【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、VAMに対する選択性および活性が有意に上昇したシェル型触媒を製造し得る本発明による方法によって解決された。
【0008】
シェル型触媒を製造するための本発明による方法は、以下のプロセスステップ、すなわち
(a)触媒担体(担体)ベッドを循環流動させるステップと、
(b)スプレーすることにより、Au含有前駆体化合物を含有する水溶液の噴霧を、循環流動させている触媒担体ベッドと接触させるステップと、
(c)Pd含有前駆体化合物を含有する水溶液の噴霧を、ステップ(b)に基づいて得られた触媒担体と接触させるステップと、
(d)ステップ(c)で得られた触媒担体を非酸化雰囲気中で温度処理することにより、前駆体化合物の金属成分を元素金属へと還元させるステップと、を特徴とする。
【0009】
本発明による方法のステップ(c)では、循環流動させている触媒担体ベッドに溶液をスプレーすることによって接触が生じることも好ましい。
【0010】
本発明による方法の一実施形態によれば、ステップ(b)では、触媒のAuの前駆体化合物のほかには、さらなる触媒活性のある金属の前駆体化合物を施さず、とりわけPdの前駆体化合物を施さない。
【0011】
「シェル型触媒」という概念は、担体と、触媒活性のある材料を有するシェルとを含む触媒のことであり、このシェルは2種類の異なる方法で形成することができる。
【0012】
第一に、触媒活性のある材料を担体の外側の領域内に存在させることができ、つまり担体の材料が、触媒活性のある材料のためのマトリクスとして働き、担体のうち触媒活性のある材料が含浸した領域が、含浸していない担体のコアの周りにシェルを形成する。第二に、担体の表面に触媒活性のある材料が存在する追加的な層を施すことができる。したがってこの層は、シェルとして担体の周りに増成される追加的な材料層を形成する。後者の形態では、担体材料はシェルの構成要素ではなく、シェルは、触媒活性のある材料自体または触媒活性のある材料を含むマトリクス材料によって形成される。本発明の一実施形態では、最初に挙げた形態のシェル型触媒が好ましい。
【0013】
本発明による方法に基づいて製造された触媒では、金属は、単原子かまたは集合体の形態で存在する。ただし好ましいのは、金属が集合体の形態で存在することである。この単原子の原子または集合体は、シェル型触媒のシェル内にほぼ一様に分散されている。集合体とは、複数の金属原子が複合体へと凝集したものであり、この複合体は、単原子の形態と金属的外観の間にある。いわゆる金属クラスターもこれに属している。
【0014】
担体の外側シェルのシェル厚は、好ましくは、担体の全体厚の半分の1〜70%、より好ましくは2〜60%、さらに好ましくは3〜50%、最も好ましくは4〜40%である。つまり挙げたパーセンテージは全体厚の半分に対してであり、なぜなら、例えば前駆体化合物を含有する溶液を用いたスプレー含浸加工による製造の場合、担体の形状に応じ、前駆体化合物が2方の外表面から担体材料に侵入するか(球)、または担体材料が例えば中空円筒形状のようなより複雑な形状を有しており、外表面と内表面がある場合、この外表面と内表面に前駆体化合物が侵入するからである。球形ではない担体材料では、担体の全体厚は、最も長い担体軸に沿って測定される。外側のシェル境界線は、金属を含有する担体の外側の境界線と同一視される。内側のシェル境界線は、金属を含有する外側シェルのうち担体の内部にある境界線のことであり、この境界線は、外側のシェル境界線からは、担体中に含有されている金属全体の95重量%が外側シェル内に存在するところまで離れている。ただしこれに関し、シェル厚は好ましくは、それぞれ担体の全体厚の半分に対して70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、最も好ましくは30%以下である。
【0015】
金属を含浸した担体はその内側の領域内では、つまり金属シェルの内側のシェル境界線によって外側が画定されている領域の内部では、金属全体の5%以下を含有することが好ましい。
【0016】
触媒のシェル厚に関しては、金属の最大濃度が好ましくは外側シェルの領域内にあり、特に好ましくは外側シェルの外縁に、つまり幾何的な触媒表面の近くにある。金属濃度は、内側のシェル境界線に向かって減っていくことが好ましい。
【0017】
担体は、好ましくは不活性材料から成っている。担体は多孔質または非多孔質であることができる。ただし担体は多孔質であることが好ましい。担体は、例えば球、タブレット、円筒、中実円筒もしくは中空円筒、リング、星形、またはその他の形状のような規則的または不規則的な形状の粒子から成ることが好ましく、担体の例えば直径、長さ、または幅のような寸法は1〜10mm、好ましくは3〜9mmの範囲である。本発明によれば、直径3〜8mmのスフェリカルな、つまり例えば球状の粒子が好ましい。担体材料は、あらゆる非多孔質および多孔質の物質、好ましくは多孔質の物質を含むことができる。これに関する材料の例は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、酸化亜鉛、ゼオライト、層状ケイ酸塩、およびナノ材料、例えばカーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバーであり、担体材料自体が不均一系触媒である場合が好ましい。
【0018】
前述の酸化物の担体材料は、例えば混合酸化物または規定の組成の形態で用いることができ、例えばTiO
2、SiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、MgO、SiC、またはZnOである。さらに、好ましくはカーボンブラック、エチレンブラック(Ethylenschwarz)、炭、グラファイト、ヒドロタルサイト、または当業者に公知のさらなる担体材料を、様々な可能な修飾体において用いることができる。担体材料は、例えばアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属で、またはリン塩、ハロゲン化物塩、および/もしくは硫酸塩でもドープされ得ることが好ましい。特に好ましいのは、触媒担体がSiO
2を、好ましくは担体の総重量に対して65〜98重量%の範囲内の量で含む場合である。酸化物の担体材料は二酸化ジルコニウムの成分も含むことができる。これに関してこれら材料のZrO
2の割合は、好ましくは5〜20重量%の範囲内である。
【0019】
前駆体化合物でコーティングされていない担体材料のBET比表面積は、1〜1,000m
2/g、好ましくは10〜600m
2/g、特に好ましくは20〜400m
2/g、とりわけ好ましくは100〜200m
2/gの間にある。BET比表面積は、DIN66132に基づく窒素の吸着による1点法によって決定される。
【0020】
さらに、前駆体化合物でコーティングされていない担体材料の積算細孔容積(DIN66133(水銀ポロシメトリー)に基づいて決定)は、0.1ml/g超、好ましくは0.18ml/g超、最も好ましくは0.25〜0.5ml/gの範囲内であることが好ましいと言える。
【0021】
担体のかさ重量は、好ましくは480〜650g/lの範囲内、より好ましくは500〜630g/lの範囲内である。
【0022】
担体は一般的に、多数の担体を「バッチ」法にかけることによって製造され、バッチ法の個々のプロセスステップでは、例えば撹拌具および混合具の使用により、成形体に比較的高い機械的負荷がかかる。
【0023】
それだけでなく、本発明による方法によって製造されたシェル型触媒は、反応器に充填する際に機械的に強く負荷がかかる可能性があり、それにより望ましくないダスト発生ならびに担体の損傷、とりわけ担体の外側の領域内にある触媒活性のあるシェルの損傷が起こり得る。
【0024】
とりわけ、本発明による方法によって製造された触媒の摩損を許容し得る範囲内に保つために、シェル型触媒の硬度は20N以上、好ましくは25N以上、さらに好ましくは35N以上、さらに好ましくは40N以上、とりわけ好ましくは40〜65Nの範囲内である。これに関し硬度の確定は、触媒を130℃で2時間乾燥させた後で、Dr.Schleuniger Pharmathron AG社のタブレット硬度試験機8Mを用い、99個のシェル型触媒の平均値として決定され、これに関しては下記のように機器調整する。
成形体に対する距離:5.00mm
タイムラグ:0.80秒
送りタイプ:6D
速度:0.60mm/秒
【0025】
本発明による方法によって製造された触媒の硬度には、例えば、担体の製造方法の特定のパラメータを変化させることで影響を及ぼすことができ、例えば担体のか焼時間および/またはか焼温度によって影響を及ぼすことができる。ここに挙げたか焼は、金属を含有する前駆体化合物を含浸させた担体のか焼ではなく、前駆体化合物が塗布される前の単に担体を製造するためのか焼ステップである。
【0026】
加えて、担体の積算細孔容積の80%、好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも90%が、メソ孔およびマクロ孔によって形成されることが好ましい。これにより、とりわけ金属含有シェルの厚さが比較的大きい場合に、本発明による方法によって製造された触媒の活性が拡散限界により低下することに対処する。これに関し、マイクロ孔、メソ孔、およびマクロ孔の概念は、それぞれ直径2nm未満の、直径2〜50nmの、または直径50nm超の細孔と理解すべきである。
【0027】
本発明による方法によって製造されたシェル型触媒の活性は、一般的にはシェル内の金属担持量に依存しており、すなわち一般的には活性が高ければ高いほど、シェル内により多く金属が存在している。ここでシェルの厚さは、活性にはあまり影響を及ぼさないが、ただし触媒の選択性に対しては決定的な値である。触媒担体の金属担持量が同じであれば、一般的に本発明による方法によって製造されたシェル型触媒の選択性が高ければ高いほど、触媒の外側シェルの厚さは小さい。つまり、できるだけ高い活性で、できるだけ高い選択性を保証するには、金属担持量とシェル厚の最適な関係を調整することが不可欠である。したがって本発明による方法によって製造された触媒のさらなる好ましい一実施形態に対応して、触媒のシェルの厚さは、5μm〜2000μm、好ましくは10μm〜1500μm、より好ましくは15〜1000μmの範囲内にある。シェル型触媒が、例えば酢酸ビニルを合成するための触媒として用いられる場合、触媒のシェル厚は好ましくは10μm〜400μmの範囲内、より好ましくは15μm〜300μmの範囲内である。
【0028】
シェルの厚さは顕微鏡で視覚的に測定することができる。つまり、金属が堆積している領域は黒く見え、その一方で貴金属を含有していない領域は白く見える。貴金属を含有する領域と含有していない領域の境界線は、一般的に非常にくっきりしており、視覚的に明らかに認識することができる。前述の境界線がくっきりとは形成されておらず、これに対応して視覚的に明らかには認識できない場合、シェルの厚さは、既に述べたように、触媒担体の外側の表面から測定した、担体に堆積している貴金属の95%を含有しているシェルの厚さに相当する。本発明による方法によって製造された触媒の、貴金属含有シェルの厚さ全体にわたってほぼ均等な活性を保証するため、貴金属濃度はシェル厚全体にわたって比較的少ししか変化しないことが望ましい。したがって、触媒の貴金属濃度のプロファイルが、シェル厚の90%の領域全体にわたって、場合が好ましく、その際、この領域は、外側および内側のシェル境界線からシェル厚の5%ずつ離隔しており、この領域の平均の貴金属濃度からは最大で+/−20%、好ましくは最大で+/−15%、好ましくは最大で+/−10%の相違である。このようなプロファイルは、後で記載するような、スプレーすることにより、前駆体化合物を含有する水溶液の噴霧を、循環流動させている触媒担体ベッドに接触させることによって得られる。担体ベッドの循環流動を達成するには、担体ベッドを、流動層(Wirbelschicht)、流動床(Fliessbett)において、またはInnojet−Aircoater内で、後で記載するように供することがとりわけ適している。上述の金属担持量の分布は、矩形関数を示すことが好ましい。ただしシェル内での金属担持量は、矩形関数のほかに三角形関数または台形関数を示すこともでき、三角形関数または台形関数の場合、金属濃度は、シェル内で外側から内側へと漸進的に減少する。したがって本発明によれば、すべての本出願において挙げた前駆体化合物の施しが、上述の方法で実施されることが好ましい。
【0029】
加えて本発明による方法では、ステップ(c)中に、つまりPd含有前駆体化合物のスプレー(コーティング)中に、Pd含有前駆体化合物とAu含有前駆体化合物とから成る混合溶液をスプレーすることも可能であり、つまりステップ(c)でスプレーされる溶液は、追加的にAu含有前駆体化合物も含有することができる。その代わりに、Pd含有前駆体化合物の溶液のスプレー中に、追加的にAu含有前駆体化合物を別の溶液の状態でスプレーしてもよい。ステップ(c)中にAu含有前駆体化合物もスプレーされる場合、とりわけ、ステップ(b)のAu含有前駆体化合物のスプレーを、ステップ(c)中に、Pd含有前駆体化合物のスプレーに続けられるよう、Au含有前駆体化合物は、Pd含有前駆体化合物とは別の溶液の状態で施されるのが好ましい。言い換えると、最初はAu含有前駆体化合物を含有する溶液だけをスプレーすることが好ましい。Au含有前駆体化合物の特定のスプレー時間の後、追加的にPd含有前駆体化合物を含有する溶液をスプレーするのが好ましい。Au含有前駆体化合物のスプレーは、Pd含有前駆体化合物のスプレーが終わるまで続行することができ、ただしPd含有前駆体化合物のスプレーが終わる前に終了してもよい。
【0030】
さらに、ステップ(c)の後で、Au含有前駆体化合物を含有する溶液をさらに担体にスプレーすることが好ましい。この任意選択のステップは、本出願ではステップ(c1)と言い、ステップ(d)の前に実施するのが好ましい。
【0031】
したがって本発明による方法は下記の形態で実施することができる。すなわちステップ(b):Au含有前駆体化合物を含有する溶液のスプレー;ステップ(c):Pd含有前駆体化合物を含有する溶液のスプレー;ステップ(c)中にもAu含有前駆体化合物のスプレーを任意選択で行うことができ、またはAu含有前駆体化合物を含有する溶液のスプレーをステップ(c)中に全体的または部分的に続行することができる;任意選択のステップ(c1):ここではAu含有前駆体化合物を含有する溶液をさらにスプレーすることができる;ステップ(c1)は、ステップ(c)で追加的にAu含有前駆体化合物がスプレーされることとは関係なく行うことができる。とはいえステップ(c)でAu含有前駆体化合物もずっとスプレーしている場合には、Au含有前駆体化合物のスプレーは、とにかく中断することなくステップ(c1)に続行されるのが好ましい。ただしステップ(c1)では、Au含有前駆体化合物だけをスプレーし、Pd含有前駆体化合物はスプレーしないことが好ましい。
【0032】
挙げたプロセス形態のどれが選択されるかに関係なく、より高い選択性および活性を有するシェル型触媒を得るためには、第一に、Pd含有前駆体化合物をスプレーする前にAu含有前駆体化合物のスプレーを実施することが不可欠である。つまり、Au含有前駆体化合物を含有する溶液をスプレーするステップ(a)中は、Pd含有前駆体化合物の追加的なスプレーを行わない。しかしながらこれは、Pd含有前駆体化合物を含有する溶液をスプレーするステップ中に、Au含有前駆体化合物もスプレーすることを排除するものではない。
【0033】
本発明による方法のステップ(b)および(c)での担体への前駆体化合物のスプレーは、それ自体公知の方法に基づいて実施することができる。
【0034】
従来技術では、前駆体化合物を含有する溶液の塗布は、しばしば、担体が前駆体化合物の溶液中に浸されることによるか、またはインシピエント・ウェットネス(Incipient−wetness)法に基づき、浸透によって行われる。しかしながらこれらの浸透法では、規定のシェルと均質な金属分布とを有するシェル型触媒を製造することは困難である。
【0035】
本発明による方法におけるステップ(b)および(c)ならびに任意選択のステップ(c1)での前駆体化合物のスプレーは、前駆体化合物を含有する水溶液を担体にスプレーすることにより実施されることが好ましい。このとき担体ベッドを循環流動させ、したがって担体をすべての側から一様にスプレーすることができる。循環流動は、原理的には、例えば糖衣ドラムのようなあらゆる公知の機械的撹拌機によって起こすことができる。しかしながら本発明によれば、担体の循環流動は、プロセスガスにより例えば流動床、流動層において、またはInnojet−Aircoaterのコーティングチャンバー内で実施されるのが特に好ましい。その際、担体はプロセスガスが吹き込まれることによって動かされる。プロセスガスは、ここでは、制御されたプロセスガスの滑動層内に担体が保持されるように案内されるのが好ましい。これに関しプロセスガスが加熱されるのが好ましく、これにより溶剤が素早く蒸発する。こうすることで、前駆体化合物が担体の前述の規定のシェル内に存在する。スプレー中のスプレー率は、担体上で、溶剤の蒸発率と前駆体化合物の供給率の間の平衡が達成されるように選択するのが好ましい。これは、所望のシェル厚およびシェル内のパラジウム/金分布を調整することを可能にする。したがってスプレー率に応じ、シェル厚を例えば最大2mmの厚さで無段階に調整および最適化することができる。ただし厚さが1000μm未満の非常に薄いシェルも可能である。
【0036】
特に好ましいのは、前駆体化合物を施す考え得るすべてのステップで、スプレーする際のスプレー率が一定であり、前駆体化合物を含有する溶液の質量流量が、コーティングする担体成形体100gにつき0.5〜10g/minの範囲内、より好ましくはコーティングする担体100gにつき1〜8g/minの範囲内、さらに好ましくはコーティングする担体100gにつき2〜6g/min、最も好ましくはコーティングする担体100gにつき3.5〜5g/minであることである。言い換えると、担体ベッドの重量に対するスプレーする溶液の重量の比率は0.005〜0.1、より好ましくは0.01〜0.08、さらに好ましくは0.02〜0.06、最も好ましくは0.035〜0.05の範囲内にある。示した範囲を上回る質量流量または比率は選択性が比較的低い触媒をもたらし、示した範囲を下回る質量流量または比率は、触媒性能への強い悪影響はないが、ただし触媒製造にかかる時間が非常に長く、したがって製造が非効率である。
【0037】
すべての溶液を施す際のスプレー率が一定であることを前提とし、ステップ(b)で溶液を施す時間とステップ(c)で溶液を施す時間の比率は5:1〜1:5、好ましくは4:1〜1:2、より好ましくは3:1〜1:1、最も好ましくは2.5:1〜1.5:1の範囲内にある場合が好ましい。
【0038】
流動床設備を使用する場合は、担体が流動床において楕円形またはトロイダル形に周回する場合が好ましい。このような流動床において担体がどのように移動するのかをイメージさせるために詳述すると、「楕円周回」の場合、担体は流動床において、垂直面では主軸と副軸の大きさが変動する楕円軌道上を移動する。「トロイダル」周回の場合、担体は流動床において、垂直面では主軸と副軸の大きさが変動する楕円軌道上を、また水平面では半径の大きさが変動する円軌道上を移動する。担体は平均的には、「楕円周回」の場合、垂直面では楕円軌道上を移動し、「トロイダル周回」の場合はトロイダル軌道上を、つまり担体は垂直な楕円の断面をもつトーラスの表面を螺旋状に移動する。
【0039】
本発明による方法のステップ(b)および(c)ならびに任意選択のステップ(c1)での担体への前駆体化合物のスプレーは、流動床設備内の流動床を用いて実施されるのが特に好ましい。これに関し、この設備内で、いわゆる制御された滑動層がプロセスガスから成ることが特に好ましい。担体は、一方ではプロセスガスから成る制御された滑動層によって混ぜ合わされ、その際、同時に担体はそれ自体の軸の周りを回転しており、プロセスガスによって一様に乾燥される。もう一方で担体は、プロセスガスから成る制御された滑動層によって引き起こされた結果としての担体の軌道運動に基づき、スプレー工程(前駆体化合物の適用)をほぼ一定の頻度で通り過ぎる。これにより、処理された段階の担体のほぼ均等なシェル厚、つまり担体内への貴金属のほぼ均等な侵入深度が達成される。これによりさらに、貴金属濃度がシェル厚の比較的大きな領域全体にわたって比較的少ししか変化せず、つまり貴金属濃度がシェル厚の大きな領域全体にわたって、ほぼ矩形関数を示すことが達成され、これにより、結果として生じる触媒のほぼ均質な活性が、貴金属シェルの厚さ全体にわたって保証されている。ただしこのやり方でシェル内の貴金属濃度が三角形関数または台形関数を示すように調整することもできる。
【0040】
本発明による方法において前駆体化合物のスプレーを実施するのに適した従来の糖衣ドラム、流動層設備、または流動床設備は従来技術において公知であり、例えば、Heinrich Brucks GmbH(Alfeld、ドイツ)、ERWEKA GmbH(Heusenstamm、ドイツ)、Stechel(ドイツ)、DRIAM Anlagenbau GmbH(Erichskirch、ドイツ)、Glatt GmbH(Binzen、ドイツ)、D.S.Divisione Verniciatura(Osteria、イタリア)、HOFER−Pharma Maschinen GmbH(Weil am Rhein、ドイツ)、L.B.Bohle Maschinen und Verfahren GmbH(Enningerloh、ドイツ)、Loedige Maschinenbau GmbH(Paderborn、ドイツ)、Manesty(Merseyside、イギリス)、Vector Corporation(Marion(IA)USA)、Aeromatic−Fielder AG(Bubendorf、スイス)、GEA Process Engineering(Hampshire、イギリス)、Fluid Air Inc.(Aurora,Illinois、USA)、Heinen Systems GmbH(Varel、ドイツ)、Huettlin GmbH(Steinen、ドイツ)、Umang Pharmatech Pvt.Ltd.(Maharaschtra、インド)、およびInnojet Technologies(Loerrach、ドイツ)のような企業によって販売されている。特に好ましい流動床装置は、Innojet(登録商標)AircoaterまたはInnojet(登録商標)Ventilusの名称で、Innojet Technologies社から販売されている。ここではそれぞれInnojet社のCoater IAC−5、Coater IAC−150、またはCoater IAC−025を使用することがとりわけ好ましい。
【0041】
さらに、本発明による方法において用いられる担体は、ステップ(b)および(c)ならびに任意選択のステップ(c1)での前駆体化合物を含有する溶液のスプレー中に加熱され、例えば加熱されたプロセスガスによって加熱される。これに関しプロセスガスの温度は好ましくは10〜110℃、より好ましくは40〜100℃、最も好ましくは50〜90℃である。前述の外側シェルが、貴金属濃度が高くて層厚が小さいことを保証するため、挙げた上限が遵守されることが望ましい。
【0042】
プロセスガスとしては空気を使用することが好ましく、ただし例えば窒素、CO
2、ヘリウム、ネオン、アルゴン、またはその混合物のような不活性ガスを使用してもよい。
【0043】
既に上で述べたように、ステップ(b)および(c)ならびに任意選択のステップ(c1)での触媒担体への前駆体化合物のスプレー(コーティング)は、水溶液の状態で塗布することにより実施されるのが好ましい。遷移金属の前駆体化合物のための溶剤としては、選択された金属化合物を溶解可能で、触媒担体に塗布した後で触媒担体から容易に乾燥によって再び除去可能な、水、水と溶剤から成る混合物が適しており、ただし好ましくは脱イオン水が適している。好ましい溶剤は、無置換カルボン酸、とりわけ酢酸、およびケトン、例えばアセトンである。
【0044】
前駆体化合物を含有する溶液のスプレーは、本発明による方法のすべてのプロセスステップにおいて、好ましくはスプレーノズルによる溶液の噴霧によって実現される。これに関しては、対称面が好ましくは機器底面に平行に走る噴霧雲をスプレーする環状間隙ノズルを使用することが好ましい。噴霧雲の広がりが360°であることにより、中心で落ちる担体に特に一様に溶液をスプレーすることができる。その際、環状間隙ノズル、詳しくはノズルの吐出口が、担体の循環流動を実施する装置内に完全に包埋されることが好ましい。
【0045】
本発明による方法のさらに好ましい一実施形態に対応して、環状間隙ノズルは、担体の循環流動を起こす装置の底の中心に配置され、環状間隙ノズルの吐出口は装置内に完全に包埋される。これにより、成形体に当たるまでの噴霧雲の滴の自由経路長が比較的短く、これに対応して滴には、より大きな滴に合体する時間が比較的少ないことが保証され、このより大きな滴への合体は、ほぼ均等なシェル厚の形成を阻害する可能性がある。
【0046】
溶液の噴霧は、本発明による方法では、溶液がエアロゾルの形態で担体に当たるように行われるのが好ましい。この場合、小滴の大きさは好ましくは、担体に当たる際に1〜100μmの範囲内、好ましくは10〜40μmの範囲内にある。小滴の大きさが小さすぎると低活性の触媒になり、これに対して小滴の大きさが大きすぎると、VAM選択性の低い触媒になることが分かった。
【0047】
ステップ(b)および任意選択のステップ(c1)で使用されるAu含有前駆体化合物を含有する溶液は、Auを溶液中の金属の原子の重量分率に対して好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜8重量%、さらに好ましくは0.2〜5重量%、最も好ましくは0.3〜2重量%の範囲内で含有している。同じことが、ステップ(c)で使用される溶液と同時に施されるAu含有前駆体化合物を含有する溶液に対しても当てはまる。
【0048】
ステップ(c)で使用されるPd含有前駆体化合物を含有する溶液は、Pdを溶液中の金属の原子の重量分率に対して好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜7重量%、さらに好ましくは0.7〜5重量%、最も好ましくは1〜2.5重量%の範囲内で含有している。
【0049】
ステップ(c)で、Pd含有前駆体化合物だけでなくAu含有前駆体化合物も含む溶液を使用する場合、この溶液は、PdおよびAuをそれぞれの溶液に関して示したのと同じ割合で含有するのが好ましい。
【0050】
上で示した溶液の場合、金属含有率が示した範囲を上回ると、選択性の比較的低いシェル型触媒になる。示した範囲を下回る金属含有率は、得られた触媒の活性に悪影響を及ぼし、スプレー時間を著しく長くし、これに対応して本方法の経済性に不利に影響を及ぼす。
【0051】
ステップ(b)で担体に前駆体化合物をスプレーした後、ステップ(c)でPd含有前駆体化合物をスプレーする前に、乾燥ステップを行うことができる。ステップ(c)の後にステップ(c1)が実施される場合も、任意選択で同じことが適用される。乾燥ステップは、好ましくは前駆体化合物の分解温度未満で、とりわけ上で挙げた温度で実施される。分解温度とは、前駆体化合物が分解し始める温度である。乾燥は、流動床もしくは流動層においてプロセス空気によって、または空気中もしくは好ましくは温度が60℃〜120℃の範囲内の乾燥炉内で放置することによって行われるのが好ましい。しかしながらさらに特に好ましいのは、ステップ(b)、(c)、および任意選択で(c1)が直接的に相次ぎ、つまりこれらステップの間に乾燥ステップが実施されないことである。これは、ステップ(b)で前駆体化合物を含有する溶液がスプレーされた直後に、ステップ(c)からのPd含有前駆体化合物を含有する溶液をスプレーすることによって、またはステップ(c)の直後に、任意選択のステップ(c1)からのAu含有前駆体化合物を含有する溶液をスプレーすることによって行われる。
【0052】
加えて任意選択で、ステップ(b)および(c)(および任意選択で(c1))で溶液をスプレーする合間に、前駆体化合物を金属酸化物へと酸化するための中間か焼ステップを実施することができる。同様に任意選択で、前駆体化合物を金属へと還元するための中間還元ステップを実施することができる。しかしながら、ステップ(b)、(c)、および任意選択で(c1)で両方の前駆体化合物をスプレーするステップの合間には乾燥ステップも、か焼ステップも、還元ステップも行われないことが特に好ましい。
【0053】
ステップ(b)の後、触媒担体は、乾燥後の触媒担体の総重量に対して(つまり水分を含有していない触媒プリカーサに対して)好ましくはAuを0.05〜0.2重量%の範囲内、より好ましくは0.09〜0.16重量%の範囲内の割合で含有している。
【0054】
ステップ(c)の後、触媒担体は、乾燥後の触媒担体の総重量に対して好ましくはPdを0.6〜2重量%の範囲内、より好ましくは0.7〜1.6重量%の範囲内の割合で含有している。ステップ(c)の後、触媒担体は、乾燥後の触媒担体の総重量に対して好ましくはAuを0.1〜1重量%の範囲内、より好ましくは0.3〜0.6重量%の範囲内の割合で含有している。
【0055】
ステップ(b)、(c)、および任意選択で(c1)でのAu含有前駆体化合物およびPd含有前駆体化合物は、水溶性の化合物であることが好ましい。
【0056】
Pd含有前駆体化合物は、硝酸塩化合物、亜硝酸塩化合物、酢酸塩化合物、テトラアンミン化合物、ジアンミン化合物、炭酸水素塩化合物、および水酸化物のメタラート化合物から選択されるのが好ましい。
【0057】
好ましいPd含有前駆体化合物の例は水溶性のPd塩である。本発明による方法の特に好ましい一実施形態によれば、Pd前駆体化合物は、Pd(NH
3)
4(HCO
3)
2、Pd(NH
3)
4(HPO
4)、シュウ酸Pdアンモニウム、シュウ酸Pd、K
2Pd(シュウ酸塩)
2、Pd(II)−トリフルオロ酢酸塩、Pd(NH
3)
4(OH)
2、Pd(NO
3)
2、H
2Pd(OAc)
2(OH)
2、Pd(NH
3)
2(NO
2)
2、Pd(NH
3)
4(NO
3)
2、H
2Pd(NO
2)
4、Na
2Pd(NO
2)
4、Pd(OAc)
2、および新たに析出沈殿させたPd(OH)
2から成る群から選択される。新たに析出沈殿させたPd(OH)
2の製造は、好ましくは次のように実施され、すなわちこの場合、好ましくは、テトラクロロパラダートの0.1〜40重量%水溶液を製造する。その後この溶液に、塩基、好ましくは水酸化カリウムから成る水溶液を、褐色の固体、つまりPd(OH)
2が析出沈殿するまで添加する。触媒担体に塗布するための溶液を製造するため、新たに析出沈殿させたPd(OH)
2を単離し、洗浄し、そして水性アルカリ溶液中に溶解させる。溶解は好ましくは4〜40℃、特に好ましくは15〜25℃の範囲内の温度で行う。より低い温度は水の凝固点に基づき不可能であり、より高い温度は、特定の時間後にPd(OH)
2が水溶液中で再び沈殿して溶解しないという欠点を伴う。
【0058】
さらに、本発明による方法では亜硝酸Pd前駆体化合物を用いてもよい。好ましい亜硝酸Pd前駆体化合物は、例えば、NaNO
2溶液またはKNO
2溶液にPd(OAc)
2を溶解させることで得られる亜硝酸Pd前駆体化合物である。
【0059】
ステップ(b)および(c)ならびに任意選択のステップ(c1)でのAu含有前駆体化合物はそれぞれ互いに独立して、酢酸塩化合物、亜硝酸塩化合物または硝酸塩化合物、および水酸化物のメタラート化合物から選択されるのが好ましい。
【0060】
好ましいAu含有前駆体化合物の例は水溶性のAu塩である。本発明による方法の特に好ましい一実施形態によれば、Au前駆体化合物は、KAuO
2、NaAuO
2、LiAuO
2、RbAuO
2、Ba(AuO
2)
2、NaAu(OAc)
3(OH)、KAu(NO
2)
4、KAu(OAc)
3(OH)、LiAu(OAc)
3(OH)、RbAu(OAc)
3(OH)、HAu(NO
3)
4、およびAu(OAc)
3から成る群から選択される。これに関し、Au(OAc)
3またはKAuO
2は、場合によっては金酸溶液から酸化物、水酸化物を沈殿させ、沈殿物を洗浄および単離し、かつこの沈殿物を酢酸またはKOH中に加えることにより、それぞれ新たに作るのが得策である。特に好ましいのは、Au含有前駆体化合物として金酸カリウムを用いることであり、この金酸カリウムは、担体に施すために溶解した形態で使用される。金酸カリウム溶液の製造は文献において公知であり、刊行物WO99/62632(特許文献1)およびUS6,015,769(特許文献2)で開示された製造方法に基づいて製造することができる。とりわけ好ましいのは、ステップ(b)および(c)ならびに任意選択のステップ(c1)でのAu含有前駆体化合物が同じであり、とりわけKAuO
2であることである。
【0061】
挙げた前駆体化合物は例として提示しているだけであり、あらゆるさらなる前駆体化合物を使用することができる。前駆体化合物は、実質的に塩化物を含有しないことが特に好ましい。実質的に塩化物を含有しないとは、化合物の分子式が塩化物を含んでいないということであり、ただし化合物が例えば製造上の制約によりやむを得ない塩化物の汚染物質を含有することは許容される。これに関し特に好ましいのは、Au前駆体化合物を含有する溶液中の塩化物の最大含有率が、5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、最も好ましくは1500ppm以下であり、Pd前駆体化合物を含有する溶液中では600ppm以下、より好ましくは300ppm以下、最も好ましくは100ppm以下であることである。
【0062】
とりわけ好ましくは、本発明による方法では、酸素またはその他の酸化性に作用するガスを全くまたはほぼ含有しない非酸化性ガスが用いられる。非酸化雰囲気は、不活性ガスから成る雰囲気または還元雰囲気または両方のガス形態から成る混合物であり得る。
【0063】
本発明による方法の一形態では、不活性ガスから成る雰囲気中で還元が実施される。この場合、金属含有前駆体化合物中の金属イオンの対イオンが還元性に作用するか、または金属錯体が選択されたプロセス条件下で酸化数0へと不均化を起こす。
【0064】
本発明による方法のさらなる一形態では、温度処理は、前駆体化合物Pd(NH
3)
4(OH)
2およびAu含有前駆体化合物としてのNaAuO
2またはKAuO
2、特に好ましくはKAuO
2において使用される。
【0065】
前駆体化合物をスプレーするステップの後で、ステップ(d)の前に、担体に乾燥ステップを施すことが好ましい。乾燥ステップは、ステップ(b)および(c)または(c1)の合間の任意選択の乾燥ステップに関連して、上と同じやり方で行われるのが好ましい。
【0066】
既に詳述したように、ステップ(d)は、前駆体化合物の金属成分を元素金属へと還元させるための非酸化雰囲気中で実施されるのが好ましい。
【0067】
非酸化雰囲気中での温度処理は、60℃〜500℃の温度範囲内で、されるのが好ましい。
【0068】
本発明において非酸化雰囲気とは、還元雰囲気に実施される雰囲気のことである。この場合、前駆体化合物は、同時に分解され、かつ金属成分を元素金属へと還元させる。つまり、分解と還元が還元雰囲気中で同時に同じ温度で実施される。この場合、温度処理は好ましくは40℃以上〜400℃の範囲内、より好ましくは50℃〜300℃、さらに好ましくは60℃〜250℃、最も好ましくは70℃〜180℃の範囲内で行われる。
【0069】
本発明による方法のまたさらなる一形態では、温度処理中に不活性ガスから成る雰囲気から還元雰囲気への切替えが行われるように温度処理が実施されるのが好ましい。したがってこの方法は、エネルギーおよび費用の節約になる。これは、とりわけ出発化合物が例えば塩素含有化合物のように分解温度が高くないので可能であった。
【0070】
この場合、前駆体化合物は、最初に前駆体化合物の分解温度での不活性ガスから成る雰囲気中で分解され、続いて還元雰囲気への切替えにより金属成分が元素金属へと還元される。不活性ガス下で分解中の温度は好ましくは200〜500℃の範囲内、より好ましくは250〜450℃、最も好ましくは300℃超である。その後、続く還元中の温度は好ましくは40℃以上〜400℃の範囲内、より好ましくは40℃〜300℃、さらに好ましくは45℃〜250℃、最も好ましくは50℃〜180℃の範囲内にある。
【0071】
3つすべてのプロセス形態が、前または中間に設けられたさらなるステップでの、別の設備における前か焼または中間か焼を省き得るという利点を有している。したがって本発明による方法は、手間のかかる分解温度未満への冷却および分解温度超への加熱を省くことによって実施されるのが好ましい。
【0072】
本発明によれば特に好ましいのは、不活性ガスから成る雰囲気から還元雰囲気への切替えが、切替え中に温度が還元に望ましい温度未満に下がらないように実施されることである。
【0073】
不活性ガスとしては、例えばN
2、He、Ne、Ar、またはその混合物が使用される。特に好ましくはN
2が使用される。
【0074】
還元雰囲気中の還元性に作用する成分は、一般的には還元すべき金属成分の性質に応じて選択すべきであり、ただし好ましくは、エチレン、水素、CO、NH
3、ホルムアルデヒド、メタノール、ギ酸、および炭化水素から成るガスもしくは蒸発可能な液体の群から選択されるか、または前述のガス/液体の2種以上の混合物である。特に好ましいのは、還元雰囲気が還元成分として水素を含んでいることである。とりわけ好ましいのは、還元雰囲気がフォーミングガス、すなわちN
2およびH
2から成る混合物から形成されている場合である。この場合、水素含有率は1体積%〜15体積%の範囲内である。本発明による方法は、例えばプロセスガスとしての窒素中の水素(4〜5体積%)により、60℃〜500℃の範囲内の温度で、例えば1〜5時間の期間にわたって実施される。
【0075】
第2の代替方法で挙げた不活性ガスから還元雰囲気への切替えは、不活性ガスから成る雰囲気中に、挙げた還元成分の1種を供給することによって行うのが好ましい。この場合、好ましくは水素ガスが供給される。還元性に作用するガスを不活性ガスに供給することは、温度が著しくは下がらず、つまり還元に望ましい最低でも60℃の下限以下には下がらないという利点があり、したがって、これに対応する全雰囲気交換での費用およびエネルギーを新たに費やす加熱は不要である。
【0076】
特に好ましい一実施形態では、前駆体化合物を含有する担体は、温度処理の前に酸化雰囲気中で300℃以上の温度には曝されない。こうすることで、前駆体化合物を施した担体が、前駆体化合物のままで温度処理されることを保証している。言い換えると、含浸された担体の、金属酸化物への費用のかかる前か焼を省くことができる。ただし本発明によれば、酸化物への中間か焼を実施することも可能である。
【0077】
本発明による方法によって製造されたシェル型触媒は、Auの総割合を、シェル型触媒の総重量に対して0.1〜1.0重量%の範囲内、より好ましくは0.2〜0.9重量%、さらに好ましくは0.25〜0.8重量%、最も好ましくは0.3〜0.7重量%の範囲内で含有するのが好ましい。
【0078】
本発明による方法によって製造されたシェル型触媒は、Pdの総割合を、シェル型触媒の総重量に対して0.6〜2.0重量%の範囲内、より好ましくは0.8〜1.7重量%、さらに好ましくは0.9〜1.6重量%、最も好ましくは1.0〜1.5重量%の範囲内で含有するのが好ましい。
【0079】
本発明による方法では、前駆体化合物の金属成分を元素金属へと還元させた後、後金被覆された担体に好ましくは促進剤KOAcを施し、このために、細孔充填法(incipient wetness)に基づき、得られた触媒プリカーサに水性のKOAc溶液(好ましくは水溶液)を室温で含浸させ、乾燥を開始する前に典型的には約1時間放置する。カリウム担持量は、乾燥した触媒の総重量に対して好ましくは2〜3.5重量%、より好ましくは2.2〜3.0重量%、最も好ましくは2.5〜2.7重量%の範囲内である。KOAc溶液を施した後、空気、希薄空気、または不活性ガス中で、70〜120℃、より好ましくは80〜110℃、最も好ましくは90〜100℃の範囲内で最終的な乾燥を行うことができる。
【0080】
加えて本発明のさらなる対象は、本発明による方法に基づいて得られるシェル型触媒である。本発明によるシェル型触媒は、酢酸ビニルおよび/または酢酸アリルを合成するための従来のシェル型触媒とは、本発明によるシェル型触媒が酢酸ビニルおよび/または酢酸アリルの合成に関する有意により高い選択性および活性を有することにより異なっている。本発明によるシェル型触媒の従来の触媒より優れた選択性および活性に基づいて明確に存在している構造上の相違は、出願時点では物理量で把握できていない。したがって本発明によるシェル型触媒は、その製造方法および確認された選択性および活性の上昇によってのみ従来の触媒と区別することができる。
【0081】
さらなる一実施形態は、オレフィンのオキシアセチル化のため、とりわけ酢酸アリルまたは酢酸ビニルの製造のための、本発明による方法に基づいて製造されたシェル型触媒の使用に関する。言い換えると本発明は、酢酸、オレフィン、および酸素または酸素含有ガスを本発明による触媒により誘導する、オレフィンのオキシアセチル化方法にも関する。オレフィンは、ここでは好ましくはエチレンまたはプロピレンである。この方法は一般的には酢酸、オレフィン、および酸素または酸素含有ガスを、温度100〜200℃、好ましくは120〜200℃および圧力1〜25bar、好ましくは1〜20barで本発明による触媒により誘導することによって行われ、その際、転化していない反応物は循環するように案内することができる。酸素濃度は10体積%未満に保つことが有用である。ただし事情によっては、窒素または二酸化炭素のような不活性ガスによる希釈も有利である。特に二酸化炭素が希釈に適しており、なぜなら二酸化炭素は酢酸ビニルおよび/または酢酸アリル合成の過程では少量で形成され、循環ガス中に蓄積されるからである。生じた酢酸ビニル/酢酸アリルは、例えばUS5,066,365A(特許文献3)に記載の適切な方法によって単離される。
【0082】
以下では本発明を図および例示的実施形態に基づいてより詳しく説明するが、これら例示的実施形態を、制限をかけるものとして理解すべきではない。