(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、強化ガラス基板の厚さの一部に亘って延在するスクライブベントを形成する種々の実施形態を詳細に参照し、その例を添付の図面に示す。可能な限り、図面を通じて、同じまたは同様の部分の参照には同じ参照数字を使用する。本書において説明するように、強化ガラス基板にスクライブベントを形成する方法は、一般に、圧縮表面層を貫通する垂直な傷を、その傷が強化ガラス基板の第1エッジからずれて位置するようにして形成するステップを含む。ガラスの圧縮層下の露出された内部引張層が、レーザスクライブ工程時にベントが始まるのを助ける。レーザ光源からのビームスポットを、その後圧縮層上の所望の分離ラインに沿って導く。冷却ジェットによって生成される冷却スポットは、この冷却スポットがビームスポットの後端エッジ近傍に位置付けられるように圧縮層上に導かれる。次いで、レーザ光源および冷却ジェットを平行移動させることにより、または強化ガラス基板を平行移動させることにより、冷却スポットとビームスポットとを、ビームスポットが強化ガラス基板の第2エッジからずれた終端位置に位置付けられるまで所望の分離ラインに沿って前進させ、こうして強化ガラス基板の厚さの一部に亘って延在するベントを形成する。形成されたスクライブベントは、このずれた位置にある傷から終端位置まで延在している。交差しているスクライブベントは、第1スクライブベントを第1スクライブ速度で形成し、そしてこれに交差する第2スクライブベントを第1スクライブ速度よりも速い第2スクライブ速度で形成することによって形成してもよい。別の実施形態では、第2スクライブベントを形成する前に、第1スクライブベントを交差位置で融着させてもよい。強化ガラス基板にスクライブベントを形成する種々の実施形態の他、強化ガラス基板を複数片に分離する方法を本書においてより詳細に説明する。
【0013】
図1A、2、および5を参照すると、強化ガラス基板100の厚さの一部に亘って延在する制御されたクラックすなわちスクライブベント109を形成するための、例示的なシステムが概略的に描かれている。このシステムは、概して、強化ガラス基板100を所望の分離ライン104に沿って加熱するレーザ光源150と、強化ガラス基板100の加熱表面を所望の分離ライン104に沿って急冷するために冷却ジェット105を導くノズル160とを備えている。ビームスポット102と冷却スポット106とを当てることで得られる強化ガラス基板の温度変化により、所望の分離ライン104に沿って、所望の分離ライン104の垂直方向に引張応力が発現し、これにより強化ガラス基板100の厚さの一部に亘って延在するベント109が形成される。完成したスクライブベント109は所望の分離ライン104に沿って位置し、機械的な力を加えることで強化ガラス基板100をこのラインで分離させることができる。以下でより詳細に説明するが、スクライブベント109は強化ガラス基板100の第1エッジ114からずれて位置する傷112で始まり、そして強化ガラス基板100の第2エッジ116からずれて位置する終端位置で終端する。
【0014】
本書において説明する実施形態において、強化ガラス基板100は、第1表面130、第2表面132、エッジ(例えば、第1エッジ114および第2エッジ116)、および厚さhを有している。強化ガラス基板は、例えば円形など、他の形状を有するものでもよいことを理解されたい。強化ガラス基板は、イオン交換法により化学強化して、ある層深さ(DOL)まで延在している圧縮表面層111と強化ガラス基板内部に内部引張層115とを生じさせたものでもよい。強化ガラス基板は種々のガラス組成で形成することができ、例えば限定するものではないが、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩、およびアルミノホウケイ酸塩ガラスが挙げられる。
【0015】
強化ガラス基板100は、機械的チャックまたは真空チャックを使用して、システム内でしっかりと保持することができる。真空チャックは、真空プラテン上に一連の真空孔をいくらか距離を空けて配置して得たものでもよい。ただし、これらの孔により生み出された応力勾配が応力場を歪ませ、強化ガラス基板のレーザスクライブ工程に十分に影響を与える可能性がある。真空吸引による応力勾配は、孔の間隔を狭くしたプレートや多孔質プレートを使用して最小にすることが可能であり、これはどちらのプレートでも、ガラスを保持するのに必要な真空の量が少なくなるためである。
【0016】
レーザ光源150は、強化ガラス基板100に熱エネルギーを与えるのに適した波長を有するビームを放射するよう動作可能であり、このときレーザエネルギーがガラスの厚さhを通じて強く吸収され、こうして強化ガラス基板が加熱される。例えば、レーザ光源150は一般に、赤外領域の波長を有するレーザビーム101を放射する。適切なレーザ光源としては、波長約5μmから約6μmのCOレーザ、波長約2.6μmから約3.0μmのHFレーザ、または波長約2.9μmのエルビウムYAGレーザが挙げられる。本書において説明する実施形態において、レーザ光源は約9.4μmから約10.6μmの波長を有する赤外光ビームを生成するCO
2レーザである。CO
2レーザ光源は、準連続波モードで動作するRF励起レーザ光源でもよい。一実施の形態においては、レーザ光源150のレーザビーム101がガウシアン強度分布を有するように、レーザ光源150をTEM
00モードの出力ビームを生成するように動作させる。あるいは、出力ビームが「D」またはフラットモードの強度分布を有するように、レーザ光源をTEM
01モードの出力ビームを生成するように動作させてもよい。レーザ光源の出力は、所望のスクライブ速度、スクライブするガラスの組成、および圧縮表面層の深さに応じて、約20ワットから500ワット超までとし得る。
【0017】
強化ガラス基板100の表面の過熱(これが強化ガラス基板表面からのガラスのアブレーションまたは蒸発や、切断エッジを弱化させる残留応力に繋がり得る)を防ぐため、レーザ光源から放射されるビーム101を、種々の光学素子(図示なし)を用いて、ビーム101が強化ガラス基板100の表面で楕円ビームスポット102を有するように成形してもよい。例えば、一実施の形態において、一対のシリンドリカルレンズ(図示なし)を、レーザ光源150から放射されたレーザビーム101の経路内に配置してもよい。あるいは、レーザビームを成形して楕円ビームスポットを形成するのに使用するシリンドリカルレンズおよび/または他の光学素子を、レーザ光源150と一体化させる。シリンドリカルレンズは、強化ガラス基板の表面に入射するビームスポットが、
図1Aに描かれているように概して楕円の形状となるようにレーザビーム101を成形する。本書で説明するビームスポットの形状は楕円とされるであろうが、実施形態はこれに限られるものではなく、円形、正方形、長方形などを含む他の形状をビームスポットが有し得ることを理解されたい。
【0018】
図3を参照すると、楕円ビームスポット102は概して幅bの短軸124と長さaの主軸125とを有する。短軸124は、
図3に示されているように、楕円ビームスポット102の中心点を横切って延在している。一実施の形態において、短軸124の幅bは、冷却ジェットが強化ガラス基板表面と接触する位置に形成される、冷却スポット106の直径と略同じである。
【0019】
主軸125は概して、楕円ビームスポット102の先端エッジ120と後端エッジ122との間で
図3に示すように長さaを有する。楕円ビームスポット102の長さaは、レーザにより生成されるベントの深さを一般に制御し得る。レーザビームスポットが長くなると、ベントは深くなる。長さaが固定されている場合、スクライブ速度νが速くなると、より浅いベントが生成される。反対に、スクライブ速度νが遅くなると、生成されるベントは深くなる。強化ガラス基板のレーザスクライブでは、ベントの進展がレーザスクライブ作業を完了させることができるほど十分にゆっくりしたものとなるように、ベントの深さを制御するべきである。このことは、所与の強化ガラス基板厚に対する望ましいスクライブ速度に従って、レーザビームの長さを固定するべきであることを意味している。
【0020】
レーザビーム101のレーザパワーに関連して、強化ガラス基板の加熱に使用し得るレーザパワーは、瞬時パワー密度と平均パワー密度によって制限され得る。瞬時パワー密度は、瞬時レーザパワーP
instをビームスポットの面積で割ったもので定義することができる。平均パワー密度I
averageは、レーザパワーPを、レーザビームのスポットサイズと単位時間毎のレーザビームの通過面積との和で割ったもので定義することができる。
【0021】
I
average=P/(π・a・b÷4+b・ν) 方程式(1)
応力緩和を生じさせることなく強化ガラス基板を加熱するための最大許容レーザパワー密度は、例えば熱容量、熱拡散率やそのレーザ波長での光吸収、ガラス軟化点など、ガラスの性質に依存する。I
averageをI
maxに等しいものと設定すると、以下の式が得られる。
【0022】
b=(P/I
max)・1/{(π/4)・a+ν} 方程式(2)
これにより、所望のベント深さを得るために、長さaが固定され得るときには、楕円ビームスポットの幅bを制御して所望の平均パワー密度を達成することができる。より具体的には、方程式(2)は、1)固定のレーザパワーおよび最大許容レーザパワー密度が与えられるとき、レーザスクライブ速度の減少に伴って楕円ビームスポットの幅bを増加させるべきである、2)層深さの増加に伴ってレーザのスクライブ速度は減少するので、これに応じてレーザビーム幅bを増加させるべきである、そして3)レーザスクライブ速度が一定速度で保たれている場合には、レーザパワーの増加はレーザビーム幅bの増加を必要とする、ということを示している。ガラス厚および層深さが増加すると、加熱を必要とするガラスの容積の量もまた増加する。パワー密度は特定値に限定されるため、レーザパワーを増加させるには、楕円ビームスポットの幅bを増加させるべきである。
【0023】
スクライブ工程中には、熱拡散による熱損失もまた存在するであろうことに留意されたい。熱拡散は、レーザ加熱により与えられた局所的なガラス温度を減少させる。熱損失は局所的な温度勾配に比例するため、伝播しているベント前部で必要な引張応力を生じさせるためには、急冷前および急冷中の、ベント前部位置での温度勾配を減少させることが必要となり得る。これは、より幅広の楕円ビームスポットを使用して、強化ガラス基板のベント前部に隣接する容積を加熱することで達成することができる。あるいは、一実施の形態においては、短軸に沿った強度プロファイルの分布が均一であるレーザビームを使用して、ベント前部での温度勾配を減少させかつその温度を増加させてもよい。一般に、強化ガラス基板がより厚くなると、ベントがより深く、かつレーザビームが幅bに沿ってより幅広になる。
【0024】
図2および
図3を参照すると、冷却ジェット105は概して、ノズル160から放射されて強化ガラス基板100の表面上に導かれる加圧流体流を含む。加圧流体は、例えば、水、エタノール、液体窒素、および/または化学冷却剤などの、液体を含むものでもよい。あるいは冷却ジェット105は、例えば、圧縮空気、圧縮窒素、圧縮ヘリウム、または類似の圧縮ガスなどの、圧縮ガスを含むものでもよい。また冷却ジェットは、液体と圧縮ガスとの混合物(すなわち、圧縮された脱イオン水と空気または窒素とを含んだミストジェット)を含むものでもよい。本書において説明する実施形態において、冷却ジェットは脱イオン水である。一般に、固体流の水ジェットは、小さい面積を集中して冷却するため浅いベントの生成に効果的となり得、一方ミストジェットは、より深いベントを生成しかつ広いプロセスウインドウを有し得る。ミストジェットはより大きな面積に適用することができ、かつ強化ガラス基板表面上の熱の多くを除去することができる。
【0025】
冷却ジェット105は、ノズル端部のオリフィス(図示なし)から放射される。冷却ジェットが強化ガラス基板の表面に入射する位置に形成される冷却スポット106は、ノズル160のオリフィスよりも大きい直径d
jを有している。ノズル160は、スクライブ方向110(すなわち、切断軸)に対してレーザ光源150の後方に位置付けられる。本書において説明する実施形態において、ノズル160は強化ガラス基板100の表面130に対し、冷却ジェット105が強化ガラス基板表面に、強化ガラス基板表面に関して90度未満の角度αで入射するような角度で配向される。一実施の形態においては、冷却ジェット105を、平行移動しているビームスポット102と調整して平行移動させてもよい。別の実施形態においては、強化ガラス基板100をビーム101および冷却ジェット105の下で平行移動させることができる移動台に、強化ガラス基板100をマウントしてもよい。冷却ジェット105は、強化ガラス基板100の表面上の、楕円ビームスポットに隣接するエリアに導いてもよい。
【0026】
図1A〜5を参照すると、強化ガラス基板100の厚さhの一部に亘って延在するベントを含むスクライブベントを形成する方法は、最初に強化ガラス基板100の第1表面130(すなわち、圧縮表面層111の表面)上に傷112を導入してスクライブベント開始点を形成するステップを含んでもよい。傷112は、強化ガラス基板の第1エッジ114から、傷の位置ずれ距離d
defだけずらして設ける。傷112は、例えば機械的にまたはレーザアブレーションによって形成されたクラック開始点でもよい。位置ずれ距離d
defは、所望のスクライブ速度、スクライブするガラスの組成、および圧縮表面層111の深さに依存し得る。一実施の形態において、位置ずれ距離d
defは略6mmである。他の実施形態において、位置ずれ距離は約3mmから約10mmの範囲内でもよい。以下でより詳細に説明するが、ベントは傷から始まり、レーザビームおよび冷却ジェットに対する強化ガラス基板100の相対運動に沿って伝播する。
【0027】
傷112は、スクライブ方向および所望の分離ラインに垂直なクラック開始点でもよい。傷112を垂直配向とすれば、スクライブ方向に平行な傷よりも優れた機械的再現性をもたらし得る。例えば、垂直配向の傷112によれば、スクライブ工程中にフルボディベントを形成させないようにすることができる。しかしながら、いくつかの実施形態では、分離される強化ガラス基板の組成や物理的なクラックのメカニズムに応じて、
図1Bに示したようなスクライブ方向に平行な傷112´を提供することが望ましいこともある。
【0028】
傷112は、ダイヤモンドスクライバを適用して機械的に形成することが好ましいであろうが、機械的罫書きホイール、砥石車、カーバイドチップ、彫刻機など、他の機械装置を利用してもよい。傷112の深さは、内部引張層が露出されるよう、層深さと同じかあるいはこれより若干深いものとするべきである。傷の形成時には、傷が内部引張層内に深く延び過ぎないことを確実にするよう注意するべきである。そのため、機械装置はそれほど鋭利なものとするべきではないし、また加える力は、得られる傷が強化ガラス基板のバルク内で深くなり過ぎるような過度に大きいものとするべきではない。鋭利な機械装置を適用することで生成される深いメディアンクラックは、内部引張層内に過度に深く入り込んで、レーザスクライブ工程中にフルボディクラックを生じさせる可能性がある。多くの横クラックおよび放射状クラックや内部引張層を部分的にのみ露出させる浅いメディアンクラックを含む傷は、鋭くない機械装置を使用することによって得ることができる。選択される機械装置の種類は、ガラスの強度など、強化ガラス基板の特性に依存し得る。円錐状のダイヤモンドチップを強化ガラス基板の表面上で引きずると、一般に横クラックがより多く生成され、かつ生成されるメディアンクラックは少なくなる。罫書きホイールは、レーザスクライブ工程中に強化ガラス基板を完全に分離させる可能性があるような、深いメディアンクラックを生成し得る。
【0029】
一例であって限定するものではないが、空気駆動シリンダを使用して、30μm、760MPaの圧縮応力層と21MPaの内部引張層とを有する1.1mm厚のイオン交換強化ガラス基板の表面に円錐状のダイヤモンドスクライバを当てた。この強化ガラス基板は、69.17モル%のSiO
2、8.53モル%のAl
2O
3、0モル%のB
2O
3、13.94モル%のNa
2O、1.17モル%のK
2O、6.45モル%のMgO、0.54モル%のCaO、および0.19モル%のSnO
2を含む、アルミノケイ酸ガラスであった。円錐状ダイヤモンドチップの角度は約105°であった。空気駆動シリンダによりダイヤモンドチップを強化ガラス基板の表面に当接させ、このときの力が約9N、罫書き速度が約5mm/s、そして引きずり角度が約12°であった。この工程により、内部引張層を部分的に露出させる垂直な傷が生成された。ダイヤモンドチップの性質と罫書き工程は、強化ガラス基板の性質(例えば、ガラス基板の厚さ、圧縮応力層の厚さおよび圧縮応力など)に依存し得る。強化ガラス基板の性質に応じて、約90°から130°の範囲内の角度を有する円錐状ダイヤモンドチップを利用してもよく、また加える力を約5から約20Nの間としてもよい。別の例として、限定するものではないが、円錐状ダイヤモンドチップを120°の円錐角を有するものとしてもよく、かつこの円錐状ダイヤモンドチップを強化ガラス基板に、引きずり角度5°、速度3mm/s、そして加える力13Nで当接させてもよい。
【0030】
傷112が形成されると、ビームが傷112の位置で所望の分離ライン104上に入射するよう、レーザ光源150からのビーム101を強化ガラス基板100の表面上に導く。ビームは最初、傷112がビーム101の楕円ビームスポット102内に位置付けられ、かつ楕円ビームスポット102の主軸125が所望の分離ライン104と実質的に同一線上となるように、基板上に導かれる。レーザ光源150のビームが強化ガラス基板100の表面130上に位置付けられたとき、ビームが圧縮表面層111に放射熱エネルギーを与え、これにより強化ガラス基板を所望の分離ライン104に沿って加熱する。ガラス表面が加熱される最大温度T
maxは、加熱中の応力緩和と、冷却ジェットによる急冷に続いて望ましくない残留応力が発現することとを防ぐよう、一般にガラスの歪点T
g未満である。強化ガラス基板の温度は、例えば、レーザ光源のパワーや、レーザビームを上述したように所望の分離ラインに沿って強化ガラス基板の表面上で前進させる際のスクライブ速度νなど、種々のパラメータを調整することによって制御することができる。ビーム101が最初に所望の分離ライン104上に位置付けられると、その後楕円ビームスポット102を第2エッジ116からずれた位置にある終端位置113に到達するまで、強化ガラス基板100の表面130に沿って所望の分離ライン104上にスクライブ速度νで前進させ、こうして強化ガラス基板の表面を所望の分離ライン104に沿って、傷112と終端位置113との間で加熱する。楕円ビームスポットは、レーザ光源150を強化ガラス基板100に対して動かすことにより、表面上で平行移動させてもよい。あるいは、強化ガラス基板100をレーザ光源150およびノズル160に対して動かすことにより、楕円ビームスポットを平行移動させてもよい。
【0031】
強化ガラス基板の表面130にスクライブベント109を形成するため、ノズル160から放射された冷却ジェット105で強化ガラス基板の加熱表面を冷却または急冷する。急冷による温度変化により、強化ガラス基板の表面の所望の分離ライン104に垂直な方向に引張応力が発現する。
図4を参照すると、こういった引張応力が、ベント前部140を強化ガラス基板の表面下で所望の分離ライン104に沿ってスクライブ方向110へと伝播させ、そして第2エッジ116手前の終端位置113近傍で停止させる。終端位置113は第2エッジ116から終端距離d
termだけずれたものでもよい。本書において説明する実施形態において、ベント109は、強化ガラス基板の厚さhの半分未満の深さdまで、基板の表面から下に延びているものでもよい。一実施の形態において、この厚さdは強化ガラス基板の厚さhの略15%である。ベント109を強化ガラス基板の表面沿いで開始させかつ伝播させるには、ベントを開始かつ伝播させるのに十分な引張応力を生成するよう、強化ガラス基板の表面を加熱しさらに続いて冷却して、温度変化閾値ΔT
THを上回らせなければならない。
【0032】
より具体的には、強化ガラス基板をレーザ光源150で加熱し、さらに強化ガラス基板の加熱表面を冷却ジェット105で急冷すると、強化ガラス基板の表面で所望の分離ライン104に垂直に引張応力が生成される。引張応力が強化ガラス基板100を形成している材料の引張応力閾値σ
THを上回ると、既に存在しているクラックまたはベント109が強化ガラス基板内で伝播し得る。加熱および冷却サイクルによるレーザ生成引張応力は、以下の式で見積ることができる。
【0033】
σ
TH=(1/2)α・E・ΔT 方程式(3)
ここで、αは熱膨張係数、Eはヤング率、そしてΔTはレーザビームと冷却ジェットの急冷サイクルによる温度降下である。方程式(3)を使用すると、レーザ加熱と冷却ジェットの急冷サイクル中に生成され得る最大引張応力は、いかなるガラス種類に対しても約100から約200MPaを超え得ない。この値は、イオン交換法で生成される表面圧縮応力(例えば>500MPa)よりも著しく小さい。そのため、レーザスクライブ工程では、圧縮層内に完全に包み込まれているスクライブベントを伝播させるほどの引張応力は生成されない。むしろ、強化ガラス基板上でのスクライブ工程は間接的な工程である。
【0034】
図4を参照すると、上述した引張応力により、ベント前部140は強化ガラス基板の表面130に沿って所望の分離ライン上をスクライブ方向110に伝播する。
図4に示したように、ベント前部140は強化ガラス基板100の表面130下を進む。ガラス表面下でベント109が開口することにより、表面の圧縮応力が解放されて、ベント前部が強化ガラス基板内を伝播するときに、ベント前部140の後でベント109がガラス表面を突破る。
【0035】
ベント前部140が表面130の下方の圧縮表面層111内を進むとき、スクライブベント109を圧縮表面層111でまたはこの層付近で伝播させるように引張応力を生成するには、効率的かつ持続的な急冷が必要となり得る。冷却効率は、冷却ジェット105の衝撃速度、ノズル160により供給される冷却ジェット105の体積流量、そして加熱された強化ガラス基板100に対する冷却ジェット105の温度勾配に依存し得る。一実施の形態において、冷却ジェット105(水など)の温度は、摂氏0℃をちょうど上回る安定した温度まで冷却される。冷却ジェット105の温度および流量は、適切なスクライブベント深さを得るために、作業を通じて安定した状態で維持されるべきである。
【0036】
理想的なシステムにおいては、定性的に、強化ガラス基板表面上での冷却ジェットの特徴的な固有の冷却時間はd
j/νに等しく、ここでd
jは冷却ジェットコアの直径であり、またνはスクライブ速度である。冷却ジェットコア107は、冷却ジェットが強化ガラス基板の表面とぶつかる位置の、冷却スポット106の中心領域である。ベント前部が強化ガラス基板内の層深さlに位置していると仮定すると、急冷効果が層深さの値lに達するのに必要な時間は、1次元熱伝導モデルを使用して見積もることができる。このモデルによれば特性時間はl/4Dであると予測され、ここでDは強化ガラス基板の熱拡散率である。したがって、冷却ジェットの直径d
jは定性的に以下のように見積ることができる。
【0037】
d
j≒(l
2/4D)・ν 方程式(4)
上記方程式は、冷却ジェットの直径d
jと強化ガラス基板の層深さとの相関を示している。層深さの増加に対応して、冷却時間を増加させるべきである。
【0038】
冷却スポット106は、楕円ビームスポット102の後端エッジ122に近接して位置付けてもよい。
図1A〜3を参照すると、本書において説明する一実施の形態においては、冷却スポット106が強化ガラス基板100の表面130の所望の分離ライン104上に、かつ楕円ビームスポット102内に位置付けられるように、ノズル160が配向される。より具体的には、
図3に示すように、冷却スポット106が後端エッジ122から距離zだけ間隔を空けた状態で楕円ビームスポット102内の楕円ビームスポット中心と後端エッジとの間に位置するように、図示の実施形態のノズル160は配向されている。この位置で冷却スポット106は、レーザ光源での加熱による、強化ガラス基板表面上の最大温度の位置またはその近傍に位置している。したがって、強化ガラス基板は最大温度または最大温度近傍で冷却ジェットにより急冷されるため、得られる温度変化ΔT(ガラス表面は歪点温度T
g直下まで加熱されると仮定する)は温度変化閾値ΔT
THを上回り、こうして傷112から最初に伝播するベント109の形成が促進される。図示の冷却スポットは、楕円ビームスポットから距離z隔てた状態で楕円ビームスポット内に位置しているが、冷却スポットを、直接後端エッジ122上に位置させてもよいし、または部分的に後端エッジ近傍の楕円ビームスポット外に位置させてもよく、あるいは楕円ビームスポットの数ミリ後方に遅れるようにしてもよい。例えば、より厚い強化ガラス基板では、冷却スポットを楕円ビームスポットにより近づけるか、あるいは楕円ビームスポット内に位置付けてもよい。より薄い強化ガラス基板では、冷却スポットは楕円ビームスポット内に位置付けてもよい。一般に、強化ガラス基板が薄くなるほど、冷却ジェットからT
maxの位置までの距離は短い。
【0039】
図1A、2、および5を参照すると、冷却ジェット105および冷却スポット106を楕円ビームスポット102に対して適切に配向した後、冷却ジェットおよびレーザ光源を、強化ガラス基板100の表面130に沿って、傷112の位置から始まり終端位置113で終端する所望の分離ライン104上でスクライブ方向110に前進させる。強化ガラス基板の表面が最大温度まで加熱され、かつ最大温度または最大温度近傍で急冷されると、スクライブベント109が傷112から終端位置113まで所望の分離ライン104に沿って伝播する。冷却ジェット/レーザ光源と強化ガラス基板100は互いに対してスクライブ速度νで前進し、この速度νが所望の分離ライン104に沿ったベントの伝播速度となる。スクライブ速度νは一般に、強化ガラス基板表面の過熱を防ぐと同時に、さらに強化ガラス基板表面をガラスの歪点温度直下まで加熱できるように選択される。スクライブベント109を確実に傷と終端位置との間で延びるものとし、第1エッジから第2エッジまで延びることのないようにすることによって、制御し得ないフルボディベントが伝播して強化ガラス基板100を破壊するのを防ぐ。スクライブベント109の形成に続き、ベントの片側または両側で強化ガラス基板100に曲げモーメントを(手などで)加え、強化ガラス基板をスクライブベント109に沿って機械的に分離してもよい。
【0040】
一実施の形態においては、ビームスポットが第1エッジの手前から出発して第2エッジを過ぎるまで所望の分離ラインに沿って前進するようにこのシステムを動作させ、ビームスポットが第1エッジおよび第2エッジの両方を横切るようにしてもよい。スクライブベントを、傷と終端点の間のみに位置付けられるようにし、第1エッジから第2エッジまで延在しないようにして発生させるためには、レーザビームで生成したビームスポットが、傷の手前や終端位置を過ぎてから強化ガラス基板に入射するときには、冷却ジェットを「オフ」モードで動作させ、さらにビームスポットが傷の位置や傷と終端位置との間で強化ガラス基板に入射するときには、冷却ジェットを「オン」モードで動作させてもよい。そのため冷却スポットは、強化ガラス基板表面上の傷から終端位置の間のみで提供される。冷却ジェットをこのように動作させることで、強化ガラス基板を傷の手前や終端位置を過ぎてから急冷することを防ぎ、これによりベントがこれらの位置で開口するのを防ぐとともに、傷から終端位置まで延在するスクライブベントが得られる。
【0041】
別の実施形態においては、冷却スポットが第1エッジから第2エッジまで強化ガラス基板の表面上に提供されるように、冷却ジェットを連続的にオンモードで動作させてもよい。この実施形態では、レーザビームが傷の手前や終端位置を過ぎてから強化ガラス基板に入射するときにはレーザ光源を低パワーレベルで動作させ、そしてレーザビームが傷と終端位置との間で強化ガラス基板に入射するときにはレーザ光源を高パワーレベルで動作させてもよい。この低パワーレベルとは、オフモード(すなわちゼロ放射)でもよいし、あるいはレーザビームがベントを開口させるほどの温度まで強化ガラス基板を加熱することのない程度の、十分に低いいくらかのパワーレベルでもよい。ここでの高パワーレベルとは、本書において上述したような、ベントを開口させるよう動作可能なパワーレベルでもよい。レーザ光源をこのように動作させると、傷と終端位置との間で伝播しかつ強化ガラス基板のエッジでは伝播されない、制御されたベントの伝播が実現する。
【0042】
終端位置近傍でレーザ光源のパワーレベルを増加させて、ベントの伝播が強化ガラス基板の並進速度を追い越すようにレーザ光源を動作させることによっても、ベントが終端位置を超えて第2エッジへと延びるのを防ぐことができるであろう。レーザスクライブ作業において、レーザ生成ベントは、典型的には強化ガラス基板に対するレーザビームおよび冷却ジェットの相対運動と同じ速度で伝播し得る。しかしながら、レーザ光源の発振パワーを増加させると、ベントは強化ガラス基板の並進速度を追い越して、レーザビームスポットにより提供されたレーザ加熱領域内へと伝播し得る。ベント前部140がレーザ加熱領域に入ると、パワーが増加されたレーザ光源と冷却ジェットとの関連でベント前部140は抑えられた状態となり、そして前進を完全に停止させる。こうして、レーザ光源のパワーを終端位置近傍で増加させることにより、ベントの伝播は制御可能に停止させることができる。
【0043】
レーザビームが第1エッジと傷との間および終端位置と第2エッジとの間に位置しているときに強化ガラス基板を高速で平行移動させ、さらにレーザビームが傷と終端位置との間に位置しているときに強化ガラス基板を低速で平行移動させることによっても、第1エッジと傷との間および終端位置と第2エッジとの間でベントの開口を防ぐことができるであろう。これは、強化ガラス基板とレーザビームとの間の相対運度の速度プロファイルで説明できる。この高速でのガラスの並進速度は、ベントの開口を十分に回避できる速度でなければならないし、一方低速でのガラスの並進速度は、ベントを開口させてスクライブベントを形成することができる速度(すなわち、スクライブ速度ν)でなければならない。傷の手前や終端点後にガラスの平行移動を加速させることにより、スクライブベントを傷と終端位置との間のみに形成することができる。
【0044】
図6を参照すると、本書において説明する方法の実施形態は、レーザシールド141、142をさらに利用して、強化ガラス基板表面の被遮蔽領域にビームスポットおよび冷却スポットが及ぶのを防いでもよい。ここで被遮蔽領域は、ガラス基板のエッジと夫々傷および終端位置との間の、強化ガラス基板の周囲部分に位置している。例えば、被遮蔽領域は、傷112から第1エッジ114まで、また終端位置113から第2エッジ116まで、延在しているものでもよい。レーザシールド141、142は、例えば、レーザ放射が強化ガラス基板の被遮蔽領域に入って加熱するのを防ぐことができるような、金属材料などの材料を含んでもよい。
図6に示した実施形態において、第1レーザシールド141は、第1遮蔽表面141が第1被遮蔽領域を覆うようにして、強化ガラス基板100の第1エッジ114に当てられるよう構成される。同様に、第2レーザシールド142は、第2遮蔽表面143が第2被遮蔽領域を覆うようにして、強化ガラス基板100の第2エッジ116に当てられるよう構成される。他のレーザシールドの構造も使用し得ることを理解されたい。例えば、レーザシールドを、強化ガラス基板100に取り付けられる平坦な金属板として構成してもよい(例えば、強化ガラス基板の第1エッジおよび第2エッジで上表面のみを遮蔽する)。強化ガラス基板をビームスポットおよび冷却ジェットに対して平行移動させるとき、第1および第2被遮蔽領域内でのベントの開口はレーザシールド141、142により回避され、これによりスクライブベントを傷から終端点まで延在するものとすることができる。
【0045】
別の実施形態においては、薄い熱伝導コーティングをレーザシールドとして強化ガラス基板100のエッジ上に堆積させてもよい。例えば、薄い熱伝導コーティングは、タッチセンサー式スクリーンで接点を形成するために典型的に使用される金属電極材料でもよい。熱伝導コーティングはマスクを用いて強化ガラス基板100に適用してもよい。この材料は、上述した熱遮蔽効果をさらに提供するものでもよい。
【0046】
ここに上述した方法を使用して、強化ガラス基板を複数のより小さな片に分離するスクライブ・アンド・ブレイク技術の使用を助ける1以上のベントを、強化ガラス基板に形成することができる。例えば、
図7〜11は、本書において説明したベント形成方法を使用して強化ガラス基板100を複数片に分離する方法を図で表したものである。
【0047】
図7を参照すると、上方表面すなわち第1表面130を備えている、強化ガラス基板100が描かれている。強化ガラス基板100は、第1垂直傷112aを強化ガラス基板100の第1表面130上に、上述したように第1エッジ114からずらして導入することにより、複数片に分離される。第1垂直傷112aは、ダイヤモンドチップやカーバイドポイントまたはホイールなどの機械的スクライブを用いて、あるいはレーザアブレーションによって、強化ガラス基板100の表面に形成してもよい。第2垂直傷112bおよび第3垂直傷112cなどの複数のさらなる垂直傷を、スクライブベントをさらに発生させるために第1表面130に加えてもよく、こうすることで強化ガラス基板100を複数片に分離することが可能になる。任意の数のさらなる傷を第1表面130に導入してもよい。
【0048】
その後、本書において上述したような1以上のベント形成技術を用いて、第1垂直傷112aから第1終端位置113aまで延在する第1の所望の分離ライン104aに沿って、ベントを強化ガラス基板100内に開口させることができる。例えば、一実施の形態において、CO
2レーザの楕円ビームスポットが、この楕円ビームスポットの主軸が第1の所望の分離ライン104aに実質的に位置合わせされるようにして、第1垂直傷112a上に導かれる。冷却ジェットもさらに、冷却ジェットの冷却スポットがビームスポットの後端エッジに近接して位置付けられるように、強化ガラス基板上に導かれる。
【0049】
楕円ビームスポットおよび冷却スポットは、その後強化ガラス基板の表面上で第1の所望の分離ライン104aに沿って導かれ、これにより上述したように、強化ガラス基板の厚さの一部に亘って延在しかつ第1スクライブベントを形成する、第1ベントを強化ガラス基板内で開口させる。一般に、強化ガラス基板100内の第1ベントは、概して強化ガラス基板の厚さhの4分の1未満に亘って延在する。
【0050】
同様に、第1スクライブベントの形成に関連して上述したように、第2スクライブベントを、第2垂直傷112bから出発して第2終端位置113bで終端する第2の所望の分離ライン104bに沿って形成してもよく、さらに第3スクライブベントを、第3垂直傷112cから出発して第3終端位置113cで終端する第3の所望の分離ライン104cに沿って形成してもよい。
【0051】
第1、第2、および第3スクライブベントが強化ガラス基板100内に形成されると、これに曲げモーメントを加えることで強化ガラス基板をスクライブベントに沿って複数片に機械的に分離することができる。例えば、曲げモーメントを強化ガラス基板100の第1スクライブベント周りに加えることで、強化ガラス基板を第1スクライブベントに沿って分離した後、第2スクライブベントおよび第3スクライブベント周りに曲げモーメントを加えて、得られた片をより小さな片にさらに分離してもよい。この手法で、強化ガラス基板100を4つの個別片に分割することができる。より多くの、またはより少ないスクライブベントを形成して、強化ガラス基板を、より多くの、またはより少ない個別片に分離してもよいことを理解されたい。
【0052】
本書において説明されたスクライブベント形成方法を使用して、強化ガラス基板をクロススクライブしてもよい。強化ガラス基板をクロススクライブするため、2つの交差しているスクライブベントを強化ガラス基板のバルクに形成してもよい。レーザクロススクライブは、ある方向にレーザスクライブを行い、続いて第2の方向にレーザスクライブを行うものである。
【0053】
図8を参照すると、第1垂直傷112aを第1エッジ114に近接させて導入し、さらに第2垂直傷112bを第3エッジ117に近接させて導入してもよい。第1垂直傷112aおよび第2垂直傷112bは、夫々第1の所望の分離ライン104aおよび第2の所望の分離ライン104b上に位置付けられる。第1の所望の分離ライン104aおよび第2の所望の分離ライン104bは、交差位置170で互いに交差している。上述したように、レーザビームおよび冷却ジェットを強化ガラス基板100の表面上で平行移動させ、
図9に示したように、夫々第1終端位置113aおよび第2終端位置113bで終端するスクライブベント109aおよび109bを開口させることができる。第1終端位置113aおよび第2終端位置113bは、夫々第2エッジ116および第4エッジ119に近接している。強化ガラス基板100は正方形の形状を有するものとして図示されているが、例えば円形など、他の形状も可能である。円形では、例えば、第1、第2、第3、および第4のエッジなどの、個別のエッジは存在しないであろう。本書においては、限定するものではなく議論を簡単にするため、エッジを第1、第2、第3、および第4のエッジと表現する。
【0054】
図9を参照すると、ガラス基板のクロススクライブでは、第2レーザスクライブの通過時に、第2スクライブベント109bが第1スクライブベント109aを交差位置170で横切ることが必要となる。第1スクライブの通過時に形成された第1スクライブベント109aでの不連続性のため、交差位置170での局所的なガラス基板温度は、第2スクライブ通過時の第2の所望の分離ライン104bに沿った他の領域よりも高くなる。交差位置170での温度がより高いため、第2ベント109bは交差位置で第1スクライブベント109aの下を、内部引張層内へとより深く進むことになる。これが、ベント前部140(
図4)でのより高い引張力に繋がる。ベント前部140での温度がより高いことと、局所的な熱膨張とにより、ベントの進展は交差位置170近傍で、第2の所望の分離ライン104b沿いの他の領域よりも深いものとなり得る。
【0055】
一例であって限定するものではないが、
図10Aは、イオン交換法により化学強化された1.1mm厚のアルミノケイ酸ガラス基板に形成された、第1スクライブベント109aの断面図を概略的に示したものである。圧縮応力層の深さは約34μmであり、そしてその圧縮応力は約620MPaであった。内部引張層内の中心引張応力は約21MPaであった。
図10Aに示されている第1スクライブベント109aは、周波数20kHz、18%のデューティサイクル、および出力パワー182Wで動作する、CO
2レーザビームを当てて生成された。レーザビームおよび冷却ジェットは、スクライブ速度162mm/sで平行移動させた。CO
2レーザビームが生成した楕円ビームスポットの長さaは42mm、かつ幅bは2.5mmであった。冷却ジェットは、流量16sccm(2.704×10
-2Pa・m
3/s)の水であった。得られた第1スクライブベント109aのベント深さd
iは約155μmであった。
【0056】
図10Bは、第1スクライブベント109aと同じスクライブ工程で生成された第2スクライブベント109b´の断面図を示したものである。第1スクライブベント109aの位置を、符号109aを付した矢印で示す。この概略図は、最初に第2スクライブベント109b´に沿って機械的に分断した強化ガラス基板を示してる。そのため、第1スクライブベント109aは、紙面に出入りする方向のものとして示されている。第2スクライブベント109b´のベント深さd
2´は、交差位置170´以外の領域では約158μmである。ただし、第2スクライブベント109b´は交差位置170´で第1スクライブベント109aの下を進み、そのベント深さd
ai´は約175μmである。
【0057】
一実施の形態において、第2スクライブ通過時のスクライブ速度が第1スクライブ通過時のスクライブ速度よりも速くなるよう、第2スクライブ通過時のスクライブ速度を速めることにより、交差位置170でのベント深さd
2iを最小にしてもよい。第2スクライブベント109bが第1スクライブベント109aと交差位置170で交わるとき、第2スクライブベント109bの交差位置170でのベント深さd
aiを第1スクライブベント109aのベント深さd
1と同様とすることができる。
【0058】
図10Cは交差しているスクライブベント109aおよび109bの一例を示したものであり、ここで第2スクライブ通過時のスクライブ速度は第1スクライブ通過時よりも速いものであった。第1スクライブベント109aは上述したように生成されたものであり、またその位置を、符号109aを付した矢印で示す。この例において、第2スクライブ通過時のスクライブ速度は約172mm/sであった。スクライブ速度が増加したため、交差位置170以外の領域での第2スクライブベント109bのベント深さd
2は約143μmであった。
図10Cに示したように、第2スクライブベント109bの交差位置170でのベント深さd
aiは約154μmであり、これは第1スクライブベント109aのベント深さd
iの155μmより浅い。このため、第2スクライブベント109bのベント深さd
aiが交差位置170でより浅いものとなるため、交差位置170での制御し得ないフルボディ分離を防ぐことができる。
【0059】
別の実施形態において、第2スクライブベント109bを生成する前に第1スクライブベント109aを交差位置170で最初に融着させることにより、第2スクライブベント109bの交差位置170でのベント深さd
aiを最小にしてもよい。第1スクライブベント109aを融着させることによって、第2スクライブの通過時に交差位置170で第2ベント109bが受ける摂動をより小さくすることができる。
【0060】
第1スクライブベント109aは、レーザビームおよび冷却ジェットをベントの前処理用に通過させる時、ベント前処理用ラインを発生させることによって交差位置170で融着させてもよい。ベント前処理用ラインは、第2スクライブベント109bを形成するときにレーザビームおよび冷却ジェットが同じ経路を辿るよう、第2の所望の分離ライン104b(
図8)と位置合わせしてもよい。ベント前処理用通過時のレーザビームおよび冷却ジェットの並進速度は、第1および第2スクライブ通過時のスクライブ速度よりも速いものである。例えば、一実施の形態において、ベント前処理用通過時の並進速度を、第1および第2スクライブ通過時よりも10%以上速いものとしてもよい。
【0061】
第1スクライブベント109aにより生み出された交差位置170での不連続性により、ベント前処理用の通過時に交差位置170でガラス材料が過熱し、その結果ガラス材料の軟化または溶融が生じる。このようにして、第1スクライブベント109aを交差位置170で融着させることができる。レーザビームおよび冷却ジェットは、ベント前処理用の通過の際、交差位置のみで動作させてもよいし、あるいは第2の所望の分離ライン104bに沿って連続して動作させてもよい。ベント前処理用の通過は、第1スクライブベントおよび/または第2スクライブベントを生成するレーザビームを用いて行ってもよいし、あるいは別のレーザビームを使用して行ってもよい。
【0062】
ベント前処理用の通過を終えた後、第1スクライブベント109aを形成する際に用いたものと同じレーザスクライブ工程を使用して、第2スクライブベント109bを形成してもよい。第2スクライブベント109bは、交差位置170で融着され、すなわち塞がれている、第1スクライブベント109aを横切る。ベント前処理用の通過によって第2スクライブベント109bの交差位置でのベント深さd
2iを最小にすることができるため、フルボディ分離の発生を減少させることができる。
【0063】
一例であって限定するものではないが、深さ36μmの圧縮応力層(層深さ)内での圧縮応力が約625MPaであり、かつ中心引張応力が約21MPaである化学強化アルミノケイ酸ガラス基板を、上述のベント前処理用通過方法を用いて分離した。強化ガラス基板のサイズは370mm×470mmであった。CO
2レーザを、18%のデューティサイクルおよび181Wの出力パワーで、20kHzで動作させた。レーザビームは、長さaが41mmおよび幅bが2.5mmの楕円ビームスポットを生成するよう構成された。冷却ジェットは、オリフィスが150μmかつ流量が14sccm(2.366×10
-2Pa・m
3/s)であるノズルにより生成された水ジェットであった。第1スクライブ通過時のスクライブ速度は162mm/sであった。ベント前処理用の通過を実行し、第2スクライブの通過の前にベント前処理用ラインを生成した。ベント前処理用通過時のレーザビームおよび冷却ジェットの並進速度は180mm/sであった。ベント前処理用の通過の後、第2スクライブ通過時に第2スクライブベントが生成され、この第2スクライブ通過時のスクライブ速度は162mm/sであった。この強化ガラス基板のクロススクライブは成功した。
【0064】
ここで
図11を参照し、多数の交差しているスクライブベントを強化ガラス基板に形成することもできる。垂直な、エッジからずれて位置する傷(112d〜112f)を強化ガラス基板の第3エッジ117に形成し、上述の第1、第2、および第3スクライブベントを含む第1組のスクライブベントと夫々交差地点170a〜170iで交差する、第2組のスクライブベントを形成してもよい。第1組および第2組のスクライブベントは、任意の数のスクライブベントを含んでもよいことを理解されたい。第4の傷112d、第5の傷112e、および第6の傷112fを、第3エッジ117からずらすようにして形成してもよい。上述したものと同様に、これらの傷を、例えば機械的スクライブまたはレーザアブレーションによって形成してもよい。傷112d〜112fは、第1、第2、および第3の所望の分離ライン104a〜cと夫々交差位置170a〜iで交差する第4、第5、および第6の所望の分離ライン104d〜f上に、これらの分離ライン104d〜fに垂直に位置付けてもよい。第4、第5、および第6の所望の分離ライン104d〜fは、第1、第2、および第3の所望の分離ライン104a〜cに垂直なものとして示されているが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、所望の分離ラインを傾斜したものや湾曲したものとし、所望形状の分離ガラス片を生成することもできる。第4、第5、および第6のスクライブベントは、第4、第5、および第6の傷112d〜fと、第4、第5、および第6の終端位置113d〜fとの間で夫々発生され得る。
【0065】
第1組および第2組のスクライブベントは、上述したクロススクライブ方法にしたがって形成してもよい。例えば、第1組のスクライブベント(すなわち、第1、第2、および第3のスクライブベント)を上述したように形成してもよい。第1組のスクライブベントの形成に続き、第1スクライブ通過のスクライブ速度よりも速いスクライブ速度の第2スクライブ通過で、第2組のスクライブベント(すなわち、第4、第5、および第6のスクライブベント)を形成してもよい。別の実施形態において、第2組のスクライブベントを形成する前に、ベント前処理用の通過を用いてもよい。単一のレーザビームおよび冷却ジェットを各スクライブベントの形成に使用してもよいし、あるいは複数のレーザビームおよび冷却ジェットを使用してもよい。例えば、レーザビームおよび冷却ジェットの数を所望のスクライブベントの数と等しいものとし、各スクライブベントを対応するレーザビームおよび冷却ジェットで形成するようにしてもよい。
【0066】
ここで、本書において説明した方法は、ホウケイ酸ガラスから作製された強化ガラス基板の他、イオン交換により強化されたアルミノケイ酸ガラスを含む、アルミノケイ酸ガラスから形成された強化ガラス基板などの強化ガラス基板を分離するために使用し得ることを理解されたい。本書において説明した方法は、強化ガラス基板をスクライブ・アンド・ブレイク工程により分離することを可能にするものであり、ここでスクライブベントは、ガラス基板表面上のガラス基板のエッジに接していない部分に形成される。本書において説明したようにスクライブベントを形成して有している強化ガラス基板は、このスクライブベントに沿ってガラス基板に力を加えることにより分離することができる。本書において説明した方法は、強化ガラス基板に交差しているスクライブベントを形成してクロススクライブすることをさらに可能にしたものである。
【0067】
請求される主題の精神および範囲から逸脱することなく、本書において説明された実施形態の種々の改変および変形が作製可能であることは当業者には明らかであろう。すなわち、本書において説明した種々の実施形態の改変および変形が、添付の請求項およびその同等物の範囲内であるならば、本明細書はこのような改変および変形を含むと意図されている。