(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インジウム系複合酸化物がインジウム・スズ複合酸化物であり、4価金属元素の酸化物がスズ酸化物であることを特徴とする請求項1または2記載の透明導電性フィルム。
前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、酸素を導入することなく行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の透明導電フィルムの製造方法。
前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、不活性ガス量に対して、酸素量の割合が0.5%以下になるように、酸素を導入しながら行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の透明導電フィルムの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、有機高分子フィルム基材上に成膜されたITO膜は、ガラス基材上に成膜されたITO膜に比較して一般的に比抵抗値が高い。この理由には主に2つの理由が考えられる。一つ目の理由としては、有機高分子フィルム基材の大部分はガラス転移温度、または耐熱温度が200℃に満たないので、高温加熱ができない。そのため、インジウムサイトに置換するスズ原子の量が限られるのでキャリアとなる電子密度nが一桁少ないITO膜になることが挙げられる。二つ目の理由としては、有機高分子フィルム基材に吸着した水分やプラズマに触れた場合に発生するガス、さらには、ターゲットに含有している過剰なスズ原子なども不純物として働くため、結晶成長が阻害されることが挙げられる。また、フィルム基材の熱変形や平滑性の悪さも結晶成長に悪影響すると考えられる。また過剰なスズ原子は局部的にスズ酸化物(SnO
2)状態になり易く、特許文献1、2では、結晶成長を阻害する以外にも、内部応力によって、結晶内部にも電子を散乱させる欠陥を形成することになる。それら両者が相まって電子移動度μが小さくなると考えられる。これらの理由により、有機高分子フィルム基材上で形成されるITO膜は、130nmの厚みにおいて、約30Ω/□の表面抵抗値、4×10
−4Ω・cm以下の比抵抗値を有することは困難であった。
【0009】
特許文献1では、スパッタリング時にターゲットと基板の中間位置でプラズマを発生させるプラズマアシストスパッタリング法や、スパッタリングを行いながらイオンビームアシストを行うイオンビームアシストスパッタリング法を用いることにより、X線回折ピークのうち(400)面が最も強く、比抵抗値(体積抵抗率)が1×10
−4〜6×10
−4Ω・cmのITO膜を成膜できることが提案されている。しかし、ターゲット基板(TS)間距離が狭いスパッタ成膜において、TS間にイオンビームやRFで別のプラズマを採用することは、バッチ成膜装置では可能であるが、R−to―R装置では均一性や安定性に問題がある。また、特許文献1で得られるITO膜は、キャリア濃度値(5×10
20〜2×10
21cm
−3)・キャリア移動度値(15〜25cm
2/V/s)であり、さらには、特許文献1の実施例に記載のITO膜の体積抵抗率値は5×10
−4Ω・cm程度である。特許文献1では、実質的に、1×10
−4Ω・cmの低い比抵抗値のITO膜を得ることはできていない。
【0010】
特許文献2では、通常のマグネトロンスパッタ法でITO膜を成膜する場合に、基板温度80℃未満において、チャンバー内の水分圧を低減し、酸素分圧、不活性ガス分圧を調整して一旦、比抵抗値が4×10
−4〜6×10
−4Ω・cmの膜を成膜した後、酸素雰囲気下でガラス転移温度を超えない温度で熱処理すると、比抵抗値が1×10
−4〜4.1×10
−4Ω・cmのITO膜を形成できることが提案されている。しかし、特許文献2では、通常のマグネトロンスパッタ成膜法を用いているので、反跳アルゴンや酸素負イオンなどの膜へのダメージがあり、欠陥や不純物がITO膜中に導入されていると考えられる。そのため、特許文献2の実施例で得られているITO膜は、130nmの厚みで、比抵抗値は1.8×10
−4Ω・cm程度までであり、1.5×10
−4Ω・cm以下とりわけ1.0×10
−4Ω・cmの低い比抵抗値のITO膜を得ることはできていない。
【0011】
特許文献3、4では、マグネトロンスパッタ成膜において、磁場強度を強くすること、また、RF電力を重畳することで放電電圧を低下させることにより、膜に対する反跳アルゴンや酸素負イオンなどのダメージが低減させて、低い比抵抗値のITO膜を成膜できることが提案されている。特許文献3、4では、ガラス基材を用いており高温加熱が可能である。しかし、特許文献3、4に記載の方法を、有機高分子フィルム基材において適用した場合には、基材の温度をガラス転移温度以下までしか加熱できない。そのため、特許文献3、4に記載の方法を、有機高分子フィルム基材において適用して得られるITO膜はアモルファス膜であり、特許文献3、4に記載の技術を利用したとしても、有機高分子フィルム基材上に、ガラス板上に形成したITO膜と同等の低い比抵抗値を持つ完全結晶したITO膜を得ることはできない。
【0012】
特許文献5には、60〜80mTのターゲット表面磁場において、DC電力比0.5〜2.0倍のRF電力を重畳するITO膜の成膜方法が提案されている。当該成膜方法で得られるITO膜は、X線回折法で測定した(400)面のピークが(222)面のピークより大きくなる特異的な結晶状態を形成すると、1.5×10
−4Ω・cm以下の低い抵抗率(比抵抗値)が得られることが記載されている。しかし、特許文献5ではガラス基材を用いており、基材温度を230〜250℃の温度範囲に設置することができる。しかし、特許文献5に記載の方法を、有機高分子フィルム基材において適用した場合には、(400)面のピークを主ピークにすることは困難である、特許文献5に記載のように、低い比抵抗値を持つITO膜を成膜することができない。
【0013】
本発明は、有機高分子フィルム基材上に、低い比抵抗値及び表面抵抗値を有し、かつ内部応力が小さく結晶質膜からなる透明導電膜を有する透明導電性フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、下記に示す透明導電フィルムおよびその製造方法等により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、有機高分子フィルム基材上の少なくとも一方の面に透明導電膜を有する透明導電性フィルムであって、
前記透明導電膜は、{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が7〜15重量%であるインジウム系複合酸化物の結晶質膜であり、
前記透明導電膜は、膜厚が40nmを超え200nm以下の範囲であり、
前記透明導電膜は、比抵抗値が1.2×10
−4〜2.0×10
−4Ω・cmであり、
X線回折ピークの主ピークを(222)面と(440)面に有し、(222)面のピークの強度(I
222)と(440)面のピークの強度(I
440)のピーク強度比(I
440/I
222)が0.3未満であり、
かつ、X線応力測定法による内部応力が、700MPa以下であることを特徴とする透明導電フィルム、に関する。
【0016】
前記透明導電性フィルムにおいて、前記透明導電膜は、フィルム基材の側からアンダーコート層を介して設けることができる。
【0017】
前記透明導電性フィルムにおいて、インジウム系複合酸化物としてはインジウム・スズ複合酸化物、4価金属元素の酸化物としてはスズ酸化物を用いることができる。
【0018】
また本発明は、前記透明導電性フィルムの製造方法であって、
有機高分子フィルム基材の少なくとも一方の面に、
{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が7〜15重量%であるインジウム系複合酸化物のターゲットを用いて、当該ターゲット表面での水平磁場が85〜200mTの高磁場で、不活性ガスの存在下に、RF重畳DCスパッタ成膜法により、透明導電膜を形成する工程(A)を有することを特徴とする透明導電性フィルムの製造方法、に関する。
【0019】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、RF電源の周波数が10〜20MHzの時、RF電力/DC電力の電力比が0.4〜1.2であることが好ましい。
【0020】
また、前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、RF電源の周波数が20MHzより大きく60MHz以下の時、RF電力/DC電力の電力比が0.2〜0.6であることが好ましい。
【0021】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、有機高分子フィルム基材の温度が、80〜180℃であることが好ましい。
【0022】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、酸素を導入することなく行うことができる。
【0023】
また、前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、不活性ガス量に対する酸素量の割合が0.5%以下になるように、酸素を導入しながら行うことができる。
【0024】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法を施す前に、酸素を導入することなく、不活性ガスの存在下に、RF重畳DCスパッタ成膜法により、RF電源の周波数が10〜20MHzの時、RF電力/DC電力の電力比が0.4〜1.2の範囲にて、得られた抵抗値が安定状態になるまで成膜を行うプリスパッタ工程(a)を有することができる。
【0025】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法を施す前に、酸素を導入することなく、不活性ガスの存在下に、RF重畳DCスパッタ成膜法により、RF電源の周波数が20MHzより大きく60MHz以下の時、RF電力/DC電力の電力比が0.2〜0.6の範囲にて、得られた抵抗値が安定状態になるまで成膜を行うプリスパッタ工程(a)を有することができる。
【0026】
前記透明導電性フィルムの製造方法において、前記形成工程(A)の後に、アニール処理工程(B)を、施すことができる。前記アニール処理工程(B)は、120℃〜180℃以下の温度で、5分間〜5時間、大気中で施すことが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、有機高分子フィルム基材上に、ガラス基板上に形成される透明導電膜と同等の、低い比抵抗値及び表面抵抗値を有し、かつ膜厚が40nmを超え200nm以下のインジウム系複合酸化物により形成された内部応力の少ない結晶質膜の透明導電膜(例えばインジウム・スズ複合酸化物:ITO膜)を有する透明導電性フィルムを提供することができる。本発明の透明導電性フィルムは、内部応力の少ない結晶質膜のため、欠陥や不純物が結晶質膜の内部に生じにくい。
【0028】
また、本発明の透明導電性フィルムの製造方法によれば、ガラス基板上に透明導電膜を形成する場合よりも低温の条件で、有機高分子フィルム基材上に、R−to―R(ロール‐トゥ‐ロール)装置により、ガラス板上に形成される透明導電膜と同等の低い比抵抗値及び表面抵抗値を有する結晶質膜からなる透明導電膜を成膜することできる。かかる本発明の製造方法における、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、欠陥や不純物を膜内部に取り込み難く、内部応力を低下させることができる低ダメージの成膜法である。
【0029】
さらには、本発明の製造方法によれば、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法を、生産機に適応させて、RF電源をDC電源と比べて小さくすることが可能であり、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法におけるRF電力の導入方法や電波シールドを容易に行うことができる。さらには、形成工程(A)では、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法により透明導電膜が形成された場合においても、アニール処理工程(B)において、低温かつ短時間で加熱処理することで、透明導電膜を結晶化させることができ、透過率が良く、信頼性の高い透明導電膜が得られる。
【0030】
さらに、本発明の製造方法では、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法に係る形成工程(A)の前に、これまで知られていなかった、プリスパッタ工程(a)を設けることにより、インジウム系複合酸化物ターゲット表面の水分除去ばかりでなくターゲット自身の持つ酸素をITO結晶膜中に効率良く取り込める準備にあたる改質を行うことができ、ガラス基板上に透明導電膜を形成する場合よりも低温の条件で、欠陥や不純物が少なく、低い比抵抗値及び表面抵抗値を有する透明導電膜を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の透明導電フィルムおよびその製造方法を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の透明導電フィルムの一例を示す概略断面図であり、有機高分子フィルム基材(1)の一方の面に、透明導電膜(2)を有する。透明導電膜(2)は、4価金属元素の酸化物を含有するインジウム系複合酸化物により形成されている。なお、
図1では、有機高分子フィルム基材(1)の一方の面にのみ、透明導電膜(2)が設けられているが、フィルム基材(1)の他の面においても透明導電膜(2)を設けることができる。
【0033】
なお、
図1には記載されていないが、反射防止等を目的として、フィルム基材(1)の側からアンダーコート層を介して透明導電膜(2)を設けることができる。本発明の製造方法のように、薄膜の透明導電膜(2)を高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法により形成する場合には、有機高分子フィルム基材(1)からC、Hなどの元素がITO膜内に取り込まれ結晶化し難くなるので、アンダーコート層を形成することが好ましい。
【0034】
前記有機高分子フィルム基材(1)としては、透明性、耐熱性、表面平滑性に優れたフィルムが好ましく用いられる。例えば、その材料として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ノルボルネンなどの単一成分の高分子または他の成分との共重合高分子があげられる。また、前記有機高分子フィルム基材(1)としては、エポキシ系樹脂フィルムなども用いられる。
【0035】
前記フィルム基材(1)の厚みは、成膜条件や用途にもよるが、一般的には、16〜400μmの範囲内であることが好ましく、20〜185μmの範囲内であることがより好ましい。R−to−R(ロール−トゥ−ロール)装置で巻取りながら成膜する場合、薄過ぎると熱ジワや静電気が発生するので巻取り難く、厚すぎると板状になり巻き取れなくなる。
【0036】
前記フィルム基材(1)には、フィルム基材(1)の種類に応じて、表面改質工程(前処理)を施すことができる。表面改質処理としては、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下にプラズマ処理等が挙げられる。その他、予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、この上に設けられる透明導電膜(2)またはアンダーコート層の前記フィルム基材(1)に対する密着性を向上させるようにしてもよい。また、透明導電膜(2)またはアンダーコート層を設ける前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化してもよい。
【0037】
前記アンダーコート層は、無機物、有機物または無機物と有機物との混合物により形成することができる。無機材料としては、例えば、無機物として、SiO
X(x=1〜2)、MgF
2、Al
2O
3、TiO
2、Nb
2O
5などが好ましく用いられる。また有機物としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーなどの有機物があげられる。特に、有機物としては、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用するのが望ましい。
【0038】
アンダーコート層は、上記の材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーテフィング法等のドライプロセスとして、またはウェット法(塗工法)などにより形成できる。アンダーコート層は1層でもよく、2層以上の複数層とすることもできる。アンダーコート層の厚み(複数層の場合は各層の厚み)は、通常、1〜300nm程度であるのがよい。
【0039】
透明導電膜(2)を形成する材料は、上記の薄膜形成法に応じて、適宜選択されるが、通常は、酸化インジウムと4価金属元素の酸化物との焼結体材料が好ましく用いられる。
【0040】
前記4価金属元素としては、例えば、スズ、セリウム、ハフニウム、ジルコニウム、チタン等が挙げられる。これらの4価金属元素の酸化物としては、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。前記4価金属元素としては、スズが好適に用いられる。4価金属元素の酸化物としてはスズ酸化物が好適であり、インジウム系複合酸化物としてはインジウム・スズ複合酸化物が好適である。
【0041】
透明導電膜(2)の形成にあたり、インジウム系複合酸化物としては、酸化インジウムと4価金属元素の酸化物との割合、即ち、{4価金属元素の酸化物/(4価金属元素の酸化物+酸化インジウム)}×100(%)で表される4価金属元素の酸化物の割合が7〜15重量%のものを用いる。前記インジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合は、8〜13重量%であるのが好ましい。
【0042】
前記インジウム系複合酸化物における4価金属元素の酸化物の割合が小さくなると、インジウム原子と置換する4価金属原子が少なくなり十分な電子密度が確保しがたくなり、得られる透明導電膜を低い抵抗膜にし難い。一方、前記割合が大きくなると、得られる透明導電膜(アモルファス膜)の結晶化をし難くなるばかりか、通常の高分子フィルム基材(1)にかけられる温度は180℃程度以下なので、インジウム格子に置換する4価金属原子は限られ余剰の4価金属元素、または酸化物が、不純物領域として残る為、得られる透明導電膜の特性を悪くする。
【0043】
前記透明導電膜(2)の厚みは、用途の大型化や導電効率向上に影響するので、光学特性や抵抗値等の観点から、40nmを超え200nm以下であり、80〜200nmであるのが好ましく、さらには、100〜150nmであるのが好ましい。前記透明導電膜(2)の厚みが40nmを超え200nm以下であることは、LCDや太陽電池などの電極用途に好適である。
【0044】
前記透明導電膜(2)は、結晶質膜であり、完全結晶化していることが好ましい。結晶質膜であることは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により判断することができる。ここで、完全結晶化とは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察で、結晶化したグレインが全面に存在する状態を言う。なお、透明導電膜は、結晶化に伴い表面抵抗値が低下し、完了すると表面抵抗値が一定となるため、表面抵抗値が一定となることにより、結晶質膜になっていることを判断することができる。130nmの膜厚で表面抵抗値は、15Ω/□以下であることが好ましく、さらには12Ω/□以下であることが好ましい。
【0045】
前記透明導電膜(2)は、比抵抗値が1.2×10
−4〜2.0×10
−4Ω・cmの低い比抵抗値を有する。比抵抗値は、1.2×10
−4〜1.6×10
−4Ω・cmであるのが好ましく、さらには、1.2×10
−4〜1.3×10
−4Ω・cmであるのが好ましい。
【0046】
前記透明導電膜(2)は、X線回折ピークの主ピークを(222)面と(440)面に有し、(222)面のピークの強度(I
222)と(440)面のピークの強度(I
440)のピーク強度比(I
440/I
222)が0.3未満である。X線回折ピークの主ピークは、(222)面からのピークが一番強く、低温結晶化した膜である。また、ピーク強度比(I
440/I
222)は0.3未満であり、多結晶化していないので移動度が高く太陽電池用途に使用した場合近赤外線の透過率が高い点で好ましい。ピーク強度比(I
440/I
222)は、0.29以下が好ましく、さらには0.25以下が好ましい。
【0047】
前記透明導電膜(2)は、X線応力測定法による内部応力が、700MPa以下である。前記内部応力は移動度の加湿熱信頼性の点から好ましく、700MPa以下が好ましく、さらには600MPa以下が好ましい。
【0048】
次いで、本発明の透明導電フィルムの製造方法を説明する。本発明の透明導電フィルムの製造方法は、インンジウム系複合酸化物のターゲットを用いて、当該ターゲット表面での水平磁場が85〜200mTの高磁場で、不活性ガスの存在下に、RF重畳DCスパッタ成膜法により透明導電膜を形成する工程(A)を有する。
【0049】
図2は、前記形成工程(1)に係る、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法に用いる、成膜装置の一例を示す概略図である。
図2は、スパッタ電極(3)に、インンジウム系複合酸化物のターゲット(2A)を装着し、対向するフィルム基材(1)上に、インンジウム系複合酸化物(2)の薄膜を形成するスパッタ装置である。フィルム基材(1)は、基板ホルダーまたはキャンロール(1A)に装着されている。前記ターゲット(2A)上の水平磁場は、通常の磁場(30mT)と比べて、85〜200mTの高磁場に設定される。かかる高磁場は、高磁場な磁石(4)を設けることにより調整することができる。前記高磁場を設定することにより、低い比抵抗値及び表面抵抗値を有する透明導電膜を得ることができる。前記高磁場は、100〜160mTであるのが好ましい。
【0050】
また、通常のスパッタ成膜では、DC電源(直流電源)(8)でDC電力またはパルス電力をターゲットに印加しスパッタリングを行うが、本発明の高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法では、
図2に示す装置のように、DC電源(8)およびRF電源(周波数を変動可能な高周波電源)(7)を用いる。RF電源(7)およびDC電源(8)は、RF電力およびDC電力を同時にターゲットに印加できるようにスパッタ電極(3)に接続して配置されている。また、
図2に示すように、RF電源(7)からRF電力を効率良くターゲット(2A)に伝えるため、RF電源(7)とスパッタ電極(3)と間にはマッチングボックス(5)を設けることができる。また、
図2に示すように、DC電源(8)にRF電源(7)からのRF電力の影響が及ばないように、DC電源(8)とスパッタ電極(3)と間には水冷式ローパスフィルター(6)を配置することできる。
【0051】
前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、RF電源の周波数が10〜20MHzの時、RF電力/DC電力の電力比が0.4〜1.2になるように設定することが低ダメージ成膜性及び膜酸化度の点から好ましい。前記電力比は0.5〜1.0であるのが好ましく、さらには0.6〜1.0であるのが好ましい。前記RF電源の周波数(10〜20MHz)の好ましい周波数としては、13.56MHzが挙げられる。また、RF電源の周波数が20MHzより大きく60MHz以下の時、RF電力/DC電力の電力比が0.2〜0.6に設定することが低ダメージ成膜性及び膜酸化度の点から好ましい。前記電力比は0.3〜0.5であるのが好ましい。前記RF電源の周波数(20MHzより大きく60MHz以下)の好ましい周波数としては、27.12MHz、40.68MHzまたは54.24MHzが挙げられる。
【0052】
また、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法では、有機高分子フィルム基材(1)の温度は、80〜180℃であることが好ましい。前記スパッタ成膜時のフィルム基材(1)の温度を80℃以上とすることで、4価金属の原子含有量が大きいインジウム系複合酸化物の膜であっても、結晶化の種を形成することができる。また、形成工程(A)により形成される透明導電膜がアモルファスの場合には、後述するアニール処理工程(B)におけるインジウム系複合酸化物の膜の結晶化が促進され易くなり、さらに低い表面抵抗値の結晶性の透明導電膜(2)が得られる。このように、アモルファスの透明導電膜を加熱して結晶化した際に、低い表面抵抗値の結晶性の透明導電膜(2)とする観点からは、フィルム基材(1)の温度は100℃以上、さらには120℃以上、さらには130℃以上、さらには140℃以上であることが好ましい。また、フィルム基材(1)への熱的ダメージを抑制する観点からは、基材温度は180℃以下が好ましく、170℃以下がさらに好ましく、160℃以下が特に好ましい。
【0053】
なお、本明細書において、「フィルム基材の温度」とは、スパッタ成膜時のフィルム基材の下地の設定温度である。例えば、ロールスパッタ装置により連続的にスパッタ成膜を行う場合のフィルム基材の温度とは、スパッタ成膜が行われるキャンロールの温度である。また、枚葉式(バッチ式)でスパッタ成膜を行う場合の基材温度とは、基材を載置するための基板ホルダーの温度である。
【0054】
また、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法は、スパッタターゲットを装着して、高真空に排気したスパッタ装置内に、不活性ガスであるアルゴンガス等を導入して行う。スパッタ装置内には、アルゴンガス等の不活性ガスの他に、酸素を導入することなく行うことができる。一方、形成工程(A)による成膜直後にすでに結晶質膜になっている透明導電膜を得たい場合や、RF電力/DC電力の電力比として、RF電源の周波数が10〜20MHzの時、電力比が0.4〜0.6を採用する場合、また、RF電源の周波数が20MHzより大きく60MHz以下の時、0.2〜0.3を採用する場合には、酸素不足膜になるおそれがあるため、透明導電膜の透過率を向上させるために、前記アルゴンガス等の不活性ガスに加えて酸素ガス等を導入することもできる。前記酸素ガスは、不活性ガス量に対して、酸素量の割合が0.5%以下になるように、さらには0.3%以下になるように、酸素を導入しながら行うことが好ましい。
【0055】
成膜雰囲気中の水分子の存在は、成膜中に発生するダングリングボンドを終結させ、インジウム系複合酸化物の結晶成長を妨げるため、成膜雰囲気中の水の分圧は小さいことが好ましい。成膜時の水の分圧は、不活性ガスの分圧に対して0.1%以下であることが好ましく、0.07%以下であることがより好ましい。また、成膜時の水の分圧は、2×10
−4Pa以下であることが好ましく、1.5×10
−4Pa以下であることがより好ましく、1×10
−4Pa以下であることが好ましい。成膜時の水分圧を上記範囲とするためには、成膜開始前にスパッタ装置内を、水の分圧が上記範囲となるように1.5×10
−4Pa以下、好ましくは5×10
−5Pa以下となるまで排気して、装置内の水分や基材から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。
【0056】
特に、R−to―R装置で連続して製造する場合は、成膜なしで走行させながら発生ガスを除去した方が好ましい。特に、インジウム系複合酸化物中の4価金属元素の酸化物(例えば、スズ酸化物)の量が多く、薄い透明導電膜を得る場合には、結晶化し難いからである。
【0057】
前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法を施す前には、前記形成工程(A)と同じインジウム系複合酸化物を用いて、酸素を導入することなく、当該ターゲット表面での水平磁場が85〜200mTの高磁場で、不活性ガスの存在下に、RF重畳DCスパッタ成膜法により、RF電力/DC電力の電力比が本成膜範囲と同じ範囲のいずれかにてプリスパッタ成膜を行い、得られた抵抗値が安定状態になるまで成膜を行うプリスパッタ工程(a)を有することができる。
【0058】
前記の抵抗値が安定状態になるとは、
図6の▲4▼の領域を指し、ターゲット上及び真空チャンバー壁からの水分・発生ガスが除去される領域(▲1▼〜▲3▼の領域)を過ぎターゲット表面が高磁場、RF電力、DC電力にて安定して活性化され抵抗値変動が±2%以内に入る状態を言う。
【0059】
前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法により、透明導薄膜を形成したのちには、アニール処理工程(B)を施すことができる。前記形成工程(A)において形成される透明導電膜がアモルファスの場合には、アニール処理工程(B)により結晶化させることができる。
【0060】
アニール処理工程(B)は、120℃〜180℃の温度で、5分間〜5時間、大気中で施すことが好ましい。加熱温度および加熱時間を適宜に選択することにより、生産性や品質面での悪化を伴うことなく、完全結晶化した膜に転化できる。アニール処理の方法は、公知の方法に準じて、例えば、赤外線ヒーター、熱風循環式オーブン等の加熱方式を用いて行うことができる。
【0061】
なお、アニール処理工程(B)を施すことなく、インジウム系複合酸化物の結晶質膜を得るには、前記形成工程(A)に係る高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法の有機高分子フィルム基材(1)の温度は前記範囲のなかでも150℃以上とすることが好ましい。また、前記RF電力/DC電力の電力比は、前記範囲内において、RF電源の周波数が10〜20MHzの時は、1.2未満になるように設定することが好ましい。前記RF電源の周波数(10〜20MHz)の好ましい周波数としては、13.56MHzが挙げられる。RF電源の周波数が20MHzより大きく60MHz以下の時は、RF電力/DC電力の電力比は0.6未満に設定することが好ましい。前記RF電源の周波数(20MHzより大きく60MHz以下)の好ましい周波数としては、27.12MHz、40.68MHzまたは54.24MHzが挙げられる。
【0062】
なお、透明導電性フィルムを投影型静電容量方式のタッチパネルや、マトリックス型の抵抗膜方式タッチパネル等に用いる場合、得られた透明導電膜(2)は所定形状(例えば短冊状)にパターン化することができる。ただし、アニール処理工程(B)によりインジウム系複合酸化物の膜が結晶化されると、酸によるエッチング加工が難しくなる。一方、アニール処理工程(B)を施す前のアモルファスのインジウム系複合酸化物の膜は容易にエッチング加工が可能である。そのため、エッチングにより透明導電膜(2)をパターン化する場合は、アモルファスの透明導電膜(2)を製膜後、アニール処理工程(B)の前にエッチング加工を行うことができる。
【0063】
本発明の製造方法によれば、膜厚が40nmを超え200nm以下の範囲にあるインジウム系複合酸化物の結晶質膜からなる透明導電膜であって、前記低い比抵抗値を有し、前記ピーク強度比(I
440/I
222)が0.3未満であり、X線応力測定法による内部応力が、700MPa以下である透明導電フィルムを得ることができる。80℃〜180℃のフィルム基材の温度での加熱で、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法にて透明導電膜を成膜した場合、放電電圧が通常磁場の成膜法と比べ放電電圧が1/2〜1/5に低下するので、フィルム基材に成膜する原子・分子の運動エネルギーはその分低下する。また、電子などの負イオンやターゲットに衝突した不活性ガスの反跳分もフィルム基材側に到達し難くなるので膜内の不純物混入や内部応力が低下される。さらに、80℃〜180℃のフィルム基材の温度での成膜であるので(222)面の結晶成長が促進される膜が得られる。
【0064】
以下に、本発明の透明導電性フィルムの製造方法の条件を
図3乃至
図11を参照しながら、さらに説明する。
【0065】
日本メーカーのインジウム系複合酸化物のターゲット(特に、インジウム・スズ複合酸化物ターゲット)の品質は飛躍的に向上しており、どこのメーカー品共に同様な特性になってきている。前記ターゲットの相対密度は98%以上であり、酸化度も各社ほぼ同等で、通常のマグネトロンスパッタ成膜においては、チャンバー内の前排気1.5×10
−4Pa以下になる様に十分行った場合、アルゴンガスなどのスパッタガス量(不活性ガス量)に対する酸素導入量の割合は1〜3%程度において、最小の表面抵抗値を有する透明導電膜が得られる。
【0066】
スズ酸化物の割合が10重量%のインジウム・スズ複合酸化物(ITO)ターゲットを
図2の高磁場RF重畳DCスパッタ装置に装着し、125μm厚のPETフィルム上へ、ITO膜を形成した。フィルム基材の温度は120℃、アルゴンガスに対する酸素量の割合を0.25%とし、成膜気圧を0.3Paとした。DC電力(1000W)において、RF電力及びRF電源の周波数を変えて放電電圧を測定した結果を
図3に示す。ターゲット表面での水平磁場は100mTとした。各RF電源の周波数共に、RF電力が増加するにつれて放電電圧は低下するが、RF電力/DC電力の電力比が1に近づくにつれて漸近してくる。また、RF電源の周波数が13.56MHzの場合と、RF電源の周波数が、27.12MHz、40.68MHz、または54.24MHzの場合とでは、放電電圧の低下曲線に差が見られる。RF電源の周波数が13.56MHzの場合よりも、2倍・3倍・4倍の周波数の場合の方が放電電圧はより低下しており、プラズマ化能力が高いからと考えられる。
【0067】
上記と同様の条件(但し、13.56MHzのRF周波数を使用)により、125μm厚のPETフィルム上へ、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法により、放電電圧を変化させて、130nm厚みのITO膜を形成した。得られたITO膜の初期の表面抵抗値(R
0)を測定した。また、ITO膜を150℃で1時間アニール処理した後の表面抵抗値(R
150℃1h)を測定した。得られた結果を
図4に示す。
図4から、放電電圧が低下する程、初期の表面抵抗値(R
0)は低下し、アニール処理後の表面抵抗値(R
150℃1h)は少し減少したことが分かる。しかし、得られたITO膜の表面抵抗値の最小値は35Ω/□であり、比抵抗値は4.6×10
−4Ω・cmであり、目標値であるガラス基材上に設けたITO膜と同等の特性(10Ω/□以下の低い表面抵抗値、比抵抗値が1.3×10
−4Ω・cm)は得られなかった。
【0068】
さらに、上記と同様の条件(但し、13.56MHzのRF周波数を使用)により、125μm厚のPETフィルム上へ、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法により、110Vの放電電圧(RF電力/DC電力比が1.0)において、ITO成膜中の導入酸素ガス量を変化させて、130nm厚みのITO膜を形成した。得られたITO膜の初期の表面抵抗値(R
0)を測定した。また、ITO膜を150℃で1時間アニール処理した後の表面抵抗値(R
150℃1h)を測定した。アルゴンガスに対する酸素量の割合を変動させることで、低い表面抵抗値が得られるか否か検討した結果を
図5に示す。初期の表面抵抗値(R
0)、アニール処理後の表面抵抗値(R
150℃1h)も導入酸素ガス量の最適化を図ることで、さらに低下するが、得られたITO膜の表面抵抗値の最小値は20Ω/□、比抵抗値2.6×10
−4Ω・cm程度であった。
【0069】
図4、
図5に示すように、有機高分子フィルム基材を用いた場合には、ガラス基材を用いる場合よりも低温条件においてITO膜を成膜せざるを得ないため、通常の高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法を採用したとしても、ガラス基材上に設けたITO膜と同等の特性(10Ω/□以下の低抵抗値、比抵抗値が1.3×10
−4Ω・cm)を持つITO膜を形成できない。
【0070】
図6は、R−to―R装置に、
図3に係る測定と同様の条件(但し、13.56MHzのRF周波数を使用)において、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法による形成工程(A)を施す前に、スパッタ装置内を前排気して1.5×10
−4Pa以下として、アルゴンガスなどのスパッタガスのみで(酸素導入せず)、RF電力/DC電力の電力比が0.6の条件でプリスパッタ(a)工程を行った場合の成膜時間の指標と、インラインで得られるITO膜の表面抵抗値の指標との関係を示す。RF電力/DC電力の電力比は本成膜の電力比範囲であればどの電力比でも採用される。
【0071】
図6で示すように、放電成膜の初期はターゲット表面やチャンバー内の壁さらには有機高分子フィルム基材などから水分や発生ガスが発生するので、
図6中、▲1▼、▲2▼の比較的低抵抗値だが、混入される不純物変動も大きく抵抗値も刻々変動する挙動をとる。この領域の膜は、一見、高透明・低抵抗値であるが、後加熱で結晶化し難い膜でありさらなる低抵抗値は得られない。この領域でプリスパッタした場合またはプリスパッタしない場合、
図4、
図5に示した様に、目的とする極端に低い抵抗値が得られない膜になってしまう。
【0072】
しかし、さらにプリスパッタを続け放電成膜が▲2▼の領域を超えて来ると、水分や発生ガスの低下と共に抵抗値は徐々に上昇し、水分や発生ガスが無くなる▲3▼に到達する。さらに続けると安定状態▲4▼が得られる。安定状態▲4▼では、水分や発生ガスに起因する不純物が膜中に混入しないだけでなく、インジウム系複合酸化物ターゲットの表面がRF放電により活性化されるので酸素導入量が少なくて良質の膜が得られる領域になる。
【0073】
図6の▲4▼の領域(安定状態と呼ぶ)になる様に、R−to―R装置にスズ酸化物の割合が10重量%のインジウム・スズ複合酸化物(ITO)ターゲットを高磁場RF重畳DCスパッタ装置(ターゲット表面上での水平磁場強度は100mT)に装着し、125μm厚のPETフィルム上へ、厚み130nmのITO膜を形成しながらプリスパッタ(a)を行った。フィルム基材の温度は120℃、到達真空度は5×10
−5Pa、導入ガスはアルゴンガスのみとし成膜気圧を0.3Paとした。
【0074】
図6の▲4▼の安定状態になる様にプリスパッタ(a)した後で、続けて同じターゲットを用いて、酸素ガス導入しない以外は
図5と同じ条件で厚み130nmのITO膜を成膜した。つまり、本成膜条件として、13.56MHzの高周波電力1000W、DC電力1000W、RF電力/DC電力比が1の条件でITO膜を得た。得られたITO膜の初期の表面抵抗値(R
0)は11.5Ω/□であり、150℃で1時間アニール処理した後の表面抵抗値(R
150℃1h)は10Ω/□であった。これらのことからプリスパッタ(a)を施した後に本成膜形成工程(A)を行うことで目的の低抵抗膜が得られることが判る。
【0075】
図7乃至
図10は、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法に用いるRF電源の周波数の違いにより、好適なRF電力/DC電力の電力比が異なること示す。
図7に、RF電源の周波数が13.56MHzの場合の挙動を示す。
図7は、成膜するロール電極の温度を150℃に設定して、酸素導入なしでRF電力/DC電力の電力比を0.6にてプリスパッタ工程(a)を安定状態になるまで行った後、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法による形成工程(A)を酸素導入を行うことなしに、RF電力/DC電力の電力比を変化させた場合に得られた、ITO膜の抵抗値を示す。成膜するロール電極の温度を150℃に設定して、ITO膜の膜厚は130nmとした。その他の条件は
図6の条件と同じにした。
【0076】
図7では、RF電力/DC電力の電力比が1に近づく程、成膜直後の抵抗値が下がって酸化度も適正膜に近づいている。1を超えると酸素過多膜になり、抵抗値が上昇する方向になる。一方、前記電力比が小さくなる程、酸素不足膜になり抵抗値は上昇する。RF電力/DC電力の電力比が1の場合において、150℃で1時間のアニール処理後に、10Ω/□の表面抵抗値、比抵抗値が1.3×10
−4Ω・cmが得られたことが分かる。
【0077】
同様に、RF電源の周波数が27.12MHz、40.68MHz、54.24MHzの場合の結果を
図8、
図9、
図10に示す。
図8、
図9、
図10に係る前記以外の各条件は、プリスパッタ工程(a)のRF電力/DC電力の電力比を0.3としたこと以外は、
図7と同じである。成膜直後のITO膜の初期の表面抵抗値(R
0)およびITO膜を150℃で1時間アニール処理した後の抵抗値(R
150℃1h)のいずれについても、RF電力/DC電力の電力比が0.35程度の時に表面抵抗値が一番低かった。RF電力/DC電力の電力比が1に近づくほど酸素過多の膜になり、一方、0に近づくほど酸素不足膜になっている。
図10の、RF電源の周波数が54.24MHzの場合には、130nmの膜厚で150℃1時間のアニール処理後に、9.9Ω/□の低い表面抵抗値のITO膜が得られたことが分かる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に、本発明の実施例を記載して、より具体的に説明する。
【0079】
実施例1
(有機高分子フィルム基材)
有機高分子フィルム基材として、三菱樹脂(株)製のO300E(厚み125μm)のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0080】
(前処理)
上記PETフィルムの易滑処理面でない、平滑面上へ、ITO薄膜を成膜できるように、上記PETフィルムを、R−to―Rのスパッタ成膜装置へ装着した。120℃に加熱したロール電極を使用し、巻取りながら、クライオコイルとターボポンプの排気系で脱ガス処理を行い、成膜なしでの走行中の真空度が3×10
−5Paの雰囲気を得た。その後、スパッタ成膜装置にアルゴンガスを導入し、上記PETフィルムを、RF電源(13.56MHz)によるプラズマ放電中を通して、PET表面の前処理を行った。
【0081】
(アンダーコート層の形成)
上記PETフィルムのプラズマ処理面へ、Al金属ターゲットから反応性デュアルマグネトロンスパッタ法にて、厚み20nmのAl
2O
3薄膜を成膜した。
【0082】
(ITOターゲットのプリスパッタ)
その後、真空を維持して、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜装置の電極上に、予めセットしてあった、ITO酸化物ターゲット(住友金属鉱山社製,スズ酸化物の割合が10重量%)を1.1W/cm
2のDC電力密度、RF電力(13.56MHz)/DC電力の電力比が0.6の条件でプリスパッタを行った。ターゲット表面の水平磁場は100mTとした。フィルム基材は低速で巻取りながら、インラインのモニターで表面抵抗値および透過率を測定しながら行った。その他の条件は、フィルム基材の温度は150℃、導入ガスはアルゴンガスのみを用いた。プリスタッタの気圧は0.32Paで行った。インラインの抵抗値が安定状態になるまで行った。
【0083】
(ITOターゲットの本スパッタ成膜)
プリスパッタと同様のITOターゲットを用いて、上記同様の高磁場RF重畳DCスパッタ成膜装置により、1.1W/cm
2のDC電力密度、RF電力(13.56MHz)/DC電力の電力比が1の条件で本スパッタを行って、膜厚130nmのITO膜を成膜した。ターゲット表面の水平磁場は100mTとした。フィルム基材の温度は150℃とし、導入ガスはアルゴンガスのみを用いた。本スパッタの成膜気圧は0.32Paとした。
【0084】
(アニール処理)
上記のITO膜を形成したPETフィルムについて、大気中において、150℃で1時間の熱処理を行い、透明導電性フィルムを得た。
【0085】
実施例2〜9、比較例1〜4
実施例1において、表1に示すように、ITOターゲットのスズ酸化物(SnO
2)の割合、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜における、RF電源の周波数、RF電力/DC電力の電力比、酸素導入量、アニール処理工程の温度を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして透明導電性フィルムを得た。
【0086】
実施例6では、本成膜時に導入するアルゴンガスに加えて対アルゴン比0.5%の酸素ガスも導入し、フィルム基材の温度170℃にて成膜した以外は、実施例1と同様な条件でITO膜を成膜した。また、実施例6では、アニール処理工程(B)は行わなかった。実施例7では、RF電力/DC電力の電力比が0.6であり、対アルゴン比0.1%の酸素ガスを導入した以外は実施例1と同様な条件でITO膜を成膜した。
【0087】
なお、比較例1では、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜の代わりに、100mTの高磁場において、通常のDCマグネトロンスパッタ成膜を行った。
【0088】
(評価)
実施例および比較例で得られた透明導電性フィルムについて下記の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0089】
(表面抵抗値の測定)
透明導電性フィルムのITO膜の表面抵抗値を、三菱油化(株)社製ロレスタGP(形式MCP−T600)を用いて測定した。
【0090】
(膜の結晶状態観察)
ITO膜の結晶状態の確認は、透明導電性フィルムから、剥離法によりITO膜のみサンプリングし、透過型電子顕微鏡TEM(日立、HF2000)にて、加速電圧200kVで観察を行った。
図12は、本発明の実施例9で得られたITOフィルムの結晶を示すTEM写真である。
【0091】
(膜厚の評価)
ITO膜の膜厚測定は、サンプルを樹脂で固定したものを、Hitachi,FB−2100にて超薄膜切片として切り出し、該記のTEMにて観察し測定した。
【0092】
(X線回折の測定)
X線回折測定は以下の装置を用いて測定し、(222)面と(440)面からのピーク強度比を求めた。
図11は、本発明の実施例1で得られたITOフィルムのX線回折チャートである。
(株)リガク製 粉末X線回折装置RINT−2000
光源 Cu−Kα線(波長:1.541Å)、40KV、40mA
光学系 並行ビーム光学系
発散スリット:0.05mm
受光スリット:ソーラースリット
単色化・並行化 多層ベーベルミラー使用
【0093】
(内部応力の測定:圧縮残留応力の測定)
残留応力は、X線散乱法により、ITO膜の結晶格子歪みから間接的に求めた。
(株)リガク製の粉末X線回折装置により、測定散乱角2θ=59〜62°の範囲で0.04°おきに回折強度を測定した。各測定角度における積算時間(露光時間)は100秒とした。
【0094】
得られた回折像のピーク(ITOの(622)面のピーク)角2θ、およびX線源の波長λから、ITO膜の結晶格子間隔dを算出し、dを基に格子歪みεを算出した。算出にあたっては下記式(1)、(2)を用いた。
【数1】
ここで、λはX線源(Cu Kα線)の波長(=0.15418nm)であり、d
0は無応力状態のITOの格子面間隔(=0.15241nm)である。なお、d
0はICDD(The International Centre for Diffraction Data)データベースから取得した値である。
【0095】
上記のX線回折測定を、
図13に示すフィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψが45°、50°、55°、60°、65°、70°、77°、90°のそれぞれについて行い、それぞれのΨにおける格子歪みεを算出した。なお、フィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψは、TD方向(MD方向と直交する方向)を回転軸中心として試料を回転することによって、調整した。ITO膜面内方向の残留応力σは、sin
2Ψと格子歪εとの関係をプロットした直線の傾きから下記式(3)により求めた。
【数2】
上記式において、EはITOのヤング率(116GPa)、νはポアソン比(0.35)である。これらの値は、D. G. Neerinck and T. J. Vink, “Depth profiling of thin ITO films by grazing incidence X-ray diffraction”, Thin Solid Films, 278 (1996), PP 12-17.に記載されている既知の実測値である。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例1〜7で得られたITO膜は厚み130nmであり、スズ酸化物の割合10重量%のITO膜において1.2×10
−4〜2.0×10
−4Ω・cmの低い比抵抗値であった。特に、実施例9で得られたITO膜は厚み130nmであり、スズ酸化物の割合12.7重量%のITO膜において、9.5Ω/□の抵抗値、1.24×10
−4Ω・cmのさらに低い比抵抗値であった。なお、実施例1〜5、実施例7〜9で得られた成膜直後のITO膜は一部結晶が点在したアモルファス膜であるので、酸によるエッチング工程が容易であった。アニール処理後に得られたITO膜は、TEM測定により完全に結晶化していることが確認された。また、実施例6のITO膜は成膜直後ですでに完全結晶化していた。
【0098】
また、実施例1〜9で得られたITO膜は、X線回折分析により、ピーク強度比(I
440/I
222)は0.3未満であることも確認された。得られたITO膜は完全に結晶化しているので、タッチパネル等の用途などに必要な100℃加熱信頼性や85℃85%加湿熱信頼性も良好な結果であった。また、透明導電性フィルム(基材のPETフィルムを含む)としての透過率は、空気中の測定(550nmの波長)で約90%であった。なお、透過率の測定は大塚電子製MCPD3000により行った。透過率は80%以上であるのが好ましく、さらには85%以上であるのが好ましい。またITO膜の厚み130nmであるに拘わらず残留内部応力は700MPa以下が得られており、高磁場RF重畳DCスパッタ成膜法による低ダメージ性能を十分引き出していると考えられる。
【0099】
酸素導入量は殆どのRF電力/DC電力の電力比で不要だが、RFの各周波数での最適RF電力/DC電力の電力比範囲の両端条件では、酸素ガスを微量導入しても良い。実施例6では、13.56MHzでRF電力/DC電力の電力比が1であるが、アルゴンに対する酸素量の割合を0.5%になる様に微量な酸素を導入しながら成膜した。この条件の場合、酸素が膜中に多く取り込まれ、成膜直後において結晶化したITO膜が得られる。この場合、アニール処理工程は不要であるが、150℃1時間加熱すると、多結晶化が進み移動度が低下する分若干抵抗値が上昇する現象が見られる。
【0100】
実施例7では、13.56MHzでRF電力/DC電力の電力比が0.6であるが、アルゴンに対する酸素量の割合を0.1%になる様に微量な酸素を導入しながら成膜した。RF電力/DC電力の電力比が0に近づいた条件では、酸素不足膜になるので、透過率の向上、表面抵抗値の低下にアニール時間が長く掛かる傾向がある。その場合、アルゴンに対する酸素量の割合を0.5%以下で導入すると、透過率の向上とアニール時間短縮になる。しかし、それ以上の酸素量を導入した場合、比抵抗値があまり低下せず目的の比抵抗値を得ることができない。
【0101】
一方、比較例1は高磁場であるが、通常のマグネトロンスパッタ成膜での結果を示した。100mTの高磁場の効果で放電電圧は250Vまで低下する。30mTの磁場の場合には、放電電圧は450V程度であるので、放電電圧が低下した分だけ低ダメージで成膜されている。そのため、3.97×10
−4Ω・cmの比抵抗値が得られている。
【0102】
比較例2〜4には、各周波数でRF電力/DC電力の電力比が本発明の条件を外れる範囲で高磁場RF重畳DCスパッタ成膜を行って得られたITO膜の特性を示す。これらの結果から、RF電力/DC電力の電力比の上限を超える場合は、酸素過多膜になり成膜直後の抵抗値は高くなる、しかも、アニール処理工程を施した場合には、さらに表面抵抗値は高くなる。RF電力/DC電力の電力比の下限を下回る場合、RF重畳効果が弱くなり、放電電圧が高くなるので低ダメージ成膜効果が薄れ、比抵抗値は十分低下しないと考えられる。