特許第5976863号(P5976863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976863ガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976863
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   C03B5/225
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-32286(P2015-32286)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-199639(P2015-199639A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2015年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-73199(P2014-73199)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】河崎 裕之
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−010672(JP,A)
【文献】 特表2009−523695(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/029649(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007840(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/107801(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/014906(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00 − 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熔融ガラスを処理する処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造方法であって、
清澄剤の酸化還元反応により熔融ガラスを処理する際に、
内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料からなる処理装置の内部に、熔融ガラスを、熔融ガラスの液面の上部に気相空間が形成されるように供給し、
前記気相空間内の気体を前記気相空間と前記処理装置の外部空間とを接続する排気口より吸引することで、前記気相空間に白金族金属に対して不活性なガスを流入させ、
前記排気口より吸引される気体中の酸素濃度を計測し、
前記酸素濃度が5.0%以下の範囲となるように、前記白金族金属に対して不活性なガスの前記気相空間への流入量を調節する、ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記酸素濃度が5.0%以下の範囲となるように、前記排気口からの吸引圧力を調整する、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記酸素濃度が0.1%以上3.0%以下の範囲となるように、前記白金族金属に対して不活性なガスの供給量を調節する、請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記処理装置に前記熔融ガラスの上流側および下流側より前記気相空間に白金族金属に対して不活性なガスを供給する、請求項2又は3に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記熔融ガラスの上流側から供給される前記白金族金属に対して不活性なガスを、前記熔融ガラスの下流側から供給される前記白金族金属に対して不活性なガスよりも多くする、請求項4に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記白金族金属に対して不活性なガスを、前記気相空間に流入させる前に予熱する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記白金族金属に対して不活性なガスを、前記気相空間に流入させる前に500℃以上に予熱する、請求項6に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記処理装置は、前記熔融ガラスを清澄する清澄処理装置であり、
前記清澄処理装置での前記熔融ガラスの最高温度は、1600〜1720℃である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項9】
清澄剤の酸化還元反応により熔融ガラスを清澄処理する清澄処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造装置であって、
内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料からなり、内部に熔融ガラスが供給されるとともに前記熔融ガラスの液面の上部に気相空間が形成される清澄処理装置と、
前記気相空間に酸素以外のガスを供給するガス供給装置と、
前記気相空間と前記清澄処理装置の外部空間とを接続する排気口と、
前記気相空間内の気体を前記排気口より吸引することで、前記気相空間に酸素以外のガスを流入させる吸引装置と、
前記排気口より吸引される気体中の酸素濃度を計測する酸素濃度計と、
前記酸素濃度計の計測結果に応じて、前記酸素濃度が所定の範囲となるように、前記排気口からの吸引圧力を調節する制御装置と、を備える、ガラス基板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板を製造するガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、一般的に、ガラス原料から熔融ガラスを生成させた後、熔融ガラスをガラス基板へと成形する工程を経て製造される。上記の工程中には、熔融ガラスが内包する微小な気泡を除去する工程(以下、清澄ともいう)が含まれる。清澄は、清澄管の本体を加熱しながら、この清澄管本体に清澄剤を配合させた熔融ガラスを通過させ、清澄剤の酸化還元反応により熔融ガラス中の泡が取り除かれることで行われる。より具体的には、粗熔解した熔融ガラスの温度をさらに上げて清澄剤を機能させ泡を浮上脱泡させた後、温度を下げることにより、脱泡しきれずに残った比較的小さな泡は熔融ガラスに吸収させるようにしている。すなわち、清澄は、泡を浮上脱泡させる処理(以下、脱泡処理または脱泡工程ともいう)および小泡を熔融ガラスへ吸収させる処理(以下、吸収処理または吸収工程ともいう)を含む。
【0003】
成形前の高温の熔融ガラスに接する部材の内壁は、その部材に接する熔融ガラスの温度、要求されるガラス基板の品質等に応じ、適切な材料により構成する必要がある。たとえば、上述の清澄管本体を構成する材料は、通常、白金族金属の単体又は合金が用いられていることが知られている(特許文献1)。白金族金属は、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性にも優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−111533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白金族金属が内壁面に用いられた処理装置を熔融ガラスが通過すると、加熱された内部表面の気相空間(酸素を含む雰囲気)に接する部分において白金族金属が酸化物として揮発する。一方、白金族金属の酸化物は、処理装置の局所的に温度が低下した位置で還元され、還元された白金族金属が内壁面に付着する。内壁面に付着した白金族金属は脱泡工程中の熔融ガラス中に落下して混入し、ガラス基板に異物として混入するおそれがあった。
【0006】
本発明は、白金族金属が酸化されて揮発することを抑制し、品質の高いガラス基板を製造することができるガラス基板の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、熔融ガラスを処理する処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造方法であって、
熔融ガラスを処理する際に、
内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料からなる処理装置の内部に、熔融ガラスを、熔融ガラスの液面の上部に気相空間が形成されるように供給し、
前記気相空間内の気体を前記気相空間と前記処理装置の外部空間とを接続する排気口より吸引することで、前記気相空間に白金族金属に対して不活性なガスを流入させ、
前記排気口より吸引される気体中の酸素濃度を計測し、
前記酸素濃度が5.0%以下の範囲となるように、前記白金族金属に対して不活性なガスの流入量を調節することを特徴とする。
【0008】
ここで、白金族金属に対して不活性なガスとは、処理装置において熔融ガラスを処理する際の気相空間の温度において白金族金属に対して不活性な気体、白金族金属との反応性が酸素よりも低い気体であり、例えば、窒素(N)、希ガス(例えばアルゴン(Ar))、一酸化炭素(CO)等である。
【0009】
前記酸素濃度が5.0%以下の範囲となるように、前記排気口からの吸引圧力を調節することが好ましい。さらに、前記酸素濃度が0.1%以上3.0%以下の範囲となるように、前記白金族金属に対して不活性なガスの供給量を調節することが好ましい。
【0010】
前記処理装置に前記熔融ガラスの上流側および下流側より前記気相空間に前記白金族金属に対して不活性なガスを供給する、ことが好ましい。
【0011】
前記熔融ガラスの上流側から供給される前記白金族金属に対して不活性なガスを、前記熔融ガラスの下流側から供給される前記白金族金属に対して不活性なガスよりも多くすることが好ましい。
【0012】
前記白金族金属に対して不活性なガスを、前記気相空間に流入させる前に予熱することが好ましい。例えば、前記白金族金属に対して不活性なガスを、前記気相空間に流入させる前に500℃以上に予熱することが好ましい。
【0013】
前記処理装置は、前記熔融ガラスを清澄する清澄処理装置であり、
前記清澄処理装置での前記熔融ガラスの最高温度は、1600〜1720℃であることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様は、熔融ガラスを清澄処理する清澄処理装置を用いて熔融ガラスを処理するガラス基板の製造装置であって、
内壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料からなり、内部に熔融ガラスが供給されるとともに前記熔融ガラスの液面の上部に気相空間が形成される清澄処理装置と、
前記気相空間に酸素以外のガスを供給するガス供給装置と、
前記気相空間と前記清澄処理装置の外部空間とを接続する排気口と、
前記気相空間内の気体を前記排気口より吸引することで、前記気相空間に酸素以外のガスを流入させる吸引装置と、
前記排気口より吸引される気体中の酸素濃度を計測する酸素濃度計と、
前記酸素濃度計の計測結果に応じて、前記酸素濃度が所定の範囲となるように、前記排気口からの吸引圧力を調節する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排気口から吸引される気体中の酸素濃度が所定の範囲となるように排気口からの吸引圧力を調節することで、処理装置内の気相空間における酸素濃度を所望の範囲に調節することができる。これにより、気相空間の酸素濃度が高くなることによる白金族金属の揮発を抑制し、揮発した白金族金属の析出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガラス基板の製造方法のフローを示す図である。
図2】ガラス基板の製造装置の概略図である。
図3図2に示す清澄管の概略図である。
図4】清澄管の長手方向における鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。
なお、本発明の「処理装置」には、熔解槽、清澄管、攪拌槽や成形装置、および、これらの間で熔融ガラスを移送する移送管、これらの装置にガラスを供給する供給管を含む。処理装置における「処理」には、ガラスの熔解処理、熔融ガラスの清澄処理、攪拌処理、成形処理、および、熔融ガラスの移送処理、供給処理が含まれる。
【0018】
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)、清澄工程(ST2)、均質化工程(ST3)、供給工程(ST4)、成形工程(ST5)、徐冷工程(ST6)、および、切断工程(ST7)を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有してもよい。製造されたガラス基板は、必要に応じて梱包工程で積層され、納入先の業者に搬送される。
【0019】
熔解工程(ST1)では、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを作る。熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気を流して発熱させて加熱する通電加熱により行うことができる。さらに、バーナーの火焔による補助的に加熱しガラス原料を熔解することもできる。
なお、熔融ガラスは、清澄剤を含有する。清澄剤として、酸化スズ、亜ヒ酸、アンチモン等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤として酸化スズを用いることが好ましい。
【0020】
清澄工程(ST2)では、熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO2あるいはSO2を含んだ泡が発生する。この泡が清澄剤の還元反応により生じた酸素を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して放出される。その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。
なお、清澄工程は、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。減圧脱泡方式は、清澄剤を用いない点で有効である。しかし、減圧脱泡方式は装置が複雑化及び大型化する。このため、清澄剤を用い、熔融ガラス温度を上昇させる清澄方法を採用することが好ましい。
【0021】
均質化工程(ST3)では、スターラを用いて熔融ガラスを攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌された熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0022】
成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)は、成形装置で行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、徐冷後のシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0023】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板の製造装置の概略図である。ガラス基板の製造装置は、図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄管120と、攪拌槽103と、移送管104、105と、ガラス供給管106と、を有する。
図2に示す熔解槽101には、図示されないバーナー等の加熱手段が設けられている。熔解槽には清澄剤が添加されたガラス原料が投入され、熔解工程(ST1)が行われる。熔解槽101で熔融した熔融ガラスは、移送管104を介して清澄管120に供給される。
清澄管120では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスの清澄工程(ST2)が行われる。清澄後の熔融ガラスは、移送管105を介して攪拌槽に供給される。
攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスが攪拌されて均質化工程(ST3)が行われる。攪拌槽103で均質化された熔融ガラスは、ガラス供給管106を介して成形装置200に供給される(供給工程ST4)。
成形装置200では、オーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスからシートガラスが成形され(成形工程ST5)、徐冷される(徐冷工程ST6)。
切断装置300では、シートガラスから切り出された板状のガラス基板が形成される(切断工程ST7)。
【0024】
(清澄管の構成)
次に、図3図4を参照して、清澄管120の構成について説明する。図3は、実施の形態の清澄管120の構成を示す概略図であり、図4は清澄管120の長手方向における鉛直断面図である。
図3図4に示すように、清澄管120の長さ方向の両端の外周面には、電極121a、121bが設けられており、清澄管120の気相空間と接する壁には、排気管127が設けられている。
【0025】
清澄管120の本体、電極121a、121bおよび排気管127は、白金族金属から構成されている。なお、本明細書において、「白金族金属」は、白金族元素からなる金属を意味し、単一の白金族元素からなる金属のみならず白金族元素の合金を含む用語として使用する。ここで、白金族元素とは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)の6元素を指す。白金族金属は高価ではあるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性にも優れている。
なお、本実施例では、清澄管120が白金族金属から構成されている場合を具体例として説明するが、清澄管120の一部が、耐火物や他の金属などから構成されていてもよい。
【0026】
電極121a、121bは、電源装置122に接続されている。電極121a、121bの間に電圧が印加されることにより、電極121a、121bの間の清澄管120に電流が流れて、清澄管120が通電加熱される。この通電加熱により、清澄管120の本体の最高温度が例えば、1600℃〜1750℃、より好ましくは1630℃〜1750℃となるように加熱され、移送管104から供給された熔融ガラスの最高温度は、脱泡に適した温度、例えば、1600℃〜1720℃、より好ましくは1620℃〜1720℃に加熱される。
また、通電加熱によって熔融ガラスの温度を制御することで、熔融ガラスの粘度を調節し、これにより清澄管120を通過する熔融ガラスの流速を調節することができる。
【0027】
また、電極121a、121bには、図示しない温度計測装置(熱電対等)が設けられていてもよい。温度計測装置は電極121a、121bの温度を計測し、計測した結果を、制御装置123に出力する。
制御装置123は電源装置122が清澄管120に通電させる電流量を制御し、これにより清澄管120を通過する熔融ガラスの温度および流速を制御する。制御装置123は、CPU、メモリ等を含むコンピュータである。
【0028】
なお、本実施形態において、電極121aには、清澄管120内の熔融ガラスの液面の上方の気相空間120aに酸素以外のガス(パージガス)を供給するためのパージガス供給管124aが設けられていてもよい。同様に、電極121bには、清澄管120内の熔融ガラスの液面の上方の気相空間120aにパージガスを供給するためのパージガス供給管124bが設けられていてもよい。
パージガス供給管124aはパージガス供給装置125aと接続され、パージガス供給装置125aからパージガス供給管124aを介して清澄管120内の気相空間120aに、熔融ガラスの上流側からパージガスが供給される。同様に、パージガス供給管124bはパージガス供給装置125bと接続され、パージガス供給装置125bからパージガス供給管124bを介して清澄管120内の気相空間120aに、熔融ガラスの下流側からパージガスが供給される。
パージガス供給管124a、124bの内径を調節することで、パージガス供給管124a、124bから供給されるパージガスの量を調節することができる。
【0029】
パージガスとして、酸素以外のガス、特に白金族金属にとって不活性な気体、白金族金属との反応性が酸素よりも低い気体を用いることができる。具体的には、窒素(N)、希ガス(例えばアルゴン(Ar))、一酸化炭素(CO)等を用いることができる。取り扱いやすさから、Nガスの採用が好まれる。一方、パージガスは、清澄工程や、清澄後、ガラス温度を下げる工程において、溶融ガラスに溶け込む。ArやCOは、Nに比して、ガラス構造中において移動しやすい。そのため、熔融ガラス中に溶け込んだパージガスが気泡として生じた場合でも、熔融ガラスの移送中に再度ガラス中に取り込まれやすく、泡品質の点からはArを採用してもよい。なお、図4ではパージガスとして窒素を例に挙げて記載している。
パージガス供給装置125a、125bは制御装置123により制御され、パージガスの供給量、供給圧力が調整される。
【0030】
清澄管120の気相空間と接する壁には、排気管127が設けられている。排気管127は気相空間120aの上部に設けられている。排気管127は、清澄管120における熔融ガラスの流れ方向の上流側端部と下流側端部の間の位置に設けられていることが好ましい。排気管127は、清澄管120の本体外壁面から外側に向かって煙突状に突出する形状であってもよい。排気管127は、気相空間120a(図4参照)と、清澄管120の外部空間とを連通している。
【0031】
排気管127には、気相空間120a内の気体を吸引する吸引装置129が設けられている。吸引装置129により排気管127側を減圧(例えば大気圧よりも10Pa程度減圧)することで、気相空間120a内の酸素およびパージガスを効率的に排出することができる。吸引装置129は制御装置123により制御される。吸引装置129による吸引圧を制御することで、気相空間120a内の酸素の濃度(酸素分圧)を低減することができる。また、吸引圧を制御することで、パージガス供給装置125a、125bから気相空間120aに供給されるパージガスの量を調節することができる。
排気管127には、酸素濃度計128が設けられている。酸素濃度計128は排気管127から吸引される気体の酸素濃度を計測し、その計測信号を制御装置123に出力する。なお、気相空間120aにパージガスを供給しない場合、排気管127から吸引される気体中の酸素分圧を計測してもよい。
【0032】
本実施形態では、排気管127から気相空間120a内の気体を吸引することで、清澄管120内の熔融ガラスから放出される酸素を排出することができる。また、気相空間120aにパージガス供給管124aおよびパージガス供給管124bからパージガスを供給することで、気相空間120aの酸素濃度を低下させることができる。これにより、白金族金属が酸化されて揮発することを抑制し、揮発した白金族金属が還元されることによる白金族金属の析出量を低減することができる。
【0033】
ここで、本実施形態においては、排気管127から排出される気体の酸素濃度を酸素濃度計128により計測し、酸素濃度が一定の範囲(例えば5.0%以下の範囲)となるように、パージガスの供給量が調節される。すなわち、酸素濃度計128により計測された酸素濃度の信号が制御装置123に出力され、制御装置123は酸素濃度の信号に応じてパージガス供給装置125a、125bを制御し、パージガスの供給量、供給圧力を調整する。
【0034】
排気管127から吸引される気体の酸素濃度が5.0%以下の範囲となるように、排気口からの吸引圧力又はパージガスの供給量を調節することが好ましい。酸素濃度が5.0%よりも大きいと、白金族金属の揮発が促進され、揮発した白金族金属の析出量が増大するおそれがある。
また、より白金族の揮発・析出を抑制するために、酸素濃度が3.0%以下の範囲となるように、パージガスの供給量を調節することが好ましい。高解像度ディスプレイの製造に用いられるガラス基板では、太さ(径)1μm未満の僅かな欠陥も許されないが、酸素濃度を3.0%以下とすることで、太さ(径)1μm未満の針状の白金欠陥の発生を防止することができる。
【0035】
なお、酸素濃度が0.1%未満となるようにパージガスを供給すると、パージガスにより清澄管120の温度が低下する。また、パージガス供給量、流速の増大により、熔融ガラスの液面にパージガスが吹きかかり、パージガスが熔融ガラスに溶け込む。すると、熔融ガラスの温度を下げる際に、溶け込んだパージガスの気泡が発生するおそれがある。このため、酸素濃度は0.1%以上となるようにパージガスの供給量を調節することが好ましい。パージガスによる清澄管120の温度低下を抑制するとともに、溶け込んだパージガスによる気泡の発生を抑制するため、酸素濃度が1%以上となるようにパージガスの供給量を調節することが特に好ましい。
以上のことから、酸素濃度が0.1%以上3.0%以下の範囲となるように、パージガスの供給量を調節することが好ましく、酸素濃度が1%以上3.0%以下の範囲となるように、パージガスの供給量を調節することがより好ましい。
熔融ガラスの冷却を防ぐため、パージガス供給装置125a、125bから供給されるパージガスを気相空間120aに流入させる前に予熱することが好ましい。パージガスの予熱温度は、例えば、500℃以上に予熱することが好ましい。
【0036】
清澄管120内の熔融ガラスから放出される酸素の量は、熔融ガラスの上流側のほうが下流側よりも多いため、熔融ガラスの上流側から供給されるパージガスを、熔融ガラスの下流側から供給されるパージガスよりも多くすることが好ましい。すなわち、パージガス供給管124aから供給されるパージガスの量を、パージガス供給管124bから供給されるパージガスの量よりも多くすることが好ましい。パージガス供給管124aから供給されるパージガスの量をパージガス供給管124bから供給されるパージガスの量よりも多くすることで、熔融ガラスから放出される酸素をより効率的にパージガスで希釈して排出することができる。
【0037】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。上記の説明では処理装置として清澄管を例として説明したが、本発明はこれに限らず、熔解槽、攪拌槽や成形装置、移送管、供給管に本発明を適用してもよい。
【0038】
本実施形態の製造方法により製造されるガラス基板は、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板、カバーガラスに好適に用いられる。その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、ポリシリコンTFTを用いた液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【符号の説明】
【0039】
100 熔解装置
101 熔解槽
103 攪拌槽
104、105 移送管
106 ガラス供給管
120 清澄槽
121a、121b 電極
122 電源装置
123 制御装置
124a、124b パージガス供給管
125a、125b パージガス供給装置
127 排気管
128 酸素濃度計
129 吸引装置
200 成形装置
300 切断装置
図1
図2
図3
図4