特許第5977088号(P5977088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本山村硝子株式会社の特許一覧

特許5977088低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5977088
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/04 20060101AFI20160817BHJP
   C04B 35/18 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C03C10/04
   C04B35/18 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-126623(P2012-126623)
(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2013-249238(P2013-249238A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】高山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】内山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 智之
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−254468(JP,A)
【文献】 特開平10−167757(JP,A)
【文献】 特開平06−206736(JP,A)
【文献】 特開平05−238774(JP,A)
【文献】 特開平10−251056(JP,A)
【文献】 特開平07−048171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
C04B 35/18
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分50〜80重量%及び無機フィラー20〜50重量%含有する組成物であって、
(1)前記ガラス成分は、ガラス成分100重量%中、1)SiO:30〜41重量%、2)Al31〜37重量%、3)B:15〜25重量%、4)CaO、MgO、SrO、BaO及びZnOの合計:9〜16重量%、5)MgO:7重量%以下、6)LiO、NaO及びKOの合計:0〜1重量%を含有し、かつ、ガラス成分のガラス転移点Tgが690〜720℃であり、
(2)当該組成物の900℃以下の焼結体において、ムライト以外の結晶相が析出しない、
ことを特徴とする低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
【請求項2】
無機フィラーが、アルミナ、コージェライト、ムライト、ジルコニア、チタニア、チタン酸塩、シリカ及びフォルステライトの少なくとも1種である、請求項1に記載の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
【請求項3】
ガラス成分の軟化点Tsが850℃以下である、請求項1に記載の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
平均粒径0.8〜3μmであり、最大粒径20μm以下の粉末である、請求項1に記載の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成可能な基板を提供できる無鉛ガラスセラミックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ、民生機器等に使用されるセラミックス基板としては、アルミナ基板のほか、ガラス粉末とセラミックス粉末からなるガラスセラミックス組成物を焼成してなる低温焼成基板が知られている。一般に、これらの基板は、焼成前のグリーンシートに配線パターンを形成した上で、グリーンシートの焼結と回路パターン(導体パターン)等の焼結とを同時に行う方法(同時焼成)がとられている。このため、同時焼成においては、回路パターン等の形成に使用される金属導体は、その融点がグリーンシートの焼結温度よりも高いものであることが要求される。
【0003】
アルミナ基板は焼結温度が1500℃と高いため、同時焼成用配線導体として電気抵抗のより高いタングステン、モリブデン等の高融点金属材料が使用されている。一方、低温焼成基板は焼結温度が900℃以下と低いので、電気抵抗の低いAg系、Au、Cu等の低融点金属材料の使用可能となることから、最近では特に注目を浴びている。
【0004】
そして、低温焼成基板は、これらを複数積層させてなる多層回線基板として携帯電話等に多用されている。多層回線基板は、ガラスセラミックスグリーンシートに金属導体で回路パターンを形成したものを複数貼り合わせ、焼成することにより製造される。このような多層回路基板においては、より一層の配線の多層化、微細配線による高密度化・小型化に伴い、その原料となるガラスセラミックス組成物において高周波域でのtanδが小さいことが求められる。
【0005】
また、近年、低温焼成基板の製造現場では、生産効率の向上のために迅速に焼成ができるガラスセラミックス組成物が望まれている。低温焼成基板の焼成プロファイルは、一般的には昇温−焼成−降温からなる。ガラスセラミックス組成物の性質上、焼成時間を短縮すると緻密に焼結できず、降温時間を短縮すると焼成後の割れ・欠けが発生するため、トータルの焼成時間を半減させるためには昇温時間を短縮する必要がある。ところが、昇温時間を短縮した場合、従来のガラスセラミックス組成物では緻密な焼結体が得られず、基板の強度が著しく劣るという問題が生じる。すなわち、低温焼成基板は、通常グリーンシート成形法によって作製されるためにバインダー成分を含んでいるが、昇温時間を短縮するとバインダー成分が分解・飛散する前にガラスセラミックス組成物が焼結してしまい、緻密な焼結体が得られなくなる。
【0006】
ガラスセラミックス組成物としては、例えばコージェライトを主結晶相として析出するガラスセラミックス組成物が特許文献1〜4に開示されている。また、特許文献5には、ムライトを主結晶相とし、フォルステライト、スピネル、サフィリンの内少なくとも一種を副結晶相として析出する低温焼成基板用組成物が開示されている。特許文献6には、焼結開始温度が高く、バインダーの分解に有利なガラスセラミックス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−218944
【特許文献2】特開平5−238744
【特許文献3】特開平7−48171
【特許文献4】特開2004−168577
【特許文献5】特開平6−206736
【特許文献6】特開平7−97236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4のガラスセラミックス組成物は、焼結温度が900〜1000℃となお高温であり、Ag系導体と同時焼成する温度として本来好ましい900℃以下での焼結が困難である。900℃以下で焼結可能な組成も一部存在するものの、コージェライト等は高温で析出する上に焼結体の熱膨張係数を変動させる結晶であるため、コージェライトを主結晶層とするガラスセラミックス組成物は焼結体の熱膨張係数の安定性が良くないという問題もある。
【0009】
特許文献5に示されるフォルステライト、スピネル等の結晶も、コージェライトと同様に高温で析出し、焼結体の熱膨張係数を変動させる結晶であるため、スピネル又はフォルステライトが析出するガラスセラミックス組成物は焼結体の熱膨張係数の安定性が良くないという問題がある。
【0010】
特許文献6のガラスセラミックス組成物は、焼結終了温度も940℃以上と高いため、Ag系導体との同時焼成は困難である。
【0011】
従って、本発明の主な目的は、上記問題点を鑑みなされたものであり、比較的低温での焼成で製造できるとともに、熱膨張係数を変動させる結晶相が実質的に存在しない基板を製造できる無鉛ガラスセラミックス組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物に係る。
1. ガラス成分50〜80重量%及び無機フィラー20〜50重量%含有する組成物であって、
(1)前記ガラス成分は、ガラス成分100重量%中、1)SiO:30〜41重量%、2)Al31〜37重量%、3)B:15〜25重量%、4)CaO、MgO、SrO、BaO及びZnOの合計:9〜16重量%、5)MgO:7重量%以下、6)LiO、NaO及びKOの合計:0〜1重量%を含有し、かつ、ガラス成分のガラス転移点Tgが690〜720℃であり、
(2)当該組成物の900℃以下の焼結体において、ムライト以外の結晶相が析出しない、
ことを特徴とする低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
2. 無機フィラーが、アルミナ、コージェライト、ムライト、ジルコニア、チタニア、チタン酸塩、シリカ及びフォルステライトの少なくとも1種である、前記項1に記載の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
3. ガラス成分の軟化点Tsが850℃以下である、前記項1に記載の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
4. 平均粒径0.8〜3μmであり、最大粒径20μm以下の粉末である、前記項1に記載の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物によれば、比較的低温での焼成で製造できるとともに、熱膨張係数を変動させる結晶相が実質的に存在しない基板を提供することができる。より詳しくは、電気抵抗の低いAg系導体と同時焼成することができる900℃以下での焼結が可能であり、熱膨張係数を変動させるピネル又はフォルステライト結晶相が存在しない基板を提供することができる。
【0015】
また、本発明の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物は、比較的高いガラス転移点Tgを有することから、脱バインダー性に優れたガラスセラミックスグリーンシートを提供することもできる。
【0016】
さらに、低い誘電正接(tanδ)を有する低温焼成基板を作製することができるので、高周波回路に十分対応することができる基板を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の低温焼成基板用無鉛ガラスセラミックス組成物(本発明組成物)は、ガラス成分50〜80重量%及び無機フィラー20〜50重量%含有する組成物であって、
前記ガラス成分は、ガラス成分100重量%中、1)SiO:30〜41重量%、2)Al:29〜37重量%、3)B:15〜25重量%、4)CaO、MgO、SrO、BaO及びZnOの合計:9〜16重量%、5)MgO:7重量%以下、6)LiO、NaO及びKOの合計:0〜1重量%を含有する、
ことを特徴とする。
【0018】
(1)ガラス成分とその製造
(1−1)ガラス組成
本発明に係る低温焼成基板用無鉛ガラス組成物のガラス成分について説明する。ガラス成分の組成は、ガラス成分100重量%中において、1)SiO:30〜41重量%、2)Al:29〜37重量%、3)B:15〜25重量%、4)CaO、MgO、SrO、BaO及びZnOの合計:9〜16重量%、5)MgO:7重量%以下、6)LiO、NaO及びKOの合計:0〜1重量%を含有する。
【0019】
SiO
SiOは、特にガラスのネットワークフォーマーとしての役割を果たす。SiOの含有量は30〜41重量%とし、30〜34重量%とすることが好ましい。SiOの含有量が30重量%未満ではガラスの化学的耐久性が低下し、41重量%を超えるとガラスの溶融が困難となる。
【0020】
Al
Alは、特に本発明のガラス形成における必須成分であり、所定量を含むことによりガラス転移点Tgが690℃以上のガラス成分を得ることができる。Alの含有量は29〜37重量%とし、31〜34重量%とすることが好ましい。29重量%未満ではガラス粉末のガラス転移点Tgが690℃未満になり、37重量%を超えると本発明組成物を900℃以下で焼結することが困難になる。
【0021】

は、主として融剤としての役割を果たす。Bの含有量は15〜25重量%とし、18〜22重量%とすることが好ましい。15重量%未満ではガラスセラミックス組成物を900℃以下で焼結することが困難となり、25重量%を超えるとガラスの化学的耐久性が低下する。
【0022】
CaO、MgO、SrO、BaO及びZnO
CaO、MgO、SrO、BaO及びZnOは、主としてガラス溶融の温度を低下させるとともにtanδを低下させるための物質である。これらの含有量は、その合計量(CaO+MgO+SrO+BaO+ZnO)が9〜16重量%であり、かつ、MgOが3〜7重量%とする。特に、前記合計量が12〜16重量%であり、かつ、MgOが3〜5.5重量%とすることが好ましい。前記合計量が9重量%未満ではガラス溶融が非常に困難となり、16重量%を超えると焼結体の電気特性が安定しなくなる。また、MgOが3重量%未満では、ガラス溶融が不安定になり、7重量%を超えるとコージェライト、マグネシアスピネル等の熱膨張係数を変動させる結晶が析出し、焼結体の熱膨張係数が安定しなくなる。なお、前記の含有量は合計としての値であるので、そのすべての成分が含有されている必要はない(合計の意に関しては以下同じ。)。
【0023】
LiO、NaO及びK
LiO、NaO及びKOは、ガラス作製時の溶融温度を下げるとともに、所定量含むことによりガラス溶融時の失透又は結晶化に対するガラス安定性を向上させ、ガラスセラミックス組成物の急激な焼成収縮挙動を抑制する成分である。他方、これらの合計量が1重量%を超えると高周波域での誘電正接(tanδ)が大きくなるおそれがある。従って、その含有量は、LiO、NaO及びKOは合計で1重量%以下とする。
【0024】
その他の成分
本発明組成物のガラス成分中には、本発明の効果を妨げない範囲内で、上記のような成分のほかにも他の成分が含まれていても良い。例えば、TiO、ZrO、P、CeO、Fe、MnO、CuO、CoO、SnO、Sb、V、NiO、Cr、Bi等の各成分が挙げられる。
TiO及びZrOは、ガラス作製時の溶融安定性を向上させることを目的として必要に応じて配合させる物質である。その含有量はTiO及びZrOの合計が0〜4重量%の範囲にあることが好ましい。
さらに、P、CeO、Fe、MnO、CuO、CoO、SnO、Sb、V、NiO、Cr、及び、Biからなる群より選ばれる1種以上の任意成分を本発明の効果を著しく損ねない範囲内で含有させても良い。なお、通常、上記任意成分群(P、CeO、Fe、MnO、CuO、CoO、SnO、Sb、V、NiO、Cr、Bi)は、その合計量が5重量%以下であれば、本発明の効果を著しく損なわせることなく本発明のガラス組成物に含有させることができ、2重量%以下であることがより好ましい。
他方、本発明では、ガラス成分において、Pb、Se、Te及びFは、環境負荷の点から、実質的に含有しないことが好ましい。特に、Fは焼成中に揮発するおそれがあるため、含有させないことが好ましい。なお、本発明では、これらは、酸化物換算で1000ppm以下であれば実質的に含有されていないものとしてみなすことができる。
【0025】
(1−2)ガラス成分の性状
本発明組成物のガラス成分は、通常は粉末状(ガラス粉末)として提供される。この場合の平均粒径は限定的ではないが、通常は0.8〜3μmとし、最大粒径20μm以下とすることが好ましい。本発明における粉末の平均粒径は、レーザー散乱式粒度分布測定器を用いて、体積分布モードのD50値から測定される(以下同じ)。
【0026】
ガラス成分のガラス転移点Tgは、ガラスセラミックスの焼成収縮開始温度に大きく影響する。迅速焼成した場合でもバインダー成分を完全に除去するためには、690℃以上であることが好ましい。ガラス成分におけるガラス転移点Tgは、焼結開始温度を高温化するという見地より通常690℃以上とすることが好ましく、特に690〜720℃とすることがより好ましい。
【0027】
また、ガラス成分の軟化点Tsは、900℃以下で焼結が完了するという見地より通常850℃以下とすることが好ましく、特に820〜850℃とすることがより好ましい。
【0028】
なお、本発明では、ガラス転移点Tg及び軟化点Tsは、示差熱分析装置(DTA)を用い、室温から20℃/minで昇温させて得られたDTA曲線より、最初の吸熱の開始点(外挿点)をガラス転移点Tg、2番目の吸熱の開始点(外挿点)を軟化点Tsとして測定される。
【0029】
(1−2)ガラス成分の製造
ガラス成分の製造方法としては、特に限定されない。まず、原料としては、ガラス成分の供給源となる化合物を出発原料として使用すれば良い。例えば、BのためにHBO、B等を用いることができる。また例えば、AlのためにAl(OH)、Al等を用いることができる。他の成分についても、SiO、ZnO、Mg(OH)、CaCO、SrCO、BaCO、LiCO、NaCO、KCO、ZrO、TiO、LaCOを等のように、各種酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常に用いられる出発原料を採用することができる。そして、これらを所定の割合で含有する混合物を出発原料として用い、これらを溶融することにより本発明ガラス組成物を得ることができる。
【0030】
本発明ガラス組成物の製造方法としては、例えば1)原料化合物を混合することにより混合物を得る第1工程及び2)得られた混合物を溶融することにより溶融物を得る第2工程を含む製造方法によって、本発明の無鉛ガラス組成物を得ることができる。
【0031】
第1工程では、本発明ガラス組成物の組成・比率となるように前記の出発原料を秤量し、混合することにより混合物を調製する。この場合、各成分の原料の混合順序等は特に制限されず、同時に配合しても良いし、所定の化合物から順番に配合しても良い。また、原料は、通常は粉末の形態で供給される。このような原料粉末は、各成分を含む原料を公知の方法で粉砕、混合等を実施することにより得ることができる。
【0032】
第2工程では、混合物を溶融することにより溶融物を得る。溶融に際しては、原料組成等に応じてガラス溶融温度を設定すれば良いが、通常は1400〜1700℃程度の範囲内で実施すれば良い。得られた溶融物は、必要に応じて、溶融物からそのまま粉末を製造する工程に供しても良い。例えば、溶融物を冷却ロールにて冷却しながらフレーク状粉末を得ることができる。また例えば、溶融物を冷却した後、必要に応じて粉砕、分級等の処理することにより粉末を得ることもできる。特に、ガラス粉末を調製する場合は、例えば乾式粉砕のほか、水系又は有機系溶媒を用いる湿式粉砕を好適に採用することができる。このように、本発明の無鉛ガラス組成物は、粉末状として好適に提供することができる。
【0033】
粉末状とする場合の平均粒径(D50)は限定的ではないが、通常は50μm以下の範囲内において使用形態、用途等に応じて適宜調節することができる。好ましくは、前記のように、通常は0.8〜3μmとし、最大粒径20μm以下に調節すれば良い。平均粒径の測定方法は、前記と同様の方法を用いて測定される。
【0034】
(2)無機フィラー
次に,本発明に係る無鉛ガラスセラミックス組成物の無機フィラーについて説明する。無機フィラーの含有量は、本発明組成物中20〜50重量%とし、特に25〜40重量%することがより好ましい。20重量%より少ない場合は十分な機械的強度が得られず、50重量%を超える場合は焼成し難くなる。
【0035】
前記無機フィラーとしては特に限定されず、例えばアルミナ、コージェライト、ムライト、ジルコニア、チタニア、チタン酸塩、シリカ、フォルステライト等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0036】
無機フィラーの粒度は適宜設定することができるが、通常はガラスセラミックス組成物を焼成して得られる焼結体の機械的強度を低下させないために平均粒径0.3〜3μmとすることが好ましい。さらには、平均粒径0.3〜3μmとし、かつ、最大粒径を20μm以下とすることがより好ましい。粒度の調整は、例えば乾式粉砕のほか、水系又は有機系溶媒を用いた湿式粉砕により粒径を調整されたものが好ましい。平均粒径の測定方法は、前記と同様の方法を用いて測定される。
【0037】
(3)本発明組成物の製造
本発明組成物は、通常はガラス粉末及び無機フィラーを混合することによって得ることができる。この場合、本発明組成物は粉末混合物として提供されるが、このときの粉末混合物の平均粒径は適宜設定することができる。特に、本発明組成物を焼成して得られる焼結体の機械的強度を低下させないために、平均粒径を0.3〜3μmとし、最大粒径を20μm以下とすることが好ましい。平均粒径の測定方法は、前記と同様の方法を用いて測定される。
【0038】
なお、本発明組成物においても、Pb、Se、Te及びFは、環境負荷の点から、実質的に含有しないことが好ましい。特にFは焼成中に揮発するおそれがあるため、含有させないことが好ましい。なお、本発明では、これらは、酸化物換算で1000ppm以下であれば実質的に含有されていないものとしてみなすことができる。
【0039】
(4)本発明組成物の使用
本発明組成物は、電子デバイス等に使用される絶縁基板(基板上に配線が形成された配線基板等を含む。)の出発材料として好適に用いることができる。例えば、1)本発明組成物、溶媒及びバインダーを含むスラリーを成形してグリーンシートを得る工程及び2)前記グリーンシートを焼成することにより焼結体からなる基板を製造する工程を含む製造方法によって基板を製造することができる。この場合、前記グリーシート表面に導体パターンを形成することにより、同時焼成が可能となる。すなわち、1)本発明組成物、溶媒及びバインダーを含むスラリーを成形してグリーンシートを得る工程、2)前記グリーシートに導体パターンを形成する及び3)前記の導体パターンが形成されたグリーンシートを焼成することにより焼結体からなる基板を製造する工程を含む製造方法によって基板を製造することができる。
【0040】
スラリーの調製自体は、公知の製造方法に従って実施することができる。すなわち、本発明組成物に対し、有機溶媒及び樹脂バインダーを添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤等の添加剤を配合することによってスラリーを調製することができる。この場合のスラリー中の本発明組成物の含有量は限定的ではないが、通常40〜60重量%程度とすれば良い。本発明組成物に配合される成分は、基板(グリーンシート)の製造において従来から使用されている公知又は市販のものを使用することができる。従って、有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等が例示される。樹脂バインダーとしては、例えばポリビニルブチラール、ポリビニルアセテート、メチルセルロース等が挙げられる。可塑剤としては、例えばジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、アジピン酸ジオクチル等が使用できる。
【0041】
スラリーを用いてグリーンシートを成形するに際し、その成形方法も特に限定されず、公知の方法をいずれも採用することができる。本発明では、例えばドクターブレード法を好適に採用することができる。
【0042】
得られたグリーンシートを後工程で同時焼成する場合は、グリーンシートに導体パターンを形成する。導体パターンの形成は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、導体成分を含む導体形成用ペーストでグリーンシートに導体パターンを形成すれば良い。この場合、公知の印刷方法(例えばスクリーン印刷等)によって実施することができる。導体成分としては、銀系導体を好適に使用することができる。銀系導体としては、銀又は銀合金(Ag−Pt、Ag−Pd等)を使用することができる。導体形成用ペーストには、導体成分以外の金属成分、セラミックス成分、ガラス成分等が含まれていても良い。
【0043】
また、多層基板を製造する場合は、上記のように導体パターンが形成されたグリーンシートを複数枚積層すれば良い。このとき、必要に応じて積層体に貫通孔を形成した後、導体形成用ペーストにより導体パターンを形成することもできる。
【0044】
次いで、グリーンシートの焼成を行う。焼成温度は、グリーンシートの組成等に応じて適宜設定することができるが、通常は900℃以下、好ましくは850〜900℃、より好ましくは860〜900℃とすれば良い。また、焼成雰囲気は限定的ではなく、例えば大気中、酸化性雰囲気中、還元性雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等のいずれであっても良い。焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜設定することができる。
【0045】
グリーシートの焼成に際しては、昇温速度を比較的早く設定することもできる。より具体的には、8℃/分以上、特に10℃以上、さらには10〜15℃/分という比較的速い昇温速度を設定することも可能である。本発明では、このような昇温速度でも緻密な焼結体が得られることから、焼成時間の短縮、ひいては生産効率の向上を図ることもできる。
【0046】
このようにして本発明組成物の焼結体からなる基板を得ることができる。得られた基板は、必要に応じて公知の加工処理を施すこともできる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0048】
実施例1〜6及び比較例1〜7
表1及び表2に示すガラス組成となるように原料を調合、混合してこの調合原料を1500〜1650℃で2時間溶融した後、急冷し、ガラスを得た。得られたガラスをボールミルにて有機溶剤(イソプロパノール)を用いた湿式粉砕を行うことによって、平均粒径2μmのガラス粉末を調製した。次いで、ガラス粉末と無機フィラーとの合計100重量%において、無機フィラーの含有割合が表1及び表2に示す割合となるように、無機フィラーを秤量し、ボールミルでガラス粉末と均一に乾式混合することによって、本発明の無鉛ガラスセラミックス組成物を得た。
【0049】
次に、得られた混合粉末にバインダー(ポリビニルブチラール)、可塑剤(アジピン酸ジオクチル)及び溶剤(トルエン)を添加し、24時間混合後、前記混合粉末の含有量約50重量%のスラリーを得た。このスラリーを用いてドクターブレード法により厚み100μmのグリーンシートを作製した。さらに、グリーンシートを75mm角に切断し、切断したグリーンシート5枚を積層させ、熱圧着により圧着し、グリーシートの積層体を得た。
【0050】
続いて、この積層体を大気雰囲気中で毎分15℃の速度で昇温し、680℃の温度で2時間保持し、積層体(グリーンシート)中のバインダー、可塑剤等の有機物質を除去した。その後、毎分10℃の速度で表1に示す焼成温度870〜900℃まで昇温し、1時間保持することによって焼結体を得た。このようにして得られた焼結体の結晶相、脱バインダー性及び誘電正接tanδについて評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0051】
なお、表1及び表2において;
1)無機フィラーの割合は、ガラス成分と無機フィラーとの合計100重量%として表記した。例えば、実施例1では、無機フィラーの含有量が40重量%であるので、ガラスセラミックス組成物中のガラス成分が占める割合は60重量%となる。
2)無機フィラーの成分の表記は、それぞれ次のものを示す。
A:アルミナ粉末(平均粒径1.5μm)
C:コーディエライト粉末(平均粒径2μm)
T:チタニア粉末(平均粒径0.3μm)
M:ムライト粉末(平均粒径1.5μm)
F:フォルステライト粉末(平均粒径1.5μm)
3)脱バインダー性は、焼結体の色を目視により評価した。カーボンの残留によりグレーとなったものを「×」とし、そのような現象が認められなかったものを「○」とした。
4)結晶相の評価は、ムライト以外の例えばコージェライト、マグネシアスピネル、セルシアン等の結晶相が析出したものを「×」とし、そのような結晶相が観察されなかったものを「○」とした。
5)誘電正接(tanδ)は、焼成基板に電極を施し、相対湿度25−60%(室温下)にて、1MHzにおいてインピーダンスアナライザーで測定した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1及び表2の結果からも明らかなように、本発明の範囲内である実施例のサンプルは有害な鉛を含まない上に、ガラスセラミックス組成物に含まれるガラス粉末の軟化点Tsが850℃以下、ガラス転移点Tgが690℃以上であり、脱バインダー性も良好であり、900℃以下で緻密に焼結できる上、コージェライト、マグネシアスピネル等の熱膨張係数の変動の要因となる結晶相も認められなかった。なお、焼結体における焼結性は、その吸水率と見掛け気孔率を測定し、吸水率0.05質量%以下、見掛け気孔率0.15%以下となっている場合は「焼結している」と認定した。