴムを製造するためのNdBRウェットマスターバッチ、ならびにそれらの製造および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
広く各種の合成エラストマー、天然ゴムまたはエラストマー混合物の中に充填剤を分散させることによって、経済的に重要な多くの製品がエラストマー組成物から作製されている。たとえば、カーボンブラックは、天然ゴムおよびその他のエラストマーにおける補強剤として、広く使用されている。特定の用途分野における使用のために、そのような混合物が使用できるようにするために、典型的には、いわゆるマスターバッチすなわち、充填剤、エラストマー、および各種の任意選択的な添加剤たとえば油展オイルとの予備混合物が製造される。
【0003】
一般的に理解されていることであるが、カーボンブラックの性質が、カーボンブラックを含むゴムまたはポリマーのコンパウンド物の性質に影響を与える。タイヤの製造においては、一般的には、充填剤の分散と充填剤の結合が十分である、カーボンブラック含有タイヤトレッドコンパウンド物を使用するのが望ましい。ゴムコンパウンド物の充填剤の結合が良好であるほど、Payne効果が小さくなり、そのゴムコンパウンド物を用いて製造したタイヤのトレッドにおけるポリマーマトリックスと充填剤との間の自由運動に由来するエネルギーの散逸が小さくなり、そして、転がり抵抗が小さくなって、その結果、運転の間に達成され得る燃料の節約が大きくなる。
【0004】
タイヤの製造においては、満足のいくヒステリシスを有するカーボンブラックを組み入れた、タイヤトレッドコンパウンド物を使用するということも、一般的には望ましい。ゴムコンパウンド物のヒステリシスは、変形の下で解放されるエネルギーに関連する。より低いヒステリシス値を有するトレッドコンパウンド物を用いて製造されたタイヤは、より低い転がり抵抗を有することになり、その結果、そのタイヤが使用されている車両の石油消費量を低減させることになるであろう。
【0005】
従来技術では、各種の構造を有する各種のカーボンブラックが開示されている。それらの各種のタイプのカーボンブラックを使用することによって、各種の使用分野に適した各種の品質を有するカーボンブラックマスターバッチが製造される。カーボンブラックマスターバッチの製造においては、カーボンブラックの選択だけが重要な役割を果たしている訳ではなく、エラストマー組成物の選択もまた別の重要なファクターである。たとえば、自動車のタイヤの分野だけにおいても、トレッドもしくはプロファイル、またはサイドウォール、スチールメッシュ、およびカーカスに使用できる、各種可能なエラストマー組成物が存在する。
【0006】
その他の使用分野としては、たとえば、エンジン取り付けブッシュ、コンベア用ベルトなどが挙げられる。
【0007】
現時点で利用可能な材料および製造技術を使用して、広い範囲の性能特性を達成することが可能ではあるが、産業界においては、改良された性質を有し、現在の製造技術のコストおよび煩雑さを抑制するようなエラストマー組成物を開発することが常に必要とされている。
【0008】
そのようなマスターバッチの製造には、カーボンブラックまたはその他の充填剤を天然ゴムまたはその他のエラストマーと激しく混合することによって製造することが含まれるが、それは必然的に長時間、かつ比較的激しい混合を伴い、それによって次のような欠点、すなわち、エネルギーコストおよび製造時間の増大、および類似の問題が生じる。
【0009】
さらに、特定の表面的および構造的性質を有するカーボンブラックでは、慣用される混合装置を用いたのでは、経済的に使用することが可能なマスターバッチを製造することが不可能または商業的に成り立たないということもまた公知である。
【0010】
マスターバッチで良好な品質と粘稠性を達成させるための重要な因子は、ゴムコンパウンド物内でのカーボンブラックの良好な分散である。
【0011】
より高次またはより低次の構造および表面積を有するカーボンブラックを使用して、エラストマー組成物の性能特性を得ることが可能であるということは、周知である。たとえば、より高い表面積と低次の構造を有するカーボンブラックによって、破壊の成長抵抗性、カッティングおよびチッピングに対する安定性、さらには耐摩耗性およびその他の性質が改良されるのも公知である。
【0012】
マスターバッチは、典型的には、乾式混合方法で、エラストマー組成物とカーボンブラックまたはその他の添加剤とを、ニーダーおよび/またはローラー中で、繰り返し混合する(中間体貯蔵時間が長い)ことによって加工して、製造される。
【0013】
これらの乾式混合方法に加えて、ラテックスとカーボンブラックスラリーとを、撹拌しながら凝固タンクの中に連続的に供給することも可能であることが知られている。そのような「バルク」法は、合成エラストマーの場合において一般的に使用されている。その凝固タンクには、凝固剤、たとえば塩または酸性水溶液(典型的には、2.5〜4のpH)が含まれている。ラテックスとカーボンブラックスラリーとを、凝固タンクの中で混合し、凝固させると、少量のウェットクラムが得られる。それらのクラムと酸の排出液とを相互に分離してから、クラムを、撹拌装置を備えた第二のタンクへ移し、そこで洗浄する。その後で、乾燥工程は導入する。
【0014】
そのような方法は、(特許文献1)に記載されている。(特許文献2)にも、そのような製造方法が記載されているが、そこでは、酸または塩の凝固剤溶液が添加されている。
【0015】
NdBRマスターバッチを製造するのに、特定のタイプのカーボンブラックが特に良好な適合性を有しており、加工性およびそれらから得られる加硫ゴムが、改良された性質を有しているということが現在では分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4,029,633号明細書
【特許文献2】米国特許第3,048,559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、それを用いて、改良された性質を有する加硫ゴムを製造することが可能であり、その製造過程において、そのプロセス工程を減らし、したがって製造コストも下げることができる、NdBRウェットマスターバッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的を達成するために、NdBRウェットマスターバッチが提供されるが、それには、ネオジム触媒によるポリブタジエンであって、95%を超える高いcis−1,4単位比率および1%未満の低い1,2−ビニル含量比率、3未満の狭い多分散性、30〜90MUの間のムーニー粘度(ML
1+4 100℃)、3〜10mPas/MUの高い直線性指数(溶液粘度対ムーニー粘度の比率)、および30秒後、2〜12%のムーニー緩和を有し、溶液重合の手段により調製された、ネオジウム触媒によるポリブタジエン、少なくとも1種のカーボンブラックであって、このカーボンブラックは、ASTM D1510−1304に従って測定して80〜210mg/gの間のヨウ素吸収量(ION)、およびASTM D2414に従って測定して75〜150mL/100gの間のオイル吸収量(OAN)を有する、カーボンブラック、およびオイルを含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
驚くべきことには、このタイプのカーボンブラックおよびこのNdBRを用いると、改良された転がり抵抗を有する自動車タイヤのための加硫ゴムを製造するのに好適であり、それと同時に、コスト的に有利で、簡単な方法で製造すること可能な、NdBRウェットマスターバッチを製造することが可能となることが見いだされた。
【0020】
カーボンブラックは一般的に、分析値に基づいて特性を表す。カーボンブラックの比表面積は、ヨウ素吸収量(iodine absorption number)(ION)として表されるが、その未結合のヨウ素は、チオ硫酸ナトリウム溶液を用いた逆滴定によるヨウ素滴定法によって求められる。
【0021】
オイル吸収量(oil absorption number)(OAN)は、ASTM D2414−09試験法と同様の、空孔容積(empty volume)測定法によって求める。この目的のためには、ニーダー中で、乾燥カーボンブラック粒子のサンプルにオイルを一定速度で滴下する。そのオイルが、カーボンブラックと混合される。そのカーボンブラック粒子の空孔容積を充満させてから、そのカーボンブラック粒子の表面を湿らせ、粒子を相互に付着させてから、液体のオイル相の中に分散させる。その最大トルクがOANを表す。
【0022】
ポリブタジエンは、タイヤ産業において、ゴム混合物の重要な構成成分として使用されているが、その最終的な性質を改良する、たとえば転がり抵抗および摩耗を低下させるのが望ましい。高い割合でcis−1,4単位を有するポリブタジエンは、かなりの間大規模な工業的スケールで製造されてきて、タイヤおよびその他のゴム製品の製造、ならびにポリスチレンの耐衝撃性改良に使用されている。
【0023】
cis−1,4単位の比率を高くするためには、特に効果の高い、希土類化合物をベースとする触媒が近年使用されており、それらは、たとえば、欧州特許出願公開第A1 0 011 184号明細書および欧州特許出願公開第B−A1 0 007 027号明細書に記載されている。
【0024】
高cis−ポリブタジエンの群の中でも、ネオジム触媒によるポリブタジエンが、転がり抵抗、摩耗および反発弾性に関しては特に有利な性質を有していることが、従来技術から公知である。
【0025】
当業者には公知のことであるが、たとえば、Macromolecular Chemistry and Physics,2002(203/7),1029〜1039に記載されているように、希土類のアリル錯体をベースとする構造的に規定されたシングルサイト触媒を使用することによって、狭い多分散性を有するポリブタジエンが製造される。
【0026】
ポリブタジエンの製造においては、使用される触媒系が重要な役割を果たす。
【0027】
産業界において使用されているネオジム触媒は、たとえばZiegler/Natta系であって、これは、数種の触媒成分から形成されている。Ziegler/Natta触媒系においては、公知の、通常はネオジム源、クロリド源、および有機アルミニウム化合物からなる3種の触媒成分が、特定の温度条件下に、広く各種の方法で混合されるが、その触媒系は、エージングさせるかまたはエージングさせずに、重合のために調製される。
【0028】
ポリブタジエンは、ネオジム含有系による触媒作用を受けたものであるのが好ましい。そのような系は、炭化水素に可溶性のネオジム化合物をベースとするZiegler−Natta触媒である。
【0029】
使用されるネオジム化合物は、より好ましくは、ネオジムカルボキシレート、ネオジムアルコキシド、またはホスホン酸ネオジム、特に、ネオデカン酸ネオジム、オクタン酸ネオジム、ナフテン酸ネオジム、2,2−ジエチルヘキサン酸ネオジム、および/または2,2−ジエチルヘプタン酸ネオジムである。
【0030】
最低の多分散性(PDI)にすると、タイヤブレンド物において優れた性質、たとえば低転がり抵抗、高反発弾性、または低タイヤ摩耗性が得られるということは公知である。多分散性は一般的には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)から求めるが、それは、重量平均モル質量Mwの数平均モル質量Mnに対する比率に相当し、したがって、モル質量の分布の幅を表している。
【0031】
モル質量の分布の幅が広いと、ゴムおよびゴム混合物の良好な加工特性が示されるが、それはなかんずく、混合粘度がより低く、混合時間がより短く、そして押出し温度がより低くできることに発現される。しかしながら、タイヤ性能のプロファイルには、悪影響が出る。
【0032】
逆に、多分散性が低いと、上述のポリブタジエンの加工特性に相応の影響がある。
【0033】
好ましいのは、−80℃〜−40℃の間のガラス転移温度(T
g)を有し、IP 346法による、DMSOを用いて抽出したときの抽出可能分のレベルが3重量%未満のオイルである。
【0034】
好ましいのは、Grimmer試験により測定して、多環芳香族化合物の合計量が10ppm未満、そしてアルファ−ベンゾピレンの量が1ppm未満である、水素化ナフテン系オイルである。Grimmer教授(Hamburg−Ahrensburg)の方法に従ったGrimmer試験は、Fresenius、Analytische Chemie[Analytical Chemistry],1983,314巻、p.29〜36に公表されている。
【0035】
さらに、そのカーボンブラックは、ASTM D1510−1304に従って測定して、85〜210mg/gの間、好ましくは95〜210mg/gの間、より好ましくは100〜160mg/gの間のヨウ素吸収量と、ASTM D2414に従って測定して、75〜150mL/100gの間、好ましくは80〜140mL/gの間、より好ましくは85〜120mL/gの間のオイル吸収量とを有している。
【0036】
本明細書において使用される単位のphr(ゴム100部あたりの部数、重量基準)は、ゴム産業界においてブレンド配合物について慣用的に使用される単位量である。個々の物質の重量部の使用量は常に、全体のポリブタジエン100重量部を基準にしたものである。
【0037】
カーボンブラックの量は、全体のポリブタジエン含量を基準にして、少なくとも30〜100phrのカーボンブラックである。
【0038】
「仕込み(charging)」または「仕込みレベル(charging level)」という表現は、カーボンブラックの導入を伴う、ゴムコンパウンド物のコンパウンディングにおいて使用されるカーボンブラックの量に関する。それらはさらに、一般的に、優れた耐摩耗性およびトレッド耐摩耗性を有するゴムコンパウンド物を与えるが、本発明のカーボンブラックの量は、約30〜約100phrの範囲であるが、それは、それぞれの場合において、全体のポリブタジエン含量100重量部に対して使用することができる。
【0039】
使用されるオイルは、全体のポリブタジエンを基準にして、0.1phr〜30phrである。
【0040】
カーボンブラックをオイルよりも多く使用するのが好ましく、カーボンブラックのphrとオイルのphrの間の差は70以下である。
【0041】
ネオジム触媒によるポリブタジエンの中にカーボンブラック成分を十分に分散させるためには、そのマスターバッチファクター(MF)が130以下である。マスターバッチファクターは次式で計算される:
MF=ネオジム触媒によるポリブタジエンのムーニー粘度−[カーボンブラックのphr−オイルのphr]
【0042】
長時間、比較的激しく混合することによって、ポリマーの中により良好なカーボンブラックの分散体(すなわち、充填剤の分布)を得ることができるが、このことは、ポリマーのモル質量の低下も促進し、これは望ましくない。
【0043】
好ましいのは、以下の性質を有するネオジム触媒によるポリブタジエンである:
− ムーニー粘度(ML
1+4 100℃):40〜85MU、好ましくは44〜65MU、
− 直線性指数(溶液粘度対ムーニー粘度の比率):4〜8mPas/MU、
− ムーニー緩和(30秒後):4〜8%、
− 多分散性:2.2未満。
【0044】
さらなる発明は、以下のものを含むNdBRマスターバッチである:
− 100phrのネオジム触媒によるポリブタジエン、
− 50〜70phrのカーボンブラック、
− 3〜10phrのオイル、
− 0.2〜2phrの安定剤、および
− 任意選択でその他の助剤。
【0045】
本発明はさらに、NdBRマスターバッチを製造するための方法にも関するが、それには溶液混合操作が含まれる。
【0046】
本発明における好ましい方法には、以下の工程が含まれる:
a)溶液重合により調製されたネオジム触媒によるポリブタジエンを、ASTM D1510−1304に従って測定して85〜210mg/gの間のヨウ素吸収量(ION)およびASTM D2414に従って測定して75〜150mL/100gの間のオイル吸収量(OAN)を有するカーボンブラックと共に混合する工程であって、その混合の前に、そのカーボンブラックを液体の中、好ましくは水、ヘキサン、または水/ヘキサン混合物の中で懸濁させておく、工程、
b)この工程の後、前、または途中にオイルを添加する工程、
c)安定剤を添加する工程、および
d)任意選択で、その他の助剤を添加する工程、
e)次いで、その液体を除去する工程。
【0047】
前処理された特定のタイプのカーボンブラックを選択することによって、混合工程が削減される。
【0048】
典型的には、NdBRマスターバッチは5段階の混合ステージで製造されるが、混合ステージ1には、所定の温度でその混合物をローラー上で混練し、次いで繰り返して折り重ねる(doubling it over repeatedly)ことが含まれる。その後で、そのコンパウンド物を長時間、典型的には24時間保存して、そのコンパウンド物が冷却できるようにする。この保存は、それに続く混合ステージにおいて必要とされる混合エネルギーを導入することを可能とするために、特に重要である。その後で、その予備混合物をニーダーの中でより高い温度で再度混合し、次いで、ローラー上でさらに折り重ねて、ロールがけする。それぞれのステージで、各種の混合物成分を添加することができる。
【0049】
本発明の方法では、たった2段の混合ステージでNdBRマスターバッチが製造されるが、その第一混合ステージでは、成分を混練することが含まれ、次いで、ローラーの上で本発明のマスターバッチに折り重ねを実施する。
【0050】
工程a)は、重合溶媒の中に溶解された、調製されたネオジム触媒によるポリブタジエンを使用して、均質になるまで実施するのが好ましい。
【0051】
工程a)には、10〜35%カーボンブラック−液体懸濁液を使用するのが好ましい。
【0052】
使用される液体は、好ましくは、脂肪族炭化水素(ブタジエンの重合の溶媒と同一の組成を有していてもよい)、またはプロトン性溶媒たとえば水である。
【0053】
溶媒および懸濁液体は、ストリッピングプロセスの手段によるか、または蒸発濃縮の手段によって除去する。
【0054】
さらなる発明は、タイヤ、コンベヤベルト、および靴底で使用するためのゴムコンパウンド物を製造するための、NdBRウェットマスターバッチの使用である。
【0055】
この本発明のNdBRウェットマスターバッチを含むタイヤ、コンベヤベルト、および靴底は、同様に、本発明の主題の一部を形成している。
【0056】
以下において、実施例により、本発明を詳しく説明する。
【実施例】
【0057】
実施例
次のポリブタジエンを使用した:
1.1 以下の性質を有する、BUNA CB 22タイプのネオジム触媒によるポリブタジエン(Lanxess Deutschland GmbH製):
cis−1,4単位=97.8%;
1,2−ビニル単位=0.5%;
分子量Mn=235kg/mol;
多分散性Mw/Mn=2.1;
ムーニー粘度(ML
1+4 100℃)=64.9MU;
溶液粘度(トルエン中5.43%、20℃)=400mPas;
直線性指数(溶液粘度対ムーニー粘度の比率)=6.2mPas/MU;
ムーニー緩和(30秒後)=4.8%
【0058】
次のカーボンブラックを使用した:
2.1 以下の性質を有する、カーボンブラック N231(KMF Laborchemie Handels GmbH製):
ヨウ素吸収量(ION)=121mg/g;
オイル吸収量(OAN)=92mL/100g。
または
2.2 以下の性質を有する、カーボンブラック N326(KMF Laborchemie Handels GmbH製):
ヨウ素吸収量(ION)=82mg/g;
オイル吸収量(OAN)=72mL/100g。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例M:
BUNA CB 22をN231と共に用いた本発明のマスターバッチの製造
温度20℃で、60Lの撹拌槽に最初に、Nd−BRのBUNA CB 22の工業用ヘキサン中9.54%の溶液19kgを仕込んだ。30Lの撹拌槽の中に1.09kgのN231カーボンブラックを最初に仕込み、6kgのヘキサンを添加し、バット攪拌機を使用して、700rpmでその混合物を撹拌した。次いでこのカーボンブラック混合物を、撹拌しながら2時間以内で、ポリブタジエン溶液に添加した。次いで、90.6gのTDAEオイルおよび18gの溶融させたVulkanox 4020安定剤を添加し、その混合物をさらに15分間撹拌した。水蒸気蒸留を用いた連続1段ストリッパーの中で、溶媒を除去した。その湿ったマスターバッチを、真空乾燥器中60℃で、恒量になるまで乾燥させた。
【0061】
比較例M1:
BUNA CB 22およびN326を用いたマスターバッチの製造
温度20℃で、60Lの撹拌槽に最初に、Nd−BRのBUNA CB 22の工業用ヘキサン中9.54%の溶液19kgを仕込んだ。30Lの撹拌槽の中に1.09kgのN326カーボンブラックを最初に仕込み、6kgのヘキサンを添加し、バット攪拌機を使用して、700rpmでその混合物を撹拌した。次いでこのカーボンブラック混合物を、撹拌しながら2時間以内で、ポリブタジエン溶液に添加した。次いで、90.6gのTDAEオイルおよび18gの溶融させたVulkanox 4020安定剤を添加し、その混合物をさらに15分間撹拌した。水蒸気蒸留を用いた連続1段ストリッパーの中で、溶媒を除去した。その湿ったマスターバッチを、真空乾燥器中60℃で、恒量になるまで乾燥させた。
【0062】
上で製造されたマスターバッチを使用した加硫物混合物の製造
性質における各種の変化を測定するために、加硫物混合物を製造し、試験した。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例VMおよび比較例VM1
マスターバッチを使用した加硫物混合物の製造
その製造は、表2からの配合に従い、350mLのBrabender中40rpmで実施した。5分間の混合時間の後、その混合物をローラー上で加工し、それにより得られた溶融シートを、右側および左側で3回切断し、そのシートを3回折り重ねた。
【0065】
比較例V1
マスターバッチを使用しない加硫物混合物の製造
その製造は、表2からの配合に従い、350mLのBrabender中40rpmで実施した。第一のステージでは、Buna CB 22、カーボンブラック、オイル、および安定剤を混合した。5分間の混合時間の後、その混合物をローラー上で加工し、それにより得られた溶融シートを、右側および左側で3回切断し、そのシートを3回折り重ねた。その予備混合物を一夜保存したが、その過程で、冷却されて室温となった。第三のステージで、その予備混合物を、Brabender中40rpmで、残りの成分と混合した。5分間の混合時間の後、その混合物をローラー上で加工し、それにより得られた溶融シートを、右側および左側で3回切断し、そのシートを3回折り重ねた。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に、本発明実施例VMおよび比較例V1の性質を示している。比較例V1から本発明実施例VMへの変化は、比較例V1を100%とした、パーセントで記載されている。本発明実施例VMは、はるかに良好な充填剤分散(ムーニー粘度の低下から認められる)、および改良された転がり抵抗性(60℃での反発弾性の増大および60℃での損失係数タンデルタ(tan d)の低下から明らかである)を有している。