(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
強誘電性液晶を用いた液晶パネルと、該液晶パネルに駆動電圧を供給する駆動回路と、該駆動回路に波形信号を供給する波形生成回路と、該波形生成回路を制御する制御回路と、を有する液晶装置であって、
さらに、周囲の温度を測定するセンサを備え、
前記駆動回路は、前記駆動電圧の第1フレームでは、第1期間に正の第1電圧を出力し、第2期間に前記第1期間より長い期間、正の第2電圧を出力し、
第2フレームでは、第1期間に負の第1電圧を出力し、第2期間に前記第1期間より長い期間、負の第2電圧を出力し、
前記制御回路は、前記センサの測定温度に応じて前記第1電圧と前記第2電圧とを可変し、
前記液晶パネルの応答速度と前記強誘電性液晶のスイッチング角の温度特性から、所定の応答速度とスイッチング角を得るための前記第1電圧と前記第2電圧のテーブルを作成し前記制御回路は、前記測定温度に応じて前記テーブルを参照し、前記第1電圧と前記第2電圧を決定し、
前記テーブルは所定の温度ステップで前記第1電圧と前記第2電圧の値を有する構成であり、前記テーブルによって決定される前記第1電圧と前記第2電圧が等しくなる温度より低い温度領域において、前記測定温度が前記テーブルの温度ステップの間にある場合、前記第1電圧は前記温度ステップの低温側の電圧値を選択し、前記第2電圧は前記測定温度に対応した電圧を採用することを特徴とする液晶装置。
前記テーブルは所定の温度ステップで前記第1電圧と前記第2電圧の値を有する構成であり、前記テーブルによって決定される前記第1電圧と前記第2電圧が等しくなる温度より高い温度領域では、前記第2電圧は前記測定温度に対応した電圧を採用し、前記第1電圧は前記第2電圧に等しい電圧値とすることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
前記第1フレームと前記第2フレームのそれぞれの第1期間のパルス幅は、前記液晶パネルの応答速度に応じて決定することを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを用いた液晶装置は様々な製品に用いられており、たとえば、薄型テレビ、携帯電話、タブレット端末、液晶シャッタなどで使われている。この液晶装置に用いられる液晶パネルは、通常ではネマティック液晶を用いているが、その応答速度は数msec以上と遅く、この応答速度の遅さが問題になることが多い。特に、レーザプロジェクタなどで光シャッタとして液晶パネルを用いる場合、高速応答が要求され、この要求を満たす液晶材料として、強誘電性液晶を用いた液晶パネル(以下、強誘電性液晶パネルという。)が知られている。
[強誘電性液晶表示パネルの説明:
図10]
ここで、公知ではあるが本発明を理解する助けとなるので、高速応答が可能な強誘電性液晶パネルの構成と強誘電性液晶の動作の概要について以下説明する。なお、強誘電性液晶には、メモリ特性を有する材料と有しない材料があるが、ここで説明する液晶装置の液晶パネルは、メモリ特性を有しない強誘電性液晶の材料を用いて構成されることを例とする。
【0003】
まず、強誘電性液晶を用いた液晶パネルの構造を
図10に基づいて説明する。
図10(a)は強誘電性液晶パネルの偏光板配置の構成を模式的に示した平面図である。
図10(a)において、液晶パネル100は、クロスニコルに合わせた偏光板101a、101bの間に、偏光板101aの偏光軸Cと偏光板101bの偏光軸Dのどちらか一方と、液晶分子の第1の状態(矢印E)もしくは、第2の状態(矢印F)のときの分子長軸方向のどちらかとが、ほぼ平行になるように強誘電性液晶層102(破線で囲う)を配置する。
ここで、
図10(a)においては、偏光板101aの偏光軸Cと第1の状態(矢印E)のときの分子長軸方向が、ほぼ平行になるように配置されている。なお、強誘電性液晶の分子長軸方向の第1の状態と第2の状態は、強誘電性液晶に所定の電圧が印加されることで状態が転移するが、第1の状態と第2の状態のそれぞれの分子長軸方向の角度差(すなわち、矢印EとFの角度)をスイッチング角θと定義する。このスイッチング角θは、45度のときが透過と非透過のコントラスト比が最も大きくなるので、45度のスイッチング角θを有することが強誘電性液晶パネルとして理想である。
【0004】
次に
図10(b)は、液晶パネル100の構造を模式的に示した断面図である。
図10(b)において、液晶パネル100は、2つの状態を持つ強誘電性液晶層102を挟持する一対のガラス基板103a、103bから構成される。また、このガラス基板103aと103bはシール材106によって固着されている。そして、ガラス基板103a、103bの対向面には透明電極である駆動電極としての複数の走査電極104と、信号電極105が設けられており、その上に配向膜107a、107bが設けられている。なお、Ltは液晶パネル100を透過する光を示す。
【0005】
さらに一方のガラス基板103aの外側には、前述した如く、強誘電性液晶層102の第1もしくは第2の状態の分子長軸方向が平行になるように第1の偏光板101aが設けられており、他方のガラス基板103bの外側には、第1の偏光板101aの偏光軸と90度異なるようにして第2の偏光板101bが設けられている。
次に、強誘電性液晶を用いた液晶パネル100の動作について説明する。液晶パネル100に印加する駆動電圧VDを変化させると、液晶パネル100を透過する光Lt(
図10(b)参照)の光透過率Lが変化する。ここで、強誘電性液晶のスイッチング、つまり一方の状態から他方の状態への転移は、駆動電圧VDのパルス幅値とパルス高値との積の値が閾値以上の値となる駆動電圧を強誘電性液晶に印加した場合にのみ起こる。液晶パネル100は駆動電圧VDの極性の違いによって、第1の状態(非透過:黒表示)か、第2の状態(透過:白表示)かのいずれかが選択される。
【0006】
なお、第1の状態(非透過:黒表示)と第2の状態(透過:白表示)の光透過率Lの比が、前述のコントラスト比であり、分子長軸方向のスイッチング角θ=45度のときが、最も大きなコントラスト比となるのである。
【0007】
このように液晶パネル100は、強誘電性液晶の閾値以上の駆動電圧が印加された場合に第2の状態が選択され、また、強誘電性液晶の逆極性の閾値以上の駆動電圧が印加された場合は、第1の状態が選択される。
【0008】
この結果、
図10(a)に示すように偏光板101a、101bを配置すると、第2の状態で白表示(透過状態)、第1の状態で黒表示(非透過状態)となる。尚、偏光板101a、101bの配置を変えることにより、第2の状態で黒表示(非透過状態)、第1の状態で白表示(透過状態)とすることもできる。
【0009】
このように強誘電性液晶を用いた液晶パネルは、駆動電圧VDの正負を切り換えて印加することで、液晶分子の長軸方向を切り換えて2つの状態である非透過状態と透過状態を選択することができる。そして、この2つの状態間の転移速度(すなわち、応答速度)は、数十μsecから数百μsecと高速であるので、高速応答が要求される液晶パネルに好適であり、強誘電性液晶パネルは表示素子や液晶シャッタなどに用いられている(たとえば、下記特許文献1参照。)。
【0010】
下記特許文献1には、第1のフレームでは、第1期間に所定期間正のパルス電圧を印加し、第2期間に第1期間より長い期間、第1期間のパルス電圧より小さい正の電圧を印加し、第2のフレームでは、第1期間に所定の期間負のパルス電圧を印加し、第2期間に第1期間より長い期間、第2期間のパルス電圧より小さい負の電圧を印加する強誘電液晶素子において、第1のフレームの第2期間の印加電圧の値を変えることで、透過光強度を調整し、高いコントラスト比を実現する強誘電液晶素子が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面により本発明の実施の形態を詳述する。
[実施形態の全体構成の説明:
図1]
本発明の液晶装置の全体の構成の概略を
図1を用いて説明する。
図1において、符号1は本発明の液晶装置である。液晶装置1は、強誘電性液晶パネル10、駆動回路20、波形生成回路30、制御回路40、メモリ回路50、温度センサ60、入力回路70などによって構成される。
【0022】
強誘電性液晶パネル10は、前述の
図10で示した液晶パネル100と同様な構成と動作を有するものであり、詳細な説明は省略する。駆動回路20は駆動電圧VDを出力して強誘電性液晶パネル10に供給する。波形生成回路30は、波形信号P5を出力して駆動回路20に供給する。制御回路40は、入力回路70からの入力信号P1と、温度センサ60からの温度信号P2と、メモリ回路50からのメモリ信号P3を入出力して、制御信号P4を波形生成回路30に供給する。
入力回路70は、外部装置(図示せず)からの表示情報や制御情報を入力して、入力信号P1を制御回路40に供給する。メモリ回路50は不揮発性メモリで構成され、詳細は後述するが駆動電圧の電圧値を決定するテーブル等を記憶する。温度センサ60は半導体センサなどで構成され、周囲の温度を測定して温度信号P2を出力する。ここで、駆動回路20、波形生成回路30、制御回路40、メモリ回路50、入力回路70等は、ワンチップのマイクロコンピュータで構成しても良いし、個別のカスタムIC等で構成しても良い。
[波形生成回路の構成説明:
図2]
次に、液晶装置1の構成要素のひとつである波形生成回路30の内部構成の概略を
図2を用いて説明する。
図2において、波形生成回路30は、2つのデジタルアナログ変換回路31a、31b(以下、D/A回路31a、31bと略す)、基準電源32、タイミング生成回路33、2つの反転回路34a、34b、切換回路35などによって構成される。
【0023】
D/A回路31aは、制御信号P4の一部であるデジタル情報の電圧制御信号P4aを入力し、基準電源32からの所定の基準電圧VRに基づいてデジタルアナログ変換を行い、アナログ値に変換した正の電圧V1を出力する。この電圧V1は後述する駆動電圧VDの正の第1電圧V1となる。また、反転回路34aは、電圧V1を入力して電圧極性を反転し、負の電圧V3を出力する。この電圧V3は前述した駆動電圧VDの負の第1電圧V3となる。
【0024】
同様に、D/A回路31bは、制御信号P4の一部であるデジタル情報の電圧制御信号P4bを入力し、基準電源32からの所定の基準電圧VRに基づいてデジタルアナログ変換を行い、正の電圧V2を出力する。この電圧V2は後述する駆動電圧VDの正の第2電圧V2となる。また、反転回路34bは、電圧V2を入力して電圧極性を反転し、負の電圧V4を出力する。この電圧V4は後述する駆動電圧の負の第2電圧V4となる。
【0025】
タイミング生成回路33は、制御信号P4の一部であるデジタル情報のタイミング制御信号P4cを入力し、このタイミング制御信号P4cに基づいたタイミング信号P44を出力する。このタイミング信号P44は、後述する駆動電圧VDの各期間の長さを決定する信号となる。
【0026】
切換回路35は、電圧V1〜V4とタイミング信号P44を入力し、タイミング信号P44に応じて電圧V1〜V4を切り換え、駆動電圧VDの電圧波形の元となる波形信号P5を出力し、前述した駆動回路20に供給する。そして、駆動回路20は、この波形信号P5を入力し、強誘電性液晶パネル10を駆動する低インピーダンス出力の駆動電圧VDを出力する(
図1参照)。
[強誘電性液晶パネルの温度特性と電圧特性の説明:
図3A、
図3B、
図4A、
図4B]
次に、本発明の液晶装置で用いられる強誘電性液晶パネル10の応答速度Sとスイッチング角θの温度特性と電圧特性の一例を
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bを用いて説明する。
図3Aは、強誘電性液晶パネル10の複屈折率異方性(Δn)が0.247である場合における各特性を示している。
図3Bは、強誘電性液晶パネル10の複屈折率異方性が0.159である場合における各特性を示している。なお、複屈折率異方性が小さな(たとえば0.159)液晶材料を用いることによりセルギャップを大きくすることができ、歩留まりの向上を図ることができる。
図3Aの表1−1および
図3Bの表1−2は、温度が30℃から80℃の環境において、強誘電性液晶パネル10に矩形波の駆動電圧を±0.5V〜±5Vの範囲で印加し、10℃ステップで測定した応答速度S(単位:μsec(μS))の一例を示している。なお、60℃〜80℃は20℃ステップである。また、表1−1および表1−2で空白の箇所は未測定である。
また、
図3Aの表2−1および
図3Bの表2−2は、温度が30℃から80℃の環境において、強誘電性液晶パネル10に矩形波の駆動電圧を±0.5V〜±5Vの範囲で印加し、10℃ステップで測定したスイッチング角θ(単位:度)の一例を示している。なお、60℃〜80℃は20℃ステップである。
次に
図4A(a−1)は、
図3Aの表1−1の応答速度Sの温度特性と電圧特性を分かりやすくするために、駆動電圧1.5V、2V、3V、4Vでの応答速度Sを抽出して作成したグラフであり、横軸が温度T(℃)、縦軸が応答速度S(μsec)である。
図4B(a−2)は、
図3Bの表1−2の応答速度Sの温度特性と電圧特性を分かりやすくするために、駆動電圧1.3V、1.5V、2V、3V、4V、5Vでの応答速度Sを抽出して作成したグラフであり、横軸が温度T(℃)、縦軸が応答速度S(μsec)である。
これらの
図4A(a−1)および
図4B(a−2)で理解できるように、応答速度Sは温度が上昇すると速くなる温度特性を有しており、また、駆動電圧が低くなると応答速度Sは遅くなる電圧特性を有している。
【0027】
また、次に
図4A(b−1)および
図4B(b−2)は、それぞれ
図3Aの表2−1および
図3Bの表2−2のスイッチング角θの温度特性と電圧特性を分かりやすくするために、駆動電圧1.5V、2V、3V、5Vでのスイッチング角θを抽出して作成したグラフであり、横軸が温度T(℃)、縦軸がスイッチング角θ(度)である。この
図4A(b−1)および
図4B(b−2)で理解できるように、スイッチング角θは温度が上昇すると小さくなる温度特性を有しており、また、駆動電圧が高くなるとスイッチング角θは大きくなる電圧特性を有している。
【0028】
また、前述したように、スイッチング角θ=45度のときが最も大きなコントラスト比となるが、このグラフで明らかなように、スイッチング角θは、駆動電圧の電圧値が高すぎても低すぎても45度から外れることが理解できる。従ってスイッチング角θは、所定の温度に対して、最適な駆動電圧が存在することになる。
[駆動電圧VDの電圧波形の説明:
図5]
次に、本実施形態の強誘電性液晶パネル10を駆動する駆動電圧VDの電圧波形の一例を
図5を用いて説明する。なお、
図5で示す駆動電圧は、後述する高温領域での駆動電圧(VD2)と区別するために駆動電圧VD1として説明する。
図5において、駆動電圧VD1は、正電圧が印加される第1フレームと、負電圧が印加される第2フレームの2つのフレームによって構成される。第1フレームは、正の第1電圧V1を印加する第1期間と、第1期間よりも長い期間、正の第2電圧V2を印加する第2期間で構成される。
また、第2フレームは、負の第1電圧V3を印加する第1期間と、第1期間よりも長い期間、負の第2電圧V4を印加する第2期間で構成される。そして、第1フレームの第1電圧V1と、第2フレームの第1電圧V3の絶対値は等しく設定され、第1フレームの第2電圧V2と、第2フレームの第2電圧V4の絶対値は等しく設定される。
【0029】
また、第1フレームの第1期間をパルス幅PW1と定義し、第1フレームの第2期間をパルス幅PW2と定義する。また、第2フレームの第1期間をパルス幅PW3と定義し、第2フレームの第2期間をパルス幅PW4と定義する。そして、それぞれのパルス幅は、PW1<PW2、PW3<PW4、PW1=PW3、PW2=PW4となるように設定される。このように、第1フレームと第2フレームの各電圧とパルス幅が設定されることによって、強誘電性液晶パネル10には直流成分が印加されず、交流化駆動となる。
【0030】
そして、駆動電圧VD1の第1フレームの第1期間の正の第1電圧V1(以下、第1電圧V1と略す)と第2フレームの第1期間の負の第1電圧V3(以下、第1電圧V3と略す)の電圧値を温度に応じて可変させ、また、第1フレームの第2期間の正の第2電圧V2(以下、第2電圧V2と略す)と第2フレームの第2期間の負の第2電圧V4(以下、第2電圧V4と略す)の電圧値を温度に応じて可変させることで、強誘電性液晶パネル10の応答速度Sとスイッチング角θの両方の特性を要求性能に沿って温度変動に対して略一定に維持することが本発明の大きな特徴である。
【0031】
具体的には、第1電圧V1と第1電圧V3を温度に応じて可変させることで、使用温度範囲において、強誘電性液晶パネル10の応答速度Sが要求性能を満たして安定するように制御する。また、第2電圧V2と第2電圧V4を温度に応じて可変させることで、使用温度範囲において、強誘電性液晶パネル10のスイッチング角θが要求性能を満たして安定するように制御する。この駆動電圧VD1の第1電圧V1、V3、第2電圧V2、V4を可変する制御は、前述した制御回路40が波形生成回路30を制御することで実施される。
[駆動電圧VD1による強誘電性液晶パネルの動作説明:
図5]
次に、駆動電圧VD1による強誘電性液晶パネル10の動作を
図5を用いて説明する。ここで、本実施形態の強誘電性液晶パネル10が、前述の
図10で示した液晶パネル100と同様の特性を有すると仮定して以下説明する。なお、
図5の光透過率L1は、強誘電性液晶パネル10に駆動電圧VD1が印加されたときに、強誘電性液晶パネル10を透過する光Lt(
図10(b)参照)の光透過率の推移を示している。
図5において、強誘電性液晶パネル10に第1フレームの第1期間で第1電圧V1が印加されると、強誘電性液晶パネル10は第2の状態(液晶分子の長軸方向Fで透過状態(
図10(a)参照))となって光透過率L1は上昇する。このときの上昇カーブの傾きが強誘電性液晶の応答速度Sを決定する。そして、次の第2期間では、電圧値の低い正の第2電圧V2が印加されるが、液晶分子の長軸方向Fは維持されるので、第2の状態(透過状態)が継続して光透過率L1は高い状態が継続する。
【0032】
次に、第2フレームの第1期間では負の第1電圧V3が印加されるので、強誘電性液晶パネル10は第1の状態(液晶分子の長軸方向Eで非透過状態(
図10(a)参照))となって光透過率L1は急速に下降する。このときの下降カーブの傾きが強誘電性液晶の応答速度Sを決定する。そして、次の第2期間では、電圧値の低い負の第2電圧V4が印加されるが、液晶分子の長軸方向Eは維持されるので、第1の状態(非透過状態)が継続して光透過率L1は低い状態が継続する。
[駆動電圧VD1を可変することによる強誘電性液晶パネルの動作説明:
図6]
次に、駆動電圧VD1の各電圧値を可変すると、強誘電性液晶パネル10の動作がどのように変化するかを
図6を用いて説明する。
図6において、駆動電圧VD11は、第1電圧V11、V31と第2電圧V21、V41のいずれも、前述の駆動電圧VD1(
図5参照)よりも高い電圧値で構成されている。また、駆動電圧VD12は、第1電圧V12、V32と第2電圧V22、V42のいずれも、前述の駆動電圧VD1よりも低い電圧値で構成されている。
また、
図6の光透過率L11は、駆動電圧VD11を印加したときの強誘電性液晶パネル10の光透過率の推移の一例であり、光透過率L12は、駆動電圧VD12を印加したときの強誘電性液晶パネル10の光透過率の推移の一例である。また、光透過率L1は、前述の駆動電圧VD1(
図5参照)による強誘電性液晶パネル10の光透過率の推移の一例であり、比較のために記載した。
【0033】
ここで、駆動電圧VD11の印加による光透過率L11は、図示するように、第1期間での立ち上がりと立ち下がりの傾きが、光透過率L1の傾きより大きい。これは、駆動電圧VD11の第1電圧V11、V31が駆動電圧VD1の第1電圧V1、V3よりも高いので、
図4A(a−1)および
図4B(a−2)のグラフで示すように、強誘電性液晶の応答速度Sが速くなるからである。
【0034】
また、光透過率L11の第2期間の大きさが光透過率L1より小さいのは、駆動電圧VD11の第2電圧V21が駆動電圧VD1の第2電圧V2よりも高いので、
図4A(b−1)および
図4B(b−2)のグラフで示すように、強誘電性液晶のスイッチング角θが45度より大きすぎて光透過率が低下したからである。
【0035】
また、駆動電圧VD12の印加による光透過率L12は、図示するように、第1期間での立ち上がりと立ち下がりの傾きが、光透過率L1の傾きより小さい。これは、駆動電圧VD12の第1電圧V12、V32が駆動電圧VD1の第1電圧V1、V3よりも低いので、
図4A(a−1)および
図4B(a−2)のグラフで示すように、強誘電性液晶の応答速度Sが遅くなるからである。
【0036】
また、光透過率L12の第2期間の大きさが光透過率L1より小さいのは、駆動電圧VD12の第2電圧V22が駆動電圧VD1の第2電圧V2よりも低いので、
図4A(b−1)および
図4B(b−2)のグラフで示すように、強誘電性液晶のスイッチング角θが45度より小さすぎて光透過率が低下したからである。
【0037】
このように、駆動電圧VD1の第1フレームと第2フレームの先頭の第1期間の第1電圧V1、V3は、強誘電性液晶パネル10の応答速度Sに大きく影響するので、第1電圧V1、V3を可変することで、応答速度Sを調整することが可能である。また、駆動電圧VD1の第1フレームと第2フレームの第1期間の後の第2期間の第2電圧V2、V4は、強誘電性液晶パネル10のスイッチング角θに大きく影響するので、第2電圧V2、V4を可変することで、スイッチング角θを最適に調整して、光透過率Lを大きく(すなわち、コントラスト比を大きく)することが可能である。
【0038】
強誘電性液晶パネル10の応答速度Sとスイッチング角θは、以上のような電圧特性を有している。そして、本発明の液晶装置は、このような強誘電性液晶パネル10の電圧特性を利用し、駆動電圧VD1の第1電圧V1、V3を可変することで応答速度Sの温度特性を補正し、また駆動電圧VD1の第2電圧V2、V4を可変することでスイッチング角θの温度特性を補正するのである。
[実施形態の動作フローの説明:
図7]
次に、本発明の液晶装置の実施形態の動作フローの一例を
図7のフローチャートを用いて説明する。なお、実施形態の構成は
図1、
図2を参照する。
図7において、強誘電性液晶パネル10の応答速度Sの温度特性を取得する(ステップST1)。一例として、温度が30℃から80℃の環境において、強誘電性液晶パネル10に矩形波の駆動電圧を±0.5V〜±5Vの範囲で印加し、10℃ステップでの応答速度Sを測定する。このステップST1での測定データの一例が前述の
図3A、
図3Bで示した応答速度Sの温度特性(表1−1、表1−2)である。なお、60℃〜80℃は20℃ステップである。
次に
図7のフローチャートにおいて、強誘電性液晶パネル10のスイッチング角θの温度特性を取得する(ステップST2)。一例として、温度が30℃から80℃の環境において、強誘電性液晶パネル10に矩形波の駆動電圧を±0.5V〜±5Vの範囲で印加し、10℃ステップでのスイッチング角θを測定する。このステップST2での測定データの一例が前述の
図3A、
図3Bで示したスイッチング角θの温度特性(表2−1、表2−2)である。なお、60℃〜80℃は20℃ステップである。
なお、この強誘電性液晶パネル10の温度特性の取得(ST1とST2)は、本実施例においては、液晶装置1の内部で実施するのではなく、図示しないが、強誘電性液晶パネル10を外部の測定装置に接続して取得するとよい。
次に
図7のフローチャートにおいて、液晶装置1の制御回路40は、外部の測定装置(図示せず)で取得した強誘電性液晶パネル10の応答速度Sの温度特性(
図3Aの表1−1または
図3Bの表1−2)とスイッチング角θの温度特性(
図3Aの表2−1または
図3Bの表2−2)の測定データを入力回路70を介して読み込み、メモリ回路50に記憶する(ステップST3)。
次に液晶装置1の制御回路40は、記憶した応答速度Sとスイッチング角θの温度特性のデータから、使用温度範囲において要求される応答速度Sとスイッチング角θを得るための駆動電圧の第1電圧V1、V3と第2電圧V2、V4のテーブルを演算によって生成し、メモリ回路50に記憶する(ステップST4)。ここで、テーブル生成の詳細説明は後述する。
【0039】
次に液晶装置1の制御回路40は、要求される応答速度Sから、第1期間のパルス幅PW1と第2期間のパルス幅PW2を決定する(ステップST5)。ここで、第1期間のパルス幅PW1と第2期間のパルス幅PW2の決定の詳細は後述する。
【0040】
次に液晶装置1の制御回路40は、温度センサ60(
図1参照)から温度信号P2を入力し、液晶装置1が置かれている環境の温度を測定して、メモリ回路50に記憶する(ステップST6)。
【0041】
次に液晶装置1の制御回路40は、ステップST4で生成したテーブルから、第1電圧V1と第2電圧V2の電圧値がクロスする温度をクロス温度Tcpとして記憶し、そのクロス温度Tcpに対して、ステップST6で得た測定温度以上か否かを判定する(ST7)。ここで、否定判定(Tcp未満)であれば、ステップST8へ進み、肯定判定(Tcp以上)であればステップST10へ進む。
【0042】
次に液晶装置1の制御回路40は、ステップST7で否定判定がなされたならば、テーブルから第1電圧V1を決定する(ステップST8)。次に液晶装置1の制御回路40は、テーブルから第2電圧V2を決定し、ステップST11へ進む(ステップST9)。ここで、クロス温度Tcpの判定(ST7)と第1電圧V1および第2電圧V2の決定(ST8、ST9)の詳細説明は後述する。
【0043】
また、液晶装置1の制御回路40は、ステップST7で肯定判定がなされたならば、テーブルから第2電圧V2を決定し、さらに、第1電圧V1=第2電圧V2として、ステップST11へ進む(ステップST10)。ここで、第2電圧V2の決定(ST10)の詳細説明は後述する。
【0044】
次に液晶装置1の制御回路40は、決定された駆動電圧VDの各パラメータであるPW1、PW2、V1、V2のデジタル情報を制御信号P4として出力し、波形生成回路30は、制御信号P4を入力して内部で駆動電圧VDの電圧波形を生成し、波形信号P5として駆動回路20に出力する。駆動回路20は波形信号P5を入力し、低インピーダンスの駆動電圧VDに変換して出力し、強誘電性液晶パネル10を駆動する(ステップST11:
図1参照)。
ここで、第1電圧V1は前述した波形生成回路30のD/A回路31aが生成し、第2電圧V2は波形生成回路30のD/A回路31bが生成する。また、負の電圧である第1電圧V3と第2電圧V4は、前述した波形生成回路30の反転回路34a、34bによってそれぞれ生成される。また、パルス幅PW1、PW2、および、PW3、PW4は、波形生成回路30のタイミング生成回路33によって生成される(
図2参照)。
【0045】
以降の制御は、ステップST11からステップST6へ戻り、ステップST6からステップST11を繰り返して実行し、温度センサ60が測定した温度変化に応じてV1、V2、V3、V4を可変させることで、要求性能を満たした応答速度Sとスイッチング角θを温度に対して安定して維持することができる。
[テーブル生成の詳細説明:
図8A、
図8B]
次に、前述のフローチャート(
図7参照)のステップST4における第1電圧V1、第2電圧V2のテーブル生成の詳細を主に
図8A、
図8Bを用いて説明する。
図8Aは、強誘電性液晶パネル10の複屈折率異方性が0.247である材料の場合(
図3A、
図4Aに対応)における駆動電圧の第1電圧と第2電圧のテーブルを示している。
図8Bは、強誘電性液晶パネル10の複屈折率異方性が0.159である材料の場合(
図3B、
図4Bに対応)における駆動電圧の第1電圧と第2電圧のテーブルを示している。
以下、主に強誘電性液晶パネル10の複屈折率異方性が0.247である材料の場合(
図3A、
図4A、
図8Aに対応)について説明するが、強誘電性液晶パネル10の複屈折率異方性が0.159である材料の場合(
図3B、
図4B、
図8Bに対応)についても同様である。
まず、液晶装置1の制御回路40は、メモリ回路50に記憶している応答速度Sの温度特性と電圧特性(
図3A:表1−1)から必要なデータを抽出する。たとえば、液晶装置1の使用温度範囲が30℃〜60℃であり、応答速度Sの要求値が120μsecであると仮定した場合、30℃〜60℃の温度範囲で、応答速度Sが120μsecを中心とした駆動電圧1.5V〜4Vのデータを抽出し記憶する。この抽出した応答速度Sのデータが前述した
図4A(a−1)のグラフに相当する。
次に制御回路40は、抽出した応答速度Sのデータ(
図4A(a−1))から、温度30℃〜60℃の各温度ステップにおいて応答速度Sが要求値の120μsec(
図4A(a−1)の一点鎖線で示す)になる電圧を算出し、これを第1電圧V1として
図8A(a−1)に示すテーブルT1として記憶する。なお、要求値の応答速度S=120μsecは、一例であって限定されない。
【0046】
次に制御回路40は、メモリ回路50に記憶しているスイッチング角θの温度特性と電圧特性(
図3A:表2−1)から必要なデータを抽出する。たとえば、液晶装置1の使用温度範囲が30℃〜60℃であり、スイッチング角θの要求値が45度であると仮定した場合、30℃〜60℃の温度範囲で、スイッチング角θが45度を中心とした駆動電圧1.5V〜5Vのデータを抽出し記憶する。この抽出したスイッチング角θのデータが前述した
図4A(b−1)のグラフに相当する。
次に制御回路40は、抽出したスイッチング角θのデータ(
図4A(b−1))から、温度30℃〜60℃の各温度ステップにおいてスイッチング角θが要求値の45度(
図4A(b−1)の一点鎖線で示す)になる電圧を算出し、これを第2電圧V2として
図8A(a−1)に示すテーブルT1として記憶する。
【0047】
次に、制御回路40は、テーブルT1の温度ステップが10℃と粗いので、その間の温度に対する第1電圧V1、第2電圧V2を任意のステップで演算によって補完し、テーブルT2を生成する。ここで、一例として、補完を35℃、45℃、55℃で行い、温度範囲30℃〜60℃において5℃ごとの温度ステップのテーブルT2を生成した(
図8A(b−1))。なお、
図8A(b−1)は、テーブルT2を分かりやすく説明するためにグラフ化して示している。
ここで、
図8A(b−1)のテーブルT2の第1電圧V1は、応答速度Sを120μsecに保つための電圧値であり、温度が上昇すると第1電圧V1を低くする必要がある。また、テーブルT2の第2電圧V2は、スイッチング角θを45度に保つための電圧値であり、温度が上昇すると第2電圧V2を高くする必要がある。そして、温度が50℃付近で、第1電圧V1と第2電圧V2は等しくなってクロスし、そのクロスポイントを超える温度では、第1電圧V1と第2電圧V2の大きさが反転する。ここで、第1電圧V1と第2電圧V2がクロスする温度をクロス温度Tcpと定義する。このクロス温度Tcpは、前述したフローチャートのステップST7(
図7参照)での判定に用いられる。
【0048】
なお、さらに温度に対する精度の高い制御を行う場合には、テーブルT2の温度ステップを細かくするとよいが、この場合、
図3Aの表1−1、表2−1で示した測定データをさらに細かい温度ステップで測定し、テーブルT2の温度ステップに反映させてもよいし、また、表1−1、表2−1の測定データの温度ステップは変えずに、補完するポイントを増やしてテーブルT2の温度ステップを細かくしてもよい。また、テーブルは、液晶装置1の内部で生成するのではなく、図示しないが外部装置で生成し、液晶装置1がそのテーブルを読み込む構成でもよい。
[PW1、PW2決定の説明]
次に、前述のフローチャート(
図7参照)のステップST5による第1期間のパルス幅PW1と第2期間のパルス幅PW2の決定を説明する。ここで、パルス幅PW1は、強誘電性液晶パネル10に要求される応答速度Sに応じて設定されることが好ましく、パルス幅PW1は、応答速度Sに等しいか、応答速度S+αとする。ここで、+αは最大で応答速度Sの0.5倍程度がよく、従って、第1期間のパルス幅PW1は、要求される応答速度Sが120μsecである場合、120〜180μsecの範囲が好ましい。なお、強誘電性液晶パネル10の応答速度Sは、光透過率L(
図5参照)が0%から上昇して90%に到達した時間と定義するとよい。
また、第2期間のパルス幅PW2は、第1フレームの期間−PW1で決定される。そして、前述したように、PW1=PW3、PW2=PW4となるように設定されるので、パルス幅PW1、PW2が決定されれば、自動的にパルス幅PW3、PW4も決定される。
ここで、一例として、第1フレームの期間を10msec、第1期間のパルス幅PW1=140μsecと仮定すると、第2期間のパルス幅PW2は、10msec−140μsec=9.86msecとなる。このように、パルス幅PW1〜PW4は、フレーム期間と強誘電性液晶パネル10に要求される応答速度Sによって決定される。
[クロス温度Tcp未満のV1、V2の決定の説明:
図7、
図8A]
次に、前述のフローチャート(
図7参照)のステップST7において、測定温度がクロ
ス温度Tcp未満である場合に実行されるステップST8、ST9による第1電圧V1と第2電圧V2の決定の詳細を説明する。
ここで、一例として、測定温度が37℃である場合は、フローチャートのステップST7で、測定温度はクロス温度Tcp未満と判定されて制御はステップST8へ進む。そして、ステップST8において制御回路40は、測定温度からテーブルT2を参照して第1電圧V1を決定するが、測定温度がテーブルT2の温度ステップの間にある場合、第1電圧V1は測定温度より低い側の温度ステップの第1電圧V1の電圧値を採用するとよい。
具体的には、制御回路40は、テーブルT2を参照して35℃の温度ステップと40℃の温度ステップの間に測定温度37℃があると判断し(
図8A(b−1)の白丸S1)、低い側の温度ステップである35℃における第1電圧V1の値、すなわち、第1電圧V1=2.9Vを採用する。これは、低い側の温度ステップの第1電圧V1を採用すると、第1電圧V1は高めに選択されて応答速度Sは要求値よりも速い速度に設定されるが、応答速度Sが要求値より速い分には問題がないからである。なお、第2フレームの第1電圧V3は−2.9Vとなる。
【0049】
また、他の例として測定温度が40℃である場合は、フローチャートのステップST7で、測定温度はクロス温度Tcp未満と判定されて制御はステップST8へ進む。そして、ステップST8において制御回路40は、テーブルT2を参照して測定温度の40℃が温度ステップ40℃と一致していると判断して、その温度ステップ40℃に対応する第1電圧V1=2.4Vを採用する(
図8A(b−1)参照)。なお、第2フレームの第1電圧V3は−2.4Vとなる。
【0050】
このように、ステップST8において、応答速度Sを決定する第1電圧V1は、測定温度がテーブルT2の温度ステップの間にある場合は、測定温度より低い側の温度ステップに対応する第1電圧V1の電圧値を採用し、測定温度がテーブルT2の温度ステップと一致する場合は、その温度ステップに対応する第1電圧V1の電圧値を採用する。
【0051】
また、次のステップST9において、スイッチング角θを決定する第2電圧V2に対して制御回路40は、測定温度がテーブルT2の温度ステップの間にある場合、その測定温度に対応した第2電圧V2を補完して算出し、第2電圧V2を決定するとよい。
具体的には、測定温度が37℃である場合、制御回路40は、テーブルT2を参照して35℃の温度ステップと40℃の温度ステップの間に測定温度37℃があると判断し(
図8A(b−1)の白丸S2)、この間の第2電圧V2を測定温度に対応して演算によって補完し、この場合、第2電圧V2=1.8Vを採用する。これは、スイッチング角θは要求される角度(すなわち、45度)にできる限り近いことが望まれるので、測定温度のわずかな変化を第2電圧V2に反映させたいからである。なお、第2フレームの第2電圧V4は、−1.8Vとなる。
【0052】
また、測定温度がテーブルT2の温度ステップのいずれかと一致している場合は、当然であるが補完の必要はなく、その温度ステップに対応する第2電圧V2の電圧値を採用するとよい。
[クロス温度Tcp以上のV1、V2の決定の説明:
図7、
図8A]
次に、前述のフローチャート(
図7参照)のステップST7において、測定温度がクロス温度Tcp以上である場合に実行されるステップST10による第1電圧V1、第2電圧V2の決定の詳細を説明する。ここで、測定温度がクロス温度Tcp以上である場合は、テーブルT2を参照してスイッチング角θを決定する第2電圧V2を決定し、応答速度Sを決定する第1電圧V1は、第2電圧V2と等しい電圧値とするとよい。
【0053】
ここで一例として、測定温度が55℃である場合、フローチャートのステップST7で、測定温度はクロス温度Tcp以上と判定されて制御はステップST10へ進む。そして、ステップST10において制御回路40は、テーブルT2を参照して測定温度の55℃がテーブルT2の温度ステップ55℃に一致していると判断して、その温度ステップ55℃に対応する第2電圧V2=2.25Vを採用する(
図8A(b−1)参照)。そして、第1電圧V1は、第2電圧V2と等しく設定されるので第1電圧V1=2.25Vとなる。なお、第2フレームの第1電圧V3=第2電圧V4=−2.25Vとなる。
また、測定温度がテーブルT2の温度ステップの間にある場合は、測定温度がクロス温度Tcp未満である場合と同様に、制御回路40は、第2電圧V2を測定温度に対応して演算によって補完して決定し、第1電圧V1は第2電圧V2に等しくする。
[測定温度がクロス温度Tcp以上の場合の駆動電圧VD2の説明:
図9]
次に、測定温度がクロス温度Tcp以上の場合の駆動電圧VD2の電圧波形の一例を
図9を用いて説明する。
図9において、駆動電圧VD2は、第1電圧V1=第2電圧V2、第1電圧V3=第2電圧V4となって、0Vを中心とした矩形波となる。
【0054】
ここで、測定温度がクロス温度Tcp以上の場合に、第1電圧V1=第2電圧V2、第1電圧V3=第2電圧V4とする理由は、テーブルT2(
図8A(b−1)参照)に従って、クロス温度Tcpを超えた温度領域で、第1電圧V1、V3を第2電圧V2、V4より低く設定すると、応答速度Sは要求される速度を維持するが、多くの場合、強誘電性液晶パネルの応答速度Sは、要求値より速くなることは問題にならない。
従って、クロス温度Tcpを超えた温度領域で、第1電圧V1、V3を第2電圧V2、V4に等しくし、温度上昇に伴って、第1電圧V1、V3が第2電圧V2、V4と共に高くなっても問題は生じないのである。また、第1電圧V1、V3を第2電圧V2、V4に等しくすることで、波形生成回路30の制御の一部を簡単化できるメリットがある。
[駆動電圧VD2による強誘電性液晶パネル10の動作説明:
図9]
次に、駆動電圧VD2による強誘電性液晶パネル10の動作を
図9を用いて説明する。
ここで、駆動電圧VD2による強誘電性液晶パネル10の動作(光透過率L2)は、前述した駆動電圧VD1による動作と同様である。すなわち、
図9に示すように、強誘電性液晶パネル10は駆動電圧VD2の第1フレームの第1期間で正の第1電圧V1が印加されると、第2の状態(液晶分子の長軸方向Fで透過状態(
図10(a)参照))となって光透過率L2は上昇する。
このときの上昇カーブの傾きが強誘電性液晶の応答速度Sを決定する。そして、第1期間の後の第2期間においても同じ電圧値の正の第2電圧V2が印加されて液晶分子の長軸方向Fは維持されるので、第2の状態(透過状態)が継続して光透過率L2は高い状態が継続する。
【0055】
次に、第2フレームの第1期間になると、負の第1電圧V3が印加されるので、第1の状態(液晶分子の長軸方向Eで非透過状態(
図10(a)参照))となって光透過率L2は急速に下降する。このときの下降カーブの傾きが強誘電性液晶の応答速度Sを決定する。そして、第1期間の後の第2期間においても同じ電圧値の負の第2電圧V4が印加されて液晶分子の長軸方向Eは維持されるので、第1の状態(非透過状態)が継続して光透過率L2は低い状態が継続する。
【0056】
このように、前述したクロス温度Tcpより低い温度領域での駆動電圧VD1による動作(
図5参照)においても、クロス温度Tcpより高い温度領域での駆動電圧VD2による動作(
図9参照)においても、強誘電性液晶パネル10の動作(光透過率L1とL2の推移)は、ほぼ同じである。これは、本発明の液晶装置が強誘電性液晶パネル10の温度依存性を駆動電圧によって補正し、温度変動の影響を防いで安定した応答速度Sとスイッチング角θを得ているからである。
なお、クロス温度Tcpを超えた温度領域においても、応答速度Sを要求される速度に保つ場合は、図示しないが、
図7のフローチャートに示すステップST7の判定を削除し、常にステップST8,ST9を実行してテーブルT2を参照し、第1電圧V1、第2電圧V2を決定する制御を行うとよい。この場合、テーブルT2(
図8A(b−1)参照)に示すように、測定温度がクロス温度Tcpを超えた領域では、第1電圧V1、V3が第2電圧V2、V4より低い電圧値となる。
ここで、クロス温度Tcpを超えた温度領域において、応答速度Sを要求される速度に保つように、すなわち、必要以上に応答速度Sを速くしないように、テーブルT2に従って第1電圧V1、V3を低い電圧に設定すると、高温領域での強誘電性液晶の配向変形の発生を低下させる効果が期待できる。
以上のように、本発明の液晶装置は、温度に応じて駆動電圧の第1電圧V1、V3と第2電圧V2、V4をそれぞれ可変させて強誘電性液晶パネルの温度依存性を補正するので、温度変動に対して要求性能を満たし、高速な応答速度と最適なスイッチング角を有する強誘電性液晶パネルを備えた液晶装置を提供することができる。また、要求される応答速度とスイッチング角に合わせて駆動電圧を調整することで、強誘電性液晶パネルに必要以上の高電圧を印加せずに済むので、強誘電性液晶の配向変形の発生を防ぎ、高精度高品質の液晶装置を提供できる。
なお、本発明の実施形態で示したブロック図やフローチャート等は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を満たすものであれば、任意に変更してよい。