(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1無機酸化物層および前記第2無機酸化物層のうち、少なくとも一方が、酸化インジウムを含有することを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の光透過性フィルム。
前記第2無機酸化物層の厚みT2の、前記第1無機酸化物層の厚みT1に対する比(T2/T1)が、0.5以上、1.5以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光透過性フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向、第1方向)であって、紙面上側が、上側(厚み方向一方側、第1方向一方側)、紙面下側が、下側(厚み方向他方側、第1方向他方側)である。
図1において、紙面左右方向は、左右方向(幅方向、第1方向に直交する第2方向)であり、紙面左側が左側(第2方向一方側)、紙面右側が右側(第2方向他方側)である。
図1において、紙厚方向は、前後方向(第1方向および第2方向に直交する第3方向)であり、紙面手前側が前側(第3方向一方側)、紙面奥側が後側(第3方向他方側)である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0018】
1. 光透過性フィルム
光透過性フィルム1は、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む)をなし、厚み方向と直交する所定方向(前後方向および左右方向、すなわち、面方向)に延び、平坦な上面および平坦な下面(2つの主面)を有する。光透過性フィルム1は、例えば、光学装置(例えば、画像表示装置、調光装置)に備えられるタッチパネル用基材や調光パネルなどの一部品であり、つまり、光学装置ではない。すなわち、光透過性フィルム1は、光学装置などを作製するための部品であり、LCDモジュールなどの画像表示素子や、LEDなどの光源を含まず、部品単独で流通し、産業上利用可能なデバイスである。また、光透過性フィルム1は、透明導電性フィルムを含む。
【0019】
具体的には、
図1に示すように、光透過性フィルム1は、順に、透明基材2と、保護層3と、光透過性無機層4とを備える光透過性積層フィルムである。つまり、光透過性フィルム1は、透明基材2と、透明基材2の上側に配置される保護層3と、保護層3の上側に配置される光透過性無機層4とを備える。また、好ましくは、光透過性フィルム1は、透明基材2と、保護層3と、光透過性無機層4とのみからなる。以下、各層について詳述する。
【0020】
2. 透明基材
透明基材2は、光透過性フィルム1の最下層であって、光透過性フィルム1の機械強度を確保する支持材である。透明基材2は、光透過性無機層4を、保護層3とともに、支持する。
【0021】
透明基材2は、高分子フィルムからなる。
【0022】
高分子フィルムは、透明性を有する。高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマーなどのオレフィン樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ノルボルネン樹脂などが挙げられる。これら高分子フィルムは、単独使用または2種以上併用することができる。透明性、耐熱性、機械特性などの観点から、好ましくは、オレフィン樹脂やポリエステル樹脂が挙げられ、より好ましくは、シクロオレフィンポリマーやPETが挙げられる。
【0023】
透明基材2の厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下、より好ましくは、150μm以下である。
【0024】
また、透明基材2は、好ましくは、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の非晶を保持する観点から、水を含有している。つまり、透明基材2では、高分子フィルムが水を含有している。
【0025】
3. 保護層
保護層3は、光透過性無機層4の上面に擦り傷を生じにくくする(すなわち、優れた耐擦傷性を得る)ための、擦傷保護層である。また、保護層3は、
図2が参照されるように、光透過性無機層4を後の工程で配線パターンに形成した後に、非パターン部9とパターン部10との相違が認識されないように(すなわち、配線パターンの視認を抑制するように)、光透過性フィルム1の光学物性を調整する光学調整層でもある。
【0026】
保護層3は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、透明基材2の上面全面に、透明基材2の上面に接触するように、配置されている。
【0027】
保護層3は、樹脂組成物から調製されている。
【0028】
樹脂組成物は、例えば、樹脂と、粒子とを含有する。樹脂組成物は、好ましくは、樹脂のみを含有し、より好ましくは、樹脂のみからなる。
【0029】
樹脂としては、硬化性樹脂、熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン樹脂)などが挙げられ、好ましくは、硬化性樹脂が挙げられる。
【0030】
硬化性樹脂としては、例えば、活性エネルギー線(具体的には、紫外線、電子線など)の照射により硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂、例えば、加熱により硬化する熱硬化性樹脂などが挙げられ、好ましくは、活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられる。
【0031】
活性エネルギー線硬化性樹脂は、例えば、分子中に重合性炭素−炭素二重結合を有する官能基を有するポリマーが挙げられる。そのような官能基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基(メタクリロイル基および/またはアクリロイル基)などが挙げられる。
【0032】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、側鎖に官能基を含有する(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)などが挙げられる。
【0033】
これら樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0034】
粒子としては、例えば、無機粒子、有機粒子などが挙げられる。無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどからなる金属酸化物粒子、例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸塩粒子などが挙げられる。有機粒子としては、例えば、架橋アクリル樹脂粒子などが挙げられる。
【0035】
保護層3の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、1μm以上であり、また、例えば、10μm以下、好ましくは、5μm以下である。保護層3の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により測定される。
【0036】
4. 光透過性無機層
光透過性無機層4は、
図2が参照されるように、後の工程で配線パターンに形成して、パターン部10を形成するための導電層である。また、光透過性無機層4は、透明導電層を含んでいる。
【0037】
図1に示すように、光透過性無機層4は、光透過性フィルム1の最上層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、保護層3の上面全面に、保護層3の上面に接触するように、配置されている。
【0038】
光透過性無機層4は、順に、第1無機酸化物層5と、金属層6と、第2無機酸化物層7とを備える。つまり、光透過性無機層4は、保護層3の上に配置される第1無機酸化物層5と、第1無機酸化物層5の上に配置される金属層6と、金属層6の上に配置される第2無機酸化物層7とを備えている。また、光透過性無機層4は、好ましくは、第1無機酸化物層5と、金属層6と、第2無機酸化物層7とのみからなる。
【0039】
5. 第1無機酸化物層
第1無機酸化物層5は、後述する金属層6および第2無機酸化物層7とともに、光透過性無機層4に導電性を付与する導電層である。また、第1無機酸化物層5は、透明基材2に含有される水に由来する水素や、保護層3に含有される有機物に由来する炭素が、金属層6に侵出することを防止するバリヤ層でもある。さらに、第1無機酸化物層5は、後述する第2無機酸化物層7とともに、金属層6の可視光反射率を抑制し、光透過性無機層4の可視光透過率を向上させるための光学調整層でもある。
【0040】
第1無機酸化物層5は、光透過性無機層4における最下層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、保護層3の上面全面に、保護層3の上面に接触するように、配置されている。
【0041】
第1無機酸化物層5は、後述するエッチング液に対して溶解できる無機酸化物を主成分として含有する。
【0042】
無機酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属から形成される金属酸化物などが挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子をドープすることができる。
【0043】
無機酸化物としては、好ましくは、比抵抗を低下させる観点、および、優れた透明性を確保する観点から、酸化インジウム含有酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。
【0044】
ITOに含有される酸化スズ(SnO
2)の含有量は、酸化スズおよび酸化インジウム(In
2O
3)の合計量に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、6質量%以上、さらに好ましくは、8質量%以上、特に好ましくは、10質量%以上、最も好ましくは、10質量%超であり、また、例えば、35質量%以下、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、15質量%以下、さらに好ましくは、13質量%以下である。酸化インジウムの含有量(In
2O
3)は、酸化スズ(SnO
2)の含有量の残部である。ITOに含有される酸化スズ(SnO
2)の含有量を、好適な範囲とすることで、ITO膜の経時での膜質変化を抑制しやすい。
【0045】
無機酸化物は、結晶質および非晶質のいずれであってもよい。無機酸化物は、
図2が参照されるように、後の工程においてパターンニングを容易に実施する観点から、好ましくは、非晶質である。
【0046】
本願では、25,000倍での平面TEM画像において、結晶粒が占める面積割合が50%以下(好ましくは、0%以上30%以下)である場合に、非晶質であるとし、50%超過(好ましくは、80%以上)である場合に、結晶質であるとする。
【0047】
無機酸化物の第1無機酸化物層5における含有割合は、例えば、95質量%以上、好ましくは、98質量%以上、より好ましくは、99質量%以上であり、また、例えば、100質量%未満である。
【0048】
また、第1無機酸化物層5は、水素原子を含有する。水素原子は、例えば、第1無機酸化物層5に主成分として含有される無機酸化物に由来せず、透明基材2の高分子フィルムが含有する水(H
2O)や乾式の装置(具体的には、スパッタリング装置などの真空装置)内に吸着している水(H
2O)(後の製造方法で詳述する)に由来する。
【0049】
第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1は、例えば、5×10
19atoms/cm
3以上、好ましくは、10×10
19atoms/cm
3以上、より好ましくは、50×10
19atoms/cm
3以上、さらに好ましくは、100×10
19atoms/cm
3以上であり、また、例えば、8,000×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは、4000×10
19atoms/cm
3以下、より好ましくは、800×10
19atoms/cm
3以下である。
【0050】
第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1が上記した上限以下であれば、第1無機酸化物層5の湿熱環境下における膜質の劣化を防止することができる。
【0051】
一方、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1が上記した下限以上であれば、第1無機酸化物層5の経時での結晶化を抑制することができ、良好なエッチング性を維持できる。
【0052】
さらに、第1無機酸化物層5は、炭素原子を含有する。炭素原子は、例えば、上記した無機酸化物に由来せず、上記した保護層3に含有される有機物に由来する。
【0053】
第1無機酸化物層5における炭素原子の含有量C1は、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1と炭素原子の含有量C1との合計含有量(H1+C1)が、例えば、6×10
19atoms/cm
3以上、好ましくは、10×10
19atoms/cm
3以上、より好ましくは、20×10
19atoms/cm
3以上、さらに好ましくは、100×10
19atoms/cm
3以上、また、例えば、10,000×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは、5000×10
19atoms/cm
3以下、より好ましくは、1000×10
19atoms/cm
3以下となるように、調整される。
【0054】
合計含有量H1+C1が上記した上限以下であれば、湿熱耐久性に優れる第1無機酸化物層を得ることができる。
【0055】
一方、合計含有量H1+C1が上記した下限以上であれば、第1無機酸化物層5のエッチング性を向上させることができる。
【0056】
具体的には、第1無機酸化物層5における炭素原子の含有量C1は、例えば、1×10
19atoms/cm
3以上、好ましくは3×10
19atoms/cm
3以上、より好ましくは、10×10
19atoms/cm
3以上であり、また、例えば、100×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは、50×10
19atoms/cm
3以下、より好ましくは、30×10
19atoms/cm
3以下である。第1無機酸化物層5における炭素原子の含有量C1は、第1無機酸化物層5における厚み方向中央部に対する二次イオン質量分析法により、測定される。
【0057】
第1無機酸化物層5の厚みT1は、例えば、5nm以上、好ましくは、20nm以上、より好ましくは、30nm以上であり、また、例えば、60nm以下、好ましくは、50nm以下である。第1無機酸化物層5の厚みT1が上記範囲であれば、光透過性無機層4の可視光透過率を高い水準に調整しやすい。第1無機酸化物層5の厚みT1は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により測定される。
【0058】
6. 金属層
金属層6は、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7とともに、光透過性無機層4に導電性を付与する導電層である。また、金属層6は、光透過性無機層4の比抵抗を低減する低比抵抗化層でもある。
【0059】
金属層6は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、第1無機酸化物層5の上面に、第1無機酸化物層5の上面に接触するように、配置されている。
【0060】
金属層6を形成する金属は、例えば、比抵抗が小さい金属で、かつ、第1無機酸化物層5をエッチングするエッチング液と同一のエッチング液に対して溶解できる金属である。金属材料の限定はないが、例えば、Ti,Si,Nb,In,Zn,Sn,Au,Ag,Cu,Al,Co,Cr,Ni,Pb,Pd,Pt,Cu、Ge、Ru、Nd、Mg、Ca、Na、W,Zr,TaおよびHfからなる群から選択される1種の金属からなるか、または、2種以上の金属を含有する合金が挙げられる。
【0061】
金属として、好ましくは、銀(Ag)、銀合金が挙げられ、より好ましくは、銀合金が挙げられる。金属が、銀または銀合金であれば、光透過性無機層4の抵抗値を小さくすることができるのに加えて、近赤外線領域(波長850〜250nm)の平均反射率が特に高い光透過性無機層4が得られ、屋外で使用される画質表示装置用途にも好適に適用できる。
【0062】
銀合金は、銀を主成分として含有し、その他の金属を副成分として含有しており、具体的には、例えば、Ag−Pd合金、Ag−Pd−Cu合金、Ag−Pd−Cu−Ge合金、Ag−Cu−Au合金、Ag−Cu−Sn合金、Ag−Ru−Cu合金、Ag−Ru−Au合金、Ag−Nd合金、Ag−Mg合金、Ag−Ca合金、Ag−Na合金などが挙げられる。加湿耐久性の観点から、銀合金として、好ましくは、Cu含有Ag合金(例えば、Ag−Cu合金、Ag−Cu−Sn合金など)、Pd含有Ag(例えば、Ag−Pd合金など)合金、Cu、Pd含有Ag合金(例えば、Ag−Pd−Cu合金など)が挙げられる。
【0063】
銀合金(好ましくは、Ag−Pd合金)における銀の含有割合は、例えば、80質量%以上、好ましくは、90質量%以上、より好ましくは、95質量%以上であり、また、例えば、99.9質量%以下である。銀合金におけるその他の金属の含有割合は、上記した銀の含有割合の残部である。金属がAg−Pd合金である場合に、Ag−Pd合金におけるPdの含有割合は、具体的には、例えば、0.1質量%以上であり、また、例えば、10質量%以下、好ましくは、5質量%以下、より好ましくは、1質量%以下である。
【0064】
金属層6の厚みは、光透過性無機層4の透過率を上げる観点から、例えば、1nm以上、好ましくは、5nm以上であり、また、例えば、20nm以下、好ましくは、10nm以下である。
【0065】
7. 第2無機酸化物層
第2無機酸化物層7は、第1無機酸化物層5および金属層6とともに、光透過性無機層4に導電性を付与する導電層である。また、第2無機酸化物層7は、環境中の酸素や水分などが金属層6に侵出することを防止するバリヤ層でもあり、金属層6の可視光反射率を抑制し、光透過性無機層4の可視光透過率を向上させるための光学調整層でもある。
第2無機酸化物層7は、光透過性無機層4における最上層であって、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、金属層6の上面全面に、金属層6の上面に接触するように、配置されている。
【0066】
第2無機酸化物層7は、第1無機酸化物層5で例示した無機酸化物を含有し、具体的には、第1無機酸化物層5をエッチングするエッチングと同一のエッチング液に対して溶解できる無機酸化物であり、好ましくは、酸化インジウムを含有し、より好ましくは、ITOからなる。
【0067】
無機酸化物の第2無機酸化物層7における含有割合は、例えば、95質量%以上、好ましくは、98質量%以上、より好ましくは、99質量%以上であり、また、例えば、100質量%未満である。
【0068】
また、第2無機酸化物層7は、水素原子を含有する。水素原子は、例えば、第2無機酸化物層7に主成分として含有される無機酸化物に由来せず、透明基材2の高分子フィルムが含有する水(H
2O)や乾式の装置(具体的には、スパッタリング装置などの真空装置)内に吸着している水(H
2O)(後の製造方法で詳述する)に由来する。
【0069】
第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2は、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対する比(H2/H1)が、0.10以上、10.00以下となるように、設定される。
【0070】
一方、水素原子の比(H2/H1)が0.10未満であれば、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1が、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2に対して、過度に高い。そのため、後述する光透過性無機層4のエッチングにおいて、第1無機酸化物層5のエッチング液に対するエッチング速度R1が、第2無機酸化物層7のエッチング液に対するエッチング速度R2に対して、過度に速い。その結果、
図3に示すように、光透過性無機層4のエッチングにおいて、第1無機酸化物層5の端部にオーバーエッチング部11が形成される。
【0071】
なお、
図3に示すように、オーバーエッチング部分11は、断面略三角形状を有している。ただし、オーバーエッチング部11の形状は、
図3に示す形状に限定されない。例えば、図示しないが、オーバーエッチングされた第1無機酸化物層5の両端部の断面が、金属層6の面方向に対して垂直となる形状となっていてもよい。
【0072】
他方、比(H2/H1)が、10.00を超えれば、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2が、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対して、過度に高い。そのため、光透過性無機層4のエッチングにおいて、第2無機酸化物層7のエッチング液に対するエッチング速度R2が、第1無機酸化物層5のエッチング液に対するエッチング速度R1に対して、過度に速い。その結果、
図4に示すように、光透過性無機層4のエッチングにおいて、第2無機酸化物層7の端部にオーバーエッチング部11が形成される。
【0073】
また、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2は、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対する比(H2/H1)が、好ましくは、0.20以上、より好ましくは、0.40以上、さらに好ましくは、0.50以上、さらに好ましくは、0.75以上、また、好ましくは、5.00以下、より好ましくは、2.50以下、さらに好ましくは、1.50以下、特に好ましくは、1.25以下、最も好ましくは、1.20以下となるように、設定される。
【0074】
比(H2/H1)が上記した下限以上であれば、光透過性無機層4をエッチングするときに、第1無機酸化物層5の端部にオーバーエッチング部11が形成されることを抑制することができる。
【0075】
一方、比(H2/H1)が上記した上限以下であれば、光透過性無機層4をエッチングするときに、第2無機酸化物層7の端部にオーバーエッチング部11が形成されることを抑制することができる。
【0076】
つまり、比(H2/H1)が上記した下限以上、かつ、上記した上限以下であれば、第1無機酸化物層5のエッチング液に対するエッチング速度R1と、第2無機酸化物層7のエッチング液に対するエッチング速度R2とを近似させることができる。そのため、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7のいずれかでオーバーエッチング部11が形成されることを抑制することができる。
【0077】
第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対する比(H2/H1)は、後述する第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の製造方法において調整される。
【0078】
具体的には、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2は、例えば、5×10
19atoms/cm
3以上、好ましくは、10×10
19atoms/cm
3以上であり、好ましくは、100×10
19atoms/cm
3以上であり、また、例えば、8,000×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは、4000×10
19atoms/cm
3以下、より好ましくは、800×10
19atoms/cm
3以下、さらに好ましくは、300×10
19atoms/cm
3以下である。
【0079】
第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2が上記した上限以下であれば、第2無機酸化物層7の湿熱環境下における膜質の劣化を防止することができる。第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2が上記した下限以上であれば、第2無機酸化物層7の経時での結晶化を抑制することができ、良好なエッチング性を保持できる。
【0080】
第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2は、第2無機酸化物層7における厚み方向中央部に対する二次イオン質量分析法により、測定される。
【0081】
さらに、第2無機酸化物層7は、炭素原子を含有する。炭素原子は、例えば、上記した無機酸化物に由来せず、上記した透明基材2の高分子フィルムが含有する有機物(後の製造方法において詳述する)に由来する。
【0082】
第2無機酸化物層7における炭素原子の含有量C2は、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2と炭素原子の含有量C2との合計含有量(H2+C2)が、例えば、6×10
19atoms/cm
3以上、好ましくは、10×10
19atoms/cm
3以上、より好ましくは、20×10
19atoms/cm
3以上、さらに好ましくは、100×10
19atoms/cm
3以上であり、また、例えば、10,000×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは、5000×10
19atoms/cm
3以下、より好ましくは、1000×10
19atoms/cm
3以下となるように、調整される。
【0083】
合計含有量(H2+C2)が上記した上限以下であれば、湿熱耐久性に優れる第2無機酸化物層7を得ることができる。合計含有量(H2+C2)が上記した下限以上であれば、エッチング性に優れる第2無機酸化物層7を得ることができる。
【0084】
具体的には、第2無機酸化物層7における炭素原子の含有量C2は、例えば、1×10
19atoms/cm
3以上、好ましくは、2×10
19atoms/cm
3以上であり、より好ましくは、3×10
19atoms/cm
3以上であり、また、例えば、100×10
19atoms/cm
3以下、好ましくは、50×10
19atoms/cm
3以下、より好ましくは、30×10
19atoms/cm
3以下、さらに好ましくは、10×10
19atoms/cm
3以下である。
第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2と炭素原子の含有量C2との合計含有量(H2+C2)の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1と炭素原子の含有量C1との合計含有量(H1+C1)に対する比「(H2+C2)/(H1+C1)」は、水素原子の比(H2/H1)よりも大きい方が好ましく、{(H2+C2)/(H1+C1)}/(H2/H1)の値は、例えば、1.01以上であり、好ましくは、1.03以上であり、また、例えば、3.00以下、好ましくは、2.00以下、より好ましくは、1.50以下である。大気と接触する側に配置される第2無機酸化物層7は、第1無機酸化物層5と比して、大気中の酸素により結晶膜になりやすいが、十分な水素原子量の存在に加えて、さらに炭素原子を多く含有することで、非晶質性が維持され、エッチング性を担保しやすい傾向がある。この理由はいかなる理論にも限定されないが、炭素原子は、原子サイズが水素原子よりも大きく、無機酸化物層の結晶化を阻害しやすいためと推定される。水素原子と炭素原子の合計含有量の比(H2+C2)/(H1+C1)が、水素原子の比(H2/H1)よりも大きい場合、そうでない場合と比して、第1無機酸化物層5及び第2無機酸化物層7の水素原子量の含有量が小さい水準(例えば、10×10
19atoms/cm
3程度)であっても良好なエッチング性をより維持しやすい。他方、{(H2+C2)/(H1+C1)}/(H2/H1)の値が過剰に大きい場合(例えば、値が3.00超える場合)は、第2無機酸化物層7の膜質が劣化し、湿熱耐久性が悪化するおそれがある。
【0085】
第2無機酸化物層7の厚みT2は、第2無機酸化物層の厚みT2の、第1無機酸化物層の厚みT1に対する比(T2/T1)が、例えば、0.5以上、好ましくは、0.75以上、また、例えば、1.5以下、好ましくは、1.25以下となるように、調整される。
【0086】
比(T2/T1)が上記した下限以上であり、かつ、上記した上限以下であれば、湿熱環境下であっても金属層6の劣化を抑制することができる。
【0087】
具体的には、第2無機酸化物層7の厚みT2は、例えば、5nm以上、好ましくは、20nm以上、さらに好ましくは、30nm以上であり、また、例えば、60nm以下、好ましくは、50nm以下である。第2無機酸化物層7の厚みT2が上記範囲であれば、光透過性無機層4の可視光透過率を高い水準に調整しやすい。
【0088】
そして、光透過性無機層4の厚み、すなわち、第1無機酸化物層5、金属層6および第2無機酸化物層7の総厚みは、例えば、20nm以上、好ましくは、40nm以上、より好ましくは、60nm以上、さらに好ましくは、80nm以上であり、また、例えば、150nm以下、好ましくは、120nm以下、より好ましくは、100nm以下である。
【0089】
8. 光透過性フィルムの製造方法
次に、光透過性フィルム1を製造する方法を説明する。
【0090】
光透過性フィルム1を製造するには、例えば、透明基材2の上に、保護層3と、第1無機酸化物層5と、金属層6と、第2無機酸化物層7とを、上記した順序で配置(積層)する。
【0091】
この方法では、
図1が参照されるように、まず、透明基材2を用意する。
【0092】
用意した透明基材2(高分子フィルム)における水分量は、例えば、10μg/cm
2以上、好ましくは、15μg/cm
2以上であり、また、例えば、200μg/cm
2以下、好ましくは、170μg/cm
2以下である。水分量が上記した下限以上であれば、後で形成する第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の結晶性が経時で大きく変化することを抑制しやすい。一方、水分量が上記した上限以下であれば、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2と、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1との差が大きくなることを抑制しやすい。透明基材2における水分量は、JIS K 7251(2002年)B法−水分気化法に準じて測定される。
【0093】
また、透明基材2(高分子フィルム)に含有される水の、透明基材2に対する含有量は、例えば、0.05質量%以上、好ましくは、0.1質量%以上であり、また、例えば、1.5質量%以下、好ましくは、1.0質量%以下、より好ましくは、0.5質量%以下でもある。
【0094】
なお、上記した水の一部または全部は、後で説明する脱ガス処理において外部に放出される。
【0095】
次いで、樹脂組成物を透明基材2の上面に、例えば、湿式により、配置する。
【0096】
具体的には、まず、樹脂組成物を透明基材2の上面に塗布する。その後、樹脂組成物が活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する場合には、活性エネルギー線を照射する。
【0097】
これによって、フィルム形状の保護層3を、透明基材2の上面全面に形成する。つまり、透明基材2と、保護層3とを備える保護層付透明基材12を得る。
【0098】
保護層3に適宜の割合で有機物が含有されている。
【0099】
その後、必要により、保護層付透明基材12を脱ガス処理する。
【0100】
保護層付透明基材12を脱ガス処理するには、保護層付透明基材12を、例えば、1×10
−1Pa以下、好ましくは、1×10
−2Pa以下、また、例えば、1×10
−3Pa以下、好ましくは、5×10
−4Pa以下の減圧雰囲気下に放置する。脱ガス処理は、後で詳述する乾式の装置に備えられる排気装置(具体的には、ターボ分子ポンプなどを含む)を用いて、実施される。
【0101】
この脱ガス処理によって、透明基材2に含有される水の一部や、保護層3に含有される有機物の一部が、外部に放出される。
【0102】
次いで、光透過性無機層4を保護層3の上面に、例えば、乾式により、配置する。
【0103】
具体的には、第1無機酸化物層5、金属層6および第2無機酸化物層7のそれぞれを、順に、乾式により、配置する。
【0104】
乾式としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。好ましくは、スパッタリング法が挙げられる。具体的には、マグネトロンスパッタリング法が挙げられる。
【0105】
スパッタリング法で用いられるガスとしては、例えば、Arなどの不活性ガスが挙げられる。また、必要に応じて、酸素などの反応性ガスを併用することができる。反応性ガスを併用する場合において、反応性ガスの流量比は、特に限定されず、反応性ガスの流量の、不活性ガスの流量に対する比で、例えば、0.1/100以上、好ましくは、1/100以上であり、また、例えば、5/100以下である。
【0106】
具体的には、第1無機酸化物層5の形成において、ガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび反応性ガスが併用される。金属層6の形成において、ガスとして、好ましくは、不活性ガスが単独使用される。第2無機酸化物層7の形成において、ガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび反応性ガスが併用される。
【0107】
スパッタリング法で用いられる電源には限定はなく、例えば、DC電源、MF/AC電源およびRF電源のいずれであってもよく、また、これらの組み合わせであってもよい。
【0108】
また、好ましくは、第1無機酸化物層5をスパッタリング法で形成するとき、透明基材2(および保護層3)を冷却する。具体的には、透明基材2の下面(すなわち、透明基材2において第1無機酸化物層5が形成される側の面(つまり、透明基材2の上面)と反対側の面)を、冷却装置(例えば、冷却ロール)などに接触させて、透明基材2(および保護層3)を冷却する。これによって、第1無機酸化物層5を形成するときに、スパッタリングにより生じる蒸着熱などで透明基材2に含有される水、および、保護層3に含有される有機物が、多量に放出され、水が第1無機酸化物層5に過剰に含まれることを抑制することができる。冷却温度は、例えば、−30℃以上、好ましくは、−10℃以上であり、また、例えば、60℃以下、好ましくは、40℃以下、より好ましくは、20℃以下である。
【0109】
これによって、第1無機酸化物層5、金属層6および第2無機酸化物層7が順に形成された光透過性無機層4を、保護層3の上に形成する。
【0110】
また、光透過性無機層4の表面抵抗値は、例えば、40Ω/□以下であり、好ましくは30Ω/□以下であり、より好ましくは20Ω/□以下であり、さらに好ましくは15Ω/□以下であり、また、例えば、0.1Ω/□以上、好ましくは、1Ω/□以上、より好ましくは、5Ω/□以上である。
【0111】
光透過性無機層4の比抵抗は、例えば、2.5×10
−4Ω・cm以下であり、好ましくは2.0×10
−4Ω・cm以下であり、より好ましくは、1.5×10
−4Ω・cm以下であり、さらに好ましくは、1.1×10
−4Ω・cm以下であり、また、例えば、0.01×10
−4Ω・cm以上、好ましくは、0.1×10
−4Ω・cm以上であり、より好ましくは、0.5×10
−4Ω・cm以上でもある。
【0112】
光透過性無機層4の比抵抗は、光透過性無機層4の厚み(第1無機酸化物層、金属層6、第2無機酸化物層7の総厚み)と、光透過性無機層4の表面抵抗値とを用いて算出される。
【0113】
また、光透過性無機層4は、近赤外線(波長850〜2500nm)の平均反射率が高いことが好ましい。近赤外線領域の反射率が高い金属層6(例えば、銀または銀合金を含む金属層6)を備える、光透過性無機層4は、例えば、導電性酸化物(例えば、ITOなど)からなる透明無機酸化物と比して近赤外線の平均反射率が高く、太陽光などの熱線を効率的に遮断できる。そのため、パネル温度が上昇しやすい環境(例えば、屋外など)で使用される画像表示装置にも好適に適用できる。光透過性無機層4の近赤外線(波長850〜2500nm)の平均反射率は、例えば、10%以上であり、好ましくは、20%以上であり、より好ましくは、40%以上であり、さらに好ましくは、50%以上であり、また、例えば、95%以下であり、好ましくは、90%以下である。
【0114】
そして、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対する比(H2/H1)を上記範囲に設定する手法に限定はないが、以下の(1)〜(2)のうち、少なくともいずれか1つを選択することが好ましい。
【0115】
(1)第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7を乾式で形成するときに、乾式の装置内の雰囲気に水(水蒸気)を導入する。水の導入方法に限定はないが、例えば、不活性ガスを装置外部に設置した蒸留水貯蔵タンクを経由させることにより調製した、水蒸気と不活性ガスとを含む混合ガスを、乾式の装置内に導入する。これにより、水を容易に導入することができる。さらに、複数のガス導入経路を設け、水蒸気と不活性ガスとを含む混合ガスと、不活性ガス(水蒸気を含まないガス)とを別経路でそれぞれ導入し、その導入比率を適宜変更する。第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の形成時における水の導入量は、水蒸気の流量の、不活性ガスの流量に対する比で、例えば、0.01/100以上、好ましくは0.1/100以上、より好ましくは0.5/100以上、さらに好ましくは1/100以上であり、例えば、20/100以下、より好ましくは、10/100以下である。水蒸気と不活性ガスとを含む混合ガスと、不活性ガスとを別経路で導入する場合、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の形成時における水の導入量は、水蒸気と不活性ガスとを含む混合ガスの流量の、不活性ガスの流量に対する比で、例えば、1/100以上、好ましくは10/100以上、より好ましくは15/100以上であり、例えば、80/100以下であり、50/100以下である。第2無機酸化物層7は、第1無機酸化物層5に対して、形成時の水導入量が多いことが好ましく、第2無機酸化物層7を形成するときに導入する水導入量の、第1無機酸化物層5を形成するときに導入する水導入量に対する比(第2無機酸化物層7を形成するときに導入する水導入量/第1無機酸化物層5を形成するときに導入する水導入量)で、例えば、110/100以上、好ましくは120/100以上、より好ましくは、150/100以上である。
【0116】
この(1)であれば、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1、および、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2のそれぞれを、簡単に制御することができる。
【0117】
(2)光透過性無機層4の形成を開始してから完了するまでの時間、具体的には、第1無機酸化物層5の形成の開始から第2無機酸化物層7の形成の完了までの時間を、短時間に設定し、具体的には、例えば、15分以下、好ましくは、10分以下、より好ましくは、5分以下、さらに好ましくは、3分以下、また、例えば、5秒以上、好ましくは、30秒以上に設定する。
【0118】
第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7を乾式で形成するときに、透明基材2に由来するガス成分(具体的には、水など)が、真空(減圧)雰囲気下において、経時的に減少する。そして、第2無機酸化物層7を乾式で形成するときに、第2無機酸化物層7に含有される水の含有量が、真空(減圧)雰囲気下において、経時的に、顕著に減少する。そのため、この(2)であれば、短時間で光透過性無機層4を形成し終えれば、第2無機酸化物層7に含有される水の低減する割合を抑制するので、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2と、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1とを近似させて(換言すれば、H2とH1との差を小さくし)、H2/H1を1に近似させることができる。
【0119】
第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対する比(H2/H1)を上記範囲に設定するには、好ましくは、(1)および(2)を併用する。
【0120】
これによって、
図1に示すように、順に、透明基材2と、保護層3と、第1無機酸化物層5と、金属層6と、第2無機酸化物層7とを備える光透過性フィルム1を得る。
【0121】
光透過性フィルム1は、金属層6の上面および下面に光学調整層(第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7)を備える光透過性無機層4を備えるため、光透過性無機層4が、概して可視光反射率の高い金属層6(具体的には、例えば、波長550nmの反射率が、15%以上、さらには、30%以上の金属層6)を含んでいても高い可視光透過率を実現できる。光透過性フィルム1の可視光透過率は、例えば、60%以上であり、好ましくは、70%以上であり、より好ましくは、80%以上であり、さらに好ましくは、85%以上であり、最も好ましくは、86%超であり、また、例えば、95%以下である。
【0122】
光透過性フィルム1の総厚みは、例えば、2μm以上、好ましくは、20μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、200μm以下であり、より好ましくは、150μm以下である。
【0123】
なお、上記した製造方法を、ロールトゥロール方式で実施できる。また、一部または全部をバッチ方式で実施することもできる。
【0124】
9. 光透過性無機層のパターンニング
その後、
図2に示すように、エッチングによって、光透過性無機層4を配線パターンに形成する。これによって、保護層3の上に、非パターン部9およびパターン部10を形成する。非パターン部9では、保護層3の上面がパターン部10から露出する。
【0125】
具体的には、まず、感光性フィルムを、第2無機酸化物層7の上面全面に配置し、次いで、
図2が参照されるように、非パターン部9およびパターン部10に対応するパターンを有するフォトマスクを介して露光し、その後、現像することにより、非パターン部9に対応する感光性フィルムを除去する。これにより、パターン部10となる光透過性無機層4の上面に、パターン部10と同一パターンを有するエッチングレジスト8を形成する。
【0126】
その後、エッチングレジスト8から露出する光透過性無機層4を、エッチング液を用いて、エッチングする。エッチング液としては、少なくとも第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7を、好ましくは、第1無機酸化物層5、金属層6および第2無機酸化物層7を、溶解することができるエッチング液であれば、その組成に限定はないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蓚酸、リン酸およびこれらの混酸などの酸が挙げられる。これによって、非パターン部9に対応する第2無機酸化物層7、金属層6および第1無機酸化物層5を除去する。
【0127】
これにより、
図2に示すように、光透過性無機層4を、ストライプ形状のパターン部10を有する配線パターンに形成する。パターン部10は、例えば、前後方向に延び、左右方向に互いに間隔(非パターン部9)を隔てて複数整列配置されている。各パターン部10の幅Lは、例えば、1μm以上、3000μm以下である。隣接するパターン部10の間隔Sは、例えば、1μm以上、3000μm以下である。
【0128】
その後、エッチングレジスト8を、第2無機酸化物層7の上面から、例えば、剥離などによって、除去する。
【0129】
その後、光透過性フィルム1は、例えば、光学装置に備えられる。
【0130】
光学装置としては、例えば、画像表示装置、調光装置などが挙げられる。
【0131】
光透過性フィルム1を画像表示装置(具体的には、LCDモジュールなどの画像表示素子を有する画像表示装置)に備える場合には、光透過性フィルム1は、例えば、タッチパネル用基材として用いられる。タッチパネルの形式としては、光学方式、超音波方式、静電容量方式、抵抗膜方式などの各種方式が挙げられ、特に静電容量方式のタッチパネルに好適に用いられる。
【0132】
また、光透過性フィルム1を、例えば、近赤外線反射用基材として使用することができる。例えば、波長850〜2500nmの近赤外線の平均反射率が高い(例えば、10%以上)光透過性フィルム1を画像表示装置に備えることで、屋外使用向けの画質表示装置に好適に適用できる。光透過性フィルム1は、例えば、偏光フィルムに貼り合せた、光透過性無機層積層偏光フィルムとして画像表示装置に備えることもできる。
【0133】
また、光透過性フィルム1を調光装置(具体的には、LEDなどの光源を有する調光装置)に備える場合には、光透過性フィルム1は、例えば、調光フィルムとして備えられる。
【0134】
10. 作用効果
この光透過性フィルム1によれば、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の両方を、エッチングにより確実にパターンニングすることができながら、オーバーエッチング部分11の形成を抑制することができる。
【0135】
つまり、比(H2/H1)が、0.10以上、10.00以下であるので、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7の物性(例えば、膜質)を近似させることができる。具体的には、第1無機酸化物層5のエッチング液に対するエッチング速度R1と、第2無機酸化物層7のエッチング液に対するエッチング速度R2とを近似させることができる。そのため、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7のいずれかでオーバーエッチング部11を生じることを抑制することができる。
【0136】
一方、特開2003−36037号公報には、銀合金導電層と、導電保護層とを備える銀合金配線、および、銀合金導電層のエッチング速度と、導電保護層のエッチング速度との相違に基づき、銀合金導電層においてサイドエッチング部分(オーバーエッチング部分)が形成される点が開示されている。しかし、特開2003−36037号公報には、上記した「発明が解決しようとする課題」欄で記載したように、第1無機酸化物層または第2無機酸化物層におけるオーバーエッチング部分を開示するものではない。
【0137】
また、この光透過性フィルム1では、第1無機酸化物層における水素原子の含有量H1、および、第2無機酸化物層における水素原子の含有量H2が、ともに、5×10
19atoms/cm
3以上、8,000×10
19atoms/cm
3以下であれば、優れた湿熱耐久性を保持することができる。
【0138】
また、この光透過性フィルム1では、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7のうち、少なくとも一方が、酸化インジウムを含有すれば、良好なエッチング性と耐環境性とを両立することができる。
【0139】
また、この光透過性フィルム1では、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7のいずれもが、非晶質であれば、エッチングによるパターンニングを容易に実施することができる。
【0140】
また、この光透過性金属積層フィルム1では、金属層6が、銀または銀合金を含む金属層であれば、近赤外線の平均反射率が高く、太陽光などの熱線を効率的に遮断できる。
【0141】
また、この光透過性フィルム1では、金属層6が、銀または銀合金を含む金属層であれば、近赤外線の平均反射率が高く、太陽光などの熱線を効率的に遮断できる。
【0142】
また、この光透過性フィルム1では、第2無機酸化物層7の厚みT2の、第1無機酸化物層5の厚みT1に対する比(T2/T1)が、0.5以上、1.5以下であれば、金属層6の劣化を抑制することができる。
【0143】
また、この光透過性フィルム1では、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7は、炭素原子をさらに含有しており、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1と炭素原子の含有量C1との合計含有量(H1+C1)、および、第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2と炭素原子の含有量C2との合計含有量(H2+C2)が、ともに、6×10
19atoms/cm
3以上、10,000×10
19atoms/cm
3以下であれば、光透過性無機層4の非晶質性に優れ、エッチング性をより確実に維持することができる。
【0144】
11. 変形例
変形例において、上記した一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0145】
一実施形態において、第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7における無機酸化物として、ともに、ITOを例示しているが、例えば、一方における無機酸化物が、ITOを含有し、他方における無機酸化物が、ITO以外の無機酸化物(例えば、TiOx、IZO、IGO、IGZOなど)を含有することができる。
【0146】
一実施形態では、
図1に示すように、透明基材2の上に、光透過性無機層4を設けているが、図示しないが、透明基材2の下に、さらに、光透過性無機層4を設けることもできる。つまり、光透過性フィルム1は、透明基材2の上下両側に、それぞれ、順に、保護層3と、光透過性無機層4とを備えることができる。
【0147】
一実施形態では、
図1に示すように、保護層3を、透明基材2および第1無機酸化物層5の間に介在させている。しかし、例えば、
図5に示すように、第1無機酸化物層5を透明基材2の上面に直接配置することもできる。つまり、光透過性フィルム1は、順に、透明基材2、第1無機酸化物層5、金属層6および第2無機酸化物層7を備えている。一方、この光透過性フィルム1は、保護層3を備えていない。
【0148】
一実施形態では、
図1に示すように、第1無機酸化物層5を保護層3の上面に直接配置している。しかし、例えば、
図6に示すように、無機物層13を、保護層3および第1無機酸化物層5の間に介在させることもできる。
【0149】
無機物層13は、保護層3とともに、光透過性無機層4における配線パターンの視認を抑制するように、光透過性フィルム1の光学物性を調整する光学調整層(第2光学調整層)である。無機物層13は、フィルム形状(シート形状を含む)を有しており、保護層3の上面全面に、保護層3の上面に接触するように、配置されている。無機物層13は、所定の光学物性を有し、例えば、酸化物、フッ化物などの無機物から調製されている。無機物層13の厚みは、1nm以上、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上であり、また、例えば、80nm以下、好ましくは、40nm以下、より好ましくは、25nm以下である。
【実施例】
【0150】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0151】
実施例1
(フィルム基材の用意、および、保護層の形成)
まず、長尺状ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなり、厚みが50μmである透明基材を用意した。なお、用意した透明基材における水分量は、19μg/cm
2であり、また、水の、透明基材に対する含有量は、0.27質量%でもあった。
【0152】
次いで、透明基材の上面に、アクリル樹脂からなる紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線照射により硬化させて、硬化樹脂層からなり、厚みが2μmである保護層を形成した。これにより、透明基材と、保護層とを備える保護層付透明基材ロールを得た。
【0153】
(第1無機酸化物層の形成)
次いで、保護層付透明基材ロールを真空スパッタ装置に設置して静置し、未搬送時の気圧が4×10
−3Paとなるまで真空排気した(脱ガス処理)。この時、スパッタリングガス(ArおよびO
2)を導入しない状態で、保護層付透明基材の一部を搬送し、2×10
−2Paまで気圧が上がることを確認した。これにより、保護層付透明基材ロールに十分な量のガスが残存していることを確認した。
【0154】
次いで、保護層付透明基材ロールを繰り出しながら、硬化樹脂層の上面に、スパッタリングにより、インジウムスズ酸化物層からなり、厚みが42nmである第1無機酸化物層を形成した。
【0155】
具体的には、ArおよびO
2を導入した気圧0.3Paの真空雰囲気下(流量比はAr:O
2=100:1.4)で、直流(DC)電源を用いて、10質量%の酸化スズと90質量%の酸化インジウムとの焼結体からなるターゲットをスパッタリングした。
【0156】
なお、スパッタリングにより第1無機酸化物層を形成するとき、保護層付透明基材ロールの下面(具体的には、透明基材の下面)を、−5℃の冷却ロールに接触させて、保護層付透明基材ロールを冷却した。
【0157】
(金属層の形成)
Ag−Pd合金からなり、厚みが8nmである金属層を、スパッタリングにより、第1無機酸化物層の上面に形成した。
【0158】
具体的には、Arを導入した気圧0.3Paの真空雰囲気で、電源として、直流(DC)電源を用い、Ag−Pdターゲット(Pdの含有割合:0.5質量%)をスパッタリングした。
【0159】
(第2無機酸化物層の形成)
ITOからなり、厚みが40nmである第2無機酸化物層を、金属層の上面に、スパッタリングにより、形成した。
【0160】
具体的には、ArおよびO
2を導入した気圧0.4Paの真空雰囲気下(流量比はAr:O
2=100:1.5)で、直流(DC)電源を用いて、10質量%の酸化スズと90質量%の酸化インジウムとの焼結体からなるターゲットをスパッタリングした。
【0161】
また、第1無機酸化物層の形成を開始してから、第2無機酸化物層を形成し終えるまでに要した時間、すなわち、光透過性無機層の形成に要した時間は、3.5分であった。
【0162】
これによって、透明基材の上に、順に、保護層、第1無機酸化物層、金属層および第2無機酸化物層が形成された光透過性フィルムを得た。
【0163】
実施例2
保護層付透明基材ロールを真空スパッタ装置に設置した後における未搬送時の気圧を、4×10
−4Paに変更し、12質量%の酸化スズと88質量%の酸化インジウムとの焼結体からなるターゲットを用いて第1無機酸化物層および第2無機酸化物層を形成し、光透過性無機層の形成に要した時間を、3.5分から0.7分に変更した以外は、実施例1と同様にして光透過性フィルムを得た。
【0164】
実施例3
Ag−Pdターゲットをスパッタリングする際の放電出力を25%小さくして、金属層の厚みを6nmに変更した以外は、実施例2と同様にして光透過性フィルムを得た。
【0165】
実施例4
Ag−Pdターゲットをスパッタリングする際の放電出力を25%大きくして、金属層の厚みを10nmに変更した以外は、実施例2と同様にして光透過性フィルムを得た。
【0166】
比較例1
保護層付透明基材ロールを真空スパッタ装置に設置した後における未搬送時の気圧を、4×10
−3Paから、9×10
−5Paに変更し、また、光透過性無機層の形成に要した時間を、3.5分から180分に変更した以外は、実施例1と同様にして光透過性フィルムを得た。
【0167】
(測定)
(1)厚み
保護層、第1金属酸化物層、金属層および第2金属酸化物の厚みを、透過型電子顕微鏡(日立製作所製 H−7650)を用いた断面観察により測定した。
【0168】
また、基材の厚みを、膜厚計(Peacock社製 デジタルダイアルゲージDG−205)を用いて測定した。
【0169】
(2)水素原子および炭素原子の含有量
二次イオン質量分析装置(装置名「PHI ADEPT−1010」、アルバック・ファイ社製)を用いて、二次イオン質量分析法により、第1無機酸化物層における水素原子および炭素原子の含有量(H1、C1)を測定した。具体的には、第1無機酸化物層の厚み方向中央部における水素原子の含有量(H1)および炭素原子の含有量(C1)を、二次イオン質量分析法により、測定した。
【0170】
また、第2無機酸化物層における水素原子の含有量(H2)、および、炭素原子の含有量(C2)についても、第1無機酸化物層の測定と同様にして、実施した。
【0171】
(3)光透過性無機層の比抵抗
JIS K7194(1994年)の4探針法に準拠して測定した光透過性無機層の表面抵抗値と、(1)の厚みの測定にて求めた光透過性無機層の厚みとの積から光透過性無機層の比抵抗を算出した。その結果を表1に示す。
【0172】
(4)エッチング性
光透過性無機層4の上面全面に、感光性フィルム(DFR、商品名「RY3310」、日立化成社製)を配置し、次いで、
図2が参照されるように、非パターン部およびパターン部が形成に対応するパターンを有するフォトマスクを露光し、その後、現像することにより、非パターン部に対応する感光性フィルムを除去した。これにより、パターン部となる光透過性無機層4の上面に、パターン部と同一パターンを有するエッチングレジスト13を形成した。その後、エッチングレジスト13から露出する光透過性無機層4を、40℃に加温したエッチング液(株式会社ADEKA社製、アデカケルミカ SET−500)に30秒浸漬することで、エッチングした。
【0173】
これにより、
図2に示すように、光透過性無機層4を、ストライプ形状のパターン部を有する配線パターンに形成した。パターン部の幅Lは、100μmであり、また、非パターン部の幅S(つまり、隣接するパターン部の間隔S)は、100μmであった。
【0174】
その後、レジスト付き光透過性無機層パターンにおいて、TEMにより、第1無機酸化物層および第2無機酸化物層のオーバーエッチング部分の有無および程度を観察して、下記の基準に基づいて、エッチング性を評価した。なお、第2無機酸化物層については、オーバーエッチング部分が観察されなかった。
【0175】
なお、下記の「オーバーエッチング部分の幅方向長さ」とは、第2無機酸化物層の端縁から、第1無機酸化物層において、内側に浸食された部分のうち、最も内側に位置する部分(最深部)までの距離Dである。
【0176】
基準
○:第1無機酸化物層におけるオーバーエッチング部分の幅方向長さDが、10μm未満であった。
△:第1無機酸化物層におけるオーバーエッチング部分の幅方向長さDが、10μm以上、15μm未満であった。
×:第1無機酸化物層におけるオーバーエッチング部分の幅方向長さDが、15μm以上であった。
【0177】
(5)光学特性
ヘーズメーター(スガ試験機社製、装置名「HGM−2DP)を用いて、全光線透過率を測定し、可視光透過率とした。
【0178】
また、各実施例、比較例の光透過性フィルムの光透過性無機層とは反対の側に、粘着剤付き黒色板を気泡の入らないように貼り合せた。次いで、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製「U−4100」)を用いて、近赤外線領域(850〜2500nm)の光反射率を5nmピッチで測定し、光透過性無機層の反射率の平均値(平均反射率)を算出した。
【0179】
その結果を表1に示す。
【0180】
【表1】
【課題】第1無機酸化物層および第2無機酸化物層の両方を、エッチングにより確実にパターンニングすることができながら、オーバーエッチング部分の発生を抑制することのできる光透過性フィルムを提供すること。
【解決手段】光透過性フィルム1は、順に、透明基材2と、光透過性無機層4とを備える。透明基材2は、高分子フィルムからなる。光透過性無機層4は、順に、第1無機酸化物層5と、金属層6と、第2無機酸化物層7とを備える。光透過性無機層4は、導電性を有する。第1無機酸化物層5および第2無機酸化物層7は、水素原子を含有する。第2無機酸化物層7における水素原子の含有量H2の、第1無機酸化物層5における水素原子の含有量H1に対する比(H2/H1)が、0.10以上、10.00以下である。