特許第5977048号(P5977048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000009
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000010
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000011
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000012
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000013
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000014
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000015
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000016
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000017
  • 特許5977048-空気入りタイヤ 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977048
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20160817BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   B60C19/08
   B60C11/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-50753(P2012-50753)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-184551(P2013-184551A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(72)【発明者】
【氏名】岡久 大祐
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 眞一
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−126291(JP,A)
【文献】 特開2005−041055(JP,A)
【文献】 特開2004−148935(JP,A)
【文献】 特開平10−323917(JP,A)
【文献】 特開2009−040331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/08
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その外面がトレッド面をなすトレッドと、それぞれが上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びる一対のサイド部とを備えており、
このトレッドが、軸方向に延在するベース層と、このベース層の半径方向外側に位置するキャップ層とを備えており、
このキャップ層が、上記ベース層の一端側に位置する第一本体と、このベース層の他端側に位置する第二本体と、軸方向に延在する導電性のスキン層とを備えており、
このスキン層の一部が、上記第一本体と上記第二本体との間に挟まれており、
このスキン層の他の一部が、上記第二本体と上記ベース層との間に挟まれており、
このスキン層が、上記第一本体及び上記第二本体との間において上記トレッド面の一部を形成しており、
このスキン層が、樹脂組成物から形成されたフィルムからなり、
この樹脂組成物が、基材ポリマー及び金属粉を含んでおり、
上記サイド部が、このスキン層とこのタイヤが装着されるリムとを電気的に接続する導電パスを有しており、
上記フィルムの厚みが、0.01mm以上0.05mm以下である空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記樹脂組成物における金属粉の量が、基材ポリマー100質量部に対して1質量部以上50質量部以下である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
上記金属粉の材質が、スチール、金、アルミニウム、銅、ステンレススチール又は銀である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記スキン層が、筒状の導電シートからなり
この導電シートが、上記樹脂組成物から形成されたフィルムである請求項1からのいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
上記スキン層が、多数の導電テープを、その長さ方向がタイヤの軸方向に一致するようにしてタイヤの周方向に間隔を空けて配置させることにより形成されており、
それぞれの導電テープが、上記樹脂組成物から形成されたフィルムである請求項1からのいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
上記サイド部が、上記トレッドの端においてこのトレッドの半径方向内側に位置するウィングと、このウィングから半径方向略内向きに延びるサイドウォールと、このサイドウォールよりも半径方向略内側に位置するクリンチとを備えており、
このウィング、サイドウォール及びクリンチの体積抵抗率が、1×10Ω・cm未満であり、
このウィング、サイドウォール及びクリンチが、上記スキン層と上記リムとを電気的に接続する導電パスを構成している請求項1からのいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、多数の部材により構成される。この部材のひとつに、トレッドがある。トレッドは、ベース層とキャップ層とを有している。キャップ層は、ベース層の半径方向外側に位置している。キャップ層は、ベース層に積層されている。
【0003】
ベース層及びキャップ層はそれぞれ、架橋されたゴム組成物からなる。ゴム組成物は、補強材を含む。この補強材として、シリカが用いられることがある。シリカは、転がり抵抗の低減に寄与しうる。
【0004】
シリカは、絶縁材料である。シリカの適用されたタイヤを車両に装着した場合、この車両が静電気を帯びることがある。帯電した車両にドライバーが手で触れると、火花が発生することがある。走行中においては、電波障害が引き起こされることがある。電気的な障害回避の観点から、様々な検討がなされている。この検討例が、特開2006−069341公報、特開2006−137067公報、特開2009−126291公報及び特開平09−071112号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−069341公報
【特許文献2】特開2006−137067公報
【特許文献3】特開2009−126291公報
【特許文献4】特開平09−071112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気的な障害回避の観点から、シリカの適用されるタイヤには、路面と、このタイヤが装着されるリムとを電気的に接続する導電パスが設けられる。この導電パスは、導電性を有するゴム部材(以下、導電部材)を複数組み合わせることにより構成される。この導電部材には、カーボンブラックの添加により導電性が付与される。
【0007】
タイヤのトレッドにおいては、キャップ層及びベース層を貫通するように導電部材が設けられることがある。このようなトレッドは、キャップ層のためのゴム組成物、ベース層のためのゴム組成物及び導電部材のためのゴム組成物を同時に押し出して形成される。このトレッドにおいては、導電部材は大きな体積を有している。しかも、カーボンブラックを含む導電部材は、シリカの適用された部材に比して大きな損失正接(tanδ)を有している。この導電部材は、タイヤの転がり抵抗に影響する。
【0008】
トレッドが、ストリップを周方向に巻回して形成されることがある。この場合、導電部材を適正な位置に配置させるには、高度な調整が必要とされる。この調整は、容易でない。この導電部材は、タイヤの生産性に影響する。しかもこの工法では、導電部材を左右対称に配置させたトレッドを得るのは難しい。左右非対称なトレッドは、タイヤのユニフォミティに影響する。
【0009】
本発明の目的は、電気的な障害を回避しうる空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、その外面がトレッド面をなすトレッドと、それぞれが上記トレッドの端から半径方向略内向きに延びる一対のサイド部とを備えている。このトレッドは、軸方向に延在するベース層と、このベース層の半径方向外側に位置するキャップ層とを備えている。このキャップ層は、上記ベース層の一端側に位置する第一本体と、このベース層の他端側に位置する第二本体と、軸方向に延在する導電性のスキン層とを備えている。このスキン層の一部は、上記第一本体と上記第二本体との間に挟まれている。このスキン層の他の一部は、上記第二本体と上記ベース層との間に挟まれている。このスキン層は、上記第一本体及び上記第二本体との間において上記トレッド面の一部を形成している。このスキン層は、樹脂組成物から形成されたフィルムからなる。この樹脂組成物は、基材ポリマー及び金属粉を含んでいる。上記サイド部は、このスキン層とこのタイヤが装着されるリムとを電気的に接続する導電パスを有している。
【0011】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記フィルムの厚みは0.01mm以上0.05mm以下である。
【0012】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記樹脂組成物における金属粉の量は、基材ポリマー100質量部に対して1質量部以上50質量部以下である。
【0013】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記金属粉の材質は、スチール、金、アルミニウム、銅、ステンレススチール又は銀である。
【0014】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記スキン層は導電シートをタイヤの周方向に巻回すことにより形成されている。この導電シートは、上記樹脂組成物から形成されたフィルムである。
【0015】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記スキン層は、多数の導電テープを、その長さ方向がタイヤの軸方向に一致するようにしてタイヤの周方向に間隔を空けて配置させることにより形成されている。それぞれの導電テープは、上記樹脂組成物から形成されたフィルムである。
【0016】
好ましくは、この空気入りタイヤのサイド部は、上記トレッドの端においてこのトレッドの半径方向内側に位置するウィングと、このウィングから半径方向略内向きに延びるサイドウォールと、このサイドウォールよりも半径方向略内側に位置するクリンチとを備えている。このウィング、サイドウォール及びクリンチの体積抵抗率は、1×10Ω・cm未満である。このウィング、サイドウォール及びクリンチは、上記スキン層と上記リムとを電気的に接続する導電パスを構成している。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る空気入りタイヤでは、金属粉を含み導電性を有するスキン層は、電気的な障害の回避に寄与しうる。このスキン層は、フィルムからなり薄い。このスキン層の体積は、極めて小さい。このタイヤでは、このスキン層による転がり抵抗及びユニフォミティへの影響が抑えられている。このタイヤでは、電気的な障害を回避しつつ、転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上が達成されうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤの製造の様子が示された模式図である。
図3図3は、図2とは別の製造の様子が示された模式図である。
図4図4は、図1のタイヤのスキン層のための導電シートの一部が示された斜視図である。
図5図5(a)は図3とは別の製造の様子が示された模式図であり、図5(b)はその概略平面図である。
図6図6は、図5とは別の製造の様子が示された模式図である。
図7図7は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの製造の様子が示された模式図である。
図8図8は、図7のスキン層のための組成物から形成された予備成形体の一部が示された斜視図である。
図9図9は、図8の予備成形体の製造の様子が示された模式図である。
図10図10は、図8の予備成形体のための大判シートが示された平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0021】
このタイヤ2は、トレッド4、サイド部6、ビード8、カーカス10、ベルト12、インナーライナー14及びチェーファー16を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
【0022】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4の外面は、路面と接地するトレッド面18を形成する。トレッド面18には、溝20が刻まれている。この溝20により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、ベース層22とキャップ層24とを備えている。
【0023】
ベース層22は、キャップ層24の半径方向内側に位置している。ベース層22は、赤道面から軸方向外向きに延在している。このベース層22は、軸方向に延在している。ベース層22は、ベルト12の半径方向外側に位置している。ベース層22は、ベルト12に積層されている。ベース層22は、架橋ゴムからなる。
【0024】
キャップ層24は、ベース層22の半径方向外側に位置している。キャップ層24は、ベース層22に積層されている。キャップ層24は、ベース層22を覆っている。キャップ層24の外面が、トレッド面18である。
【0025】
このタイヤ2では、キャップ層24は、第一本体26a、第二本体26b及びスキン層28から構成される。言い換えれば、キャップ層24は第一本体26a、第二本体26b及びスキン層28を備えている。
【0026】
第一本体26aは、架橋ゴムからなる。第一本体26aは、赤道面からベース層22の一端30aに向かって軸方向に延在している。この第一本体26aは、ベース層22の一端30aの側に位置している。第一本体26aは、ベース層22に積層されている。
【0027】
第二本体26bは、架橋ゴムからなる。第二本体26bは、赤道面からベース層22の他端30bに向かって軸方向に延在している。この第二本体26bは、ベース層22の他端30bの側に位置している。第二本体26bは、スキン層28に積層されている。
【0028】
スキン層28は、軸方向に延在している。このタイヤ2のスキン層28は、赤道面からベース層22の他端30bに向かって延在している。このスキン層28は、ベース層22の他端30bの側に位置している。このスキン層28は、ベース層22に積層されている。スキン層28は、第二本体26bで覆われている。
【0029】
このタイヤ2では、赤道面において、スキン層28の一部が第一本体26aと第二本体26bとの間に挟まれている。スキン層28の一端32aは、タイヤ2の外面に露出している。このスキン層28は、第一本体26aと第二本体26bとの間においてトレッド面18の一部を形成している。スキン層28の他の一部は、第二本体26bとベース層22との間に挟まれている。このスキン層28の他端32bは、第二本体26bで覆われている。
【0030】
サイド部6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイド部6は、ウィング34、サイドウォール36、クリンチ38及びクッション層40を備えている。
【0031】
ウィング34は、架橋ゴムからなる。ウィング34は、トレッド4の端において、このトレッド4の半径方向内側に位置している。ウィング34は、トレッド4に接合されている。
【0032】
サイドウォール36は、ウィング34から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール36の半径方向外側端は、ウィング34と接合されている。このサイドウォール36の半径方向内側端は、クリンチ38と接合されている。サイドウォール36は、カーカス10の軸方向外側に位置している。サイドウォール36は、カーカス10の損傷を防止する。このサイドウォール36は、耐カット性及び耐光性に優れた架橋ゴムからなる。
【0033】
クリンチ38は、サイドウォール36よりも半径方向略内側に位置している。クリンチ38は、軸方向において、ビード8及びカーカス10よりも外側に位置している。クリンチ38は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。クリンチ38は、このタイヤ2が装着されるリム(図示されず)のフランジと当接する。
【0034】
クッション層40は、ベルト12の端42の半径方向内側に位置している。クッション層40は、ベルト12の端42の近傍において、カーカス10と積層されている。クッション層40は、ベルト12とカーカス10との間に挟まれている。クッション層40は、軟質な架橋ゴムからなる。クッション層40は、ベルト12の端42の応力を吸収する。このクッション層40により、ベルト12のリフティングが抑制される。
【0035】
ビード8は、サイドウォール36の半径方向内側に位置している。ビード8は、コア44と、このコア44から半径方向外向きに延びるエイペックス46とを備えている。コア44はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス46は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス46は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0036】
カーカス10は、カーカスプライ48からなる。カーカスプライ48は、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール36に沿っている。カーカスプライ48は、コア44の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ48には、主部50aと折り返し部50bとが形成されている。
【0037】
カーカスプライ48は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス10はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。カーカス10が、2枚以上のカーカスプライ48から形成されてもよい。
【0038】
ベルト12は、カーカス10の半径方向外側に位置している。ベルト12は、カーカス10と積層されている。ベルト12は、カーカス10を補強する。ベルト12は、内側層52a及び外側層52bからなる。図1から明らかなように、軸方向において、内側層52aの幅は外側層52bの幅よりも若干大きい。図示されていないが、内側層52a及び外側層52bのそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の絶対値は、通常は10°以上35°以下である。内側層52aのコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層52bのコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。ベルト12の軸方向幅は、タイヤ2の最大幅の0.7倍以上が好ましい。ベルト12が、3以上の層52を備えてもよい。
【0039】
インナーライナー14は、カーカス10の内側に位置している。インナーライナー14は、カーカス10の内面に接合されている。インナーライナー14は、架橋ゴムからなる。インナーライナー14には、空気遮蔽性に優れたゴムが用いられている。インナーライナー14は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0040】
チェーファー16は、ビード8の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、チェーファー16はリムと当接する。この当接により、ビード8の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー16は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。チェーファー16の材質をクリンチ38の材質と同じとすることで、このチェーファー16がクリンチ38と一体とされてもよい。
【0041】
このタイヤ2では、スキン層28は樹脂組成物を薄く延伸したものからなる。より詳細には、このスキン層28は、この樹脂組成物から形成されたフィルムからなる。この樹脂組成物は、基材ポリマーを含む。好ましい基材ポリマーとしては、熱可塑性樹脂が例示される。タイヤ2の加硫工程においてスキン層28の形態が安定に保持されるとの観点から、この熱可塑性樹脂としては、200℃以上の融点を有するものがより好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート及びポリビニルアルコールが例示される。
【0042】
本明細書では、融点の測定は、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製の「DSC−7」を用いて窒素雰囲気下で融解吸熱量曲線を計測し、この融解吸熱量曲線に観測される吸熱ピークのピークトップの温度により表される。
【0043】
このタイヤ2では、スキン層28の樹脂組成物は金属粉を含む。金属粉は、電気を通す性質を有する。この金属粉の添加により、スキン層28に導電性が付与される。好ましい金属粉の材質としては、スチール、金、アルミニウム、銅、ステンレススチール及び銀が例示される。
【0044】
金属粉の形状は、特に制限されない。この金属粉の形状としては、球状、針状、板状、鱗片状、破砕粒状等が例示される。好ましい、金属粉の平均粒子径は0.1μm以上100μm以下である。なお、この平均粒子径は、透過型電子顕微鏡で撮影された画像に含まれる多数の金属粉から無作為に選定された100個の金属粉について計測された粒子径の平均値で示される。その形状から粒子径の計測ができない場合は、長径に基づいて平均粒子径が求められる。
【0045】
このタイヤ2では、導電性の観点から、樹脂組成物における金属粉の量は基材ポリマー100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。この樹脂組成物から得られるフィルムの強度の観点から、この金属粉の量は基材ポリマー100質量部に対して50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。
【0046】
本明細書では、1×10Ω・cm未満の体積抵抗率を有する部材は導電性を有すると判断され、この部材は導電部材と称される。1×10Ω・cm以上の体積抵抗率を有する部材は導電性を有さない(非導電性)と判断され、この部材は絶縁部材と称される。このタイヤ2では、スキン層28は導電部材である。
【0047】
本明細書では、各部材の体積抵抗率は、JIS−K 6271に規定の二重リング電極法に準拠して、その温度が23℃とされた条件下で測定される。スキン層28の体積抵抗率は、このスキン層28のための樹脂組成物により得られるシート(厚さ=2mm)を用いて計測される体積抵抗率により表される。トレッド4等の架橋ゴムからなる部材の体積抵抗率は、各部材のためのゴム組成物を温度が170℃である金型内で30分保持することにより得られるシート(厚さ=2mm)を用いて計測される体積抵抗率により表される。なお、コードとトッピングゴムとからなる部材については、トッピングゴムのためのゴム組成物から形成されたシートが用いられる。
【0048】
このタイヤ2では、上記スキン層28以外の部材は架橋されたゴム組成物からなるもの又は架橋されたゴム組成物を含むものである。より詳細には、このタイヤ2では、キャップ層24の一部を形成する第一本体26a及び第二本体26b、ベース層22、ウィング34、クッション層40、サイドウォール36、クリンチ38、チェーファー16のゴム、インナーライナー14、カーカスプライ48のトッピングゴム、ベルト12の一部を形成する内側層52aのトッピングゴム並びにこのベルト12の他の一部をなす外側層52bのトッピングゴムは、架橋されたゴム組成物からなる。ゴム組成物は、多数の成分を含んでいる。各部材に採用される成分の種類及びその量は、部材の要求性能に応じて適宜決められる。
【0049】
ゴム組成物は、基材ゴムを含む。ゴム組成物の基材ゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、ポリクロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びイソブチレン−イソプレン共重合体が例示される。2種以上のゴムが併用されてもよい。なお、インナーライナー14においては、その典型的な基材ゴムはブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。
【0050】
ゴム組成物は、補強材を含む。補強材は、ゴム組成物からなる部材の強度及び軟質に影響する。補強材としては、カーボンブラック及びシリカが例示される。この補強材として、カーボンブラックのみを採用してもよい。この補強材として、シリカのみを採用してもよい。この補強材として、カーボンブラック及びシリカを併用してもよい。
【0051】
ゴム組成物のためのカーボンブラックとしては、ファーネスブラック及びアセチレンブラックが例示される。ファーネスブラックとしては、FEF、GPF、HAF、ISAF、SAF等が用いられうる。
【0052】
前述したように、カーボンブラックは電気を通す性質を有する。このカーボンブラックを多く含む部材では、このカーボンブラックにより導電パスが形成される。したがって、補強材としてカーボンブラックを含む部材は、導電性を有することがある。このため、部材に導電性を付与する場合、補強材としてカーボンブラックが採用される。導電性を有する部材を得るためには、ゴム組成物におけるカーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して、30質量部以上とされるのが好ましい。部材の軟質の観点から、このカーボンブラックの量は100質量部以下とされるのが好ましい。このタイヤ2では、ウィング34、サイドウォール36、クリンチ38及びチェーファー16のゴムが、カーボンブラックの添加により導電性が付与されている。ウィング34、サイドウォール36、クリンチ38及びチェーファー16のゴムは、導電部材である。
【0053】
シリカは、これを含む部材の転がり抵抗の低減に寄与しうる。このシリカとしては、汎用ゴム一般に用いられるものを使用することができる。このシリカとしては、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン及びコロイダルシリカが例示される。転がり抵抗の低減の観点から、このシリカとしては、含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。このタイヤ2では、キャップ層24の一部をなす第一本体26a及び第二本体26bにこのシリカが適用されている。
【0054】
このタイヤ2で使用されるシリカとしては、その窒素吸着比表面積(BET法)が100mm/g以上300mm/g以下とされたものが好ましい。その窒素吸着比表面積が100mm/g以上に設定されたシリカは、これを含むゴム組成物からなる部材を効果的に補強しうる。その窒素吸着比表面積が300mm/g以下に設定されたシリカは、部材の加工性を適切に維持しうる。なお、この窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じて、BET法により、測定される。
【0055】
このタイヤ2では、転がり抵抗の低減に寄与しうる部材を得るためには、ゴム組成物におけるシリカの量は、基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上とされるのが好ましく、100質量部以下とされるのが好ましい。なお、色づけのために、この部材に、基材ゴムに対して0.5質量部以上5質量部以下の量のカーボンブラックが併用されてもよい。この場合、転がり抵抗の観点から、補強材の主成分はシリカとされる。シリカを含む部材においては、補強材全量に対するシリカの量の比率は、50質量%よりも大きくされるのが好ましく、70質量%以上とされるのがより好ましく、90質量%以上とされるのがさらに好ましい。
【0056】
シリカは、電気を通しにくい性質を有している。シリカは、これを含む部材の導電性を低下させてしまう。前述したように、このタイヤ2では、キャップ層24の一部をなす第一本体26a及び第二本体26bにこのシリカが適用されている。このため、これら部材は電気を通しにくい。これら部材の体積抵抗率は、1×10Ω・cm以上である。これら部材は、絶縁部材である。
【0057】
好ましくは、ゴム組成物は軟化剤を含む。軟化剤は、このゴム組成物からなる部材の強度及び軟質に影響する。この部材の軟質の観点から、軟化剤の量は、基材ゴム100質量部に対して10質量部以上が好ましい。この部材のの強度の観点から、軟化剤の量は40質量部以下が好ましい。好ましい軟化剤として、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイルが例示される。
【0058】
好ましくは、ゴム組成物は硫黄を含む。硫黄により、ゴム分子同士が架橋される。硫黄と共に、又は硫黄に代えて、他の架橋剤が用いられてもよい。電子線によって架橋がなされてもよい。
【0059】
好ましくは、ゴム組成物は硫黄と共に加硫促進剤を含む。スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等が、用いられうる。
【0060】
ゴム組成物には、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、架橋助剤等が、必要に応じ添加される。
【0061】
このタイヤ2は、次のようにして製造される。フォーマーのドラムに、シート状のインナーライナー14が巻回され筒状とされる。このインナーライナー14の軸方向外側に、チェーファー16が巻回される。このインナーライナー14とチェーファー16とが組み合わされたものに、カーカスプライ48が巻回される。リング状のビード8が、筒状のカーカスプライ48に嵌め合わされる。カーカスプライ48の外側の部分が、このビード8のコア44の周りで折り返される。これにより、カーカス10が形成される。トレッド4の内側に相当する位置に、内側層52a及び外側層52bが巻回され、ベルト12が形成される。
【0062】
サイドウォール36のためのゴム組成物、クリンチ38のためのゴム組成物及びクッション層40のためのゴム組成物が同時に押し出され、第一予備成形体が形成される。この第一予備成形体は、タイヤ2のサイド部6に相当する位置においてカーカス10に巻回される。
【0063】
ベース層22のためのゴム組成物が押し出され、第二予備成形体が形成される。この第二予備成形体が、ベルト12に貼り付けられる。これにより、ベース層22が形成される。この製造方法では、シート状の第二予備成形体が準備される。なお、ストリップ状の第二予備成形体を準備し、これを螺旋状に巻回して、このベース層22が形成されてもよい。
【0064】
ウィング34のためのゴム組成物が押し出され、第三予備成形体が形成される。図2に示されているように、第三予備成形体がベース層22の端30に貼り付けられる。これにより、ウィング34が形成される。
【0065】
キャップ層24の一部をなす第一本体26aのためのゴム組成物が押し出され、第四予備成形体が形成される。図3に示されているように、この第四予備成形体はベース層22の一端30aの側に貼り付けられる。これにより、第一本体26aが形成される。なお、ストリップ状の第四予備成形体を準備しこれを螺旋状に巻回して、この第一本体26aが形成されてもよい。
【0066】
スキン層28のための樹脂組成物を二軸延伸し、図4に示されたような予備成形体としての導電シート54が形成される。この導電シート54は、この樹脂組成物から形成されたフィルムである。この導電シート54は、図5に示されているように、ベース層22の他端30bの側に貼り付けられる。この製造方法では、この導電シート54を周方向に巻回すことにより、スキン層28が形成される。貼り付けに際し、この導電シート54の一端56aは第一本体26aに積層される。この導電シート54の他端56bは、ウィング34に積層される。
【0067】
この製造方法では、他の部材との接着性が考慮され、導電シート54に表面処理が施されてもよい。この場合、この導電シート54の表面に、レゾルシン、ホルムアルデヒド縮合物及びビニルピリジンラテックスを主成分とする処理液(RFL液とも称される)が塗布される。この処理液が塗布されたものが、加熱され乾燥される。乾燥後、この導電シート54がベース層22に貼り付けられる。
【0068】
キャップ層24の他の一部をなす第二本体26bのためのゴム組成物が押し出され、第五予備成形体が形成される。図6に示されているように、この第五予備成形体はベース層22の他端30bの側においてスキン層28に貼り付けられる。これにより、第二本体26bが形成される。なお、ストリップ状の第五予備成形体を準備しこれを螺旋状に巻回して、この第二本体26bが形成されてもよい。
【0069】
この製造方法では、第一本体26a、第二本体26b及びスキン層28の組み合わせによりトレッド4が形成され、ローカバー(未架橋タイヤ)が得られる。ローカバーは、モールドに投入される。ローカバーの外面は、モールドのキャビティ面と当接する。ローカバーの内面は、ブラダー又は中子に当接する。ローカバーは、モールド内で加圧及び加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。
【0070】
図1から明らかなように、このタイヤ2では、スキン層28の一端32aはトレッド面18の一部を形成している。スキン層28の他端32bは、ウィング34に接触している。このウィング34は、サイドウォール36に接触している。このサイドウォール36は、クリンチ38に接触している。このクリンチ38は、チェーファー16に接触している。このタイヤ2がリムに装着されたとき、クリンチ38及びチェーファー16がこのリムに接触する。前述したように、スキン層28、ウィング34、サイドウォール36、クリンチ38及びチェーファー16は導電部材である。このタイヤ2では、トレッド面18からリムに当接するクリンチ38及びチェーファー16に至るまでが、導電部材により電気的に接続されている。言い換えれば、このタイヤ2は導電パスを有している。このため、タイヤ2又はこのタイヤ2の装着された車両において発生した静電気は、この導電パスを通じて放出される。前述したように、このタイヤ2のトレッド4の一部をなす第一本体26a及び第二本体26bには、シリカが適用されている。このタイヤ2では、このシリカを含む部材の適用により転がり抵抗の低減を達成しつつ、静電気の放電による火花の発生、電波障害等の電気的な障害が回避されている。
【0071】
このタイヤ2では、スキン層28の体積抵抗率は小さい。このスキン層28は、タイヤにおける電気的な障害の回避に寄与しうる。この観点から、スキン層28の体積抵抗率は1×10Ω・cm以下がより好ましく、1×10Ω・cm以下がさらに好ましく、1×10Ω・cm以下が特に好ましい。なお、このタイヤ2では、電気的な障害の回避の観点から、このスキン層28以外の導電部材についても同様に、その体積抵抗率は1×10Ω・cm以下がより好ましく、1×10Ω・cm以下がさらに好ましく、1×10Ω・cm以下が特に好ましい。
【0072】
このタイヤ2では、サイド部6を構成するウィング34、サイドウォール36及びクリンチ38がスキン層28とリムとを電気的に接続する導電パスを構成している。このサイド部6は、導電パスを有している。サイドウォール36とカーカス10との間に、サイド部6の構成部材としての導電性を有する補強層を新たに設け、この補強層と、ウィング34、クッション層40及びクリンチ38とにより、スキン層28とリムとを電気的に接続する導電パスが構成されてもよい。この場合、サイドウォール36にシリカを適用することが可能となる。このタイヤ2では、サイド部6がスキン層28とリムとを電気的に接続する導電パスを有していればよく、このサイド部6の構成に特に制限はない。
【0073】
前述したように、このタイヤ2では、スキン層28は導電シート54からなる。この導電シート54は、樹脂組成物から形成されたフィルムである。このスキン層28は薄い。このタイヤ2では、スキン層28による転がり抵抗及びユニフォミティへの影響が抑えられている。このスキン層28は、タイヤ2の転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上に寄与しうる。しかもこのスキン層28は薄いにも関わらず導電性に優れるので、電気的障害の回避に寄与しうる。このタイヤ2では、電気的な障害を回避しつつ、転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上が達成されうる。この観点から、図6中の、両矢印Tで示されたスキン層28をなす導電シート54(フィルム)の厚みは0.05mm以下が好ましく、0.04mm以下がより好ましい。このフィルムの強度の観点から、この厚みTは0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましい。
【0074】
このタイヤ2では、スキン層28は薄いため、このスキン層28の体積は極めて小さい。このタイヤ2では、トレッド4全体積に占めるこのスキン層28の体積の割合は小さい。このタイヤ2では、スキン層28による転がり抵抗及びユニフォミティへの影響が抑えられている。このスキン層28は、タイヤ2の転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上に寄与しうる。しかもこのスキン層28はその体積が小さいにも関わらず導電性に優れるので、電気的障害の回避に寄与しうる。このタイヤ2では、電気的な障害を回避しつつ、転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上が達成されうる。この観点から、このスキン層28の体積Vsのトレッド4全体積Vtの比率Rsは、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下が特に好ましい。この比率Rsは小さいほど好ましいので、この比率Rsの下限は設定されない。なお、この体積Vsは、タイヤ2の製造に用いた導電シート54の厚み、幅及び長さに基づいて計算される。体積Vtは、このタイヤ2の図面に基づいて計算される。
【0075】
本発明では、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。乗用車用タイヤ2の場合は、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。後述するタイヤ2も同様である。
【0076】
図7は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの製造の様子が示された模式図である。この図7には、形成途中にあるトレッド58の一部が示されている。図示されていないが、このタイヤのトレッド58以外は、図1に示されたタイヤ2のそれと同等の構成を有している。このタイヤは、トレッド58以外に、サイド部、ビード、カーカス、ベルト、インナーライナー及びチェーファーを備えている。さらにこのサイド部は、ウィング、サイドウォール、クリンチ及びクッション層を備えている。なお、この図7において、左右方向がタイヤの軸方向であり、上下方向がタイヤの周方向であり、紙面との垂直方向がタイヤの半径方向である。図7中、一点鎖線CLはタイヤの赤道面に相当する線である。符号Wで示されているのが、このタイヤのウィングである。
【0077】
このタイヤのトレッド58は、図1に示されたタイヤ2と同様、ベース層60及びキャップ層62を備えている。このキャップ層62は、第一本体64a、第二本体64b及びスキン層66を有している。第一本体64a及び第二本体64bは、図1に示されたタイヤ2と同様、架橋されたゴム組成物からなる。このゴム組成物は、補強材としてシリカを含んでいる。
【0078】
このタイヤのスキン層66は、図8に示された予備成形体68を用いて形成される。このタイヤは、スキン層66の形成にこの予備成形体68を用いる他は、図1のタイヤ2と同様の製造方法で製造される。なお、この図8において、両矢印Aはこの予備成形体68の長さ方向を表している。
【0079】
図8に示されているように、スキン層66形成のための予備成形体68は、長尺シート70と多数の導電テープ72とから構成されている。この予備成形体68において、これら導電テープ72は長さ方向に間隔を空けて配置される。それぞれの導電テープ72は、幅方向に延在している。
【0080】
このタイヤの製造方法では、長尺シート70はゴム組成物から得られる。この製造方法では、この長尺シート70の形成には、キャップ層62の一部をなす第二本体64bのためのゴム組成物が用いられる。これにより、タイヤの製造のために準備される部材点数の削減が達成されている。
【0081】
この製造方法では、導電テープ72は樹脂組成物から形成されたフィルムである。この樹脂組成物は、図1のタイヤのスキン層28のための樹脂組成物と同等である。この樹脂組成物は、金属粉を含んでいる。
【0082】
この製造方法では、予備成形体68は次のようにして形成される。ゴム組成物を押し出しして、長尺シート70が形成される。図9に示されているように、この長尺シート70はドラム74に巻回される。
【0083】
スキン層66のための樹脂組成物を二軸延伸して、フィルムが形成される。このフィルムがスリッターを用いて切断され、リボン76が形成される。このリボン76は長尺シート70に螺旋状に巻回される。この長尺シート70にリボン76が巻回されたものが切断され、図10に示された大判シート78が得られる。この大判シート78を長さ方向に間隔を空けて切断することにより、図8に示された予備成形体68が得られる。図10中、二点鎖線は予備成形体68の形成のための切断線を表している。
【0084】
この製造方法では、予備成形体68は、図7に示されているように、ベース層60の他端80b側に貼り付けられる。このとき、導電テープ72がベース層60の側に位置するようにして、予備成形体68は巻回される。巻回しに際して、予備成形体68の長さ方向がタイヤの周方向に一致させられる。これにより、多数の導電テープ72がそれそれの長さ方向がタイヤの軸方向に一致するようにして、タイヤの周方向に間隔を空けてベース層60上に配置される。さらに第二本体64bが組み合わされ、トレッド58が得られる。このトレッド58を含むローカバーは、図1に示されたタイヤ2と同様、モールドに投入される。モールド内で、このローカバーは加熱及び加圧される。これにより、タイヤが得られる。
【0085】
前述したように、予備成形体68の一部をなす長尺シート70は、第二本体64bと同等のゴム組成物からなる。したがって、この製造方法では、加硫工程において、この長尺シート70が第二本体64bと一体化するとともに、多数の導電テープ72が周方向に間隔を空けて配置される。このタイヤのトレッド58においては、スキン層66はタイヤの周方向に間隔を空けて配置された多数の導電テープ72からなる。それぞれの導電テープ72は、軸方向に延在している。
【0086】
このタイヤでは、図1に示されたタイヤ2と同様、赤道面において、スキン層66の一部が第一本体64aと第二本体64bとの間に挟まれている。スキン層66の一端82aは、タイヤの外面に露出している。このスキン層66は、第一本体64aと第二本体64bとの間においてトレッド面の一部を形成している。スキン層66の他の一部は、第二本体64bとベース層60との間に挟まれている。
【0087】
このタイヤでは、スキン層66の一端82aはトレッド面の一部を形成している。スキン層66の他端82bは、ウィングWに接触している。このウィングWは、サイドウォールに接触している。このサイドウォールは、クリンチに接触している。このクリンチは、チェーファーに接触している。このタイヤがリムに装着されたとき、クリンチ及びチェーファーがこのリムに接触する。
【0088】
このタイヤでは、スキン層66は導電部材である。このタイヤの、ウィングW、サイドウォール、クリンチ及びチェーファーも、導電部材である。このタイヤでは、トレッド面からリムに当接するクリンチ及びチェーファーに至るまでが、導電部材により電気的に接続されている。言い換えれば、このタイヤは導電パスを有している。このため、タイヤ又はこのタイヤの装着された車両において発生した静電気は、この導電パスを通じて放出される。このタイヤでは、電気的な障害が回避されている。
【0089】
前述したように、このタイヤでは、キャップ層62の一部をなす第一本体64a及び第二本体64bにはシリカが適用されている。このタイヤでは、このシリカを含む部材の適用により、転がり抵抗の低減を達成しつつ、電気的な障害が回避されている。
【0090】
このタイヤでは、スキン層66は多数の導電テープ72をそれぞれの長さ方向がタイヤの軸方向に一致するようにしてタイヤの周方向に間隔を空けて配置させることにより形成されている。この導電テープ72は、樹脂組成物から形成されたフィルムである。このスキン層66は薄い。このタイヤでは、スキン層66による転がり抵抗及びユニフォミティへの影響が抑えられている。このスキン層66は、タイヤの転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上に寄与しうる。しかもこのスキン層66は薄いにも関わらず導電性に優れるので、電気的障害の回避に寄与しうる。このタイヤでは、電気的な障害を回避しつつ、転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上が達成されうる。この観点から、図8中の、両矢印Tで示されたスキン層66をなす導電テープ72(フィルム)の厚みは0.05mm以下が好ましく、0.04mm以下がより好ましい。このフィルムの強度の観点から、この厚みTは0.01mm以上が好ましく、0.02mm以上がより好ましい。
【0091】
このタイヤでは、スキン層66は薄いため、このスキン層66の体積は極めて小さい。このタイヤでは、トレッド58全体積に占めるこのスキン層66の体積の割合は小さい。しかも、前述したように、スキン層66は多数の導電テープ72をそれぞれの長さ方向がタイヤの軸方向に一致するようにしてタイヤの周方向に間隔を空けて配置させることにより形成されている。したがって、この割合はかなり小さい。このタイヤでは、スキン層66による転がり抵抗及びユニフォミティへの影響が抑えられている。このスキン層66は、タイヤの転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上に寄与しうる。しかもこのスキン層66はその体積が小さいにも関わらず導電性に優れるので、電気的障害の回避に寄与しうる。このタイヤでは、電気的な障害を回避しつつ、転がり抵抗の低減及びユニフォミティの向上が達成されうる。この観点から、このスキン層66の体積Vsのトレッド58全体積Vtの比率Rsは、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下が特に好ましい。この比率Rsは小さいほど好ましいので、この比率Rsの下限は設定されない。なお、この体積Vsは、タイヤの製造に用いた導電テープ72の厚み、幅、長さ及び本数に基づいて計算される。体積Vtは、このタイヤの図面に基づいて計算される。
【実施例】
【0092】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0093】
[樹脂組成物の準備]
下記表1から4に示された配合表にしたがって、基材ポリマー及び金属粉を計量の上これらを混練することにより、樹脂組成物AからKが準備された。なお、表中基材ポリマーに示された、「NYLON」はナイロン66を、「PET」はポリエチレンテレフタレートを表している。表の最下段に示されているのは、各樹脂組成物のシートにより得られた体積抵抗率である。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
表1及び2に示された各成分の詳細は次の通りである。
1) NYLON:旭化成(株)製の商品名「レオナ」(融点=265℃)
2) PET:東洋紡(株)製の商品名「バイオペット」(融点=264℃)
3) スチール:JFEスチール社製の商品名「JIP 300R」(平均粒径=30μm)
4) 金:浅野商店グループ(株)製の商品名「丸子1号」(平均粒径=5μm)
5) アルミニウム:ミナルコ(株)製の商品名「#350F」(平均粒径=15μm)
6) 銅:三井金属社製の商品名「MA−CJF」(平均粒径=18μm)
7) ステンレススチール:山陽特殊製鋼(株)製の商品名「SUS316L」(平均粒径=15μm)
8) 銀:三井金属社製の商品名「SPN20J」(平均粒径=3μm)
【0097】
[ゴム組成物の準備]
下記表3に示された配合表にしたがって、XからZで示された3種類のゴム組成物が準備された。表の最下段に示されているのは、各ゴム組成物のシートにより得られた体積抵抗率である。
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示された各成分の詳細は次の通りである。
9) スチレンブタジエンゴム:JSR社製の商品名「SBR1500」
10) カーボンブラックa:東海カーボン(株)製の商品名「シースト6:N220」
11) カーボンブラックb:三菱化学(株)製の商品名「ダイヤブラックH:N330」
12) シリカ:日本シリカ社製の商品名「ニップシールVN3」
13) シランカップリング剤:デグサ社製の商品名「Si69」
14) ワックス:大内新興化学工業(株)製の商品名「サンノックN」
15) 老化防止剤:住友化学工業(株)製の商品名「アンチゲン6c」
16) ステアリン酸:日本油脂社製の商品名「ステアリン酸椿」
17) 亜鉛華:三井金属工業(株)製の商品名「亜鉛華1号」
18) 硫黄:(株)軽井沢製錬所製の商品名「粉末硫黄」
19) 加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製の商品名「ノクセラーNS−P」
【0100】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表4に示された仕様を備えた、実施例1の空気入りタイヤを得た。このタイヤのサイズは、195/65R15である。このタイヤでは、キャップ層の第一本体及び第二本体には、ゴム組成物Yが用いられた。スキン層の形成には、図4に示された構成を備えた導電シートが用いられた。この導電シートには、樹脂組成物Cから形成されたフィルムが用いられた。このフィルムの厚みTは、0.030mmとされた。スキン層の体積Vsのトレッド全体積Vtに対する比率Rsは、0.210とされた。
【0101】
[実施例2−3及び5−6]
厚みTを下記の表4及び5に示される通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。
【0102】
[実施例7−10及び12−17]
スキン層の形成に用いた樹脂組成物を下記の表5から7に示される通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。
【0103】
[実施例11]
スキン層の形成に用いた樹脂組成物及び厚みTを下記の表6に示される通りとした他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。
【0104】
[実施例4]
スキン層の形成に図8に示された構成を用いた予備成形体を用いた他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。この予備成形体においては、1.5cmの幅を有する多数の導電テープが、1.0cmの間隔を空けて配置された。この導電テープには、樹脂組成物Cから形成されたフィルムが用いられた。このフィルムの厚みTは、0.030mmとされた。
【0105】
[比較例3]
スキン層を設けなかった他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。
【0106】
[比較例1]
トレッドの構成を変えた他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。このタイヤのトレッドでは、キャップ層はゴム組成物Xから形成された。このトレッドには、スキン層及び貫通部は設けられていない。比較例1は、従来のタイヤである。
【0107】
[比較例2]
トレッドの構成を変えた他は実施例1と同様にして、タイヤを得た。このタイヤでは、トレッドは、キャップ層、ベース層及び貫通部を備えている。キャップ層の形成には、ゴム組成物Yが用いられた。ベース層及び貫通部の形成には、ゴム組成物Zが用いられた。貫通部は、キャップ層を貫通しており、このベース層と接触している。このベース層は、ウィングに接触している。この貫通部の体積Vpのトレッド全体積Vtに対する比率Rpは、7.0%とされた。この比較例2は、比較例1とは別の従来のタイヤである。
【0108】
[転がり抵抗]
転がり抵抗試験機を用い、下記の測定条件で転がり抵抗を測定した。
使用リム:15×6JJ(アルミニウム合金製)
内圧:200kPa
荷重:6.96kN
速度:80km/h
この結果が、比較例1を100とした指数値で、下記の表4から7に示されている。数値が小さいほど好ましい。
【0109】
[ユニフォミティ]
「JASO C607:2000」に規定されたユニフォーミティ試験方法に準拠して、下記に示す条件にて、ラテラル・フォース・バリエーション(LFV)及びコニシティ(CON)を測定した。100本のタイヤについて測定し、その測定結果の平均値が、下記の表4から7に示されている。この数値が小さいほど、評価が高い。
リム幅:5.5インチ
内圧:200kPa
荷重:3.67kN
速度:60rpm
【0110】
[通電性]
タイヤを正規リムに組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を200kPaとした。正規リムを抵抗測定器の取付軸に固定することで、このタイヤを抵抗測定器に装着した。この取付軸は、導電性を有している。この抵抗測定器においてタイヤは、絶縁板(電気抵抗値=1012Ω以上)上に設置され、その表面が研磨された金属板に載せられた。JATMA規定に準拠して、下記に示す条件にて、取付軸と金属板との間の電気抵抗値を測定した。その測定結果が、タイヤの抵抗として、下記の表4から7に示されている。タイヤの抵抗が1×10Ω以下である場合が、合格である。なお、測定は、その温度が25℃、その湿度が50%の環境下で実施された。測定には、予め表面の離型剤及び汚れが十分に除去され、十分に乾燥した状態にあるタイヤが用いられた。
使用リム:15×6JJ(アルミニウム合金製)
内圧:200kPa
荷重:5.3kN
試験電圧(印加可電圧):1000V
抵抗測定器の測定範囲:10Ωから1.6×1016Ω
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
【表7】
【0115】
表4から7に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上説明された方法は、種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0117】
2・・・タイヤ
4、58・・・トレッド
6・・・サイド部
8・・・ビード
10・・・カーカス
12・・・ベルト
14・・・インナーライナー
16・・・チェーファー
18・・・トレッド面
22、60・・・ベース層
24、62・・・キャップ層
26a、26b、64a、64b・・・本体
28、66・・・スキン層
34・・・ウィング
36・・・サイドウォール
38・・・クリンチ
54・・・導電シート
72・・・導電テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10