(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴム及びジエン系合成ゴムからなる群より選択される少なくとも1種と、酸性及び塩基性官能基を有する両性化合物と、自己分散性カーボンブラックとを含有する。
【0015】
天然ゴムやジエン系合成ゴムに、酸性官能基及び塩基性官能基を有する両性化合物と自己分散性カーボンブラックとを配合することにより、該両性化合物の酸性官能基がゴム成分、塩基性官能基が自己分散性カーボンブラックの表面に形成されたカルボキシル基などの含酸素親水性官能基と反応するため、カーボンブラックの分散性が向上し、また、カーボンブラックの拘束により余分な発熱も抑制できる。従って、良好な加工性を得ながら、低燃費性、耐摩耗性をバランスよく改善でき、これらの性能バランスを相乗的に改善できる。
【0016】
本発明では、ゴム成分として、天然ゴム(NR)、ジエン系合成ゴム(イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)など)が使用される。なかでも、低燃費性の点からは、NRが好ましく、耐摩耗性の点からは、BRが好ましい。また、低燃費性と耐摩耗性のバランスを効率的に改善できる点から、NRとBRの併用が好ましい。ゴム成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20など、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0018】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。20質量%未満であると、十分なゴム強度、低燃費性が得られない傾向がある。NRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよいが、NRと共に他のゴム成分を使用する場合には、70質量%以下が好ましい。
【0019】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150Bなどの高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617などの1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBRなど、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。なかでも、良好な耐摩耗性が得られるという理由から、シス含有量が95%以上のBRが好ましい。なお、シス含有量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定できる。
【0020】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。70質量%を超えると、充分な加工性が得られない傾向がある。
【0021】
ゴム成分100質量%中のNR及びBRの合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。NRとBRを多量に含むゴム成分に自己分散性カーボンブラック及び両性化合物を配合することで、加工性、低燃費性及び耐摩耗性をバランスよく改善できる。
【0022】
本発明では、酸性官能基と塩基性官能基とを有する両性化合物が使用される。酸性官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、チオスルホン酸基(−SSO
3H)、ジチオカルボン酸基(−CSSH)、炭素数1〜20のアルキル基を有するチオアルキルカルボン酸基(−SRCOOH:Rは直鎖状又は分岐状のアルキル基)、フェノール性水酸基などが挙げられ、なかでも、チオスルホン酸基が好ましい。塩基性官能基としては、第1級、第2級、第3級アミノ基などが挙げられる。両性化合物は、該化合物の金属塩でもよい。なお、両性化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記両性化合物として、下記式(I)で表される化合物を好適に使用できる。
【化3】
(式(I)中、R
1は、炭素数2〜30のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を表す。Aは、酸性官能基を表す。R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基、又は炭素数1〜20のアルコキシシリル基を表す。式(I)で表される化合物は、該化合物の金属塩でもよい。)
【0024】
式(I)の窒素を含む塩基性官能基部分は、表面に存在するカルボキシル基などの含酸素親水性官能基と反応することで自己分散性カーボンブラックと結合し、酸性官能基部分は、ポリマーの二重結合と反応する。そのため、カーボンブラックの分散性が向上し、かつその分散状態を維持できる。また、反応によりカーボンブラックが拘束されているため、発熱性を抑えることも可能となる。よって、前述の性能をバランス良く改善できる。
【0025】
R
1のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基の炭素数は、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜12である。R
1は直鎖状、分岐状のいずれでも良く、アルキレン基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基など、アルケニレン基の具体例としては、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基など、アルキニレン基の具体例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基などが挙げられる。R
1としては、アルキレン基が好ましい。
【0026】
Aの酸性官能基としては、前述と同様のものが挙げられる。R
2及びR
3の炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基など、アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などが挙げられ、炭素数1〜20のアルコキシシリル基としては、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基などが挙げられる。R
2及びR
3としては、水素原子が好ましい。
【0027】
本発明では、両性化合物として、下記式(I−1)で表される化合物及び/又は下記式(I−2)で表される化合物を使用することが好ましい。
【化4】
(式(I−1)中、pは2〜8の整数を表す。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表す。M
r+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。)
【0028】
上記式(I−2)で表される化合物は任意の公知の方法により製造できる。例えば、ハロアルキルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及びジハロアルカンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0029】
具体的には、qが6の化合物の場合、6−ハロヘキシルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及び1,6−ジハロヘキサンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0030】
また、qが3の化合物の場合、3−ハロプロピルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩及び1,3―ジハロプロパンを反応させて得られた化合物と、チオ硫酸ナトリウムとを反応させ、得られた化合物を加水分解する方法などが挙げられる。
【0031】
上記式(I−1)で表される化合物は、例えば、上記式(I−2)で表される化合物とプロトン酸とを反応させることにより製造できる。
【0032】
本発明では、式(I−1)及び/又は(I−2)で表される化合物の混合物も使用できる。該混合物は、式(I−1)で表される化合物と式(I−2)で表される化合物とを混合する方法、上記Mで示される金属を含有する水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩などを用いて式(I−1)で表される化合物の一部を金属塩化する方法、プロトン酸を用いて式(I−2)で表される化合物の一部を中和する方法により製造できる。このようにして製造した式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、濃縮、晶析などの操作により、反応混合物から取り出すことができ、取り出された式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、通常0.1〜5%程度の水分を含む。また、本発明では、式(I−1)で表される化合物のみ、又は式(I−2)で表される化合物のみを用いることもできる。更に、複数種の式(I−1)で表される化合物、式(I−2)で表される化合物を併用することもできる。
【0033】
式(I−1)中、pは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。式(I−2)中、qは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。
【0034】
M
r+で示される金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン及びカリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンが更に好ましい。rは金属イオンの価数を表し、当該金属において可能な範囲であれば、限定されない。通常rは、金属イオンがアルカリ金属イオンの場合は1、コバルトイオンの場合は2又は3、銅イオンの場合は1〜3の整数、亜鉛イオンの場合は2である。上記製法によれば、通常、式(I−1)で表される化合物のナトリウム塩が得られるが、カチオン交換反応を行うことで他の金属塩に変換できる。
【0035】
上記式(I−1)、(I−2)で表される化合物のメディアン径は、好ましくは0.05〜100μmの範囲であり、より好ましくは1〜100μmの範囲である。メディアン径は、レーザー回折法にて測定できる。
【0036】
上記式(I−1)、(I−2)で表される化合物は、予め担持剤と混合してから使用してもよい。担持剤としては、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」第510〜513頁に記載されている「無機充てん剤、補強剤」が挙げられ、なかでも、カーボンブラック、シリカ、焼成クレー、水酸化アルミニウムが好ましい。担持剤の使用量は、特に限定されないが、上記式(I−1)及び/又は(I−2)で表される化合物の合計量100質量部に対して、10〜1000質量部の範囲が好ましい。
【0037】
本発明のゴム組成物において、上記両性化合物の含有量は、自己分散性カーボンブラック100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは1質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。含有量が範囲外であると、耐摩耗性、低燃費性、加工性をバランスよく改善できないおそれがある。
【0038】
本発明で使用する自己分散性カーボンブラックとは、分散剤を使用しなくても、溶媒中に容易に分散させられるものをいう。具体的には、通常のカーボンブラックに含酸素親水性官能基を付与したものがあげられ、一般的にはカーボンブラックに酸化処理を施すことにより得られる。
【0039】
含酸素親水性官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシル基のアルカリ金属塩、水酸基などが挙げられる。なかでも、カルボキシル基及び/又はそのアルカリ金属塩が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0040】
カーボンブラックに含酸素親水性官能基を付与する方法としては、従来公知の気相酸化処理、湿式酸化処理などの方法を採用できる。例えば、気相酸化処理としては、空気接触による酸化法、チッ素酸化物やオゾンとの反応による乾式酸化処理、特開昭57−159856号公報に記載されているカーボンブラックを低温酸素プラズマで酸化処理する方法;湿式酸化処理としては、硝酸、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜ハロゲン酸塩、過酸化水素、臭素水溶液、オゾン水溶液などの酸化剤を用いた湿式酸化処理、特開昭48−18186号公報に記載されているカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩の水溶液で酸化処理する方法などが挙げられるが、反応性の点から、次亜ハロゲン酸塩を用いる液相酸化法(湿式酸化処理)が好ましい。
【0041】
具体的には、カーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩の水溶液などの酸化剤に添加し、撹拌して湿式酸化処理を行い、必要に応じ、酸などによる中和、洗浄、乾燥することにより、目的の自己分散性カーボンブラックを調製できる。
【0042】
自己分散性カーボンブラックを調製する場合、原材料カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N
2SA)は80m
2/g以上が好ましく、100m
2/g以上がより好ましく、120m
2/g以上が更に好ましい。80m
2/g未満では、充分な塩基性官能基との反応が得られないおそれがある。また、該N
2SAは280m
2/g以下が好ましく、220m
2/g以下がより好ましく、170m
2/g以下が更に好ましい。280m
2/gを超えると、自己分散性カーボンブラックの分散性が低下し、耐摩耗性が低下する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのN
2SAは、JIS K 6217−2:2001に準拠して測定される。
【0043】
自己分散性カーボンブラックの表面カルボキシル基及びそのアルカリ金属塩の合計濃度は70μmol/g以上が好ましく、200μmol/g以上がより好ましく、300μmol/g以上が更に好ましく、500μmol/g以上が特に好ましい。70μmol/g未満では、充分な塩基性官能基との反応が得られないおそれがある。また該合計濃度は1400μmol/g以下が好ましく、1200μmol/g以下がより好ましく、1000μmol/g以下が更に好ましい。1400μmol/gを超えると、補強性が悪化し、耐摩耗性が低下するおそれがある。
なお、自己分散性カーボンブラックの表面カルボキシル基及びそのアルカリ金属塩の合計濃度は、X線光電子分光法により測定できる。
【0044】
自己分散性カーボンブラックとしては、市販品も使用でき、例えば、キャボット社製のRegal400R、Regal330R、コロンビアン・カーボン社製のRaven7000、Raven5750、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、三菱化学(株)製のNo.25、No.33、オリエント化学工業(株)製のBonjet Black CW−2、SMPなどが挙げられる。
【0045】
本発明のゴム組成物において、自己分散性カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは35質量部以上である。10質量部未満であると、十分な補強性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは95質量部以下、更に好ましくは75質量部以下である。100質量部を超えると、加工性が低下し、低燃費性、耐摩耗性の性能バランスが低下するおそれがある。
【0046】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、シリカ、クレーなどの補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0047】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満であると、加工性に劣り、低燃費性、耐摩耗性が低下する傾向がある。該オイルの含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。15質量部を超えると、耐摩耗性、ウェットグリップ性能が悪化するおそれがある。
【0048】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0049】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)などが挙げられる。なかでも、TBBSが好ましい。
【0050】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上であり、また、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。上記範囲内に調整することで、低燃費性、耐摩耗性の性能バランスに優れたゴムを調製できる。
【0051】
本発明のゴム組成物は、トレッド、キャップトレッド、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックスなどに好適に使用できる。特に、低燃費性だけでなく、耐摩耗性にも優れるという点から、トレッド、キャップトレッド、クリンチエイペックスに適用することが望ましい。
【0052】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0053】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0054】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0055】
以下、製造例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩:関東化学(株)製
チオ硫酸ナトリウム・五水和物:関東化学(株)製
フタルイミドカリウム:関東化学(株)製
ジメチルホルムアミド:関東化学(株)製
1,6−ジブロモヘキサン:関東化学(株)製
ヒドラジン・一水和物:関東化学(株)製
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN110(N
2SA:145m
2/g)
次亜塩素酸ナトリウム溶液:和光純薬社製
【0056】
(製造例1 S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸(両性化合物A))
窒素ガスで置換した反応容器に3−ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩75g、チオ硫酸ナトリウム・五水和物85.26g、メタノール375ml、水375mlを加え、これらの混合物を70℃、5時間還流した。放冷した後、減圧下でメタノールを除去した。残渣に水酸化ナトリウム13.68gを加え、室温で1時間攪拌した後、減圧下で溶媒を除去した。得られた残渣にエタノール600mlを加えて1.5時間還流した。熱ろ過を行い、ろ液を減圧下で濃縮し結晶を得た。結晶をろ過により取り出し、エタノールで洗浄し、更にヘキサンでの洗浄を行った。得られた結晶を真空乾燥し、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウムを得た。
窒素ガスで置換した反応容器にS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸ナトリウム52g、水90ml、5mol/l塩酸を加え、得られた溶液を減圧下で濃縮し、ろ過により結晶を取り出した。得られた結晶を真空乾燥し、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸を得た。
【化5】
【0057】
(製造例2 S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸(両性化合物B))
反応容器に、フタルイミドカリウム99.2g及びジメチルホルムアミド480mlを加えた。この混合物に1,6−ジブロモヘキサン200gとジメチルホルムアミド200mlとの混合物を室温で滴下した。滴下終了後、得られた混合物を120℃まで昇温して5時間還流し、放冷後、反応混合物から溶媒を留去した。酢酸エチルと水とを加えて分液した後、有機層を濃縮した。得られた残渣にヘキサンと酢酸エチルを加え、結晶を析出させた。結晶を取り出し、真空乾燥して、N−(6−ブロモヘキシル)フタルイミドを得た。
反応容器に、N−(6−ブロモヘキシル)フタルイミド40g、チオ硫酸ナトリウム・五水和物32.0g、メタノール200ml、水200mlを加え、これらの混合物を5時間還流させ、放冷後、反応混合物から溶媒を留去した。得られた残渣に、エタノール200mlを加えて1.5時間還流した。熱ろ過を行い、ろ液を減圧下で濃縮し結晶を得た後、静置した。結晶をろ過により取り出し、エタノールで洗浄し、更にヘキサンでの洗浄を行った。得られた結晶を真空乾燥し、6−フタルイミドヘキシルチオ硫酸ナトリウム塩を得た。
窒素置換した反応容器に、6−フタルイミドヘキシルチオ硫酸のナトリウム塩20.0g(54.7mmol)及びエタノール200mlを仕込み、得られた混合物にヒドラジン・一水和物4.25g(84.8mmol)を滴下した。滴下終了後、得られた混合物を70℃で5時間攪拌した後、減圧下でエタノールを留去した。残渣にメタノール100mlを加えて1時間還流させた。熱ろ過により結晶を取得し、これをメタノールで洗浄し、真空乾燥することにより、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸ナトリウム塩を得た。
窒素ガスで置換した反応容器に、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸ナトリウム26g、水45ml、5mol/l塩酸を加え、得られた溶液を減圧下で濃縮し、ろ過により結晶を取り出した。得られた結晶を真空乾燥し、S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸を得た。
【化6】
【0058】
上記製造例1〜2で得られた両性化合物A〜Bのメディアン径(50%D)を、(株)島津製作所製SALD−2000J型を用い、レーザー回折法(測定操作は下記のとおり)により測定したところ、メディアン径(50%D)は66.7μmであった。得られた両性化合物A〜Bを粉砕し、そのメディアン径(50%D)を14.6μmに調製し、以下の実施例で使用した。
<測定操作>
両性化合物A〜Bを分散溶媒(トルエン)と分散剤(10質量%スルホこはく酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム/トルエン溶液)との混合溶液に室温で分散させ、得られた分散液に超音波を照射しながら、該分散液を5分間撹拌して試験液を得た。該試験液を回分セルに移し、1分後に測定した。(屈折率:1.70−0.20i)
【0059】
(製造例3 自己分散性カーボンブラック(カーボンブラックB)
カーボンブラックを次亜塩素酸カリウム溶液中に懸濁し、25℃で24時間撹拌し、カーボンブラックの湿式酸化処理を行い、カーボンブラックにカルボキシル基を生成させた。その後、6Nの塩酸を加えて中和した後、水により洗浄し、乾燥して、カーボンブラック(B)を得た。
【0060】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のウベポールBR150B
カーボンブラック(A):カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN110(N
2SA:145m
2/g)
カーボンブラック(B):製造例3で調製した自己分散性カーボンブラック(表面カルボキシル基及びそのアルカリ金属塩の合計濃度:630μmol/g)
カーボンブラック(C):オリエント化学工業(株)製のSMP(表面カルボキシル基及びそのアルカリ金属塩の合計濃度:900μmol/g、チッ素吸着比表面積が200m
2/gのカーボンブラックを酸化処理することによって得られたもの)
両性化合物(A):S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸(製造例1で調製)
両性化合物(B):S−(6−アミノヘキシル)チオ硫酸(製造例2で調製)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の椿
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0061】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を160℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物について下記の評価を行った。結果を表1に示した。
【0062】
(1)ムーニー粘度の測定
未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300に準拠したムーニー粘度の測定方法に従い、130℃で測定した。比較例1のムーニー粘度(ML
1+4)を100とし、各配合を指数表示した(ムーニー粘度指数)。指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
【0063】
(2)粘弾性試験
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各配合(加硫ゴム組成物)の損失正接(tanδ)を測定した。比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した(転がり抵抗指数)。指数が大きいほど転がり抵抗特性(低燃費性)が優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0064】
(3)耐摩耗性試験
加硫ゴム組成物について、ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃,スリップ率20%及び試験時間2分間の条件下でランボーン摩耗量を測定した。更に、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1の容積損失量を100とし、下記計算式により、各配合の容積損失量を指数表示した(ランボーン摩耗指数)。ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(ランボーン摩耗指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0065】
【表1】
【0066】
NRやBRに対して自己分散性カーボンブラックと両性化合物の両成分を配合した実施例では、加工性、低燃費性、耐摩耗性がバランスよく改善された。また、両成分とも配合していない比較例6に比べて、未処理カーボンブラックを自己分散性カーボンブラックに置換した比較例3や両性化合物を配合した比較例1では、性能の改善は見られないにもかかわらず、両成分を配合した実施例1では、良好な加工性を維持しながら、低燃費性と耐摩耗性が改善され、これらの性能バランスを相乗的に改善できることが明らかとなった。